「健康」の先を目指す経営
[このコラムを書いたコンサルタント]
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- 専門領域
- 健康経営、ヘルスケア
- 役職名
- リスクマネジメント第四部 部長兼健康・医療サービス開発室長
- 執筆者名
- 森本 真弘 Masahiro Morimoto
2018.9.5
「健康経営」に関心を持ち、取組みを進める企業が増えている。経済産業省が推進する「健康経営優良法人認定制度」の認定企業数は2017年から2018年にかけて、大企業部門では236→541法人に、中小企業部門では318→775法人へと倍以上の伸びを示し、関心の高まりが見て取れる。
「健康経営」は文字通り“経営”である。経営とは、方針を定め、『目的』を達成するために、継続的に事を行うこととある。「健康経営」ゆえ、「従業員を健康にすること」が『目的』であると思ってしまう節もあるがそうではない。企業経営である以上、その『目的』は「業績や企業価値を向上させること」である。つまり、「健康経営」とは、従業員を健康にする取組みを通して業績を向上させ、企業価値向上につなげていく経営戦略である。この点を履き違え、「従業員を健康にすること」を、目指す最終ゴールに設定してはいけない。
健康経営は「コスト」をかけて行うものではなく、「投資」として行うものであると言われる。「コスト」は仕方なく費やすものだが、「投資」は大きなリターンが得られると期待し、前向きに行うものだ。従業員の健康が、将来的に業績向上・企業価値向上という大きな投資効果を生むと信じて行うものとなる。
この考え方に立つと、「健康経営」における「健康」の定義としてしっくりくるのは「病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること(世界保健機構)」である。健康診断での指摘がない、薬を飲んでいないといったことだけでなく、心身ともに活力がみなぎり、イキイキと働き、満足できている状態である。従業員全員をこうした状態にするための投資が「健康経営」ということになる。企業においては、欠勤・不在から生じる損失よりも、勤務中の生産性低下から生じる損失の方が遥かに大きいと言われている。「肩凝りや腰痛で集中できない」「疲れて踏ん張りが効かない」「気分が晴れない」「眠い」といった状態は、健康と言われている人にも生じる。病気を治療させる、健診数値を改善させるだけでなく、もともと健康な人も、より健康な状態、つまり心身ともに満たされ、働く意欲に溢れたイキイキした状態を実現し、社内の活性化や生産性の向上を図っていくことが求められる。
投資価値を感じられない経営者の方は、まずご自身でスモールスタートしていただきたい。「この歳だからもういい」「健康には十分気を遣っている」などと敬遠されていては的確な投資判断は難しい。
例えば、昼食メニューの食べ順で午後の眠気が随分と変わること、寝床での読書や携帯チェックが睡眠の質を悪くすること、1日8000歩&20分の”速”歩きが病気予防に効果的との研究結果があること等をご存知だろうか。
こうした知識を備え、実践するだけでも効果が実感でき、投資判断がプラスに働くと思われる。
但し、投資回収を急ぐあまり「全員早急に取り組むべし!」などと強制をしてはいけない。無理強いされて“イキイキ”している人を私は見たことがない。
- 「健康経営」は特定非営利活動法人 健康経営研究会の登録商標です。
以上