防災・減災シリーズ(風水災リスク):強風の特徴的な現象
[このコラムを書いたコンサルタント]
- 専門領域
- 安全文化醸成、安全管理全般、災害リスク関連の体制強化・支援に強み
- 役職名
- リスクマネジメント本部 リスクマネジメント第一部長 主席コンサルタント
- 執筆者名
- 関口 祐輔 Yusuke Sekiguchi
2024.3.21
台風(熱帯低気圧)とは
低気圧は大きく分けて、温帯低気圧と熱帯低気圧の2種類あります。中緯度帯における寒気と暖気の温度差を主因として発達するものを温帯低気圧、熱帯地方(低緯度帯)の海面から供給される水蒸気をエネルギー源として発達するものを熱帯低気圧と呼びます。熱帯低気圧のうち、東アジア周辺の北西太平洋(赤道より北側、東経180度より西側)または南シナ海に存在し、低気圧内の最大風速がおよそ17.2m/s(34ノット)以上のものを台風といいます。
台風は太平洋を北上しながら勢力が強くなりますが、熱帯付近と比較して海面水温が低い日本付近に近づくと勢力は衰え始め、熱帯低気圧や温帯低気圧に変わります。春先の台風は西に進んでフィリピン方面に向かうことが多いですが、夏になると太平洋高気圧の周りを回って日本に向かって北上することが多くなります。9月頃になると台風は本州付近に接近・上陸する頻度が多くなり、各地に暴風雨をもたらします。
一般的に中心気圧が低いほど台風の勢力は強くなります。過去に甚大な被害をもたらした台風として知られる1934年室戸台風、1945年枕崎台風、1959年伊勢湾台風、1961年第二室戸台風などは、いずれも上陸時の中心気圧が極めて低い台風(910 ~ 930hPa)でした。
台風は巨大な空気の渦巻きになっており、地上付近では上から見て反時計回りに強い風が吹き込みます。そのため、進行方向に向かって右の半円は「危険半円」と呼ばれ、台風自身の風と台風を移動させる周りの風が同じ方向に吹くため風が強くなりやすくなります。また、台風は積乱雲の集合体であり、広範囲に暴風雨をもたらします。降水帯は台風の目を中心に渦を巻くように分布することが多く、台風から数百km離れた地点でも大雨となることがあります。
2000年9月の東海豪雨や2015年関東・東北豪雨では、沖合に離れて位置していた台風から暖かく湿った空気が流れ込み続けたことにより、積乱雲が発達し記録的な豪雨を発生させました。
激しい突風(竜巻、ダウンバースト、ガストフロント)
発達した積乱雲は、竜巻(上昇気流による激しい渦巻き)などの激しい突風をもたらすことがあります。激しい突風は竜巻のほかにダウンバースト(下降気流が地表に衝突して水平に吹き出す激しい空気の流れ)、ガストフロント(冷たく重い空気の塊が温かく軽い空気に衝突して生じる気流の前線)などの種類があります。局地的にとはいえ瞬間的にすさまじい強さの風が発生するため、施設を破壊することもあります。また、これらの激しい突風が発生するような積乱雲では、落雷や急な大雨をもたらすことが多くみられます。
これらの突風は全国各地で観測されていますが、竜巻に限ると、沿岸や平野部で発生しやすい傾向にあります。また、竜巻などの突風は台風接近時に列島各地で観測されることが多く、2013年に埼玉県越谷市や千葉県野田市などで1,500棟以上の住家損壊などの被害をもたらした竜巻は、同時期に沖縄付近に接近していた台風からの暖かく湿った空気の流入が積乱雲の形成を助長させたことが、発生要因のひとつと考えられています。
強風による被害
風による被害は主に強い風圧力により発生します。建物が風を受けたとき、風上側の外壁は外から押される力(正圧)を受け、風下側、側面の外壁と屋根は、外に引っ張られる力(負圧)を受けます。建物各部の耐力を超える風圧力が加わると、建物に破損が生じます。建物の屋根材・外壁材のめくれや、窓・シャッターなどの開口部の破損、看板・室外機などの屋外設置物の飛散・落下がよく見られます。特に解放された窓やシャッターなどの大きな開口や、外壁の破損部からは風が吹き込みやすく、室内の収容物や負圧を受ける面の屋根などに被害を及ぼします。
その他、構内や構外から飛来した物品の衝突による損害や、倒木が発生します。強風が降雨を伴う場合には、外壁・屋根の破損個所からの雨水の吹き込みによる水濡れ被害が生じる場合があります。
【事故例】
- 台風の強風によりスレート、テント、シャッター、断熱材などが飛散・破損した。また、破損部より雨水が入り込み、収容される機械設備などに水濡れ被害が生じた。
- 強風により隣接する構内に植えられた樹木が倒壊し、建物に衝突した。この衝撃により屋根・外壁およびドアサッシが破損したほか、建物内の収容品もガラス片の飛散による損害を被った。
- 竜巻が発生して突風が吹荒れ、工場の折板屋根、明り採りガラスが破損・飛散し、工場内の間仕切壁が崩落した。また、飛散した折板やガラスが倉庫に衝突して、屋根折板、庇が破損した。
- 強風により、自動車ディーラーの店舗の屋根に設置されていたエアコン室外機、店舗看板などが落下した。
- 敷地内に置かれていた野積みのパレットが爆弾低気圧の強風で飛散し、付近に駐車していた車両に接触した。