ドライバーの社会性をはぐくむ交通安全教育(階層別アプローチ理論)
2024.3.21
近年の交通事故の発生状況
令和5年1年間の交通事故発生状況が、令和5年1月4日に警察庁交通局より公表されました。令和5年の交通事故死者数は2,678人であり、ピーク時の1970年に比べ、約16%という水準となりましたが、一昨年との対比では68人増となり、実に8年ぶりの増加となりました。
交通事故の発生件数においても、令和5年は307,911件となり、一昨年に比べ7,072件増加しました。これは、昨年5月に新型コロナウイルス感染症が5類に移行されたことに伴い、人流および交通量が回復傾向にある中で、交通事故の発生状況も変化してきたことが主な要因と考えられています。
企業における交通事故防止についても、それぞれの事故発生傾向をふまえ、実施すべきこと、できること等を検討し、おかれている状況や環境に応じて対策を講じていくことが大切だと考えます。
車の運転における先急ぎ傾向
さて、数年前に「あおり運転」が話題となりましたが、あおり運転による悲惨な交通事故を受け、令和2年6月30日に道路交通法が改訂され、妨害運転(あおり運転)に対する罰則が創設されました。ですが法令による罰則強化にもかかわらず、高速道路を利用すると今でも、車間距離を詰めてあおり運転している車をよく見かけます。
人間は先を急ぐ生き物と言われますが、車の運転においてもその性質が顕著に表れている場面と言えます。「そんなに急いでも目的地への到着時間はさほど変わりませんよ。」と言いたいところですが、このような場面以外でも人間の急ぎの性質を現す運転場面が日常的にあると思います。例えば信号機のある交差点を通過する際に信号が黄色に変化した場合、目的地まで急ぐ必要がなくても「信号で待ちたくない」という急ぎの心理が働き、停止線で十分止まれる状況でも逆にアクセルを踏み込んで通過する、ということは、おそらく多くのドライバーが経験した運転行動だと思います。
安全運転に必要な4種類の技能
筆者は運輸事業者・一般企業を中心に交通事故防止活動の支援に従事していますが、ドライバーには「車間距離の保持」を最優先の運転行動として指導しています。その趣旨は実際に車間距離をとることもさることながら、車間距離をとろうとするドライバーの気持ちが、全ての安全運転行動(黄色信号でのイエローストップ、交差点での一時停止など)に通ずる大事な「安全運転意識」だと認識しているからです。
安全運転には4種類の技能が必要と言われています(④車両操作、③交通状況への適応、②運行計画、①社会性)。順位が④→①となっているのは、順位が上がるほど重要度が高い技能であるからです。すなわち、如何に運転技術や交通状況への適応技能が高くても、余裕のある運行計画の立案ができない、また「安全に運転しよう、事故を起こさないようにしよう」という人としての責任感が持てない、他の交通利用者に対する配慮ができないという、人間社会における「社会性」が持てなければ安全運転にはならないということだと考えます。よって、交通安全教育では精神論ではない「安全運転意識」こそ教育すべき最重要課題であると言えます。
公共の道路で出会う他の利用者はその大多数が知らない人ですが、同じ利用者として相手に配慮する運転ができるドライバーを育むことこそ交通安全教育に求められることで、その最たるものが「車間距離をとろう」とする意識に表われるのではないかと思っています。
社会性という言葉を辞書でひも解くと、「集団をつくり他人とかかわって生活しようとする、人間の本能的性質・傾向。」とあります。社会性が人間の本能的性質であるならば、交通社会においてもその本質を発揮することは可能なはずです。人間に備わった社会性を運転中に発揮できるアプローチを意識した安全運転教育を行っていただきたいと思います。