運輸事業者における「運輸防災マネジメント指針」の有効活用
2024.4.5
頻発化・激甚化する自然災害への対応に向けて
2020年7月6日に「運輸防災マネジメント指針」が策定、公表されて以降、国土交通省は普及に関して様々な取り組みを展開しています。
近年、自然災害が頻発化、激甚化しています。風水災については、2018 年7月の西日本豪雨、2019年9月の台風15 号、同年10月の台風19号、そして九州地方を中心とする令和2年7月豪雨など、毎年各地に甚大な被害を与えています。地震についても2018 年9月の北海道胆振東部地震、2019年6月の山形県沖地震など最大震度6強以上の地震が相次いで発生しています。今後は首都直下型地震や南海トラフ地震などの巨大災害の発生も懸念されます。
自然災害に対する防災や事業継続などの対応については、運輸事業者のみならずすべての事業者において必要ですが、とりわけ運輸事業者は国民生活や経済活動を支える重要なインフラを担っていることから、発災時においても必要物資や人員を輸送する機能を維持することが求められます。
しかし、昨今の自然災害において、車両の退避が間に合わず水没した事例などの安全・安定輸送に関わる課題が顕在化しており、自然災害発生の前後でのソフト面の対応が重要になっています。災害対策基本法に基づく指定公共機関の運輸事業者は、その責務として発災時においても運輸事業の維持が求められているため、実際に防災や事業継続などの対応が実践されていますが、中堅中小規模の運輸事業者はまだ途上であると考えられます。
運輸安全マネジメント制度との関係
運輸安全マネジメント制度は2006年10月の発足以来、運輸安全マネジメント認定セミナーなどを通じて大規模の運輸事業者をはじめ中堅中小規模の運輸事業者に対しても普及が進んでいます。運輸事業者に広く認知されている運輸安全マネジメント制度を活用し自然災害への対応力を向上すべく、2017年に「運輸事業者における安全管理の進め方に関するガイドライン」が改訂され、「(1)経営トップの責務」、「(8)重大な事故等への対応」に重大事故以外の自然災害、テロについて課題と認識することが明確に記載されました。
しかし、自然災害への対応についての解説などの運輸事業者が参考とすべき考え方をまとめたガイダンスが不在となっていました。運輸防災マネジメント指針は、不在となっていたガイダンスとしての位置付けです。このガイダンスが加わったことにより、運輸事業者が従前から取り組んでいる運輸安全マネジメントを自然災害への対応についても活用できることとなりました。特に、経営トップのリーダーシップ、事業者全体が一体となった体制の構築、PDCAサイクルによる取り組みのスパイラルアップの3点について、自然災害への対応においても活用が期待できます。
取組のポイント
国土交通省の運輸防災マネジメントセミナーでも主要テーマとして取り上げられている3項目についてポイントを解説します。
- 安全方針と防災の基本方針
安全方針に自然災害対応を組み込むことで全社的に防災に関する取り組みが可能となります。安全方針とは別に防災の基本方針を定めている場合は、防災の基本方針が安全方針の重要な一部であることを社内に周知し全社員に把握させることが重要です。方針の形式は運輸事業者が自社の実情に合わせて判断することで良いです。 - リスク評価
自然災害のリスクを正しく評価することが防災への第一歩です。まずは、輸送モードや営業所位置、運行の形態などによって遭遇する懸念のある自然災害の種別(地震、風水災、雪害等)と程度についてハザードマップなどを活用して把握します。近年の自然災害の頻発化・激甚化を受けて当該ハザードマップ等が更新されていることがあるため、定期的にリスク評価の参考としたハザードマップ等を確認し必要があれば評価・見直しを行うことが重要です。 - 事前の備え
事故防止は毎日の安全輸送における「日常」の活動であるのに対し、自然災害への対応は「非日常」の活動です。平時から「防災」を経営課題として認識し事業者全体が対応策を検討、実践していくことが重要であり、その「備え」が不可欠です。事前の備えは、「計画的準備」、「緊急連絡網」、「防災マニュアル」、「事業継続計画」、「タイムライン」の5項目が該当します。
自然災害は社会全体へ大きな影響をもたらします。運輸事業者においても例外ではなく、「自社は大丈夫だろう」との楽観主義を捨て、「自社も被災する」との前提で、まずは本稿で紹介した取り組みのポイントから実践いただきたい。