コラム/トピックス

EU理事会で企業デューデリジェンス指令が採択、2年以内に加盟国で法制化へ

2024.7.29

EU理事会は2024年5月24日、企業持続可能性デューデリジェンス指令(CSDDD)を正式に採択した。2年以内に加盟国で法制化される。中小企業への過大な負担を懸念する経済界の声を受けたドイツやイタリアなどの反対で採択が延期されていたが、対象を大企業に限定するなどの見直しを経て採択にこぎつけた。

【表1】企業の適用基準
地域 基準 適用
EU域内 従業員数 5,000人超、売上高15億ユーロ超 2028年1月以降
従業員数 3,000人超、売上高9億ユーロ超 2029年1月以降
従業員数 1,000人超、売上高4.5億ユーロ超 発効日から5年以内
EU域外 EU域内の売上高15億ユーロ超 2028年1月以降
EU域内の売上高9億ユーロ超 2029年1月以降
EU域内の売上高4.5億ユーロ超 発効日から5年以内

発効日は2024年6月10日

同指令により大企業は、環境配慮型の経済に向けての移行と、それに対する子会社やビジネスパートナーの活動も含めた責任を負う。また、同指令は、事業活動が人権や環境に及ぼす悪影響を特定・評価・軽減・救済するためのプロセスの構築と実施を義務付ける。違反した際の罰則も設けられている。プロセスの中核は「国連ビジネスと人権に関する指導原則」や「責任ある企業行動のためのOECDデュー・ディリジェンス・ガイダンス」などの国際規範と同様だ。

【表2】指令の概要
項目 内容
DDの実施
リスクベースアプローチで、人権や環境への負の影響を特定、評価、軽減、救済するプロセスの構築と実施。
事業の範囲は、自社および子会社の上流の生産・サービス提供から、下流の製品の流通、輸送、保管まで(廃棄は含まず)。および、パートナー企業の活動(原材料、部品設計、調達、製造、輸送、保管、供給、開発)
ステークホルダーとの対話
上記DDの各ステップで実施が必須。
苦情処理メカニズム
下記からの苦情が対象。
 a.
 負の影響を受ける可能性がある個人、法人
 b.
 労働組合
 c.
 NGO、活動家など
モニタリング
少なくとも12か月ごとにDD実施状況のモニタリング。
開示
ウェブサイト上でEU公用語による報告書の公表。
財務情報の開示から12か月以内。
移行計画の実施
パリ協定に沿った下記内容の実施。
 d.
 2030年目標までの5年間のステップ、2050年までのカテゴリーごとのGHG削減プラン。(Scope 1, 2, 3)
 e.
 目標達成にむけた脱炭素の重点課題とアクションプラン
 f.
 移行のための投資および資金調達に関する説明。
 g.
 取締役の役割、マネジメント体制
罰則など
世界の純売上高に対する5%を上限にした制裁金。
期限内に罰則に応じなかった場合、違反内容を示す声明の公示。
【表3】採択までの経緯
年月 内容
2022年2月
欧州委員会が指令案を欧州議会とEU理事会に提出
2023年12月
EU理事会と欧州議会が暫定合意
2024年2月
ドイツやイタリアなどの反対を受けてEU理事会の最終採択が延期
同3月
対象企業の範囲を大幅に縮小する修正案で、EU理事会委員会で合意
同5月24日
EU理事会で採択。賛成17、棄権10、反対ゼロ
イタリアは最終的に賛成。ドイツは棄権

【参考情報】
2024年5月24日付 EU理事会リリース:
https://www.consilium.europa.eu/en/press/press-releases/2024/05/24~

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この記事は「ESGリスクトピックス2024年度 No.4」(2024年7月発行)の掲載内容から抜粋しています。
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