自動運転実装に求められる運行プロセスのリスクアセスメントとコミュニケーション【RMFOCUS 第92号】
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[このレポートを書いたコンサルタント]
- 会社名
- MS&ADインターリスク総研株式会社
- 所属名
- リスクコンサルティング本部 リスクマネジメント第二部 次世代モビリティグループ
- 執筆者名
- マネジャー上席コンサルタント 下平 庸晴 Tsuneharu Shimodaira
2025.1.7
ポイント
- 日本全国で地域限定型の自動運転移動サービスの実装が推進されている。
- 自動運転移動サービスは、自動運転技術開発事業者・地方自治体・交通事業者など複数の組織が関わって構築されるため、リスクに関するコミュニケーションが重要となる。
- 自動運転移動サービスに関わる組織が活用することができるリスクアセスメントの具体的方法を紹介する。
- リスクアセスメントを用いて効果的なリスクコミュニケーションを図るためのポイントを解説する。
1. 自動運転移動サービスに関する現状とリスクへの対応
カーボンニュートラルや人口問題、事故・渋滞による経済的損失、物流問題といった社会的な要請などを背景として、自動運転に関わる技術が進展しつつある*1)。特に、人口問題である人口減少・少子高齢化の社会においては、今後、移動の利便性の向上や外出機会の創出などを図っていくことが重要であり、閣議決定された「デジタル田園都市国家構想総合戦略(2023改訂版)」にて「地域限定型の無人自動運転移動サービスを2025年度をめどに50箇所程度、2027年度までに100箇所以上で実現」することが目標として掲げられている*2)。この目標に関連して、国土交通省は自動運転社会実装推進事業において地方公共団体などの自動運転に関わる経営面・技術面・社会受容性の実証などの推進を支援しており、2024年度は全国を網羅した47都道府県の地方公共団体99事業が交付決定された*3)。また、経済産業省・国土交通省の「RoAD to the L4」プロジェクトの人の移動に関する三つのテーマ(「テーマ1:遠隔監視のみ(レベル4)自動運転サービスの実現に向けた取り組み[福井県永平寺]」「テーマ2: L4 MaaS対象エリア、車両の拡大、事業性向上の取り組み[茨城県日立市]」「テーマ4:混在空間でレベル4実現のためのインフラ協調や車車間・歩車間・通信連携などの取り組み[千葉県柏市]」)および前述の自動運転社会実装推進事業において技術面・事業面などの具体的な問題点が洗い出され、社会実装・事業化に取り組む地域における効率的かつ実効性のある支援策の参考資料として「自動運転移動サービス社会実装・事業化の手引き」が作成された*4)*5)。本手引きでは、地方自治体・関係行政機関・事業者による綿密な連携体制である「レベル4モビリティ・地域コミッティ」の設置が推進され自動運転移動サービスの実装が加速されていることに言及している*5)。
自動運転移動サービスは、地方自治体や交通事業者、自動運転技術開発事業者などの異なる組織が関わって構築される。自動運転技術開発事業者は、車両と走行環境とで生じうる安全面のリスクを主な対象としてリスクアセスメントを行うが、次の段階として自動運転移動サービスに関わる組織の間で実証実験や社会実装の際の安全面を含む運行プロセスのリスクに関する責任を分担していく必要がある。このため、これら組織間で効果的なコミュニケーションを保っていくことが不可欠であり*6)、「レベル4モビリティ・地域コミッティ」のような場で各組織が運行プロセスのリスクに関して理解を深めてリスク対策・低減策を講じていくことが望ましいと考える。本稿では、実運用に向けた段階での自動運転移動サービスの運行プロセス全般に関わるリスクを対象に、リスクに関する情報の流れおよびリスクアセスメント手法を示し、運行プロセスのリスクに関する効果的なコミュニケーションとリスク低減について説明する。
なお、本稿で記述する自動運転移動サービスは主に自家用有償旅客運送(いわゆる白ナンバーによる旅客運送)を想定した内容としている。このほか、旅客自動車運送事業者による旅客運送(いわゆる緑ナンバー)も行われているが、関係法令等を含め複雑となるため、本稿では扱わない。MS&ADインターリスク総研では白ナンバー、緑ナンバーとも運用リスクアセスメントのノウハウを保有しているので、相談があればお申し付けいただきたい。
2. 運行プロセスのリスクアセスメント
2.1 運行プロセスのリスクに関する情報の流れ
自動運転移動サービスに関わるリスクに関する情報の流れを図1に示す。なお、本図の左列は、運行プロセスのリスクアセスメント/リスクアセスメントに関連する活動(以下、「リスクアセスメント関連活動」)の実施者、右列の枠内はリスクアセスメント関連活動、リスクに関する情報の流れを表している。以下、リスクアセスメント関連活動の実施者ごとにリスクアセスメント関連活動とリスクに関する情報の流れを説明する。
⑴自動運転技術開発事業者/自動車OEM/インフラメーカーなど
a)・b) メーカー・システムインテグレーターのリスクアセスメント
…現在実施されているリスクアセスメント
実施内容:
ハザード・危険事象・シナリオなどの分析を踏まえ、安全目標の設定・安全方策などを実施する*8)。
c)運行プロセスのリスクアセスメントへの情報:
使用者(地方自治体/交通事業者など)に残留リスクが認識されるための「使用上の情報(ハザードにさらされた場合の操作手順、必要な作業要領や訓練、警告など)」*9)であり、ソフト面のリスク対策に関する情報となる。このほか、安全に関わる一連の検証結果について説明*5)をするのであれば、機能安全やSOTIFの枠組み・リスクシナリオ・システム安全分析(FMEAやFTAなど)の結果・リスク対策(MRMやフェールセーフ、冗長化、自己診断機能など)の情報などとなる可能性がある(参考文献*5))の「用語の定義②」を参照)・・・
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