コラム/トピックス

スポーツ部活動の地域展開にもサステナビリティ?生物多様性も重要リスクに

[このコラムを書いた研究員]

衣笠 功次郎
専門領域
気候変動、サステナブル経営、
情報開示、人権
役職名
上席研究員
執筆者名
衣笠 功次郎 Kojiro Kinugasa

2025.10.20

「みなさんは、学生時代にどんなスポーツ部活動に入っていましたか?」

学校教育の枠を超え、心身の健全な成長や自己管理能力の育成に寄与するスポーツ部活動は、時代の変化を受けて大きな転換期を迎えています。地域クラブへの移行に向けて民間企業による支援も入り、“地域展開”の動きが進む一方で、気候変動だけでなく生物多様性の劣化に関するサステナビリティ課題への対応も急務となっています。
本稿では、部活動を取り巻く現状と課題、そして持続可能な部活動の実現に向けた展望についてお伝えします。

サステナビリティ,TNFD,自然
この記事の
流れ
  • スポーツ部活動を取り巻く現状と「地域展開」
  • スポーツ部活動にも迫るサステナビリティ関連リスク
  • 生物多様性の劣化も重大なリスクに
  • まとめと展望

スポーツ部活動を取り巻く現状と「地域展開」

近年、スポーツ部活動の「地域展開」が進められており、教育現場における持続可能な活動体制の構築が急務となっています。「教育課程外の学校教育活動」と位置づけられる部活動は、心身の健全な成長や自己管理能力などが身につく社会的有用性の高い活動です。

しかし、少子化や教員負担の増加を背景に、スポーツ庁は「学校部活動及び地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン」を策定し、部活動を地域クラブなどへ移行する計画を進めています。民間企業による支援も進み、三井住友海上を含む「一社)ブカツ・サポート・コンソーシアム」が、地域指導者の育成やスポーツ安全保険の普及などに寄与しています。

この「地域展開」は、住民間・世代間交流の希薄化という地域コミュニティが抱える課題に加え、地域資源の不足にも直面していますが、笹川スポーツ財団の研究によると、スポーツイベントを契機とした先進事例も増えつつあり、着実に改革の歩みを進めているようにみえます。

スポーツ部活動にも迫るサステナビリティ関連リスク

 

しかし、スポーツ部活動はサステナビリティ課題への対応にも迫られています。気候変動により、猛暑日や豪雨の増加といった物理的リスクが顕著となり、屋外活動の安全確保が難しくなっています。また、豪雨による運動施設の浸水リスクや、降雪量の減少によるウィンタースポーツの活動停止リスクなど、部活動の継続性自体が脅かされています。早稲田大学などによる研究では、温暖化の進行に伴う猛暑のために、6か月に及ぶ活動制限期間が必要になるという将来予測も示されており、大会運営の抜本的な見直しや活動環境の整備に迫られています。

芝_サッカー場

生物多様性の劣化も重大なリスクに

こうした気候変動への対応は既に始まっています。2018年12月には、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)と国際オリンピック委員会(IOC)の連携により、「Sports for Climate Action Framework」が発足し、スポーツを通じた気候変動対策への取組みが進められてきました。

日本でも、2025年6月に「スポーツ基本法」が14年ぶりに改正され、「気候の変動への対応」が初めて法文に明記されました。ここで注意すべきことは、気候だけでなく生物多様性の劣化や大気・水質汚染も、活動環境に影響を与えつつあるという状況です。生態系(特に淡水域)の劣化は深刻で、人為的圧力を避けるために、ボート競技等の淡水域で行われる活動は停止リスクがあります。また、大気・水質汚染により、選手の健康が損なわれるリスクも顕在化しており、活動場所の制限に加え、大会運営コストの増加にもつながるでしょう。プラスチックごみや有害化学物質(PFASなど)の残留による長期的リスクも懸念されます。こうしたリスクを踏まえて、環境規制の強化や保護区の拡大、資源利用制限が進んだ場合、部活動の運営に新たな制約が生じる可能性があります。

まとめと展望

このように、スポーツ部活動を取り巻くリスクは多様化しています。災害自体も激甚化し、保険だけでは経済的損失をカバーしきれない「プロテクションギャップ」も拡大するでしょう。

今後は保険の設計(リスク移転)だけでなく、活動環境の改善支援や環境配慮型施設への転換支援、廃棄物管理等の促進支援(リスク回避/低減)にも取り組むことがますます重要になります。また、新技術の導入支援も有用です。

暑熱対策では、東京2025世界陸上においてSPACECOOL社の放射冷却素材を活用したテント(従来素材と比較して約5℃低減)が採用されました。生物多様性の分野も同様に、こうした取組みを進める必要性が高まると見込まれ、関連事業を行う企業にとっては新たな機会になるでしょう。

(2025年10月2日 三友新聞掲載弊社コラム記事を転載)

【参考文献】

  • スポーツ庁・文化庁、「学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン」(2022年12月)
  • 早稲田大学ほか、「21世紀の暑さの中で運動部活動はできるのか?—国内842都市・時間別の予測データに基づく分析結果—」(2025年4月8日)
  • 笹川スポーツ財団、「地域共助の担い手としてのスポーツボランティアの可能性を可視化」(2025年7月9日)

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