
リチウムイオン電池に起因する火災の現状と対策【災害リスク情報 102号】
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[このレポートを書いたコンサルタント]
- 会社名
- MS&ADインターリスク総研株式会社
- 所属名
- リスクコンサルティング本部 リスクマネジメント第一部
- 執筆者名
- 上席コンサルタント 井手 清貴 Kiyotaka Ide
2025.3.5
- 近年、リチウムイオン電池を使用した製品が増加し、リチウムイオン電池の出火に起因する火災も増加傾向である。
- 代表的な発火のメカニズムを説明し、関連する法令の改正について概要を説明するとともに、使用者が留意すべき火災予防上の対策についてまとめる。
1. リチウムイオン電池に起因する火災の現状
(1) 火災件数の増加の状況
リチウムイオン電池は、小型・軽量化することができ、自然放電も少なく、繰り返し高い電圧が出せるという優れた特徴を持っているため、スマートフォンや電熱ウェア、電気自動車等の様々な製品で使用され、我々の身近な存在となっている。 加えて、我が国では、2050年カーボンニュートラル及び2030年度における温室効果ガス46%排出削減の実現に向けた政策の一つとしてリチウムイオン電池を含む蓄電池の導入拡大を推進している1)。
このようなリチウムイオン電池の利用拡大に伴い、リチウムイオン電池やリチウムイオン電池を使用する製品の事故も増加傾向である。図1は、世界的に見たリチウムイオン電池及びリチウムイオン電池使用製品の事故報告件数の推移であり、事故報告件数が増加傾向であることを示している。2)3)

このような世界的な事故報告件数の増加を受け、リチウムイオン電池に起因する火災に対する懸念も高まっており、国内外で注意が呼びかけられている。
例えば経済協力開発機構(OECD)の加盟国は、令和6年10月から令和7年1月までの間、リチウムイオン電池の安全性に関する国際共同啓発キャンペーンを実施した。
国内においては、「リチウムイオン電池を使用して暖がとれる製品」の事故が、増加傾向にあると報告されており※、消費者庁は令和6年12月5日にリチウムイオン電池使用製品の取り扱いに関する注意喚起行っている。
※消費者庁の事故情報データバンクでは、「リチウムイオン電池を使用して暖がとれる製品」での事故情報が、2014年4月から2024年9月までに68件登録されており、2020年度以降、増加傾向にあると報告されている。2)
(2) 火災の事例
リチウムイオン電池に用いられる電解液は消防法上の危険物である「引火性液体」に該当する有機溶媒が用いられる。このため何らかの要因で発火すると激しく燃焼し、大規模な火災に発展するおそれがある。国内外で発生したリチウムイオン電池に起因する火災の事例を紹介する。
事例①:非純正品の充電器でバッテリーを充電中に出火した火災4)
事務所の倉庫内でビデオカメラ用のバッテリーを充電していたところ、何らかの要因でバッテリーセルが内部短絡し出火した事例。出火したバッテリーの充電に使用した充電器は、非純正の充電器だった。

(防犯カメラ映像)

(防犯カメラ映像)
【写真1】非純正品の充電器でバッテリーを充電中に出火した火災4)
事例②:無人の事務所で携帯型扇風機から出火した火災4)
無人の事務所のデスク上で充電されていた携帯型扇風機が何らかの要因で短絡し出火した事例。


【写真2】無人の事務所で携帯型扇風機から出火した火災4)
事例③:リチウムイオン蓄電池を保管する倉庫の火災(米国イリノイ州)5)
リチウムイオン電池の貯蔵施設で発生した大規模火災の事例。約6,500m2 の倉庫が罹災、約1,000世帯の3,000~5,000人が3日間の避難を余儀なくされた。

2. リチウムイオン電池の発火メカニズム
リチウムイオン電池に起因する火災を未然に防ぎつつ、安心して使用するためには、リチウムイオン電池の構造及び発火のメカニズムについて理解を深めることが有用である。本項では、その概要を解説する。
(1) リチウムイオン電池の構造
リチウムイオン電池は複数のセルから構成され、一つ一つのセルは、リチウムを含む金属化合物でできた正極とカーボンでできた負極から成る。これらは、電解質で満たされ、セパレータで隔たれた構造をしている。正極の金属化合物が電解質に溶解し、リチウムイオンと電子に分かれ、この電子が負極から正極に移動することで電流が生じる。
(2) リチウムイオン電池の発火メカニズム
リチウムイオン電池は誤った使用方法により発火につながるおそれがあるため、リチウムイオン電池の発火のメカニズムを理解し、出火防止に努めることが重要である。本稿では、リチウムイオン電池特有の発火メカニズムとして、過充電の繰り返しに伴う金属リチウム(デンドライト)の析出による発火メカニズムに着目し、解説する。
リチウムイオン電池は、長期間の使用で過充電と放電が繰り返されることにより、負極表面に針状のデンドライトが徐々に成長する。この成長したデンドライトがセパレータを突き破って、正極と負極が直接接触する内部短絡(ショート)の発生につながる可能性がある。内部短絡が発生すると、そこに電流が集中し、内部抵抗の増加等により、温度が上昇し、発火に至るおそれがある7)。リチウムイオン電池の電解液は引火性の液体であるため、発火した場合、激しく燃焼する。また、外部からの衝撃により電極が変形すると、変形部分が過充電状態になることがあり、デンドライトが析出しやすくなるため、発火のリスクが高まることになる。また、製造時のごく小さな異物の混入や設計・製造不良も内部短絡の原因となることがある・・・
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