コラム/トピックス

社会課題や環境課題の解決における新たな潮流「インパクト投資」と「社会的インパクト」とは? ~お金を増やすだけでなく社会や環境をよくする投資とは?~

[このコラムを書いた研究員]

岡田芳樹
専門領域
教育、評価研究、システムデザイン思考
役職名
上席研究員
執筆者名
岡田 芳樹 Yoshiki Okada

2025.3.26

お金を増やすだけではなく、社会や環境をよくする投資として、注目を集めているのが「インパクト投資」と呼ばれる投資です。投資で気になるのが「リターン」と「リスク」ですが、インパクト投資では、価値を判断するもう一つの軸として「社会的インパクト」というものが重視されます。
そもそも「インパクト投資」とはどんなものなの?重視される軸「社会的インパクト」とはどうやって評価するの?そんな疑問に対して、わかりやすく解説します。

この記事の
流れ
  • 「インパクト投資」と「社会的インパクト」とは
  • 事業のロジックモデル(インプットからインパクトまで)
  • 「インパクト評価」とは
  • インパクトを定量化する手段の一つ「仮想評価法」
  • インパクトへの関心の広がり

「インパクト投資」と「社会的インパクト」とは

社会にSDGsが浸透してきていることで、多くの企業が社会課題や環境課題の解決に取り組んでいます。その流れは非営利組織(NPO法人など)や慈善財団、社会起業家にも広がり、利益を追求するだけでなく社会貢献を重視する動きが進んでいます。

投資の世界でも変化が起きています。従来の財務的リターンに加え、社会に良い影響をもたらすことを目的とした「インパクト投資」が注目を集めています。インパクト投資市場は目覚ましい成長を遂げており、2024年度のインパクト投資残高は、なんと17兆407億円に達し、前年度比で159%の増加を記録しました。

目覚ましい成長を遂げているインパクト投資市場

このインパクト投資が後押しする事業によって創出される社会的な変化を「社会的インパクト」と言います。社会的インパクトは、私たちの生活に直接的な良い影響を与えており、具体的には、交通渋滞の解消、温暖化の抑制や教育の質の向上など、さまざまな社会課題の解決に寄与しています。

事業のロジックモデル(インプットからインパクトまで)

社会的インパクトの効果をはかるには「ロジックモデル」という手法があります。ロジックモデルとは、事業や政策において目標達成までを論理的な因果関係で体系的に示したものです(図1)。資源を投入し(インプット)、活動することで(アクティビティ)、成果が得られます(アウトプット)。こうした一連の事業活動が効果を生み出し(アウトカム)、最終的に社会的変化が達成されることになります(インパクト)。

図1の赤枠のうちアウトカムは、ステークホルダーに直接影響を及ぼしますが、インパクトはその先の環境・社会的変化が起きることで社会の進歩、そして事業の最終目標の達成へとつながります。

具体例を挙げると、事業活動で排出するCO2排出量の削減はアウトカムに該当し、それがもたらす「気候変動の抑制」がインパクトとなります。

企業が自ら管理できるのはアウトプットまでであり、その先のアウトカム・インパクトは、ステークホルダー(サービス利用者や製品購入者など)が認知・評価するものとなります。

図1 インプットからインパクトまでのロジックモデル

図1 インプットからインパクトまでのロジックモデル

「インパクト評価」とは

インパクト投資をすることで得られるインパクトの効果は、定量的評価、つまり数値で表すことによる説明が難しいとされています。

実際に投資をするうえで定量的評価が説明できないと、投資したことによる社会貢献度(効果)を測ることができず、ステークホルダーを納得させられません。

例えば、ある事業でCO2が削減されたとした場合、その削減量の算出根拠が不明瞭であると、目標としている社会貢献度を把握することができません。

こうした定量的評価の難しさが、インパクト投資することの妨げになっている理由の1つと言えます。投資対象によって定量的評価が馴染まないケースもあると思いますが、投資効果に納得性をもたせることも重要です。

インパクトを定量化する手段の一つ「仮想評価法」

社会的インパクトの定量的評価が難しいことは、前述のとおりです。例えば、投資効果を貨幣価値で置き換えることができれば、同一の基準としてその効果をイメージすることができます。

ある効果を貨幣価値に換算する方法に「仮想評価法」というものがあります。これはある事象の前と後で価値(数値)の変化(例えば投資する前と後)で評価する方法です。

いずれにしてもインパクト投資の評価には、この分野における専門的な知識が必要であり、人財育成も含めた今後の動向が注目されます。

※仮想評価法については、リンク先コラム中の「評価しにくいものを数字で表す「仮想評価法」」に記載があります。(https://rm-navi.com/search/item/1854

インパクトへの関心の広がり

厚生労働省は2024年11月に、公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が年金積立金を「インパクト投資」に充てられるようにする方針を示しました。

この方針によって企業だけでなく個人も、社会課題を解決する事業にインパクト投資家として参入するなど、今後の広がりが期待できそうです。

インパクト投資を含め、これからも多くの企業と個人が社会貢献に注力することでしょう。その際は事業内容だけでなく、是非その社会的インパクトにも注目してみてください。

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