「EUデータ法」が施行
2025.12.17
2025年9月12日、EUの「Data Act(EUデータ法)」(以下、「本法」とする)が施行された。本法は、欧州委員会が掲げる「欧州デジタル戦略(European Data Strategy)」を具体化するための法規制の一つである。欧州デジタル戦略では、欧州域内のデータ活用が産業競争力強化の源泉とされており、データの流通や活用を妨げる技術的・法的・経済的な問題を解消し、公共及び民間の双方でデータ流通を促進することが重視されている。
IoT製品やクラウドサービスから得られるデータは、特定の大企業に集中している。一方で、中小企業は、大企業と競争するために必要なデータを手に入れにくく、欧州域内でのイノベーションや産業発展を阻害する状態となっている。
そこで本法では、欧州域内で提供される製品及びサービスの使用中に自動的に生成されるデータ(機器が発するログ情報や稼働情報など)の取り扱いルールを定め、契約条件によるデータ共有や移転の制限、事業者間の乗り換えや相互運用性の低さ、欧州域内での産業データ活用の遅れによる新産業の創出の遅れ等の問題を解消することを狙った。対象となるのは、IoT機器、スマート家電、自動車、産業用機械、医療機器、農業機械、建設機械、クラウドサービスなど、日常的な利用の中でデータを生成するコネクテッド製品※1及びそれらの関連サービス※2である。欧州域外企業であっても欧州域内でこれらを提供する場合は適用対象となる※3。
本法では、以下のような項目が規定されている。
| 項目 | 規定された内容 | 該当(関連)条文 |
|---|---|---|
| データ抽出を可能とする設計 (Data-by-Design) |
製品・サービスの設計段階から、データ 抽出・共有機能を組み込むことを要求 (第3条、第4条の定義・権利義務に基づく) |
第3条 第4条 |
| 利用者のデータアクセス権 | 利用中に製品やサービスが生成するデー タを、利用者が取得できる権利 |
第4条 |
| 利用者の指示による第三者へ のデータ提供義務 |
利用者が選んだ修理業者・外部サービス 等へデータを提供する義務 |
第5条 |
| 不当な契約条項の禁止 | データアクセス妨害・データ移転妨害な どの不当な契約条項は無効化 |
第13条 |
| クラウドサービスの乗り換え 容易化(クラウドポータビリ ティ) |
データ移転時の技術的・契約的障壁を取 り除く義務 |
第23条~ 第28条 |
| 制裁措置 | 欧州加盟国に対する制裁制度の整備義務 (制裁金額の上限は各国の判断による が、欧州委員会が公開しているFAQ※4 では、GDPRと同水準となる最大2,000万 ユーロまたは全世界売上高の4%が想定 されるとしている。) |
第40条 |
出典:EUデータ法原文(https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2023/2854)をもとに当社作成
上記の内容を踏まえると、対象企業においては、まず自社製品やサービスの提供に際し、どのプロセスで生成される、どのデータが本法規制対象となるのかを明確にすることが最重要となる。
その上で、特定したデータに関連するステークホルダー、それらに紐づく規制範囲を整理・把握した上で、適切なデータの取り扱いに係るシステム確立などを行った製品・サービスの設計が求められる。
なお、本法に関する今後の整備方針については、欧州委員会のFAQ※4で示されている。たとえば、クラウドポータビリティ(第23条~第28条)に関しては、施行後1年~1年半後に適用が開始される予定である。また、制裁措置(第40条)に関しては、制裁金額の上限は各国の判断によるとするものの、最大2,000万ユーロまたは全世界売上高の4%が想定されるとしている。データ形式やAPIの標準化については、欧州標準化機関等が今後策定を進めることが公表されている。
今後、継続して運用ルールや実務上の解釈が明確化されていくことが予想されるため、対象企業においては、欧州委員会からの公表内容に加えて、各加盟国の規制内容や法の整備状況について注視する必要がある。すでに対応を進めている企業であっても、継続的な情報収集と本法に対応するための製品・サービス設計、自社態勢の定期的な見直しを行うことが望ましい。
※1)コネクテッド製品とは、利用・性能・環境に関するデータを生成・取得・収集し、ケーブルまたは無線通信でデータを外部に送信できる製品を指す。スマート家電、産業機械、医療機器、スマートフォン、TVなどが該当する。(参照:欧州委員会が公表したデータ法に関するFAQ)
※2)関連サービスは、コネクテッド製品の機能に直接影響を与えるデジタルサービス(例:スマート家電のアプリなど)が対象となる。双方向のデータ交換と、製品の機能・挙動・操作への影響が要件となる。(参照:欧州委員会が公表したデータ法に関するFAQ)
※3)既存のデータ取り扱いを規定するEUの法律としては「GDPR(一般データ保護規則)」があるが、両者が矛盾する場合はGDPRが優先されるとしている。
※4)欧州委員会が公表したデータ法に関するFAQ: 2025年9月12日公表 バージョン1.3
https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/library/commission-publishes-frequently-asked-questions-about-data-act
【参考情報】
欧州委員会データ法公式HP
https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/policies/data-act
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