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カーボンクレジットとは? 基本とビジネス機会、国際的な最新動向を解説 今知っておきたいカーボンプライシング②

[このコラムを書いた研究員]

山根 未來
専門領域
気候変動、自然資本、サステナブルファイナンス
役職名
研究員
執筆者名
山根 未來 Miki Yamane

2025.12.22

最近、商品を購入した際に「カーボンニュートラル化した配送」や「カーボンニュートラルな製品」といった表記を見かけたことはありませんか?
その背景には「カーボンクレジット」という仕組みが関わっているかもしれません。

この言葉、耳慣れない方もいらっしゃるかもしれませんが、実は、これからの企業活動に大きく関わり、企業によってはビジネスチャンスにつながる可能性もあるんです。

本コラムでは、カーボンクレジットの基本的な仕組みから、なぜビジネスチャンスにつながるのか、そして国際的な最新動向についてもわかりやすく解説します。

「今知っておきたいカーボンプライシング①-日本の制度の現状とこれから」も公開しています!
あわせてご参照ください。

この記事の
流れ
  • カーボンクレジットって何?
  • カーボンクレジットの利用目的と創出する仕組み
  • 企業がカーボンクレジットを購入する理由は?
  • 企業が期待するビジネス機会とは
  • 注目したい2つの国際動向「CORSIA」と「パリ協定6条」
  • まとめ

カーボンクレジットって何?

カーボンクレジットをわかりやすく説明すると、地球温暖化の原因となる温室効果ガス(以降、GHG)の排出量を減らしたり、吸収したりする活動の実施によって発行される“証明書“(=クレジット)のようなものです。

そのクレジットがどのように算出されるかというと、次のような考えに基づいています。

  1. 削減努力をしなかった場合の見込み排出量(ベースライン)
  2. 削減努力をした場合の実際の排出量

⇒(1)―(2)= クレジット

例えば、企業が省エネのために、LED照明を導入して電気使用量が減った場合、導入前の使用量に基づくGHG排出量(ベースライン)と導入後の排出量の差分が、クレジットとして計算されます。

こうしたGHG排出量削減につながる活動を「プロジェクト」と呼び、再生可能エネルギーの導入や植林など、さまざまな種類があります。

図表〈カーボンクレジットの考え方〉

カーボンクレジットの考え方
カーボンクレジットの考え方

引用元:カーボンニュートラルの実現に向けたカーボン・クレジットの適切な活用のための環境整備に関する検討会(2022年6月)
「カーボン・クレジット・レポート」を基に筆者作成

カーボンクレジットのような仕組みの背景には、企業などが主体的にGHG排出量の削減に取り組むことを大前提としつつ、それでもなお経済活動において削減が難しい場合は、カーボンクレジットを購入することで、排出されるGHGを埋め合わせる「オフセット(相殺)」という考え方があります。

この仕組みを活用すれば、GHG排出量の削減が難しい分野においても環境負荷を減らせることから、近年注目を集めています。

カーボンクレジットの利用目的と創出する仕組み

カーボンクレジット市場には大きく分けて、下図のように4つの利用目的(図の左側、需要サイド)と、3つのクレジット創出・提供の仕組み(図の右側、供給サイド)があります。

図表〈カーボンクレジットの利用目的と創出する仕組み〉

カーボンクレジットの利用目的と創出する仕組み
カーボンクレジットの考え方

引用元:World bank group「State and Trends of Carbon Pricing 2025」を基に筆者作成

カーボンクレジットの利用目的(図の左側、需要サイド)において、①や②のような規制対応に利用されるカーボンクレジットは「コンプライアンスクレジット」、その取引の場は「コンプライアンスカーボン市場(CCM)」と呼ばれます。一方、③の企業や個人などが自主的に利用する場合は「ボランタリークレジット」、その市場は「ボランタリーカーボン市場(VCM)」と呼ばれています。

カーボンクレジットを作り出す仕組み(図の右側、供給サイド)を見てみると、①政府主導の例として、日本の「J-クレジット」制度があります。②民間主導では、海外の認証機関である「Verra(VCS)」や「Gold Standard(GS)」が有名です。これらのクレジットは主にボランタリークレジットとして利用されています。ボランタリーカーボン市場はグローバルに広がっており、プロジェクトの種類や品質基準もさまざまです。

※1)NDCとは、Nationally Determined Contribution(国が決定する貢献)を略した言葉で、各国のGHG排出量の削減目標のことを指す。

企業がカーボンクレジットを購入する理由は?

企業がカーボンクレジットを購入する理由には、規制対応と自主的な利用の両方があります。規制対応の例として、国内の排出量取引制度※2「GX-ETS」がその一つです。この制度は2026年度(2026年4月1日)から本格化し、一部の企業には二酸化炭素(CO2)排出量の上限(排出枠)が義務付けられます。対象企業が自社の排出枠を超えてしまった場合、「J-クレジット」や「JCMクレジット※3」といった適格クレジットを使うことで、超過分をオフセットすることが可能となる見込みです。

自主的な利用の例では、製品の製造過程や電力の使用、配送などで排出されるCO2をボランタリークレジットでオフセットし、「カーボンニュートラル商品・サービス」として販売する事例がみられます。

このように企業は、規制対応だけでなく、ブランド価値の向上を目的としてカーボンクレジットを活用しています。

※2)「排出量取引制度」は、企業ごとにGHG排出量の上限を設定し、余った分を他の企業と売買できる仕組み。

※3)JCMクレジットとは日本と他国が協力してGHG排出量の削減を実施し、成果(クレジット)を両国で分け合う仕組み。パートナー国は2025年9月時点で計31か国。

企業が期待するビジネス機会とは

企業はカーボンクレジットを購入するだけでなく、自分たちでクレジットを生み出すことでビジネスチャンスを広げることができます。

例えばJ-クレジットの創出にあたっては、国内の省エネ設備の導入や太陽光発電など、さまざまなプロジェクトが実施されています。累積認証量も年々増加しており、政府・民間の連携が進んでいます。

図表〈J-クレジットの累積認証量の推移〉

J-クレジットの累積認証量の推移
J-クレジットの累積認証量の推移

引用元: J-クレジット制度事務局(2025年5月)「J-クレジット制度事務局(データ集)」を基に筆者作成

またカーボンクレジット創出プロセスでは、プロジェクト開発から、クレジット認定、発行、流通、活用まで多くの企業や団体が関わります。コンサルティングや保険、情報サービスなど関連商品も増えており、様々な業種や自治体が参入できるビジネス機会が広がっています。

このように企業は、カーボンクレジットを「コスト」として捉えるだけでなく、「価値創造」のツールとして活用することで、持続可能な競争力や新規事業の創出につなげることが可能です。

注目したい2つの国際動向「CORSIA」と「パリ協定6条」

今後、カーボンクレジットがさらに注目される国際的な動きとして、「CORSIA(国際航空業界のためのカーボン・オフセットおよび削減スキーム)」と「パリ協定6条」の二つが挙げられます。2つの概要は下記のとおりです。

CORSIA 国際航空業界が排出するGHG排出量を削減・オフセットするための
グローバルな制度。対象の航空事業者は自社の排出量に応じて、カー
ボンクレジットによるオフセットが求められる。
パリ協定
6条
気候変動に関する国際的な取り決めであるパリ協定において、各国が
GHG排出量の削減目標(NDC)を達成するために、カーボンクレジ
ットを国同士で取引できる仕組みなどを定めた国際的なルール。

「CORSIA」や「パリ協定6条」が重要視されている理由は、これらの制度がカーボンクレジットの需要を押し上げると考えられているからです。

CORSIAでは、基準を満たしたボランタリークレジット(VCSやGSなど)が、規制対応のオフセット手段として利用されています。2027年からは主要な航空会社に対して、適格なカーボンクレジットによる排出量のオフセット(相殺)が義務付けられる予定です。これにより従来は自主的な環境貢献のために利用されていたボランタリークレジットが、規制対応の一部として認められる「ハイブリッド化」が進んでいます。

パリ協定6条(以降、6条)については、2024年のCOP29※4で詳細なルールが決まりました。これにより国連や各国政府などが、6条クレジットの実用化に向けて準備を進めています。2025年11月には、国連が管理する6条カーボンクレジット制度(6条4項)で初めて「埋立地からのメタン排出」に関する方法論※5が承認されました。さまざまな方法論が採択されていくことで、それらを利用したプロジェクトの活性化が予測されています。また現時点で決定的な動きはないものの、6条クレジットとCORSIAとの将来的な連携を期待する声も出てきています。6条クレジットの活用を積極的に検討する国では、案件形成や国内体制の整備など、具体的な進捗を見せています。

このようにCORSIAやパリ協定の国際メカニズムによって、今後カーボンクレジットの需要がさらに拡大すると期待されています。この流れは、カーボンクレジットを活用する企業にとって、国際展開や新規事業創出の大きなチャンスとなり得ます。今後は、品質基準や国際ルールの整備とともに、ボランタリークレジットの活用範囲や市場規模が拡大していくと考えられます。

※4)COP29とは国連気候変動枠組条約第29回締約国会議の略で、気候変動や地球温暖化対策を世界規模で議論する国際会議。

※5)方法論とは、カーボンクレジットを創出するプロジェクトごとに排出削減算定方法やモニタリング方法などを規定したもの。

まとめ

カーボンクレジットは、脱炭素社会の実現に向けた規制対応だけでなく、新たなビジネスチャンスの創出にもつながるため、今後ますます重要性が高まります。企業にとって、カーボンクレジットを「コスト」として捉えるだけでなく、「価値創造」のツールとして積極的に活用することが競争力強化に向けた一つの鍵となるかもしれません。

【参考文献】

  • J-クレジット制度事務局(2025年5月)「J-クレジット制度事務局(データ集)」
  • United Nation(2025年10月30日)「UN Body agrees first methodology under Paris Agreement carbon market」
  • World bank group「State and Trends pf Carbon Pricing 2025」
  • カーボンニュートラルの実現に向けたカーボン・クレジットの適切な活用のための環境整備に関する検討会
    (2022年6 月)「カーボン・クレジット・レポート」
  • 経済産業省GXグループ(2025年7月2日)「排出量取引制度の詳細設計に向けた検討方針」

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国内における排出量取引とカーボンクレジットの最近の動向【リサーチレター 2025 No.2】
https://rm-navi.com/search/item/2278

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