ISO45001の要求事項を確実に実践するためのポイントは?労働安全衛生に携わるコンサルタントが詳しく解説
[このコラムを書いたコンサルタント]

- 専門領域
- 労働安全管理体制、安全文化醸成
- 役職名
- リスクマネジメント第一部 リスクエンジニアリング第三グループ マネジャー上席コンサルタント
- 執筆者名
- 村橋 邦輝 Kuniteru Murahashi
2026.6.18
継続的な安全衛生水準の向上に向けた仕組みづくりを進める上で有効な手段の1つとして、労働安全衛生マネジメントシステムの国際規格・ISO45001の取得があります。
MS&ADインターリスク総研では、仕組みづくりが求められるようになっている背景や、ISO45001の取得や実践にあたってのポイントを、労働安全衛生に携わるコンサルタント・村橋邦輝が2回にわたって解説しています。
2回目の今回は、ISO45001の要求事項を確実に実践するための具体的なポイントを紹介します。
流れ
- ISO45001の規格の構成は?
- 実践ポイント!箇条4 組織の状況
- 実践ポイント!箇条5 リーダーシップ及び働く人の参加
- 実践ポイント!箇条6 計画
- 実践ポイント!箇条7 支援
- 実践ポイント!箇条8 運用
- 実践ポイント!箇条9 パフォーマンス評価
- 実践ポイント!箇条10 改善
- まとめ:経営トップから現場までが一体となった仕組みの構築・運用を
ISO45001の規格の構成は?
ISO45001は「労働災害の防止」と「安全で健康的な職場環境の提供」を目的とした、労働安全衛生マネジメントシステムの国際規格で、組織の各階層の働く人が労働安全衛生に関わり、PDCAサイクルを継続的に回すことで、労働安全衛生の水準の向上を図ることを目指しています。
ISO45001は、序文と10の箇条(章立て)で構成されていて、要求事項は箇条4~10に記載されています。構成は次の表のように、各箇条がPDCAサイクルに対応しています。
ISO45001の箇条とPDCAサイクルの関係
| ISO45001の各箇条 | PDCAサイクル |
|---|---|
| 箇条6 | Plan(計画) |
| 箇条7,8 | Do(実行) |
| 箇条9 | Check(評価) |
| 箇条10 | Act(改善) |
各要求事項は「~しなければならない」と表現されているため、適切に運用していくためには要求事項を確実に実施していくことが重要になります。
実践ポイント!箇条4 組織の状況
ここからは、箇条4から10に記載されている各要求事項と実践に向けて押さえておくべきポイントを詳しく解説します。
まずは箇条4です。ここで求められるのは「そもそも自社は、どのような環境で安全衛生に取り組むのか」を明確にすることです。この中の箇条4.1~4.4の要求事項について、それぞれ説明します。
箇条4.1 組織及びその状況の理解
組織の安全衛生水準の向上に向けて対処しなければならない課題を「組織外部」と「組織内部」に分けて把握することが求められます。
組織の課題の例
| 外部の課題の例 | 内部の課題の例 |
|---|---|
|
|
箇条4.2 働く人及びその他の利害関係者のニーズ及び期待の理解
ここでは、働く人に加えてマネジメントシステムに関連するその他の利害関係者のニーズと期待を理解することが求められています。その他の利害関係者には、労働組合・行政・親会社・協力会社・近隣住民などがあり、次の表のようなニーズと期待を明確にする必要があります。
ニーズと期待の例
| 利害関係者の例 | ニーズと期待の例 |
|---|---|
| 働く人 | 熱中症対策の強化 |
| 新規設備への入替 | |
| 労働組合 | ハラスメント対策の強化 |
| 親会社 | 安全対策の強化指示 |
| 協力会社 | 安全衛生活動への支援 |
箇条4.1と4.2の両方で求められているのは、あくまでも「理解」であって、それぞれの箇条で把握した課題やニーズ・期待に対する対策までは求められていません。把握した内容は、箇条6の「計画」で評価して、組織として対処するかどうかを決定することになります。
箇条4.3 労働安全衛生マネジメントシステムの適用範囲の決定
箇条4.1で把握した外部と内部の課題、そして箇条4.2で把握した働く人とその他利害関係者のニーズと期待を踏まえて、運用する労働安全衛生マネジメントシステムの適用範囲を決定します。
適用範囲は工場単位や会社全体などになりますが、対象範囲は適用範囲の外で働く人も含まれます。営業職やテレワーカーなど組織の敷地外で働く人だけでなく、来訪者や納入業者など敷地内に入ってくる人も対象です。この適用範囲は、文書化した情報として利用可能な状態にしておくことが求められています。
箇条4.4 労働安全マネジメントシステム
ここでは、ISO45001の要求事項に従って「必要なプロセス」と「プロセス間の相互作用」を含めたマネジメントシステムの構築・運用が求められています。
「必要なプロセス」とは箇条4~10までのすべての要求事項で、「プロセス間の相互作用」とはそれぞれのプロセスが互いに連動するマネジメントシステムの構築を求めています。すべての要求事項を関連させたマネジメントシステムの構築にあたっては、マニュアル(基本規定)※を作成することが望ましいです。
※マニュアルに関しては、1回目のコラムの「ポイント④ マネジメントマニュアル(基本規定)の作成」 を参照
実践ポイント!箇条5 リーダーシップ及び働く人の参加
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箇条5では、経営層が労働安全衛生水準の向上に本気でコミットし、従業員を巻き込むことが求められています。
箇条5.1 リーダーシップ及びコミットメント
ここでは、経営層のリーダーシップとコミットメント(約束・責任・主体的な関与)を定めていて、具体的には13の項目について経営層が統率力を発揮して主体的に関与することを証明することを求めています。具体的な項目としては、労働安全衛生方針や目標の設定・必要な資源の確保・事業プロセスとの結合・働く人の保護などが挙げられています。
箇条5.2 労働安全衛生方針/箇条5.3 組織の役割、責任及び権限
これら箇条では、労働安全衛生方針に以下の5つのコミットメントと安全衛生上の重点取り組み事項を含めたうえで、文書化した情報で働く人と利害関係者に広くわかりやすく伝えるよう求めています。
- 安全で健康に働ける職場環境の提供
- 法令等の遵守
- 労働安全衛生リスクの軽減
- マネジメントシステムの継続した改善
- 働く人の協議と参加
また、組織の役割、責任・権限について、経営層や安全衛生の責任者だけでなく働く人も含めたすべての階層に割り当て、組織に伝える必要があります。
箇条5.4 働く人の協議及び参加
この箇条は、ほかのISO規格にはないISO45001独自の要求事項です。「協議」と「参加」という言葉は、箇条3の中で次の表のように定義されています。
| 協議 | 意思決定をする前に意見を求めること |
|---|---|
| 参加 | 意思決定に関与させること |
その上で、経営層や管理職は非管理職との協議と参加に関する要求事項が定められていますが、その内容は安全衛生委員会ですでに審議されている事項が多いため、委員会を活用することで十分に対応可能です。
一方で、「協議」すべき事項と「参加」すべき事項がそれぞれ定められていることから、混同しないよう要求事項に沿って対応するとともに、委員会で労使が十分に審議できる運営となるように工夫する必要があります。
実践ポイント!箇条6 計画
箇条6はPDCAサイクルのPlan(計画)にあたる内容で、ISO45001の構築を進めるうえで特に時間がかかります。
箇条6.1 リスク及び機会への取組み
ここではさらに細かく箇条が設定されています。まず「一般(箇条6.1.1)」で取り組む必要があるリスク・機会を把握し、対策は次の表に挙げる箇条で具体的に定められています。いずれの事項も「必ず対応しなければならない」ことに注意が必要です。
| 6.1.2.1 | 危険源の特定 |
|---|---|
| 危険源の特定は既存のリスクアセスメントを活用できますが、通常業務だけでなく緊急事態発生時の危険源や、来訪者・近隣住民らへの影響、組織外に存在する危険源についても考慮する必要があります。 | |
| 6.1.2.2 | 労働安全衛生リスク及びマネジメントシステムに対するその他のリスクの評価 |
| 労働安全衛生リスクとは、働く人の負傷や疾病につながるリスクで、上記で特定した危険源を評価するものです。また、安全衛生活動に必要な予算や人員の不足、教育不足による安全意識の低下など、マネジメントシステムの運用を阻害するリスクも評価することが求められます。 | |
| 6.1.2.3 | 労働安全衛生機会及びマネジメントシステムに対するその他の機会の評価 |
| 労働安全衛生機会とは、安全衛生パフォーマンスの向上につながる状況を指し、5S活動やKY活動、新技術の導入などが該当します。また、安全衛生スタッフの増員や外部専門家の活用など、マネジメントシステムの運用改善につながる機会も評価することが求められています。 | |
| 6.1.3 | 法的要求事項及びその他の要求事項の決定 |
| 法的要求事項には法令や労働協約などが、その他の要求事項には親会社・取引先からの要求や労働組合との協定などが含まれます。これらを整理し、文書化して最新の状態で管理することが求められます。 | |
| 6.1.4 | 取組みの計画策定 |
| リスクと機会、法的要求事項などを踏まえ、取り組むべき事項とその実施方法、さらに有効性の評価方法を計画することが求められます。これは単なるスケジュールではなく、労働安全衛生に関する中長期的な方針や戦略を定めるものです。 |
箇条6.2 労働安全衛生目標及びそれを達成するための計画策定
労働安全衛生方針や評価したリスクと機会を踏まえ、組織全体および各部門の目標を設定し、達成に向けた計画作成が求められます。目標は評価可能なものとし、責任者、期限、評価方法を定めて進捗を監視する必要があります。
実践ポイント!箇条7 支援
箇条7はPDCAのDo(実行)に対応していて、同じくDoに位置づけられている箇条8を支援するための要求事項となっています。
箇条7.1 資源/箇条7.2 力量
資源とは、一般に経営資源とされるヒト・モノ・カネ・情報・時間などを指します。また、力量とは業務遂行に必要な知識や技能を意味します。労働安全衛生マネジメントシステムを適切に運用するために必要な資源を確保するとともに、働く人に求められる力量を明確にし、必要な教育・訓練の実施とその有効性を評価することが求められます。
箇条7.3 認識/箇条7.4 コミュニケーション/箇条7.5 文書化した情報
マネジメントシステムの適切な運用のために働く人に認識させるべきこと、コミュニケーションをするべき情報などを定めていて、組織内外とのコミュニケーションプロセスの構築・運用を求めています。また、そのために必要な文書化した情報の定義や維持・保持すべき情報などを定めています。
安全衛生委員会、小集団活動、朝礼など従来から行っている安全衛生活動をベースに要求事項に沿った対応を進めることが必要です。
実践ポイント!箇条8 運用
箇条7に続いてPDCAのDoにあたり、箇条6で決定した取り組みを実施します。
箇条8.1 運用の計画及び管理
箇条6で決定した安全衛生活動を、計画・実施・管理・維持することが求められています。また、このプロセス実施に必要な実施要領・計画表や、手順書の維持と実施の記録の保管も必要です。
箇条8.1.3 変更の管理
変更とは、機械設備の新規導入や入替・手順の変更・人員の入替・機械設備の故障などがあり、変更が生じた場合に悪い影響が出ないように管理するためのプロセスの構築・運用が求められています。変更は、労働災害の発生につながりやすいため、変更がある場合に何をすべきかというプロセスの構築・運用は重要な項目です。
箇条8.1.4 調達
機械設備や化学物質などの物品類や、外部委託などのサービスを調達する際にこれらを組織のマネジメントシステムに適合させるための管理プロセスの構築・運用が求められています。サービスについてはさらに細かい箇条で協力企業と外部委託それぞれに要求事項が定められているので注意が必要です。
箇条8.2 緊急事態への準備及び対応
「箇条6.1.2.1 危険源の特定」で特定した緊急事態への準備と対応が求められています。多くの組織で消防計画や災害発生時の緊急時対応計画などがあると思いますので、それらが要求事項を満たしているかどうかを確認して、不足する事項を補うことで対応可能です。
実践ポイント!箇条9 パフォーマンス評価
ここはPDCAのCheck(評価)にあたり、PlanとDoの結果を評価することが目的です。
箇条9.1 モニタリング、測定、分析及びパフォーマンス評価
パフォーマンスは「測定可能な結果」と定義されていて、取り組みの現状がどのような状態にあるかを継続的にチェック・観察・測定・分析して、結果を評価することが求められています。また、その方法・基準・時期を定めることになります。
箇条9.2 内部監査
内部監査は、労働安全衛生マネジメントシステムが組織の方針や目標、ISO 45001の要求事項に沿って適切に運用されているかを確認するための活動です。そのため、監査プログラムに基づいて定期的に監査を実施し、結果を関係者へ報告するとともに、不適合があれば改善につなげることが求められます。
箇条9.3 マネジメントレビュー
マネジメントレビューとは、経営層が労働安全衛生マネジメントシステムの適切性・有効性・実効性を確認し、必要な改善を検討する活動です。あらかじめ定めた間隔で実施し、規格で定められた事項をレビューするとともに、その結果を働く人に周知することが求められます。
実践ポイント!箇条10 改善
ここはPDCAのAct(改善)にあたり、明らかになった課題やインシデントに対して適切に改善を進めることが求められます。
箇条10.1 一般/箇条10.2 インシデント、不適合及び是正処置/箇条10.3 継続的改善
ここでのインシデントには、労働災害に加えてヒヤリハットのように災害を引き起こすおそれのある事象も含まれます。インシデントや運用上の不適合の原因を究明して、再発防止に向けた対策を行う必要があります。また、報告・調査・処置を含めた管理プロセスの構築・運用が求められていて、報告が必要なインシデントと不適合を定義することや、調査方法・再発防策などのルールを定める必要があります。
まとめ:経営トップから現場までが一体となった仕組みの構築・運用を
ISO45001は組織の労働安全衛生の向上につながるもので、必ずしも認証を取得しなくても組織の労働安全衛生活動を整理し、継続的に改善するための実務的なツールとしても活用できます。
経営トップから現場までが一体となって現場の実態に即した仕組みを構築・運用することが、労働安全衛生水準の向上と企業価値向上の両立に繋がります。
MS&ADインターリスク総研では、ISO45001取得・ISO45001を活用した労働安全マネジメントシステム構築の支援を行っています。
ISO45001は単なる安全管理規格ではなく、労働安全衛生を経営管理の仕組みとして回すためのフレームワークでもあります。
労働安全衛生に関する経営課題や事業課題を解決したいとお考えの皆さまは、お気軽にご相談ください。