レポート/資料

全社的リスクマネジメント(Enterprise Risk Management) ―レジリエンスへのガイド―【InterRisk Asia BCM Report(2026年3月)】

RM NAVI会員(登録無料)のみ全文閲覧できます

[このレポートを書いたコンサルタント]

会社名
InterRisk Asia (Thailand) Co., Ltd.
執筆者名
Assistant Manager 堤 明正 Akimasa Tsutsumi

2025.3.30

要旨
  • 全社的リスクマネジメント(Enterprise Risk Management, ERM)とは、事業目標に影響を及ぼす可能性のあるリスクを特定、評価、管理、監視するための、組織全体にわたる体系的なアプローチです。
  • 効果的なERMは、組織のレジリエンス(回復力)を高め、価値を保護・創出するとともに、長期的な安定性と持続可能な成長を支えます。ERMによりもたらされる、構造化され透明性の高いリスク情報は、意思決定の質やステークホルダーの信頼を向上させます。
  • ERMの有効性は、計画の継続的なモニタリングと見直し、ならびに不断のコミュニケーションにより、急速に変化するビジネス環境においても維持されます。ERMが日常業務に組み込まれることで、組織は不確実性に先手を打って対応し、自信を持って新たな機会を捉えることができるようになります。

はじめに

不確実性が避けられない近年において、リスクは自然災害、経済問題、データ漏洩、さらには政治的変化など、あらゆる形態で組織が直面しなければならない課題となっています。これらは財務的、業務的、法的、そして風評のリスクにつながる可能性があります。適切な全社的リスクマネジメント(Enterprise Risk Management, ERM)がなければ、こうしたリスクは事業運営や目標とって深刻な影響を及ぼすおそれがあります。これが、ERMが現代のビジネスにとって不可欠なツールとなっている理由です。

本記事では、ERMとは何か、なぜ重要なのかを解説します。また、組織が不確実性に直面しても、安定性と持続可能性を持って事業を成長させるために必要な構成要素や戦略について、深く理解するための情報をご案内します。

リスクとは何か、そしてそれは何を意味するのか?

リスクとは、組織の目標にプラスまたはマイナスの影響を与える可能性のある不確実性を指します。リスク管理とは、組織が効果的に目標を達成できるようにするために、リスクを特定、評価、対応策を策定し、監視するプロセスです。その目的は、ネガティブな結果が発生する可能性と影響を低減すると同時に、危機発生時の組織の対応能力を強化することにあります。焦点は、期待されるリターンと許容可能なリスク水準とのバランスを確立することにあります。

全社的リスクマネジメント(ERM)とは?

全社的リスクマネジメント(Enterprise Risk Management, ERM)とは、組織全体にわたるリスクを管理するための統合的かつ体系的なアプローチです。個々の部門内での独立した側面からリスクを見る従来のリスクマネジメントとは異なり、ERMは組織全体を包括的に捉えます。戦略的リスクや財務的リスクから、業務リスク、法的リスク、および風評リスクに至るまで、あらゆる側面におけるリスクを考慮します。

ERMの目的は損害を防ぐことだけではなく、リスクを経営判断に組み込むプロセスそのものです。これにより、組織はリスクを効果的に特定、評価、管理、監視できるようになり、予期せぬ状況に対応できるだけでなく、ビジネスに長期的な価値をもたらす新たな機会を見出すことさえ可能になります。

組織にとってのERMの重要性

ERMは、組織の安定性と持続可能性を構築する上で中核となる要素です。これにより、組織は体系的にリスクを予測し対応することが可能となり、長期的な競争優位性をもたらします。組織におけるERMの導入は極めて重要であり、以下のトピックスでメリットをもたらします。

  • 組織価値の保護と向上:ERMは、資産、収益、または風評の損失につながる可能性のあるリスクを組織が積極的に特定・管理するのを支援します。また、潜在している機会を発見することも可能にします。
  • 意思決定の支援:経営陣が完全かつ体系化されたリスク情報を把握することで、ビジネス上の意思決定はより熟考されたものとなり、誤謬の発生も減少します。
  • ステークホルダーの信頼向上:効果的なERMは、投資家、パートナー、顧客、規制当局との間に信頼を築き、組織の信頼性と安定性を高めます。
  • 業務効率の向上:リスクアセスメントは、組織のワークフローの弱点を特定し、業務パフォーマンスを向上させるのに役立ちます。
  • 競争優位性の創出:強力なリスクマネジメント体制を持つ組織は、市場の変化に対してより機敏かつ迅速に対応でき、機会を捉えて継続的に成長することができます。

ERMの特徴

ERMは、いくつかの重要な点で従来の方法とは一線を画すリスクマネジメント手法です。

  • 継続的なプロセス:ERMは単発の活動ではありません。組織やビジネス環境の変化に合わせて進化する継続的なプロセスです。
  • 全社的な対象範囲:ERMは、経営幹部から現場スタッフに至るまで、組織のすべての部門および階層にわたるリスクを考慮すると同時に、異なる種類のリスク間の相互関連性を認識します。
  • 戦略との整合性:リスクマネジメントは、組織の目標と戦略を支えるものでなければならず、ERMは戦略的計画策定や経営判断に統合されます。ERMは、リスクへの配慮を組織が前進させるための核心的な要素としています。
  • 取締役会および経営陣主導:組織の方針や方向性の決定において、取締役会および経営陣のコミットメントは重要な役割を果たします。ERMの成功のためには、これらの協議体や意思決定の支援が重要です。
  • 価値重視:ERMは組織の価値を保護するだけでなく、効果的なリスクマネジメントを通じて新たな機会を創出することも目指します。明確なリスク指標を用いて、組織の長期的な価値の向上が図られます。

ERMにおける一般的なグローバル戦略

組織のリスクを管理するにあたり、企業は各リスクの深刻度に基づいて適切な戦略を選択することができる。ERMにおいて一般的に用いられるグローバル戦略には、次のようなものがあります。

1. リスク受容

発生の可能性が低い、または影響が最小限であるリスク、あるいはリスク管理のコストが潜在的な利益を上回るといった理由から、特定のリスクを受け入れることが選択されます。

2. リスク回避

組織は、特定のリスク顕在につながる可能性のある活動やプロジェクトに関与しないことを決定することがあります。例えば、リスクが高い、あるいは変動の激しい事業への投資を避けることなどです。

3. リスク低減・軽減

安全システムの導入や従業員への研修の実施など、リスク発生の可能性を低減させる、あるいは発生した場合の影響を軽減するための措置が講じられます。

4. リスク移転

リスクの移転とは、リスクを他の当事者に移すことを指します。例えば、保険を購入して財務リスクを保険会社に移転することなどです。

図1

ERMの構成要素

このコンテンツは約5分で読めます。 残り2428文字
この続きは会員登録(無料)でご覧いただけます。

あなたに最適なコンテンツをレコメンド!

会員限定のコンテンツが全て読み放題

最新コンテンツもPDFでダウンロードできる!