レポート/資料

2025年のASEANにおける台風被害の概要【InterRisk Asia Natural Disaster Report (2026年5月)】

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[このレポートを書いたコンサルタント]

会社名
InterRisk Asia (Thailand) Co., Ltd.
執筆者名
Assistant Manager Akimasa Tsutsumi
Property Risk Consulting Department, Head of Department Tanaporn Longwech

2026.5.26

要旨
  • 2025年に発生した複数の巨大台風は、ASEAN全域において甚大な被害をもたらし、予防的な洪水リスク管理の必要性が急務であることを改めて浮き彫りにしています。死者は2,000人以上に上り、数百万人が避難を余儀なくされるなど、被害額は200億ドルを超えました。
  • ラニーニャやエルニーニョといった気候要因が降雨および暴風雨の活動を一層激化させており、将来的な気象現象の予測不可能性を強く示しています。
  • 工場の立地、サプライチェーンの拠点、住宅が位置する氾濫原など、地理的状況に起因する脆弱性を特定することにより、組織はそれぞれに適した予防策を講じることが可能になります。あわせて、事業継続計画(BCP)の強化や経済的損失の低減にもつながります。
  • 構造化された洪水リスク評価により、意思決定者は資産の保護を図るとともに、今後さらに深刻化が懸念される気候災害に対するレジリエンス(回復力)を確保できると考えられます。

はじめに

2025年にASEAN諸国は近年で最も破壊的とされる台風シーズンに見舞われました。スーパー台風「Ragasa」、台風「Koto」、サイクロン「Senyar」などの暴風雨は、タイ、ベトナム、マレーシア、インドネシア、およびフィリピンにおいて壊滅的な洪水や地滑り、さらには大きな経済的損失をもたらしました。

死者数は2,000人を超え、数百万人が避難を余儀なくされるなど、被害は広範囲に及びました。被害額は200億ドルを超え、東南アジアにおける重大な気候災害として位置付けられています。

ASEAN地域で暴風雨を引き起こす要因

ENSO(El Niño-Southern Oscillation、エルニーニョ南方振動)現象は、中部太平洋および東部太平洋における海面水温と大気条件の変化を反映しています。本現象の大小を示すENSO指数は、エルニーニョまたはラニーニャの状態を把握するために用いられる重要な指標です。エルニーニョとラニーニャは、ASEANにおける台風・豪雨傾向に影響を与える主な要因とされています。これらを特定するための主要な要因を下表に示します。

エルニーニョとラニーニャの特徴
図1:エルニーニョとラニーニャの特徴
出所:https://www.climate.gov/enso
表1:エルニーニョ、ラニーニャ発生要因のまとめ
要因 エルニーニョ ラニーニャ
海面水温
(SST: Sea Surface Temperature)
太平洋中部および東部で平均より高い (数カ月連続で+0.5°C以上) 太平洋中部および東部で平均より低い (数カ月連続で-0.5°C以下)
貿易風 勢力が弱まり、暖かい海水が東に移動する。 勢力が強まり、暖かい海水が太平洋西部に蓄積する。
降雨量と対流の分布 西部太平洋から東へ移動し、東南アジアでは干ばつになりやすい 西部太平洋に集中→東南アジアでは降雨量が多くなりやすい
南方振動指数
(SOI: Southern Oscillation Index)
負の値
(タヒチの気圧<豪州ダーウィンの気圧)
正の値
(タヒチの気圧>豪州ダーウィンの気圧)
東南アジアへの影響 干ばつリスクが高く、暴風雨が少ない 降雨量が多く、暴風雨が多い

ラニーニャはASEANにおいて頻繁に暴風雨を引き起こす主要な要因ですが、一般的には小規模から中規模の現象にとどまる傾向があります。一方でエルニーニョは台風「Ragasa」のように、ASEANで激しい暴風雨をもたらす要因となる場合があります。これは、東部太平洋や中部太平洋の海面水温(SST)の上昇などの影響により降雨パターンが変化し、暴風雨の発達に必要な潜熱エネルギーが増加するためです。さらに貿易風の変化やウインドシア(局地的に風向や風速が急激に変化する現象)に加えて、暴風雨の進路が東へ移動することで、暴風雨はより遠方の海上で発生し、長期間にわたり暖かい海域でエネルギーを蓄積した後、最終的に東南アジアへ接近する傾向があります。

図2に示すとおり、NASAのENSO指数(海面ベース)によると、気候パターンは2020年4月以降ラニーニャ状態が継続しました。2023年6月から2024年2月にかけて一時的にエルニーニョへ移行した後、再びラニーニャ状態に戻っています。

2026年5月14日に発表されたNOAA(米国海洋大気庁)気候予測センターによると、2026年の現時点の状況では5月~7月にエルニーニョ現象が発生する可能性があり(確率82%)、少なくとも2027年2月まで継続する可能性が高いとしています。

図2:NASAによる1993年から現在までのENSO指数

NASAによる1993年から現在までのENSO指数
NASAによる1993年から現在までのENSO指数

出所:https://sealevel.jpl.nasa.gov/overlay-elnino/

2026年3月16日に発表されたNOAA気候予測センターのデータによると、東南アジアでは2025年にラニーニャ現象が発生し、ニーニョ3.4およびニーニョ4の海域において海面水温(SST)が平年を下回ったことが示されています。この分析は、エルニーニョ/ラニーニャの発現指標となるRONI(Relative Oceanic Nino Index、相対海洋ニーニョ指数)に基づいています。RONIは太平洋の特定地区における海面水温の平年からの偏差を示しており、この指数が0.5以上となる期間が継続するとエルニーニョ、-0.5以下となる期間が継続するとラニーニャの発生を意味します。エルニーニョでもラニーニャでもない状態は中立状態(Neutral)と呼ばれます。

前述の2025年の異常は、ASEANの複数の国において暴風雨活動の活発化や降雨量の増加と関連しているとみられています。比較分析によりますと、2025年の累積降雨量はエルニーニョ現象が特徴的であった2024年と比較して、およそ20~35%多かったとされています。

この評価は、NOAA、WMO(世界気象機関)、ASMC(ASEAN専門気象センター)、タイ気象局、フィリピン気象庁(PAGASA)、インドネシア気象庁(BMKG)などの各国気象機関の報告に基づいています。

図3:NOAAの気候予測センターによるRONI指数
(RONI: Relative Oceanic Niño Index)

NOAAの気候予測センターによるRONI指数

出所:https://www.cpc.ncep.noaa.gov/products/analysis_monitoring/enso_disc_mar2026/figure02.gif

またこの結果は、日本気象庁や世界的なラニーニャ気候特性に関する研究で示されているように、ラニーニャ現象の期間、特に3月から5月および9月から11月にかけて典型的に観測される気候傾向と一致しています。

図5:2024年および2025年のASEANにおけるラニーニャ現象の影響の比較

2024年および2025年のASEANにおけるラニーニャ現象の影響の比較
2024年および2025年のASEANにおけるラニーニャ現象の影響の比較

生成AIによりMS&ADインターリスク総研作成

図6:ラニーニャ現象が発生する3~5月(北半球では春)の天候の特徴(左)
図7:ラニーニャ現象が発生する9~11月(北半球では秋)の天候の特徴(右)

ラニーニャ現象が発生する3~5月(北半球では春)の天候の特徴・ラニーニャ現象が発生する9~11月(北半球では秋)の天候の特徴
ラニーニャ現象が発生する3~5月(北半球では春)の天候の特徴・ラニーニャ現象が発生する9~11月(北半球では秋)の天候の特徴

出所:https://www.data.jma.go.jp/cpd/data/elnino/learning/tenkou/sekai2.html

2025年の暴風雨の記録

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