ISO45001(労働安全衛生マネジメントシステム)を理解するためのポイント【労災リスク・インフォメーション(2026年6月)】
[このレポートを書いたコンサルタント]
- 会社名
- MS&ADインターリスク総研株式会社
- 部署名
- リスクマネジメント第一部 リスクエンジニアリング第三グループ
- 執筆者名
- マネジャー上席コンサルタント 村橋 邦輝 Kuniteru Murahashi
2026.6.1
- ISO45001は労働災害の防止と安全で健康な職場環境の提供を目的とした、労働安全衛生マネジメントシステムの国際規格である。
- 企業が対応すべき安全衛生上の課題範囲は広がってきており、継続的に安全衛生水準を向上させる仕組みづくりが求められている。
- ISO45001は事業場の安全衛生水準の向上に向け、PDCAサイクルで継続的に取り組むための実務ツールとして有効である。
1.日本の労働災害の現状
日本の労働災害による死亡者数は、2024年に746人となりピークであった1960年代と比べて大幅に減少するとともに、長期的な減少傾向の中で過去最少を記録した。しかしながら、休業4日以上の死傷者数では2009年以降増加傾向にあり、日本における労働安全衛生管理の重要性は変わっていない。
一方、労働災害の発生状況は多様化している。業種別では第三次産業の占める割合が年々増加し2024年では全体の52%を占めるまでとなり、特に社会福祉施設における労働災害の発生件数の増加が著しい。さらには働く人の高齢化に伴い高年齢労働者の死傷者数が増加しており、外国人労働者数の増加に伴う外国人労働者の死傷者数も増加傾向にある。
また、メンタルヘルス、ハラスメントや熱中症対策など、社会環境の変化に伴って企業が対応すべき安全衛生上の課題範囲は広がってきている。このため、個別対策の積み上げだけでなく、継続的に安全衛生水準を向上させる仕組みづくりが求められている。
2.労働安全衛生に関わる近年の主な法令改正
多様化する労働災害の要因への対策としてさまざまな法令改正が行われ、労働災害防止に向けた措置が義務化、努力義務化されてきた。下表は近年の主な法令改正を一覧にしたものである。
| 施行時期 | 改正内容 | 根拠法令 | 主なポイント |
|---|---|---|---|
| 2020年6月 | パワハラ防止措置の義務化(大企業) | 労働政策総合推進法 | 相談窓口整備、方針明確化、再発防止策等が必要 |
| 2022年6月 | パワハラ防止措置の義務化(中小企業) | 労働政策総合推進法 | 全企業でハラスメント防止体制整備の義務化 |
| 2023年4月から順次 | 化学物質の自律的管理に関する改正の段階施行開始 | 労働安全衛生法、労働安全衛生規則など | SDS交付義務、ラベル表示義務、リスクアセスメント義務対象物質の拡大 |
| 2024年4月 | 時間外労働の上限規制の適用拡大 | 労働基準法関連省令 | 建設業、自動車運転業務、医師に上限規制適用 |
| 2025年6月 | 熱中症対策の義務化 | 労働安全衛生規則 | 体制整備、手順整備、周知の義務化 |
| 2026年4月 | 高年齢労働者の労働災害防止に必要な措置の実施 | 労働安全衛生法 大臣方針 |
職場環境の改善、健康・体力に応じた対応、労働者向け教育の努力義務化 |
| 2028年5月までに施行 | ストレスチェック制度の義務化 | 労働安全衛生法 | 50人未満の小規模事業場でも制度導入が義務化 |
労働災害を防止し安全で健康的な職場環境を形成するために、国は労働安全衛生法を中心に省令や各種告示・通達にて具体的な内容を定めている。安全衛生に関わる環境の変化に伴い法令改正を行っているが、近年の改正傾向は「事業者が自らリスクを把握し、予防的に管理する」方向に進んでいると言える。
一連の法的要求事項の充足のみならず実効性のある安全衛生対策を継続的に講じるためにも、安全衛生の方針や目標を定め、それを達成するためにPDCAサイクルを回しながら組織を適切に指揮、管理するための仕組み(マネジメントシステム)の構築が、事業場の規模を問わず重要となる。
3.ISO45001(労働安全衛生マネジメントシステム)の概要
ISO45001は、労働災害の防止と安全で健康的な職場環境の提供を目的とした、労働安全衛生マネジメントシステム(以下、「マネジメントシステム」という)の国際規格である。組織の各階層の働く人が労働安全衛生に関わり、計画(Plan)、実行(Do)、評価(Check)、改善(Act)のPDCAサイクルを継続的に回すことにより、労働安全衛生水準の向上を図ることを目指している。
ISO45001は序文と10の箇条で構成され、要求事項は箇条4から箇条10に記載されている。PDCAサイクルとの対応でみると箇条6がPlan、箇条7と8がDo、箇条9がCheck、箇条10がActに該当する。
この構造は他のISOマネジメントシステムと共通のものを採用しているため、ISO9001やISO14001を取得している組織では統合的に運用しやすいという利点がある。
図 ISO45001構成図
※表中の番号は対応する箇条番号を表す
4.ISO45001導入にあたってのポイント
ISO45001の導入にあたっては、従来から行っている安全衛生活動をベースにマネジメントシステムとして構築することが重要となるが、導入にあたってあらかじめ抑えておきたいポイントについて解説する。
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(ア)リーダーシップ及び働く人の参加
ISO45001の特長として「経営トップの主導」と「働く人の参加」を求めている点がある。経営者などトップマネジメントにあたる者が主導して方針を打ち出し、明文化し、社内に周知していく必要がある。また、「働く人」という労働者よりも広い概念を用いて、事業者、管理職、請負業者、派遣労働者、ボランティア、インターンシップなど組織の事業活動に関わる「働く人」の参加・協議も重視されており、実効性のある安全衛生活動を進める上で、現場の知見や意見を反映することが求められる。
(イ)安全文化の醸成
ISO45001では、要求事項の一つに「目指すべき成果を支援する文化を醸成すること」を挙げている。安全文化という言葉が1985年のチョルノービリ(ロシア語では「チェルノブイリ」原子力発電所事故をきっかけに提唱され、安全文化を醸成する取組みが電力、石油、航空産業などを中心に進められてきたが、ISO45001では安全文化の醸成を要求事項に加えている。
安全文化を醸成するための活動はさまざまあるものの、その評価は難しいと考えられどのような活動を行えばよいのか悩んでいる組織も少なくない。
MS&ADインターリスク総研では組織の安全文化の醸成を目的として、「安全文化に関する会社全体の傾向」「エリアや社員属性による偏り」「安全意識の経年変化」を数値で比較する安全文化診断を提供している。安全文化診断では8軸の指標 ①組織統率、②責任関与、③相互理解、④危険認知、⑤学習伝承、⑥作業管理、⑦動機付け、⑧資源管理により、組織における安全文化の状態を見える化することができる。
図 安全文化の8軸
(ウ)プロセスの理解と構築・統合
ISO45001ではさまざまな「プロセス」の構築・運用が要求されている。「プロセス」には当然「手順」も含まれるが、その手順を活用できる人や手順の実行に適した機械設備なども含まれる。
マネジメントシステムを適切に運用するためには手順はもちろん、必要な情報や材料、適切な担当者の任命、使用する機械設備など「プロセス」全体を構築・運用することが重要である。
また、ISO45001では組織の事業プロセスにマネジメントシステムを統合することを求めている。
ISO45001のために新たに仕組みを作って特別に取り組むということではなく、これまでの取組みを出来る限り活かして、組織の事業活動の中で実施できるようにすることの重要性を示している。
(エ)マネジメントシステムマニュアル(基本規程)
ISO45001の要求事項には、文書化した情報の維持または保持を求めるものがある。(文書化した情報とは単に文章だけでなく図や写真、動画なども含まれる。)一方でISO45001で構築・運用を求めるプロセスには文書化まで求めていないものが多いが、構築したプロセスを運用するためには関係者に周知するための文書化された情報が必要となる。また、従来より取り組んでいる安全衛生活動にて活用されている文書化された情報もありさまざまな文書が複雑にからんでくる。
このため、ISO45001導入にあたってはマネジメントシステムの構築・運用にかかわるすべての事項を包括的に示し、関連文書を体系化するマネジメントシステムマニュアル(基本規程)の作成が望ましい。なお、マニュアルの作成にあたっては規格の箇条に沿った形式で作成することで、要求事項に従うものとなりやすい。
5.ISO45001の規格の構成
ISO45001は別紙1の表に示すとおり、全10箇条の構成となっている。要求事項は箇条4から箇条10に記載されている。なお、規格の要求事項については「~しなければならない」と表現されている。
ISO45001を適切に運用するためには、要求事項を確実に実施することが重要となる。
6.ISO45001要求事項のポイントと実践に向けての方策
ISO45001について、箇条4から箇条10に記載されている各要求事項のポイントと実践に向けての方策について解説する。
箇条4.組織の状況
4.1 組織及びその状況の理解
ISO規格には掲載されているが、他のマネジメントシステム規格にはない要求事項である。
「組織の状況の理解」とは組織の現状を把握すると考えればよいが、具体的には組織の安全衛生水準の向上に向けて対処しなければならない課題を組織外部と組織内部の課題とに分けて把握することを求めている。
| 外部の課題の例 | 内部の課題の例 |
|---|---|
|
|
4.2 働く人及びその他の利害関係者のニーズ及び期待の理解
本箇条では働く人に加えてその他の利害関係者(=マネジメントシステムに関連するその他の利害関係者)のニーズ及び期待を理解することを求めている。その他の利害関係者には労働組合や行政、親会社、協力会社、近隣住民などがあり、働く人だけでなくその他の利害関係者のニーズ及び期待を明確にすることが求められている。
| 利害関係者の例 | ニーズ及び期待の例 |
|---|---|
| 働く人 | 熱中症対策の強化 |
| 新規設備への入替 | |
| 労働組合 | ハラスメント対策の強化 |
| 親会社 | 安全対策の強化指示 |
| 協力会社 | 安全衛生活動への支援 |
箇条4.1、箇条4.2ともに求められているのは「理解」であるため、それぞれの箇条で把握した課題やニーズ及び期待の全てに対する対策の実施までは求められていない。把握したものを箇条6「計画」で評価し、組織として対処するか否かを決定する。箇条4.1、箇条4.2は、取り組む活動を決定する前に組織の状況を把握することそのものを求めているといえる。なお、例えば「機械設備の老朽化」(課題)と「老朽化した機械設備の新規設備への入替」(ニーズ及び期待)のように「課題」と「ニーズ及び期待」が重複することは有り得る。
4.3 労働安全衛生マネジメントシステムの適用範囲の決定
箇条4.1にて把握した外部及び内部の課題並びに箇条4.2で把握した働く人及びその他の利害関係者のニーズ及び期待を踏まえて適用範囲を決定する。なお、適用範囲とはマネジメントシステム運用の物理的範囲(工場単位や会社全体など)を意味するが、対象者は適用範囲の外で働く人も含まれ、営業職やテレワーカーなど組織の敷地外で働く人に加えて来訪者や納入業者など敷地内に入ってくる人も対象となる。なお、この適用範囲は文書化した情報として利用可能な状態にしておくことが求められている。
4.4 労働安全衛生マネジメントシステム
ISO45001の要求事項に従って、「必要なプロセス」と「プロセス間の相互作用」を含めたマネジメントシステムの構築・運用を求めている。「必要なプロセス」とは箇条4から箇条10までの全ての要求事項であり、「プロセス間の相互作用」とはそれぞれのプロセスが互いに連動するマネジメントシステムの構築を求めている。全ての要求事項を関連させたマネジメントシステムの構築にあたっては前述のとおりマニュアル(基本規程)を作成することが望ましく、マニュアルの作成にあたっては規格の箇条に沿った形式で作成することにより要求全体に従うものとなる。
箇条5. リーダーシップ及び働く人の参加
5.1 リーダーシップ及びコミットメント
本箇条では経営層のリーダーシップとコミットメント(約束、責任、主体的な関与)について定めており、具体的に13の項目について経営層が統率力を発揮して、主体的に関与することを証明することを求めている。項目としては労働安全衛生方針や目標の設定、必要な資源の確保、事業プロセスとの統合、働く人の保護などが記されている。
5.2 労働安全衛生方針
5.3 組織の役割、責任及び権限
本箇条では労働安全衛生方針に5つのコミットメント(安全で健康に働ける職場環境の提供、法令等の順守、労働安全衛生リスクの軽減、マネジメントシステムの継続した改善、働く人の協議と参加)並びに安全衛生上の重点取組み事項を含めたうえで、文書化した情報にて働く人と広く社会(利害関係者)に分かりやすく伝えるよう求めている。また、組織の役割、責任及び権限については経営層や安全衛生責任者のみならず働く人も含めた全ての 階層においての役割、責任及び権限について割り当て、組織に伝達する必要がある。
5.4 働く人の協議及び参加
本箇条は他のISO規格にはないISO45001独自の要求事項である。箇条3「用語及び定義」にて“協議”とは「意思決定をする前に意見を求めること」であり、“参加”とは「意思決定に関与させること」とされている。働く人には経営層や管理職も含まれることからISO45001では非管理職との協議や参加に関する要求事項が定められている。要求事項の内容については実際に安全衛生委員会ですでに審議されている事項が多く、委員会を活用することで十分に対応できるものである。しかしながら、“協議”すべき事項と“参加”すべき事項がそれぞれで定められており、“協議”すべき事項と“参加”すべき事項を混同しないようそれぞれの要求事項に沿った対応を行うよう留意し、また委員会で労使が十分に審議できる運営とするよう工夫する必要がある。
箇条6.計画
箇条6は PDCAのPlan(計画)であり、ISO45001の構築において特に時間を要するものである。
6.1 リスク及び機会への取組み
本箇条では細分箇条が設定されており、まず「一般(箇条6.1.1)」にて取り組む必要のあるリスク・機会を決定することを求め、そのために反映させなければならない事項を定めている。
反映させなければならない事項がその細分箇条にて具体的に定められており、以下に解説するいずれの事項も不採用にできず、必ず対応しなければならないものであることに留意する必要がある。
6.1.2.1 危険源の特定
危険源の特定は従来より実施しているリスクアセスメントにて実施できるが、起こり得る緊急事態への対応や働く人のみならず来訪者などの職場に出入りする人々や近隣の住民を含めた人々に影響を及ぼす危険源の特定や組織内部だけでなく組織の外にありながら組織の人々に影響を及ぼす危険源の特定も行う必要がある。
6.1.2.2 労働安全衛生リスク及びマネジメントシステムに対するその他のリスクの評価
労働安全衛生リスクとは働く人の負傷や疾病につながるリスクであり、箇条6.1.2.1「危険源の特定」にて抽出された安全衛生上のリスクを評価することである。
一方、マネジメントシステムに対するその他のリスクとはマネジメントシステムの実施や運用に関係するリスクを表すものである。例えば安全衛生に関わる予算や人員の削減、教育不足による安全意識の低下などが考えられる。ISO45001ではこうしたリスクも抽出し評価する取組みが求められている。
6.1.2.3 労働安全衛生機会及びマネジメントシステムに対するその他の機会の評価
労働安全衛生機会とは箇条3「用語及び定義」にて「労働安全衛生パフォーマンスの向上につながり得る状況又は一連の状況」と定めており、「機会」 とは「パフォーマンス向上につながり得る状況又は一連の状況」ということになる。5S活動やKY活動など日々取り組んでいる安全衛生活動や安全衛生水準の向上につながる新技術の導入が「機会」となる。よって、労働安全衛生機会はこれまで取り組んでいる多くの安全衛生活動が該当し、これらをリスト化して取組みの優先度を決めることが評価の一例となる。
また、マネジメントシステムに対するその他の機会についてはリスク同様にマネジメントシステムの実施・運用に良い影響を与える状況であり、例えば安全衛生スタッフが増員されることや外部コンサルティングを導入しマネジメントシステムを見直すことなどが挙げられる。本箇条ではそれぞれを評価することが求められている。
6.1.3 法的要求事項及びその他の要求事項の決定
法的要求事項とは法律、政令、省令、労働協約などが該当する。また、その他の要求事項とは親会社や取引先からの要求事項や労働組合との協定などがある。これらについて組織で適用されるものを整理し、文書化して常に最新の状態にしておくことが求められている。
6.1.4 取組みの計画策定
PDCAのPの策定を求めている箇条である。評価したリスク及び機会(箇条6.1.2.2及び6.1.2.3)、組織に適用される法的要求事項及びその他の要求事項(箇条6.1.3)、緊急事態への準備及び対応(箇条8.2)について、組織が取り組むと決めた事項を実施するための計画を作成すること、並びにその取組みの有効性の評価方法についても策定を求められている。計画策定とあるがスケジュールを決めるというよりも、取り組むべき内容と方法を決定すると考えた方がよい。ここで策定する計画は中長期的なものも含めた労働安全衛生に関する経営戦略を定めるものとなる。
6.2 労働安全衛生目標及びそれを達成するための計画策定
労働安全衛生方針(箇条5.2に矛盾せず、評価したリスク及び機会(箇条6.1.2.2及び6.1.2.3などを踏まえた、労働安全衛生目標並びにその達成のための計画を、組織全体及び部門ごとに設定することを求めている。目標については定性的、定量的な評価が可能なものとし、モニタリングの実施が求められている。計画については責任者や達成期限の設定も必要となり、結果の評価方法も定める必要がある。
箇条6と関連する要求事項の流れ
箇条7.支援
箇条7はPDCAのDo(実行)であり、同じくDoに位置付けられている箇条8を支援するための要求事項である。
7.1 資源
7.2 力量
資源とは一般的に経営資源といわれるヒト・モノ・お金・情報・時間などと理解すればよい。力量とは知識と技能のことであり、マネジメントシステムの適切な運用のために必要な資源を投入し、働く人の力量を把握し必要な教育訓練の提供とその有効性の評価を求めている。
7.3 認識
7.4 コミュニケーション
7.5 文書化した情報
マネジメントシステムの適切な運用のために働く人に認識させなければならないこと、コミュニケーションすべき情報などを定めており、組織内部、外部とのコミュニケーションのプロセスの構築 ・運用を求めている。また、そのために必要な文書化した情報の定義や維持・保持すべき情報などについて定めている。安全衛生委員会や小集団活動、朝礼など従来から行っている安全衛生活動をベースに要求事項に沿った対応を進めることが必要である。
箇条8.運用
箇条8はPDCAのDo(実行)であり、箇条6にて決定した取組みを実施することである。
8.1 運用の計画及び管理
箇条6などで決定した取組みを実施するために必要なプロセスを計画、実施、管理、維持することを求めている。つまりは、取り組むことを決めた安全衛生活動を計画、実施、管理、維持することである。また、プロセスの実施のために必要な実施要領・計画表や手順書の維持並びに実施の記録の保持も必要となる。
8.1.3 変更の管理
変更とは機械設備の新規導入または入替、手順の変更、人員の入替、機械設備の故障などがあり、変更が生じた場合に悪い影響が出ないよう管理するためのプロセスの構築・運用が求められている。変更は労働災害の発生につながりやすいため、変更がある場合に何をすべきかというプロセスの構築・運用は重要な項目である。
8.1.4 調達
機械設備や化学物質などの物品類や外部委託などのサービスを調達する際にこれらが組織のマネジメントシステムに適合するようにするための管理プロセスの構築・運用を求めている。サービスについては細分箇条にて請負者と外部委託それぞれに要求事項が定められているため、留意する必要がある。
8.2 緊急事態への準備及び対応
箇条6.1.2.1「危険源の特定」で特定された緊急事態に対する準備及び対応を求めている。緊急事態とは労働災害が発生しうる切迫した状態をいい、例えば火災、爆発、危険有害物質やガスの漏えい、自然災害などがある。多くの組織で消防計画や災害発生時の緊急時対応計画などがあると考えられるが、それらが要求事項を満たしているかどうかを確認し、不足する事項を補えばよい。
箇条9.パフォーマンス評価
箇条9はPDCAのCheck(評価)であり、Plan、Doの結果を評価することが目的である。
9.1 モニタリング、測定、分析及びパフォーマンス評価
「パフォーマンス」とは箇条3「用語及び定義」にて「測定可能な結果」とされている。取組みの現状がどのような状態にあるか継続的にチェック、観察、測定して分析のうえ、結果を評価することが求められている。組織が定めた「対象」に対してモニタリング、測定、分析、評価の「方法」、「基準」や「時期」を定めることになる。また、法令等要求事項の順守状況を評価するためのプロセスの構築・運用について細分箇条にて定めている。
9.2 内部監査
内部監査はマネジメントシステムが組織の方針や目標などに沿って適切に運営されているか、並びにISO45001の要求事項に即しているかを監査するものである。そのため、あらかじめ定めた間隔で監査を実施することが求められている。監査の頻度、方法、責任などを定めた監査プログラムを策定し、監査員を選定のうえ実施する必要がある。また、監査結果は関係する管理者及び働く人、並びに必要に応じて関連する利害関係者に報告し、不適合があればその改善に取り組み、安全衛生水準の向上を継続的に図ることも求められている。
9.3 マネジメントレビュー
マネジメントレビューとは、経営層がマネジメントシステムが適正で実効性を有することを確認し、必要に応じて改善を行うための活動である。経営層が自らマネジメントシステムのレビューをあらかじめ定めた間隔で実施する必要がある。確認すべき事項も定められており、その結果を働く人に公表すること並びに公表する必要のある事項まで定められている。
箇条10.改善
箇条10はPDCAのAct(改善)であり、明らかになった課題やインシデントに対して適切に改善を進めることである。
10.1 一般
10.2 インシデント、不適合及び 是正処置
10.3 継続的改善
インシデントとは労働災害に加えてヒヤリハットのように災害を引き起こすおそれのある事象も含まれる。インシデント及びマネジメントシステム運用上の不適合についてそれぞれ原因を究明し、再発防止に向けた対策を講じる必要がある。本箇条ではインシデント及び不適合について報告、調査、処置を含めた管理プロセスの構築・運用が求められており、報告が必要なインシデント及び不適合を定めることや調査方法、再発防止への処置などのルールを定める必要がある。
7.ISO45001の導入に向けて
ISO45001の要求事項は箇条4から箇条10まで詳細に定められており、すべてに対応するのは難しいと思われるかもしれない。しかし、必ずしも規格のための新たな仕組みを一から作る必要はない。日常的に行っている安全衛生活動をマネジメントシステムに組み込み、PDCAサイクルの中に位置付けて運用することで、実効性のある仕組みへと発展させることができる。
ISO45001は組織における労働安全衛生の向上に寄与するものであり、認証を取得しなくても組織の労働安全衛生活動を整理し、継続的に改善するための実務的ツールとして活用する視点が有効である。経営トップから現場までが一体となって現場の実態に即した仕組みを構築・運用することが、労働安全衛生水準の向上と企業価値向上の両立につながると考える。
本誌の別紙2にISO45001で求められているプロセスと文書・記録についてまとめた一覧表を作成した。ISO45001が求めるプロセスや文書・記録と組織で現在取り組んでいる内容を確認し、必要な対策を進めるためのツールとして活用いただきたい。
本稿がISO45001の理解に少しでも貢献できれば幸いである。
【参考文献】
1) 日本産業標準調査会「JIS Q 45001 労働安全衛生マネジメントシステム-要求事項及び利用の手引」
https://www.jisc.go.jp/app/jis/general/GnrJISSearch.html(最終アクセス 2026年5月13日)
2) 中央労働災害防止協会『これだけでわかる ISO45001』2019年
3) 中央労働災害防止協会『実践!労働安全マネジメントシステム ISO45001・ JIS Q 45100文書例・様式データ集』2020年
4) 黒崎由行『労働安全マネジメントシステム ISO45001実践ハンドブック』労働調査会、2018年
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