レポート/資料

雨水流出抑制の充実を通じた都市型洪水被害の軽減 ~第6次社会資本整備重点計画の推進に向けて~【政策提言レポート(2026年7月)】

[このレポートを書いた研究員]

会社名
MS&ADインターリスク総研株式会社
部署名
基礎研究部 政策提言準備室
執筆者名
マネジャー・上席研究員 小川 康孝 Yasutaka Ogawa

2026.7.17

サマリー
  • 気候変動に伴い自然災害の激甚化が進む中、国におけるインフラ政策の「羅針盤」である「第6次社会資本整備重点計画」が2026年1月に閣議決定された。急速に進むインフラの老朽化、人口減少、地方自治体における維持管理を担う職員数や建設業就業者の減少などの日本の状況を踏まえ、地域経済社会の活力向上、国土強靱化、グリーン社会の実現などの目標を掲げ、経済成長の基盤となるインフラ整備施策について明確な指針を示し、進捗管理の指標(KPI)も細かく設定している。
  • 線状降水帯の発生などによる都市型洪水の増加を踏まえ、この計画では、基幹インフラの機能強化に加え、雨水の貯留・浸透・遊水機能を都市空間に分散的に確保し、雨水流出を抑制することで浸水被害を軽減する施策も掲げられている(雨水流出抑制策)。
  • これを効果的、効率的に推進するには、①雨水流出抑制策の目標と効果の定量化、②行政による河川・下水道・都市計画・建築・防災を横断した一体的な管理体制やそのための地形データの整備と活用、③民間の設備も含めた統合的な管理、④民間の協力を促す支援制度やインセンティブの整備などが有用である。
  • 一方、上記のような雨水流出抑制策には制約や限界もある。将来的に気候変動がさらに進行する可能性を踏まえ、さらなるインフラ整備の充実、治水能力の向上に加え、国民の生命や財産を守る観点から、この計画で挙げられている土地利用のあり方(都市機能の集約や立地適正化)についても取組を進めることが重要であろう。

1. 本政策提言レポートの背景

(1) インフラにまつわる環境変化

混迷を極める国際情勢、また中東情勢に伴うエネルギー危機など、地政学リスクが顕在化し、経済安全保障の文脈から、わが国が自律的に経済を運営する態勢を整えることは、かつてないほどに重要性を増している。経済運営の効率性、産業競争力の向上、安定的な国民生活を支えるのは、国のインフラとその強靱性である。

一方、わが国において、高度経済成長期以降に急速に整備されたインフラは、老朽化の進行が指摘される。2030年には、道路や橋の54%、河川管理施設の42%が建設後50年以上経過するとされている。他方、それらを維持・保全する市区町村における土木部門の職員は、ピーク時の1996年から26.4%減少、また約半数の市区町村において技術系職員数は5人以下にまで減少し、さらに、維持・保全の実務を担う建設業における就業者数は、ピーク時から30%減少、建設業就業者の高齢化も進行し、次世代への技術継承が大きな課題とされている

(2) 第6次社会資本整備重点計画

以上のようなことを背景に、国のインフラ政策の「羅針盤」である「第6次社会資本整備重点計画」(以下、同計画)は、2026年1月16日に閣議決定された。ゴールを「人口減少という危機を好機に変え、一人ひとりが豊かさと安心を実感できる持続可能な活力ある経済・社会を実現」に設定し、交通政策基本計画と一体的に推進されている。

同計画の重点目標として、地域経済の核となる集積づくりと広域連携、地域の将来像を踏まえたインフラの再構築などの「活力のある持続可能な地域経済社会の形成」(重点目標Ⅰ)、持続的で力強い経済成長の実現、暮らしと経済の礎となる防災・減災、国土強靱化などの「強靱な国土が支える持続的で力強い経済社会」(重点目標Ⅱ)、2050年カーボンニュートラルの実現、自然共生社会の実現など「インフラ分野が先導するグリーン社会の実現」(重点目標Ⅲ)、地域のインフラを支える地方公共団体の管理機能の維持、建設業等の担い手の確保・育成、生産性向上、新技術・DXによるインフラの価値向上など「戦略的・計画的な社会資本整備を支える基盤の強化」(重点目標Ⅳ)の4つを掲げ、それぞれの施策にKPIを設定し、推進が計画されている。

第6次社会資本整備重点計画の概要
出典:国土交通省 『第6次社会資本整備重点計画の概要』

(3) わが国経済を支える都市機能の維持・向上に向けて

同計画の重点目標Ⅱ「強靱な国土が支える持続的で力強い経済社会」が掲げられ、また、「我が国経済は、過去30年続いたデフレ経済から成長型経済に移行する転換点にある。人口減少、とりわけ生産年齢人口が減少する中で、生産性を高め、持続的に成長する力強い経済を実現するために、経済活動の基盤となる社会資本整備を進めなければならない。」と、経済運営の基盤として強靱な国土の重要性に言及している。

経済活動の基盤という観点から、とりわけ都市機能の維持と、災害が生じても被害を抑制し経済活動を止めない都市のあり方が求められる。中でも、水災害は特定の地域に面的に被害を及ぼし、地域経済の停滞と空洞化といった中長期的なダメージにつながる。

この観点から、近年多発する都市型洪水の抑制は、防災・減災及び国土強靱化を進める上で不可欠であり、そのためには、下水道等の基幹インフラの整備に加え、雨水の流出を抑制する取組を適切に組み合わせていくことが求められる。

また、こうした取組は、重点目標Ⅱに加え、重点目標Ⅲのうち「自然共生社会の実現」とも関係する。すなわち、自然が有する貯留、浸透、遊水等の機能を活用し、災害リスクの低減と防災効果の向上を図るという考え方である。以下では、このような問題意識の下、都市型洪水の抑制に向けた具体的な方策について述べる。

2. 水災害対策に関する現状と課題

(1) 都市型洪水

気候変動の進行、ヒートアイランド現象の影響で、短時間の局地的な大雨(ゲリラ豪雨)が増加している。気象庁によれば、統計期間の最初の10年(1976年~1985年)と最近10年間(2016年~2025年)を比較すると、1時間降雨量50mm以上の平均年間発生回数は1.5倍(約226回)に増加している。1976年~1985年は数多くのインフラが建設された時期であるが、その時点での想定を上回る降雨量が生じている可能性がある。将来推計では、気候変動の進行に伴い、1時間降雨量50mm以上の年間発生回数が、2℃上昇シナリオ(RCP2.6)で約1.8倍、4℃上昇シナリオ(RCP8.5)では約3倍に増加するとされている。短時間強雨がさらに増加することを見据えた対策が必要である。

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