レポート/資料

内閣府による首都直下地震の被害想定(2025年12月19日公表)【RMFOCUS 第98号】

[このレポートを書いたコンサルタント]

鈴木 恭平
会社名
MS&ADインターリスク総研株式会社
部署名
リスクマネジメント第一部
リスクエンジニアリング第二グループ
執筆者名
グループ長 鈴木 恭平 Kyohei Suzuki

2026.7.1

要旨
  • 2025年12月に内閣府から首都直下地震に関する新たな被害想定が公表された。
  • 前回被害想定(2013年)から約10年ぶりの見直しであり、10年間の各種研究成果を踏まえた震度・津波の再評価が行われている。さらに、10年間の防災対策取り組みを反映した建物被害・人的被害等の推計が行われている。
  • 本レポートでは、前回(2013年)からの変更点、震度・津波評価の内容および想定される被害の具体的様相について解説する。

1. 首都直下地震の被害想定の変遷

政府による首都直下地震の被害想定は、過去の震災の教訓やその時々の最新の科学的知見を反映して改定が重ねられてきた。最初の体系的な被害想定は2005年(平成17年)に中央防災会議によって公表されたが※1)、その後、2011年東北地方太平洋沖地震の被災経験を踏まえて、2013年(平成25年)に抜本的な見直し※2)が行われた。2013年の想定では、2005年の想定で検討対象に含まれていなかった関東大地震クラスの地震を検討すべきとされ、2013年時点の最新の科学的知見に基づき地震の規模、揺れ、津波等の見直しが行われていた。

今回の2025年(令和7年)の見直し※3)は、前回の想定から約10年が経過し、政府の「首都直下地震緊急対策推進基本計画」策定から10年の節目を迎えたことを契機に実施されたものである。この間の地震学の進歩に加え、建物の耐震化や不燃化といったハード対策の進捗、さらには高齢化の進行や単身世帯の増加、デジタル社会への移行といった社会構造の大きな変化を反映し、最新の知見に基づく被害の再評価を行うことを目的としている。

2. 前回被害想定からの主な変更点

今回の被害想定見直しにおける主な変更点として、震源モデルの更新、震度分布の再評価、津波浸水深の再評価が挙げられる。以下では各項目の内容を概説する。

(1) 震源モデルの更新

本被害想定で検討対象とされた地震の一覧を図1および図2に示す。検討対象の地震は発生確率が比較的高いとされるマグニチュード(M)7クラスの地震と、発生確率は低いものの大きな被害が想定されるM8クラスの地震に大別される。

M7クラスの地震に関する2013年想定からの変更点は大きく2点あり、1点目は関東平野北西縁断層帯の扱い、2点目はさいたま直下地震の扱いである。関東平野北西縁断層帯については、2013年想定時には一つの震源として扱われていたが、2015年公表の地震調査研究推進本部による活断層研究の成果を反映す べく、深谷断層帯および綾瀬川断層の二つの別の震源として評価を行うように変更となっている。さいたま直下地震については、2013年想定時には事前に発生場所を特定できない地震の一つとしてさいたま市直下の浅い位置に想定される震源として評価されていたが、前述の関東平野北西縁断層帯の評価見直 しにより、さいたま市付近に位置するより規模の大きい地震として綾瀬川断層を評価することとなったため、さいたま直下地震としての評価は行わないこととされた。以上の変更点により、M7クラスの震源としては、事前に発生場所を特定しにくい地震として11地震および活断層など事前に発生場所を特定できる地震として8地震の合計19地震が想定地震として選定されている。

M8クラスの地震については、2013年想定時と同様に相模トラフ沿いおよび日本海溝沿いの5地震が検討対象とされているが、このうち大正関東地震タイプの地震については、震源モデルの大きな見直しが行われている。2013年想定時の震源モデルでは、埼玉県内の震度分布を再現するために東京湾北部のフィ リピン海プレート上面に「強震動生成域」と呼ばれる強い揺れを出す領域を設定していたが、この設定では震源に近い東京都心周辺の震度が過大に計算されてしまうという課題が残されていた。そこで今回の被害想定では、墓石の転倒状況などの被害データに関する分析結果をもとに東京湾北部の強震動生成域を削除し、その代わり、震源から離れた場所であっても厚い堆積層を伝わることで揺れが増幅され減衰しにくい「表面波」の影響を考慮した計算式を新たに導入することで、埼玉県での震度分布を再現しつつ、東京都心部の揺れを当時の実態により即した適正なレベルへと修正する震源モデルを設定している。

【図1】被害想定で検討対象とされた地震

【図1】被害想定で検討対象とされた地震
内閣府※4)に一部加筆

【図2】検討対象地震

【図2】検討対象地震
【図2】検討対象地震

内閣府※5)より引用

(2) 震度分布の再評価

震度分布の評価については、前述の震源モデルの見直しに加え、震度評価手法の見直しも反映されている。主に地盤モデルの改良および遠距離における揺れの大きさの評価手法の更新が行われており、これらは2025年3月に公表された南海トラフ地震の被害想定見直し※6)において採用された手法と同様のものである。

図3に、都心南部直下地震における震度分布について、2013年想定および2025年想定の震度分布図を比較して示す。震源モデルは2013年想定時から変更がないことから、震度分布に大きな変化は認められないものの、局所的には地盤モデルの変更等の影響による震度の増減が見られる。

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