水害リスクを居住地選択に織り込む制度設計 ~国土強靱化における「自助」の実践と地域防災力の強化に向けて~【政策提言レポート(2026年8月)】
[このレポートを書いた研究員]
- 会社名
- MS&ADインターリスク総研株式会社
- 部署名
- 基礎研究部
- 執筆者名
- 上席研究員 笹森 愛美
2026.8.12
- 気候変動の進行に伴い、水害は激甚化・頻発化する中、洪水浸水想定区域に暮らす人は増加傾向にある。国土強靱化基本計画は、地域防災力の強化を掲げ、また、「自助」の実践を重視しているが、現在の公的な支援制度は、水害リスクを十分に配慮したものとなっておらず、安全な居住地の選択を促すものとなっていない。
- その課題の解消に向けて、土地や住宅の購入、改修、賃貸、売却等に関連する公的支援制度を再構築するとともに、民間事業者との連携を活用した情報提供、および住民の行動変容の促進、官民データ連携によるリスク評価手法の高度化を一体的に推し進めることを提案する。
- 具体的には、国土交通省が定める洪水浸水想定区域図(L2)および家屋倒壊等氾濫想定区域に連動して住宅ローン控除等の適用対象を定めること、高リスク地域からの住み替えを不動産取得税・登録免許税の特例等で支援すること、低リスク地域の土地や建物への固定資産税の引き下げ等の税制上のサポート、低リスク地域の土地や建物の取引を促進する仲介手数料の補助等、制度見直しに向けた検討が必要である。また、国民に対して的確なメッセージを出すために、政府が主導して、住宅販売や仲介に関係する不動産仲介業者や金融機関等による情報伝達ガイドラインの策定等も有効である。
- 現在、自然災害に起因する経済的な損失(行政や損害保険のコスト)は社会全体で分担して負担しているが、財政や保険の持続可能性が懸念される中、これらコストの負担のあり方を検討しつつ、限られたリソースをハード・ソフト両面で被害そのものを抑制する政策に振り向けていくことが不可欠である。
1.本政策提言レポートの背景
国土強靱化政策では、地域防災力の強化に向け、住民一人一人の自助が重視されている。一方、水害による家屋被害が深刻化する中、洪水浸水想定区域内※1の居住人口は増加の一途をたどっている。その人口は1995年から2015年の20年間で約149万人増加した。本項では、本提言レポートの背景として、国土強靱化政策における「地域防災力」と「自助」の重要性、水害リスクの実態と洪水浸水想定区域内の居住状況、および水害リスク情報の整備状況について説明する。
(1)国土強靱化政策における「地域防災力」と「自助」の重要性
令和5年の国土強靱化基本計画は、新たな施策の柱として「地域における防災力の一層の強化」を掲げ、地方創生や国土政策と一体で進める方向を示している。
同計画では、地域防災力の向上を図るにあたり、防災施設の強化や地域コミュニティの結束等の公助・共助だけでなく、住民一人一人が災害リスクを適切に認識し、自律的に備えや避難行動をとる「自助」が重要であるとしている。
自助には、非常用品の備蓄や、個人の避難計画の作成等、状況に応じて継続的に見直すことができる取組みも多い。一方、住宅取得や住み替えは、災害リスクを踏まえて居住地を見直す数少ない機会であり、一度選択すると、その影響は長期間にわたり次世代まで及ぶ可能性がある。そのため、居住地選択は、自助の中でも極めて重要な意思決定の一つと位置付けられる。
この点を踏まえると、平時から災害リスクを考慮した居住地選択を促すことが、住民一人一人の自助を後押しし、ひいては地域防災力の強化に寄与するものと考えられる。
(2)水害リスクの実態と洪水浸水想定区域内の居住状況
気候変動に伴い、水害の誘因となる強雨の発生頻度が増加している。全国のアメダス観測によれば、大雨の年間発生回数は上昇傾向にあり、特に降雨強度が高いほど増加率は著しい【図表1】。1時間降水量100mm以上といった極端な大雨の発生回数は、統計期間当初の10年間と比べて約2倍に増えている※2。
河川堤防や排水施設は、100年から200年に1度の規模の降雨を想定して整備されてきたが、近年は想定を超える降雨が全国各地で相次いでいることから、家屋の被害額を5年単位で集計すると、15年間で約3倍に増加している※3【図表2】。
【図表1】降雨の強度別・年間発生回数の推移
【図表2】水害による家屋被害額の推移(全国計)
出典:【図表1】は気象庁「大雨や猛暑日など(極端現象)のこれまでの変化」の数値データをもとに筆者作成。気象庁の予報用語では1時間雨量50㎜以上80㎜未満を「非常に激しい雨」、80㎜以上を「猛烈な雨」という。【図表2】は国土交通省「水害統計調査」をもとに筆者作成。
水害の主な要因は、下水道等の排水能力を超えて浸水する「内水氾濫」と、河川の越水や破堤等による「外水氾濫」に大別される。1993年から2018年までの26年間の水害統計によると、被災した家屋は全国で約100万棟にのぼる。このうち棟数の約6割を占めるのは内水氾濫によるものだが、被害の多くは床下浸水にとどまる。一方、外水氾濫では、床上100cm以上の浸水や半壊、全壊・流失に至る家屋の割合が多い【図表3(左)】。そのため、【図表3(右)】が示すとおり、棟数に比して被害額に占める割合は外水氾濫の方が大きい。
また、外水氾濫による被害には地域的な偏りがみられる。同期間に外水氾濫により被災した家屋は約32万棟にのぼるが、その半数は、水害を経験した自治体の上位4.1%に当たる37自治体に集中していた。他方、浸水想定区域を有する1,186自治体のうち、約4分の1に当たる284自治体では、同期間に外水氾濫による水害が発生していない※4。浸水した住宅の復旧に要する費用は、新築工事費用に対して、床下浸水であれば約1%にとどまるのに対し、床上浸水では30〜50%、1階の天井を超える浸水(概ね浸水深3m以上)では50〜80%に達するとされ、浸水が深くなるほど復旧の負担は急激に大きくなる※5。
【図表3】水害原因別にみた被災家屋棟数と一般資産被害額(1993~2018年の水害統計/全国計)
出典:中野卓・木内望「水害統計調査基本表に基づく河川水害による建物・市街地被害の傾向」都市計画報告集 No.19、(2020年)表2より筆者作成。本図は水害原因別・浸水程度別の被害構造を示すことを目的とした。同論文の著者は、2019年(令和元年東日本台風等により全国の水害被害額が統計開始以来最大の約2兆1,500億円を記録)を集計に含めた場合、本報告と異なる傾向も一部見られる可能性があり、継続的な検証が重要であると指摘している。なお、被害額の直近の水準は【図表2】(2009~2023年)に示している。
このように外水氾濫による深刻な家屋被害が生じうる一方で、外水氾濫が発生しやすいとされる洪水浸水想定区域内に居住する人口は増加してきた【図表4】。2015年時点では、わが国の人口の約4分の1にあたる3,540万人が計画規模の洪水浸水想定区域内で生活している実態にある。総人口が減少に転じた後も、区域内人口の増加傾向は続いており、背景には、区域内での宅地化や都市部への人口流入等が指摘されている※6。
【図表4】洪水浸水想定区域の内外における人口推移(1995年の人口を100とした指数)

出典:秦康範・前田真孝「全国ならびに都道府県別の洪水浸水想定区域の人口の推移」災害情報第18巻1号(2020年)をもとに筆者作成。区域は計画規模(L1)に基づく。なお、都市計画区分に着目した後続研究(小林ほか、2025年)においても、2020年までの浸水想定区域内人口の増加傾向が確認されている。
(3)水害リスク情報の整備状況
わが国では全国的に利用可能な水害リスク情報として、洪水浸水想定区域図が整備されている。計画規模(以下、「L1」)と、想定最大規模(以下、「L2」)の二種類があり、L1は主に堤防やダム等のハード対策を計画する際の基本となる降雨量を指し、L2は想定しうる最大規模の降雨量を指す。2015年の水防法※7改正以降、L2には浸水深、浸水継続時間、家屋倒壊等氾濫想定区域等の水害リスクを示す情報が順次整備・公表されている※8。
洪水浸水想定区域をはじめとする水害リスクの法定区域およびマップの種類、管轄(準拠法)、主な利用場面等については、【図表5】のとおりである。
洪水ハザードマップは、国や都道府県が公表する洪水浸水想定区域図をもとに、市町村が避難場所や避難経路等の情報を加えて作成するものである。平成30年7月豪雨では岡山県倉敷市真備町※9、令和元年東日本台風では福島県・長野県等※10、令和2年7月豪雨では熊本県人吉市※11において、実際の浸水範囲・浸水深はハザードマップの想定とおおむね一致したことが報告されている。これらの事例は、洪水浸水想定区域図が、現実に生じる浸水の範囲を一定程度とらえていることを示しており、本提言において住宅政策の共通基準として活用することにも一定の合理性があると考えられる。
| 種類 | 管轄(準拠法) | 【対象とする水害リスク】主な利用場面 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 洪水浸水想定区域 (計画規模/L1) |
国土交通省・ 都道府県(水防法) |
【外水氾濫リスク】河川整備の目標とする降雨(概ね30年~200年に1度)を前提とし、河川ごとに定められている。浸水深別に色分け表示され、重ねるハザードマップで確認できる。 | 河川ごとに前提となる降雨規模が異なるため、全国共通の判断軸には適さない。 |
| 洪水浸水想定区域 (想定最大規模/L2) |
国土交通省・ 都道府県(水防法) |
【外水氾濫リスク】想定最大規模の降雨(概ね1,000年に1度)を前提とする。中小河川も含む全国20,819河川のすべてで指定済み。同一の考え方で作成される。浸水深別に色分け表示され、重ねるハザードマップで確認できる。 | 全国共通の基準であり、提言の判断軸として利用可。 |
| 家屋倒壊等氾濫想定区域 | 国土交通省・ 都道府県(水防法) |
【外水氾濫リスク】想定最大規模の降雨で、氾濫流や河岸侵食により家屋が倒壊・流出するおそれがある区域。命に関わる区域であり、屋内での垂直避難の適否の判断に用いられる。浸水深だけではとらえきれない危険を示す。重ねるハザードマップで確認できる。 | 浸水深ではとらえきれない危険を補う、全国共通の基準であり、提言の判断軸として利用可。 |
| 浸水被害防止区域 | 都道府県 (特定都市河川浸水被害対策法) |
【外水・内水氾濫リスク】生命・身体に著しい危害が生ずるおそれがあるとして指定される規制区域。特定都市河川の流域に限られ、対象範囲が非常に狭い。洪水浸水想定区域の大半は対象外であり、全国を通じて一覧できる形では提供されていない。 | 指定がほとんど進んでおらず、全国共通の基準にならないため、判断軸として適さない。 |
| 水害リスクマップ (多段階浸水想定図) |
国土交通省・ 都道府県(法令に基づく指定ではない) |
【外水氾濫リスク】発生頻度ごとの浸水範囲と浸水深を段階的に示す地図。10年、30年、50年、100年に1度の降雨規模別に整備が進められている。水防法に基づく指定ではなく、流域治水の取組みとして作成・公表されている。国土交通省の水害リスクマップ一覧等のウェブサイトで、河川ごとに公表。 | 中長期の判断軸として、今後、頻度を織り込んだ評価への発展が期待される。 |
| 洪水ハザードマップ | 市町村 (水防法) |
【外水・内水氾濫リスク】洪水浸水想定区域をもとに、市町村が避難場所や避難経路等を加えて作成。外水氾濫についての公表率は約99%(中小河川は約68%)である一方、内水氾濫については約17%にとどまる※12。 | 住民自らが住まいのリスクを確認する手段として位置付けられる。 |
出典:水防法、特定都市河川浸水被害対策法および国土交通省「洪水浸水想定区域の指定と洪水・高潮・内水ハザードマップの公表状況」(令和8年3月末時点)等をもとに筆者作成。「本提言での位置付け」は筆者の整理による。このほか、内水(雨水出水浸水想定区域)、高潮(高潮浸水想定区域)、津波(津波浸水想定)についても法令に基づく区域が定められているが、本提言では外水氾濫を主に扱うため本表には含めていない。
2.居住地選択を取り巻く現状と課題
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前項のとおり、洪水浸水想定区域と被害地域とは密接に関連しており、居住地選択にあたっては水害リスクを考慮する必要がある。しかし、現状は、市場機能、公的支援制度、情報提供のいずれにおいても、実際の居住地選択に水害リスクが十分に反映されているとはいえない。本項では、それぞれの現状を整理し、安全な居住地選択につながりにくい要因を説明する。
(1)市場機能と個人の判断に委ねることの限界
居住地選定の際に重視される要素については、利便性、治安等とともにその土地の価格が重要な要素の一つと考えられるが、水害リスクは地価に一定程度反映されるものの、個人が取引する住宅地では、その影響は限定的とされる。想定浸水深が1m上昇した場合の地価下落率は、住宅地で平均約1.1%、商業地で約4.7%にとどまる※13。また、個人が住宅取得時に水害リスクを評価し、長期的な影響まで踏まえて判断することは容易ではない。加えて、国土交通政策研究所による調査によると、居住地選定において「水災害・津波の受けにくさ」を重視する割合は限定的であり、選択を左右する主要な要素とはなっていない※14。住宅取得後は転居のハードルが高く、災害リスクを認識しても行動に移る人は少ない。
一方、保険制度では水災リスクを反映した見直しが進められている。わが国の個人火災保険においては、火災、落雷、爆発・破裂の基本補償に加えて、台風、豪雪、洪水等に起因する損害の補償を提供している。損害保険料率算出機構が定める参考純率に関しては、従来、水災リスクについて、全国一律の保険料率が適用されてきた。しかし、近年頻発する水害による被害増大を受け、水災リスク実態に即した保険料率構造の見直しが求められ、保険負担の公平性確保の観点も踏まえ、2023年6月より全国を五つの区分に細分化し、市区町村単位で水災料率が設定されるに至った。
この水災リスクに応じたリスク細分型保険料率制度は、保険料の適正なリスク反映および契約者のリスク認識の醸成という観点から一定の意義を有している。しかし、高リスク地域における保険加入率の低下や、社会的公正の観点からの懸念も指摘されたため、最もリスクの低い「1等地」と最もリスクの高い「5等地」との間では、火災・風災・雪災・水災等を合わせた保険料全体で、おおよそ1.2倍程度の較差にとどまる結果となった※15。今後も被害の高止まりが継続した場合には、全国一律に水災リスク料率の引き上げ、または高リスク地域における水災料率の大幅な増加といった措置が検討される可能性があるが、いずれの対応においても、火災保険料の総体的な増加による社会的コストの増大が懸念される状況にある。
(2)公的支援への水害リスク反映不足
わが国には集団移転を要件とする移転促進事業はあるものの、平時に個人が水害リスクの低い場所へ住み替えることを支える仕組みは限定的である。海外の例を挙げると、米国には洪水危険地域に住む人が希望した場合に、政府が住宅を買い取る制度がある。しかし、申請には長い期間を要するほか、移転先の安全性を問わずに支援した結果、再び危険な場所へ移る世帯も生じたとされる※16。わが国ではこれまで、住宅取得や住み替えを支える税制、融資、補助制度を整備してきた。しかし、水害リスクの反映は一部の制度や法定区域に限られており、安全な居住地選択を広く後押しするのに十分な仕組みとはなっていない【図表6】。
その一方で、自治体が条例に基づき危険区域を指定し、建築を制限する取組みも進められている。滋賀県では、浸水深3m以上となる区域等を浸水警戒区域に指定し、想定水位以上に避難できる空間の確保を建築要件としている※17。指定区域では安全性を確保する仕組みとして機能しているが、2014年の条例施行以降の指定は県内6市20件にとどまっている※18。県の審議会部会は、住民合意や手続きに時間を要することから、指定が及ばない区域では安全性の確認を経ない住宅建築が行われていると指摘し、手続きの効率化を提言している※19。このように、区域指定を前提とした建築規制は指定区域では有効であるものの、面的に広がる水害リスクへ迅速かつ広域に対応するには限界がある。
| 制度 | 管轄 | 制度の概要 | 水害リスク反映状況(制度改正のハードル) |
|---|---|---|---|
| 住宅ローン控除 (住宅借入金等特別控除) |
財務省・国税庁 | 住宅ローンを組んで住宅を取得した人の所得税等を、年末残高に応じ一定期間控除する。 | 2028年入居分から、災害レッドゾーン(浸水被害防止区域等)の新築のみ控除対象外となるが、当該区域はほとんど指定されていない。 (税制改正事項であり、控除対象は法定区域に基づく必要がある) |
| フラット35 | 住宅金融支援機構(国土交通省・財務省所管の独立行政法人) | 長期固定金利の住宅ローン。政策目的に沿う住宅の金利を引き下げる。 | 金利引き下げの対象外となる立地要件は土砂災害系のみで、洪水浸水想定区域の水害は、いずれのメニューでも対象外。 (商品要件の見直しを要する) |
| みらいエコ住宅 2026事業 |
国土交通省・経済産業省・環境省 | 省エネ性能の高い住宅の新築・リフォームに補助する。(省エネ・脱炭素を目的とする大型の支援) | 市街化調整区域の浸水深3m以上の区域等を補助対象から除外(L2)。ただし除外対象は都道府県管理河川に係る区域に限られ、市街地の大半には及ばない。 (交付要綱の改正を要する) |
| 移住支援金 | 内閣府 | 東京圏から地方へ移住し就業等をする人に、世帯最大100万円等を交付する。 | 移住先が洪水浸水想定区域かどうかを問わない。 (交付要綱の改正を要する) |
| 不動産取得税・ 登録免許税の特例 | 総務省・都道府県(不動産取得税)/財務省・法務省(登録免許税) | 住宅の取得・移転にかかる税負担を軽減する。 | ハザードエリアから安全な区域へ移る取得には軽減があるが、市町村が防災移転支援計画を策定した場合に限られる。(税制改正事項であり、地方税と国税にまたがる) |
出典:各制度の公表資料をもとに筆者作成(2026年7月時点)。住宅ローン控除の立地要件は令和8年度税制改正による。なお、宅地建物取引業者が中古住宅を改修して再販する場合の特例措置等、中古住宅の流通に関わる制度は本表に含めていない。
(3)水害リスク情報と居住地選択の乖離
国や自治体による洪水浸水想定区域やハザードマップの公表に加え、2020年からは不動産取引時の重要事項説明において水害ハザードマップ※20上の物件の位置を示すことが義務付けられた。しかしながら、住宅購入者への調査では、居住地の選択において重視される項目として、価格や利便性が上位を占める一方で、重要事項説明について説明を受けたことを覚えていない、または気に留めなかったとする回答が3割を超えている※21【図表7】。
例えば土砂災害に関しては、土砂災害特別警戒区域の指定を通じて、開発や建築行為を規制し、「危険な場所に建てさせない」制度的枠組みが整備されてきた一方で、水害対策においては、リスク区域を明示し、「リスクを周知すること」に主眼が置かれてきた。リスク情報の提供を人々の具体的な行動変容に結び付ける制度的仕組みには、依然として課題が残されている。
【図表7】住宅購入時における水災害リスクの確認状況と居住地選択への影響度
出典:国土交通政策研究所紀要 第83号(2025年)図15・表8をもとに筆者作成。5都市(川崎市、静岡市、岡山市、倉敷市、広島市)において2015年以降に戸建て住宅を購入した1,142人への調査(2025年1月実施)。棒グラフは17項目中の順位で、「大いに重視」「やや重視」と回答した割合。なお、左図と右図は設問および回答者の母数が異なる。
3.居住地選択に水害リスクを織り込む制度設計
こうした居住地選択をめぐる課題は、特に地方都市においては、人口減少の加速とともに、空き家の増加やインフラ設備の老朽化等、都市の持続可能性を脅かす課題とも密接に関係している※22。このような観点も踏まえると、人々の安全な居住地選択を促す仕組みづくりは、地域防災のみならず、都市の持続可能性の向上にも資する。本項では、前項で提示した課題への具体的な対応策として、水害リスクを踏まえた居住地選択を促す制度・施策の再構築、民間事業者と連携した情報提供と住民の行動変容の促進、官民データ連携を活用した水害リスク評価手法の高度化の三つを一体的に展開することを提案する。
(1)水害リスクを踏まえた居住地選択を促す制度・施策の再構築
前掲【図表6】で示した居住地選択に関わる公的支援制度等において、水害リスクの実態をより適切に反映させることで、リスクの低い地域での住宅取得や住み替えを促進する効果が期待できる。これは、全国共通の水害リスクに関する基準を用いて支援の優先順位を見直すことにより実現可能と考えられる※23。
具体的には、「L2における浸水深3m以上の区域」および「家屋倒壊等氾濫想定区域」を共通基準とし、これらの区域への新たな居住には公的支援を重点化しない一方、リスクの低い場所への住み替えを希望する場合には支援を重点化することを提案する。L2における浸水深3m以上の基準は、人命へのリスクが大きい上、既存制度でも適用されている共通指標であるため、支援優先順位の基準として妥当と考えられる※24。
省エネ分野ではすでに支援制度の転換が始まっており、政府は住宅ローン控除において、省エネ基準に適合しない新築住宅を控除の対象から外した。「望ましい選択を後押しし、そうでない選択への支援を控える」という考え方が、税制に組み込まれており、一定の成果が得られている※25。詳細な制度設計は各所管省庁に委ねられるが、同様の考え方は防災の分野にも当てはまるものと考える。
公的支援制度等については、住宅の取得、住み替え、改修等、居住に関わる様々なライフステージに応じて、多角的な政策的介入が想定される。主要な施策の方向性については、関係主体および実施タイミングの観点から整理したものを【図表8-1】に示す。さらに、水害リスクの高低に応じた居住地ごとの税制上の差別化措置については、「固定資産税」「相続税」「贈与税」等税目ごとに整理した施策例を【図表8-2】に示している。現時点において、これらの施策を具体的に実現するためには、制度設計や運用面等における課題が多く、乗り越えるべきハードルは高い。しかしながら、今後の住宅政策において、あらゆる角度からの検討を行うことは極めて重要であると考えられる。
| 主体 | タイミング | 人々の安全な居住選択を後押しするための施策(案) |
|---|---|---|
| 住民 | 住宅購入 | 高リスク区域への新規居住には住宅ローン控除・フラット35等を適用除外※ |
| 住み替え | 高リスク区域からの住み替えを、不動産取得税・登録免許税等の特例で重点的に支援※ | |
| 改修 | 耐水化改修を、耐震・省エネ改修と同様に固定資産税減の対象に追加 | |
| 売却 | 低リスク区域の住居売却における譲渡所得税の特例の拡大 | |
| 賃貸 | 低リスク区域の公営住宅、UR賃貸等で安全地域の新規入居者への家賃補助<新設> | |
| 不動産会社 | 販売・仲介 | 低リスク区域住宅の仲介報酬への補助金支払い<新設> |
| 賃貸 | 貸主の耐水化改修を固定資産税減の対象に追加 | |
| 建設会社 | 施工 | 低リスク区域での住宅建築・耐水化改修にかかる建設費用(下請け含む)の補助<新設> |
| 保険会社 | 契約 | 水災リスク(立地等)に応じた水災料率の適正化(さらなる細分化)、保険料率の較差の拡大 低リスク区域における水災補償付き火災保険の料率引き下げ |
出典:既存制度に関しては各制度の公表資料をもとに筆者考案。※は【図表6】で対象としたもの。本表は現時点での検討の方向性を示すものであり、対応する法的枠組み・実現可能性・財源の精査は今後の課題である。詳細は、前掲【図表6】の「住宅ローン控除」、「フラット35」、「みらいエコ住宅2026事業」を参照願う。また※以外は、新たな財源も必要となると考えられる(保険会社の料率を除く)。
| 固定資産税 | 相続税 | 贈与税 | |
|---|---|---|---|
| 施 策 案 |
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| 実 現 性 |
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| 主 な 課 題 |
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出典:各種公表資料をもとに筆者考案(2026年7月時点)。なお、本表は今後の検討材料として整理したものであり、本提言が直ちに提案するものではない。また、固定資産税評価額および路線価は、いずれも地価に連動して定められるため、水害リスクが地価に反映される限り、税負担額についても既に間接的に差が生じている点に留意が必要である。
もっとも、生活基盤や資力、高齢・介護等の事情から、すべての人が住み替え可能ではないことから、公的支援は居住地の安全性向上のみならず、既存住宅の耐水化も対象とする必要がある。支援に際しては、想定浸水深や家屋倒壊等氾濫想定区域への該当状況、過去の浸水実績や要配慮者の居住状況等を踏まえ、人命影響の大きい住宅を優先とすることが望ましい。
宮城県大崎市では、浸水深3m超の区域を対象に、想定水位より上に居室を確保することを条件として宅地かさ上げを支援している※26。今後は、立地とリスク特性に応じた住宅の備えを支援制度の対象としていくことが求められる。具体的には、既存住宅においては省エネ改修や中古住宅取得後のリフォーム等、防災以外を目的とした改修の機会が数多く存在する。これらの機会を積極的に活用し、現行の住宅改修支援制度に止水板・止水設備の設置※27、設備機器の高所化、宅地・基礎のかさ上げ、避難空間の確保等の耐水化対策を組み込むことも検討に値する。耐水化対策の具体的内容は、想定浸水深等のリスクレベルに応じて柔軟に設定すべきであり【図表9】、特に高リスク地域においては住宅本体のみで被害を防ぐことが難しいため、被害の軽減と早期復旧を可能とする措置を基本に据えるべきである。
| 想定浸水深 | 基本的な考え方 | 主な支援・耐水化対策の例 |
|---|---|---|
| 3m以上、または 家屋倒壊等氾濫想定区域 |
人命確保を最優先とし、より安全な場所への住み替えを基本とする |
|
| 0.5~3m | 住み続けることを前提に、被害軽減・早期復旧を図る |
|
| 0.5m未満 | 浸水の防止を基本とする |
|
出典:国土交通省「洪水浸水想定区域図作成マニュアル」、同「治水経済調査マニュアル(案)」および住宅生産団体連合会「住宅における浸水対策の設計の手引き」をもとに筆者作成。浸水深3mは、想定最大規模の浸水深において一般的な家屋の1階天井付近(2階床面)に相当する区分である。
(2)民間事業者との連携を活用した情報提供と住民の行動変容の促進
公的支援の対象となる区域であっても、比較的軽度な被害は発生しうるため、住民一人一人が居住地のリスクを理解し、自ら備えることが重要である。住宅の取得や住み替えの前後には、不動産事業者、金融機関、保険会社等との接点が集中的に生じる。住まいに関する意思決定が実際に行われるこれらの場面で、適切な情報を提供することは、関心が高い時点で判断材料を示すこととなり、それ自体が行動変容を促す有効な手法と考えられる。
行動科学の知見によれば、リスク情報は、①過去に実際に起きた出来事を示すこと、②他の選択肢と比較できる形で提示すること、③判断直前のタイミングで提供することが、行動変容につながりやすいとされる※28。
こうした考え方は、民間事業者との接点を活用した情報提供の手法に応用できる。例えば、住宅情報を紹介する際、当該地域の被災実績や建物の耐水性能を伝える、同条件の物件と浸水深を比較して提示する、火災保険の契約更新時に耐水化や公的支援制度等をあわせて案内する、リフォームの見積時に耐水施工した場合の費用も併記すること等が考えられる。これらは、単に水害リスクを伝えるだけでなく、適切な判断を後押しする例である【図表10】。
一方、売主・貸主との関係性を踏まえると、事業者が自主的にリスク情報を継続的かつ統一的に提供することには限界があり、個社の判断に委ねた場合には、十分な情報提供を行う事業者ほど競争上不利になる可能性もある。同様の課題に対しては、国土交通省が「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を策定し、宅地建物取引業者が判断に迷うことなく適切な情報提供を行える環境を整備した先例がある※29。
そこで、政府は民間事業者が提供すべき水害リスク情報、提供のタイミング、行動科学(ナッジ等)を活用した伝え方を整理したガイドラインを策定することを提案する。業界共通の枠組みとすることで、リスク情報の提供が個社の善意に依存するのではなく、住宅取引等における標準的な実務として定着し、安全な居住地選択を社会全体で後押しすることが期待される。
| 主体 | 現状の主たる 説明資料 |
現状の主たる 説明方法 |
現行法規制・ ルール |
行動科学に基づく アプローチ(案) |
|---|---|---|---|---|
| 金融機関 (住宅ローン) |
|
契約時の対面/非対面での説明 | 金融サービス提供法:努力義務(法的義務は明確でない) |
|
| 不動産会社 |
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書面+口頭説明 | 宅地建物取引業法により2020年8月より義務化 |
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| 保険会社 (保険代理店) |
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保険内容説明時に洪水リスクを提示 | 保険業法(適合性の原則)により、契約者の属性・状況に応じた補償内容説明義務 |
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(3)官民データ連携による水害リスク評価手法の高度化
現時点では、L2は全国的に利用可能な水害リスク情報の中で、最も活用可能性が高いとされている。一方で、L2は想定最大規模の降雨を基礎とした外水氾濫をとらえているため、災害発生頻度や内水氾濫等、地域特有のリスクを十分に反映しているとはいえない。将来的には、発生頻度、浸水継続時間、内水氾濫、および過去の浸水実績等の指標を総合的に組み合わせることで、個々の土地や住宅のリスクをより的確に評価しうる手法へと発展させていく必要がある。
現状、わが国においては多段階浸水想定図や水害リスクマップの整備が進められているが、今後はこれらを基盤としつつ、発生頻度や内水氾濫リスク等実際の状況に即した評価手法へと進化させ、公的支援の判断にも活用可能な全国共通の基準として制度的に位置付けることを提案する。
また、水害リスクは気候変動の進行や都市開発等の進展により、時間の経過とともに変化しうる性質を有するため、想定と実際の被害に乖離が生じていないかについて、継続的な検証が不可欠である。今後は、防災デジタルプラットフォームやデータ連携基盤等※30を通じて、自治体が保有する浸水実績に加えて、防災分野での応用を見据えて収集された損害保険会社による保険金支払データ等を統合的に照合・分析することで、水害リスク評価の高度化・精度化を図ることが望ましい。
なお、民間データについては支援対象を直接決定するものではなく、政府がその妥当性を確認した上で、公式地図や評価基準へ反映することで、リスク評価の継続的な高度化を推進する必要がある。さらに、住宅購入者等が耐水性能を容易に比較できるよう、耐浸水性能指標※31を住宅性能表示等へ反映し、居住地選択時に積極的に活用できる環境を整備することも重要である。
4.おわりに
水害に強い「まち」の形成は、地域に暮らす人々の居住地選択に大きく支えられている。人々がどこに住み、いかにして地域を維持していくかという問いは、防災と密接に関わる根本的な課題である。ハザードマップ等により、水害リスクの可視化が進む中、被害は必ずしも「天災」の一語で片づけられるものではなく、どこに住むかという選択が被害の大きさを左右している側面もある。平時から水害リスクを踏まえた住まいの選択や、住み続ける場所での土地や建物の備え※32といった自助の積み重ねが、地域全体の被害軽減と防災力の強化へと結実する。
わが国では、水害リスクの高い地域で発生する経済的な損失は、保険制度や災害復旧・復興に係る公的負担等を通じて社会全体で分担されている。近年、水害の増加による支払保険金の増大に伴い、火災保険料率の見直しも繰り返されており、このままでは社会全体が負担するコストはさらに増大し、保険制度や公的財政の持続可能性にも影響を及ぼしかねない。こうした状況は、負担の公平性の観点から看過できない課題でもある※33。水害による社会的コストを可視化するとともに、ハード・ソフトの両面から被害そのものを減らす政策への転換が、今まさに求められている。
人口減少が進行する今日、立地適正化等を通じた都市構造の再編が求められる局面においては、個人の居住地選択段階から水害リスクを重視する視座が不可欠である。本提言は、被災後の復旧・復興に過度に依存するのではなく、平時から安全な居住地選択と住宅の備えを促すことで、社会的コストの抑制を図り、保険制度や公的財政の持続可能性向上にも資することを目指すものである。また、本提言は特定の地域からの人口流出を促すものではない。地方においても、同一の市町村内でより安全な場所を選択する余地は少なくなく、水害リスクを踏まえた居住地選択は、地方創生と両立しうるものである。
もっとも、先祖代々その地域に暮らしてきた人々や、経済的事情等から住み替えが困難な人々も少なくないことは十分に配慮すべきである。本提言は、そうした人々に対しても耐水化支援等を組み合わせることにより、社会全体の安全性を底上げすることを企図している。人口減少を迎える現代日本においては、水害リスクの視点から居住地選択を進めることが、水害に強い都市構造への転換を図る絶好の機会となりうる。
今後、制度を具現化していくにあたっては、住宅形態や居住実態の多様性を踏まえた柔軟な運用設計が求められる。本提言はまず、「水害リスクの低い居住地を選択する者に既存の公的支援を重点化する」という基本的枠組みを提示するものである。住宅取得や住み替えが日常的に行われる社会において、「水害リスクの低い居住地選択を支援する」という公的な判断軸を明らかにする意義は極めて大きい。
2026年11月の防災庁設置を見据え、居住地選択に水害リスクを的確に織り込んでいく取り組みは、個人の意思決定を起点に、防災、地方創生、住宅政策、さらには国土政策を有機的につなぐ基盤となる。新たな行政の司令塔の下、関係府省庁の緊密な連携を通じ、段階的な制度化に向けた検討が着実に進むことを期待したい。
【参考】
※イラストは生成AIにて筆者作成
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【参考文献・出典】
- 内閣官房「国土強靱化基本計画」
- 内閣官房「第1次国土強靱化実施中期計画」
- 内閣官房「国土強靱化地域計画の策定状況」
- 国土交通省「水害統計調査」
- 国土交通省「洪水浸水想定区域の指定と洪水・高潮・内水ハザードマップの公表状況(令和8年3月末時点)」
- 秦康範・前田真孝「全国ならびに都道府県別の洪水浸水想定区域の人口の推移」災害情報 第18巻1号、2020年
- 国土交通政策研究所「住宅購入者の水災害リスクに対する意識の把握―水災害リスクの認知及び対策、居住地選択等に関する調査―」国土交通政策研究所紀要 第83号、2025年
- 国土交通省(立地適正化計画と災害ハザードエリアの重複状況に関する調査)
- 中野卓・木内望「水害統計調査基本表に基づく河川水害による建物・市街地被害の傾向」都市計画報告集 No.19、2020年
- 中野卓・木内望「水害リスクを踏まえた都市づくりにおける洪水浸水想定区域の活用可能性と課題」都市計画論文集 Vol.55 No.3、2020年
- 小出桂靖・西崎健司「水害リスクが地価に及ぼす影響」日本銀行ワーキングペーパーシリーズ、2022年
- 小林孝・片山茜ほか「洪水浸水想定区域内人口増減の全国的な定量分析」都市計画論文集第60巻3号、2025年
- 気象庁「大雨や猛暑日等(極端現象)のこれまでの変化」
- 内閣府「平成30年7月豪雨を踏まえた水害・土砂災害からの避難のあり方について(報告)【参考資料】」2018年12月
- 防災科学技術研究所「令和2年7月豪雨による熊本県人吉市及び球磨村渡地区の洪水被害の特徴」2020年
- 日本地理学会「令和元年台風19号による災害」緊急報告会資料、2019年12月
- 水防法/特定都市河川浸水被害対策法/建築基準法/都市再生特別措置法
- 都市計画法
- 建築物省エネ法
- 国土交通省「洪水浸水想定区域図作成マニュアル」
- 財務省・国税庁(住宅ローン控除の省エネ基準要件化。令和4年度税制改正)
- 財務省・国税庁(住宅ローン控除の立地要件化。令和8年度税制改正)
- 国土交通省「災害ハザードエリアからの移転促進のための税制上の特例措置(登録免許税・不動産取得税)」
- みらいエコ住宅2026事業「新築住宅の立地等の除外要件」(国土交通省・経済産業省・環境省)
- 住宅金融支援機構「フラット35 地域連携型・維持保全型等の立地要件」
- 住宅金融支援機構「【フラット35】ご利用条件」(2026年4月1日現在)
- 損害保険料率算出機構「住宅向け火災保険参考純率の水災料率を細分化します」(2023年6月)
- 内閣府「移住支援金」
- Mach, K.J. et al. (2019) "Managed retreat through voluntary buyouts of flood-prone properties," Science Advances 5(10)
- Natural Resources Defense Council "Going Under: Long Wait Times for Post-Flood Buyouts Leave Homeowners Underwater"
- 滋賀県流域治水の推進に関する条例
- 宮城県大崎市「宅地かさ上げ等事業費補助金交付要綱」
- 滋賀県流域治水推進審議会 重点地区における取組のあり方検討部会「重点地区において安全な住まい方を早期に実現するための提言」2021年2月
- 滋賀県「滋賀県流域治水の推進に関する条例に基づく浸水警戒区域の指定について」
- 滋賀県「水害に強い安全安心なまちづくり推進事業費補助金交付要綱」
- 国土交通省 令和5年度建築基準整備促進事業「M9 住宅の洪水時の耐浸水性能に関する検討」
- 国土交通省 都市局・水管理・国土保全局「災害ハザードエリアに係る土地利用の課題と対応方策」(内閣官房 事前復興・複合災害ワーキンググループ(第2回)参考資料3、令和3年3月5日)
- 国土交通省「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」(令和3年10月)
- 環境省「日本版ナッジ・ユニット(BEST)」
- 国土交通省 水管理・国土保全局「特定都市河川の指定による流域治水の本格的実践」
- 国土技術研究センター「解説・特定都市河川浸水被害対策法施行に関するガイドライン」(令和7年3月版)
- 国土交通省 水管理・国土保全局「治水経済調査マニュアル(案)」
- 住宅生産団体連合会「住宅における浸水対策の設計の手引き」
- 内閣府「新総合防災情報システム(SOBO-WEB)について」
- デジタル庁「防災分野におけるデジタル庁の取組みについて」
- MS&ADインターリスク総研株式会社「雨水流出抑制の充実を通じた都市型洪水被害の軽減―第6次社会資本整備重点計画の推進に向けて―」2026年6月
※1)大雨で河川の堤防が決壊・氾濫した際、浸水が想定される区域として指定・公表されるものをいう。想定する降雨の規模により、計画規模(L1)と想定最大規模(L2)の二種類がある。本項(3)で詳述する。
※2)気象庁「大雨や猛暑日など(極端現象)のこれまでの変化」の数値データをもとに算出。全国アメダスにおける年間発生回数を、統計期間当初の10年間(1976〜1985年)と最近の10年間(2016〜2025年)の平均で比較。3時間降水量は100mm以上が155.2回から248.0回(約1.6倍)、150mm以上が18.8回から32.9回(約1.8倍)、200mm以上が2.8回から5.9回(約2.1倍)に増えており、雨の強度が強いほど増加の度合いが大きい。1時間降水量は内水氾濫、3時間降水量は外水氾濫の要因となりやすい。
※3)国土交通省「水害統計調査」より、2009年から2023年の家屋被害額(全国計)を5年単位で算出。
※4)中野卓・木内望「水害リスクを踏まえた都市づくりにおける洪水浸水想定区域の活用可能性と課題」による。同論文は、水害回数が1以上の自治体を対象に被害の分布を分析しており、被害の半数は、当該902自治体(1,186自治体から水害を経験していない284自治体を除いたもの)の上位4.1%に当たる37自治体に集中している。なお、1,186自治体のうち約4分の1に当たる284自治体(23.9%)は同期間に水害を経験していない。5回以上経験した自治体は281(23.7%)、1自治体当たりの平均は3.13回である。また、【図表3】の被災家屋棟数(約100万棟)は内水氾濫等を含む全水害の集計であり、本注とは集計範囲が異なる。
※5)復旧費用の区分は、住宅生産団体連合会「住宅における浸水対策の設計の手引き」(2021年7月)に示された浸水想定区分による。区分1(現況地盤面から基礎天端まで、同0.4m程度)で新築工事費用の1%程度、区分2(基礎天端から現況地盤面+1.5mまで)で30〜50%程度、区分4(1階天井下から2階床上まで)で50〜80%程度とされる。なお、この区分は水害統計調査における被災家屋棟数の区分(床下浸水、床上浸水1〜49cm、50〜99cm、100cm以上、半壊、全壊・流失)とは異なる。水害統計では床上100cm以上が最も深い区分である。「1階の天井付近」は、国土交通省「洪水浸水想定区域図作成マニュアル」において、想定最大規模の浸水深3.0m以上に相当する区分とされる。
※6)秦康範・前田真孝「全国ならびに都道府県別の洪水浸水想定区域の人口の推移」災害情報 第18巻1号(2020年)による。計画規模(L1)の洪水浸水想定区域を前提とした推計値。同研究は2011年度時点の洪水浸水想定区域データを、1995年から2015年までの5時点の国勢調査メッシュに重ね合わせる方法をとっており、区域指定の拡大により新たに区域内となった人口の影響は含まれない。
※7)水防法(昭和24年法律第193号)。洪水等による被害の軽減を目的として、洪水浸水想定区域の指定、洪水ハザードマップの作成・周知、水防体制の整備等について定める。
※8)水防法(平成27年改正)第14条による。想定最大規模降雨に対応した洪水浸水想定区域の指定とあわせ、浸水継続時間の記載および家屋倒壊等氾濫想定区域の指定が加えられた。
※9)内閣府「平成30年7月豪雨を踏まえた水害・土砂災害からの避難のあり方について(報告)」(2018年12月)による。倉敷市洪水・土砂災害ハザードマップ(平成28年8月作成、平成29年2月更新)と実際の浸水範囲を比較したもので、「倉敷市真備地区の浸水範囲は、ハザードマップで示されている浸水想定区域と概ね一致」と記されている。
※10)令和元年東日本台風(2019年10月)について、国土地理院が作成した浸水推定図と自治体のハザードマップとの比較により、福島県・長野県等で両者がほぼ一致したことが報じられている(共同通信、2019年10月17日)。また荒川水系都幾川中流域(埼玉県東松山市)についても、現地踏査と空中写真判読に基づき、浸水域がハザードマップの想定浸水域内にほぼ収まっていたことが報告されている(日本地理学会「令和元年台風19号による災害」緊急報告会資料、2019年12月)。
※11)防災科学技術研究所「令和2年7月豪雨による熊本県人吉市及び球磨村渡地区の洪水被害の特徴」(2020年)による。2020年7月9日の現地調査で記録した実績浸水深を、人吉市総合防災マップ(2017年作成、計画規模)の想定浸水範囲・想定浸水深と対比したもの。同資料では「洪水ハザードマップは、実際の浸水被害を比較的正確に予測していると考えられる」とされる一方、想定浸水範囲がやや外側に広がった箇所や、想定浸水深が浅い場所で実績が上回った箇所があったことも記されている。
※12)国土交通省「洪水浸水想定区域の指定と洪水・高潮・内水ハザードマップの公表状況」による。想定最大規模に対応した洪水ハザードマップは、洪水予報河川・水位周知河川に対応するもので1,431市区町村中1,420(約99%)、令和3年の水防法改正で新たに対象となった中小河川に対応するもので1,633市区町村中1,104(約68%)が公表済みである。一方、内水(雨水出水)ハザードマップは1,121市区町村中186(約17%、令和7年3月末時点)、高潮は333市区町村中237(約7割、令和7年12月1日時点)にとどまる。
※13)小出桂靖・西崎健司「水害リスクが地価に及ぼす影響」日本銀行ワーキングペーパーシリーズ(2022年)。想定浸水深が1メートル上昇した場合の地価下落は、住宅地で平均約1.1%、商業地で約4.7%。情報開示後、価格に反映されるまでには時間差があるとされる。
※14)国土交通政策研究所「住宅購入者の水災害リスクに対する意識の把握―水災害リスクの認知及び対策、居住地選択等に関する調査―」国土交通政策研究所紀要 第83号(2025年)。2015年以降に戸建て住宅を購入した1,142人への調査(2025年1月実施)。住宅購入時に重視する17項目のうち最も重視されたのは「価格」であり、「水災害・津波の受けにくさ」は上位に入らない。
※15)損害保険料率算出機構「住宅向け火災保険参考純率の水災料率を細分化します」(2023年6月)による。同資料では、水災料率を細分化しなかった場合と比較して、1等地の地域の保険料は平均で約6%低い水準、5等地の地域の保険料は平均で約9%高い水準となり、最も高い地域は最も安い地域に比べて約1.2倍の保険料になるとされている。これらの数値はいずれも保険料全体(火災、風災、雪災、水災等の補償合計)でのものであり、水災料率単体の較差は公表されていない。また、保険料が大幅に上昇しないよう激変緩和の措置が講じられている。
※16)米国の任意買取制度(voluntary buyout)は、連邦緊急事態管理庁(FEMA)の災害軽減補助金(Hazard Mitigation Grant Program)等により、洪水の常襲地域にある住宅を、住民の希望に応じて地方自治体が買い取るものである。1980年代以降の買取は累計4万3,000件を超えるとされる。一方、FEMA資金による買取案件の過半数は完了までに5年以上を要しており、手続きの長期化が指摘されている。また、買い取られた区画とそうでない区画がまだら状に残ること、移転先が必ずしも安全とは限らないことも指摘されている。(Mach, K.J. et al. (2019) "Managed retreat through voluntary buyouts of flood-prone properties," Science Advances 5(10)/Natural Resources Defense Council "Going Under: Long Wait Times for Post-Flood Buyouts Leave Homeowners Underwater")
※17)滋賀県流域治水の推進に関する条例(2014年施行)による。200年に1回の割合で発生する降雨を想定。浸水警戒区域は建築基準法第39条の災害危険区域として指定される。区域の指定は、地域における合意形成を経て「水害に強い地域づくり計画」を策定した後に行われる。
※18)滋賀県「水害に強い安全安心なまちづくり推進事業費補助金交付要綱」による。
※19)滋賀県流域治水推進審議会 重点地区における取組のあり方検討部会「重点地区において安全な住まい方を早期に実現するための提言」(2021年2月)。同提言では、区域指定に時間を要していること、指定に至らない区域において県による安全性の確認を経ずに住宅が新築される事例が生じていることが指摘されている。指定実績は滋賀県「滋賀県流域治水の推進に関する条例に基づく浸水警戒区域の指定について」(2026年3月末時点)による。
※20)宅地建物取引業法施行規則第16条の4の3(2020年8月28日施行)。水防法第15条第3項に基づき市町村が提供する洪水・雨水出水(内水)・高潮の各ハザードマップが対象であり、市町村が作成していない場合はその旨を説明する。土砂災害と津波については、それぞれ土砂災害防止法及び津波防災地域づくり法に基づき、従来から重要事項説明の対象とされている。
※21)前掲14による。2020年以降に住宅を購入した508人のうち、重要事項説明について「説明を受けたが特に気に留めなかった」10.6%、「説明があったか覚えていない」23.8%。
※22)人口減少にともなう空き家の増加、インフラの老朽化を背景に、立地適正化をはじめとする都市構造の再編が進められている。しかし、居住誘導区域には、洪水浸水想定区域が含まれる場合もある。国土交通省都市局が立地適正化計画において居住誘導区域を設定している341都市を対象に行った調査(令和2年10月末時点)によると、居住誘導区域に浸水想定区域を含む都市は307都市(90.0%)である。また、居住誘導区域内の面積を浸水深別にみると、想定最大規模降雨(L2)では、浸水想定区域外が55.6%、浸水深3m未満が14.7%である一方、3〜5mが17.8%、5m以上が11.9%を占めており、浸水深3m以上の範囲が約3割にのぼる。
※23)本提言は、洪水浸水想定区域に暮らす人々に移転を求めたり、行政に移転先の確保を促したりするものではなく、憲法が保障する居住・移転の自由を制限するものでもない。限られた公的支援の配分の優先順位を定めるものである。
※24)浸水深3mを基準とする理由は3つある。①国土交通省「洪水浸水想定区域図作成マニュアル」において、3mは一般的な家屋の1階天井付近(2階床面)に相当する区分とされ、屋内での垂直避難が成り立たなくなる深さにあたる。②既存の政策においても同じ深さが用いられている。市街化調整区域では、令和2年の都市計画法改正により、浸水想定区域のうち浸水深3m以上の区域等が開発許可の対象から除外され、住宅の省エネ化に係る補助事業においても、市街化調整区域のうち浸水想定高さ3m以上の区域が補助対象から除外されている。③支援を重点化する範囲として釣り合いがとれる。対象103水系の集計では、想定最大規模(L2)の全域に占める割合は、0.5m以上(1階床上)で87.7%、3.0m以上で37.1%、5.0m以上(2階軒下)で15.6%であり、0.5mでは区域の大半が対象となって重点化にならず、5.0mでは対象が限られる。なお、家屋倒壊等氾濫想定区域を組み合わせるのは、浸水の深さだけではとらえきれない危険があるためである。同区域は氾濫流の速さや河岸の侵食によって設定されるため、浸水深が浅い区域にも指定されうる。
※25)令和4年度税制改正により省エネ基準に適合しない新築住宅を住宅ローン控除の対象外とした(2024年以降の入居分)。これは2050年カーボンニュートラルの実現に向けた措置である。さらに、2025年4月以降に建築確認を受ける新築住宅については建築物省エネ法により省エネ基準への適合が義務化された。
※26)宮城県大崎市「宅地かさ上げ等事業費補助金交付要綱」による。補助率は経費の2分の1、上限100万円。浸水想定区域では、想定水位以上に居室の床面等が確保される場合に限る。
※27)前掲5による。同手引きでは、住宅本体で浸水そのものを防ぐ対策が有効なのは基礎天端程度までとされ、それを超える浸水深については、浸水を前提として被害を軽減し復旧を容易にする設計の考え方が示されている。
※28)行動科学の知見のうち、金銭的な損得を変えずに、情報の示し方や提供の時点を工夫することで望ましい行動を促す手法をナッジという。環境省は2017年に日本版ナッジ・ユニット(BEST)を設置し、行政分野における行動科学の活用を進めている。
※29)国土交通省「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」(令和3年10月)。同ガイドラインは、過去に生じた人の死に関する事案について、調査や告知の判断基準が明確でないことから、円滑な不動産取引を阻害するとの指摘を受けて策定されたものである。宅地建物取引業者が売主・貸主に告知書等への記載を求めることにより、一定の調査義務を果たしたものと整理する等、取引現場における共通ルールを示している。
※30)内閣府は、国の各機関、地方公共団体、指定公共機関等が互いに有する情報を集約・共有し活用できるようにするデジタル連携の基盤を「防災デジタルプラットフォーム」と称しており、令和7年12月までの構築完了を目指すとしている。その中核を担う新総合防災情報システム(SOBO-WEB)は令和6年4月に運用を開始した。あわせてデジタル庁は、住民支援のためのアプリ開発・利活用の促進を図るためデータ連携基盤の設計・構築を進めており、その構築に当たっては新総合防災情報システムとのデータ連携に向けた取組みが進められている。
※31)国土交通省 令和5年度建築基準整備促進事業「M9 住宅の洪水時の耐浸水性能に関する検討」(一般財団法人日本建築防災協会、国立研究開発法人建築研究所との共同研究)。戸建て住宅等の購入者等が参照可能な耐浸水性能に関する指標を検討し、日本住宅性能表示基準および評価方法基準に反映することを目的として実施されている。なお、現行の日本住宅性能表示基準は新築住宅について10分野33項目を定めているが、水害・浸水を評価する項目は含まれていない。
※32)水害への備えは、一軒ごとの対応だけで完結するものではない。個々の住まいの工夫は、流域全体で水を受け止め、被害を抑える取組みの一部でもある。特に都市部における雨水流出抑制については、別途提言する「雨水流出抑制の充実を通じた都市型洪水被害の軽減―第6次社会資本整備重点計画の推進に向けて―」(MS&ADインターリスク総研、2026年6月)において詳述している。
※33)損害保険料率算出機構は、2023年6月に住宅向け火災保険参考純率の改定を届け出、全国一律であった水災料率を市区町村別に5区分へ細分化した。同機構は細分化の背景として、地域間の水災リスクの違いによる保険料の公平化を図る必要があること、および、ハザードマップ等により保険契約者が得られるリスク情報が充実する一方で、自らのリスクは低いと判断した契約者が保険料節減の目的で水災補償を外す傾向にあり、今後の水災保険料の値上げにつながることで水災補償をつけられない人が生じる可能性があることを挙げている。各損害保険会社の商品への反映は2024年10月以降である。
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