コラム/トピックス

災害時、なぜ人は車で避難したくなるのか? 調査で見えた自動車避難のリスクと心理

[このコラムを書いた研究員]

新納 康介
専門領域
食料安全保障、マイクロファイナンス
役職名
主席研究員
執筆者名
新納 康介 Kousuke Niiro

2026.10.13

もし今、災害が起きたら、あなたはどの手段で避難するでしょうか。自動車での避難を思い浮かべる方もいるかもしれませんが、災害時の自動車避難は、必ずしも安全とは限りません。内閣府が作成した「避難情報に関するガイドライン」でも、「自動車による避難は、移動中に洪水等に見舞われることや渋滞を発生させるおそれがあることに留意すべきである」とされています。実際、東日本大震災の津波では、多くの生存者が自動車で避難していた一方で、自動車内で発見された犠牲者も報告されています。

MS&ADインターリスク総研は、2026年7月、自動車保有者1,000人を対象に、災害時の自動車避難に関するアンケート調査を実施しました。調査から見えてきたのは、自動車避難のリスクを認識していても、そのメリットを高く評価する人が少なくないという実態です。

本稿では、その調査結果や実際の災害時の事例をもとに、なぜ人はリスクを知りながらも自動車で避難しようとするのかを考えます。

この記事の
流れ
  • 災害時、なぜ自動車で避難したくなるのか
  • 早く遠くに避難できるはずの自動車が、逃げ遅れの原因に?
  • 災害時の「徒歩避難の原則」の認知度
  • 災害時の自動車避難のリスクを知っている人は65.5%
  • それでも6割が「自動車避難のメリットはリスクを上回る」
  • 避難した人の約8割が自家用車を使用~八戸市で起こったこと
  • なぜ「知っていても」自動車で避難するのか?
  • まとめ

災害時、なぜ自動車で避難したくなるのか

本調査では、回答者に安全な場所へ退避する際に自動車を使うメリットについて徒歩との比較で聞きました。その結果、「早く遠くに移動ができる」(68.7%)が最も回答が多く、「必要物資を運ぶことができる」(61.5%)がそれに続きました(図表1)。

【図表1】徒歩と比べて、自動車による避難のメリットはどんなことだと思いますか
(n=1,000、いくつでも)

徒歩と比べて、自動車による避難のメリットはどんなことだと思いますか
徒歩と比べて、自動車による避難のメリットはどんなことだと思いますか

早く遠くに避難できるはずの自動車が、逃げ遅れの原因に?

自動車による避難にはメリットばかりではありません。災害時に、「車なら早く遠くへ逃げられ、荷物も積める」「家族を乗せることもできる」と考えれば、自動車での避難が合理的な選択肢だと考えるのも不思議ではありません。

しかし、ここには大きな落とし穴があります。なぜなら、多くの人が同時に車で避難すると、道路の状況や避難経路によっては渋滞が発生し、移動が困難になる可能性があります。すると、本来期待していた「早く逃げられる」「安全に移動できる」というメリットは失われ、かえって逃げ遅れのリスクが高まるからです。つまり、個人にとって最適に見える行動が、集団にとっては最適ではなくなることがあるということです。

災害時の「徒歩避難の原則」の認知度

そのようなことを考慮して、我が国の防災基本計画には、「津波発生時の避難については、徒歩によることを原則とする」と記載されています。加えて、多くの自治体では上記の「徒歩避難の原則」の対象を災害全般に拡大して、住民に徒歩での避難を呼びかけています。

例えば、神奈川県平塚市は、「高齢者や障がい者などの要配慮者の方と同行避難する場合等、やむを得ず自動車で避難する場合を除いて、災害時は徒歩で避難を行いましょう」と呼びかけています。

この「徒歩避難の原則」を知っているかどうかについて回答者に聞いた結果、「あまり知らない」と「全く知らない」の回答の合計は50.0%でした(図表2)。

【図表2】多くの自治体で、災害時(地震・津波・災害全般)の避難は原則として「徒歩」を呼びかけていることを知っていますか

多くの自治体で、災害時(地震・津波・災害全般)の避難は原則として「徒歩」を呼びかけていることを知っていますか
多くの自治体で、災害時(地震・津波・災害全般)の避難は原則として「徒歩」を呼びかけていることを知っていますか

災害時の自動車避難のリスクを知っている人は65.5%

本調査では、徒歩避難の原則の根拠の一つである、渋滞・交通事故等が発生し、自動車での避難が困難になるリスクの認識について回答者に聞いています。その結果、「詳しく知っている」と「知っている」の合計は65.5%でした(図表3)。

【図表3】自動車による避難は、交通状況の混乱によりかえって避難が困難になる可能性があると言われています。あなたは、このことをご存じでしたか

自動車による避難は、交通状況の混乱によりかえって避難が困難になる可能性があると言われています。あなたは、このことをご存じでしたか
自動車による避難は、交通状況の混乱によりかえって避難が困難になる可能性があると言われています。あなたは、このことをご存じでしたか

それでも6割が「自動車避難のメリットはリスクを上回る」

さらに、本調査では、自動車による避難のメリットが、避難が困難になるリスクを上回る価値があるかどうかを聞きました。「そう思う」と「ややそう思う」の回答の合計は60.4%でした(図表4)。

注目したいのは、自動車避難のリスクを認識している人が65.5%いる一方で、メリットがリスクを上回ると考える人も60.4%いることです。自動車避難が抱えるリスクを知ることが、必ずしも自動車を使わないという判断につながるわけではないことがうかがえます。

【図表4】自動車での避難のメリットは、避難が困難になるリスクを上回る価値があると思いますか

自動車での避難のメリットは、避難が困難になるリスクを上回る価値があると思いますか
自動車での避難のメリットは、避難が困難になるリスクを上回る価値があると思いますか

避難した人の約8割が自家用車を使用~八戸市で起こったこと

これらの結果から、災害時の自動車による避難は「リスクを認識しつつも、なお選択されやすい行動」ということがいえます。それでは、実際に災害が発生した時に、住民はどのくらいの割合で自動車避難を選択するでしょうか。また、それによりどのようなことが起きるでしょうか。青森県八戸市は、2025年12月及び2026年4月の地震発生後の津波警報に伴う住民の自動車避難の状況について調査を行いました。そこから分かった主な内容は以下の通りです。

  • 住民の約8割が「徒歩避難の原則」を知っていたが、避難した人の約8割が自家用車を使った(12月が85.3%、4月が75.3%)
  • 自動車避難者の中には徒歩避難が可能な人や逃げなくてもいい人も一定数いた
  • 津波警報の後に自動車避難に伴う渋滞が発生した
  • 大津波警報だった場合、場所によっては、津波に飲み込まれていた可能性があった
  • 渋滞を踏まえると、徒歩避難の方が早く避難できるエリアがあった

地理的事情、季節、時間帯などに留意※する必要がありますが、八戸市の事例からは、徒歩避難の原則を知っていることが、必ずしも実際の徒歩避難につながるとは限らないことがわかります。

※)4/20に自動車による避難をした人の52.3%が、「勤務先・外出先から帰宅しようとしていたため」としています。八戸市は「最悪の想定として、渋滞に巻き込まれた場合は、キーをつけたまま、自動車を緊急的に一時駐車場に乗り捨て、徒歩避難に切り替えることも検討していく」としています。

なぜ「知っていても」自動車で避難するのか?

米国の研究者George F. Loewensteinらは、人が危険を前にしたとき、メリットとリスクを計算するだけでなく、その場で生じる感情によって行動するという、「感情としてのリスク理論(Risk as Feelings Theory)」を2001年に提唱しました。

この理論を踏まえると、災害時の自動車避難についても、「徒歩避難が原則である」「車は渋滞を招きうる」と頭では分かっていても、「早く、遠くに逃げたい」といった感情が、避難手段の選択に影響する可能性があります。つまり、実際の災害時には、「今すぐ逃げなければならない」という強い不安や恐怖といった感情が、かえってリスクのある避難行動を促すことがあるということです。

まとめ

自動車による避難のリスクを小さくするには、明確な自動車避難のルールと住民の十分な理解が必要です。八戸市は、「自動車避難の実態や、高齢化の進展により徒歩避難が困難な方が増えていく可能性も踏まえ、徒歩避難を原則としながらも、自動車避難の在り方やルールづくりを検討していく必要がある」としています。このような検討が進み、自動車避難の在り方について全国で議論が進むことを期待します。

【参考文献】

  • 八戸市(2026)「令和7年12月8日の青森県東方沖の地震及び令和8年4月20日の三陸沖の地震による対応状況について」『記者会見 令和8年6月16日』
  • 八戸市危機管理部危機管理課(2026)「自動車避難対策の方向性」『7月定例市長記者会見資料 令和8年7月21日』
  • Loewenstein et al.(2001)”Risk as Feelings” Psychological Bulletin 2001, Vol. 127, No. 2
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