防災庁に期待される事前防災の司令塔としての新たな一手~漏電定期点検を活用した感震ブレーカー普及スキーム~【政策提言レポート(2026年10月)】
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- MS&ADインターリスク総研株式会社
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- リスク戦略研究所
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- プリンシパルフェロー 遠藤 功
2026.10.30
- 11月に発足予定の「防災庁」には、省庁横断の司令塔として実効性の高い事前防災策の実行が期待されている。特に、首都直下地震や南海トラフ巨大地震で大きな被害要因となる「電気火災」の対策として、「感震ブレーカー」の普及が急務である。
- 省庁や自治体は従来、普及のために啓発活動や財政支援等に取り組んできたが、家庭や企業側の関心は薄く、特に家庭における普及率は全国で約5.2%と低迷している。一方で、設置済みの家庭の間で「もともと設置されていた」との声が多いことを踏まえると、各家庭や企業の自発的な購入に頼らず、日常の中で自然と普及する仕組みづくりが必要である。
- そこで本稿は、過去に法改正で、異常を検知した際に自動的にガスを遮断する「マイコンガスメーター」を100%普及させたガス業界の成功例も参考に、以下の施策を提案する。
- 漏電点検の機会を活用しての取り付け実施:
防災庁と経済産業省が連携して電気事業法等を改正し、一般送配電事業者が定期的に行う法定の漏電点検の機会に、感震ブレーカーを住宅等の建物に設置する。 - 費用負担の仕組み:
感震ブレーカーは一般送配電事業者の資産とし、その費用は既存の政府予算を振り替えて充当する他、必要に応じスマートメーター同様電気料金に長期かつ少額ずつ上乗せして段階的に回収することで、需要家の反発や負担感を抑える。 - 免責条項の明文化:
地震で電気が自動遮断した結果、工場の生産ライン停止などの損害が生じた場合、一般送配電事業者や国の賠償責任を免除する。 - リスクへの先手対応:
例えば、電気の急な遮断による重要設備の稼働停止や夜間の暗闇での避難への不安に対しては、重要設備保有者への適用除外や夜間保安灯の事前配布等の対応策をあらかじめ講ずる。 - 以上を以て、従来の縦割りの防災政策の限界を克服し、防災庁主導による強力な事前防災のモデルケースとすることが期待される。
1.はじめに
政府は2026年11月2日に、災害対策の一元的な司令塔となる「防災庁」を発足させる。その前身に当たる内閣府防災担当の体制下では、「事前防災の遅れ」「専門ノウハウの蓄積不足」「他省庁への調整権限不足」という3つの課題が指摘されてきた。そこで、防災庁は人員を約1.6倍(352人)に増強し、縦割り行政を打破して平時から有事まで切れ目なく対応する。他省庁への「勧告権」も付与されるが、予算や人事の直接的決定権は伴わないため、実効性を高めるには勧告要件の具体化と、優先度の高い課題への絞り込みが求められる。
そこで、本稿は、首都直下地震や南海トラフ大地震など国難級の災害の発生が切迫する中、防災庁に期待される事前防災の司令塔としての新たな一手を提言する。
2.現状と課題
(1)国難級の災害の想定被害とその要因
首都直下地震と南海トラフ巨大地震の二大地震において、火災は国全体におよぶ甚大な経済損失をもたらす重大な直接被害要因である(表1)。これらの地震火災のうち、特に懸念されているのが電気火災である。過去の大震災でも、原因が特定された火災の6割超が電気起因であったと報告されている。例えば、阪神・淡路大震災(1995年)では61%(自治省消防庁 [1998])、東日本大震災(2011年)では約65%(公益社団法人日本火災学会 [2016])に上った。
二大地震に関する内閣府の試算は、電気火災単体による経済被害額を直接明示していないが、合計で約54兆円程度に上ると考えられる(同)。
電気火災が深刻化する理由は、「無人下の出火の同時多発」「道路寸断や断水による消防活動の難航」「木造住宅密集地域での大規模延焼」が連鎖するためである。「無人下の出火」の原因には、避難時における電熱機器等の消し忘れ(例:地震の揺れで電気ストーブやファンヒーターが転倒し、周囲のカーテンや本等の可燃物に着火)や、家具の下敷きになって破損したコードや家電のショート・発熱(通電火災)等、様々な場合が挙げられる。
表1 首都直下地震および南海トラフ巨大地震の想定経済被害と電気火災の位置づけ
| 項目 | 首都直下地震 | 南海トラフ巨大地震 | |
|---|---|---|---|
| A.建物、資産等の直接被害 | 最大約45.1兆円 | 最大約224.9兆円 | |
| B.うち、住宅・オフィス・家財・償却資産・在庫資産 | 最大38.8兆円 | 最大約193.4兆円 | |
| C.全壊および焼失による建物被害のうち、地震火災による焼失の割合 | 最大約67% | 最大約33% | |
| D.火災全体のうち、電気火災によるもの | 60% | ||
| E.電気火災による直接被害(推計) | 15.6兆円 | 38.3兆円 | |
| (計)約54兆円 | |||
(出典)A~C: 内閣府 [2025a]、同 [2025c]; D: 自治省消防庁 [1998]、公益社団法人日本火災学会 [2016]を参考に設定
(注)E: B×C×Dにより推計
(2)対応策としての感震ブレーカー
電気火災の未然防止手段として期待されているのが「感震ブレーカー」である。感震ブレーカーとは、震度5強などの大きな揺れを感知し、自動で電気を遮断する装置である。地震の混乱によりブレーカーを手動で落とす余裕がない時や、家を留守にしている時の電気火災を防ぐことができる。感震ブレーカーには、大きく3つの種類がある(表2)。
表2 感震ブレーカーの種類
| 種類 | 分電盤タイプ | コンセントタイプ | 簡易タイプ (重りやバネを使用) |
||
|---|---|---|---|---|---|
| 内蔵型 | 後付型 | 埋込型 | 差込型 | ||
| 信頼性 | 高い(加速度センサー使用) | ばらつきが小さい | ばらつきが生じうる | ||
| 価格 | 約50,000円 ~80,000円 |
約20,000円 | 約5,000円 ~20,000円 |
約5,000円 ~20,000円 |
3,000円~ 4,000円程度 |
| 遮断対象 | 建物全体 | 特定のコンセントや回路 (電熱器具等) |
建物全体 | ||
| 遮断の猶予 | あり(一定の待機時間後) | なし(即座) | |||
| 電気工事 | 必要 | 不要 | |||
(出典)総務省消防庁 [2016]他各種資料より作成
政府は、火災による焼失棟数を、感震ブレーカーの設置率が50%になれば25%前後、100%になれば60%前後削減できると試算している※1。さらに、首都直下地震の被害想定見直しに伴う基本計画の改定(2026年6月閣議決定)に伴い、普及率を2035年度までに100%近くに引き上げる目標を設定した。こうした中、一部自治体は購入・設置費用の補助金(数千円〜10万円程度)を提供し、国も啓発活動や自治体への財政支援を展開してきた。
しかし、普及率は、家庭、企業ともに低迷している。家庭については、首都圏で約20%、全国では約5.2%にとどまっている(内閣府 [2023])。設置されていない理由については、「入手方法がわからない」「価格が高い」「設置が面倒」「よく知らない」「必要性を感じない」等が挙がっており、感震ブレーカーへの関心や電気火災への危機感が薄いことがうかがえる(表3)。
※1)詳しくは、南海トラフ巨大地震、首都直下地震各々において、普及率50%であれば22%と28%、普及率100%であれば53%と72%削減できるとしている。前者(南海トラフ巨大地震)の数値が低めなのは、後者と比べ電気由来以外の火災(産業用コンロ・危険物施設、化学薬品、LPG等)の割合が多いと見込まれるためである。
表3 首都圏の住宅における感震ブレーカーの設置状況と意向
| 感震ブレーカーの設置状況と意向 | 主な理由 | |
|---|---|---|
| いずれも設置しておらず、設置する予定もない (危険密集地域:61.6%、危険密集地域以外:74.5%) |
設置したいと思っているが、設置に至っていない (24.4%、22.6%) |
|
| 設置する意向はない (11.9%、20.1%) |
|
|
| どちらでもない (24.2%、30.8%) |
|
|
| 不明 (1.2%、1.0%) |
|
|
| 設置することが決まっているものがあるが、まだ設置できていない (4.7%、1.3%) |
|
|
| 1つでも設置しているものがある (30.5%、20.3%) |
||
| その他 (3.2%、3.8%) |
|
|
(出典)内閣府 [2025b] より作成
企業についても、東京商工会議所が会員企業を対象に行ったアンケート調査では、そもそも設置しているかどうか「分からない」との回答が53.5%に上っており、やはり関心の薄さがうかがえる(図1)。
図1 感震ブレーカーの設置状況および設置しない理由
(出典)東京商工会議所 [2026]
一方で、興味深いのは、感震ブレーカーを設置している家庭においてすら、設置の理由として「もともと設置されていた」との回答割合が多く(表3。特に「危険密集地域以外」では38.7%で突出して多い)、必ずしも感震ブレーカーへの関心が高いわけではない点である。
以上を踏まえ、本稿は、感震ブレーカーの普及に当たり、家庭や企業が「自発的に設置しなくても普及が進む仕組み」を作ることを課題として設定する。
3.提言
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(1)基本的な考え方:需要家の自発性に頼らない「自動的な普及」の実現
本提言では、家庭や企業が「自発的に設置しなくても感震ブレーカーの普及が自然と進む仕組み」の構築を目指し、以下の3つのアプローチを設定する。
- 実施体制:漏電点検の機会を活用した取り付け実施
一般送配電事業者が定期的に行う「漏電点検」の機会を活用し、住宅や事業所への感震ブレーカーの原則設置を標準的対応とする - 法的根拠の整備:電気事業法等の改正
以上を実現するため、防災庁が経済産業省と連携し、電気事業法等を改正する - 初期費用ゼロ・需要家の負担感低減
感震ブレーカーを一般送配電事業者の資産とし、費用には既存の政府予算を適宜振り替えて充当しつつ、カバーしきれない部分は電気料金に長期にわたり薄く上乗せして回収する
(2)実施体制:漏電点検の機会を活用した取り付け実施
感震ブレーカーの設置のために、法律で定められている定期点検、すなわち家庭向けの「4年に1回の定期調査」および事業所向けの「電気主任技術者による外部委託保安点検」をそのまま活用し、感震ブレーカーを設置する。これにより、人件費、交通費の節約を図る。標準機は、加速度センサーを用いることで信頼性が高い「分電盤タイプ」とする。
感震ブレーカーを家庭や企業ら需要家の資産にしてしまうと、購入・維持・修理が需要家負担(自己責任)になり、普及の妨げになりうる。そのため、あくまで一般送配電事業者が購入・所有・管理する資産とし、需要家の建物(住宅等)に設置する形式とする。
この手法には身近な前例が存在する。ガスのマイコンメーターや、電気のスマートメーターであり、それぞれ1980年代、2010年代以降、法改正等により普及が進んだ。特に前者は、法令により「震度5で自動停止する機能」が備わっており、本提案の参考となる(表4)。
表4 先行事例と本提案の比較
| 項目 | 先行事例 | 本提案 | |
|---|---|---|---|
| マイコンガスメーター | スマートメーター | 感震ブレーカー(本提案) | |
| 業種 | ガス | 電気 | |
| 地震による停止 | 有 | 無 | 有 |
| 根拠法 | 計量法、ガス事業法、LPガス法 | 計量法、電気事業法 | 電気事業法(詳細次項) |
| 資産所有者 | ガス事業者 | 一般送配電事業者 | |
| 設置場所 | 宅外 | 宅内 | |
| 点検頻度 | 4年に1回以上 | ― | 4年に1回以上※ |
※高圧受電設備(キュービクル)を設置している事業所や、学校、病院、老人福祉施設、プール等の特定施設は1年に1回。
(3)法的根拠の整備:電気事業法等の改正
(2)を実現するための法的根拠の整備を、防災庁が、電気事業法の主管官庁である経済産業省と連携して推進することを提案する。具体的な内容としては、電気事業法、電気の契約条件(約款)、および租税特別措置法を次の通り改正することを想定する(詳細については巻末の「付録」参照)。
① 電気事業法の改正(設置義務と免責規定の新設)
電気事業法は、一般用電気工作物(住宅等に設置されている小規模な電気設備)の保安調査(定期的な漏電検査等)を一般送配電事業者等に義務付けている。同調査に際し、一般送配電事業者の資産としての感震ブレーカーの普及を義務付けるため、同法に次の2つの条項を新たに追加する。
第一は、感震ブレーカーの設置義務付けである。一般送配電事業者に対し、保安業務の一環として、一般住宅(一般用電気工作物)および町工場(自家用電気工作物を含む)を含む事業所への「新たな設備(感震ブレーカー)を無償で強制的に設置する」ことを義務付ける。これは、過去にガス事業者に一般家庭や事業所へのマイコンガスメーター設置を義務付け、普及させることに成功したガス事業法、液石法の改正から着想を得ている。
第二は、一般送配電事業者および国の免責である。感震ブレーカーが仕様通りに自律作動して電気を遮断した結果の二次損害(家財の損失、工場の生産ライン・産業機械の停止に伴う経済的損失など)について、適正な基準で行われた場合は一般送配電事業者と国を免責する。
一般送配電事業者の賠償責任(民法第709条の不法行為責任など)を免除するために、以下の3つのロジックを法意として構築する。
- 公共の利益の優先:
個別の需要家の電気利用の継続(私益)よりも、大規模電気火災による都市の焼失の防止(公益)を優先する(なお、私益の保護という観点からも、停電により生じるコストよりもその需要家の財産保護の利益の方が一般に大きいことも理由として挙げられるだろう) - 正当行為・緊急避難の法理:
震度5強以上の地震発生という緊迫した状況下において、火災発生の蓋然性を下げるための遮断は、安全装置の作動という社会的相当性のある「正当行為」または「緊急避難」であり、違法性が阻却(否定)される - 無過失の定義:
気象庁の公式データ等に基づいてシステムが正常に作動した結果の停電であれば、個別の需要家に損害が出たとしても、一般送配電事業者に過失は存在しない
なお、本提案における法的根拠の整備として、電気事業法の改正を選択した理由は、複数の法改正の選択肢を比較検討した結果(表5)、既存建物への導入可能性および実効性の観点から、最も有効と判断したためである。
表5 法改正の選択肢の比較
| 比較項目 | ① 電気事業法 | ② 電気設備技術基準(電技) | ③ 建築基準法 | ④ 消防法 | ⑤ 災害対策基本法 |
|---|---|---|---|---|---|
| 規制の主な対象 | 電気事業者(送配電事業者) | 電気工事士、電気使用者 | 建築主、設計者(建築士) | 建物の管理権原者(所有者、占有者) | 国、地方自治体、国民(努力義務) |
| 所管省庁 | 経済産業省 | 経済産業省 | 国土交通省 | 総務省消防庁 | 内閣府 |
| アプローチ | 電気事業者による設置義務付け | 受電側(宅内分電盤)への感震機能の義務付け | 新築・増改築時の建築確認要件化 | 火災予防措置としての設置義務付け | 普及の理念化、自治体の補助金の根拠付け |
| 既存の建物への導入可能性 | 高い (約款変更で可能) |
低い (リフォーム時のみ) |
極めて低い (新築のみ対象) |
やや高い (段階的に普及) |
高い |
| 実効性 |
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|
| 類似事例 | スマートメーター | 通常のブレーカー | 防火戸、防火シャッター(一部) | 火災報知器 | ― |
② 電気の契約条件(約款)の改定
一般送配電事業者の資産(所有物)を、私有財産である住宅等に半ば強制的に設置することに対し、法的な権利侵害(財産権の侵害)や拒否権を巡るトラブルが発生する可能性がある。賃貸物件の場合には、所有者(大家)と占有者(住民)のいずれの同意を得るべきか等も議論となりうる。
そこで、スマートメーターやマイコンガスメーター等の先行事例に倣い、電気の契約条件(約款)である「託送供給等約款」を改定し、電気の安定・安全供給(保安業務)の一環としての感震ブレーカーの設置に、スマートメーターの交換と同様の法的な正当性を担保する。具体的には、「一般送配電事業者が所有する感震ブレーカーを住宅内および事業所(工場やオフィス)内の適切な場所に設置・維持すること、および点検のための立ち入りに同意すること」を同約款の必須条件(供給条件)として盛り込み、国(経済産業省)の認可を得る。
これにより、需要家が電気を使うためには、一般送配電事業者が所有する感震ブレーカーを敷地内に置かせることに同意しなければならないという契約関係(供給条件)が成立し、法的な強制力が生じることとなる※2。
※2)託送供給等約款は、一般託送事業者と小売電気事業者等との間で締結されるものであり、家庭、企業等の需要家を直接拘束するものではない。しかし、小売電気事業者と需要家の間で締結される電気供給約款には、通常「一般送配電事業者が定める託送供給等約款の規定を遵守すること」という内容(条項)が含まれていることから、託送供給等約款の改定内容は間接的に需要家も拘束することとなる。
③ 租税特別措置法の改正(優遇措置の導入)
マイコンガスメーターの前例に倣い、租税特別措置法を改正し、一般送配電事業者の感震ブレーカーの購入に際しての税控除、特別償却を導入する。これにより、資産購入に伴う負担を軽減する。
(4)初期費用ゼロ・需要家の負担感低減
感震ブレーカーの設置費用については、適宜既存の政府予算を充当する。その上で、カバーしきれない部分については、現在のスマートメーター導入と同様に※3、電気料金の「託送料金」に広く薄く高々毎月数百円程度上乗せし、家庭と企業の双方から長期的に回収・負担する(マイコンガスメーターと同程度の高々毎月数百円をベースに、大量発注による値引きも期待できる。表6参照)。
※3)スマートメーターの導入・維持管理コストを需要家が電気料金を通じて間接的に負担する仕組みは、次のとおりである。まず、一般送配電事業者が電気事業法(第17条の2)に基づき、スマートメーターのコストを含む送配電網の維持・強化に必要な投資計画(「一般送配電事業に係る事業計画および投資・費用の見通し」)を5年ごとに策定する。この計画は、国の審査を経て、事業者が期間内に回収できる費用の総額である「収入の見通し」として承認される(「レベニューキャップ制度」)。これに基づき、一般送配電事業者はスマートメーターのコストを託送料金として小売電気事業者に請求し、最終的に小売電気事業者が消費者の毎月の電気料金から広く薄く回収する。
表6 先行事例と本提案における需要家の月額基本料金への上乗せ分の相場観の比較
| 項目 | 先行事例 | 本提案 | ||
|---|---|---|---|---|
| マイコンガスメーター | スマートメーター | 感震ブレーカー | ||
| 初期費用 | A1.本体価格 | 35,000~60,000円程度 | 6,000円〜10,000円程度 | 2,000円~40,000円程度※ |
| A2.工事費用 | 数千円~10,000円程度 | 数千円~10,000円程度 | 無料~40,000円程度※ | |
| 計 (=A1+A2) |
40,000~70,000円程度 | 10,000~20,000円程度 | 2,000~80,000円程度※ | |
| B.交換周期 | 原則10年(計量法) =120カ月 |
原則10年(計量法) =120カ月 |
10~15年(業界自主規格)※※ =120~150カ月 |
|
| C.月額基本料金への上乗せ分の相場観 (=(A1+A2)÷B) |
数百円/月 | 約百円/月 | ~数百円/月 (※下段「政府による事業者への支援」及び大量発注による値引きも期待できる) |
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| (参考) 政府による事業者への支援 |
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※タイプによって価格・費用に幅が生ずる(詳細は表1参照)。
※※一般社団法人日本配線システム工業会の自主規格(JWDS0007)等における「更新推奨期間」。法定耐用年数は15年である。
※※※総務省消防庁 [2026]によると、全国の市区町村のうち、感震ブレーカーの購入・設置支援制度を設けているのは約15%(1,741市区町村のうち260自治体)である。補助金の支給割合や上限額は自治体次第だが、以下の2つが主流である:
- 分電盤タイプを対象に、1万円〜3万円程度を上限に、費用の「2分の1」~「3分の2」を補助する(最も多い)
- 簡易タイプを対象に、全額補助又は現物無料配布
スムーズな実行のために、次のような工夫が考えられる。
- 既存政府予算の活用:
政府の既存の感震ブレーカー普及のための予算(国から自治体への交付金、自治体から需要家への補助金等)を一般送配電事業者向けに財源振替し、需要家へのコスト転嫁を抑制する - 徴収の正当性確保:
「感震ブレーカーの費用は、電気火災の防止を通じ、自らの家やオフィスを守るだけでなく、街全体の延焼(都市災害)を防ぐための共同投資である」という社会的便益を丁寧に発信し、需要家が広く負担することへの理解を醸成する - 徴収の透明性確保:
料金の内訳を明示し、運用の透明性を高める - 不公平感の緩和(設置済の需要家の除外・割引):
既に自費で感震ブレーカーを設置済みの需要家については、検針時等に確認の上、料金上乗せを免除し、「後から設置した人だけが得をする」という不公平感を徹底して排除する
(5)リスクと対応策
本提言の実行に当たって、大きく次の①~③のリスクが想定される。各々への対応策を次の通り提案する。
① 設置作業における負荷と拒否
- リスク
- 深刻な人手不足の中、点検員の作業負荷が増えることで定期点検業務自体が遅れる。
- 見知らぬ検査員の宅内立ち入りや、不当な事業者への不安から、不在や拒否により屋内点検や設置が住民等需要家から拒否される。
- 対応策
- 工期短縮オプション:
「分電盤タイプ」を標準機としつつ、数分で設置が完了する「コンセントタイプ」や「簡易タイプ」もオプションに含める。 - 周知徹底:
防災庁・自治体によるキャンペーンや、信頼性の高い電気保安協会の通知との一体化により需要家の認知度を向上させる。また、点検当日や事前連絡の際に、不当な事業者への注意喚起を併せて実施する。 - オプトアウト方式:
設置を原則としつつ、拒否時のみ理由書を求めることで、設置受け入れの積み増しを図る。
② 急な電気遮断による社会的・経済的損失
- リスク
- 重要インフラ等の停止:
データセンターや医療機関、在宅医療機器(人工呼吸器等)の給電が突如遮断されると、社会機能や生命維持に重大な支障が発生する。 - 産業活動への影響:
操業中の精密機械やサーバーが強制終了することで、機械の故障やデータの破損、仕掛品の廃棄など巨額の損害が出る。 - 対応策
- 特定重要設備の適用除外:
電気事業法の省令において、保安上給電の継続が不可欠な特定施設・回路を感震ブレーカー設置の対象外(バイパス)とする。ただし、代替措置として自家発電機や無停電電源装置(UPS)の設置、配線の耐震・防炎基準強化を個別に義務付ける。 - 要配慮者のスクリーニング:
自治体の「避難行動要支援者名簿」等と連携し、生命維持装置がある家庭は対象外とするか、個別バックアップ対策を講じる。
③ 夜間避難時の混乱と二次被害(通電火災)
- リスク
- 夜間の地震発生時に即座に電気が消えると、混乱や足元の危険を誘発する。
- 避難先から戻った住民が安全確認をせずにブレーカーを再投入した際、通電火災を引き起こす可能性がある。
- 対応策
- ホーム保安灯のセット普及:
通常の停電対策も兼ねて、自動点灯し取り外せば懐中電灯になる「プラグイン式壁面保安灯」や「防災LED電球」をセットで普及させる。費用は電気料金(防災賦課金)から回収するか、損害保険会社による現物寄付協賛を活用する。 - 遅延遮断機能の標準化:
地震検知から遮断までに3〜5分程度の猶予を持たせる遅延遮断型分電盤タイプを標準機とし、避難初動の照明や情報収集の時間を確保する。 - 再通電時の安全確認徹底:
設置時に、停電・遮断から復旧させる際の「安全確認チェックシート(マニュアル)」の配布を義務付ける。
4.おわりに
本提言の採用により、国内で感震ブレーカーの普及が進み、二大地震下の電気火災を相当程度抑制できた場合、社会的コストの大幅な軽減を期待できる(表7)。
新設される防災庁には、感震ブレーカーの一層の普及を主導し、以て事前防災のための司令塔としての実効性ある具体策検討の一助としていただきたい。
表7 首都直下地震及び南海トラフ巨大地震における支払額削減の試算
| 項目 | 首都直下地震 | 南海トラフ巨大地震(陸側) |
|---|---|---|
| E.電気火災による直接被害(推計) | 15.6兆円 | 38.3兆円 |
| F.感震ブレーカーの普及により建物・資産が焼失を免れる割合 | 28.0% | 22.4% |
| G.感震ブレーカーの普及により建物・資産が焼失を免れる金額(推計) | 4.4兆円 | 8.6兆円 |
| (計)12.9兆円 | ||
(出典)E: 表1より再掲; F: 内閣府 [2025a]、内閣府 [2025c](漏電の定期調査の対面実施率を勘案し、感震ブレーカーの普及率50%の場合の数値を選定)
(注)G=E×F
【付録】法令および約款の改正(案)
電気事業法、ならびに託送供給等約款および電気需給契約の改正に当たり、追加する条文の内容は以下を想定する。
(1)電気事業法
(一般住宅及び事業所等における感震遮断装置の施設及び免責)
第〇条 一般送配電事業者は、電気工作物による火災を防止するため、経済産業省令で定める区域の電気工作物(一般用電気工作物及び自家用電気工作物のうち経済産業省令で定める小規模事業所のものを含む)に対し、地震発生時に自動的に電気を遮断する機能を有する装置(以下「感震遮断装置」という。)を施設しなければならない。
2 前項の規定により施設された感震遮断装置が、天災地変により作動し、又は電気の供給が停止した場合においては、国、一般送配電事業者、及びこれらの者から当該電気工作物の設置、保守又は点検の委託を受けた者は、これにより生じた損害(家庭用家財の損失及び事業用資産・操業停止に伴う損失を含む)について、賠償の責めに任じない。ただし、当該装置の設置又は保守管理について、一般送配電事業者に故意又は重大な過失があったときは、この限りでない。
(注)第56条(一般用電気工作物の維持)および第57条(調査義務)も併せて改正する。
(2)託送供給等約款
(保安のための機器の設置)
需要者が電気の供給を受ける(又は送電網を利用する)にあたっては、災害時安全遮断装置(感震ブレーカー等)を、当社の所有とし、需要者の土地・建物内の適当な場所に当社の負担で取り付けます。また、当社が保安のために行う当該機器の巡視・点検・交換等の作業のため、需要者の土地及び建物に係員を立ち入らせていただきます。
当社及び当社の履行補助者(委託先、請負業者を含む)は、電気事業法第〇条に基づく災害時安全遮断を行った場合、及び当該遮断からの再通電(復電)の遅延により需要者が受けられた損害については、一切の賠償責任を負いません。需要者におかれましては、生命維持装置等の重要設備について、需要者ご自身の責任において非常用電源の確保等の措置を講じていただくものとします。
参考文献・出典
- 公益社団法人日本火災学会 [2016] 「2011年東日本大震災 火災等調査報告書
- 自治省消防庁 [1998] 「地震時における出火防止対策のあり方に関する調査検討報告書」
- 総務省消防庁 [2016] 「感震ブレーカーの効果と種類」
- 総務省消防庁 [2026] 「感震ブレーカー普及推進フォローアップ調査結果(令和7年度確定版)」
- 東京商工会議所 [2026] 「会員企業の災害・リスク対策に関するアンケート」2026年調査結果
- 内閣府 [2017] 「保険・共済による災害への備えの促進に関する検討会 報告」
- 内閣府 [2023] 「防災に関する世論調査(令和4年9月調査)」
- 内閣府 [2025a] 「南海トラフ巨大地震 最大クラス地震における被害想定について【定量的な被害量】」
- 内閣府 [2025b] 「令和6年度首都圏の住宅における感震ブレーカーの普及状況等に関する調査報告書」
- 内閣府 [2025c] 「都心南部直下地震の被害想定【定量的な被害量】」
【参考】
留意事項
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