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防災庁に期待される事前防災の司令塔としての新たな一手~漏電定期点検を活用した感震ブレーカー普及スキーム~【政策提言レポート(2026年10月)】

[このレポートを書いた研究員]

会社名
MS&ADインターリスク総研株式会社
部署名
リスク戦略研究所
執筆者名
プリンシパルフェロー 遠藤 功

2026.10.30

要旨
  • 11月に発足予定の「防災庁」には、省庁横断の司令塔として実効性の高い事前防災策の実行が期待されている。特に、首都直下地震や南海トラフ巨大地震で大きな被害要因となる「電気火災」の対策として、「感震ブレーカー」の普及が急務である。
  • 省庁や自治体は従来、普及のために啓発活動や財政支援等に取り組んできたが、家庭や企業側の関心は薄く、特に家庭における普及率は全国で約5.2%と低迷している。一方で、設置済みの家庭の間で「もともと設置されていた」との声が多いことを踏まえると、各家庭や企業の自発的な購入に頼らず、日常の中で自然と普及する仕組みづくりが必要である。
  • そこで本稿は、過去に法改正で、異常を検知した際に自動的にガスを遮断する「マイコンガスメーター」を100%普及させたガス業界の成功例も参考に、以下の施策を提案する。
    • 漏電点検の機会を活用しての取り付け実施:
      防災庁と経済産業省が連携して電気事業法等を改正し、一般送配電事業者が定期的に行う法定の漏電点検の機会に、感震ブレーカーを住宅等の建物に設置する。
    • 費用負担の仕組み:
      感震ブレーカーは一般送配電事業者の資産とし、その費用は既存の政府予算を振り替えて充当する他、必要に応じスマートメーター同様電気料金に長期かつ少額ずつ上乗せして段階的に回収することで、需要家の反発や負担感を抑える。
    • 免責条項の明文化:
      地震で電気が自動遮断した結果、工場の生産ライン停止などの損害が生じた場合、一般送配電事業者や国の賠償責任を免除する。
    • リスクへの先手対応:
      例えば、電気の急な遮断による重要設備の稼働停止や夜間の暗闇での避難への不安に対しては、重要設備保有者への適用除外や夜間保安灯の事前配布等の対応策をあらかじめ講ずる。
  • 以上を以て、従来の縦割りの防災政策の限界を克服し、防災庁主導による強力な事前防災のモデルケースとすることが期待される。

1.はじめに

政府は2026年11月2日に、災害対策の一元的な司令塔となる「防災庁」を発足させる。その前身に当たる内閣府防災担当の体制下では、「事前防災の遅れ」「専門ノウハウの蓄積不足」「他省庁への調整権限不足」という3つの課題が指摘されてきた。そこで、防災庁は人員を約1.6倍(352人)に増強し、縦割り行政を打破して平時から有事まで切れ目なく対応する。他省庁への「勧告権」も付与されるが、予算や人事の直接的決定権は伴わないため、実効性を高めるには勧告要件の具体化と、優先度の高い課題への絞り込みが求められる。

そこで、本稿は、首都直下地震や南海トラフ大地震など国難級の災害の発生が切迫する中、防災庁に期待される事前防災の司令塔としての新たな一手を提言する。

2.現状と課題

(1)国難級の災害の想定被害とその要因

首都直下地震と南海トラフ巨大地震の二大地震において、火災は国全体におよぶ甚大な経済損失をもたらす重大な直接被害要因である(表1)。これらの地震火災のうち、特に懸念されているのが電気火災である。過去の大震災でも、原因が特定された火災の6割超が電気起因であったと報告されている。例えば、阪神・淡路大震災(1995年)では61%(自治省消防庁 [1998])、東日本大震災(2011年)では約65%(公益社団法人日本火災学会 [2016])に上った。

二大地震に関する内閣府の試算は、電気火災単体による経済被害額を直接明示していないが、合計で約54兆円程度に上ると考えられる(同)。

電気火災が深刻化する理由は、「無人下の出火の同時多発」「道路寸断や断水による消防活動の難航」「木造住宅密集地域での大規模延焼」が連鎖するためである。「無人下の出火」の原因には、避難時における電熱機器等の消し忘れ(例:地震の揺れで電気ストーブやファンヒーターが転倒し、周囲のカーテンや本等の可燃物に着火)や、家具の下敷きになって破損したコードや家電のショート・発熱(通電火災)等、様々な場合が挙げられる。

表1 首都直下地震および南海トラフ巨大地震の想定経済被害と電気火災の位置づけ

項目 首都直下地震 南海トラフ巨大地震
A.建物、資産等の直接被害 最大約45.1兆円 最大約224.9兆円
B.うち、住宅・オフィス・家財・償却資産・在庫資産 最大38.8兆円 最大約193.4兆円
C.全壊および焼失による建物被害のうち、地震火災による焼失の割合 最大約67% 最大約33%
D.火災全体のうち、電気火災によるもの 60%
E.電気火災による直接被害(推計) 15.6兆円 38.3兆円
(計)約54兆円

(出典)A~C: 内閣府 [2025a]、同 [2025c]; D: 自治省消防庁 [1998]、公益社団法人日本火災学会 [2016]を参考に設定
(注)E: B×C×Dにより推計

(2)対応策としての感震ブレーカー

電気火災の未然防止手段として期待されているのが「感震ブレーカー」である。感震ブレーカーとは、震度5強などの大きな揺れを感知し、自動で電気を遮断する装置である。地震の混乱によりブレーカーを手動で落とす余裕がない時や、家を留守にしている時の電気火災を防ぐことができる。感震ブレーカーには、大きく3つの種類がある(表2)。

表2 感震ブレーカーの種類

種類 分電盤タイプ コンセントタイプ 簡易タイプ
(重りやバネを使用)
内蔵型 後付型 埋込型 差込型
信頼性 高い(加速度センサー使用) ばらつきが小さい ばらつきが生じうる
価格 約50,000円
~80,000円
約20,000円 約5,000円
~20,000円
約5,000円
~20,000円
3,000円~
4,000円程度
遮断対象 建物全体 特定のコンセントや回路
(電熱器具等)
建物全体
遮断の猶予 あり(一定の待機時間後) なし(即座)
電気工事 必要 不要

(出典)総務省消防庁 [2016]他各種資料より作成

政府は、火災による焼失棟数を、感震ブレーカーの設置率が50%になれば25%前後、100%になれば60%前後削減できると試算している※1。さらに、首都直下地震の被害想定見直しに伴う基本計画の改定(2026年6月閣議決定)に伴い、普及率を2035年度までに100%近くに引き上げる目標を設定した。こうした中、一部自治体は購入・設置費用の補助金(数千円〜10万円程度)を提供し、国も啓発活動や自治体への財政支援を展開してきた。

しかし、普及率は、家庭、企業ともに低迷している。家庭については、首都圏で約20%、全国では約5.2%にとどまっている(内閣府 [2023])。設置されていない理由については、「入手方法がわからない」「価格が高い」「設置が面倒」「よく知らない」「必要性を感じない」等が挙がっており、感震ブレーカーへの関心や電気火災への危機感が薄いことがうかがえる(表3)。

※1)詳しくは、南海トラフ巨大地震、首都直下地震各々において、普及率50%であれば22%と28%、普及率100%であれば53%と72%削減できるとしている。前者(南海トラフ巨大地震)の数値が低めなのは、後者と比べ電気由来以外の火災(産業用コンロ・危険物施設、化学薬品、LPG等)の割合が多いと見込まれるためである。

表3 首都圏の住宅における感震ブレーカーの設置状況と意向

感震ブレーカーの設置状況と意向 主な理由
いずれも設置しておらず、設置する予定もない
(危険密集地域:61.6%、危険密集地域以外:74.5%)
設置したいと思っているが、設置に至っていない
(24.4%、22.6%)
  • 入手方法がわからないから
  • 価格が高いから
  • 設置が面倒だから
設置する意向はない
(11.9%、20.1%)
  • 感震ブレーカーのことをよく知らないから
  • 必要性を感じないから
どちらでもない
(24.2%、30.8%)
  • N.A.
不明
(1.2%、1.0%)
  • N.A.
設置することが決まっているものがあるが、まだ設置できていない
(4.7%、1.3%)
  • もともと設置されていた
  • 新築・リフォーム時に勧められた
  • 報道等により、電気火災への対策が重要だと認識した
1つでも設置しているものがある
(30.5%、20.3%)
その他
(3.2%、3.8%)
  • N.A.

(出典)内閣府 [2025b] より作成

企業についても、東京商工会議所が会員企業を対象に行ったアンケート調査では、そもそも設置しているかどうか「分からない」との回答が53.5%に上っており、やはり関心の薄さがうかがえる(図1)。

図1 感震ブレーカーの設置状況および設置しない理由

感震ブレーカーの設置状況
感震ブレーカーの設置しない理由

(出典)東京商工会議所 [2026]

一方で、興味深いのは、感震ブレーカーを設置している家庭においてすら、設置の理由として「もともと設置されていた」との回答割合が多く(表3。特に「危険密集地域以外」では38.7%で突出して多い)、必ずしも感震ブレーカーへの関心が高いわけではない点である。

以上を踏まえ、本稿は、感震ブレーカーの普及に当たり、家庭や企業が「自発的に設置しなくても普及が進む仕組み」を作ることを課題として設定する。

3.提言

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