新たな防災気象情報と企業の水害対策 ―2026年の水害事例からみる情報の活用—【災害リスク情報(2026年11月)】
[このレポートを書いたコンサルタント]
- 会社名
- MS&ADインターリスク総研株式会社
- 部署名
- リスクマネジメント第一部
- 執筆者名
- 気象予報士 主任コンサルタント 山下 右恭 Ukyo Yamashita
2026.11.2
- 2026年は千葉県を中心に、各地で豪雨による浸水被害が相次ぎました。気象災害が年々激甚化する中、気象庁では今年5月から新たな防災気象情報の運用を開始しています。本稿では、今年発生した豪雨を振り返り、新たな情報がどのように発表されたのか、その有効性を検証します。
- その検証結果を踏まえ、新たな防災気象情報を企業の防災にどのように生かすべきか、平時の備えと大雨時の対応について解説します。
1. 新たな防災気象情報の変更点
本章では、令和8年5月29日から運用が開始された新たな防災気象情報について解説する。
これまで、自治体が発表する「住民が災害時にとるべき避難行動を示す警戒レベル(図1参照)」と、気象庁が発表する「警報や注意報等の防災気象情報」との関係が災害ごとに異なる運用となっており、複雑でわかりづらいという課題があった。そこで、気象庁では「防災気象情報に関する検討会」を設置し、約2年半かけて見直しを実施した。その結果、警戒レベル相当情報に該当する気象災害について、図2の通りに整理された。なお、変更前の防災気象情報を図3に示す。
※1 市町村が災害の状況を確実に把握できるものではない等の理由から、警戒レベル5は必ず発令される情報ではありません。 また、警戒レベル相当情報(氾濫発生情報、土砂災害警戒情報など)が発表されたとしても、必ずしも同時刻に同じレベルの避難情報が発令されるものではありません。
※2 警戒レベル3は、高齢者や障がいのある人、妊産婦、乳幼児連れの人など、避難に時間がかかる人は避難を開始するタイミングです。それ以外の人も、必要に応じ普段の行動を見合わせ始めたり、避難の準備をしたり、危険を感じたら自主的に避難するタイミングです。
出典:内閣府、消防庁 警戒レベルに関するチラシ1
出典:気象庁 新たな防災気象情報について(令和8年~)2
出典:水管理・国土保全局、気象庁 防災気象情報の改善について3
図2と図3を比べると、体系的に整理されたことがわかる。主な変更点としては、以下が挙げられる。
① 警報・注意報の情報名にレベルを付記
これまでの「大雨警報」や「土砂災害警戒情報」といった名称から、「レベル+情報名」になったため、相当する警戒レベルが一目でわかるようになった。
例)「大雨警報」→「レベル3大雨警報」
② レベル4相当「危険警報」が新設
避難指示発表の目安となる警戒レベル4相当の情報として、危険警報が新設された。これまでは、警戒レベル4に相当する情報が災害の種類によって異なっていたうえ、そもそもレベル4相当に該当する情報自体がない場合もあった。危険警報が新設されたことによって、4種類すべての災害に対して警戒レベル4「危険な場所から全員避難」が必要となるタイミングを把握しやすくなった。 例)「土砂災害警戒情報」→「レベル4土砂災害危険警報」
③ 河川氾濫に関する情報を整理
これまで気象台が市町村ごとに発表していた「洪水注意報」や「洪水警報」は廃止され、河川の規模や情報の発表方法に応じて、河川氾濫と大雨の情報に整理された。国や都道府県が水位を予測し、河川ごとに洪水のおそれを知らせる洪水予報河川(主に大きな河川、全国約400河川)については、「河川氾濫に関する情報」として河川ごとに発表される。一方、それ以外の中小河川の氾濫については、低地の浸水とあわせて「大雨に関する情報」に集約された。
④ 土砂災害に関する情報を統一
これまで土砂災害に関しては、「大雨警報(土砂災害)」「土砂災害警戒情報」など、危険度に応じて異なる名称で発表されていた。これらを「土砂災害に関する情報」として整理し、土砂災害の危険度がどの段階まで高まっているのか情報名から把握しやすくなった。
⑤ 高潮に関する情報の整理・予報の高度化
これまでは高潮警報と高潮特別警報が、ともにレベル4相当とされていたが、危険度に応じて区別された。また、潮位だけでなく波の打上げも考慮することで、より精度の高い高潮の予報が発表されるようになった。
上記見直しのほか、気象庁は線状降水帯の直前予測も同時期から運用を開始した。
これまで、気象庁では線状降水帯による大雨の発生が予測される場合、半日程度前から都道府県単位 (一部地域ではさらに細分化※)で「半日前予測」を発表してきた。今回、「半日前予測」に加えて新たに運用を開始した「直前予測」は、線状降水帯発生の2~3時間前を目標に発表され、「半日前予測」と「発生情報」の間を補う役割を担う(図4参照)。また、「神奈川県東部」「静岡県伊豆」といった普段の天気予報で使用される地域区分(一次細分区域単位)で発表されるため、半日前予測よりも対象地域が絞り込まれ、線状降水帯による大雨のおそれが高まっている地域をより具体的に把握できるようになった。
※北海道・沖縄県では府県予報区単位、鹿児島県では奄美地方、東京都では伊豆諸島・小笠原諸島を区別して発表する4 。
出典:気象庁 線状降水帯に関する情報をもとに作成4
この直前予測が可能になった背景には、線状降水帯の予測技術の進化がある。天気予報に用いる「局地モデル」のメッシュを2kmから1kmに細かくしたことで、山地や海岸線、局地的な風の収束などを、これまでより詳細に表現できるようになった。さらに、わずかに異なる条件で複数の予測を行う「局地アンサンブル予報システム」を導入し、大雨の発生可能性や予測の不確実性を捉えやすくした。これらによって、局地的な大雨の予測精度の向上が図られている(図5参照)。
気象庁は、新設した直前予測の予測精度について、適中率※1(予測が当たる割合)が50%程度、捕捉率※2(発生を事前に捉えられる割合)が80%程度としている。また、直前予測が発表された地域では、線状降水帯そのものが発生しなくても、3時間降水量100mm以上の大雨になる割合は90%程度と想定している4。この予測精度と実績に関しては、次章で取り上げることにする。
※1,2 適中率は予測「あり」の事例のうち実際に線状降水帯が発生した事例の割合、捕捉率は線状降水帯が発生した事例のうち事前に予測「あり」であった事例の割合を示す4 。
出典:気象庁 線状降水帯の予測技術が進化します~1km の高解像度モデルと新しいアンサンブル予報の運用開始~5
2026年の主な水害と防災気象情報の検証
本章では、2026年に発生した主な水害とその被害状況を整理する。そのうえで、特に被害が大きかった「令和8年8月千葉豪雨」における防災気象情報の発表状況を振り返るとともに、線状降水帯予測の実績と活用について検証する。
(1)2026年の主な水害と千葉豪雨の検証
2026年に発生した主な水害とその被害状況を表1に示す。
| 災害名 | 被害の様相 | 人的被害 | 住家被害 | ライフライン |
| 令和8年8月千葉豪雨(8/13~14) | 千葉県で線状降水帯が発生。千葉市では平年の8月総降水量の 3倍以上となる360mm超の降水量を観測。 県内広範囲でレベル5大雨特別警報・土砂災害特別警報が発表。県管理の17河川で浸水被害。 |
死者:13人 負傷者:46人 |
床上浸水: 1,054棟 床下浸水: 2,736棟 |
停電:最大約46,980戸 断水:最大約100戸(千葉市) →いずれも復旧済み |
| 8月27日からの北陸地方( 富山・石川・福井)の大雨 (8/27~30) | 前線の動きが活発になったため、富山・石川に線状降水帯が相次ぎ発生。24時間降水量が観測史上1位となる300mm超の記録的な大雨となった。 富山・石川、福井でレベル5大雨特別警報が発表。 |
死者:0人 負傷者:9人 (富山0人、石川6人、福井3人) |
床上浸水: 352棟 床下浸水: 750棟 |
停電:富山・石川で最大約3,320戸、福井で最大約150戸 断水:富山81戸、福井約398戸 →いずれも復旧済み |
| 愛知県を中心とする大雨 (9/8~9) | 低気圧や暖かく湿った空気の影響で、愛知・岐阜に線状降水帯が発生。名古屋市で1 時間 104.5mm(観測史上1位)の降水量を観測。 岐阜と愛知を流れる庄内川にレベル5氾濫特別警報が発表。 |
死者:0人 負傷者:38人 |
床上浸水: 396棟 床下浸水: 605棟 |
停電:発生 →最大停電戸数は県最終報に記載なし 断水:県最終報に記載なし |
| 台風第25号※による大雨 (9/19~21) | 台風第25号の接近により関東地方で記録的な大雨になる。 北印旛沼・角川集水路・長門川にて3地点4箇所の堤防が決壊し、周辺で大規模な浸水が発生。 |
死者:16人 (千葉9人、神奈川5人、その他2人) 負傷者:41人(千葉31人、神奈川7人、その他3人) |
床上浸水:394棟 床下浸水:1,177棟 → いずれも千葉県内のみ |
停電: 最大約62,704戸(東京電力管内) 断水:最大約9,070軒 (千葉県・茨城県) |
出典:気象庁、内閣府、愛知県公表資料等をもとに作成6,7,8,9,10
※被害数は公表時点の速報値を含んでおり、今後変更される場合がある。台風第25号の被害はその後の台風第26号や前線による被害と一部切り分けが困難なため、住家被害やライフラインに関しては、主な被災地域の数値を記載した。
表1に示した事例以外にも、2026年は全国各地で大雨による被害が相次いだ。都市部における短時間の猛烈な雨や、河川の氾濫・堤防決壊など、地域や降雨の状況によって被害の様相が異なることがわかる。
次に、特に被害が大きかった「令和8年8月千葉豪雨」について、防災気象情報の発表状況を詳しく見ていく。千葉県では8月13日から14日にかけて線状降水帯が相次いで発生し、短時間のうちに大雨の危険度が急激に高まった。中でも千葉市では、18時48分までの1時間に115.0mmという観測史上1位の猛烈な雨を観測し、最終的にはレベル5大雨特別警報が発表された11。
千葉市に発表された大雨に関する防災気象情報と、千葉市を含む「千葉県北西部」に発表された線状降水帯に関する情報を同時間軸で整理したものを表2に示す。
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| 日時 | 大雨に関する情報・気象状況 (千葉市) |
線状降水帯に関する情報 (千葉市を含む千葉県北西部※) |
|---|---|---|
| 8月13日 半日程度前 | ー | 半日前予測:発表なし |
| 15:32 | レベル2大雨注意報発表 | ー |
| 17:44 | レベル3大雨警報発表 | ー |
| 17:58 | ー | 線状降水帯発生情報(1回目)
〔北西部・南部〕 ※直前予測の発表なし |
| 18:00 レベル3→4 わずか16分 |
レベル4大雨危険警報発表 | ー |
| 18:48 | 千葉で1時間降水量 115.0mmを観測(観測史上1位) |
ー |
| 18:58 | ー | 線状降水帯直前予測(1回目) 〔北西部を含む〕 |
| 19:28 | ー | 線状降水帯直前予測(2回目) 〔北西部を含む〕 |
| 19:30 | レベル5大雨特別警報発表 |
ー |
| 20:38 | ー | 線状降水帯直前予測(3回目) 〔北西部を含む〕 |
| 20:58 | ー | 線状降水帯発生情報(2回目) 〔北西部・北東部・南部〕 |
| 22:48 | ー | 線状降水帯直前予測(4回目) 〔北西部を含む〕 |
| 22:48 | ー | 線状降水帯発生情報(3回目) 〔北西部・北東部〕 |
出典:気象庁、銚子地方気象台資料等をもとに作成11,12
※線状降水帯の直前予測・発生情報は市町村単位ではなく一次細分区域単位で発表される。千葉市は「千葉県北西部」に含まれるため、本表では北西部を対象に含む情報を掲載した。
表2の通り、千葉市では15時32分にレベル2大雨注意報、17時44分にレベル3大雨警報、18時00分にはレベル4大雨危険警報が発表され、その後19時30分にはレベル5大雨特別警報が発表された。レベル3からレベル4まではわずか16分、レベル4からレベル5までも1時間30分であり、短時間のうちに大雨の危険度が急激に高まったことがわかる。
また、線状降水帯に関する情報をみると、半日前予測は発表されておらず、千葉市を含む千葉県北西部では17時58分に最初の線状降水帯発生情報が発表された。その後、18時58分に初めて直前予測が発表されたが、この時点では千葉市ですでに18時48分までの1時間に115.0mmの猛烈な雨を観測していた。つまり、最初の線状降水帯については事前に予測することができず、直前予測が発表された時点ではすでに記録的な大雨となっていたことになる。
気象庁は、線状降水帯の発生を予測できなかった理由として、局地的な冷気と暖かく湿った空気の影響で雨雲が千葉市付近に停滞したが、この状況を事前に予測することが難しかったとしている13。その結果、短時間で災害リスクが急激に高まり、警報や危険警報等の防災気象情報が相次いで発表された。このため、千葉豪雨では防災気象情報をもとに大雨の危険性を把握し、十分な時間的余裕をもって避難や浸水対策を開始することが難しかったと推測される。特に、レベル4相当の情報や線状降水帯直前予測が発表されてから対応を開始する場合には、十分な時間を確保できなかった可能性が高い。
一方、2026年に発生した大雨の中には、線状降水帯を事前に予測できた事例もある。表1で示した「愛知県を中心とする大雨」では、線状降水帯の半日前予測及び直前予測が発表された後に、実際に線状降水帯が発生した。名古屋市に発表された大雨に関する防災気象情報と、名古屋市を含む「愛知県西部」に発表された線状降水帯に関する情報を同時間軸で整理したものを表3に示す。
| 日時 | 大雨に関する情報・気象状況 (名古屋市) |
線状降水帯に関する情報 (名古屋市を含む愛知県西部※) |
|---|---|---|
| 9月8日 半日程度前 | ー | 半日前予測:発表あり |
| 13:46 | レベル2大雨注意報発表 | ー |
| 15:06 | ー | |
| 15:34 | レベル4大雨危険警報発表 | ー |
| 15:48 | ー | 線状降水帯直前予測 |
| 16:28 | ー | 線状降水帯発生情報 |
| 16:53 | 名古屋で1時間降水量 104.5mmを観測(観測史上1位) |
ー |
| 18:20 | (参考)庄内川レベル5氾濫特別警報発表 | ー |
出典:名古屋地方気象台令和8年9月8日から9日にかけての大雨に関する愛知県気象速報をもとに作成9
※線状降水帯の直前予測・発生情報は市町村単位ではなく一次細分区域単位で発表される。名古屋市は「愛知県西部」に含まれるため、本表では西部を対象に含む情報を掲載した。
表3の通り、線状降水帯に関する情報は半日前予測、直前予測ともに発表され、その後16時28分に実際に線状降水帯が発生しており、事前に捉えることができた事例といえる。ただし、レベル3大雨警報からレベル4大雨危険警報までは28分、直前予測から線状降水帯発生情報までも40分と短時間であり、予測が発表された場合であっても、実際に企業が対応できる時間は必ずしも十分とは言えない。
(2)線状降水帯予測の実績と活用
線状降水帯予測は、全体としてどの程度の精度で発表されているのか。気象庁では、運用開始以降、半日前予測及び直前予測について、実際の発生状況との検証を行っている。2026年9月9日時点の予測実績を表4に示す。
| 半日前予測 半日程度前 |
直前予測 2~3時間前を目標 |
|
|---|---|---|
| 適中率 | 13% (12 / 89回) |
33% (22 / 66回) |
| 捕捉率 | 52% (12 / 23回) |
69% (22 / 32回) |
| 予測地域で3時間100mm以上の 大雨となった割合 |
49% (44 / 89回) |
91% (60 / 66回) |
出典:気象庁:令和8年の実績~線状降水帯半日前予測、線状降水帯直前予測~をもとに作成14
半日前予測の実績は、適中率13%、捕捉率52%であった。この数値だけを見ると適中率が低く感じられるが、線状降水帯は雨域の形状や大きさ、降水量など複数の条件を満たした場合に判定されるため、大雨となっても「適中」に含まれない場合がある。これらの数値を見る上で重要なのが、表4に示した「予測地域で3時間100mm以上の大雨となった割合」が49%であるという点である。これは、線状降水帯の発生の有無にかかわらず、半日前予測が発表された事例の約半数で実際に大雨となったことを示しており、大雨への警戒や事前の準備を始めるうえでは十分な確率といってもよい。
また、直前予測では、適中率33%、捕捉率69%と半日前予測よりも高く、予測が発表された地域の 91%で3時間100mm以上の大雨となった。ただし、直前予測は「2~3時間前」の発表を目標としているものの、実際の発表から線状降水帯発生までの時間は平均60分程度であり、十分な対応時間を確保できない場合もある。
以上の実績から、線状降水帯の予測は、線状降水帯そのものの適中率や捕捉率には課題がある一方で、予測が発表された地域では実際に大雨となる割合が高く、大雨の可能性を事前に把握する上で有用な情報である。ただし、千葉豪雨のように事前に予測できない場合や、直前予測が発表されても十分な時間的余裕がない場合があることには留意が必要である。
3. 新たな防災気象情報を生かした企業の対応
前章で述べた通り、防災気象情報や線状降水帯予測には、十分な時間的余裕をもって発表されない場合もある。このため企業では、平時から自社の水害リスクを把握するとともに、防災気象情報等の段階に応じてどのような対応をとるかをあらかじめ定め、緊急時には速やかに行動に移せるよう備えておく必要がある。
(1)平時の備え
①自社拠点の水害リスクと避難方法を確認する
まず、自治体等が公表するハザードマップを用いて、自社拠点における洪水、内水氾濫、土砂災害等のリスクを確認する。例えば、国土交通省が公表している「重ねるハザードマップ15」では、所在地の災害リスク(河川氾濫による浸水、土砂災害等)を確認することができる。拠点に浸水リスクがある場合、想定されている浸水深により、垂直避難(建物の上階への避難)か水平避難(建物からの立ち退き避難)かを検討し、水平避難が必要な場合は自治体が設置する避難所等、最適な避難先・避難経路を選定することをお勧めする。
②緊急時の対応を定めておく
水害のおそれが高まった際に迅速に対応するためには、平時から緊急時に実施する対策や手順を定めておくことが重要である。特に、止水板の設置や重要設備・商品の移動等、実施に時間や人手を要する対策については、必要な資機材を準備するとともに、誰が、どのような手順で実施するのかをあらかじめ決めておく必要がある。また、従業員の帰宅や出社見合わせ、操業停止などについても、判断基準や連絡方法を事前に定めておくことが望ましい。主な事前準備の例を表5に示す。
| 対策 | 平時に準備すること |
|---|---|
| 情報収集・対応体制 | 防災気象情報を確認する担当者や、社内の連絡・指示体制を決める |
| 建物への浸水防止 | 止水板・土のう・水のう等を準備し、設置方法を確認する |
| 設備・商品等の保護 | 重要設備・書類・商品等の上階や高所への移動方法を決める |
| 従業員対応 | 帰宅・出社見合わせ等の判断基準や連絡方法を決める |
| 事業継続 | 休業・操業停止の判断基準や、取引先への連絡等の手順を決める |
(2)緊急時の対応
① 防災気象情報等に応じた対応
大雨が予想される際には、気象庁や自治体等が発表する情報を継続的に確認し、危険度の高まりに応じて、平時に定めた対策を早めに実行することが重要である。特に、千葉豪雨のように短時間で状況が悪化する場合もあるため、レベル4相当の危険警報等が発表される前から、危険度に応じて段階的に準備や対応を進める必要がある。大雨に関する情報を例として、企業の対応例を表6に示す。
出典:内閣府、消防庁 警戒レベルに関するチラシをもとに作成3
※本表では大雨に関する情報を例示している。実際には、自社拠点の災害リスクに応じて、河川氾濫、土砂災害、高潮に関する情報についても確認する必要がある。
表6の企業の対応例について、実際の対応開始時期は自社拠点の水害リスクや施設・事業の特性、対策に要する時間等を踏まえて、定めておくことをお勧めする。特に、レベル4は「避難を検討し始める段階」ではなく、危険な場所から避難する段階である。千葉豪雨のように、レベル3からレベル4までの時間が極めて短い場合もあることから、企業はレベル3までの段階を一つの目安として、浸水対策の実施、従業員の帰宅や操業停止等の具体的な判断を開始することが望ましい。
また、防災気象情報に加えて、線状降水帯の半日前予測や直前予測も大雨への警戒を高めるために活用したい。第2章で示したとおり、これらの情報には予測の不確実性があり、現状の予測技術では必ずしも線状降水帯の発生を事前に捉えられるわけではない。一方で、予測が発表された地域では実際に大雨となる割合が高いことから、次のように活用することが望まれる。
●線状降水帯 半日前予測
大雨への警戒を高め、止水資機材の準備や重要設備・商品の移動など、時間を要する対策を前倒しするきっかけとして活用する。
●線状降水帯 直前予測
大雨への警戒をさらに高め、平時に定めた防災行動を速やかに実行するきっかけとして活用する。ただし、実際の線状降水帯発生までの時間が短い場合もあるため、直前予測が発表されてから対策を検討し始めることは避ける。
②自社周辺の危険度を確認する
警報や危険警報等が発表された場合には、情報が発表されたかどうかだけでなく、自社拠点や従業員のいる地域で災害の危険度がどの程度高まっているかを確認することが重要である。気象庁や国土交通省では、災害の危険度や河川の状況を地図上で確認できる情報を提供している。ここでは、自社周辺の危険度を確認するための情報として、「キキクル(図6参照)」と「川の防災情報(図7参照)」を紹介する。
出典:気象庁 大雨キキクル16
「キキクル」は、大雨による浸水や土砂災害等の危険度を地図上で確認でき、自社拠点周辺で危険度がどこまで高まっているかを確認する際に活用できる。また、「川の防災情報」は、河川の水位や洪水予報、河川カメラ、雨量等を確認でき、河川氾濫のおそれがある場合には、自社拠点周辺の河川の状況を把握する際に活用できる。
これらの情報はそれぞれ役割が異なるため、一つの情報だけで判断するのではなく、防災気象情報の発表状況と、キキクル等の面的な情報を組み合わせて確認することが重要である。
出典:国土交通省 川の防災情報17
4. まとめ
2026年5月から運用が開始された新たな防災気象情報では、警戒レベルとの対応が明確になり、大雨や河川氾濫等の危険度を把握しやすくなった。また、線状降水帯の直前予測が新たに開始され、大雨をより早く捉えるための情報も充実してきている。
一方で、千葉豪雨でみられたように局地的な大雨を事前に予測できない場合や、防災気象情報が短時間に相次いで発表される場合もある。防災気象情報は、発表されてから対応を考えるための情報ではなく、平時に定めた防災行動を開始・実行するための「トリガー」として活用することが重要である。企業は平時から自社拠点の水害リスクを把握し、防災気象情報の段階に応じた対応をあらかじめ定めておくとともに、大雨時にはキキクルや川の防災情報等も組み合わせて自社周辺の状況を確認し、時間的余裕がある段階から対応を開始することが求められる。
1)内閣府、消防庁:警戒レベルに関するチラシ
https://www.bousai.go.jp/oukyu/hinanjouhou/r3_hinanjouhou_guideline/img/poster1.jpg
2)気象庁:新たな防災気象情報について(令和8年~)
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/bosai/keiho-update2026/index.html
3)水管理・国土保全局、気象庁:防災気象情報の改善について
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/bosai/keiho-update2026/pdf/outline_info2026.pdf
4)気象庁:線状降水帯に関する情報
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/bosai/kishojoho_senjoukousuitai.html
5)気象庁:線状降水帯の予測技術が進化します~1kmの高解像度モデルと新しいアンサンブル予報の運用開始~
https://www.jma.go.jp/jma/press/2603/13a/20260313_nwp.pdf
6)内閣府:令和8年8月千葉豪雨による被害状況等について
https://www.bousai.go.jp/updates/r8chiba_ooame/pdf/260909_1200.pdf
7)内閣府:令和8年8月27日からの大雨による被害状況等について
https://www.bousai.go.jp/updates/r8hokuriku_ooame/pdf/260902_1000.pdf
8)愛知県:9月8日大雨による被害情報について(第11報)
https://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/631507.pdf
9)名古屋地方気象台:令和8年9月8日から9日にかけての大雨に関する愛知県気象速報
https://www.data.jma.go.jp/nagoya/shosai/news/sokuhou/S_nagoya_20260916.pdf
10)内閣府:令和8年台風第25号による被害状況等について
https://www.bousai.go.jp/updates/r8typhoon25/pdf/261002_0800.pdf
11)気象庁:令和8年8月千葉豪雨
https://www.data.jma.go.jp/stats/data/bosai/report/2026/20260916/jyun_sokuji20260813-0814.pdf
12)銚子地方気象台:2026年(令和8年)8月の特別警報・危険警報・警報・注意報 発表履歴表
https://www.data.jma.go.jp/choshi/shosai/doc/gaikyo/warning/warning_202608.pdf
13)気象庁:長官会見要旨(令和8年9月16日)
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/tyoukan/2026/dg_20260916.html?utm_source=chatgpt.com
14)気象庁:令和8年の実績 ~線状降水帯半日前予測、線状降水帯直前予測~(令和8年9月9日時点)
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/jirei/senjoukousuitai/R08jisseki.pdf
15)国土交通省:重ねるハザードマップ
https://disaportal.gsi.go.jp/maps/
16)気象庁:大雨キキクル
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/bosai/riskmap_heavyrain.html?utm_source=chatgpt.com
17)国土交通省:川の防災情報
https://www.river.go.jp/portal/?region=80&contents=multi
PDFでもご覧いただけます