レポート/資料

新たな防災気象情報と企業の水害対策 ―2026年の水害事例からみる情報の活用—【災害リスク情報(2026年11月)】

[このレポートを書いたコンサルタント]

会社名
MS&ADインターリスク総研株式会社
部署名
リスクマネジメント第一部
執筆者名
気象予報士 主任コンサルタント 山下 右恭 Ukyo Yamashita

2026.11.2

要旨
  • 2026年は千葉県を中心に、各地で豪雨による浸水被害が相次ぎました。気象災害が年々激甚化する中、気象庁では今年5月から新たな防災気象情報の運用を開始しています。本稿では、今年発生した豪雨を振り返り、新たな情報がどのように発表されたのか、その有効性を検証します。
  • その検証結果を踏まえ、新たな防災気象情報を企業の防災にどのように生かすべきか、平時の備えと大雨時の対応について解説します。

1. 新たな防災気象情報の変更点

本章では、令和8年5月29日から運用が開始された新たな防災気象情報について解説する。

これまで、自治体が発表する「住民が災害時にとるべき避難行動を示す警戒レベル(図1参照)」と、気象庁が発表する「警報や注意報等の防災気象情報」との関係が災害ごとに異なる運用となっており、複雑でわかりづらいという課題があった。そこで、気象庁では「防災気象情報に関する検討会」を設置し、約2年半かけて見直しを実施した。その結果、警戒レベル相当情報に該当する気象災害について、図2の通りに整理された。なお、変更前の防災気象情報を図3に示す。

図1. 警戒レベル
サンプル画像

※1 市町村が災害の状況を確実に把握できるものではない等の理由から、警戒レベル5は必ず発令される情報ではありません。 また、警戒レベル相当情報(氾濫発生情報、土砂災害警戒情報など)が発表されたとしても、必ずしも同時刻に同じレベルの避難情報が発令されるものではありません。

※2 警戒レベル3は、高齢者や障がいのある人、妊産婦、乳幼児連れの人など、避難に時間がかかる人は避難を開始するタイミングです。それ以外の人も、必要に応じ普段の行動を見合わせ始めたり、避難の準備をしたり、危険を感じたら自主的に避難するタイミングです。

出典:内閣府、消防庁 警戒レベルに関するチラシ1

図2. 新しい防災気象情報
サンプル画像

出典:気象庁 新たな防災気象情報について(令和8年~)2

図3. 変更前の防災気象情報
サンプル画像

出典:水管理・国土保全局、気象庁 防災気象情報の改善について3

図2と図3を比べると、体系的に整理されたことがわかる。主な変更点としては、以下が挙げられる。

① 警報・注意報の情報名にレベルを付記

これまでの「大雨警報」や「土砂災害警戒情報」といった名称から、「レベル+情報名」になったため、相当する警戒レベルが一目でわかるようになった。

例)「大雨警報」→「レベル3大雨警報」

② レベル4相当「危険警報」が新設

避難指示発表の目安となる警戒レベル4相当の情報として、危険警報が新設された。これまでは、警戒レベル4に相当する情報が災害の種類によって異なっていたうえ、そもそもレベル4相当に該当する情報自体がない場合もあった。危険警報が新設されたことによって、4種類すべての災害に対して警戒レベル4「危険な場所から全員避難」が必要となるタイミングを把握しやすくなった。 例)「土砂災害警戒情報」→「レベル4土砂災害危険警報」

③ 河川氾濫に関する情報を整理

これまで気象台が市町村ごとに発表していた「洪水注意報」や「洪水警報」は廃止され、河川の規模や情報の発表方法に応じて、河川氾濫と大雨の情報に整理された。国や都道府県が水位を予測し、河川ごとに洪水のおそれを知らせる洪水予報河川(主に大きな河川、全国約400河川)については、「河川氾濫に関する情報」として河川ごとに発表される。一方、それ以外の中小河川の氾濫については、低地の浸水とあわせて「大雨に関する情報」に集約された。

④ 土砂災害に関する情報を統一

これまで土砂災害に関しては、「大雨警報(土砂災害)」「土砂災害警戒情報」など、危険度に応じて異なる名称で発表されていた。これらを「土砂災害に関する情報」として整理し、土砂災害の危険度がどの段階まで高まっているのか情報名から把握しやすくなった。

⑤ 高潮に関する情報の整理・予報の高度化

これまでは高潮警報と高潮特別警報が、ともにレベル4相当とされていたが、危険度に応じて区別された。また、潮位だけでなく波の打上げも考慮することで、より精度の高い高潮の予報が発表されるようになった。

上記見直しのほか、気象庁は線状降水帯の直前予測も同時期から運用を開始した。

これまで、気象庁では線状降水帯による大雨の発生が予測される場合、半日程度前から都道府県単位 (一部地域ではさらに細分化※)で「半日前予測」を発表してきた。今回、「半日前予測」に加えて新たに運用を開始した「直前予測」は、線状降水帯発生の2~3時間前を目標に発表され、「半日前予測」と「発生情報」の間を補う役割を担う(図4参照)。また、「神奈川県東部」「静岡県伊豆」といった普段の天気予報で使用される地域区分(一次細分区域単位)で発表されるため、半日前予測よりも対象地域が絞り込まれ、線状降水帯による大雨のおそれが高まっている地域をより具体的に把握できるようになった。

※北海道・沖縄県では府県予報区単位、鹿児島県では奄美地方、東京都では伊豆諸島・小笠原諸島を区別して発表する4 。

図4. 線状降水帯に関する情報のイメージ
サンプル画像

出典:気象庁 線状降水帯に関する情報をもとに作成4

この直前予測が可能になった背景には、線状降水帯の予測技術の進化がある。天気予報に用いる「局地モデル」のメッシュを2kmから1kmに細かくしたことで、山地や海岸線、局地的な風の収束などを、これまでより詳細に表現できるようになった。さらに、わずかに異なる条件で複数の予測を行う「局地アンサンブル予報システム」を導入し、大雨の発生可能性や予測の不確実性を捉えやすくした。これらによって、局地的な大雨の予測精度の向上が図られている(図5参照)。

気象庁は、新設した直前予測の予測精度について、適中率※1(予測が当たる割合)が50%程度、捕捉率※2(発生を事前に捉えられる割合)が80%程度としている。また、直前予測が発表された地域では、線状降水帯そのものが発生しなくても、3時間降水量100mm以上の大雨になる割合は90%程度と想定している4。この予測精度と実績に関しては、次章で取り上げることにする。

※1,2 適中率は予測「あり」の事例のうち実際に線状降水帯が発生した事例の割合、捕捉率は線状降水帯が発生した事例のうち事前に予測「あり」であった事例の割合を示す4 。

図5. 令和6年7月14日9時の九州北部での線状降水帯の事例の再現実験
サンプル画像

出典:気象庁 線状降水帯の予測技術が進化します~1km の高解像度モデルと新しいアンサンブル予報の運用開始~5

2026年の主な水害と防災気象情報の検証

本章では、2026年に発生した主な水害とその被害状況を整理する。そのうえで、特に被害が大きかった「令和8年8月千葉豪雨」における防災気象情報の発表状況を振り返るとともに、線状降水帯予測の実績と活用について検証する。

(1)2026年の主な水害と千葉豪雨の検証

2026年に発生した主な水害とその被害状況を表1に示す。

表1. 2026年に発生した主な水害と被害状況
災害名 被害の様相 人的被害 住家被害 ライフライン
令和8年8月千葉豪雨(8/13~14) 千葉県で線状降水帯が発生。千葉市では平年の8月総降水量の 3倍以上となる360mm超の降水量を観測。
県内広範囲でレベル5大雨特別警報・土砂災害特別警報が発表。県管理の17河川で浸水被害。
死者:13人
負傷者:46人
床上浸水: 1,054棟
床下浸水: 2,736棟
停電:最大約46,980戸
断水:最大約100戸(千葉市)
→いずれも復旧済み
8月27日からの北陸地方( 富山・石川・福井)の大雨 (8/27~30) 前線の動きが活発になったため、富山・石川に線状降水帯が相次ぎ発生。24時間降水量が観測史上1位となる300mm超の記録的な大雨となった。
富山・石川、福井でレベル5大雨特別警報が発表。
死者:0人 負傷者:9人
(富山0人、石川6人、福井3人)
床上浸水: 352棟
床下浸水: 750棟
停電:富山・石川で最大約3,320戸、福井で最大約150戸
断水:富山81戸、福井約398戸
→いずれも復旧済み
愛知県を中心とする大雨 (9/8~9) 低気圧や暖かく湿った空気の影響で、愛知・岐阜に線状降水帯が発生。名古屋市で1 時間 104.5mm(観測史上1位)の降水量を観測。
岐阜と愛知を流れる庄内川にレベル5氾濫特別警報が発表。
死者:0人
負傷者:38人
床上浸水: 396棟
床下浸水: 605棟
停電:発生
→最大停電戸数は県最終報に記載なし 断水:県最終報に記載なし
台風第25号※による大雨 (9/19~21) 台風第25号の接近により関東地方で記録的な大雨になる。
北印旛沼・角川集水路・長門川にて3地点4箇所の堤防が決壊し、周辺で大規模な浸水が発生。
死者:16人 (千葉9人、神奈川5人、その他2人)
負傷者:41人(千葉31人、神奈川7人、その他3人)
床上浸水:394棟
床下浸水:1,177棟
→ いずれも千葉県内のみ
停電: 最大約62,704戸(東京電力管内)
断水:最大約9,070軒 (千葉県・茨城県)

出典:気象庁、内閣府、愛知県公表資料等をもとに作成6,7,8,9,10

※被害数は公表時点の速報値を含んでおり、今後変更される場合がある。台風第25号の被害はその後の台風第26号や前線による被害と一部切り分けが困難なため、住家被害やライフラインに関しては、主な被災地域の数値を記載した。

表1に示した事例以外にも、2026年は全国各地で大雨による被害が相次いだ。都市部における短時間の猛烈な雨や、河川の氾濫・堤防決壊など、地域や降雨の状況によって被害の様相が異なることがわかる。

次に、特に被害が大きかった「令和8年8月千葉豪雨」について、防災気象情報の発表状況を詳しく見ていく。千葉県では8月13日から14日にかけて線状降水帯が相次いで発生し、短時間のうちに大雨の危険度が急激に高まった。中でも千葉市では、18時48分までの1時間に115.0mmという観測史上1位の猛烈な雨を観測し、最終的にはレベル5大雨特別警報が発表された11。

千葉市に発表された大雨に関する防災気象情報と、千葉市を含む「千葉県北西部」に発表された線状降水帯に関する情報を同時間軸で整理したものを表2に示す。

表2. 令和8年8月千葉豪雨 千葉市の大雨情報と線状降水帯に関する情報の推移

残り7106文字
この先は「続きを読む」を押してください。

PDFでもご覧いただけます