車両水没はなぜ起きる?相次ぐ豪雨に学ぶ備えとは
[このコラムを書いた研究員]

- 専門領域
- 防災・減災
- 役職名
- 上席研究員
- 執筆者名
- 笹森 愛美 Manami Sasamori
2026.10.29
2026年8月、千葉県、石川県、富山県は、相次いで記録的な豪雨に見舞われました。千葉県では多くの車が道路上に取り残されました。日本損害保険協会によると、8月28日時点で損保各社の車両保険の支払保険金額は、合計約206億円、支払台数は19,182台にのぼりました※1。一方、石川県と富山県では土砂崩れや冠水などによる道路の寸断により集落が孤立しました。豪雨といっても、地域特性や雨の降り方によって被害の実態は異なります。しかし、いずれの地域でも道路が冠水し、車が水没する事例がみられました。
車両水没は、どのようにして起きるのでしょうか。今後の豪雨に備えて、命だけでなく車の被害も防ぐためのポイントを整理します。
※1 日本損害保険協会「令和8年8月千葉豪雨に係る各種損害保険の支払件数・支払保険金等について」(2026年8月28日現在、2026年9月17日発表)による。商品車を含む車両保険が対象。支払台数・件数および支払保険金は見込を含む数値のため実績値とは異なる。
流れ
- 記録的な豪雨が増えている
- 豪雨被害は地域特性や雨の降り方によって異なる
- 車両水没は、どのようにして起きるのか?
- 車両水没のリスクを認識していても防げないのはなぜか?
- 豪雨から命を守り、車の被害も防ぐための4つのポイント
記録的な豪雨が増えている
「最近、強い雨が増えた気がする」。そう感じている方も多いのではないでしょうか。
2026年8月13日から14日にかけて、千葉県では線状降水帯が発生し、千葉市などの各地で観測史上1位となる雨量を記録しました。その約2週間後の8月27日には、石川県と富山県でも線状降水帯が相次いで発生。石川県羽咋市や富山県氷見市などで、複数の時間幅(3時間から24時間まで)の降水量が観測史上1位を更新しました。
近年、こうした豪雨は増加傾向にあります。気象庁によると、全国で観測された1時間降水量50mm以上の非常に激しい雨の年間発生回数は、1976~1985年と比べ、2016~2025年には約1.5倍に増えています。
また、日本の6~10月は例年、大雨や台風によって川が増水しやすいことにも注意が必要です。河川管理の分野では、6~10月ごろを「出水期」と呼びます。この出水期は、まさに大雨への備えを意識しておきたい時期といえます。
豪雨被害は地域特性や雨の降り方によって異なる
2026年8月の千葉県の豪雨(以降、千葉豪雨)では、雨のピークが帰宅時間帯と重なり、鉄道の運転見合わせや道路冠水などの交通被害も相次ぎました。また、これまで浸水リスクが十分に想定されていなかった場所にも被害が広がりました。ウェザーニュースの調査によると、千葉県内の被害を示す投稿のうち55.7%は、浸水が想定されていたエリア外からのものでした。
今回の千葉豪雨では、各地で「内水氾濫」が発生しました。これは河川から水があふれる「外水氾濫」とは異なり、短時間の大雨により下水道などの排水が追いつかず、街中に水があふれる現象です。
※ 本図は外水氾濫と内水氾濫の主な発生メカニズムを模式的に示したものであり、実際の浸水状況や河川・下水道・排水の構造を正確に再現したものではありません。
一方、石川県では大雨により複数の河川が氾濫しました。また、冠水や土砂崩れなどにより道路が寸断され、富山県氷見市では一時、6つの集落が孤立しました。
このように、豪雨といっても、人口や道路網・地形などの地域特性、雨の強さ・雨量などによって、被害の現れ方は変わります。また、道路や車が使えなくなれば、従業員が出勤できない、商品や資材を運べないといった影響が生じます。道路冠水をもたらす豪雨は、物流やサプライチェーンを通じて企業活動に影響を及ぼすリスクでもあります。
車両水没は、どのようにして起きるのか?
千葉豪雨では、多くの車が冠水した道路に取り残されました。千葉市内の道路上では約2,500台の被災車両が確認され※2、撤去作業も課題となりました。なぜ、これほど多くの車が動けなくなったのでしょうか。
※2 千葉市内道路上の被災車両約2,500台(千葉市発表、2026年8月16日時点)。その後8月22日までにほぼ撤去完了。
従来の下水道は、1時間50mm程度の雨に対応するよう整備するのが一般的でした。それに対し、千葉豪雨では、千葉市で1時間に115mmを観測しています。
同じ雨量でも地形や排水設備により冠水の程度は変わりますが、このように短時間に排水能力を大きく上回る雨が降れば、道路の状況が急激に変わる可能性があります。一見、「まだ走れそう」に見える道路でも、走行しているうちに危険な水深になる恐れがあります。
政府は、千葉豪雨を受けて公表した資料のなかで「車はわずか30cm程度の浸水でも走行不能になる場合があります」と注意を呼びかけています。水位が車体の床面を超えると電気装置が損傷するおそれがあり、ドア付近まで水が達すると水圧でドアが開きにくくなります。水深が上がれば、車両水没のリスクだけでなく、命にも危険が及びます。
「レベル5大雨特別警報が発表されたときの車運転の注意点」(2026年8月)
車両水没のリスクを認識していても防げないのはなぜか?
大雨の予報やハザードマップなど、危険を知らせる情報は以前より充実しています。それでも、車の立ち往生や水没は繰り返されています。
その理由の一つは、気象情報だけでは、「自分の身に実際に起こりうること」が想像できていないからではないでしょうか。「1時間に50mmの雨が降る」と聞いても、自宅前の道路がいつ冠水するのか、いつもの通勤経路が通れるのか、即座には判断できません。
人の判断のクセも影響します。危険が迫っていても「まだ大丈夫だろう」と考えたり、前の車が進んでいるのを見て「自分も行ける」と判断したり、前回は被害がなかったから今回も大丈夫と考える心理も働きます。こうした心理には、危険を過小評価する「正常性バイアス」や、周囲の行動に影響される「同調性バイアス」などがあります。水害時の避難行動に関する研究でも、こうした心理的な要因が避難を妨げる可能性が指摘されています。
一方、過去に被災した経験がある人々が、早めの行動をとった例が報道されています。千葉市内のあるマンションでは、約10年前にも地下駐車場が浸水し、車が水没する被害がありました。今回の千葉豪雨では、過去の経験から住民が早めに車を移動。地下駐車場は再び浸水しましたが、車の被害を防ぐことができました。実際に経験することで行動が変わった例といえます。
豪雨のピークを迎えてからではなく、その前に判断し、備えることが大切です。危険を認識しているだけで終わらせず、「大雨が予想されたらどんな対応をするか」を具体的に決めておくことが、いざというときの判断基準になります。
豪雨から命を守り、車の被害も防ぐための4つのポイント
① 事前のハザードマップの確認
まず確認しておきたいのが、自宅や勤務先などの駐車場への浸水や、普段使う道路の冠水リスクです。河川氾濫が想定されていない場所でも、内水氾濫により道路が冠水することがあります。
自治体が公表する洪水・内水ハザードマップや、雨水出水浸水想定区域図などに事前に目を通すことが重要です。ただし、内水氾濫に関するハザードマップを公表していない自治体もあります。その場合、通勤・通学路などに、アンダーパスや周囲より低い道路、過去に冠水・土砂崩れなどが発生した場所がないか確認し、いざというときの代替ルート・手段を決めておきます。自分が暮らす地域ではどのようなリスクがありそうか普段から確認しておくことも、豪雨への備えです。
また、避難場所や避難方法の確認も欠かせません。当社が2026年に実施したアンケート調査※3では、自治体が推奨する避難場所・避難方法について、48.6%が「確認したことがない・今後も確認しないと思う」と回答しています。避難先だけでなく、そこまでの経路や移動手段についても、あらかじめ確認しておくとよいでしょう。
※3 地震発生時の車中泊避難 メリット・リスクなどを1,000人に調査 ~結果から見えること | RM NAVI
② 大雨予報・警報の確認
大雨の予報が出たら、雨の強さにも注目しましょう。気象庁では、1時間30〜50mmを「激しい雨」(道路が川のようになる)、50mm以上を「非常に激しい雨」としています。大雨の可能性は数日前から確認できますが、局地的な豪雨は前日の予測も難しい場合があり、直近の雨雲の動きもこまめに確認することが必要です。また、道路冠水を発生させるのは雨の強さだけではありません。3時間雨量などが示す、降り続ける「雨の量」にも注意が必要です。
2026年5月より、気象庁が発表する大雨警報などの防災気象情報は、危険度を示すレベルをつけて、レベル1~5の5段階に整理されました。ただし、警報は必ずしも段階的に上がるとは限りません。危険度が短時間のうちに急上昇する場合も想定し、なるべく早い時点で、移動を控える判断や避難の準備を考えておくことが大切です。
気象庁が提供している危険度が高い場所を地図に示す「キキクル(危険度分布)」もあわせて確認することで、より詳細な情報を知ることができます。
③ 車を守るための備え
車両水没を防ぐには、ハザードマップの確認に加えて、車そのものを守る備えも欠かせません。
例えば、自宅や職場の駐車場が浸水想定区域や標高の低い場所にある場合は、止水板などの耐水設備の設置を検討しましょう。また、水没を防止するために車両全体を覆う防水カバーなども販売されています。
車を浸水のおそれがない場所に事前に移動させる必要がある場合は、あらかじめ安全な移動先と移動ルートを決めておくことが大切です。大雨が予想されるときは、警報レベル2~3などの早い段階からこのような対策を行うことで、急な豪雨のピークにも慌てずに済みます。
④ 運転・避難の正しい判断
道路が冠水してから車を動かすのは危険です。政府は、警戒レベル5大雨特別警報の段階は「すでに安全な避難ができず、命が危険な状況」とし、浸水した場所での車の移動はむやみに行わないよう呼びかけています。
そして、冠水した道路には入らないことが重要です。前の車が通れたからといって、自分の車も通れるとは限りません。実際の冠水路は水深や水の中の状況が見えにくく、マンホールや側溝など思わぬ危険もあります。もし、冠水路で車が動かなくなった場合は、車内にとどまらず早めに脱出しましょう。
国土交通省が紹介するJAFの実験では、プールに車が進入してから約5分で窓の高さまで水没しました。水位が低いうちにドア(開かなければ窓)から脱出し、それも難しい場合は緊急脱出用ハンマーで窓を割ります。一部車種のサイドガラスは「合わせガラス」になっていて割れないことがあるため、車の窓ガラスの種類も確認しておくと安心です。
なお、企業においても考え方は同じです。社用車の保管場所や物流ルート、従業員の通勤経路の浸水リスクを確認し、「どの段階で車を移動させるか」「誰が判断するか」をBCP(事業継続計画)にあらかじめ組み込んでおけば、豪雨が迫ってから判断に迷うリスクを減らせます。
豪雨が激しくなってからできることには限りがあります。だからこそ平時にリスクを知り、「いつ、誰が、どう動くか」を決めておくことで、被害を最小化することが重要です。
車を守ることも大切ですが、何より優先すべきなのは命です。次の大雨が来る前に、一度、ご自身やご家庭・職場での備えを確認されてみてはいかがでしょうか。
季節のそなえ|ソナエル・ラボ|三井住友海上
https://www.ms-ins.com/labo/season/article/20200903.html
集中豪雨とは?特徴や豆知識と備え | 災害対策|知る・楽しむ|三井住友海上
https://www.ms-ins.com/special/bousai/taisaku/tips_03/
雨水流出抑制の充実を通じた都市型洪水被害の軽減 ~第6次社会資本整備重点計画の推進に向けて~【政策提言レポート(2026年7月)】
https://rm-navi.com/search/item/2574
水害リスクを居住地選択に織り込む制度設計 ~国土強靱化における「自助」の実践と地域防災力の強化に向けて~【政策提言レポート(2026年8月)】
https://rm-navi.com/search/item/2637
【参考文献】
- 気象庁「令和8年8月千葉豪雨」命名に関する報道発表。石川県羽咋市・富山県氷見市の観測データ(2026年8月27日)
- 気象庁「大雨や猛暑日など(極端現象)のこれまでの変化」
- 日本損害保険協会「令和8年8月千葉豪雨に係る各種損害保険の支払件数・支払保険金等について」(2026年8月28日現在、2026年9月17日発表)
- ウェザーニュース「令和8年8月千葉豪雨、2人に1人が浸水想定区域"外"で被災か」(2026年8月15日)
- 国土交通省「下水道による浸水対策」
- 国土交通省北陸地方整備局「洪水についての基礎知識」(2024年6月27日)
- 内閣府(防災担当)・警察庁・消防庁・国土交通省・気象庁「レベル5大雨特別警報が発表されたときにとるべき行動/車運転の注意点」(2026年8月26日)
- 国土交通省中国地方整備局「重ねるハザードマップ等の活用法について」(運輸防災セミナー講義資料、令和6年6月5日)
- 国土交通省「台風の前に車両からの脱出手順の確認を!」(2020年)
- 木村玲欧「水害発生時の避難における心理的メカニズムの検討による避難への行動変容を促すための教育要素とは?」(『日本科学教育学会年会論文集』第47巻、2023年)
- テレ朝NEWS「千葉豪雨 広範囲で浸水続く 各地で土砂災害も」(グッド!モーニング、2026年8月15日)
- 気象庁「新たな防災気象情報について(令和8年〜)」(2026年5月29日運用開始)
- 政府広報等「レベル4までに危険な場所から全員避難」に関する周知資料
- 気象庁「長官会見要旨(令和8年9月16日)」
- 国土交通省「洪水浸水想定区域の指定と洪水・高潮・内水ハザードマップの公表状況」
※ 本稿の被害状況・数値は、各出典に記載された時点のものです。被害の全容は今後の集計により変動する可能性があります。