より良き海外駐在のために
[このコラムを書いたコンサルタント]
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- 専門領域
- キャプティブ・マネジメント、総合リスクマネジメント
- 役職名
- 総合リスクマネジメント部 主席コンサルタント
- 執筆者名
- 長谷川 治道 Harumichi Hasegawa
2008.4.1
日本人にとって、海外駐在が何ら珍しいことでなくなったのはいつ頃からだろうか。平成15年末の統計では約91万人が海外に居住しており、このうちのかなりの部分が所謂「駐在員」とその家族であろう。アジアを中心に海外進出する企業が相変わらず増加している状況から、この数字は今後も増え続けると思われる。しかし、社命で海外勤務する人が必ずしも希望者ばかりだとは限らず、まさか自分が海外に行くことになるとは想像もしていなかったという人も少なくないだろう。ましてや家族にとってはまさに晴天の霹靂で、言葉・文化・気候・食べ物・教育・現地での人付き合い等々不安は尽きないに違いない。
筆者はこれまで海外に通算8年間勤務したが、この経験から痛切に思うことは、日本での生活のし方、やり方や日本流の考え方が、必ずしも駐在する土地でも当り前のことではない、という極く当然のことである。日本人の流儀・生活様式は、日本や日本人を取巻く種々の条件や環境の下で、時間をかけて育まれてきたものである。それは各国・地域でも同様である。海外で生活するということは、それを受け容れて生きていくことである。この点が、日本式のやり方を変えずに、団体で景勝地を訪れ、記念写真を撮ったり有名レストランで名物料理に舌鼓を打ち、土産物を買うこと等を主眼とする海外旅行とは大きく異なる点である。旅行は非日常を楽しむものであり、生活は現実そのものである。
ここのところを予め承知し覚悟していないと折角の貴重な経験であるべき海外生活が、不愉快なフラストレーションや思わぬ事故の原因になりかねない。
そこで、本業のリスク回避の観点から、より良き海外生活のために独断と偏見に満ちた若干のコメントをさせていただく。
- 「郷に入っては郷に従え」
我々が異邦人であることを肝に銘じなければならない。現地の人々の暮らし方、特に忌み嫌われること、逆に積極的にすべきことを良く理解しなければならない。 - 「十を言っても一も伝わらない」ことを覚悟する。
日本式の「一を聞いて十を知る」を期待しないこと。曖昧な言い方ではなく、少しきついくらいハッキリと自分の希望や思いを言わなければ意思は通じない。 - 意識的に現地の人達と交流すること
子供の学校やクラブ、趣味の同好会、ボランティア活動などの機会を捉え現地の人と意識的に交流する。言葉の問題は二の次。現地の人しか知らない安くて美味いレストラン、外国人があまり行かない意外な観光スポット等から治安の状態など重要な情報まで仕入れることができる。そして、何より世界というか生活圏が広がる。 - 秘書(部下)は大切にすること
生活のセットアップ(住居、車、電気・ガス、電話、銀行…)、病気・事故、第三者とのトラブルなど昼夜・公私を問わず秘書には世話になることが多い。かつて駐在したドイツでは、「ドイツ語を上手に話す日本人よりドイツ語の下手なドイツ人の秘書の方が何倍も役に立つ」と言われた。言葉だけではなく、人脈を含めたソフトの部分はやはり現地の人には敵わないということだろう。
以上