コラム/トピックス

「歩きスマホはいけない」と8割以上の人が思っているのに、なぜやめられない?

[このコラムを書いた研究員]

新納康介

専門領域
食料安全保障、マイクロファイナンス
役職名
主席研究員
執筆者名
新納 康介 Kousuke NIIRO

2024.10.10

この記事の
流れ
  • 歩きスマホが原因で死亡事故が起きている
  • 歩きスマホをしている人は「スマートフォンゾンビ」になる?
  • 垣間見える「スマホ依存」の影響
  • 歩きスマホをする人の大半は「問題のある行為」だと認識している
  • 自己矛盾を解消したくなる心理「認知的不協和バイアス」
  • 自分は大丈夫と考えてしまう「正常性バイアス」
  • 自分は悪くないと考える「自己正当化バイアス」
  • まとめ 事故防止に向けて

今や手放すことのできないデバイス、スマートフォン。こうした中、ついつい「歩きスマホ」をしてしまっているという人も多いのではないでしょうか。
歩きスマホは、いくつかの自治体で防止条例が制定されているほど“危険性の高い”行為として認識されていて、歩きスマホをする人の大半も「問題のある行為」だと自覚しているという調査もあります。
一方で、そうした人たちは、「他人に迷惑をかけない自信がある」、「多くの人が行っている」などの理由から、自らの行動を正当化していることもわかっています。
問題がある行為だとわかっているのに、なぜそれに目を背けるような思考に陥ってしまうのでしょうか?その仕組みを探ります。

歩きスマホが原因で死亡事故が起きている

スマートフォンを操作、注視しながら歩く「歩きスマホ」は、自身にとって危険であることはもちろん、他の歩行者や車両との接触事故等を起こす恐れがあります。歩きスマホをめぐっては、いくつかの自治体で防止条例が制定されていて、“社会問題化”していると言えるかもしれません。警察庁によると、2022年に歩きスマホが絡んだ死傷事故は全国で553件(うち死亡6件)発生したといいます。

歩きスマホをしている人は「スマートフォンゾンビ」になる?

歩くこととスマホを操作するという動作を同時にする事は簡単ではありません。スマホ画面を凝視している状態では、歩行者の視覚的・聴覚的注意は著しく失われ、歩く速度が落ちたり、蛇行したり、エスカレーターの降り口で突然立ち止まることもあります。こういうケースは見かけることがあると思います。歩きスマホをしている人の挙動から、英語圏では、歩きスマホをする人をスマートフォンゾンビ(Smartphone Zombie、Smombie)と呼ぶそうです。

歩きスマホをしている人は「スマートフォンゾンビ」になる?

垣間見える「スマホ依存」の影響

もし歩行中に、スマホを操作したくなったら、安全な場所で立ち止まるか座って操作して、また歩き出せばいいのですが、それができないのはなぜでしょうか?電気通信事業者協会のアンケート調査によれば、人が歩きスマホをする理由の上位は以下のようになっています。

  • 「移動しながら時刻表や地図アプリを使用する」
  • 「SNSやLINE、メールなどでのやりとりをタイムリーにしたいから」
  • 「スマートフォンをみることが癖になっている」

こうした結果からは「スマホ依存」の影響も垣間見えます。

歩きスマホをする人の大半は「問題のある行為」だと認識している

MS&ADインターリスク総研が行ったアンケート調査では、スマホ所有者のうち、歩きスマホを行う人は約60%という結果になりました。さらに、「あなたが歩きスマホを行っていることをどう感じるか」という質問では、85%を超える人が、歩きスマホは「問題のある行為」だと認識していました。

一方で、歩きスマホを行う人は次のようにも回答して、自らの行為を正当化していることもわかりました。

  • 「他人に迷惑をかけない自信があるので構わない」(36.7%)
  • 「習慣化しており止められない」(35.5%)
  • 「多くの人が行っており、構わない」(13.5%)

これらの回答からは、様々な認知バイアス(人間の脳のメカニズム)の働きが窺えます。

自己矛盾を解消したくなる心理「認知的不協和バイアス」

歩きスマホはよくないと知りながら、それを行っているという事は、自己矛盾を抱えることになります。そういった矛盾の認識のことを「認知的不協和」といいます。この状態は、心理的な不快感を招きます。そして、その不快感を無理にでも解消したくなる心理を「認知的不協和バイアス」と呼びます。

自分は大丈夫と考えてしまう「正常性バイアス」

認知的不協和バイアスは、ほかの認知バイアスと関連します。前述の歩きスマホを行う人の「他人に迷惑をかけない自信があるので構わない」との回答には、「正常性バイアス」という、危険を過小評価する思考が窺えます。この場合は、歩きスマホの危険性を低く見積もることで認知的不協和(自己矛盾)を解消する狙いがあります。

しかし、たとえ自信があっても、絶対に大丈夫ということはありません。MS&ADインターリスク総研が行ったアンケート調査では、日常的に歩きスマホを行う人の4人に1人が他人と接触したことがあると回答しています。

自分は悪くないと考える「自己正当化バイアス」

認知的不協和を解消するには、行動や考えを改めることが望ましいのですが、歩きスマホを行う人の思考には、他責思考や開き直りが窺えます。前述の歩きスマホを行う人の「多くの人が行っており、構わない」、「習慣化しており止められない」という回答は、自分の行動や判断を無理にでも正当化しようとする「自己正当化バイアス」の働きが窺えます。人は、自分に非があるとされた時に生じる苦痛は耐えがたいといいます。「言い逃れ」は、その苦痛を解消するために生み出されます。

まとめ 事故防止に向けて

今回は、歩きスマホをおこなう人には事故のリスクがあるうえに、前述の認知的不協和から認知バイアスに囚われる可能性、つまり問題があるとわかっているにも関わらず歩きスマホをするという自己矛盾から逃れるために自分の行為を正当化してしまう可能性が高いことを紹介しました。

過去には歩きスマホを注意された人が、腹を立てて注意した人を殴ったという事件もあり、トラブル回避のためには歩きスマホをする人を見たら、できるだけ距離を取るほうが良さそうです。

駅施設内等における歩きスマホ防止のために、2023年11月に、全国の鉄道事業者74社、電気通信事業者4社などが協力し、「やめましょう、歩きスマホ。」キャンペーンが実施されました。このような取組や歩きスマホに関する議論がさらに進むことを祈ります。

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歩きスマホに関する実態と意識について ~アンケート調査結果より~ リサーチ・レター2020年第2号
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「認知バイアスの罠」とは?防災・避難行動を妨げる脳の働き
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