
木からプラスチックをつくる?紙パルプ産業で続くCO2削減の取り組みとは?
[このコラムを書いた研究員]

- 専門領域
- 気候変動
- 役職名
- マネジャー上席研究員
- 執筆者名
- 坪井 靖展 Yasunobu Tsuboi
2025.5.12
光合成を通じてCO2 を吸収し、酸素を放出する木々。その木々を使ってつくられるのが、ティッシュペーパーやノートなど、私たちの暮らしにとって身近な紙製品。古紙として回収されれば、新たな紙としてリサイクルされる環境に優しい製品です。
一方で、紙をつくったりリサイクルしたりする過程では、大量のエネルギーを使うためCO2 を排出しています。
こうした中、「木からプラスチックをつくる」ことで、CO2 排出量を減らそうという取り組みが始まっています。一体どういうことなのか?木のCO2 吸収の仕組みから最新の取り組みまで、わかりやすく解説します。
流れ
- そもそも、木がCO2 を吸収する仕組みとは?
- 森林のCO2 を吸う力を強化する「ある方法」とは?
- 紙をつくるにはエネルギーをたくさん使う?
- 木からプラスチックをつくる?
そもそも、木がCO2 を吸収する仕組みとは?
そもそもの話からになりますが、木などの植物がCO2 を吸収する仕組みのおさらいから始めたいと思います。
植物の中には、緑色の葉緑体が含まれていて、この葉緑体が、植物が成長するための栄養をつくり出しています。葉緑体は、根から吸い上げた水と、主に葉の裏にある“気孔”と呼ばれる穴から取り込んだCO2 を、太陽のエネルギーを利用して合成して、でんぷんなどの有機物や酸素をつくる“光合成”を行っています。
このように、植物に取り込まれたCO2 は別の物質に変換されるため、「木などの植物はCO2 を吸収し、地球温暖化の緩和に役立つ」と言われているのです。

森林のCO2 を吸う力を強化する「ある方法」とは?
若い木は成長が早いため、たくさんのCO2 を吸って、たくさん酸素を出します。しかし、年老いた木はもうあまり成長しないため、CO2 を吸う量が少なく、出す酸素も少ないのです。
ですから、ただ木がたくさんあれば良いというわけでもありません。最近は、年老いた木の割合が増えており、森林全体でもCO2 を吸収する量が減っています。年老いた木を伐採して、若い木を植えることが、地球温暖化を防ぐ一つの方法です。これに大きな貢献をしているのが、紙製品をつくる製紙会社です。
2023年末時点で、製紙各社が海外で植林した面積は約38万ヘクタールにのぼります。日本国内の植林面積(約14万ヘクタール)と合わせると約52万ヘクタールにもなります。
これは東京ドームおよそ11万個分に相当します。日本の製紙業界では、2030年度までに植林面積を国内と海外で合わせて65万ヘクタールまで拡大していく方針です。
紙をつくるにはエネルギーをたくさん使う?
紙をつくるには大量の水、熱、電力が必要です。このため、工場では蒸気を利用した自家発電を行っています。
具体的には、石炭などの化石燃料や、カーボンニュートラルである木の端材・廃材といったバイオマス燃料をボイラで燃やして蒸気を得ます。この蒸気をタービンに当てて発電を行っています。
この発電に使用する蒸気を製造工程の加熱や紙の乾燥にも利用し、また、木材繊維を抽出する際の廃液(黒液といいます)をボイラの燃料に活用するなどして、工場のエネルギー効率を高めています。

しかし、製造工程で必要なエネルギーが非常に大きいため、CO2 の排出量は依然として多いです。2050年のカーボンニュートラルを目指して、石炭などの化石燃料からバイオマス燃料への切り替えや、太陽光発電設備の導入などを積極的に進めています。
木からプラスチックをつくる?
製紙会社は日本国内や海外に植林の規模を拡大し、CO2 吸収量を増やしてきましたが、製紙会社の取り組みはこれだけではありません。製紙会社は、木の成分からプラスチックをつくることに取り組んでいます。
従来のプラスチックは化石燃料からできているため、最終的に焼却廃棄される時にはCO2 が排出されますが、木はもともと成長期にCO2 を取り込んでいるため、木からつくったプラスチックは、焼却されてもCO2 の増加にはつながりません。
世に出回っている化石燃料からできているプラスチックの一部でも木からつくったプラスチックに置き換えることができれば、大きなCO2 削減につながります。
デジタル化や人口減少で紙の使用量は減っても、その代わり、木からつくったCO2 を排出しないプラスチックがたくさん世の中に普及していく。そんな未来がやってきそうです。
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