緑が水災害を防ぐ?グリーンインフラが持つ投資価値とは ―【連載企画】流域治水とグリーンインフラ(Eco DRR)に関するアンケート調査結果を読み解く 第2回
[このコラムを書いた研究員]

- 専門領域
- 気候変動、自然資本、
サステナブル経営、
情報開示、ビジネスと人権 - 役職名
- 上席研究員
- 執筆者名
- 衣笠 功次郎 Kojiro Kinugasa
2026.10.29

皆さん、こんにちは。
第1回は、堤防やダムだけに頼る治水対策が限界を迎えつつあること、そして国・自治体・企業・住民があらゆる立場で取り組む「流域治水」への転換が進んでいることをお伝えしました。
第2回のテーマは、流域治水の担い手として期待されている「グリーンインフラ」です。「緑を増やすのは環境には良いだろうけど、本当に水災害対策になるの?」「コストパフォーマンスは良いの?」と思われる方も多いかもしれません。

今回は、グリーンインフラが防災・減災とネイチャーポジティブ※の両方で注目されている理由を、国内外のデータとあわせてご紹介します。
※ネイチャーポジティブ(自然再興):自然が失われていく流れを止め、回復に向かわせること。
流れ
- そもそもグリーンインフラとは?
- 雨を「ゆっくり流す」グリーンインフラの治水機能
- 防災だけじゃない!暮らしに広がる「共便益」
- 投資として見ても優秀?数字で見るグリーンインフラ
- まとめ
そもそもグリーンインフラとは?
グリーンインフラとは、国土交通省の定義によると「自然の多様な機能を活用した社会資本(社会や経済活動の基盤となる公共的な施設)」のことで、将来にわたって持続可能で魅力ある地域づくりと、私たちのウェルビーイング(心身の健康や豊かさ)の向上に貢献するものとされています。
流域治水におけるグリーンインフラの具体例としては、森林や緑地、農地、公園、湿地の保全、雨水を地面にしみ込ませる「雨庭(あめにわ)」、屋上や壁面の緑化などが挙げられます。堤防やダムのような「灰色(グレー)のインフラ」に対して、自然の力を活かす「緑(グリーン)のインフラ」というイメージです。
図表1 雨庭(左)や湿地保全(右)


(出所:MS&AD グリーンアースプロジェクト(球磨川流域)にて筆者撮影)
雨を「ゆっくり流す」グリーンインフラの治水機能
では、グリーンインフラは水災害対策にどう役立つのでしょうか。
ポイントは「雨水が川へ流れ込むスピードを遅らせる」ことです。森林や緑地の土は、降った雨を地中にしみ込ませたり、表面に一時的にためたりします。すると、雨が一気に川へ流れ込むのを防げるため、洪水のピーク時の最大流量を抑えること(「ベースカット効果」)ができます。
この効果は、流域全体(大きなスケール)、町単位(中くらいのスケール)、町丁単位(小さなスケール)と、さまざまな規模で発揮されます。
「山の森林」から「まちの庭先」まで、それぞれの場所に役割があり、私たちの家の庭やまちの緑が、流域全体の安全につながる可能性があります。
なお、日本政策投資銀行の試算(対象は神田川上流の建築物)では、住宅地の植栽が減ってしまうケースでは浸水被害額が増え、逆に住宅地を緑化するケースでは被害が抑えられるという結果が示されています。
ただし、ここで大切な注意点があります。それは「グリーンインフラが万能」ではないということです。
しみ込みきれない雨は、どうしても流れ出てしまいます。だからこそ、堤防やダムと組み合わせることが欠かせません。
第1回で取り上げたオランダの事例でも、生態系の再生が費用に見合わない場所では堤防の補強を行うなど、両者を使い分けていました。「グリーンかグレーか」ではなく、「グリーンもグレーも」が基本の考え方です。
防災だけじゃない!暮らしに広がる「共便益」
ここまで治水の観点で、グリーンインフラがもたらす効果を見てきましたが、その価値は防災・減災にとどまりません。それは、ひとつの取組みで複数の良い効果が同時に得られる「共便益(コ・ベネフィット)」というものです。
環境省の手引きでは、雨水をためてしみ込ませる効果に加えて、次のような効果が整理されています。
- 生物多様性の保全:生きものの生息地が守られ、自然との共生が進む
- 社会的な効果:自然に触れ合える場が生まれ、ウェルビーイングやコミュニティづくりにつながる
- 経済的な効果:農作物のブランド化やエコツアーなど、地域の稼ぐ力につながる
- 環境面の効果:CO2の吸収や、夏の暑さ(ヒートアイランド現象)の緩和など
生物多様性を守りながら防災・減災にも貢献できるため、世界的なネイチャーポジティブの流れの中でも高く評価されています。
ここで、海外の事例を見てみましょう。
ニューヨーク市では、使われなくなった貨物鉄道の高架を公園に生まれ変わらせた「ハイライン」が有名です。この整備により企業の進出や雇用の創出が進み、周辺の資産価値は2003年から2011年の間に203%に上昇したとされています。周辺の人口も2000年から2010年の間に60%以上増加し、市の税収は20年間で約9億ドルにのぼると見込まれています。
図表2 ニューヨーク市「ハイライン公園整備事業」


(出所:グリーンインフラ官民連携プラットフォーム,「グリーンインフラ評価の考え方とその評価例」)
また、フィラデルフィア市の計画では、グリーンインフラがもたらす長期的な価値のうち、熱ストレスによる死亡率の減少が37.2%、不動産価値の向上が20.2%を占めると報告されています。水災害の対策になるだけでなく、暑さから命を守ることや、まちの価値を高めることにも大きく貢献しているのです。
投資として見ても優秀?数字で見るグリーンインフラ
「色々と良いことはわかったけれど、お金がかかるのでは?」という疑問に答えるのが「費用便益分析」です。これは、事業にかかる費用と得られる便益(社会に還元される治水効果や生態系保全効果など)を比べて、投資として妥当かどうかを評価する方法です。
費用便益比(B/C)は「便益÷費用」で計算し、1.0を超えれば「かけたお金以上の価値がある」と判断されます。
グリーンインフラの分析では、洪水被害を減らす効果だけでなく、先ほどの共便益を含めて評価すると、B/Cが大きく伸びる例が報告されています。
図表3 グリーンインフラの費用便益比(B/C)の例
| 対象地域 | 主な施策 | 費用便益比(B/C) |
|---|---|---|
| 日本(富山県小矢部川) | 田んぼダム | 14.9 |
| 日本(神田川流域) | 住宅地への雨水浸透施設の設置 | 1.2 |
| 住宅地での植栽への転換 | 1.17 | |
| 英国(Otter川)※1 | 自然洪水管理※2 | 5.0~60.0 |
| セルビア(Tamnava流域) | 調整池 | 5.6 |
| 植林 | 3.5 |
(出所:日本政策投資銀行「都市の骨格を創りかえるグリーンインフラ」、富山県立大学「流域治水とコンパクトシティの融合を通じた適散適集 グリーン社会への展開とその治水安全度評価」、The Wildlife Trusts「Assessing the multiple benefits of Natural Flood Management」、Laddaporn Ruangpan et al.,「Economic assessment of nature-based solutions to reduce flood risk and enhance co-benefits」をもとに筆者作成)
- 英国は評価期間により幅がある(10年評価で5.0以上、30年評価の最大値で60.0)。
- 自然洪水管理とは、自然の仕組みを利用して洪水の勢いを弱める方法。河川再生(植林や湿地再生など)のほか、川の流れを緩やかにする習性を持つビーバーを導入する取組みがある。
たとえば、田んぼに一時的に雨水をためる「田んぼダム」は、既存の農地を活かせるために費用を抑えながら治水効果が見込めるため、B/Cが14.9と非常に高い結果が出ています。
住宅地での治水効果が見込まれる植栽や雨水浸透施設の設置でも1.17〜1.2と、いずれも1.0を上回っています。
もうひとつ注目したいのが「時間」の要素です。
英国の事例では、評価期間が10年だと5.0、30年で見ると60.0という高い便益が確認されています。木々が育ち、土や湿地が成熟していくにつれて、効果が積み上がっていくためです。
このような、長い時間をかけて安全や豊かさを生み出し続ける効果を「ストック効果」といいます。グリーンインフラは、育てるほど価値が高まる「時間を味方につけるインフラ」だといえます。
こうした結果から、グリーンインフラは環境に良いだけでなく、費用対効果の面でも有望な選択肢であることがわかります。
一方、グリーンインフラには、都市緑地、「田んぼダム」、遊水地などを整備・運用するためのノウハウ(設計、施工、維持管理)が不足していることや、自然環境や人口構成が地域によって異なるため、導入効果や実現可能性にも差があるといった課題があり、普及に向けて乗り越えなければならない壁もあります。
まとめ
今回は、グリーンインフラの価値についてご紹介しました。
グリーンインフラは、雨水をしみ込ませて川への流入を遅らせるという治水の機能を持ちながら、生物多様性の保全、暑さの緩和、健康やコミュニティづくり、地域経済の活性化といった多くのメリットをもたらします。しかも、長い目で見れば投資としても妥当性が高いことが、国内外の研究で示されています。
一方で、単独では限界があるため、堤防やダムなどの対策と組み合わせて進めることが大切です。
「防災のために」というと少し身構えてしまいますが、庭の緑や雨庭、地域の田んぼや森を大切にすることが、そのまま暮らしの豊かさと安全につながる。そう考えると、グリーンインフラがぐっと身近に感じられるのではないでしょうか。
次回は、当社が実施したアンケート結果をひもときながら、住民の皆さんが流域治水やグリーンインフラをどのくらい知り、どのように受け止めているのかを見ていきます。
【参考文献】
- 国土交通省, 「グリーンインフラについて」
- 環境省, 「持続可能な地域づくりのための生態系を活用した防災・減災の手引き」
- グリーンインフラ官民連携プラットフォーム, 「グリーンインフラ評価の考え方とその評価例」
- 日本政策投資銀行, 「都市の骨格を創りかえるグリーンインフラ」
- 公益財団法人名古屋都市センター, 「人口減少時代におけるグリーンインフラの活用方策について」
- The Wildlife Trusts, 「Assessing the multiple benefits of Natural Flood Management」
- Laddaporn Ruangpan et al., 「Economic assessment of nature-based solutions to reduce flood risk and enhance co-benefits」
- 富山県立大学, 「流域治水とコンパクトシティの融合を通じた適散適集 グリーン社会への展開とその治水安全度評価」
- 泉谷信夫ほか, 「グリーンインフラ活用による下水道事業の推進に関する調査研究」
流域治水とグリーンインフラ(Eco DRR)に関する住民の意識について(アンケート調査結果2026)
【リサーチレター(2026年6月)】
https://rm-navi.com/search/item/2546
みんなで街のレジリエンスを高める「流域治水」とは?水災害激甚化に立ち向かう新たな挑戦 ―【連載企画】流域治水とグリーンインフラ(Eco DRR)に関するアンケート調査結果を読み解く 第1回
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