交通事故を最も多く起こしているのはどの年齢層?イメージと実態のズレが生じる理由とは
[このコラムを書いた研究員]
- 専門領域
- 食料安全保障、マイクロファイナンス
- 役職名
- 主席研究員
- 執筆者名
- 新納 康介 Kousuke NIIRO
2024.12.5
流れ
- どの年齢層のドライバーが最も多く交通事故を起こしていると思いますか?
- 交通事故統計とアンケート結果の乖離の原因は?
- 交通事故の情報に偏りはあるか?死亡事故と新聞による報道
- 偏った思い込みで、正しい情報を無視している「確証バイアス」
- まとめ
みなさんは「どの年齢層のドライバーが最も多く交通事故を起こしているか」と聞かれたら、どの年齢層をイメージするでしょうか?
MS&ADインターリスク総研が、2024年に全国1,000人のドライバーにこの質問をしたところ、実際の交通事故統計とは大きなズレが生じていることがわかりました。
この“ズレ”はなぜ生じたのでしょうか?脳のメカニズムの1つ「認知バイアス」をヒントに、原因を探ってみたいと思います。
どの年齢層のドライバーが最も多く交通事故を起こしていると思いますか?
MS&ADインターリスク総研では、2024年に全国1,000人のドライバーにアンケート調査を行いました。そのアンケートで、「どの年齢層のドライバーが最も多く交通事故を起こしていると思いますか?」という質問をしました。その結果、アンケートの回答では、20~24歳(229件)、16~19歳(208件)、80~84歳(125件)が上位になりました。
この結果を、2023年の警察庁の統計「年齢層別交通事故件数」のデータと比較をしてみたのが図1です。すると、アンケート回答(オレンジ色)と実際の交通事故統計(青色)のグラフのカーブが対照的(オレンジ色が凹型、青色が凸型)であることがわかります。
【図1】年齢層別交通事故件数(2023年)と「最も交通事故を起こしているドライバーの年齢層」のアンケート結果の比較
交通事故統計とアンケート結果の乖離の原因は?
アンケート結果は、最も多く交通事故を起こすとされるドライバーの年齢層が、若年層と高齢層に集中しており、中年層30代~50代は少なくなっています。しかし、その一方で、警察庁の統計データは50~54歳のドライバーの事故数が最も多いことを示しています。なぜこのような乖離が起きたのでしょうか。その原因として、いろいろなことが考えられますが、今回は以下の2つについて考えていきます。認知バイアスの罠も潜んでいると思われます。
- 回答者が接する交通事故の報道に偏りがある
- 回答者の偏った思い込みで、正しい情報を無視している
交通事故の情報に偏りはあるか?死亡事故と新聞による報道
まずは、回答者の情報源となると思われる、交通事故の報道について見てみましょう。なぜなら、実態が正しく報道されていないと一般の人々は交通事故の実態が把握できません。ここでは、報道になりやすい死亡事故について調べてみました。
図2は2023年1月に起きた死亡事故195件の年齢層別のデータと、同時期の死亡事故を報じた新聞記事94件の中から、事故を起こした運転者の年齢を拾ったデータを比較したものです。図2のグラフでは、事故統計(青色)と新聞記事(オレンジ色)は、同じ凸型のカーブを描いています。これが示すのは、死亡事故の新聞の報道量においては、概ね年代別の偏りはないという事です。
【図 2】2023 年 1 月の死亡事故件数および死亡事故報道の記事の年齢層別割合
偏った思い込みで、正しい情報を無視している 「確証バイアス」
つぎに、回答者が偏りのない情報に接していたとしても、それを正しく認知していないことが考えられます。「確証バイアス」とは、認知バイアスの一種で、自身の先入観や意見を肯定するため、それを支持する情報のみを集め、反証する情報は無視または排除する心理作用を指します。
これにより、回答者の中で、中年層ドライバーの起こした死亡事故の報道が無視されている可能性があります。確証バイアスで最もありがちなのは、「レッテル張り」、「ステレオタイピング」といわれています。図1では、回答者の中で「事故を起こすのは、初心者と高齢者」というレッテル張りが起きている可能性が窺えます。
交通安全の広報においては、重点テーマ(高齢運転者、飲酒運転、夕暮れ時の運転、交差点での減速など)とそれに沿った統計値だけを示すのが常道となっています。本稿はその考え方を否定するものではありません。ただし、交通事故の状況の全体像を示すことなく一部分を強調して伝えることで、情報の受け手に偏った認識を植え付ける可能性もあることが考えられます。
まとめ
交通事故の状況の全体像に詳しくないことが、ドライバーの運転技能レベルを低下させることはないでしょう。しかし、それを理解していないことで、「事故を起こすのは、初心者と高齢者」といったレッテル張りが強固になること、またそれに加えて、「(初心者、高齢者ではないので)自分の運転は大丈夫」という、自分の能力を過大評価する思考(自信過剰バイアス)につながることであれば、看過することはできないと思います。
わが国で発生している交通事故に関する基本情報に関して、ドライバーが誤った認識を持っているのであれば、しかるべき広報を行い、現状を国民に正しく理解してもらう事は大事なことかもしれません。
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