食品安全の視点で見る加工食品の海外輸出のリスク対策 【第4回】食品輸出業務を踏まえたFSMSの見直しや運用上の留意点
2026.4.22
はじめに
今年度の解説コーナーでは、日本の加工食品を海外に輸出する事業者が直面する食品安全上のリスクを理解していただき、その対策やポイント等の解説を連載しています。
第1回では、国内外の食品マーケットの動向、日本の加工食品の輸出状況とその特性や強み、加工食品の輸出に伴う主なリスクについて解説しました。第2回では、国内外の食品事故の事例収集や活用方法を紹介し、事故情報をもとに自社のリスク管理体制を強化する重要性を述べました。第3回では、仕向地における規制の調査方法や対応上のポイントについて解説しました。
第4回(最終回)では、従前よりFSSC22000を取得している食品メーカーが新たに「輸出業務」を行う際に、食品安全マネジメントシステム(Food Safety Management System、以下「FSMS」)を抜け漏れなく見直し、運用に落とし込むための実務的手法を提示します。従前より運用しているFSMSをベースにすることで、新たに始める輸出業務についてのリスクを最小限に留めることが期待されます。
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1.輸出業務を新たに行う際のFSMSの見直しや運用するための取組みステップの全体像
輸出業務を新たに行おうとする場合、当該仕向地における規制や物流・書類への対応が発生します。また、輸出は複数部門(企画、法務、品質、購買、製造、営業、物流、総務等)が関与する横断業務となります。
そこで、抜け漏れなく、かつ関係部署を巻き込んだFSMSの体系的な見直し(リスク評価・対策)が必要になります。その際、既に認証取得しているFSSC22000等をベースに行うことで、現行の仕組み・ルールを活用しつつ、組織横断での整合性を確保できます。見直しに向けた取組みステップ例を以下に示します。
| STEP | 取組みテーマ | 主な取組み内容 | 主担当(例) |
|---|---|---|---|
| 0 | 経営方針、経営計画の確認等 | 経営層による従前の経営方針との突合、輸出計画(主な仕向地や売上計画等のKPI含む)の承認 | 経営トップ、取締役(営業、品証)等 |
| 1 | FSMS修正チーム(新食品安全チーム)の組成 | FSMS修正メンバーの選任、チーム組成、経営トップによるチーム承認 | 上記に加え従前の食品安全チーム、FSMS担当 |
| 2 | FSMS修正に向けたキックオフ | 新規メンバーへの勉強会、力量評価、キックオフ | 新食品安全チーム、FSMS担当 |
| 3 | FSMS修正 | 仕組み・ルールの追加/更改や、それを反映させた各種の文書類の修正等(詳細は、以下の「2.」参照) | 新食品安全チーム、FSMS担当、関連担当 |
| 4 | 仮運用(パイロット出荷)による修正版の検証や見直し、確定 | 仕向地限定の小ロット出荷により現地受入、物流、書類フロー、温度管理等の運用検証や課題抽出後に修正、改訂版を社内リリース | 新食品安全チーム、FSMS担当、関連担当 |
| 5 | トレーサビリティ訓練、リコール対応訓練 | 従前どおりにトレーサビリティ訓練やリコール対応訓練を実施(ただし、シナリオは仕向地向けの商品とする) 補足:仮運用により輸出フローを確認・確定しないと訓練ができない場合があるので、仮運用後に実施することを推奨 |
新食品安全チーム、FSMS担当、関連担当、経営層 |
| 6 | 定着化に向けた監査やレビュー | 内部監査やマネジメントレビューによる運用状況の評価と是正処置 | 上記に加え内部監査チーム |
2.FSMSの要求事項別の見直しポイント
ここでは、FSSC22000を例として、輸出業務を新たに行う際に留意すべきFSMSの要求事項別のポイントを下表に示します。
| 章/ 箇条No. |
章/箇条名 | 輸出業務に関する追加項目や留意点 | 文書・記録(例) |
|---|---|---|---|
| 1 | 目的 | 輸出業務もFSMSの「目的」を踏まえて取組むため、特段の修正は不要。 | — |
| 2 | 適用範囲 | 単に「輸出業務」と追加するのではなく、新たに FSMSで管理すべき対象(港倉庫、輸出梱包、通関、仕向地受入れ等)を洗い出し、追加対象の適用範囲を明示する。 例:「国内エージェントの指定倉庫までをFSMSの適用範囲とし、輸出梱包以降の輸出フローは適用範囲外とする」等。 |
適用範囲 |
| 3 | 用語の定義 | 新たに輸出業務で使用する用語の定義を追加する。特に輸出関連の専門用語や仕向地用語は、補足説明を加える等、担当者が理解しやすい表記にする。 | 用語の定義 |
| 4 | 組織の状況 | 輸出工程(企画→食品規制等の調査→パッケージ検討→製造→荷積→貿易処理等)をフロー図で明示し、社内の担当部署やTODO、国内外の輸出エージェントとの契約上の責任範囲等を明確にする。 | 輸出工程フロー図、アウトソース先や外部委託先の責任範囲一覧等 |
| 5 | リーダーシップ | 輸出に関する食品安全・品質目標(輸出前検査適合率、インシデント発生率等)を起案、経営層の承認を得る。 | 食品安全・品質管理目標、KPI 定義書等 |
| 5.3 | 組織の役割、責任及び権限 | 社内の輸出業務に関連する担当者の責任と権限を見直す。 | 組織図、責任と権限一覧表等 |
| 6.1 | リスク及び機会への取組み | 仕向地別にリスク評価(食品規制、食品添加物や残留農薬、アレルゲン表示・栄養成分表示等の差分や輸送リスク)と対策実施を行う旨を追記する。なお、以下の ① ② のパターンで留意すべきポイントが異なるため峻別してリスク評価を行う。 ① 日本の商品をパッケージ表示のみ変更し、輸出する場合 ② 新たに仕向地用の商品を製造し、輸出する場合 |
リスク評価手順書、国内との差分付き仕向地別の食品規制一覧、輸出フロー毎のリスク評価と対策一覧表等 |
| 7.2 | 力量 | 評価すべき力量項目を見直した上で、社内の従前の担当者や参画メンバー、新規に委託する業者(国内外の輸出エージェントや倉庫等)の力量評価を行う。評価結果が既定以下の場合は、従前のルールに基づき教育後に再評価を行う。 | 力量評価表、力量評価結果表等 |
| 7.4 | コミュニケーション | 外部コミュニケーション(7.4.2)では、追加される業者や業者とのコミュニケーション項目を洗い出した上で、記録フォームを見直す。 内部コミュニケーション(7.4.3)は、社内の関連部署への輸出関連情報の共有方法や共有部署について、5W1Hの観点から見直す。 |
外部コミュニケーション一覧表、議事項目、打合せ記録フォーム等、内部コミュニケーション一覧表、HACCP会議録(回覧部署修正)等 |
| 8.3 | トレーサビリティシステム | 仕向地でも自社のトレーサビリティシステム(ロット番号印字や伝票等)により、商品が追跡可能であることを国外エージェントを通じて確認(訓練)する。その結果、仕向地での受入れ以降で、追跡が不可能になる場合は、システムの見直しやパッケージのロット印字場所(ロット印字が仕向地言語のシール貼付で見えなくなる等)を変更する。 | トレーサビリティ規程、トレーサビリティ対応訓練計画書/報告書等 |
| 8.4 | 緊急事態への準備及び対応 | 上述の6.1で実施した輸出フローに対するリスク対策をすり抜け、インシデントが発生した場合に備え、従前のインシデント対応マニュアル等に輸出フロー毎の緊急事態への対応手順を5W1Hの観点から追加する。 | 輸出フロー毎のインシデント(緊急事態)想定とその対応手順書 |
| 8.9.5 | 回収/リコール | 仕向地でのリコールを想定し、リコール対応マニュアル等を修正する。修正後のリコール対応訓練では、国内外の輸出エージェントも参加し、仕向地との時差や通信環境も考慮し、実態に則した対応訓練を行う。 | リコール対応マニュアル、リコール対応訓練計画書/報告書等 |
| 9 | パフォーマンス評価 | 仮運用(小ロットによる複数回のパイロット出荷)を行い、従前のパフォーマンス評価の方法に基づき、取組み内容を評価する。 | — |
| 10 | 改善 | 仮運用のパフォーマンス評価に対して、従前の改善(是正処置)の方法で修正、再教育等を行う。 | — |
| ★2.5.2 | 商品のラベリング及び印刷 | 国内と仕向地との食品表示に関するパッケージ表示の差分等を追加する。 | 食品表示マニュアル等 |
| ★2.5.6 | アレルゲンの管理 | 日本ではアレルゲン表記が不要であるが、仕向地でアレルゲン表記が必須の原材料についての保管(隔離)方法、コンタミ防止方法等を追記する。 例:日米ともに、エビ・カニはアレルゲンであるが、米国はロブスターもアレルゲン表記の対象となる。そのため、従前は甲殻類を同室に保管したが、米国向けを踏まえ、ロブスターは別部屋保管とし、エビ・カニとのコンタミや取間違いを予防する等。 |
アレルゲン管理規程等 |
| ★2.5.10 | 輸送、保管及び倉庫 | 自社の管理責任において、追加となった物流上の適用範囲について、規程や手順書、記録フォームを修正する。 | 輸送および倉庫保管に関する管理規程、手順書記録等 |
| ★2.5.13 | 商品設計及び開発 | 仕向地との食品規制(パッケージ表示含む)の同異について留意が必要な旨を明記すると共に、以下の ① ② のパターンで商品開発において留意すべきポイントが異なるため峻別して明文化する。 ① 日本の商品をパッケージ表示のみ変更し、輸出する場合 ② 新たに仕向地用の商品を製造し、輸出する場合 |
商品開発マニュアル等 |
★印:FSSC22000の追加要求事項
3.FSMSの定着化に向けた取組み(内部監査・マネジメントレビュー)
仮運用を経て改訂版を社内リリースした後、従前どおりに内部監査やマネジメントレビューを通じて改善サイクルを回すことで、輸出対応を確実に定着化させます。自社のFSMSに新たに「輸出業務」を追加した後のそれらの取組みに対するポイントを以下に示します。
(1)内部監査
| 監査頻度 | 導入初期は臨時的に四半期/半期ごとに食品安全チームや輸出関連部門を中心に運用状況を監査。定着後は通常の年1回以上の総合監査と部門別監査。 |
|---|---|
| 重点項目 | FSMS改訂箇所。食品安全マネジメントマニュアルや規程等の改訂前後の差分を見える化した上でチェックリストを作成し、抜け漏れのない監査を実施。 |
(2)マネジメントレビュー
| レビュー頻度 | 導入初期は臨時的に四半期/半期ごとでに実施(一般的には、内部監査後にレビューを実施)。定着後は内部監査と連動し、通常の年1回以上の実施。 |
|---|---|
| 報告内容 | インシデント(出荷前検査不具合、受入(税関)検査不具合、仕向地でのトラブル等)の発生件数/割合と対応状況、外部要求の変更状況、輸出を想定した各種訓練結果、輸出関連部署の内部監査結果等を報告。 |
おわりに
本稿では、FSSC22000等の認証を既に取得している事業者向けに、輸出業務を新たに行う際のFSMS見直しや運用上の留意点を整理しました。一方で、認証未取得の事業者にとっても、ここで示した考え方や具体的な手順、文書化等のポイントは、参考になると思料します。
本コーナーでは、全4回にわたり、食品安全の視点で見る加工食品の海外輸出のリスク対策を述べてきました。輸出業務をはじめる場合は、新たなリスクや課題を伴います。だからこそ、経営層のコミットメントを起点としたFSMSの確立と運用が、より重要になってきます。これにより、海外での販路拡大と食品安全の確保の両立の実現が期待できるといえます。
食品におけるPL(Product Liability)リスクとは、食中毒や異物混入、表示ミス等により第三者に健康被害や損害を与えるリスクをいいます。
下記レポートでは、食品PLの最新動向をわかりやすく解説します。以下のリンクからご覧ください。
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