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自転車ユーザーの意識と運転の実態について ~アンケート調査結果より(2025年版) 【リサーチレター(2025年10月)】
自転車とは、道路交通法において軽車両の一つとされ、「人の力により運転する二輪以上の車」と定義されている。我が国の自転車保有台数は推計で約5,200万台であり、運転免許を必要としない気軽に使える交通手段として定着している。その一方で、警察庁の統計によれば2024年の自転車が関わる交通事故は67,531件と、交通事故全体の23.2%を占めた。この割合は2016年の18.2%から増加傾向にある。
また、自転車ユーザーの交通違反も無視できない。2024年の自転車が関わる交通事故のうち、自転車側に交通違反があった事故の割合は70.7%となり、ここ数年で最も高い値となった。2024年の自転車の交通違反による検挙件数は51,564件と2016年の数の約3.7倍となっている。
そのような状況の中、わが国の自転車ユーザーの意識やその自転車運転の実態を探るべく、MS&ADインターリスク総研は2025年8月に自転車ユーザー1,000人に対してアンケート調査を実施した。本稿では、本調査の結果およびデータ分析の結果について紹介する。
2025年8月18日~21日の間にインターネットによる調査を行った。
1,000人(男性500人、女性500人)
15~19歳、20~29歳、30~39歳、40~49歳、50歳~59歳、の年齢5区分ごとに男女各100人。
| 頻度 | 人数 |
|---|---|
| 週に2~3回程度 | 375 |
| 週に4回以上 | 625 |
| 合計 | 1,000 |
| 職業 | 人数 |
|---|---|
| 会社員 | 342 |
| 会社経営・役員 | 5 |
| 公務員 | 24 |
| 自営業・自由業 | 48 |
| 団体職員・各種法人 | 6 |
| 派遣社員 | 30 |
| パート・アルバイト | 166 |
| 学生 | 224 |
| 専業主婦・主夫 | 89 |
| 無職(定年退職者を含む) | 59 |
| その他 | 7 |
| 合計 | 1,000 |
単位:人
| 都道府県 | 回答者数 | 都道府県 | 回答者数 | |
|---|---|---|---|---|
| 全体 | 1,000 | 三重県 | 1 | |
| 北海道 | 32 | 滋賀県 | 7 | |
| 青森県 | 6 | 京都府 | 19 | |
| 岩手県 | 4 | 大阪府 | 112 | |
| 宮城県 | 13 | 兵庫県 | 48 | |
| 秋田県 | 8 | 奈良県 | 5 | |
| 山形県 | 8 | 和歌山県 | 7 | |
| 福島県 | 4 | 鳥取県 | 1 | |
| 茨城県 | 19 | 島根県 | 5 | |
| 栃木県 | 10 | 岡山県 | 16 | |
| 群馬県 | 14 | 広島県 | 28 | |
| 埼玉県 | 100 | 山口県 | 8 | |
| 千葉県 | 62 | 徳島県 | 1 | |
| 東京都 | 197 | 香川県 | 5 | |
| 神奈川県 | 81 | 愛媛県 | 12 | |
| 新潟県 | 10 | 高知県 | 6 | |
| 富山県 | 1 | 福岡県 | 25 | |
| 石川県 | 5 | 佐賀県 | 2 | |
| 福井県 | 2 | 長崎県 | 0 | |
| 山梨県 | 4 | 熊本県 | 5 | |
| 長野県 | 7 | 大分県 | 3 | |
| 岐阜県 | 8 | 宮崎県 | 2 | |
| 静岡県 | 18 | 鹿児島県 | 3 | |
| 愛知県 | 61 | 沖縄県 | 5 |
回答者の自転車を運転する主な目的(図1)および所有する自転車のタイプ(図2)は以下のとおりである。




本調査では冒頭に、回答者へ「周囲と比べて自分は交通ルールを守っており自転車の安全運転ができている」かを聞いた。「強くそう思う」と「そう思う」の回答の合計は83.1%となった。


2023年4月から自転車乗車時におけるヘルメット着用が努力義務化されたことについて、9割近くの回答者が認識をしている。


2024年11月から、自転車運転中にスマートフォン・携帯電話等の画面を注視あるいは通話をしながら自転車を運転(ながらスマホ運転)して事故などの危険を生じさせた場合は、「1年以下の懲役又は30万円以下の罰金」となっている。このことについて、「全く知らない」と「よく知らない」の合計が35.6%であったが、半数を超える回答者が「知っている」と回答している。


自転車は、車道と歩道の区別のある道路では車道通行が原則となっていることの認識に関しては、「詳しく知っている」および「ある程度知っている」の合計が75.7%となっている。


本調査では、回答者の過去6か月間の自転車運転において「ヘルメットを着用しなかったことがあるか」について聞いた。回答者の8割超が「ある」旨の回答をしている。前述のとおり、ヘルメット着用のルールについては、9割近くの回答者が認識していたことを考えると対照的である。


さらに、ヘルメットを着用しなかったことがあるとした回答者815名に、そのことについてどう思うかを聞いた。問題はあるが、安全運転に自信がある、多くの人がそうしている、習慣を変えられないと回答した合計は68.4%であった。また、ヘルメット非着用を「問題ない」とした回答者は30.2%であった※1。
1)ヘルメット着用は「努力義務」であり罰則がないため非着用で「問題ない」とした可能性もある。


警察庁によれば、2024年に自転車乗用中に交通事故で死亡した327人のうち、その約半数が頭部に致命的な損傷を受けており、ヘルメット非着用時の致死率は着用時に比べて約1.4倍高いという。ヘルメット着用の重要性の認識について今後も注視する必要がある。
本調査では、回答者の過去6か月間の自転車運転において、ながらスマホ運転をしたことがあるかについて聞いた。回答者の15.1%が「ある」旨の回答をしている。


さらに、ながらスマホ運転をしたことがあるとした回答者151名に、そのことについてどう思うかを聞いた。問題はあるが、安全運転に自信がある、多くの人がそうしている、習慣を変えられないと回答した合計は84.1%、「問題ない」とした回答者は11.3%であった。


これらの設問は、前述の自転車のながらスマホ運転の罰則規定による抑止効果を探ることが目的であった。本調査の結果では、同規定の施行後もながらスマホ運転を根絶することは出来ていないことが明らかである。後述の交通反則通告制度(青切符)の導入によって、この状況がどのように変化するか注視したい。
本調査では、回答者の過去6か月間の自転車運転において「車道と歩道の区別のある道路で、歩道を通行したことがある」かについて聞いた。その結果、69.2%の回答者が「ある」旨の回答をした。前述のとおり、自転車の車道通行の原則に関しては、約75%が認識していたことを考えると対照的である。


さらに、「車道と歩道の区別のある道路で、歩道を通行したことがある」とした回答者692名に、そのことについてどう思うかを聞いた。問題はあるが、自信がある、多くの人がそうしている、習慣を変えられないと回答した合計は73.7%、「問題ない」とした回答者は19.2%であった。
「その他」の自由回答の多くが、車道通行が「怖い」、「危険」(なため歩道通行はやむを得ない)としている。後述の交通反則通告制度(青切符)のパブリックコメントにおいて自転車の歩道通行を取り締まることに多くの批判が集まった※2が、それは自転車ユーザーが感じる車道通行の危険性が理由となっていることが窺える。


2)山陽新聞「自転車青切符、意見5千件超 歩道通行取り締まりに批判」2025年6月18日
自転車損害賠償責任保険とは、自転車利用中の交通事故で、他人の体の被害に係る損害及び財物に係る損害を補填する保険である。具体的には、自動車保険、火災保険、傷害保険などの特約としてセットされる個人賠償責任保険、自転車保険、共済、TSマーク付帯保険などがある。ここでは、上記内容をあらかじめ回答者に説明したうえでその加入状況について聞いた結果を紹介する※3。
まずは回答者に自転車損害賠償責任保険加入の認識について聞いた。その結果、58.1%が加入している旨の回答をした。「わからない」の回答(15.8%)の約半数が10代の回答者によるものであった。


3)回答時の勘違いにより実際は保険に加入していた、またはその逆のケースが想定できるが、本稿では得られたアンケート調査結果に基づいて論考していく。
現在、自転車利用者に自転車損害賠償責任保険の加入を条例で「義務付けている」のは34都道府県、「努力義務」としているのは10道県である(「条例なし」は3県である)。上記内容をあらかじめ回答者に説明したうえで、回答者の住む都道府県がどれに該当するかを聞いた。
その結果は、48.2%が「わからない」、23.0%が「誤答」であった。誤答の8割近くは、条例は「努力義務」と回答したが、実際は「義務」であったものである。


自転車事故によって他人の生命や身体を害した場合に、加害者が数千万円もの高額の損害賠償を命じられる判決事例が出ていることから、都道府県が条例によって自転車損害賠償責任保険への加入を義務化する動きが広がっている※4。しかし、それら条例が十分に周知されているのか、保険加入促進につながっているのかといった疑念を生む結果となった。
4)ただし罰則規定が設けられた例はない。
ここでは、2026年4月より、16歳以上の自転車運転者による交通違反に対する交通反則通告制度(青切符)が導入されること、またすでに公表されている反則金の金額について回答者に聞いた結果を紹介する。
まずは、同制度がそもそも導入されることについての認識の有無について聞いた。「全く知らない」と「よく知らない」の合計は35.1%であった。全国の自転車ユーザーの認識がこのような状態で2026年4月を迎えると、混乱を招くことが十分に予想される。


さらに、交通反則通告制度(青切符)における、ながらスマホ運転の反則金(12,000円)について、その金額に対する考えを聞いた。最も多かった回答は「ちょうどよい」で57.2%であった。反則金の額について一定の納得が得られていることが窺える。


あわせて、交通反則通告制度(青切符)における、自転車による歩道通行の反則金(6,000円)について、その金額に対する考えを聞いた。最も多かった回答は「高すぎる」で55.9%であった。


カナダ司法省の調査研究※5によれば、反則行為の抑止力は、罰が大きいほどが高まるわけではなく、罰が公正である(と認識される)かどうかに関係するという。つまり、人が反則金について不釣り合いに高いと考える場合、交通違反の抑止力が低下する可能性があるという事である。その考えに従えば、この結果は問題を提起するものである。
もっとも、警察庁は、単に歩道を通行しているといった違反については、「指導警告」が行われており、青切符の導入後も、基本的に取締りの対象となることはないとしている※6。
最後に、同制度によって自転車が関わる交通事故は減少するかについて聞いた。「強くそう思う」と「そう思う」の合計は、62.8%であった。


5)それは罰金が過剰で不当なものという認識から法に対する敬意が低下し、遵守率が下がるからとされる。
Department of Justice Canada (2024) ”The Contraventions Act Program: Using behavioural science to identify
evidencebased criteria for setting fine levels”
6)警察庁(2025)『普通自転車の歩道通行について』
ここでは、アンケート調査結果のデータを性別、年代別という切り口で分析を試み、それから得られたデータの傾向について述べる。
まずは、「周囲と比べて自分は交通ルールを守っており自転車の安全運転ができている」の設問に対して「強くそう思う」とした回答者193名に着目した。性別、年代別で見ると、こうした自己評価の高い回答者は男性の方が多く、また男女ともに年代が上がるにつれて回答者数が減っていく傾向が明らかになった。
単位:人数


ここでは、過去6か月にながらスマホ運転をしたことがあるとした回答者151名に着目した。性別、年代別で見ると、回答者は男性の方が多く、最も多いのは40代男性であることが明らかになった。女性については、20代が最も多く、年代が上がるにつれて回答者数が減少する。この結果は、ながらスマホ運転を減少させるために考慮すべきターゲット層を示唆している。
単位:人数


自転車の活用による環境負荷の低減、災害時における交通機能の維持、国民の健康増進等の実現に向け、自転車の利用増進を目的として、2017年に自転車活用推進法が施行された。同法に基づき、2021年に「第2次自転車活用推進計画」が策定され、2025年がその最終年となる。
同計画の目標の一つは、「自転車事故のない安全で安心な社会の実現」である。本調査では、8割を超える自転車ユーザーが、周囲と比べて交通ルールを守っており自転車の安全運転ができていると考えていることがわかっている。しかし、その一方で上記目標の実現に向けては、まだ課題が山積していることも明らかとなっている。
本稿では、ヘルメットの着用、ながらスマホ、車道通行の原則、自転車損害賠償責任保険、さらに2026年4月から導入される交通反則通告制度(青切符)など、可能な限り幅広くトピックを取り上げ、それらにまつわる実態と課題を明らかにすることを試みた。本稿が自転車事故の防止の一助となれば幸いである。
【参考文献】
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【終了】<10/21開催>マネジメント層向けTNFDワークショップ
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環境省が「ネイチャーポジティブ経済移行戦略ロードマップ(2025-2030年)」を策定、 ネイチャーポジティブ経済の実現に向け期待されるアクションを整理
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SSBJ基準適用で金融庁WG中間論点、1兆円未満プライム企業の適用時期は決定見送り
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「食料主権」で小規模農家を主役に グローバル企業から食の決定権を取り戻す考え方とは?
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「日本の水資源の現況」公表。国内流域総合水管理の重要性に言及
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米司法省が「海外腐敗行為防止法の調査および執行に関する新指針」を公表
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ESGリスクトピックス(2025年9月)
サステナビリティ開示 金融庁の「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ(WG)」は2025年7月17日、有価証券報告書でのSSBJ基準に基づくサステナビリティ情報開示の適用やそれに対する第三者保証制度の導入時期などについての中間整理を公表した。それによると、同基準に基づく開示について、時価総額1兆円未満企業の開始時期の決定を見送った。一方、第三者保証の導入は、基準適用開始時期の翌年とすることを決めた。 プライム上場企業を対象にしたSSBJ基準に基づく開示の開始時期については、時価総額3兆円以上が27年3月期、1兆円以上3兆円未満が28年3月期と決定。一方で、29年3月期を見込んでいた5000億円以上1兆円未満は、「国内外の動向等を注視しつつ引き続き検討し、25年中を目途に結論」を出すとして確定しなかった。また、5000億円未満も、「企業の開示状況や投資家ニーズ等を踏まえて、数年後を目途に結論」とし、決定を先延ばしした。 出典:「ワーキング・グループ」中間論点整理・別紙より抜粋してMS&ADインターリスク総研が作成 政府としては、サステナビリティの制度開示が国内の主要企業に一定数普及している状態の実現が必要で、SSBJの適用企業を絞り込み過ぎると実現の正当性がゆらぐとの危惧があるもようだ。WGの議論でも、時価総額1兆円以上の企業数は限定的で不十分なため、外国人株主保有比率が高く、海外展開も多い時価総額5000億円以上への適用が有力だ。一方で、基準対応のための企業の負担への懸念にも配慮している。 決定の見送りを受けて、ある金融庁元幹部は、当社の取材に、「企業の負担や、欧米諸国での反ESGの政治的な動きを意識した可能性もある」とコメント。一方で、「様子を見つつ段階的にスケジュールを決めるという当初の考え通りの対応。サステナビリティ開示強化の方向性は変わらないだろう」と、5000億円以上1兆円未満企業への適用は予定通り実施されるとの見通しを示す。 一方、中間整理の主な項目として、企業の負担を考慮し、有価証券報告書の提出後に、サステナビリティ情報を同年度内の訂正報告書で開示する「二段階開示」を許容。基準適用と第三者保証導入それぞれで初回から2年間は実施できるとした。 他に、有価証券報告書の提出期限を、現行の事業年度から3か月以内から4か月以内への延長を25年中目途に結論で検討することを明示。スコープ3のGHG排出量について、一定の条件下で、虚偽記載とみなされる可能性のある情報開示を行った場合でも責任を問われない「セーフハーバー制度」を整備することで賛同を得た。 出典:「ワーキング・グループ」中間論点整理・別紙より抜粋してMS&ADインターリスク総研が作成 【参考情報】 ネイチャーポジティブ 環境省は2025年7月31日、「ネイチャーポジティブ経済移行戦略ロードマップ(2025-2030年)」を公表した。ネイチャーポジティブ(NP)経済の実現は23年5月に閣議決定された「生物多様性国家戦略2023-2030」の基本戦略のひとつで、ロードマップの実行を通じてNP経済への移行を加速させる狙いがある。同ロードマップは「いつまでに、何をすべきか」の全体像が具体化されており、ネイチャーポジティブ経済の実現に向けた国の施策の方向性と、企業・金融機関・投資家・消費者・地域等を含むステークホルダーに期待するアクションが整理されている。 NP経済とは、「自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させること(=ネイチャーポジティブ)に資する経済」のことを指す。近年は自然資本の劣化に伴う経済への悪影響が懸念されており、持続可能な経済活動の実現には自然資本の保全も織り込んだ事業経営、すなわちNP経営への移行が急務となっている。こうした背景から24年3月に環境省・農林水産省・経済産業省・国土交通省の4省庁連名で「NP経済移行戦略※1」を策定した。同戦略では、NP経営による取り組みが単なるコストアップではなく、自然資本に根ざした経済の新たな成長につながるチャンスであることが強調され、実践が促された。 出典:NP経済移行戦略ロードマップ(2025-2030年) 今回公表されたロードマップでは、詳細に書き起こされたNP経済移行後の絵姿と現状のギャップを整理し、今後進めるべき取り組みの方向性が示されている。NP経済の実現にあたっては国の施策だけでなくステークホルダー(企業・金融機関・投資家・消費者・地域等)の連帯が重要と捉えられていることから、ロードマップでは国の施策を主軸としつつ、各主体に期待するアクションが挙げられている。今後の取り組みの方向性は以下の3つの視点から整理されている。 ランドスケープアプローチ※2の観点から地域の自然資本を活かしたNPな地域づくりを実現(企業価値と地域の価値を併せて向上、地域活性化に繋げる) 自然資本の環境価値を活用した経済全体の高付加価値化、情報開示促進およびNPの拡大により、NP経営実践の拡大・深化を図る NP取り組みを進める日本企業の国際的競争力の強化のため、産官学の連携の下、自然資源の調達や土地利用の在り方を含めた自然領域のルールメイキング等に積極的に関与・主導する 例えば上記の視点1における具体的な取り組みの方向性として、自然共生サイト※3に関する情報や自治体毎の保全状況・目標等が分かる「生物多様性『見える化』マップ」の機能拡充(国の施策)や、多様な主体を巻き込んだNPな地域づくりの推進(魅力的な暮らしの場の提供、地域の特産品のブランド化等、各主体に期待される取り組み)などが挙げられている。ロードマップではこうした取り組みを推進するタイムラインの全体像も示されている。 出典:NP経済移行戦略ロードマップ(2025-2030年) ロードマップでは、金融機関や投資家に対して期待するアクション(上述の視点2に対する取り組み)として「NP経営が企業価値向上において重要な要素であると認識した上で企業と対話し、投融資判断においてNP視点を織り込む」ことを挙げている。昨今は数多くの企業がTNFD提言に基づく情報開示を通して自社事業の自然関連課題※4を把握し開示しているが、こうした情報開示は今後5年間で投融資を判断する際の1要素としてさらに重要視されるようになるだろう。NPに資する取り組みを単なるコストアップではなく、新たな成長機会と捉える姿勢がこれまで以上に肝要になると考えられ、自然資本の保全もマテリアリティに組み込んだ経営体制の整備が推奨される。 1)ネイチャーポジティブ経済移行戦略 【参考情報】 米国海外腐敗行為防止法 米国の司法省は2025年6月9日、「海外腐敗行為防止法(FCPA)の捜査及び執行に関する新指針」を公表した。これは、25年2月にトランプ米大統領が、米国の経済と国家安全保障を促進するため、司法省に対して既存の海外腐敗行為防止法に関する調査および執行措置を詳細に見直し、新たに指針を発行するよう命じたことを受けたものである。 本指針では、米国の海外腐敗行為の調査において以下の要素を考慮することが示された。 いずれも、大統領令を踏まえて米国の経済や企業活動を守るための観点を強調するものとなっており、米国企業および個人の競争機会の確保と経済的損害の防止の優先が明示されている。また、米国の国家安全保障の推進として、重要な分野(鉱物資源、防衛、エネルギー、インフラなど)に関わる汚職行為を最優先で調査・執行する旨も明示されている。 FCPAでは、米国に拠点がない場合や米国域外での行為、第三者を通じて間接的に行われる行為も対象となる場合があり、日本企業においても当該認識のもと、対策を実施していることが想定される。 本指針を踏まえると、日本企業も、特に米国企業を競合とするような場面では、調査や執行の対象となるリスクが高まることが想定されるため、法の運用状況等について動向を注視することが望ましい。 【参考情報】 サイバーセキュリティ 英国政府は2025年7月22日、地方自治体等の公的機関や重要な国家インフラ事業者がランサムウェア攻撃の被害に遭った際に、身代金支払いを禁止する等のランサムウェア対応法令案に対する意見公募結果を公表した。 今回の法令案は、下表の3つの提案が含まれる。提案①は、公的機関等がランサムウェア攻撃の被害に遭った際に身代金支払いを禁止するものである。これは英国の公的機関等が身代金の要求に応じないことで、ランサムウェア攻撃者集団にとって英国の公的機関等からは攻撃の対価を得られず、魅力がない標的であると認識させることを狙いとする。提案①に意見公募への回答者の72%が賛成しており、回答者の多くが、公的機関等による身代金の支払いを禁止することは攻撃者への抑止力となり、攻撃意欲を低下させると考えている。 提案① 地方自治体を含むすべての公的機関と重要な国家インフラ事業者による身代金の支払いを禁止する。 提案② ランサムウェアの被害者が身代金を支払う意思がある場合、政府に支払い意思を報告する。 提案③ ランサムウェアの被害者に対して、義務的な報告要件を課す。 出典:Gov.uk「Ransomware: proposals to increase incident reporting and reduce payments to criminals」をもとにMS&ADインターリスク総研が作成 提案②は、個人を含むランサムウェア攻撃の被害者が身代金を支払う意思がある場合、政府に支払い意思を報告することを義務付けるものである。政府は被害者からの報告を受けて、制裁対象の攻撃者集団に対する資金送金リスクの有無を通知することを想定しているが、意見公募への回答者の反応は賛否が分かれる結果となった。提案③はランサムウェア攻撃の被害者に対する義務的な報告要件を課すものであり、意見公募の回答者からは概ね好意的な反応を得ている。今後、これらの法令案は意見公募の結果を踏まえながら、産業界とも連携し、詳細が検討されることになる。英国に進出している日本企業や英国企業と取引のある日本企業は、本検討の影響を受ける可能性があるため、動向を注視する必要がある。 ランサムウェア攻撃については、多くの日本企業も標的となっている。特に昨今は、自社の委託先がランサムウェア攻撃の被害に遭うケースが増加しており、サイバーセキュリティリスク管理の状況に関して、委託先を含めた広範な目配りが重要となる。また、ランサムウェア攻撃の被害に遭った際に、身代金を支払うことは必ずしも事態を収束させるものではない。身代金の支払い是非については、法的リスクやレピュテーションリスク等を考慮の上、慎重な判断が求められる。そのため、ランサムウェア攻撃発生時の対応方針を整理し、経営層で予め合意しておくことが望ましい。 【参考情報】 自然資本 近年、日本各地で渇水が深刻化している。今夏、東北地方や西日本地域では厳しい水不足が報告され、宮城県の鳴子ダムでは貯水率が0%まで低下した。この状況は無降水日※1が増加していることが原因とされ、2025年8月6日現在で、18水系25河川で渇水による取水制限などの措置が取られている。こうした措置は主に農業用水に対して取られているが、新潟県関川水系では上水や工業用水に対して40%以上の節水が要請されており、製造業の操業にも影響を及ぼし得る状況である。 渇水による被害は一時的なものではなく、今後、頻繁に発生することが懸念される。なぜなら、気候変動の影響により無降水日が増加すると予測されているからである。具体的には地球の平均気温が4℃上昇するシナリオの場合、全国平均で無降水日が約8.2日増加すると試算されている。深刻な渇水は、今より厳格な取水制限などの措置に繋がる可能性もあり、持続可能な企業経営のためには水資源管理と対策が不可欠である。 加えて、日本国内では水資源を巡る新たなリスクも表面化し始めており、企業には渇水以外への対策も求められる。国土交通省が2025年8月1日に公表した「令和7(2025)年版 日本の水資源の現況」では、渇水リスクの顕在化に加え、気候変動による水災害の激甚化、水インフラの老朽化による事故の発生、産業構造の変化に伴う水需要の変動による水供給への影響および、ネイチャーポジティブに向けた対応など、企業を取り巻く水課題は多様になっていると指摘されている。これらの課題解決のために、自社の事業所敷地内の節水活動だけでなく、河川流域全体であらゆる関係者が協働して取り組み、流域治水の推進や水資源の効率的な管理と持続可能な利用を目指す流域総合水管理の重要性が着目されている。 海外では企業が主体となって流域単位での総合水管理の取り組みを進めるアプローチが成功している事例もいくつかあるが、日本では自治体主導で進められることが多く、企業の参加が今後の課題である。このような背景の下、日本でもJapan Water Stewardship※2という企業イニシアチブが設立されており、企業による流域内のステークホルダーと連携した水資源管理の取り組み促進が期待されている。企業が率先してステークホルダーとの協働体制を構築したり、流域の水管理に自社技術を提供したりといった取り組みをすることで、水リスクを管理して成長戦略に繋げる能力を高めることができる。一例として、企業が水源保全を目的として、製造拠点の水源域に位置する自治体と協定を締結し、保全策を他企業やNGOなども交えて策定する取り組みが挙げられる。水を流域に涵養する取り組みを行うことで、企業は安定的に事業を行い、水不足による操業停止リスクを低減することが可能となる。 水リスクへの対応は単なるリスク管理の枠を超え、水使用効率を向上させる技術革新や、水資源管理に取り組むことによる評判やブランド価値の向上に繋がるものであり、企業の成長を左右する重要なテーマである。成長戦略の視点を持って積極的に取り組むことで、企業は持続可能な社会の構築に貢献し、社会的責任を果たしつつ、長期的な競争力を維持することができる。単なるCSR活動でなく、事業機会、すなわち経済的利益との密接な関連性を認識して投資をすることで、将来のビジネスチャンスを生む土台となり得る。 1)無降水日 【参考情報】 気候、自然資本 環境省は2025年6月24日、「環境課題の統合的取組と情報開示に係る手引き」を公表した。TCFD・TNFDを始めとした最新の国際フレームワークに準拠した統合的な情報開示を実践するための指針を提示するのが目的。 深刻な環境危機に対応し、気候変動対策や生物多様性の保全、循環型社会の形成などの要対応課題の拡大を踏まえて、環境課題の相互関係に基づく具体的取り組みの実施と情報開示への社会的要請の高まりを受けたもの。こうした状況への対応の一環として、構成・内容の類似点が多く、国内で普及が進むTCFD(気候変動)・TNFD(自然資本)を統合的開示するための方法の具体例を示している。 中でも、特に重要な観点に、「気候変動は自然資本と相互関係性がある」ことを前提にした、「ガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標の一体設計」による“統合的アプローチ”での取り組み・開示を挙げる。気候は自然と相互関係性があり、一体的に捉えることで、網羅的な分析や戦略的な意思決定・リスク管理が可能になるとの前提だ。読み手の負担軽減や理解の深化も見込める利点があるという。 統合的アプローチの具体的な開示例として、気候変動・自然資本共通のガバナンス・リスク管理体制と評価軸、評価方法を記載した伊藤園を取り上げている。また、キリンやリコーを、リスク・機会項目を関連する環境課題ごとに共通化し、財務影響分析を一括で行う体制の構築・運用を説明した例として挙げた。 特にリコーは、TCFDとTNFD両方の情報を同一の開示媒体で開示し、ガバナンス・リスク管理についてはチャプターも統一。TCFD・TNFDの各要請事項に対する開示箇所を対応表で明示している。 手引きは、統合的アプローチについて、段階的な導入と継続的な改善を推奨する。これによりCDPなどの外部評価への対応も含め、複数の開示要請への一体的な対応やガバナンスやリスク管理体制の横断的整備、迅速な意思決定、課題間のシナジー・トレードオフ把握による費用対効果の高い施策立案など様々な効果がある。その結果、外部評価機関や投資家からの高評価を得て企業価値向上も期待できるほか、ISSBやSSBJなどグローバル基準への対応も円滑になると見込む。同時に、経営層やサステナビリティ担当部門のみならず、関連する多様な関係者の参画を前提としており、企業全体として統合的アプローチを浸透・活用していく重要性を強調している。 【参考情報】
○ SSBJ基準適用で金融庁WG中間論点、1兆円未満プライム企業の適用時期は決定見送り
【表1】プライム企業への、時価総額ごとのSSBJ基準適用開始時期
3兆円以上
27年3月期
3兆円未満
1兆円以上
28年3月期
1兆円未満
5,000億円以上
【未確定】29年3月期。国内外の動向等を注視し
引続き検討。25年中目途に結論
5,000億円未満
【未確定】企業の開示状況や投資家ニーズ等を
踏まえ、数年後を目途に結論
【表2】今後の検討事項
方向性
検討項目
25年中を目途に結論
プライム上場企業へのSSBJ基準の適用
担い手
数年後を目途に結論
企業へのSSBJ基準の適用と第三者保証導入の要否
新設ディスクロージャー
ワーキンググループ
(仮称)で検討
2025年7月17日金融庁HP: https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20250717.html
○ 環境省が「ネイチャーポジティブ経済移行戦略ロードマップ(2025-2030年)」を策定、 ネイチャーポジティブ経済の実現に向け期待されるアクションを整理
-*-*-*-*-
新たに整理されたNP経済移行後の絵姿

視点1
視点2
視点3
NP経済への移行に際し「いつまでに、何をすべきか」の全体像

https://www.env.go.jp/content/000213033.pdf
2)ランドスケープアプローチとは、一定の地域や空間において、主に土地・空間計画をベースに、多様な人間活動と自然環境を総合的に取扱い、課題解決を導き出す手法のこと。
3)自然共生サイトとは、民間の取り組み等によって生物多様性の保全が図られている区域のこと。
4)自然関連課題とは、自然関連の依存・インパクト、リスク・機会のこと。
2025年7月31日付 環境省HP https://www.env.go.jp/press/press_00333.html
○ 米司法省が「海外腐敗行為防止法の調査および執行に関する新指針」を公表
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米国政府HP:https://www.justice.gov/dag/media/1403031/dl
○ ランサムウェア身代金の支払いを規制 英国政府が法令案に対する意見公募結果を公表
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ランサムウェア対応法令案の提案内容
Gov.uk「Ransomware: proposals to increase incident reporting and reduce payments to criminals」
https://www.gov.uk/government/consultations/ransomware-proposals-to-increase-incident-reporting-and-reduce-payments-to-criminals
○ 「日本の水資源の現況」公表。国内流域総合水管理の重要性に言及
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日降水量1.0mm未満で降水の見られない日のこと。
2)Japan Water Stewardship
国際水資源管理基準(AWS スタンダード)の管理者である会員制連合体、Alliance for Water Stewardship(AWS)の呼びかけにより、日本国内の AWS メンバー企業を中心に設立された団体。「流域での責任ある水資源管理」(ウォータースチュワードシップ)を促進し、企業が業界を越えて協働して流域の水資源保全に取り組む環境を整備することで、国内外の流域で顕在化する水リスク対応への影響力を高めていくことを目指している。
2025年8月1日付 国土交通省HP
https://www.mlit.go.jp/report/press/water02_hh_000191.html
https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/mizukokudo_mizsei_kassui_portal.html
○ TCFD・TNFD統合的開示で環境省が手引き、企業の負担軽減と価値向上の促進が目的
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図1:統合的アプローチのイメージ(本編1-26ページより抜粋)


図2:リスク・機会項目と関連する環境課題を紐づけた開示事例
(キリン・リコー)(本編1-31ページより抜粋)


図3:統合的取り組みと情報開示の中長期的な発展イメージ(手引き 5ページより抜粋)

2025年6月24日付 環境省 報道発表資料 HP:https://www.env.go.jp/press/press_00029.html
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PLレポート 製品安全(2025年9月)
一般財団法人家電製品協会家電製品PLセンターは、2025年7月2日に「2024年度家電製品PLセンター年次報告書」※1を公表しました。本報告書によると、製品別の相談受付件数はルームエアコンが370件と最も多く、前年比で110%の増加となっています。2021年度までの同製品の相談件数は200件台でしたが、2022年度以降は300件を超える件数で推移しています。また、同製品の2024年度の相談のうち、損害事故(製品が原因と思われる損害事故)件数については、洗濯機の35件に次いで25件で、このうち拡大損害事故(製品が原因と思われ、生命や身体、財産等への被害が生じた事故)では、21件でした。


出典:一般財団法人家電製品協会家電製品PLセンター「2024年度家電製品PLセンター年次報告書」をもとにMS&ADインターリスク総研にて作成
同製品の相談件数の増加の背景には、次のような近年の使用実態から故障リスクが高まっていることが考えられます。
このような環境下においては、製造事業者や販売事業者は、下表に整理した同製品による事故の主な原因を参考に、ルームエアコン本体や室外機を正しく設置し、使用することや、適切なメンテナンスを行う必要があることを消費者に正しく伝え、異常の兆候がある場合は買替を促すなどの情報発信が必要となります。
| 経年劣化 | 内部部品の劣化による発熱や発火のリスクが挙げられます。 特に、10年以上使用しているルームエアコンは注意が必要となります。 |
| 誤った使い方 | 電源の配線に延長コードを用いた場合、消費電力が大きいため コードが過熱して発火するリスクが挙げられます。 また、コンセントのプラグに埃が溜まった状態で使用すると、 トラッキング現象によりショートして発火する可能性があります。 |
| 設置状況の問題 | エアコンの設置が不適切な場合、落下や冷媒漏れなどが発生する可能性があります。 エアコンは高価な製品であることから、引っ越しなどの際に移設する場合もありますが、 正しい設置を行わないと事故につながる可能性があります。 特に室外機では、周辺に可燃物を置くことで、火災の原因になることがあります。 室外機は熱交換された熱い空気を室外に排出する必要があります。 直射日光などで室外機が高温になる環境での設置や、直射日光を避ける目的で室外機を覆い、 空気の流れを遮断してしまうと事故や故障の原因となります。 |
| メンテナンス不足 | エアコンは定期的なメンテナンスが必要な製品です。 フィルターが目詰まりすると、エアコンに過度な負荷がかかり、故障や火災の原因になる場合があります。 また、エアコン内部を洗浄する際、洗浄液が電気部品にかかると、 ショートして発火する可能性があります。 |
1)一般財団法人家電製品協会家電製品PLセンター「2024年度家電製品PLセンター年次報告書」:
https://www.aeha.or.jp/plc/houkoku/pdf/nenji_2024.pdf
近年、電気製品をはじめ、多くの製品において取扱説明書や設定マニュアルなどを自社のホームページ上で電子データとして掲載する事例が増えています。
取扱説明書を電子データ化するメリットとして、製造事業者においては、ペーパーレス化による紙使用量の削減や製品重量の低減による輸送コストの低減、また記載内容に変更が生じた場合の消費者への周知の容易さ、動画を用いた取扱説明の実現などがあります。また、消費者においても、取扱説明書の保管の手間がなくなる、必要項目の検索が容易にできるなどのメリットがあります。
「安全上の注意事項」などは、製品の開梱や設置の際に、消費者が使用する前に必ず読んでおくべき事項です。しかし、電子化されることで、端末を用いて確認しなければ、消費者の目に留まらない、電子データを確認できる端末が手元にない場合には、そもそも当該情報にアプローチできないといった問題があります。
このようなことから、製造事業者において、取扱説明書等の電子データをホームページ上に掲載することに、お悩みの事業者も少なくありません。
この問題の解決の方向性の一つとして、一般財団法人製品安全協会では、取扱説明書を電子データ化し、QR コードにより検索、閲覧できる提供方法に関し、求められる条件を次のとおり公開しています※1。
取扱説明書等を電子データ化する際には、これらの求められる条件を参照し、対象製品の製品安全上のリスクについて改めて検証し、必要な対応を取ることが求められます。
1)一般財団法人製品安全協会
「第175 号 取扱説明書などの QR コード利用への取り組み~消費者にとってより便利な製品情報の提供を目指して~」
https://www.sg-mark.org/mailmagazine/175/
最近、リチウムイオン電池を搭載したモバイルバッテリーの火災・発火事故が相次いでいます。
記憶に新しいところでは、8月22日、走行中の東海道新幹線の車内で、乗客が座席前のポケットに入れていたモバイルバッテリーが発火、通報を受けた警備員が消火器で火を消し止めました。また、7月には JR 新宿駅付近を走行中の山手線の車内で、30代の女性が持っていたモバイルバッテリーから出火し、ニュースでも大々的に報じられました。さらに、1月には韓国で旅客機に持ち込まれ、荷物棚に置かれていたモバイルバッテリーから出火し、駐機場で離陸準備中だった機体が半焼する事故も発生しています。
独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)に 2020年から2024年までの5年間に通知された製品事故情報では、モバイルバッテリーを含む、「リチウムイオン電池搭載製品」の事故は1,860件あり、事故の約85%(1,860件中1,587件)が火災事故に発展しています。中でも、モバイルバッテリーによる火災事故は年々増加傾向にあり、2024年度には、前年度比で約146%となり、発生要因の第1位となっています。※1


出典:製品評価技術基盤機構「『夏バテ(夏のバッテリー)』にご用心~「リチウムイオン電池搭載製品」の
火災事故を防ぐ3つのポイント~」(2025年6月26日)3頁より
モバイルバッテリーの事故が増加している主な要因としては次のことが考えられます。
| 厳しい使用環境 | モバイルバッテリーは常に携帯され使用されることから、落下や衝 撃を受ける場合が多く、また、カバンや車の中に放置されるなど、 過酷な環境で使用されます。また、車や電車、航空機などに持ち込 まれることから、ひとたび発煙や発火に至ると、周囲へ甚大な被害 が及ぶ可能性があります。 |
| ネットモール経由による 安価な海外製品の購入 | ネットモールを経由し、海外製の安価な製品が容易に購入できるよ うになりました。これらの製品は、日本国内で販売するための法規 制に適合していない場合があり、PSE マークが表示されていないなど、 安全性に問題がある製品も多く見られます。 東京消防庁が公開しているデータによると※2、令和5年中に発生した 火災について、出火した製品の入手経路はネット通販が59件 (35.3%)、モバイルバッテリーの入手経路は44件中ネット通販が 13件(29.5%)で最多となっています。 |
このような状況を受け、モバイルバッテリーを含むリチウムイオン電池搭載製品の安全性に関する規制強化が次のとおり、なされています。
| 電気用品安全法の 技術基準解釈の改正等 (経済産業省・令和4年12月28日施行) | リチウムイオン電池に関し、これまでの技術基準解釈の別表第9で は、各電池ブロックの電圧監視について明示的に求めていませんで したが、過充電による発火事故を引き起こす懸念があったこと等に 鑑み、技術基準解釈別表第9を国際規格に対応した別表第12の整合 規格に一本化する改正が行われ、各電池ブロックの電圧監視にかか る規定が明示されるようになりました。 |
モバイルバッテリーを安全に使用するためには、製造事業者、輸入事業者、小売事業者および消費者それぞれの努力が不可欠となります。特に事業者においては、法規制への対応はもちろんのこと、安全な製品を調達、製造、提供することで、事故のリスクを最小限に抑える努力が重要となります。
モバイルバッテリーを調達する際には、モバイルバッテリーを構成するリチウムイオン電池単体の構造や特性をよく理解した上で、電池およびバッテリーモジュールの安全機能を搭載した設計がなされていることや、製品の設計プロセスや製造プロセスにおける信頼性の確保や適切な試験が行われていることを確認、検証することが必要となります。
また、万が一不具合が発生した際に、原因解析や迅速な対応が取れる体制が整っているかを確認し、常に連携が取れる状況を構築しておくことが重要です。
1)製品評価技術基盤機構「『夏バテ(夏のバッテリー)』にご用心~
「リチウムイオン電池搭載製品」の火災事故を防ぐ 3 つのポイント~」2025年6月26日
https://www.nite.go.jp/data/000158238.pdf
2)東京消防庁「リチウムイオン電池搭載製品の出火危険」
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/lfe/kasai/lithium_bt.html
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