新たな防災気象情報と企業の水害対策 ―2026年の水害事例からみる情報の活用—【災害リスク情報(2026年11月)】
本章では、令和8年5月29日から運用が開始された新たな防災気象情報について解説する。
これまで、自治体が発表する「住民が災害時にとるべき避難行動を示す警戒レベル(図1参照)」と、気象庁が発表する「警報や注意報等の防災気象情報」との関係が災害ごとに異なる運用となっており、複雑でわかりづらいという課題があった。そこで、気象庁では「防災気象情報に関する検討会」を設置し、約2年半かけて見直しを実施した。その結果、警戒レベル相当情報に該当する気象災害について、図2の通りに整理された。なお、変更前の防災気象情報を図3に示す。
※1 市町村が災害の状況を確実に把握できるものではない等の理由から、警戒レベル5は必ず発令される情報ではありません。 また、警戒レベル相当情報(氾濫発生情報、土砂災害警戒情報など)が発表されたとしても、必ずしも同時刻に同じレベルの避難情報が発令されるものではありません。
※2 警戒レベル3は、高齢者や障がいのある人、妊産婦、乳幼児連れの人など、避難に時間がかかる人は避難を開始するタイミングです。それ以外の人も、必要に応じ普段の行動を見合わせ始めたり、避難の準備をしたり、危険を感じたら自主的に避難するタイミングです。
出典:内閣府、消防庁 警戒レベルに関するチラシ1
出典:気象庁 新たな防災気象情報について(令和8年~)2
出典:水管理・国土保全局、気象庁 防災気象情報の改善について3
図2と図3を比べると、体系的に整理されたことがわかる。主な変更点としては、以下が挙げられる。
これまでの「大雨警報」や「土砂災害警戒情報」といった名称から、「レベル+情報名」になったため、相当する警戒レベルが一目でわかるようになった。
例)「大雨警報」→「レベル3大雨警報」
避難指示発表の目安となる警戒レベル4相当の情報として、危険警報が新設された。これまでは、警戒レベル4に相当する情報が災害の種類によって異なっていたうえ、そもそもレベル4相当に該当する情報自体がない場合もあった。危険警報が新設されたことによって、4種類すべての災害に対して警戒レベル4「危険な場所から全員避難」が必要となるタイミングを把握しやすくなった。
例)「土砂災害警戒情報」→「レベル4土砂災害危険警報」
これまで気象台が市町村ごとに発表していた「洪水注意報」や「洪水警報」は廃止され、河川の規模や情報の発表方法に応じて、河川氾濫と大雨の情報に整理された。国や都道府県が水位を予測し、河川ごとに洪水のおそれを知らせる洪水予報河川(主に大きな河川、全国約400河川)については、「河川氾濫に関する情報」として河川ごとに発表される。一方、それ以外の中小河川の氾濫については、低地の浸水とあわせて「大雨に関する情報」に集約された。
これまで土砂災害に関しては、「大雨警報(土砂災害)」「土砂災害警戒情報」など、危険度に応じて異なる名称で発表されていた。これらを「土砂災害に関する情報」として整理し、土砂災害の危険度がどの段階まで高まっているのか情報名から把握しやすくなった。
これまでは高潮警報と高潮特別警報が、ともにレベル4相当とされていたが、危険度に応じて区別された。また、潮位だけでなく波の打上げも考慮することで、より精度の高い高潮の予報が発表されるようになった。
上記見直しのほか、気象庁は線状降水帯の直前予測も同時期から運用を開始した。
これまで、気象庁では線状降水帯による大雨の発生が予測される場合、半日程度前から都道府県単位
(一部地域ではさらに細分化※)で「半日前予測」を発表してきた。今回、「半日前予測」に加えて新たに運用を開始した「直前予測」は、線状降水帯発生の2~3時間前を目標に発表され、「半日前予測」と「発生情報」の間を補う役割を担う(図4参照)。また、「神奈川県東部」「静岡県伊豆」といった普段の天気予報で使用される地域区分(一次細分区域単位)で発表されるため、半日前予測よりも対象地域が絞り込まれ、線状降水帯による大雨のおそれが高まっている地域をより具体的に把握できるようになった。
※北海道・沖縄県では府県予報区単位、鹿児島県では奄美地方、東京都では伊豆諸島・小笠原諸島を区別して発表する4 。
出典:気象庁 線状降水帯に関する情報をもとに作成4
この直前予測が可能になった背景には、線状降水帯の予測技術の進化がある。天気予報に用いる「局地モデル」のメッシュを2kmから1kmに細かくしたことで、山地や海岸線、局地的な風の収束などを、これまでより詳細に表現できるようになった。さらに、わずかに異なる条件で複数の予測を行う「局地アンサンブル予報システム」を導入し、大雨の発生可能性や予測の不確実性を捉えやすくした。これらによって、局地的な大雨の予測精度の向上が図られている(図5参照)。
気象庁は、新設した直前予測の予測精度について、適中率※1(予測が当たる割合)が50%程度、捕捉率※2(発生を事前に捉えられる割合)が80%程度としている。また、直前予測が発表された地域では、線状降水帯そのものが発生しなくても、3時間降水量100mm以上の大雨になる割合は90%程度と想定している4。この予測精度と実績に関しては、次章で取り上げることにする。
※1,2 適中率は予測「あり」の事例のうち実際に線状降水帯が発生した事例の割合、捕捉率は線状降水帯が発生した事例のうち事前に予測「あり」であった事例の割合を示す4 。
出典:気象庁 線状降水帯の予測技術が進化します~1km の高解像度モデルと新しいアンサンブル予報の運用開始~5
本章では、2026年に発生した主な水害とその被害状況を整理する。そのうえで、特に被害が大きかった「令和8年8月千葉豪雨」における防災気象情報の発表状況を振り返るとともに、線状降水帯予測の実績と活用について検証する。
2026年に発生した主な水害とその被害状況を表1に示す。
| 災害名 | 被害の様相 | 人的被害 | 住家被害 | ライフライン |
| 令和8年8月千葉豪雨(8/13~14) | 千葉県で線状降水帯が発生。千葉市では平年の8月総降水量の 3倍以上となる360mm超の降水量を観測。 県内広範囲でレベル5大雨特別警報・土砂災害特別警報が発表。県管理の17河川で浸水被害。 | 死者:13人 負傷者:46人 | 床上浸水: 1,054棟 床下浸水: 2,736棟 | 停電:最大約46,980戸 断水:最大約100戸(千葉市) →いずれも復旧済み |
| 8月27日からの北陸地方( 富山・石川・福井)の大雨 (8/27~30) | 前線の動きが活発になったため、富山・石川に線状降水帯が相次ぎ発生。24時間降水量が観測史上1位となる300mm超の記録的な大雨となった。 富山・石川、福井でレベル5大雨特別警報が発表。 | 死者:0人 負傷者:9人 (富山0人、石川6人、福井3人) | 床上浸水: 352棟 床下浸水: 750棟 | 停電:富山・石川で最大約3,320戸、福井で最大約150戸 断水:富山81戸、福井約398戸 →いずれも復旧済み |
| 愛知県を中心とする大雨 (9/8~9) | 低気圧や暖かく湿った空気の影響で、愛知・岐阜に線状降水帯が発生。名古屋市で1 時間 104.5mm(観測史上1位)の降水量を観測。 岐阜と愛知を流れる庄内川にレベル5氾濫特別警報が発表。 | 死者:0人 負傷者:38人 | 床上浸水: 396棟 床下浸水: 605棟 | 停電:発生 →最大停電戸数は県最終報に記載なし 断水:県最終報に記載なし |
| 台風第25号※による大雨 (9/19~21) | 台風第25号の接近により関東地方で記録的な大雨になる。 北印旛沼・角川集水路・長門川にて3地点4箇所の堤防が決壊し、周辺で大規模な浸水が発生。 | 死者:16人 (千葉9人、神奈川5人、その他2人) 負傷者:41人(千葉31人、神奈川7人、その他3人) | 床上浸水:394棟 床下浸水:1,177棟 → いずれも千葉県内のみ | 停電: 最大約62,704戸(東京電力管内) 断水:最大約9,070軒 (千葉県・茨城県) |
出典:気象庁、内閣府、愛知県公表資料等をもとに作成6,7,8,9,10
※被害数は公表時点の速報値を含んでおり、今後変更される場合がある。台風第25号の被害はその後の台風第26号や前線による被害と一部切り分けが困難なため、住家被害やライフラインに関しては、主な被災地域の数値を記載した。
表1に示した事例以外にも、2026年は全国各地で大雨による被害が相次いだ。都市部における短時間の猛烈な雨や、河川の氾濫・堤防決壊など、地域や降雨の状況によって被害の様相が異なることがわかる。
次に、特に被害が大きかった「令和8年8月千葉豪雨」について、防災気象情報の発表状況を詳しく見ていく。千葉県では8月13日から14日にかけて線状降水帯が相次いで発生し、短時間のうちに大雨の危険度が急激に高まった。中でも千葉市では、18時48分までの1時間に115.0mmという観測史上1位の猛烈な雨を観測し、最終的にはレベル5大雨特別警報が発表された11。
千葉市に発表された大雨に関する防災気象情報と、千葉市を含む「千葉県北西部」に発表された線状降水帯に関する情報を同時間軸で整理したものを表2に示す。
| 日時 | 大雨に関する情報・気象状況 (千葉市) | 線状降水帯に関する情報 (千葉市を含む千葉県北西部※) |
|---|---|---|
| 8月13日 半日程度前 | ー | 半日前予測:発表なし |
| 15:32 | レベル2大雨注意報発表 | ー |
| 17:44 | レベル3大雨警報発表 | ー |
| 17:58 | ー | 線状降水帯発生情報(1回目) 〔北西部・南部〕 ※直前予測の発表なし |
| 18:00 レベル3→4 わずか16分 | レベル4大雨危険警報発表 | ー |
| 18:48 | 千葉で1時間降水量 115.0mmを観測(観測史上1位) | ー |
| 18:58 | ー | 線状降水帯直前予測(1回目) 〔北西部を含む〕 |
| 19:28 | ー | 線状降水帯直前予測(2回目) 〔北西部を含む〕 |
| 19:30 | レベル5大雨特別警報発表 | ー |
| 20:38 | ー | 線状降水帯直前予測(3回目) 〔北西部を含む〕 |
| 20:58 | ー | 線状降水帯発生情報(2回目) 〔北西部・北東部・南部〕 |
| 22:48 | ー | 線状降水帯直前予測(4回目) 〔北西部を含む〕 |
| 22:48 | ー | 線状降水帯発生情報(3回目) 〔北西部・北東部〕 |
出典:気象庁、銚子地方気象台資料等をもとに作成11,12
※線状降水帯の直前予測・発生情報は市町村単位ではなく一次細分区域単位で発表される。千葉市は「千葉県北西部」に含まれるため、本表では北西部を対象に含む情報を掲載した。
表2の通り、千葉市では15時32分にレベル2大雨注意報、17時44分にレベル3大雨警報、18時00分にはレベル4大雨危険警報が発表され、その後19時30分にはレベル5大雨特別警報が発表された。レベル3からレベル4まではわずか16分、レベル4からレベル5までも1時間30分であり、短時間のうちに大雨の危険度が急激に高まったことがわかる。
また、線状降水帯に関する情報をみると、半日前予測は発表されておらず、千葉市を含む千葉県北西部では17時58分に最初の線状降水帯発生情報が発表された。その後、18時58分に初めて直前予測が発表されたが、この時点では千葉市ですでに18時48分までの1時間に115.0mmの猛烈な雨を観測していた。つまり、最初の線状降水帯については事前に予測することができず、直前予測が発表された時点ではすでに記録的な大雨となっていたことになる。
気象庁は、線状降水帯の発生を予測できなかった理由として、局地的な冷気と暖かく湿った空気の影響で雨雲が千葉市付近に停滞したが、この状況を事前に予測することが難しかったとしている13。その結果、短時間で災害リスクが急激に高まり、警報や危険警報等の防災気象情報が相次いで発表された。このため、千葉豪雨では防災気象情報をもとに大雨の危険性を把握し、十分な時間的余裕をもって避難や浸水対策を開始することが難しかったと推測される。特に、レベル4相当の情報や線状降水帯直前予測が発表されてから対応を開始する場合には、十分な時間を確保できなかった可能性が高い。
一方、2026年に発生した大雨の中には、線状降水帯を事前に予測できた事例もある。表1で示した「愛知県を中心とする大雨」では、線状降水帯の半日前予測及び直前予測が発表された後に、実際に線状降水帯が発生した。名古屋市に発表された大雨に関する防災気象情報と、名古屋市を含む「愛知県西部」に発表された線状降水帯に関する情報を同時間軸で整理したものを表3に示す。
| 日時 | 大雨に関する情報・気象状況 (名古屋市) | 線状降水帯に関する情報 (名古屋市を含む愛知県西部※) |
|---|---|---|
| 9月8日 半日程度前 | ー | 半日前予測:発表あり |
| 13:46 | レベル2大雨注意報発表 | ー |
| 15:06 | ー | |
| 15:34 | レベル4大雨危険警報発表 | ー |
| 15:48 | ー | 線状降水帯直前予測 |
| 16:28 | ー | 線状降水帯発生情報 |
| 16:53 | 名古屋で1時間降水量 104.5mmを観測(観測史上1位) | ー |
| 18:20 | (参考)庄内川レベル5氾濫特別警報発表 | ー |
出典:名古屋地方気象台令和8年9月8日から9日にかけての大雨に関する愛知県気象速報をもとに作成9
※線状降水帯の直前予測・発生情報は市町村単位ではなく一次細分区域単位で発表される。名古屋市は「愛知県西部」に含まれるため、本表では西部を対象に含む情報を掲載した。
表3の通り、線状降水帯に関する情報は半日前予測、直前予測ともに発表され、その後16時28分に実際に線状降水帯が発生しており、事前に捉えることができた事例といえる。ただし、レベル3大雨警報からレベル4大雨危険警報までは28分、直前予測から線状降水帯発生情報までも40分と短時間であり、予測が発表された場合であっても、実際に企業が対応できる時間は必ずしも十分とは言えない。
線状降水帯予測は、全体としてどの程度の精度で発表されているのか。気象庁では、運用開始以降、半日前予測及び直前予測について、実際の発生状況との検証を行っている。2026年9月9日時点の予測実績を表4に示す。
| 半日前予測 半日程度前 | 直前予測 2~3時間前を目標 | |
|---|---|---|
| 適中率 | 13% (12 / 89回) | 33% (22 / 66回) |
| 捕捉率 | 52% (12 / 23回) | 69% (22 / 32回) |
| 予測地域で3時間100mm以上の 大雨となった割合 | 49% (44 / 89回) | 91% (60 / 66回) |
出典:気象庁:令和8年の実績~線状降水帯半日前予測、線状降水帯直前予測~をもとに作成14
半日前予測の実績は、適中率13%、捕捉率52%であった。この数値だけを見ると適中率が低く感じられるが、線状降水帯は雨域の形状や大きさ、降水量など複数の条件を満たした場合に判定されるため、大雨となっても「適中」に含まれない場合がある。これらの数値を見る上で重要なのが、表4に示した「予測地域で3時間100mm以上の大雨となった割合」が49%であるという点である。これは、線状降水帯の発生の有無にかかわらず、半日前予測が発表された事例の約半数で実際に大雨となったことを示しており、大雨への警戒や事前の準備を始めるうえでは十分な確率といってもよい。
また、直前予測では、適中率33%、捕捉率69%と半日前予測よりも高く、予測が発表された地域の 91%で3時間100mm以上の大雨となった。ただし、直前予測は「2~3時間前」の発表を目標としているものの、実際の発表から線状降水帯発生までの時間は平均60分程度であり、十分な対応時間を確保できない場合もある。
以上の実績から、線状降水帯の予測は、線状降水帯そのものの適中率や捕捉率には課題がある一方で、予測が発表された地域では実際に大雨となる割合が高く、大雨の可能性を事前に把握する上で有用な情報である。ただし、千葉豪雨のように事前に予測できない場合や、直前予測が発表されても十分な時間的余裕がない場合があることには留意が必要である。
前章で述べた通り、防災気象情報や線状降水帯予測には、十分な時間的余裕をもって発表されない場合もある。このため企業では、平時から自社の水害リスクを把握するとともに、防災気象情報等の段階に応じてどのような対応をとるかをあらかじめ定め、緊急時には速やかに行動に移せるよう備えておく必要がある。
まず、自治体等が公表するハザードマップを用いて、自社拠点における洪水、内水氾濫、土砂災害等のリスクを確認する。例えば、国土交通省が公表している「重ねるハザードマップ15」では、所在地の災害リスク(河川氾濫による浸水、土砂災害等)を確認することができる。拠点に浸水リスクがある場合、想定されている浸水深により、垂直避難(建物の上階への避難)か水平避難(建物からの立ち退き避難)かを検討し、水平避難が必要な場合は自治体が設置する避難所等、最適な避難先・避難経路を選定することをお勧めする。
水害のおそれが高まった際に迅速に対応するためには、平時から緊急時に実施する対策や手順を定めておくことが重要である。特に、止水板の設置や重要設備・商品の移動等、実施に時間や人手を要する対策については、必要な資機材を準備するとともに、誰が、どのような手順で実施するのかをあらかじめ決めておく必要がある。また、従業員の帰宅や出社見合わせ、操業停止などについても、判断基準や連絡方法を事前に定めておくことが望ましい。主な事前準備の例を表5に示す。
| 対策 | 平時に準備すること |
|---|---|
| 情報収集・対応体制 | 防災気象情報を確認する担当者や、社内の連絡・指示体制を決める |
| 建物への浸水防止 | 止水板・土のう・水のう等を準備し、設置方法を確認する |
| 設備・商品等の保護 | 重要設備・書類・商品等の上階や高所への移動方法を決める |
| 従業員対応 | 帰宅・出社見合わせ等の判断基準や連絡方法を決める |
| 事業継続 | 休業・操業停止の判断基準や、取引先への連絡等の手順を決める |
大雨が予想される際には、気象庁や自治体等が発表する情報を継続的に確認し、危険度の高まりに応じて、平時に定めた対策を早めに実行することが重要である。特に、千葉豪雨のように短時間で状況が悪化する場合もあるため、レベル4相当の危険警報等が発表される前から、危険度に応じて段階的に準備や対応を進める必要がある。大雨に関する情報を例として、企業の対応例を表6に示す。
出典:内閣府、消防庁 警戒レベルに関するチラシをもとに作成3
※本表では大雨に関する情報を例示している。実際には、自社拠点の災害リスクに応じて、河川氾濫、土砂災害、高潮に関する情報についても確認する必要がある。
表6の企業の対応例について、実際の対応開始時期は自社拠点の水害リスクや施設・事業の特性、対策に要する時間等を踏まえて、定めておくことをお勧めする。特に、レベル4は「避難を検討し始める段階」ではなく、危険な場所から避難する段階である。千葉豪雨のように、レベル3からレベル4までの時間が極めて短い場合もあることから、企業はレベル3までの段階を一つの目安として、浸水対策の実施、従業員の帰宅や操業停止等の具体的な判断を開始することが望ましい。
また、防災気象情報に加えて、線状降水帯の半日前予測や直前予測も大雨への警戒を高めるために活用したい。第2章で示したとおり、これらの情報には予測の不確実性があり、現状の予測技術では必ずしも線状降水帯の発生を事前に捉えられるわけではない。一方で、予測が発表された地域では実際に大雨となる割合が高いことから、次のように活用することが望まれる。
大雨への警戒を高め、止水資機材の準備や重要設備・商品の移動など、時間を要する対策を前倒しするきっかけとして活用する。
大雨への警戒をさらに高め、平時に定めた防災行動を速やかに実行するきっかけとして活用する。ただし、実際の線状降水帯発生までの時間が短い場合もあるため、直前予測が発表されてから対策を検討し始めることは避ける。
警報や危険警報等が発表された場合には、情報が発表されたかどうかだけでなく、自社拠点や従業員のいる地域で災害の危険度がどの程度高まっているかを確認することが重要である。気象庁や国土交通省では、災害の危険度や河川の状況を地図上で確認できる情報を提供している。ここでは、自社周辺の危険度を確認するための情報として、「キキクル(図6参照)」と「川の防災情報(図7参照)」を紹介する。
出典:気象庁 大雨キキクル16
「キキクル」は、大雨による浸水や土砂災害等の危険度を地図上で確認でき、自社拠点周辺で危険度がどこまで高まっているかを確認する際に活用できる。また、「川の防災情報」は、河川の水位や洪水予報、河川カメラ、雨量等を確認でき、河川氾濫のおそれがある場合には、自社拠点周辺の河川の状況を把握する際に活用できる。
これらの情報はそれぞれ役割が異なるため、一つの情報だけで判断するのではなく、防災気象情報の発表状況と、キキクル等の面的な情報を組み合わせて確認することが重要である。
出典:国土交通省 川の防災情報17
2026年5月から運用が開始された新たな防災気象情報では、警戒レベルとの対応が明確になり、大雨や河川氾濫等の危険度を把握しやすくなった。また、線状降水帯の直前予測が新たに開始され、大雨をより早く捉えるための情報も充実してきている。
一方で、千葉豪雨でみられたように局地的な大雨を事前に予測できない場合や、防災気象情報が短時間に相次いで発表される場合もある。防災気象情報は、発表されてから対応を考えるための情報ではなく、平時に定めた防災行動を開始・実行するための「トリガー」として活用することが重要である。企業は平時から自社拠点の水害リスクを把握し、防災気象情報の段階に応じた対応をあらかじめ定めておくとともに、大雨時にはキキクルや川の防災情報等も組み合わせて自社周辺の状況を確認し、時間的余裕がある段階から対応を開始することが求められる。
1)内閣府、消防庁:警戒レベルに関するチラシ
https://www.bousai.go.jp/oukyu/hinanjouhou/r3_hinanjouhou_guideline/img/poster1.jpg
2)気象庁:新たな防災気象情報について(令和8年~)
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/bosai/keiho-update2026/index.html
3)水管理・国土保全局、気象庁:防災気象情報の改善について
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/bosai/keiho-update2026/pdf/outline_info2026.pdf
4)気象庁:線状降水帯に関する情報
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/bosai/kishojoho_senjoukousuitai.html
5)気象庁:線状降水帯の予測技術が進化します~1kmの高解像度モデルと新しいアンサンブル予報の運用開始~
https://www.jma.go.jp/jma/press/2603/13a/20260313_nwp.pdf
6)内閣府:令和8年8月千葉豪雨による被害状況等について
https://www.bousai.go.jp/updates/r8chiba_ooame/pdf/260909_1200.pdf
7)内閣府:令和8年8月27日からの大雨による被害状況等について
https://www.bousai.go.jp/updates/r8hokuriku_ooame/pdf/260902_1000.pdf
8)愛知県:9月8日大雨による被害情報について(第11報)
https://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/631507.pdf
9)名古屋地方気象台:令和8年9月8日から9日にかけての大雨に関する愛知県気象速報
https://www.data.jma.go.jp/nagoya/shosai/news/sokuhou/S_nagoya_20260916.pdf
10)内閣府:令和8年台風第25号による被害状況等について
https://www.bousai.go.jp/updates/r8typhoon25/pdf/261002_0800.pdf
11)気象庁:令和8年8月千葉豪雨
https://www.data.jma.go.jp/stats/data/bosai/report/2026/20260916/jyun_sokuji20260813-0814.pdf
12)銚子地方気象台:2026年(令和8年)8月の特別警報・危険警報・警報・注意報 発表履歴表
https://www.data.jma.go.jp/choshi/shosai/doc/gaikyo/warning/warning_202608.pdf
13)気象庁:長官会見要旨(令和8年9月16日)
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/tyoukan/2026/dg_20260916.html?utm_source=chatgpt.com
14)気象庁:令和8年の実績 ~線状降水帯半日前予測、線状降水帯直前予測~(令和8年9月9日時点)
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/jirei/senjoukousuitai/R08jisseki.pdf
15)国土交通省:重ねるハザードマップ
https://disaportal.gsi.go.jp/maps/
16)気象庁:大雨キキクル
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/bosai/riskmap_heavyrain.html?utm_source=chatgpt.com
17)国土交通省:川の防災情報
https://www.river.go.jp/portal/?region=80&contents=multi
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サイバーセキュリティニュース(2026年11月)
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ESGリスクトピックス(2026年11月)
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TNFD開示が前年比で倍増 『ステータスレポート2026』の調査結果
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防災庁に期待される事前防災の司令塔としての新たな一手~漏電定期点検を活用した感震ブレーカー普及スキーム~【政策提言レポート(2026年10月)】
政府は2026年11月2日に、災害対策の一元的な司令塔となる「防災庁」を発足させる。その前身に当たる内閣府防災担当の体制下では、「事前防災の遅れ」「専門ノウハウの蓄積不足」「他省庁への調整権限不足」という3つの課題が指摘されてきた。そこで、防災庁は人員を約1.6倍(352人)に増強し、縦割り行政を打破して平時から有事まで切れ目なく対応する。他省庁への「勧告権」も付与されるが、予算や人事の直接的決定権は伴わないため、実効性を高めるには勧告要件の具体化と、優先度の高い課題への絞り込みが求められる。
そこで、本稿は、首都直下地震や南海トラフ大地震など国難級の災害の発生が切迫する中、防災庁に期待される事前防災の司令塔としての新たな一手を提言する。
首都直下地震と南海トラフ巨大地震の二大地震において、火災は国全体におよぶ甚大な経済損失をもたらす重大な直接被害要因である(表1)。これらの地震火災のうち、特に懸念されているのが電気火災である。過去の大震災でも、原因が特定された火災の6割超が電気起因であったと報告されている。例えば、阪神・淡路大震災(1995年)では61%(自治省消防庁 [1998])、東日本大震災(2011年)では約65%(公益社団法人日本火災学会 [2016])に上った。
二大地震に関する内閣府の試算は、電気火災単体による経済被害額を直接明示していないが、合計で約54兆円程度に上ると考えられる(同)。
電気火災が深刻化する理由は、「無人下の出火の同時多発」「道路寸断や断水による消防活動の難航」「木造住宅密集地域での大規模延焼」が連鎖するためである。「無人下の出火」の原因には、避難時における電熱機器等の消し忘れ(例:地震の揺れで電気ストーブやファンヒーターが転倒し、周囲のカーテンや本等の可燃物に着火)や、家具の下敷きになって破損したコードや家電のショート・発熱(通電火災)等、様々な場合が挙げられる。
| 項目 | 首都直下地震 | 南海トラフ巨大地震 | |
|---|---|---|---|
| A.建物、資産等の直接被害 | 最大約45.1兆円 | 最大約224.9兆円 | |
| B.うち、住宅・オフィス・家財・償却資産・在庫資産 | 最大38.8兆円 | 最大約193.4兆円 | |
| C.全壊および焼失による建物被害のうち、地震火災による焼失の割合 | 最大約67% | 最大約33% | |
| D.火災全体のうち、電気火災によるもの | 60% | ||
| E.電気火災による直接被害(推計) | 15.6兆円 | 38.3兆円 | |
| (計)約54兆円 | |||
(出典)A~C: 内閣府 [2025a]、同 [2025c]; D: 自治省消防庁 [1998]、公益社団法人日本火災学会 [2016]を参考に設定
(注)E: B×C×Dにより推計
電気火災の未然防止手段として期待されているのが「感震ブレーカー」である。感震ブレーカーとは、震度5強などの大きな揺れを感知し、自動で電気を遮断する装置である。地震の混乱によりブレーカーを手動で落とす余裕がない時や、家を留守にしている時の電気火災を防ぐことができる。感震ブレーカーには、大きく3つの種類がある(表2)。
| 種類 | 分電盤タイプ | コンセントタイプ | 簡易タイプ (重りやバネを使用) | ||
|---|---|---|---|---|---|
| 内蔵型 | 後付型 | 埋込型 | 差込型 | ||
| 信頼性 | 高い(加速度センサー使用) | ばらつきが小さい | ばらつきが生じうる | ||
| 価格 | 約50,000円 ~80,000円 | 約20,000円 | 約5,000円 ~20,000円 | 約5,000円 ~20,000円 | 3,000円~ 4,000円程度 |
| 遮断対象 | 建物全体 | 特定のコンセントや回路 (電熱器具等) | 建物全体 | ||
| 遮断の猶予 | あり(一定の待機時間後) | なし(即座) | |||
| 電気工事 | 必要 | 不要 | |||
(出典)総務省消防庁 [2016]他各種資料より作成
政府は、火災による焼失棟数を、感震ブレーカーの設置率が50%になれば25%前後、100%になれば60%前後削減できると試算している※1。さらに、首都直下地震の被害想定見直しに伴う基本計画の改定(2026年6月閣議決定)に伴い、普及率を2035年度までに100%近くに引き上げる目標を設定した。こうした中、一部自治体は購入・設置費用の補助金(数千円〜10万円程度)を提供し、国も啓発活動や自治体への財政支援を展開してきた。
しかし、普及率は、家庭、企業ともに低迷している。家庭については、首都圏で約20%、全国では約5.2%にとどまっている(内閣府 [2023])。設置されていない理由については、「入手方法がわからない」「価格が高い」「設置が面倒」「よく知らない」「必要性を感じない」等が挙がっており、感震ブレーカーへの関心や電気火災への危機感が薄いことがうかがえる(表3)。
※1)詳しくは、南海トラフ巨大地震、首都直下地震各々において、普及率50%であれば22%と28%、普及率100%であれば53%と72%削減できるとしている。前者(南海トラフ巨大地震)の数値が低めなのは、後者と比べ電気由来以外の火災(産業用コンロ・危険物施設、化学薬品、LPG等)の割合が多いと見込まれるためである。
| 感震ブレーカーの設置状況と意向 | 主な理由 | |
|---|---|---|
| いずれも設置しておらず、設置する予定もない (危険密集地域:61.6%、危険密集地域以外:74.5%) | 設置したいと思っているが、設置に至っていない (24.4%、22.6%) |
|
| 設置する意向はない (11.9%、20.1%) |
| |
| どちらでもない (24.2%、30.8%) |
| |
| 不明 (1.2%、1.0%) |
| |
| 設置することが決まっているものがあるが、まだ設置できていない (4.7%、1.3%) |
| |
| 1つでも設置しているものがある (30.5%、20.3%) | ||
| その他 (3.2%、3.8%) |
| |
(出典)内閣府 [2025b] より作成
企業についても、東京商工会議所が会員企業を対象に行ったアンケート調査では、そもそも設置しているかどうか「分からない」との回答が53.5%に上っており、やはり関心の薄さがうかがえる(図1)。


(出典)東京商工会議所 [2026]
一方で、興味深いのは、感震ブレーカーを設置している家庭においてすら、設置の理由として「もともと設置されていた」との回答割合が多く(表3。特に「危険密集地域以外」では38.7%で突出して多い)、必ずしも感震ブレーカーへの関心が高いわけではない点である。
以上を踏まえ、本稿は、感震ブレーカーの普及に当たり、家庭や企業が「自発的に設置しなくても普及が進む仕組み」を作ることを課題として設定する。
本提言では、家庭や企業が「自発的に設置しなくても感震ブレーカーの普及が自然と進む仕組み」の構築を目指し、以下の3つのアプローチを設定する。
感震ブレーカーの設置のために、法律で定められている定期点検、すなわち家庭向けの「4年に1回の定期調査」および事業所向けの「電気主任技術者による外部委託保安点検」をそのまま活用し、感震ブレーカーを設置する。これにより、人件費、交通費の節約を図る。標準機は、加速度センサーを用いることで信頼性が高い「分電盤タイプ」とする。
感震ブレーカーを家庭や企業ら需要家の資産にしてしまうと、購入・維持・修理が需要家負担(自己責任)になり、普及の妨げになりうる。そのため、あくまで一般送配電事業者が購入・所有・管理する資産とし、需要家の建物(住宅等)に設置する形式とする。
この手法には身近な前例が存在する。ガスのマイコンメーターや、電気のスマートメーターであり、それぞれ1980年代、2010年代以降、法改正等により普及が進んだ。特に前者は、法令により「震度5で自動停止する機能」が備わっており、本提案の参考となる(表4)。
| 項目 | 先行事例 | 本提案 | |
|---|---|---|---|
| マイコンガスメーター | スマートメーター | 感震ブレーカー(本提案) | |
| 業種 | ガス | 電気 | |
| 地震による停止 | 有 | 無 | 有 |
| 根拠法 | 計量法、ガス事業法、LPガス法 | 計量法、電気事業法 | 電気事業法(詳細次項) |
| 資産所有者 | ガス事業者 | 一般送配電事業者 | |
| 設置場所 | 宅外 | 宅内 | |
| 点検頻度 | 4年に1回以上 | ― | 4年に1回以上※ |
※高圧受電設備(キュービクル)を設置している事業所や、学校、病院、老人福祉施設、プール等の特定施設は1年に1回。
(2)を実現するための法的根拠の整備を、防災庁が、電気事業法の主管官庁である経済産業省と連携して推進することを提案する。具体的な内容としては、電気事業法、電気の契約条件(約款)、および租税特別措置法を次の通り改正することを想定する(詳細については巻末の「付録」参照)。
電気事業法は、一般用電気工作物(住宅等に設置されている小規模な電気設備)の保安調査(定期的な漏電検査等)を一般送配電事業者等に義務付けている。同調査に際し、一般送配電事業者の資産としての感震ブレーカーの普及を義務付けるため、同法に次の2つの条項を新たに追加する。
第一は、感震ブレーカーの設置義務付けである。一般送配電事業者に対し、保安業務の一環として、一般住宅(一般用電気工作物)および町工場(自家用電気工作物を含む)を含む事業所への「新たな設備(感震ブレーカー)を無償で強制的に設置する」ことを義務付ける。これは、過去にガス事業者に一般家庭や事業所へのマイコンガスメーター設置を義務付け、普及させることに成功したガス事業法、液石法の改正から着想を得ている。
第二は、一般送配電事業者および国の免責である。感震ブレーカーが仕様通りに自律作動して電気を遮断した結果の二次損害(家財の損失、工場の生産ライン・産業機械の停止に伴う経済的損失など)について、適正な基準で行われた場合は一般送配電事業者と国を免責する。
一般送配電事業者の賠償責任(民法第709条の不法行為責任など)を免除するために、以下の3つのロジックを法意として構築する。
なお、本提案における法的根拠の整備として、電気事業法の改正を選択した理由は、複数の法改正の選択肢を比較検討した結果(表5)、既存建物への導入可能性および実効性の観点から、最も有効と判断したためである。
| 比較項目 | ① 電気事業法 | ② 電気設備技術基準(電技) | ③ 建築基準法 | ④ 消防法 | ⑤ 災害対策基本法 |
|---|---|---|---|---|---|
| 規制の主な対象 | 電気事業者(送配電事業者) | 電気工事士、電気使用者 | 建築主、設計者(建築士) | 建物の管理権原者(所有者、占有者) | 国、地方自治体、国民(努力義務) |
| 所管省庁 | 経済産業省 | 経済産業省 | 国土交通省 | 総務省消防庁 | 内閣府 |
| アプローチ | 電気事業者による設置義務付け | 受電側(宅内分電盤)への感震機能の義務付け | 新築・増改築時の建築確認要件化 | 火災予防措置としての設置義務付け | 普及の理念化、自治体の補助金の根拠付け |
| 既存の建物への導入可能性 | 高い (約款変更で可能) | 低い (リフォーム時のみ) | 極めて低い (新築のみ対象) | やや高い (段階的に普及) | 高い |
| 実効性 |
|
|
|
|
|
| 類似事例 | スマートメーター | 通常のブレーカー | 防火戸、防火シャッター(一部) | 火災報知器 | ― |
一般送配電事業者の資産(所有物)を、私有財産である住宅等に半ば強制的に設置することに対し、法的な権利侵害(財産権の侵害)や拒否権を巡るトラブルが発生する可能性がある。賃貸物件の場合には、所有者(大家)と占有者(住民)のいずれの同意を得るべきか等も議論となりうる。
そこで、スマートメーターやマイコンガスメーター等の先行事例に倣い、電気の契約条件(約款)である「託送供給等約款」を改定し、電気の安定・安全供給(保安業務)の一環としての感震ブレーカーの設置に、スマートメーターの交換と同様の法的な正当性を担保する。具体的には、「一般送配電事業者が所有する感震ブレーカーを住宅内および事業所(工場やオフィス)内の適切な場所に設置・維持すること、および点検のための立ち入りに同意すること」を同約款の必須条件(供給条件)として盛り込み、国(経済産業省)の認可を得る。
これにより、需要家が電気を使うためには、一般送配電事業者が所有する感震ブレーカーを敷地内に置かせることに同意しなければならないという契約関係(供給条件)が成立し、法的な強制力が生じることとなる※2。
※2)託送供給等約款は、一般託送事業者と小売電気事業者等との間で締結されるものであり、家庭、企業等の需要家を直接拘束するものではない。しかし、小売電気事業者と需要家の間で締結される電気供給約款には、通常「一般送配電事業者が定める託送供給等約款の規定を遵守すること」という内容(条項)が含まれていることから、託送供給等約款の改定内容は間接的に需要家も拘束することとなる。
マイコンガスメーターの前例に倣い、租税特別措置法を改正し、一般送配電事業者の感震ブレーカーの購入に際しての税控除、特別償却を導入する。これにより、資産購入に伴う負担を軽減する。
感震ブレーカーの設置費用については、適宜既存の政府予算を充当する。その上で、カバーしきれない部分については、現在のスマートメーター導入と同様に※3、電気料金の「託送料金」に広く薄く高々毎月数百円程度上乗せし、家庭と企業の双方から長期的に回収・負担する(マイコンガスメーターと同程度の高々毎月数百円をベースに、大量発注による値引きも期待できる。表6参照)。
※3)スマートメーターの導入・維持管理コストを需要家が電気料金を通じて間接的に負担する仕組みは、次のとおりである。まず、一般送配電事業者が電気事業法(第17条の2)に基づき、スマートメーターのコストを含む送配電網の維持・強化に必要な投資計画(「一般送配電事業に係る事業計画および投資・費用の見通し」)を5年ごとに策定する。この計画は、国の審査を経て、事業者が期間内に回収できる費用の総額である「収入の見通し」として承認される(「レベニューキャップ制度」)。これに基づき、一般送配電事業者はスマートメーターのコストを託送料金として小売電気事業者に請求し、最終的に小売電気事業者が消費者の毎月の電気料金から広く薄く回収する。
| 項目 | 先行事例 | 本提案 | ||
|---|---|---|---|---|
| マイコンガスメーター | スマートメーター | 感震ブレーカー | ||
| 初期費用 | A1.本体価格 | 35,000~60,000円程度 | 6,000円〜10,000円程度 | 2,000円~40,000円程度※ |
| A2.工事費用 | 数千円~10,000円程度 | 数千円~10,000円程度 | 無料~40,000円程度※ | |
| 計 (=A1+A2) | 40,000~70,000円程度 | 10,000~20,000円程度 | 2,000~80,000円程度※ | |
| B.交換周期 | 原則10年(計量法) =120カ月 | 原則10年(計量法) =120カ月 | 10~15年(業界自主規格)※※ =120~150カ月 | |
| C.月額基本料金への上乗せ分の相場観 (=(A1+A2)÷B) | 数百円/月 | 約百円/月 | ~数百円/月 (※下段「政府による事業者への支援」及び大量発注による値引きも期待できる) | |
| (参考) 政府による事業者への支援 |
|
|
| |
※タイプによって価格・費用に幅が生ずる(詳細は表1参照)。
※※一般社団法人日本配線システム工業会の自主規格(JWDS0007)等における「更新推奨期間」。法定耐用年数は15年である。
※※※総務省消防庁 [2026]によると、全国の市区町村のうち、感震ブレーカーの購入・設置支援制度を設けているのは約15%(1,741市区町村のうち260自治体)である。補助金の支給割合や上限額は自治体次第だが、以下の2つが主流である:
スムーズな実行のために、次のような工夫が考えられる。
本提言の実行に当たって、大きく次の①~③のリスクが想定される。各々への対応策を次の通り提案する。
本提言の採用により、国内で感震ブレーカーの普及が進み、二大地震下の電気火災を相当程度抑制できた場合、社会的コストの大幅な軽減を期待できる(表7)。
新設される防災庁には、感震ブレーカーの一層の普及を主導し、以て事前防災のための司令塔としての実効性ある具体策検討の一助としていただきたい。
| 項目 | 首都直下地震 | 南海トラフ巨大地震(陸側) |
|---|---|---|
| E.電気火災による直接被害(推計) | 15.6兆円 | 38.3兆円 |
| F.感震ブレーカーの普及により建物・資産が焼失を免れる割合 | 28.0% | 22.4% |
| G.感震ブレーカーの普及により建物・資産が焼失を免れる金額(推計) | 4.4兆円 | 8.6兆円 |
| (計)12.9兆円 | ||
(出典)E: 表1より再掲; F: 内閣府 [2025a]、内閣府 [2025c](漏電の定期調査の対面実施率を勘案し、感震ブレーカーの普及率50%の場合の数値を選定)
(注)G=E×F
電気事業法、ならびに託送供給等約款および電気需給契約の改正に当たり、追加する条文の内容は以下を想定する。
(一般住宅及び事業所等における感震遮断装置の施設及び免責)
第〇条 一般送配電事業者は、電気工作物による火災を防止するため、経済産業省令で定める区域の電気工作物(一般用電気工作物及び自家用電気工作物のうち経済産業省令で定める小規模事業所のものを含む)に対し、地震発生時に自動的に電気を遮断する機能を有する装置(以下「感震遮断装置」という。)を施設しなければならない。
2 前項の規定により施設された感震遮断装置が、天災地変により作動し、又は電気の供給が停止した場合においては、国、一般送配電事業者、及びこれらの者から当該電気工作物の設置、保守又は点検の委託を受けた者は、これにより生じた損害(家庭用家財の損失及び事業用資産・操業停止に伴う損失を含む)について、賠償の責めに任じない。ただし、当該装置の設置又は保守管理について、一般送配電事業者に故意又は重大な過失があったときは、この限りでない。
(注)第56条(一般用電気工作物の維持)および第57条(調査義務)も併せて改正する。
(保安のための機器の設置)
需要者が電気の供給を受ける(又は送電網を利用する)にあたっては、災害時安全遮断装置(感震ブレーカー等)を、当社の所有とし、需要者の土地・建物内の適当な場所に当社の負担で取り付けます。また、当社が保安のために行う当該機器の巡視・点検・交換等の作業のため、需要者の土地及び建物に係員を立ち入らせていただきます。
当社及び当社の履行補助者(委託先、請負業者を含む)は、電気事業法第〇条に基づく災害時安全遮断を行った場合、及び当該遮断からの再通電(復電)の遅延により需要者が受けられた損害については、一切の賠償責任を負いません。需要者におかれましては、生命維持装置等の重要設備について、需要者ご自身の責任において非常用電源の確保等の措置を講じていただくものとします。
参考文献・出典
【参考】

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緑が水災害を防ぐ?グリーンインフラが持つ投資価値とは ―【連載企画】流域治水とグリーンインフラ(Eco DRR)に関するアンケート調査結果を読み解く 第2回
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車両水没はなぜ起きる?相次ぐ豪雨に学ぶ備えとは
「最近、強い雨が増えた気がする」。そう感じている方も多いのではないでしょうか。
2026年8月13日から14日にかけて、千葉県では線状降水帯が発生し、千葉市などの各地で観測史上1位となる雨量を記録しました。その約2週間後の8月27日には、石川県と富山県でも線状降水帯が相次いで発生。石川県羽咋市や富山県氷見市などで、複数の時間幅(3時間から24時間まで)の降水量が観測史上1位を更新しました。
近年、こうした豪雨は増加傾向にあります。気象庁によると、全国で観測された1時間降水量50mm以上の非常に激しい雨の年間発生回数は、1976~1985年と比べ、2016~2025年には約1.5倍に増えています。
また、日本の6~10月は例年、大雨や台風によって川が増水しやすいことにも注意が必要です。河川管理の分野では、6~10月ごろを「出水期」と呼びます。この出水期は、まさに大雨への備えを意識しておきたい時期といえます。
2026年8月の千葉県の豪雨(以降、千葉豪雨)では、雨のピークが帰宅時間帯と重なり、鉄道の運転見合わせや道路冠水などの交通被害も相次ぎました。また、これまで浸水リスクが十分に想定されていなかった場所にも被害が広がりました。ウェザーニュースの調査によると、千葉県内の被害を示す投稿のうち55.7%は、浸水が想定されていたエリア外からのものでした。
今回の千葉豪雨では、各地で「内水氾濫」が発生しました。これは河川から水があふれる「外水氾濫」とは異なり、短時間の大雨により下水道などの排水が追いつかず、街中に水があふれる現象です。

※ 本図は外水氾濫と内水氾濫の主な発生メカニズムを模式的に示したものであり、実際の浸水状況や河川・下水道・排水の構造を正確に再現したものではありません。
一方、石川県では大雨により複数の河川が氾濫しました。また、冠水や土砂崩れなどにより道路が寸断され、富山県氷見市では一時、6つの集落が孤立しました。
このように、豪雨といっても、人口や道路網・地形などの地域特性、雨の強さ・雨量などによって、被害の現れ方は変わります。また、道路や車が使えなくなれば、従業員が出勤できない、商品や資材を運べないといった影響が生じます。道路冠水をもたらす豪雨は、物流やサプライチェーンを通じて企業活動に影響を及ぼすリスクでもあります。
千葉豪雨では、多くの車が冠水した道路に取り残されました。千葉市内の道路上では約2,500台の被災車両が確認され※2、撤去作業も課題となりました。なぜ、これほど多くの車が動けなくなったのでしょうか。
※2 千葉市内道路上の被災車両約2,500台(千葉市発表、2026年8月16日時点)。その後8月22日までにほぼ撤去完了。
従来の下水道は、1時間50mm程度の雨に対応するよう整備するのが一般的でした。それに対し、千葉豪雨では、千葉市で1時間に115mmを観測しています。
同じ雨量でも地形や排水設備により冠水の程度は変わりますが、このように短時間に排水能力を大きく上回る雨が降れば、道路の状況が急激に変わる可能性があります。一見、「まだ走れそう」に見える道路でも、走行しているうちに危険な水深になる恐れがあります。
政府は、千葉豪雨を受けて公表した資料のなかで「車はわずか30cm程度の浸水でも走行不能になる場合があります」と注意を呼びかけています。水位が車体の床面を超えると電気装置が損傷するおそれがあり、ドア付近まで水が達すると水圧でドアが開きにくくなります。水深が上がれば、車両水没のリスクだけでなく、命にも危険が及びます。

大雨の予報やハザードマップなど、危険を知らせる情報は以前より充実しています。それでも、車の立ち往生や水没は繰り返されています。
その理由の一つは、気象情報だけでは、「自分の身に実際に起こりうること」が想像できていないからではないでしょうか。「1時間に50mmの雨が降る」と聞いても、自宅前の道路がいつ冠水するのか、いつもの通勤経路が通れるのか、即座には判断できません。

人の判断のクセも影響します。危険が迫っていても「まだ大丈夫だろう」と考えたり、前の車が進んでいるのを見て「自分も行ける」と判断したり、前回は被害がなかったから今回も大丈夫と考える心理も働きます。こうした心理には、危険を過小評価する「正常性バイアス」や、周囲の行動に影響される「同調性バイアス」などがあります。水害時の避難行動に関する研究でも、こうした心理的な要因が避難を妨げる可能性が指摘されています。
一方、過去に被災した経験がある人々が、早めの行動をとった例が報道されています。千葉市内のあるマンションでは、約10年前にも地下駐車場が浸水し、車が水没する被害がありました。今回の千葉豪雨では、過去の経験から住民が早めに車を移動。地下駐車場は再び浸水しましたが、車の被害を防ぐことができました。実際に経験することで行動が変わった例といえます。
豪雨のピークを迎えてからではなく、その前に判断し、備えることが大切です。危険を認識しているだけで終わらせず、「大雨が予想されたらどんな対応をするか」を具体的に決めておくことが、いざというときの判断基準になります。
まず確認しておきたいのが、自宅や勤務先などの駐車場への浸水や、普段使う道路の冠水リスクです。河川氾濫が想定されていない場所でも、内水氾濫により道路が冠水することがあります。
自治体が公表する洪水・内水ハザードマップや、雨水出水浸水想定区域図などに事前に目を通すことが重要です。ただし、内水氾濫に関するハザードマップを公表していない自治体もあります。その場合、通勤・通学路などに、アンダーパスや周囲より低い道路、過去に冠水・土砂崩れなどが発生した場所がないか確認し、いざというときの代替ルート・手段を決めておきます。自分が暮らす地域ではどのようなリスクがありそうか普段から確認しておくことも、豪雨への備えです。
また、避難場所や避難方法の確認も欠かせません。当社が2026年に実施したアンケート調査※3では、自治体が推奨する避難場所・避難方法について、48.6%が「確認したことがない・今後も確認しないと思う」と回答しています。避難先だけでなく、そこまでの経路や移動手段についても、あらかじめ確認しておくとよいでしょう。
※3 地震発生時の車中泊避難 メリット・リスクなどを1,000人に調査 ~結果から見えること | RM NAVI
大雨の予報が出たら、雨の強さにも注目しましょう。気象庁では、1時間30〜50mmを「激しい雨」(道路が川のようになる)、50mm以上を「非常に激しい雨」としています。大雨の可能性は数日前から確認できますが、局地的な豪雨は前日の予測も難しい場合があり、直近の雨雲の動きもこまめに確認することが必要です。また、道路冠水を発生させるのは雨の強さだけではありません。3時間雨量などが示す、降り続ける「雨の量」にも注意が必要です。
2026年5月より、気象庁が発表する大雨警報などの防災気象情報は、危険度を示すレベルをつけて、レベル1~5の5段階に整理されました。ただし、警報は必ずしも段階的に上がるとは限りません。危険度が短時間のうちに急上昇する場合も想定し、なるべく早い時点で、移動を控える判断や避難の準備を考えておくことが大切です。
気象庁が提供している危険度が高い場所を地図に示す「キキクル(危険度分布)」もあわせて確認することで、より詳細な情報を知ることができます。

車両水没を防ぐには、ハザードマップの確認に加えて、車そのものを守る備えも欠かせません。
例えば、自宅や職場の駐車場が浸水想定区域や標高の低い場所にある場合は、止水板などの耐水設備の設置を検討しましょう。また、水没を防止するために車両全体を覆う防水カバーなども販売されています。
車を浸水のおそれがない場所に事前に移動させる必要がある場合は、あらかじめ安全な移動先と移動ルートを決めておくことが大切です。大雨が予想されるときは、警報レベル2~3などの早い段階からこのような対策を行うことで、急な豪雨のピークにも慌てずに済みます。
道路が冠水してから車を動かすのは危険です。政府は、警戒レベル5大雨特別警報の段階は「すでに安全な避難ができず、命が危険な状況」とし、浸水した場所での車の移動はむやみに行わないよう呼びかけています。
そして、冠水した道路には入らないことが重要です。前の車が通れたからといって、自分の車も通れるとは限りません。実際の冠水路は水深や水の中の状況が見えにくく、マンホールや側溝など思わぬ危険もあります。もし、冠水路で車が動かなくなった場合は、車内にとどまらず早めに脱出しましょう。

国土交通省が紹介するJAFの実験では、プールに車が進入してから約5分で窓の高さまで水没しました。水位が低いうちにドア(開かなければ窓)から脱出し、それも難しい場合は緊急脱出用ハンマーで窓を割ります。一部車種のサイドガラスは「合わせガラス」になっていて割れないことがあるため、車の窓ガラスの種類も確認しておくと安心です。
なお、企業においても考え方は同じです。社用車の保管場所や物流ルート、従業員の通勤経路の浸水リスクを確認し、「どの段階で車を移動させるか」「誰が判断するか」をBCP(事業継続計画)にあらかじめ組み込んでおけば、豪雨が迫ってから判断に迷うリスクを減らせます。
豪雨が激しくなってからできることには限りがあります。だからこそ平時にリスクを知り、「いつ、誰が、どう動くか」を決めておくことで、被害を最小化することが重要です。
車を守ることも大切ですが、何より優先すべきなのは命です。次の大雨が来る前に、一度、ご自身やご家庭・職場での備えを確認されてみてはいかがでしょうか。
季節のそなえ|ソナエル・ラボ|三井住友海上
https://www.ms-ins.com/labo/season/article/20200903.html
集中豪雨とは?特徴や豆知識と備え | 災害対策|知る・楽しむ|三井住友海上
https://www.ms-ins.com/special/bousai/taisaku/tips_03/
雨水流出抑制の充実を通じた都市型洪水被害の軽減 ~第6次社会資本整備重点計画の推進に向けて~【政策提言レポート(2026年7月)】
https://rm-navi.com/search/item/2574
水害リスクを居住地選択に織り込む制度設計 ~国土強靱化における「自助」の実践と地域防災力の強化に向けて~【政策提言レポート(2026年8月)】
https://rm-navi.com/search/item/2637
【参考文献】
※ 本稿の被害状況・数値は、各出典に記載された時点のものです。被害の全容は今後の集計により変動する可能性があります。
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WBCSDが代替化学原料のサステナビリティ評価ガイダンスを公表、共通指針として注目
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SSBJ基準の有価証券報告書開示、時価総額1兆円以上企業は準備着手100%|日本IR協議会調査
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「新たな防災」を考えるイベント『未来の防災ここから 2026』開催報告
『未来の防災ここから』は、2027年4月に合併する三井住友海上火災保険とあいおいニッセイ同和損害保険が主催したイベントです。行政、地域の企業、スタートアップなどをつなぎ「新たな防災」を考える場として開催されました。
会場となった福岡市内の大型複合ビル「ワン・フクオカ・ビルディング」には、地域の企業や自治体など60近くの団体から、あわせて100人ほどが参加しました。
はじめに、三井住友海上火災保険・福岡支店の西村務支店長が、「近年は、これまで想定していなかったような場所でも自然災害が発生しています。本イベントは、企業の防災・減災の取り組みに資する新しい技術を紹介する機会として開催しました。企業防災に活用し、実効性の高いBCP(事業継続計画)の構築につなげていただければと思います」とあいさつしました。

基調講演では、内閣府 政策統括官(防災担当)付 参事官(防災計画担当・船舶活用医療担当)駒田義誌氏と、福岡県総務部 防災危機管理局の後藤元局長が登壇しました。


この中で駒田氏は、2026年11月に発足する防災庁に関して、設置の背景や機能、役割を説明したうえで、BCPの重要性や事業継続力向上に向けた取り組みを紹介しました。
また後藤氏は、福岡県の地震・水害の歴史を振り返り、防災対策として「平時の備え」と「緊急時の対応」を紹介しました。
続けて、これらの行政の視点を受けて、会場のビルを管理する西日本鉄道株式会社 沿線プロパティマネジメント本部 ONE FUKUOKA BLDG.部 統括・施設管理担当の田島彰係長が、ワン・フクオカ・ビルディングの具体的な防災体制を紹介しました。

この中で田島氏は、帰宅困難者の受け入れや物資提供、組織・役割分担など、実際の施設におけるBCPを説明しました。
また、MS&ADインターリスク総研でBCPのコンサルタントを務める岡田智之も登壇し、「巨大災害時代に備えたBCP」をテーマに、過去の災害事例から企業が取るべき対策を解説しました。

講演では、BCPの策定・見直しのポイントとして、ハザードマップによる自社拠点のリスク確認、重要事業に関わる設備・インフラへの重点対策、サプライチェーン寸断への備えの重要性、自然災害時における従業員の生命・身体を守る安全配慮義務を挙げました。そのうえで、形だけのBCP策定にならないよう、なぜBCPを策定する必要があるのかという運用の目的まで踏み込んで検討することの重要性を強調しました。
イベントでは「新たな防災」をテーマにしたパネルディスカッションも行われ、九州大学発の宇宙工学ベンチャーである株式会社QPS研究所のCEO大西俊輔氏と、宇宙航空研究開発機構JAXAから初めて出資を受けたスタートアップ、株式会社 天地人のCEO櫻庭康人氏が、衛星とAIを活用した防災の仕組みについて意見を交わしました。

この中では、衛星データを活用することで、すでに災害が起きた場所だけでなく、土砂崩れが発生する危険性が高い場所を把握できることが紹介されました。
そのうえで、今後、打ち上げられる衛星の数が増えて撮影できる頻度が高まることで、AIを活用した分析もさらに進んでいくという展望が示されました。
講演やパネルディスカッションと並行して、会場では防災関連の展示会も開催され、スタートアップや地域の企業を中心に10社がサービス・製品を紹介しました。
ヘルメットや防災備蓄品といった身近なものから、耐震設備、蓄電システム、AI・IoTを使った設備点検など、多様な防災技術が並んでいました。

訪れた人たちは製品やサービスを実際に見たり触れたりしながら、それぞれの企業や地域で活用できる新たな防災のあり方に触れていました。
最後には、あいおいニッセイ同和損害保険・福岡支店の平瀬勝重支店長が、今回のイベントを「防災の日」に合わせて開催したことに触れたうえで、自然災害が多発する中で「平時から有事を想定して行動すること」の重要性を強調しました。

今回のイベントでは、行政や地域の企業、スタートアップなど、さまざまな立場の参加者がそれぞれの知見や技術を持ち寄りました。「備える」ことから最新技術の活用まで、地域全体で「これからの防災」について考える機会となりました。
MS&ADインターリスク総研は『未来の防災ここから 2026』に、事業継続マネジメントのレベルを診断できるサービス「BCM取組レベル診断」を展示しました。
会場では、多くの来場者から相談や診断の申し込みをいただきました。
診断を申し込まれた来場者には、その場で「BCM取組の現在地」をレポートでフィードバックさせていただきました。
これから活動を推進する“はじめの一歩”となる取組の現状を把握してみませんか?
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熊本地震の被災自治体を支援 住家の被害認定調査の現場で見えたこと
今回支援に訪れたのは、熊本県の宇城市、美里町、氷川町の3市町です。発災からおおむね1か月が経過し、現地では住家の被害認定調査が進み、第2次調査※1の申請受付が始まる時期を迎えていました。
※1 住家の被害認定調査には、被災した住家の外観を調査する第1次調査と内観を調査する第2次調査がある。

調査では、災害で住家が受けた損害割合に応じて「全壊」「半壊」などの被害の程度を判定します。その結果をもとに交付されるり災証明書は、被災者が生活再建に向けた各種支援を受ける際に必要になります。このため、大規模災害の発生後は、多数の住家を対象に調査を迅速に進める必要があります。
こうした中、宇城市や氷川町では、現地調査を行う担当者の8割ほどがほかの自治体からの応援職員でした。

このように被災自治体では、全国からの応援を受けながら多数の住家の被害認定調査を進める必要がありました。
当社が現地を訪れたのは、この住家の被害認定調査を効率化する「損害割合カリキュレータ」※2の操作研修と現地調査への同行を通じて、調査をサポートするためです。
※2 損害割合カリキュレータ:当社が提供する、タブレット端末で被災した住家の図面を作成し、損害割合を自動計算して、調査結果をデジタルデータで記録・管理できるツール。
3市町では、調査を担当する職員の大多数が「損害割合カリキュレータ」を初めて使う状況だったため、操作研修を実施しました。宇城市では、研修に加えて現地調査にも同行して、「損害割合カリキュレータ」の操作をサポートしました。

特に氷川町では、より円滑に調査が進められるよう9月15日から4日間、再び現地に入り、調査を担当する職員への操作補助や質疑応答を行いました。

今回の支援では、「損害割合カリキュレータ」を活用することで、住家の損害割合の計算時間を短縮できたケースも確認されました。これにより、調査から結果をまとめるまでのプロセスが円滑に進み、応援職員の業務負担の軽減にもつながりました。
また、操作方法や疑問点をその場で確認できたことで、ツールを使うことへの心理的負担を減らしながら調査を進めることができました。応援職員も短期間で操作を習得し、円滑に調査へ参加できるようにもなっていました。
現地支援に当たった当社の担当者は、「現地で一つひとつ疑問を解消しながら操作をサポートできたことで、不安を軽減し、安心して調査を進めてもらえたと感じています」と振り返ります。

今回の現地支援を通じて、「損害割合カリキュレータ」の効果を十分に発揮するためには、導入するだけでなく、平時から操作に慣れ、災害時にも円滑に活用できる体制を整えておくことの重要性を改めて確認しました。
当社では、今回の現地支援で得られた知見を今後の取り組みに活かすため、「損害割合カリキュレータ」の操作性の改善や事前研修の充実、災害時に一定期間サポートできる体制の整備を検討していきます。
「損害割合カリキュレータ」は、タブレット端末で被災した住家の図面を作成し、損害割合を自動計算して、調査結果をデジタルデータで記録・管理できるツールです。作業時間を短縮できるなど、災害時の自治体の皆さまの業務効率化を実現します。
また、当社では自治体職員向けの住家被害認定調査員育成研修を実施しています。有事に慌てることなく、住家の被害認定調査・り災証明書の発行を円滑に進めるためにも、平時からの備えとしてぜひご活用ください。
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データ保有の妥当性が問われる時代に 相次ぐ情報漏えい事案から見る不要データのリスク
今回の一連の注意喚起には、複数の公的機関がそれぞれの所管・観点から同じ問題を扱っているという特徴がある。個人情報保護委員会は個人情報保護の観点から、IPAは企業のセキュリティ対策と経営責任の観点から、JPCERT/CCは攻撃手法と初動対応の観点から、金融庁は金融サービスの信頼性維持と犯罪防止の観点から、警察庁は犯罪利用と二次被害防止の観点から注意喚起を行っている※3※4※5※6。
各公表内容においては、パッチ適用や認証強化といった従来型の基本対策が引き続き重視される一方で、次の三点が特に強く打ち出されている。

第一に、攻撃対象の範囲の広さである。
外部公開Webシステムだけではなく、クラウド、VPN(通信を暗号化し、公衆回線において安全性の高い通信環境を実現するための技術)、API(アプリケーション間のデータ共有を可能にする技術)、業務用アプリケーション、従業員向けシステムなども含め、保有する資産を網羅的に把握することが求められている※4※5。
第二に、漏えい後の二次被害まで含めて評価する姿勢が強調されている。
個人情報保護委員会は、件数だけではなく、機微性、財産的被害の恐れ、詐欺に利用される恐れといった観点を示した※3。金融庁は、本人確認書類画像の漏えいを踏まえ、各種取引申し込み時の本人確認強化を求めている※6。
第三に、データ保有そのものもリスク管理の対象となっていることである。
個人情報保護委員会は、利用する必要がなくなった個人データの消去が徹底されないことで、漏えい事案がより深刻になった例に接しているとして、保有の必要性の再確認を求めた※3。IPAも、保有情報を必要最小限にするよう促し※4、JPCERT/CCも、保存期間を過ぎたデータや利用目的を終えたデータを残さないよう推奨している※5。
以上を踏まえると、「どう守るか」だけでなく、「なぜそのデータを持つ必要があるのか」「なぜそこにデータを保管しているのか」「なぜ今そのデータが残っているのか」まで含めて説明責任を果たせるかが問われている。
2026年秋に公表された情報漏えい事案には、漏えい時の本人への影響が大きい情報が含まれていた。例えば、顔写真付き公的身分証明書画像や健康診断結果などが漏えいした事案、運転免許証画像等の本人確認書類が対象に含まれていた事案がある。
これらの事案が示しているのは、同じ個人情報漏えいでも、含まれるデータによってリスクの性質が大きく異なるということである。氏名とメールアドレスの漏えいと、本人確認書類画像や健康情報の漏えいとでは、想定される二次被害が異なる。後者は、なりすまし、本人確認突破、精緻な詐欺、長期的なプライバシー侵害につながる恐れがある。

ここで企業が認識すべきなのは、漏えいリスクの大きさは、漏えい件数だけでは判断できないということである。
少数の漏えいであっても、本人確認に利用可能な画像情報、健康情報、番号情報などが組み合わされていれば、本人への影響は長期かつ深刻になりうる。したがって、経営として問うべきは、「データ保有の必要性を説明できるか」である。
どれほど防御を強化しても、侵入可能性をゼロにすることはできない。そういった前提に立つと、事業上の合理的な理由なく高リスクデータを保有し続けること自体が、経営として追加のリスクを抱え込むことになる。
以上を踏まえ、保有するデータの取り扱いについて、企業は少なくとも三点を見直す必要がある。

第一に、高リスクデータの所在把握である。本人確認書類画像、マイナンバー、健康情報、金融関連情報などの、漏えい時の影響が大きいデータが、どのシステムに、何件、どの目的で保管されているかを把握しなければ、影響評価も削除判断もできない。
第二に、保有理由の明確化である。法令上の保存義務、契約履行上の必要性、単なる慣行を切り分けて整理し、説明できないものは削除候補として扱う必要がある。
第三に、削除を確実に行う仕組みの整備である。保存期間、削除責任者、委託先を含めた削除確認まで含めて設計しなければ、「削除方針」は実務において形骸化してしまう可能性がある。
この三点は、システム部門だけで完結するものではなく、法務、個人情報保護、業務部門、調達部門、リスクマネジメント部門が関与し、最終的には経営が優先順位を決めて取り組むべき経営課題である。サイバー攻撃被害や情報漏えいが相次ぐ中、攻撃を前提とした対策設計が求められており、不要データを残さないことはその対策の中に含める必要がある。
【脚注】
※1 経済産業省・IPA「サイバーセキュリティ経営ガイドライン Ver3.0」
https://www.meti.go.jp/policy/netsecurity/downloadfiles/guide_v3.0.pdf
※2 金融庁「金融分野におけるサイバーセキュリティに関するガイドライン」
https://www.fsa.go.jp/news/r6/sonota/20241004/18.pdf
※3 個人情報保護委員会「大規模な漏えい等事案を踏まえた対応について(注意喚起)」
https://www.ppc.go.jp/files/pdf/261007_houdou.pdf
※4 IPA「不正アクセスによる漏えい等の事案を踏まえ、速やかに実施すべき対策等について」
https://www.ipa.go.jp/security/security-alert/2026/alert20261009.html
※5 JPCERT/CC「直近で相次いでいる国内組織における不正アクセスに関する注意喚起」
https://www.jpcert.or.jp/at/2026/at260030.html
※6 金融庁「現下の情勢を踏まえたサイバーセキュリティ対策の強化と各種取引申込等における対応について」
https://www.fsa.go.jp/news/r8/sonota/20261009/20261009.html
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緑川・白川流域に学ぶ「流域治水」最前線 ―認知度53.1%に達した背景にある官民連携の力―【リサーチレター(2026年10月)】
| 部課名 | 役職 | 氏名 敬称略 |
|---|---|---|
| 国土交通省 九州地方整備局 熊本河川国道事務所 流域治水課 | 課長 | 河東 立 |
| 国土交通省 九州地方整備局 熊本河川国道事務所 流域治水課 | 専門官 | 宮崎 純志 |
| 国土交通省 九州地方整備局 熊本河川国道事務所 流域治水課 | 流域調整係長 | 川原 顕太郎 |
| 国土交通省 九州地方整備局 熊本河川国道事務所 河川管理課 | 課長 | 藤野 隆 |
| 国土交通省 九州地方整備局 熊本河川国道事務所 河川管理課 | 第一係長 | 前田 慎一郎 |
| 熊本県 土木部 河川港湾局 河川課 | 課長補佐(計画調査担当) | 宮田 一起 | 熊本県 土木部 河川港湾局 河川課 計画調査班 | 技師 | 福島 秀斗 |
| 熊本県 知事公室 危機管理防災局 防災推進課 | 主幹(地域防災推進担当) | 甲斐 博旨 |
| 熊本県 農林水産部 農村振興局 農村計画課 調査計画班 | 主幹(調査計画担当) | 池部 亘一郎 |
| 熊本県 農林水産部 農村振興局 農村計画課 | 技師 | 古閑 心太郎 |
| 熊本県 農林水産部 農村振興局 農地整備課 | 参事 | 村田 龍星 |
緑川・白川流域では、菊陽町の「広報誌による防災特集【図表1】」、熊本河川国道事務所主催の「緑川フェスタ【図表2】」、阿蘇市や大津町による「ハザードマップの全戸配布」など、きめ細かな周知活動が重ねられてきた。

熊本河川国道事務所の担当者は、高い認知度の背景として、熊本県が全国的に見ても水災害の発生頻度が高い地域であることを挙げ、「当事者意識の高さが影響しているのではないか」と分析する。加えて、水災害を経験した地域では地区単位の防災協議会が組成される例も多く、こうした地域コミュニティの活動が認知の土壌を形成しているとの見方も示された。例えば、平成28年熊本地震や令和2年7月豪雨における球磨川水災害を目の当たりにして、町内自治会・自主防災クラブ・民生委員児童委員協議会・社会福祉協議会・大江小学校父母と教師の会などが集まって作られた「大江校区防災連絡会」がある。厳しい災害経験を、地域の力に変えてきた熊本の姿勢がうかがえる。他の流域よりも高い認知度を示した結果は、こうした一つひとつの積み重ねが着実に実を結んでいる証左と言える。
また、自然豊かな地域資源を活用し、市境を超えた交流ができる「かわまちづくり」の取組みもあり、住民が川に親しみ、治水に関心を寄せるきっかけとして、「かわまちづくり」は重要な役割を果たしているという。整備された河川空間で防災学習やイベントを行うことで、治水への関心が育まれ、地域の防災意識が高まっていく好循環が、熊本ではすでに生まれ始めている。まさにハード対策とソフト対策の両面で取り組む「流域治水」の理想的な形の一つである。

住民が川に親しみ、治水に関心を寄せるきっかけの好例の1つとして、熊本河川国道事務所主催の「緑川フェスタ」がある。建設業関連の民間事業者も多数参加し、川遊びや建設機械の展示など、行政単独では出しにくい「親しみやすさ」を演出している。令和7年度の来場者数は約700人であった。日常に防災を溶け込ませるイベントに民間事業者が参加することは、地域への情報発信力にもつながっており、着実に認知拡大を後押ししている。
アンケート調査では依然として46.9%が「言葉を知らない」と回答しているが、これは裏を返せば、まだまだ伸びしろがあるということでもある。担当者らは「事実として受け止め、学校への出前授業を通じて、家庭内に広がるなどの地道な周知を続けることが重要」と口をそろえる。「流域治水」という言葉自体が令和2年に生まれた比較的新しい概念であり、平成29年改訂の学習指導要領には反映されていないことも一因に挙げられ、次の指導要領改訂(令和8年)で「流域治水」という言葉が盛り込まれ、次世代教育が進むことも期待されるなど、広い視野で可能性を語られた。
緑川・白川流域では、小学校での「VR・ARを活用した体験型防災訓練」や阿蘇ジオパーク推進協議会※1と連携した情報発信など、住民の関心を引く工夫が重ねられている。毎年、日吉東小学校の4年生を対象に継続的な防災学習を実施しており、参加した子どもたちのアンケートでは理解度の向上が確認されているという。また、大江小学校では、実際に水災害を経験した地域住民が講師を務めるなど、地区防災協議会と一体となった取組みも進んでおり、次世代への着実なバトンリレーが行われている。
国土交通省が創設した「流域治水オフィシャルサポーター制度」に登録する民間事業者との連携も着実に広がりつつあり、「5年前にはなかった動きが、ここ数年で急速に広がってきている」との実感が語られた。行政と民間事業者がタッグを組む土壌が、熊本にはすでに育っている。
一方、「流域治水に協力・参加したいものはない」とする層が43.7%に上る現状について、「治水は行政が担うものという受け止めが根強く、住民が自分ごととして捉えにくいことが背景にあるのではないか」と分析しつつも、「まずは知ってもらうことが第一歩であり、認知度の高さは、その土台がすでに整っていることの表れ」との前向きな受け止めも示した。自治体ごとの浸水リスクの違いによって住民の関心度に温度差が生じることは「当然のこと」とした上で、各自治体のまちづくりの方向性に寄り添いながら、流域治水の視点を織り込んでいく取組みを着実に進めると語られた。

※1)阿蘇地域の自然環境や草原景観、湧水などの地域資源を保全・活用し、その魅力を伝えることで、持続的な地域づくりを進めるための協議会。
-*-*-*-*-白川水系では、上下流の交流促進や河川の利活用による地域活性化、景観向上を通じた都市空間づくりが進み、緑川水系でも整備が完了した御船町の御船地区のほか、宇土市の走潟地区、甲佐町の甲佐地区においても「かわまちづくり」事業が展開されている。
担当者は、「かわまちづくり」は地域や自治体からの要望を起点に立ち上がる事業であるとし、整備後の利活用状況や住民満足度を通じて、その多面的な価値を評価していると説明。継続的な維持管理を地域主体が担っていく体制づくりが今後の課題であるとしつつ、「賑わいの創出を通じて維持管理へのメリットを実感してもらうことが事業継続の鍵になる」との考えを示した。
甲佐地区では、野球場やサッカーグラウンドを整備した河川敷の利用人数が年々増加している。さらに、家族連れの利用空間を求める声が上がったことから、下流に幅広い年齢層の住民が憩う場を整備する計画が進んでいる。
また、都市・地域再生等利用区域の指定を受けた白川の一部区間や阿蘇立野ダム周辺では、河川区域内での営利活動も可能となっており、民間事業者が参画しやすい環境整備も進んでいる。
緑川水系における治水事業の歴史は古く、加藤清正が天正16年(1588年)に本格的に始めたとされている。なかでも、轡塘(くつわども)により、河川の合流点の堤防間(高水敷)を広くとり、水勢を弱めて洪水をゆるやかに流すための工夫が凝らされている。こうした歴史的な治水施設の保全が市町村によって進められてきた。



また、熊本河川国道事務所とNPO法人「天明水の会」が連携して、緑川下流域にある天明中学校での講義が行われるなど、地域コミュニティと連携した自然資本の保全活動も進む。同講義では、上流にある森林整備活動も行われ、森林が持つ水源涵養機能の維持によって、流域全体の水災害リスクが低減されることを学習するきっかけにもなっている。
この活動を支えるのが「河川協力団体制度」だ。認定団体が河川内の除草や維持管理を担う仕組みが機能している一方、担当者からは「担い手の高齢化と人材不足」が課題として挙げられた。アンケート結果でも、緑川・白川流域の30.8%が「地域コミュニティの人的・財政的な余力の充実」を必要と回答しており、担当者は、民間事業者が防災学習の出前授業などに関わることへの期待を語った。
熊本市や甲佐町でのワンコイン浸水センサの設置など、DXを活用した情報発信の取組みが進んでいる。ワンコイン浸水センサとは、低コストかつ小型の装置で、浸水状況をリアルタイムに把握できるセンサである。「浸水しやすい場所の把握や通行止めの判断に役立っている」「水防団と情報を共有し、出動判断の参考にしている」といった具体的な効果が語られた。
特筆すべきは、熊本市がこうした浸水センサの情報を、水防団など活動主体との共有にとどめず、市民向けにもホームページで公表している点だ。行政内部での活用にとどまりがちなリアルタイム情報を住民へ届けている。
住民アンケートでは「リアルタイムの情報共有」を求める声が緑川・白川流域で39.1%に上るが、担当者は「発信はしても高齢者に届きにくい」という課題を指摘する。高齢者にとっては、依然として防災無線や紙媒体、水防団による直接的な声かけが重要な役割を果たしているという。
また、リアルタイム情報を発信するサイトが乱立する現状については、「情報が増えることは歓迎する一方、どの情報を見ればよいか住民が迷わないように整理することが必要」との指摘があった。民間事業者によるツール開発では、「独自の付加価値」をわかりやすく示すことが、今後の連携拡大の鍵になりそうだ。
熊本県では「田んぼダム※2」の普及拡大に取り組んでいるが、貯水機能を発揮するには田んぼの畦畔(けいはん)・あぜの補強が必要となり、そのコスト負担が農家の取組み拡大を阻む要因になっているという。

行政側の推進体制にも課題がある。「田んぼダム」を担当する部署では、通常業務に加えて農家一戸一戸への働きかけを行う余力の確保が難しいと担当者は語る。「雨庭※3」については、さらに根本的な課題として、県内に所管部署自体が存在しないことが挙げられた。「雨庭」はいまだ事業として不透明な部分が多く、予算要求から予算化、人員配置に至る一連の流れがまだ整っていないため、マンパワーも予算も割り当てにくいという構造的な壁があるという。

効果を可視化することにも、実は難しさが伴う。「田んぼダム」や「雨庭」の効果は、降雨の強さや時期、立地条件によって大きく変動するため、担当者は「定量的な数値を示し、それが独り歩きすることには慎重であるべき」との考えを示した。
特に「田んぼダム」は、農家が田に水を張る田植えから夏場(5~8月)にかけてしか効果を期待できず、台風が多い9月・10月には機能しないという季節的な制約がある。「雨庭」についても同様で、効果が発現するケースは場所に応じて異なると語る。そのため、数値だけが強調されることに危険もはらむ。効果の発信には、正確さと丁寧な説明の両立が求められている。
ただ、県担当者からは「予算制度については国土交通省がしっかり作ってくれている。あとは我々側の体制の問題」という声もあり、予算面での支援の枠組み自体はすでに用意されていることへの安心感がうかがえた。
こうした行政の体制面の課題を補う存在として期待が高まっているのが、2026年4月に発足した一般社団法人「熊本ウォーターポジティブ・デザインセンター」だ。MS&AD、サントリー、肥後銀行、熊本県立大学、熊本大学といった地域の民間事業者・金融機関・学術機関が参画するこのプラットフォームは、会員からの会費をもとに「雨庭」の導入や整備の支援を担う。
県担当者からは「行政だけでは補いきれないマンパワーや資金面を補完してくれる存在として、非常にありがたい」と歓迎の声が上がっており、官民が手を取り合いながら「雨庭」普及にむけた課題を乗り越えていく機運が、熊本ではすでに芽生え始めている。


※2)水田の水門や堰板に放水量を調節する仕組みを設け、雨水を一時的に通常量よりも貯留する取組み
※3)雨水を一時的に貯留し、ゆっくり地中へ浸透させる構造を持つ植栽空間
「流域治水」という言葉が生まれてからまだ数年という中で、緑川・白川流域は他の調査対象流域(多摩川、鶴見川、天竜川下流・菊川、馬込川)の中で最も高い認知度を獲得している。今回のヒアリングを通じて、その背景には、行政による地道な広報活動、「緑川フェスタ」に象徴される官民一体のイベント運営、実体験を通じた次世代への教育、そして民間事業者を含む多様な主体との連携という、地に足のついた積み重ねがあることが浮き彫りとなった。
ただし、グリーンインフラの普及にむけた体制・予算の制約や、高齢者へのリアルタイム情報の到達といった課題も存在する。こうした課題に対しても、国による制度の整備や、産学連携プラットフォームの発足を足掛かりに、解決に向けた動きは着実に進んでいる。
今回のヒアリングでは、行政と民間事業者で協働できる可能性が多く語られた。MS&ADグループにおいても、「流域治水」の普及、「グリーンインフラの実践」および「地域のレジリエンス向上」に引き続き取り組んでいく。
この度の令和8年熊本地震によって被災された皆様に、心からお見舞い申し上げます。
また、災害対応のなか、ヒアリングをお受けいただいた行政の皆様にも感謝申し上げます。

本誌は、2026年9月2日に実施した自治体等へのヒアリングでの発言内容と公開情報に基づいて作成しております。
また、本誌は、読者の方々にお役立ていただくことを目的としたものであり、事案そのものに対する批評その他を意図しているものではありません。
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