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【2026年7月改訂】コーポレートガバナンス・コードを踏まえた全社的リスク管理(ERM)実質化のポイント
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【お客さま事例】品川区「初動で被害の全体像を把握し、区民の生活再建を加速したい」『調査量エスティメータ』を活用した取り組みとは?


写真中央が品川区防災まちづくり部防災課の羽鳥匡彦課長。
同課の日下梨里子氏(左)と二田佳奈恵氏(右)も同席。
ーーはじめに品川区の防災の取り組み状況について教えてください。
羽鳥)品川区では、全庁で災害に対応するという方針を掲げています。私たち防災課だけではなく、災害対策本部を立ち上げた際には、事前に割り振った役割に応じて、それぞれの部署が災害対応に取り組む体制を整えています。
2025年9月11日には豪雨災害が発生して、区全体で大きな被害が出ました。このため、発災直後から見舞金の支給、浸水した家屋などの消毒、災害廃棄物の無償回収などの支援策を実施しました。その後は、止水板設置への助成などの豪雨対策の強化にも取り組んでいます。


画像提供:品川区
ーー2025年9月の大雨による被害について、詳しく教えていただけますでしょうか。
羽鳥)気象庁から「大雨警報(浸水害)および洪水警報」が発表 されて大雨が降り、区全域で次のような被害が出ました。
| 人的被害 | なし | |
|---|---|---|
| 浸水被害 | 床上浸水 | 513件 |
| 床下浸水 | 307件 | |
| 事業所等 | 359件 | |
| その他の被害 (区全域で発生) |
| |
広範に被害が出た原因は、内水氾濫です。品川区のような都市では、河川の堤防決壊よりも下水道や排水施設の処理能力を超える雨による内水氾濫のリスクが高いと考えています。
一定の雨量を超えると氾濫を防ぐことができないので、災害が起きたときにいかに早く状況を把握して対策を打っていけるかということの重要さを、改めて痛感しました。
ーーその時の災害で品川区としてどのような点に課題を感じたのでしょうか。
羽鳥)結果的に区全域で被害が発生していることがわかったのですが、発災当初、区内でどのくらいの被害が出ているのかがなかなか見えなかった点です。
被害の情報が入るたび調査班を現地に派遣して、地図上に被害状況をプロットしていくことで、被害が区全域にわたって発生していることが見えてきました。ここまで被害が広がっているということは、初動の段階で把握するのは困難でした。


画像提供:品川区
ーー初動の段階で被害の全体像を把握したかったのはどのような理由からでしょうか。
羽鳥)全体状況を少しでも早く把握できていれば、被害が集中しているところにリソースをもっと効率よく投入することができたのではないかと考えているからです。
被害の情報があった場所に調査班を派遣し、現地に到着して報告が上がってくるまでに1、2時間はかかります。すべての調査班から報告が上がってきて、全体像が見えてくるまでに3時間ほどはかかったかと思います。
調査班を派遣するためには、人員、車両、その他機材を確保する必要があるのですが、被害の情報があるたびに派遣していると、より大きな被害が出ている場所が明らかになったときに対応できなくなる恐れもあります。
早い段階で全体状況を把握して、優先度の高いエリアから調査班を派遣できればより効果的な対応が可能になると考えています。
実際、2025年9月の豪雨対応では「もっと早く被害の全体像がわかっていれば、行政対応をより効率的に進められたのではないか」と感じた場面がありました。
品川区では、現地で被害状況を確認する際に、被災された区民の皆さまに「見舞金」を直接お渡ししてきました。今回も当初は被害が局地的だと考えて、従来通り一軒一軒訪問して直接お渡ししていました。


ただ、実際には被害が区全域に及んでいました。もし初動の段階で被害の全体像や規模を把握できていれば、見舞金の支給は申請方式に切り替えて、職員を被害認定調査やほかの災害対応に重点的に配置するといった判断ができたかもしれません。
ーーそうした課題に対して『調査量エスティメータ』はどのように活用できると感じたのでしょうか。
羽鳥)品川区として特に活用できそうだと考えたのが、SNSに投稿された洪水情報から浸水発生エリアを推定できる機能です。
実際に、過去の災害のデータを使ったデモンストレーションの画面を見た際に、被害が集中しているところが一目でわかりました。
区長以下の上層部に被害状況を視覚的に伝えることができるようになれば、的確な判断につなげられると感じました。


気象庁の防災気象情報をトリガーとして初動を立ち上げて、『調査量エスティメータ』で被害が集中していると考えられるエリアを確認し、優先順位を決めて調査班を派遣しようと考えています。
この機能を活用できれば、初動対応だけではなく、その後のり災証明書の発行業務のスピードアップにもつながると考えています。
早い段階で、エリアごとの被害の概況がつかめるようになれば、その後の被害認定調査に向けた人員確保や、調査エリアの優先順位付けが従来よりも前倒しできるようになり、区民の皆さんの生活再建を加速させることができると考えています。
ーー品川区として、今後の災害対応について考えていることはありますか。
羽鳥)今回の豪雨では、災害廃棄物の処理についても課題を感じました。
本来、事業系廃棄物や家電リサイクル法の対象となる家電製品については自治体による収集は行わず、また、浸水した家具などを災害廃棄物として無償回収する場合には、被害認定調査を経て発行されるり災証明書の提示が必要となります。
しかし、その手続きを待っていると1か月近くかかることもあり、その間に廃棄物が住宅周辺や道路沿いに積み上がってしまいます。
そこで今回は特例として、り災証明書の発行を待たず、事業系や家電も含め 清掃事務所が順次無料で回収する対応を取りました。結果として約700件、161トンの災害廃棄物を回収しました。
今回の経験を踏まえて、災害廃棄物が「どのくらい発生しそうか」をできるだけ早く把握する必要もあると感じています。発生する災害廃棄物の量が比較的少なければ、通常の収集体制を強化しながら順次回収することで対応できます。


一方、廃棄物の量が大きいと見込まれる場合は、仮置き場の開設や収集車両・人員の増強、民間事業者や他自治体への応援要請など、より大規模な処理体制を早期に立ち上げる必要があります。
今回の豪雨では既存の体制で対応できる規模でしたが、首都直下地震のような大規模災害では、あらかじめ想定していた仮置き場だけでは足りない可能性もあります。そのため、災害発生直後に「どの程度の災害廃棄物が発生しそうか」というボリューム感を早期に把握できれば、必要な処理体制を迅速に判断・構築でき、災害廃棄物の滞留を防ぐだけでなく、住民の生活再建も早めることにつながると考えています。
(本インタビューは、2026年7月13日に実施されたものです)
MS&ADインターリスク総研では、品川区さまに導入いただいた「調査量エスティメータ」も含めて、自治体が被害認定調査を効率的に実施できるデジタルソリューション「被害認定調査DXパッケージ」をご提供しています。

当社が積み上げてきた多くの経験と実績に基づき、調査量の見積もりから、調査計画策定、実際の調査、職員の皆さまの研修までトータルで支援することで自治体の皆さまの負担を軽減し、迅速なり災証明書発行業務を支援します。
品川区さまがインタビューの最後に触れていた災害廃棄物に関して、当社では名古屋大学の平山修久准教授の指導のもと、環境省の推計手法を基に独自の改良を加えた「災害廃棄物量推計サービス」を開発しました。

本サービスにより、自治体による災害廃棄物処理計画の実効性を向上させ、初動対応期における業務効率化に貢献します。
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高温作業時の熱中症予防対策【中国風険消息<中国関連リスクニュース>(2026年9月)】
地球温暖化等の影響により、中国における年間平均気温は上昇している(図1)。特に、2021年以降の年間平均気温は、1991~2020年の平均気温から徐々に高温側に乖離する傾向にある。これに伴い、近年、屋外作業に従事する従業員の健康リスクも高まっているといえよう。


(出典:三張図均出自中国気候公报(2025年))
2025年の年間平均気温は、2024年と並び観測史上最高値となった。近年の高温の特徴として、以下の3点が挙げられる。
長江中下流域全体で平均気温が過去最高を更新し、江蘇・浙江・上海など東部沿岸地域では、相次いで最高気温を更新した。華北南部、華東、華中、華南の大部分では、最高気温が35℃以上となる「高温日数」が20~50日に達し、平年同期より10~40日多くなった。山東省、河南省、湖北省などでは、夏季の高温日数が地域の観測史上最高値を更新した(図2)。
6月から10月にかけては、最高気温35℃以上の日数は平均16.5日であった。これは平年より7.4日多く、観測史上最多である。主要な高温期間は6月30日から9月9日に集中し、連続期間は72日に達して観測史上第3位となった。10月に入っても江南地域および華南北部では40℃を超える極端な高温が発生し、秋季まで高温が継続する傾向が顕著であった。(図3参照)


(図2、図3 出典:三張図均出自中国気候公报(2025年))
広範囲にわたる継続的な高温に加え、高湿度環境が重なることで、人体の蓄熱速度が大幅に高まっている。屋外作業や密閉された作業場に従事する従業員の熱中症リスクが高まっている。
2025年の極端な猛暑は、一時的な気象現象ではない。エルニーニョ現象の発生状況および政府による気象分析結果を踏まえると、2026年夏季も全国的に高温への警戒が必要である。以下に2026年夏季における高温の特徴を整理する。
中程度以上のエルニーニョ現象の影響により、気温上昇傾向がさらに強まり、全国的に平年より高い気温となる見込みである。また、局地的な高温熱波が多発する可能性がある。
6~8月にかけて、華東および華南地域では、厳しい暑さが長期間継続するほか、高温となる期間が複数回発生すると予測されている。長江デルタ地域および福建省北部では、高温日数が27~32日に達すると見込まれており、平年を大きく上回る高温環境となる可能性がある。
上記地域では、晴天と降雨が短期間のうちに入れ替わる不安定な天候が続くことで、気温・湿度が上昇し、高温多湿環境となることが予想される。高湿度は身体から熱を放散しにくくし、熱中症発症リスクを高めるため、適切な予防対策を講じる必要がある。
高温がピークとなる時期には、屋外工事現場、外勤業務、密閉空間および加熱設備を有する作業場等において、熱中症リスクが上昇する。熱中症の発症メカニズムや症状を正しく理解することは、効果的な予防・管理対策を実施するために重要である。
熱中症とは、高温環境下において人体の水分・塩分代謝が乱れることで発症する急性の全身性疾患である。主な障害は中枢神経系および心血管系に現れる。
「職業病分類および一覧(2024年版)」によると、業務中に発症した熱中症は法定職業病に該当する。また、GBZ 41-2019「職業性熱中症の診断」では、職業性熱中症とは、「高温作業環境において熱収支バランスおよび水分・塩分代謝の乱れにより発症し、中枢神経系および心血管系の障害を主な症状とする急性疾患」と定義されている。なお、熱中症はその程度により、表1に示すように分類される。
| 段階 | 分類 | 主な症状 | 症状レベル |
|---|---|---|---|
| 熱中症予兆 | — | めまい、倦怠感、口渇、多量の発汗、集中力低下。体温は正常または38.0℃未満であり、休息により症状が改善する。 | 警戒 |
| 熱中症 | 熱けいれん | 大量発汗後に発生する一時的・間欠的な筋肉けいれんおよび収縮痛。体温は通常正常範囲である。 | 軽度 |
| 熱疲労 | 多量の発汗、皮膚の湿潤・冷感、顔面蒼白、吐き気、心拍数増加、低血圧。体温は上昇するが40℃未満である。 | 中度 | |
| 熱射病 | 体温40℃以上、意識障害(せん妄、昏睡)、発汗停止。横紋筋融解または多臓器機能障害を伴う。 | 重度 |
職業性熱中症の主な発症メカニズムは、人体の産熱量が放熱量を上回ることである。長時間にわたる熱の蓄積により、体温調節機能、水分・電解質バランス、循環機能等に複合的な障害が発生する。企業において熱中症が発生しやすい代表的な作業環境は、以下の4種類である。
溶解、鋳造、炉設備による熱処理等の作業では、作業環境が40℃を超える場合があり、赤外線や可視光による熱放射が加わることで、身体表面が継続的に熱を受ける状態となる。
染色加工、製糸等の作業場では、湿度が80%を超える場合があり、汗の蒸発が妨げられることで放熱効率が大幅に低下し、体内に熱が継続的に蓄積する。
建設工事、道路維持管理、配送等の作業では、直射日光による熱放射を受ける。路面温度が50℃を超える場合があり、紫外線および熱放射の影響が重なることで、人体への熱負荷がさらに増大する。
土砂掘削、重量物搬送等の高負荷作業では、身体活動による代謝熱が急激に増加し、短時間で人体の放熱能力を超える可能性がある。
気象学および労働衛生分野では、それぞれ高温環境の判定基準が設定されている。高温環境下で作業を行う際は、これら2つの基準を考慮し、作業時間や作業内容を検討する必要がある。
気象学では、最高気温が35℃以上となる日を一般に「高温日」と定義している。なお、中国気象当局は高温の程度に応じて3段階の警報基準を設けており、警報基準ごとに屋外作業制限を明示している(表2)。
| 高温警報 | 警報基準 | 屋外作業制限 |
|---|---|---|
黄色警報![]() | 3日間連続して日最高気温が35℃以上となる見込みである。 | 従業員に時間外労働を行わせてはならない。 |
オレンジ警報![]() | 24時間以内に最高気温が37℃以上となる見込みである。 | 1日の作業時間累計を6時間以内とする。 連続作業時間は国家規定を超えてはならない。気温が最も高くなる時間帯の3時間以内は作業を実施しない。 |
赤色注意報![]() | 24時間以内に最高気温が40℃以上となる見込みである。 | 当日の屋外作業を中止する。 |
労働衛生上は、湿球黒球温度(WBGT)指数により、作業強度に応じた1日の累計労働時間の上限を定めている。WBGT指数とは、気温、熱放射、湿度等の要素を総合的に評価し、人体が受ける熱負荷を把握するための数値である(表3では、例えば「身体作業強度レベルⅠ」と「1日の累計労働時間上限8時間」が交差する「30℃」がWBGT指数にあたる)。したがって、企業は、高温日となる可能性のある日には、湿球黒球温度計を使用するなどして当日のWBGT指数を把握し、作業強度に応じた労働時間を設定する必要がある。
| 1日の累計 労働時間上限 | 身体作業強度レベル | |||
|---|---|---|---|---|
| Ⅰ(n≦15) | Ⅱ(15<n≦20) | Ⅲ(20<n≦25) | Ⅳ(n>25) | ミシン作業、 電子部品組立など | 鍛造、除草作業 など | 重量物運搬、 ハンマー鍛造など | 高強度運搬、 掘削作業など |
| 8時間 | 30°C | 28°C | 26°C | 25°C |
| 6時間 | 31°C | 29°C | 28°C | 26°C |
| 4時間 | 32°C | 30°C | 29°C | 28°C |
| 2時間 | 33°C | 32°C | 31°C | 30°C |
※注:nは労働強度指数と呼ばれ、労働内容に応じた身体への負荷を示すものである(労働時間率、エネルギー代謝率、性別係数、作業方式係数を乗じて算出される)。
事業者と従業員は、双方が連携して防護体制を構築する必要がある。つまり、企業は体系的な熱中症対策を実施し、従業員は自身の防護意識および緊急時対応能力を向上させることが望まれる。組織と個人が相互に取り組むことで、熱中症の発生リスクを効果的に低減し、特に重症の熱射病に至ることを最小限に抑えることができる。
企業は、従業員の健康を保護する主体として、リスクの特定、技術的対策、総合管理、健康管理、保健対策・応急救護の5つの観点から、体系的に職業性熱中症予防対策を行う必要がある(表4)。
| 分類 | 項目 | 具体的な内容 |
|---|---|---|
| リスクの特定 | 熱源・環境調査 | 作業場所における放射熱源(溶解炉、高温配管、熱処理設備等)を確認する。 |
| 屋外作業場所および防護状況を確認する(遮光設備のない日射暴露エリア、路面からの熱反射が大きいエリア等)。 | ||
| その他の高温環境(屋外35℃以上、屋内密閉環境32℃以上)および高温多湿環境(湿度60%超により発汗が蒸発しにくい環境)の作業場所を確認する。 | ||
| 各作業場所の換気状況を確認する(扇風機、排気設備、空調設備の設置状況、密閉空間や地下室等の有無)。 | ||
| 各作業場所のWBGT指数を測定・算定し、高温・高湿度環境となる作業場所を特定する。 | ||
| 各職種・作業における身体作業強度(軽度・中度・重度・極重度)を確認し、連続作業時間および交替・休憩状況を把握する。 | ||
| GBZ 2.2、GBZ/T 189.7、GBZ/T 229.3-2025等の関連要求事項に基づき、作業強度および作業時間がWBGTによる高温作業基準値を満たしていることを確認する。 | ||
| 技術的対策 | 発生源対策による暑熱低減 | 新技術、新工法、新材料、新設備を導入するなどして高温の発生源を絶つ。 |
| 従業員と熱源を隔離する(屋内の遮熱対策、屋外の日射遮蔽対策等)。 | ||
| 換気等により高温作業場所の湿度を低減し、身体からの放熱を促進する。 | ||
| 高温作業場所の近くに休憩場所を設置し、椅子、換気設備または空調設備を配置する。なお、作業場所内外の温度差が過大にならないよう配慮する。 | ||
| 総合管理 | 制度・警戒態勢 | 特殊な高温作業を行う職場について、熱中症予防に関する個別対策計画を策定する。 |
| 気温変化の報告体制を構築し、高温気象が発生した場合には作業内容や作業条件を適時見直し、注意事項を周知する。 | ||
| 始業前・終業後の報告体制を構築し、従業員が体調不良を感じた場合には速やかに報告できる仕組みを整備するとともに、その後の作業内容を適切に調整する。 | ||
| 高温対策用品および手当の支給管理制度を整備し、定期的に備品数量を確認するとともに、支給記録を確認のうえ、適切かつ十分な支給を実施する。 | ||
| 妊娠中の女性従業員については、レベルⅢ以上の高温作業および35℃以上の屋外作業に従事させない。 | ||
| 過去の熱中症や体調不良事例を収集し、発生要因を分析したうえで対策を講じる。 | ||
| 金銭や高温作業手当の支給に替えて暑熱対策用品の配備省略は厳禁とする。 | ||
| 通気性が良く、淡色でゆったりした作業服(綿・麻素材等)を支給し、通気性の悪い厚手の防護服や密閉型防護服の使用を避ける。 | ||
| 作業人員管理 | 高温時間帯にはWBGTを定期的に測定し、異常が確認された場合は作業計画を速やかに修正する。 | |
| 現場での暑熱低減、作業交替、配置変更等の対策を確実に実施し、作業負荷が法規制上の基準を超えないよう管理する。 | ||
| 従業員の出退勤時における体調不良状況の報告ルールを整備し、体調不良者の作業従事を禁止する。 | ||
| 毎年、高温シーズン前に高温環境への対策内容を確認し、課題の改善を行う。 | ||
| 高温時間帯における高負荷作業の連続実施を避け、比較的気温の低い早朝・夕方の時間帯を活用するとともに、適切な交替休憩を設定する。 | ||
| 高リスク者(高齢者、妊娠中の従業員、基礎疾患を有する者、服薬中の者等)は、可能な限り複数人で作業させ、単独作業を避ける。 | ||
| 外部施工業者や保全作業員を適切に管理し、高温への対策を周知するとともに、暑熱対策を実施する。 | ||
| 教育・訓練 | 定期的に熱中症発生時の報告手順を周知する。 | |
| 従業員の熱中症予防意識を向上させ、熱中症の兆候把握、個人での対策および救護に関する知識を習得させる。 | ||
| 健康管理 | 従業員の健康管理 | 高温作業に従事する従業員を対象に健康診断を実施し、高リスク者リスト(高齢者、妊娠中の従業員、基礎疾患を有する者、服薬中の者等)を作成する。 |
| 従業員に職業上の就業制限対象となる疾病等が確認された場合は、速やかに作業配置を変更する。 | ||
| 新規入職者、復職者、配置転換者および疾病から回復した者については、高温作業の負荷を管理し、作業強度および作業時間を増加させる場合は徐々に行う。 | ||
| 重度の熱中症を発症した従業員については、復職前に暑熱環境への適応力を回復させる必要があり、必要に応じて心理面・生理面から評価を行う。 | ||
| 十分な量の暑熱対策用飲料を提供する(塩分濃度0.1~0.2%、水温8~12℃程度が望ましい)。 | ||
| 十分な量の熱中症対策用の医薬品を備蓄する。 | ||
| 工場内に暑熱対策用医薬品を配置する。 | ||
| 保健対策・応急救護 | 救急資機材・対応計画 | 工場内の高温作業エリアには体温計を配備し、血圧計等の測定機器を設置する。 |
| 工場内に身体冷却用品を配置する(冷水、氷、冷水タオル等)。 | ||
| 必要に応じて担架や搬送用ボード等の救急資機材を配置する。 ただし、使用時には傷病者への二次的な負担や傷害を防止する。 | ||
| 従業員が作業中に体調不良を感じた場合は、速やかに報告させ、担当者が付き添って経過を確認する。長時間休憩しても回復しない場合は、速やかに医療機関を受診させる。 | ||
| 高温環境下での熱中症に関する緊急対応計画および救急対応手順書を策定する。 | ||
| 緊急対応計画に基づき、救護担当者および救急資機材を配置する。 | ||
| 定期的に熱中症症状の識別および応急救護訓練を実施し、従業員に防護設備の設置場所および使用方法を周知する。 |
従業員一人ひとりが自身の健康管理の主体であり、率先して暑熱対策に取り組む必要がある。具体的には、表5に示すように、日常生活管理、食事管理、作業時の防護、環境への適応、体調確認の5つの観点を踏まえ、適切な予防対策を講じることが望ましい。
| 分類 | 実施内容 |
|---|---|
| 日常生活管理 | 十分な睡眠時間を確保し、夜更かしや過度な疲労を避ける。 疲労状態では暑熱環境への適応能力が大きく低下する。 |
| 睡眠時は適切な温度管理を行い、エアコンの風が直接当たることによる冷えや体調不良を防止する。 | |
| 日常的に適度に運動し、身体の基礎的な暑熱適応能力を高める。 | |
| 食事管理 | 食事は消化しやすい淡泊な食品や野菜・果物を中心とし、高脂肪・高カロリー食品の過剰摂取を控える。 |
| 作業開始前には適量の食事を摂り、低血糖による体調不良や熱中症発症リスクを防止する。 | |
| 水分摂取量は通常時の約1.5倍を目安とし、「少量を複数回摂取する」ことを基本とし、喉の渇きを感じる前に水分補給を行う。 | |
| 薄い塩水、電解質飲料、緑豆スープ等を優先的に摂取し、体内の電解質バランスを維持する。 | |
| 飲み物の温度は8~12℃程度とする。大量の冷水摂取は胃けいれんを防ぐため避ける。 | |
| アルコール飲料、糖分を多く含む飲料、炭酸飲料、カフェインを含む飲料の摂取を控える。 | |
| 作業時の防護 | 12:00~16:00の高温ピーク時間帯における長時間の屋外作業を可能な限り避ける。 |
| 綿・麻素材等の淡色で通気性の良いゆったりした作業服を着用し、屋外作業時には帽子や日焼け止め等を使用する。 | |
| 作業中は汗を適時拭き取り、適度な汗の蒸発を促す。 | |
| 冷却シート、小型扇風機、清涼剤、熱中症対策用薬品等を携帯する。 | |
| 作業の合間には、涼しい休憩場所を積極的に利用し、交替で休憩する。 | |
| 環境への適応 | 屋内空調温度は26~28℃を目安とし、室内外の温度差は8℃以内に抑える。 |
| 大量に発汗した後は、汗を拭き取り、濡れた衣服を交換してから空調環境へ移動し、冷風が直接身体に当たることを避ける。 | |
| 環境温度が32.2℃を超える場合、扇風機のみでは十分な冷却効果が得られにくいため、冷水による身体冷却や空調設備を併用する。 | |
| 体調確認 | めまい、倦怠感、動悸等の体調不良が発生した場合は、直ちに作業を中止して休憩し、速やかに現場管理者へ報告する。 |
| 休憩後も症状が改善しない場合は、速やかに医療機関を受診する。 |
従業員に熱中症と思われる症状が発生した際は、症状の程度に応じて段階的に救急対応を実施する必要がある。軽症の熱中症初期症状と重症化した熱射病では対応方法が異なるため、適切な処置手順に基づき対応することが望まれる(表6)。
| 程度 | 対応措置 |
|---|---|
| 熱中症の初期症状・ 軽度熱中症 |
|
| 重度熱中症 (意識障害あり) |
|
地球温暖化の進行等により、猛暑や極端な高温現象は珍しいものではなくなっている。これに伴い、企業には、高温による従業員の健康リスクへの対策を、平時から継続的に整備していくことが求められている。具体的には、湿球黒球温度(WBGT)等の科学的指標に基づき、高温下での作業内容や作業時間を適切に管理するとともに、暑熱対策のための飲料や救急資機材を十分に配備したりすることなどが挙げられる。また、従業員に対して暑熱対策に関する教育を行い、生活リズムの調整、適切な服装の着用、体調の自己確認等の個人防護措置を促すことで、従業員自身による主体的な健康管理を推進する取組も望まれる。
当社インターリスク上海では、企業の防災担当者および従業員向けに、高温下での作業における健康管理体制の構築支援や、熱中症予防対策等に関する教育・研修等を行っている。是非、ご活用いただきたい。
【参考文献】
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災害時、企業は何をどう伝えるべきか?相次ぐ大規模な災害から考える情報開示の4つのポイント
いわゆる危機管理広報として一般的にイメージされるものに、企業の不祥事などがありますが、災害時の情報開示とは、目的が異なることを押さえておく必要があります。
前者の主な目的は「不祥事により失墜した企業の信用回復」ですが、災害時においては、従業員、地域社会、取引先、お客さま、株主といったさまざまなステークホルダーに対して、「自社がどういう状態にあるのかを知らせること」が主な目的になります。
発災時においては、人命の保護や安全確保が最優先になるため、ステークホルダーに伝えるべきメッセージがないのであれば、必ずしも情報開示を急ぐ必要はありません。まずは、誰に対して情報を伝える必要があるのかを整理し、情報開示の要否を判断することが重要です。
実際に、大規模な地震で工場が被災した企業であっても、プレスリリースを出さずに、個別に取材に応じているケースもありました。取引先と個別に連絡を取り、必要な情報を伝えられているのであれば、プレスリリースを出さないという判断もあり得ます。
重要なのは、「災害が起きたから開示する」と考えるのではなく、誰に情報を伝える必要があるのかを起点に、開示の要否を判断することです。
では、誰にどのような情報を伝えるべきなのでしょうか?
災害時に伝える情報としては、以下のような内容が挙げられます。
ただし、これらを一律に開示すればよいわけではありません。ステークホルダーによって関心が異なるため、「誰に何を伝えるのか」を整理することが重要です。
例えば、取引先に必要な情報を個別に伝えられていたとしても、株主にとっては十分な情報が開示されているとは限りません。株主の立場からすれば、被災による事業への影響や復旧の見通しが分からなければ、不安を感じる可能性があります。
このように、ステークホルダーが変われば、必要とする情報も変わります。それぞれの立場を踏まえて、伝える内容を考えることが大切です。
災害時における情報開示で押さえておきたい別のポイントは、「企業自身も被災している」という観点です。
これを踏まえると、災害時にはあらゆる情報を一刻も早く開示しようとするのではなく、情報の内容やステークホルダーのニーズに応じて、急いで開示すべきものと、そうでないものを見極める必要があります。その際に念頭に置いておきたいことは、拙速に情報開示をして混乱を生じさせない点です。
一方で、「急いで開示しなくてもよい」ことと、「一度開示した情報をそのままにしてよい」こととは別です。災害時は状況が刻々と変化し、新たな事実が判明したり、被害や復旧の状況が変わったりします。このため、一度情報を開示した後も、状況の変化に応じて適切なタイミングで情報を更新していくことが重要です。
災害時には、十分に情報を集約できないことも考えられます。こうした状況では、まず確認できた事実だけを伝え、未確認の情報は安易に発信しないことが重要です。
例えばメディアからの問い合わせがあった際、事実関係が確認できていない情報については無理に回答せず、「確認中です」と伝えることが重要です。
そのためには、収集した情報を次の3つに分けて整理しておく必要があります。
このように整理しておくことで、問い合わせを受けた際にも、確認できていることとまだ確認できていないことを切り分けて対応することができます。
もう1つのポイントは、会社として発信する内容にぶれや食い違いが生じないようにすることです。プレスリリースと、広報担当者や現地の責任者の説明が異なると、かえって混乱を招く恐れがあります。
具体的には、社内外への情報発信について「誰が、どう発信するのか」をあらかじめ決めておき、対外的な問い合わせ窓口を一本化しておくことも有効です。
発災後の混乱の中で、こうしたしかるべき対応を実現するためには、次の3点に留意することが望ましいです。
このような対応をしておけば、開示内容の齟齬や情報の抜け漏れ、伝える順番の間違いなどを防ぎやすくなります。
災害は日本のどこで起きるかわかりませんので、地域の拠点が情報開示の対応を迫られる場面も出てきます。本社内だけでなく地域の拠点とともに訓練や演習も実施しながら、情報開示に向けた対応力の強化を図っていくことが重要です。
企業の危機管理対応 失敗事例から学ぶ7つの“落とし穴”とは?
企業の危機管理対応では、失敗事例から学べる7つの“落とし穴”があるといいます。ポイントについてMS&ADインターリスク総研で危機管理コンサルティングを専門とするコンサルタント2人が解説します。
記者会見から見る危機管理広報のポイント|ESGリスクトピックス
模擬記者会見を含む情報開示トレーニングでは、登壇者の対応力だけでなく、用意されたトレーニングシナリオに対する事案評価と、それを踏まえた開示戦略の検討を実践してみることが重要です。
MS&ADインターリスク総研では、組織に深刻なダメージが予想される「危機」の発生を想定し、被害の最少化や早期の終息を目指した危機管理態勢の整備をご支援しています。
また、危機発生時に不可欠なメディア対応を含む危機管理広報についても、当社の豊富な支援実績・ノウハウに基づき、組織の実践力向上をお手伝いします。
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大規模災害に備える運輸事業者の防災マネジメント -令和8年熊本地震への対応状況を踏まえて- 【交通リスク情報(2026年9月)】
近年、我が国では、地震、台風、線状降水帯による豪雨、河川氾濫、土砂災害、豪雪、猛暑など、多様な自然災害が各地で発生している。直近5年間では、2021年10月に発生した千葉県北西部を震源とする地震や、2022年7月の桜島の火山活動(噴火)、同年9月に西日本で記録的な暴風雨を観測した台風第14号、2024年1月に発生した能登半島地震等が挙げられる。さらに、2026年7月には熊本県を中心としたエリアで地震が発生しており、これらの災害における発生頻度・種別を踏まえると、今後は単一の災害だけでなく、災害の連続発生などを見据えた複合的な災害への備えについても考慮していく必要がある。
内閣府が公表している防災白書によれば、我が国の年平均気温は、世界の平均気温よりも更に上昇の幅が大きくなっており、図1-1に示すように100年当たりで1.30℃上昇しており、国内で発生する災害に影響を与えていることがうかがえる。


(内閣府「令和5年版 防災白書特集1第2章第1節自然災害の激甚化・頻発化等」より抜粋)
豪雨等の水害においては、1970年代後半から多くの地点で観測を開始したアメダスによると、おおよそ50年間で、1時間降水量80mm以上の短時間強雨の年間発生回数が、増加していることが明らかとなっている(図1-2)。


(内閣府「令和5年版 防災白書特集1第2章第1節自然災害の激甚化・頻発化等」より抜粋)
また、国土交通省が公表する水害統計調査によると2020年から2024年までの水害被害額※1は、単年別にみると増加傾向であり、今後も頻発化・激甚化する豪雨災害等の影響により被害額が増加する可能性がある(図1-3)。


(国土交通省「1年間の水害被害額」を基にMS&ADインターリスク総研作成)
※1 水害被害額には、風害による被害、人的損失、交通機関の運休などによる波及被害、被災した企業の部品・製品供給機能、本社機能等が損なわれることによる他地域の企業への影響等に係るものは含まれていない。また、一般資産については被害額そのものを聞き取った結果ではない。なお、四捨五入の関係で、内訳の合計と水害被害額が一致しない場合がある。
また、地震においては、東京都が2022年5月に公表した「首都直下地震等による東京の被害想定報告書」によると、都心南部(南関東地域)でマグニチュード7クラスの地震が、今後30年以内に70%の確率で発生すると予測されており、南海トラフ巨大地震については、マグニチュード8~9クラスの地震が、今後30年以内に70~80%の確率で発生すると予測されている。
国土交通省が公表する国土交通白書からは、2025年3月末に公表された南海トラフ巨大地震の被害想定では、人的被害(死者)が最大約29.8万人、資産等の直接被害が約224.9兆円、生産・サービス低下による被害を含めた場合の被害額が約270.3兆円と推計されている(表1-1)。


(国土交通省「令和8年度国土交通白書」より抜粋)
ただし、今後、上述の自然災害のみならず、想定外の大規模災害が発生する可能性も考えられ、不断の準備が必要となる。特に、運輸事業者にとっては、自社施設や車両、船舶、鉄道車両等への物理的な損害をはじめとして、以下のような多様な影響を考慮する必要がある。
【大規模災害発生時において運輸事業者が主に考慮すべき事項】
さらには、今後自然災害は、一種だけでなく複数の種類の災害が重なって発生する可能性もあり、様々な状況に対応できるよう必要な準備を進めていくことが求められる。したがって、国内の旅客・物資の輸送を担う運輸事業者においては、「災害が発生してから対応する」ことだけでなく、平時からの防災マネジメントに取り組んでいかなければならない。
ここで、令和8年熊本地震についての地震概要・被害状況について国土交通省の「令和8年熊本地震による被害状況等について(第46報)」をもとに整理する。
-*-*-*-*-令和8年7月28日16時27分、熊本県熊本地方を震源とする地震が発生した。震源の深さは16km(暫定値)、地震の規模はマグニチュード7.1(暫定値)で、熊本県宇城市、氷川町で震度7を観測したほか、熊本市、八代市、宇土市、美里町、益城町、嘉島町で震度6強を観測した。津波注意報は有明・八代海に発表され、7月28日18時10分に解除された。なお、令和8年8月25日時点で最大震度7の地震以降も震度3以上の地震が99回発生しており、余震活動が継続している。
貨物輸送では、倉庫や物流施設を中心に被害が生じた。熊本県内の倉庫事業者では51社で被害が確認され、壁の剥落や貨物の落下、シャッターの損傷などが見られた。また、トラック事業者でも事務所や車庫の損壊が広がり、宅配便でも一部地域で集配遅延が発生するなど、物流網全体に影響が及んだ。これに対し、国土交通省は支援物資輸送や災害対応に必要な特例措置を講じた。鉄道では、九州新幹線や在来線で構造物・軌道の変状が多数確認され、運転見合わせや運休が発生しているが、バスによる代替輸送を実施している。バスでは、高速バス路線3路線、路線バス11路線で運休となり、現在も運休が継続している。海運では、フェリー事業者の船舶の船体損傷といった被害が発生し、航空では熊本空港が一時閉鎖され、発災当日は29便、翌29日も14便が欠航したが、現在は地震を起因とする欠航はない。また、自動車交通網では、高速道路や国道、県道などで通行止めが生じ、橋梁損傷や落石などにより広域的な交通規制が実施された。
なお、同地域では、約10年前の2016年にも大規模な地震が発生している。今回と前回の地震における規模や被害、再開・復旧状況などを比較するため、それぞれ発災から約1カ月後に公表された速報資料から影響を整理した(表1-2)。地震規模や人的被害、建物被害については、前回の方が大きく、特に建物被害のうち半壊棟数は、今回よりも前回の方が約2倍多い。一方で、高速道路や新幹線、高速バスの再開・復旧状況においては、今回の方がやや遅れており、特に、鉄道のうち新幹線では、前回は発災から13日目に再開しているが、今回は発災から約1カ月たった現在も一部運行見合わせが継続している状況であるため、今後も再開・復旧に向けた対応を継続する必要がある。もちろん、震源地は完全に同一ではなく、その他当時の環境・条件と異なる点は数多くあるが、同一地域において大規模災害が繰り返す可能性があることが改めて示唆された結果であり、過去を教訓にした「適切な備え」が重要となる。


※発災から約1カ月後(前回:2016年5月15日、今回:2026年8月25日)時点で公表された速報的な資料を参照
(内閣府 「令和8年熊本地震に係る被害状況等について」等を基にMS&ADインターリスク総研作成)
国土交通省は、激甚災害が頻発している昨今の状況に鑑み、「総力戦で挑む防災・減災プロジェクト ~いのちとくらしをまもる防災減災~」における「5.交通・物流の機能確保のための事前対策」の中の「交通運輸事業者の防災マネジメントの推進」を実施するため、2020年7月に「運輸防災マネジメント指針(以下、防災指針)」を策定・公表した。その後、運輸事業者の取組状況等を踏まえ、2023年6月に同指針を改訂している。なお、同指針の目的は、運輸事業者の自然災害への状況に応じた的確で柔軟な対応力の向上を図り、自然災害への対応について輸送の安全確保を図るものであり、防災の取組強化を促進する位置づけにある。
また、防災指針の上位概念にあたる「運輸事業者における安全管理の進め方に関するガイドライン(以下、ガイドライン)」では、『経営トップ』が主体的かつ積極的に関与し、強いリーダーシップを発揮することが極めて重要とされており、最初の項番にあたる「(1)経営トップの責務」の中に、2017年の改訂から『自然災害への対応』が明記されている。
さらに、近年の自然災害の頻発化・激甚化を受けて、2023年3月に「安全管理規程に係る報告徴収又は立入検査の実施(運輸安全マネジメント評価)に係る基本的な方針」が改正され、自然災害も輸送の安全を脅かす要因として捉え、防災・減災に向けた取組についても、継続的改善(PDCAサイクル)に繋げることの重要性が明記されており、『安全輸送』に加え『安定輸送』についても適切に対応することが求められている(図2-1)。


(国土交通省「運輸事業者における安全管理の進め方に関するガイドライン」より抜粋)
なお、運輸防災マネジメント指針を詳細に分かりやすく解説することで、更なる理解を促し、運輸事業者における運輸防災マネジメントの構築の一助となることを目的として「運輸防災マネジメント指針の解説(以下、解説)」を策定している。
まず、基本的な方針として運輸事業者に求められる自然災害対応では、「防災」と「事業継続」の2つが取組の柱になる。「防災」は、防災指針に記載の通り、利用者・荷主、運輸企業の社員、地方公営企業 や関係団体の職員の安全確保(人的被害の軽減)並びに建築物・設備・車両等の物的被 害の軽減が目的になり、「事業継続」は、災害発生時の安全の確認を行った上での業務活動の維持や早期回復を目指すことが目的となる。


この方針に則り、運輸事業者では非常時には、経営トップを本部長とする災害対策本部を設置する必要がある。また、平時には、経営トップおよび安全統括管理者の下、関係部署が連携し、事前の「備え」を分担して取り組む体制が求められる。
また、上記の体制構築に加えて、自然災害への事前の「備え」として主に以下の二つの取組が重要である。一つ目は、自然災害リスク評価である。防災、事業継続の目的のためには、被災・事業の継続が困難となる可能性がある自然災害の種類・規模の被害想定を行い、想定に応じた備えを図る必要がある。二つ目は、自然災害に対応するための事前準備である。特に重要な取組として「計画的装備」、「緊急連絡網の整備」、「防災マニュアルの整備」、「事業継続計画の策定」、「タイムラインの作成」が挙げられる。また、図2-3に例示するように「タイムラインの作成」は、時間軸に沿った行動を整理する際に有用である。


(運輸安全マネジメント普及・啓発推進協議会「防災マネジメントセミナー」より抜粋)
ガイドラインでは、事業者内部および取引先や旅客、荷主等との情報伝達およびコミュニケーションを重視している。なお、自然災害対応においては、上記に加え、地方自治体、国の行政機関、他の運輸事業者との連携関係を構築することが重要とされており、平時よりこれら関係機関と「顔の見える関係」を築くことを意識しなければならない(図2-4)。すなわち、平時の会議、訓練、協定、地域防災活動等を通じて、相互理解を深めておくことが望まれる。


(国土交通省「運輸防災セミナー(上期)「運輸防災マネジメントについて」」より抜粋)
自然災害対応の実効性向上には、「本社中心の企画立案要員」と「現業実施部門要員」を分けて教育・訓練計画を構築することが重要である。企画立案要員は、「防災マニュアル・手順書の確認」、「訓練」、「防災マニュアル・手順書の見直し」等を実施する必要がある。他方、現業実施部門では、簡潔で実践的なマニュアル整備に加え、人命最優先の行動原則を徹底し、日常業務と親和性の高い役割分担を行うことが有効である。加えて、経営トップ参加型訓練の実施、自治体・行政・他事業者との合同演習の企画、訓練直後のレビューを通じた改善が求められる。また、他社事例や過去災害の教訓を継続的に取り込むことが、運輸事業者の防災対応力強化の鍵となる。
災害予防としては、予測困難な地震や火山噴火から、一定程度予測可能な台風・集中豪雨等の風水害など自然災害の種別によって、実施すべき対応も異なる。近年、特に運輸事業に影響した災害としては、「地震」、「風水害」、「雪害」、「火山噴火」が挙げられ、それらの災害に対して被害を想定し対策を検討する必要がある。その際は、ハード、ソフトの両面での代替性の確保を意識することが重要である。ハード面では、多様なリスクに対して、組織の機能を維持できる業務拠点をあらかじめ設定・準備することが望まれる。一方、ソフト面では、従業員の移動手段の確保や代替輸送に関する協定の締結等が検討し得る。
防災指針の解説には、以上の4つのポイントをはじめとして運輸事業者が行うべき取組事例が、数多く公開されている。これらの取組は、「平時の準備」、「直前の準備(台風・豪雨等の予測可能な場合)」、「直後の応急(初動)」、「復旧(事業継続)」と段階別に整理することができる(表2-1)。運輸防災マネジメントにおいては、対応手順を定めるだけでなく、平時から災害発生後の復旧までの各段階に対し、組織全体で自然災害対応力を強化することが求められている。


※複数の段階にわたって実施する取組有り
(国土交通省「運輸防災マネジメント指針の解説」を基に代表的な取組をMS&ADインターリスク総研作成)
第1章(2)「令和8年熊本地震の被害状況」で示したとおり、令和8年熊本地震では、物流・流通・交通の広範な領域で被害および機能低下が発生した。以下では、各分野の被害状況を踏まえ、対応すべき課題とその対策の方向性について論じる。
貨物輸送では、宅配便や郵便物の引き受け停止、配達遅延、営業所での荷受け制限が発生した。被災県内向け、あるいは被災地を発着する貨物の受付が止まり、幹線輸送からラストワンマイルまで広く支障が生じた。平時に前提とされる定時配送が困難となったことに加えて、物資に関する需要と物流による供給の乖離が生じた。ここから、「安全な配送ルートの確保」と「荷主との調整」の重要性が改めて浮き彫りになった。
旅客輸送では、鉄道、路面電車、バス、航空機関連の運行(運航)見合わせが相次いだ。また、機材の安全点検を行うことにより、移動手段が一時的に制約された。旅客輸送は、災害時には地域内外を往来するための重要なインフラとなるため、「運行(運航)を継続できる体制の確保」と「早期に運行再開ができる体制構築」が課題となる。
自動車交通網では、高速道路を中心に複数区間で通行止めが発生し、一般道路でも安全確認や損傷点検に伴う交通障害が生じた。道路のネットワーク機能の低下は、救援物資輸送をはじめとして、貨物輸送、旅客輸送に関する全ての運輸事業の障害に直結する。そのため、「通行可否やう回路情報の発信」と「道路復旧と交通需要の調整計画の検討」が課題となる。
その他災害に関連する被害では、熱中症が疑われる災害関連死が確認された。夏季の発災では、被災者だけでなく、配送・荷役・復旧作業に従事する運輸事業者の乗務員、倉庫作業員、営業所従業員等も同様のリスクに直面している。そのため、水分・塩分補給、休憩場所の確保、空調設備の確保、作業継続時間の見直しなど、熱中症対策を防災計画に組み込む必要がある。
令和8年熊本地震で顕在化した課題の中には、今回の事例に固有のものではなく、近年の地震、豪雨、台風、大雪等の自然災害においても繰り返し確認されてきた課題がある。国土交通省が公表している「自然災害対応への取組事例一覧」や運輸防災マネジメントの関連資料等では、運輸事業者が災害対応力を高めるための具体的な事例が掲載されている。
貨物輸送で顕在化した「安全な配送ルートの確保」という課題に対しては、セールスドライバーからの報告事項や自治体の対策に基づき、災害発生箇所の運行経路の継続若しくは中止の判断や別の運行経路の選定等を行い、安全な配達ルートを確保する取組事例が掲載されている。また、「荷主との調整」という課題に対しては、過去の台風接近時、運行中のトラックが強風に煽られ転覆(横転)した事故事例の振り返りに基づき、平時から荷主と打ち合わせを行い、荷主の理解も得ながら、異常気象の際には運行の中止等を検討することにより、安全を最優先した運行計画を策定する取組事例が掲載されている。
次に、旅客輸送で顕在化した「運行(運航)を継続できる体制の確保」という課題に対しては、燃料不足による欠便の発生防止を目的とした自然災害発生時における燃料補充ルートの見直し事例が掲載されている。また、「早期に運行再開ができる体制構築」という課題に対しては、事務所が倒壊等により運行管理ができなくなった際に、バスの運行を継続するために必要な機能を装備している災害対応車両の導入事例が掲載されている(図3-1)。


(国土交通省「運輸防災セミナー(上期)「運輸防災マネジメントについて」」より抜粋)
自動車交通網から顕在化した「通行可否やう回路情報の発信」という課題に対しては、車両のプローブデータを活用した通行実績情報地図が公的機関や大手自動車会社から公開されている(図3-2)。なお、損害保険会社も「通行可能な道路」等を可視化したマップを公開しており、様々なチャネルを通じて最新情報を収集・活用することが望まれる。


(国土交通省「災害時の通行可能な道路の確保と情報の取扱」より抜粋)
また、「道路復旧と交通需要の調整計画の検討」という課題に対しては、国土交通省が主導して、地元を中心とした各建設協会や日本建設業連合会の応援を受け、発災直後から道路の緊急復旧に着手している。また、大学教授等の有識者による災害時交通マネジメント検討会を設置し、う回路情報の発信や交通状況の把握・渋滞に関するボトルネック箇所の分析が行われている。
令和8年熊本地震では、地震そのものによる被害に加え、季節要因を踏まえた災害対応の重要性が改めて示された。特に夏季の災害では、猛暑下での避難生活や屋外作業、車両待機に伴い、熱中症リスクの高まりが懸念される。
一方、2024年1月に発生した能登半島地震では、冬季の発災により、低体温症をはじめとする寒冷期特有の健康被害リスクが顕在化した。また、同年9月には、同地域において河川の計画規模を上回る観測史上1位の降雨が発生し、国土交通省が公表した「能登半島での地震・大雨を踏まえた水害・土砂災害対策のあり方について(提言)」によると「地震の発生後に大雨が降るなど、先発の自然災害の影響が残っている状態で、後発の自然災害が発生することで、単発の災害に比べて被害が拡大する複合災害は、能登半島特有なものではなく、全国で同様に発生する可能性がある。」と今後全国的に発生しうるリスクに言及している。
また、直近の自然災害でも、2026年(令和8年)8月には千葉県や石川県・富山県を中心とした豪雨が発生し、道路の排水能力を超える冠水や河川の氾濫などにより、人的被害および建物被害が生じている。これは、令和8年熊本地震の発災から1か月以内に発生した事象になるが、発生地域が近い場合、複合災害となる可能性があった。
以上のように、猛暑期や寒冷期の自然災害については、種別の異なる他の災害が連続して発生する「複合災害リスク」による影響も視野に入れて、防災計画を検討しておく必要があると考えられる。運輸事業者においては、乗務員、倉庫作業員、営業所従業員等の業務種別に応じたリスクを踏まえ、物資の確保、施設の整備等を考慮していかなければならない。
前章までに、我が国における自然災害の頻発・激甚化の状況や、防災指針の考え方、さらに令和8年熊本地震において顕在化した物流・交通面の課題について整理した。これらを踏まえ、以下では、大規模災害時に運輸事業者に求められる役割と、今後の防災対策の方向性について改めて検討する。
大規模な自然災害への対応として、運輸事業者は、「防災」と「事業継続」の2つの柱をもとに防災マネジメントを実施し、発災時においての被害軽減・拡大防止を図るとともに、業務活動の維持や早期回復を図ることが期待されている。
また、運輸事業者のみならず、国、地方自治体、道路管理者、業界団体、荷主、地域住民等が、相互に連携することが重要である。発災時には、この相互連携が大きな力を発揮するが、それぞれの役割・連携を実効性あるものとするためには、平時からの「顔の見える関係」の構築が求められる。さらに、2026年度には、徹底した事前防災、発災時から復旧・復興までの一貫した災害対応の司令塔となる組織として防災庁が設置予定であることから、今後、運輸事業者としては、同庁から提供される最新情報を逐次取得・確認していく必要がある。
能登半島地震や令和8年熊本地震の事例からは、災害対応においては災害種別のみならず、発災した季節や気象条件を踏まえた備えが不可欠であることが示された。とりわけ、猛暑期・寒冷期における避難環境の確保や、地震と豪雨等の複合災害を想定した体制の整備など、発災時期を考慮できる柔軟性のある防災計画の検討が求められる。さらに、運輸安全マネジメントで重視される継続的改善の考え方を適用し、PDCAサイクルに基づく不断の見直しと改善を進めることが肝要となる。
また、熊本県では2016年と2026年に大規模地震が発生しており、現地の運輸事業者においては、過去の被災経験や防災指針を踏まえた自然災害への対応が進められている。今後も、全国において、防災指針や各種解説、取組事例、過去の教訓を活用しつつ、運輸事業者に求められる取組をできるところから計画的に推進していくことが重要である。
【参考文献】
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SSBJ基準簡易ギャップ分析/勉強会
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グローバル・ネイチャーポジティブ・サミット(GNPS)2026熊本 参加レポート|2030年に向けた最新議論を振り返る
「ネイチャーポジティブ」とは、単に自然環境の破壊を防ぐだけでなく、失われた自然や生物多様性を積極的に回復し、より豊かな状態へと導くという新しい考え方です。これまでの環境保護は「これ以上悪くしない(ネイチャーネガティブ)」ことが主な目標でしたが、ネイチャーポジティブは「元に戻す」「さらに良くする」ことを目指しています。
この言葉が世界的に注目されるようになった背景には、地球規模で進む生物多様性の危機があります。国連の報告によると、現在、100万種もの動植物が絶滅の危機に瀕しており、その原因は、森林伐採や環境汚染といった人間活動が影響しているとされています。従来の“守るだけ”の対策ではこの流れを止めることができず、より積極的な「回復」や「再生」への転換が求められているのです。
このネイチャーポジティブに向けて、27の国と地域から企業、金融機関、自治体、研究者、市民社会のリーダーが集まり、2026年7月14日と15日の2日間にわたって開かれた国際会議が「グローバル・ネイチャーポジティブ・サミット(GNPS)2026」です。


サミットは、2030年までに自然の損失を止め、回復へと転じるという目標を掲げ、2022年に196か国が合意した生物多様性枠組み(GBF)の実施を加速することに焦点を当てて開催されました。
今年2026年10月には、アルメニア・エレバンで国連生物多様性条約第17回締約国会議(COP17)が開催されることもあり、ネイチャーポジティブの使命に貢献する民間の取り組みや成果を世界に向けて発信・共有することを目指しています。
サミットでは数々のパネルディスカッション、分科会、サイドイベントなどが行われましたが、その中から日本の企業の皆さまの参考になると感じた一部のパネルディスカッションの内容を紹介します。
はじめに紹介するのは、「ネイチャーポジティブの社会・経済的意義」と題されたパネルディスカッションで、以下の方々が登壇しました。
| 登壇者 | 所属・役職 |
|---|---|
| マーク・ゴフ 氏 ※モデレーター | 資本連合CEO |
| 大西 一史 氏 | 熊本市長 |
| 笠原 慶久 氏 | 肥後銀行 代表取締役頭取 |
| 舩曵 真一郎 氏 | MS&ADインシュアランス グループ ホールディングス 取締役社長 グループCEO |
| 浅木 純 氏 | サントリーホールディングス 常務執行役員 サステナビリティ経営推進本部長 |
| グレーテル・アギラー 氏 | 国際自然保護連合(IUCN) 事務局長 |
IUCNのアギラー事務局長は、生物多様性の損失は人々のウェルビーイングや企業活動にも直結する課題であり、企業・行政・金融機関・研究機関など多様な主体が連携して取り組む必要があると強調しました。また、日本はTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)への対応や里山の取り組みなど、世界をリードする存在として期待されていると言及しました。
また、熊本市の大西市長や、サントリーホールディングスの浅木氏、肥後銀行の笠原氏らからは大学、企業、金融機関の6組織が連携した「熊本ウォーターポジティブ・アクション」※1などの取り組みが紹介され、自然への投資はコストではなく、事業基盤の強化やブランド価値の向上につながる投資であるという考え方などが共有されました。
その上で登壇者からは、ネイチャーポジティブを社会に広げるためには、ルールづくりだけでなく、自然への投資を後押しするインセンティブや、多様な主体による連携を加速させることが重要であるとの認識が強調されました。
※1 熊本ウォーターポジティブ・アクションは、公立大学法人 熊本県立大学、 国立大学法人 熊本大学、 株式会社肥後銀行、サントリーホールディングス株式会社、 株式会社日本政策投資銀行、MS&ADインシュアランス グループホールディングス株式会社が協働して、2025年に始動。
続いて紹介するのは「ネイチャーポジティブにおける企業の役割」と題したパネルディスカッションで、以下の方々が登壇しました。
| 登壇者 | 所属・役職 |
|---|---|
| パラヴィ・カリタ 氏 ※モデレーター | ビジネス・フォー・ネイチャー アジア・リード |
| 北林 太郎 氏 | 農林中央金庫 代表理事 理事長 |
| 光吉 敏郎 氏 | 住友林業 代表取締役 社長 |
| 伊藤 順朗 氏 | セブン&アイ・ホールディングス 代表取締役 会長 |
| エスター・アン 氏 | シティ・デベロップメンツCSO |
| デイブ・ハリス 氏 | オーストラリア・アグリカルチャーカンパニー マネージングディレクター兼CEO |
ディスカッションの中で共通認識として示されたのは、ネイチャーポジティブは一部の環境部門だけが取り組むテーマではなく、企業経営やバリューチェーン全体で取り組むべき課題であるという点です。
この中で住友林業の光吉社長は、森林の保全に加えて木造建築を建てる際に出る廃材を木質バイオマスとして活用した発電やSAF(持続可能な航空燃料)の生産まで行う「ウッドサイクル」を紹介し、経済価値と自然資本を両立させるビジネスモデルを紹介しました。
また農林中央金庫の北林理事長も、農林水産業の加工・流通・販売から金融までを一つのエコシステムとして捉えることでバリューチェーンでの移行をサポートしていることや、森林由来のクレジット創出などを通じて自然の価値を経済価値へ転換する取り組みなどを紹介しました。
このほか、セブン&アイ・ホールディングスの伊藤会長は、小売業として消費者との接点を生かし社会の変化を目指していることや、持続可能な調達や地産地消などの取り組みを展開していることに触れ、生産者や取引先との協業の重要性を強調しました。
企業単独ではなく、多様なステークホルダーとの連携によってバリューチェーン全体を変えていくことが、ネイチャーポジティブ実現の鍵であることが示されたセッションでした。
最後に紹介するのは、「ネイチャーポジティブをどう測るか?」をテーマとしたパネルディスカッションで、以下の方々が登壇しました。
| 登壇者 | 所属・役職 |
|---|---|
| ギャビン・エドワーズ 氏 ※モデレーター | ネイチャーポジティブ・イニシアティブ エグゼクティブディレクター |
| 大島 健太 氏 | キリンホールディングス CSV戦略部 部長 |
| 井阪 由紀 氏 | 積水ハウス 業務役員/環境推進部長 |
| ヤナ・ゲヴォルギャン 氏 | 地球観測に関する政府間会合(GEO)事務局 コンビーナー兼ディレクター |
| ジョー・ミラー 氏 | 地球規模生物多様性情報機構(GBIF) 事務局長 |
| グラジエレ・パレンチ 氏 | ヴァーレ サステナビリティ担当エグゼクティブヴァイスプレジデント |
この中では、ネイチャーポジティブを企業経営に組み込むために、いかに共通指標やデータ基盤を整備していくかが議論されました。
冒頭で、ネイチャーポジティブ・イニシアティブ(NPI)※2の取り組みについて、現在、世界共通の自然の状態フレームワークとして「自然の状態(State of Nature)」の指標(以下、SoN指標)開発が進められており、「生態系の範囲」「生態系の状態」「種の絶滅リスク」「種の個体総数」の4つの指標が盛り込まれる予定であること、世界の企業がパイロットプログラム に参加※3したことなどが紹介されました。
※2 自然保護団体、研究機関、企業、金融連合など27団体が参画しており、ネイチャーポジティブの定義を含め、ネイチャーポジティブの実現に向けて必要なツールとガイダンスを提供することを目的とした団体。
※3 日本企業ではキリンホールディングス、王子ホールディングス、MS&ADインシュアランスグループホールディングスが参加。
企業側からは、キリンホールディングスの大島氏が、TNFDなどの枠組みを活用し、原料調達まで含めたバリューチェーン全体で自然関連のリスクと機会の把握を進めていることや、NPIのパイロットプログラムへの参加事例を紹介。
積水ハウスの井阪氏も、サプライチェーンでの影響評価に加え、「5本の樹」計画※4を通じて、自然へのポジティブな成果を定量的に評価する取り組みを紹介しました。
※4 「5本の樹」計画は、 “3本は鳥のため、2本は蝶のために、地域の在来樹種を” という思いを込め、 その地域の気候風土・鳥や蝶などと相性の良い在来樹種を中心とした植栽にこだわった庭づくり・まちづくりの提案(引用元:積水ハウスの「5本の樹」計画Webサイトより)
セッションの中では、ネイチャーポジティブの測定指標は、科学的な正確性だけでなく、企業のガバナンスやリスク管理、経営判断に活用できるシンプルさや比較可能性も重要であるとの考えが強調され、データ共有と共通指標の整備がネイチャーポジティブを加速させる鍵になるとの認識が共有されました。
今回のサミットでは、ネイチャーポジティブの考え方を社会全体で実現するための具体的な議論が交わされました。
サミットを通じて、ネイチャーポジティブは単なる理念ではなく、企業の事業の継続性や、競争力を左右する経営アジェンダであることを体感しました。ネイチャーポジティブの実現に向けては、バリューチェーンや地域の各主体との連携による取り組みの実装や、共通の指標や手法による自然の状態やインパクトの可視化・定量化が特に重要です。
今後はTNFDやSoN指標などの国際的な枠組みの活用がいっそう進むとともに、企業においては、自然への依存・インパクト、リスク・機会を把握したうえで、それらを経営や事業戦略へ組み込むことが、これまで以上に求められていくことになると考えられます。
2030年のネイチャーポジティブ実現まで残された時間は多くありません。今回のサミットで示されたように、多様なステークホルダーによる連携と、科学的根拠に基づく取り組みを着実に積み重ねていくことが、その実現に向けた大きな一歩になると感じました。
MS&ADインターリスク総研では今回のグローバル・ネイチャーポジティブ・サミット(GNPS)2026の会場でブースを出展し、企業の皆さまの自然関連課題への対応に資する、様々なサービスを紹介しました。

当社では、TNFDフレームワークなどを踏まえ、以下のような自然関連の支援メニューをご提供しています。
貴社の悩みに応じた支援をご案内しますので、お気軽にご相談ください。
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AI普及下におけるサステナビリティ実践への示唆~Trellis Impact 26での議論を踏まえて~【サステナブル経営レポート(2026年9月)】
2026年6月、米国・サンフランシスコにおいて、サステナビリティ領域の国際イベント「Trellis Impact 26※1(以降、本イベント)」が開催された。本イベントは、企業のサステナビリティに関する情報メディアであるTrellis Group※2が主催しており、サステナブルなビジネスを実現するイノベーションを生むためのアイデアを共有する場として企画された。今年は「AI×Sustainability」「Close the Loop」「Draw Down Carbon」「Power the Future」をテーマとして掲げ、個社が実務レベルで資源循環、カーボンオフセット、省エネルギーに取り組むことに貢献できる技術・ツールやその実装事例が紹介され、実装の意義や課題感についての意見交換が行われた。
登壇者・参加者としては、Amazon、Google、Meta、Microsoftなど、米国企業の参加が中心であったが、欧州・豪州・日本からも参加者が集まっていた。参加者の業種としては、SaaSサービスを提供する企業、リサイクル技術を有する企業、研究者が多い印象を受けた。
特に印象的であったのは、サステナビリティ課題を個別に扱うのではなく、AI、エネルギー、水、資源、地域コミュニティ、自然資本といった論点を相互に関連する経営課題としてとらえる姿勢である。例えば、AIの普及は省力化・高度化といった便益をもたらす一方で、データセンターの電力需要や水使用量を押し上げる。資源循環の推進は、廃棄物削減に資する一方で、品質確保や回収インフラ、トレーサビリティの整備が不可欠となる。こうした「便益と負荷の両面」を踏まえた議論が多く見られた。
日本企業においても、気候変動、自然資本、資源循環に関する情報開示の要請は高まり続けている。しかし、開示対応が先行し、実際に自社の事業構造をどのように変えるか、どの技術をどのタイミングで取り込むかという検討は、必ずしも十分に進んでいないケースも見受けられる。
そこで本稿では、Trellis Impact 26で議論された内容を基に、特に日本企業のサステナビリティ担当者にとって示唆の大きい論点として、①データセンター建設・運用とサステナビリティ、②資源循環を加速する技術と実装に向けた課題、③二酸化炭素除去(CDR:Carbon Dioxide Removal)と自然関連ソリューション、④スタートアップと投資動向の点から整理する。



※1)Trellis Impact 26 webページ https://trellis.net/events/trellis-impact/
※2)Trellis Group webページ https://trellis.net/
本イベントで最も象徴的であった論点の一つが、AI普及を背景に増加しているデータセンターの建設・運用におけるサステナビリティ実現のあり方である。AIの利活用拡大は、業務効率化や新たなサービス創出の観点から強い期待を集めているが、その裏側では大量の演算処理を支えるデータセンターの使用電力量・水使用量・土地占有面積やそれらを通じた地域コミュニティとのあつれきが問題視されている。
本イベント1日目の基調講演では、「持続可能なデータセンターのあり方」としてデータセンター建設・運用により生じるサステナビリティ課題について、異なる立場の登壇者が順に登場し、①全体的な社会課題としての視点、②地域コミュニティの視点、③事業者の視点、④エネルギー供給者の視点、⑤投資家の視点、というそれぞれの視点で話題提供・議論が行われた。この基調講演では、いわゆる環境負荷として設備効率や省エネを語っているのではなく、社会的受容性を含む複合課題であることを強く意識するきっかけとなった。
まず、全体的な社会課題として指摘されていたのは、データセンターの運用が大量の電力と水を消費する点である。特に電力については、サーバーの稼働に加えて冷却のためにも大きなエネルギーが必要となる。AI利用の拡大により、この需要が一段と増すことが見込まれており、大規模なデータセンターでは、地域の電力インフラ容量を超過する恐れも指摘されていた。特に、再生可能エネルギーの導入が進んでいない地域では、AIの拡大が結果として化石燃料由来電力への依存を高める可能性もある。
次に、地域コミュニティの視点では、データセンター建設が地域に何をもたらすのかが問われていた。本イベントでは、米国内の広大な土地や農地がデータセンター用地に転換される事例が紹介され、地域の雇用や税収、インフラ整備といった便益がある一方で、水使用、景観変化、土地利用転換、既存産業との競合といった懸念も共有された。
データセンター事業者の視点からは、水循環への配慮やゼロカーボン電力の調達、建設時の低炭素資材活用などが紹介された。同社の取り組みからは、データセンター運用における環境負荷低減はもとより、建設段階も含めたライフサイクル全体で環境負荷を抑えることに視点が広がりつつあることを示している。特に、低炭素コンクリートやグリーンスチールといった建設資材への言及は、データセンター問題が建設・不動産・素材産業にも波及することを示唆している。
また、エネルギー供給側からは、地熱発電など新たな電源の可能性が紹介されていた。AIの拡大は、単に既存電源を取り合うのではなく、新たなクリーン電源投資を促す契機にもなりうる。ただし、その実現には長期契約や系統接続、地域合意形成など多くの条件整備が必要であると説明された。
さらに投資家の視点では、データセンター事業における水・エネルギー・地域コミュニティとの関係を、事業者と投資家の間での重要なエンゲージメントテーマとしてとらえていることが示された。今後は、AI関連企業やデータセンター事業者に対し、気候関連開示だけでなく、水使用や地域影響、移行計画の説明を求める動きが強まる可能性がある。
今後、AI活用はほぼすべての産業に広がると考えられる。その際に重要なのは、「AIを使うか否か」ではなく、「どのような条件で、どのようなインフラの上でAIを使うか」を経営上の論点としてとらえることである。


Trellis Impact 26での基調講演の内容を基に、MS&ADインターリスク総研が作成
資源循環に関する議論も、本イベントの大きな柱であった。特に電子機器、プラスチック、繊維をめぐっては、リサイクルや再利用を単独の施策としてとらえるのではなく、製品設計、回収、再資源化、再販市場形成まで含めた仕組み全体の再設計が必要であるという認識が共有されていた。
電子製品のリサイクルに関するセッションでは、第三者認証であるEPEAT※3や、Circular Electronics Partnership※4によるサーキュラー電子製品設計ガイドが紹介された。電子機器のリサイクル推進におけるポイントとして、製品の性能や安全性を損なわずに、解体しやすさ、部品交換のしやすさ、再生材利用の可能性などをあらかじめ設計段階から織り込む必要があるという点が協調されていた。
また、循環性向上の取り組みは、バリューチェーンのどの段階で何を行うかを分解して考える必要があるという指摘もあった。たとえば回収率向上は小売や回収拠点での周知やインセンティブ付与等の施策に関係し、廃棄物削減は製造工程や組立工程の改善に関係する。すなわち、「資源循環」は一つの部署だけで完結するテーマではなく、設計、調達、生産、物流、販売、回収の横断的な連携が前提となる。
繊維に関する議論においても、製品品質や耐久性と再生材活用の両立が課題の一つとして挙げられていた。加えて、中古繊維市場や回収インフラが未成熟であることが課題として挙げられていた。
プラスチック分野では、使用済みプラスチックを分解して生物が処理可能なレベルまで変換する技術も紹介された。こうした技術は有望である一方、導入コスト、処理能力、対象樹脂の範囲、副生成物管理など、実装上の検討事項も多い。したがって、技術の存在のみで判断するのではなく、自社の廃棄物の特性や回収可能性、既存設備との適合性を踏まえた評価が必要となる。
さらに印象的であったのは、廃棄物を「見えないもの」から「追跡可能な資源」へ変える発想である。2日目の基調講演では、使用済み資源の残存価値を分析し、廃棄前に回収・再利用を促す技術が紹介された。地政学リスクや資源価格変動が高まる中、二次資源の確保は調達安定化の観点でも重要性が増している。回収・再利用を行う素地が整っていない企業にとっては、まずは回収・再利用が廃棄よりも経済的にメリットがあるのかを可視化する取り組みから始めることは有用ではないだろうか。
資源循環は、目標設定だけでは進まない。実際に素材を回収し、品質を担保し、再投入する市場とオペレーションを作り込む必要がある。本イベントでの議論は、企業に対し「循環経済への移行は情報開示ではなく事業設計の問題である」と強く示していたといえる。
※3)EPEAT:Global Electronics Councilが運用するサステナブルな電子製品の認証制度 https://www.epeat.net/about-epeat
※4)パートナーとしてWBCSDやGECなどが参画しており、メンバーとしてはGoogle,Amazon,HP,Lenovoなどの企業が参画している国際的な団体
脱炭素に関する議論の中では、排出削減に加え、二酸化炭素除去(CDR:Carbon Dioxide Removal)への関心の高まりが明確に見られた。CDRとは、大気中の二酸化炭素を除去し、長期間にわたって貯留する取り組みを指す※5。CDRを可能にする技術を「ネガティブエミッション技術(NETs:Negative Emission Technologies)」と呼ぶが、この技術は大きく分けて二つに分類される。一つが、森林等を活用した自然ベースの手法である。もう一つが、DAC(Direct Air Capture:大気中の CO2を直接回収する技術)などの工学的手法がある※5。企業は、自社のカーボンネガティブの目標達成の手段としてCDRプロジェクトにより創出されたカーボンクレジットを購入し、ポートフォリオを構築する。例えば、Microsoft社は、2030年カーボンネガティブ目標※6を掲げて、10種類計60件のCDRプロジェクトからカーボンクレジットを調達しており、2026年時点で合計7,800万tのカーボンクレジットを購入した※7。
本イベントでは、どのように適切なCDRポートフォリオを構築するかが議論されていた。単一のプロジェクト実施者からカーボンクレジットを調達することは脆弱性が高いとされており、誰から、どのような条件で、どの期間にわたり調達するかというポートフォリオ設計の考え方や実践例が共有された。
CDRポートフォリオに関する議論の中で、特に多く言及されていたのが「オフテイク契約」である。オフテイク契約とは、将来生み出されうるカーボン除去量をあらかじめ買い取る契約のことであり、供給者側にとっては事業化の資金的裏付けとなり、需要者側にとっては将来の供給確保につながる。CDRの分野では、技術やプロジェクトがまだ立ち上がり段階にあるものも多く、長期契約を通じて市場形成を支える発想が重視されていた。
また、CDRポートフォリオに「自然を活用した解決策(NbS:Nature-based Solutions)」を含むべきとの議論も目立っていた。プロジェクト創出を通じたコベネフィットやプロジェクトのストーリー性を重視して関心を寄せる意見が挙がっていた。
他方で、CDRポートフォリオを構築することは、実装上の課題も多い。第一に、高品質なカーボンクレジットの流通量がまだ限られている点である。クレジット購入者側がスタートアップ企業に積極的に投資や技術的支援を行うなど、CDRの取り組みを推進していく働きかけが必要とされている。第二に、物理的距離や地域性の問題である。自社拠点から遠く離れた地域のプロジェクトに依存することが、自社のリスク管理やステークホルダー説明の観点で適切かどうかは慎重な検討が必要である。第三に、コベネフィットの評価である。単なる炭素量だけでなく、生物多様性、水資源、地域雇用等への影響をどう測るかが重要となる。
こうした議論からは、CDR由来のカーボンクレジットを購入することをポートフォリオ構築ととらえ、地域との関係構築や長期戦略として扱っていることがわかる。日本企業にとっても、「どのような戦略に基づき、どのような品質管理と関係構築の下でCDRを活用しているか」が問われるようになるだろう。
※5)経済産業省,ネガティブエミッション市場創出に向けた検討会とりまとめ https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/negative_emission/pdf/20230628_1.pdf
※6)Microsoft Carbon dioxide removal https://www.microsoft.com/en-us/corporate-responsibility/sustainability/carbon-removal-program?msockid=27a037cb10cd6e122857206811866f21
※7)Updating our Carbon Removal Portfolio https://cdn-dynmedia-1.microsoft.com/is/content/microsoftcorp/microsoft/msc/documents/presentations/CSR/Updating-our-Carbon-Removal-Portfolio.pdf
本イベントでは、スタートアップピッチや投資家によるセッションも開催され、気候テックや資源循環テック市場の動向が共有された。ここで見えてきたのは、サステナビリティ課題の解決には技術革新が不可欠である一方、優れた技術があるだけでは市場実装に至らないという現実である。
スタートアップ企業の発表では、低コスト風力発電技術、使用済みプラスチックの分解技術、湿度と冷気を分離する省エネ空調技術などが紹介された。いずれも、既存技術の制約を乗り越える可能性を持つものとして注目されたが、同時に、量産化、設置先の確保、コスト競争力、規制適合、資金調達といった課題を乗り越える必要がある。
投資家の議論で印象的であったのは、事業拡大の各段階に応じた資金供給の設計である。特に、「最初のもの(FOAK:First of a Kind)」から事業を拡大していく過程では、研究開発資金、実証資金、工場建設資金、量産資金など、必要な資金の性格が大きく異なる。そのため、単一の投資ではなく、段階ごとに異なるリスク許容度を持つ資金を組み合わせる必要があるという説明がなされていた。
| 企業名 | 拠点 | 概要 |
|---|---|---|
| AIRLOOM※8 | 米国 ワイオミング州 | 低コストな発電技術を有する会社で、大規模な土地改変を必要とせず、風が弱い場所でも設置が可能な風力発電技術を開発している。2027年商用デモ化を目指しており、2030年にはSOM※9:260億ドルが期待できるとしている。 |
| SmartPlastic※10 | 米国 イリノイ州、 テネシー州 | ECLIPSEというプラスチックを生物が分解可能なレベルの物質に処理する技術を開発しているスタートアップ企業である。同社の技術は、使用済みのプラスチック製品について、UV、熱、蒸気などを用いてポリマーの結合を分解し、最終的には微生物によって水・CO2・有機物に分解するものである。 |
| Helix Earth※11 | 米国 テキサス州 | 宇宙船の技術を応用した空調技術を開発している。既存のエアコンは外気の湿度も室内に取り込んでしまうことで除湿のためにもエネルギーを使用するが、同社の技術では、湿度を空調機にて切り分けたうえで冷気のみが室内に取り込まれる仕組みとなっている。そのため、コンプレッサーが長持ちするようになり、光熱費の削減にもつながる技術としている。現状のマーケットサイズでSOM:11億ドルに及ぶとしており、将来的にもさらなる事業規模拡大が見込まれている。 |
| BUCKSTOP※12 | 米国 ワシントン州 | 使用済み資源の残存価値分析を行う技術を開発している。現代社会において、資源の産出国が海外に依存していると、輸出規制などによって資源を調達できなくなるリスクが見込まれる。そのため、電子部品に含まれる金属資源を再利用することがリスク回避の観点で需要が高まると考えることができる。こうした背景を踏まえ、同社は、廃棄される前に使用済み資源の残存価値を評価し、回収・再利用することを促すシステムを開発した。 |
特に、サステナビリティの実現においてテックによる革新が求められる領域としては、製品品質との両立への期待が挙げられた。環境負荷の低い素材や再生材を使いたくても、耐久性、安全性、顧客要求を満たせなければ採用は進まない。したがって、技術導入はサステナビリティ部門だけでなく、研究開発、品質保証、営業等を巻き込む必要があるとの指摘があった。商品として消費者が魅力的に感じることができ、かつ環境負荷も低減できる技術開発が進むことへ期待が寄せられている。
テックへの期待が寄せられる一方で、改めて「人と人」の関係を重視する声も多く挙げられた。CDRプロジェクトや新規インフラ整備は、結局のところ技術的合理性だけでは前に進まず、地域への便益や納得感をどう生むかが重要である。中古市場も「人と人」の関係で市場が成立しており、リサイクルの推進においては既存の人間関係を読み解きながら突破口を探る必要がある。
こうした議論からは、スタートアップとの協業を通じて技術開発を着実に進める重要性とともに、自社としてステークホルダーとのコミュニケーションや製品品質の向上との両立といった観点でも取り組みを推進する両輪が必要との示唆が得られる。
※8)AIRLLOM社 webページ https://www.airloom.energy/
※9)TAM:ある事業が獲得できる可能性のある全体の市場規模、SAM:ある事業が獲得しうる最大の市場規模、SOM:ある事業が実際にアプローチできる顧客の市場規模
※10)Smart Plastic社 webページ https://changetheplastic.com/
※11)Herix Earth社 webページ https://helixearth.com/
※12)BUCKSTOP社 webページ https://www.buckstop.com/about-buckstop
本稿では、Trellis Impact 26の議論を①データセンター建設・運用とサステナビリティ、②資源循環を加速する技術・ツールと実装に向けた課題、③二酸化炭素除去(CDR)と自然関連ソリューション、④スタートアップと投資動向の観点で整理した。最後に、全体を通じて日本企業のサステナビリティ経営に対する示唆を三つに整理した。
第一に、サステナビリティを「開示」から「事業変革」へと移す必要があることである。現在、日本企業の多くでは、TCFD、TNFD、CDP等への対応が進んでいる。一方で、その対応が情報整理や文章作成に偏り、自社の事業構造や投資判断、製品設計、サプライチェーン運営の変革にまで十分につながっていない場合もある。本イベントでは、個別技術・ツールの共有の場でありながらもいかに事業構造に変化を起こすかが中心テーマとなっていた。既存のビジネスモデルでは本イベントで共有されていた技術も十分に機能しないと考えられる。今後は、開示項目に何を書くかだけでなく、自社の事業をどう変えるかを起点に議論することが重要になる。
第二に、AI活用による技術の発展と、その裏で起きている環境負荷・地域社会への影響を「統合」してとらえる必要があることである。AI活用はサステナビリティ推進においても、データ蓄積や効率化の観点で重要だ。しかし、その裏側でデータセンターの建設・運用は、電力使用、水使用、建設資材使用、土地利用などを通じて環境・地域社会への負荷が発生する。サステナビリティ推進のためと思って取り組んでいたことが、トータルで見ると環境・地域社会へ負荷を与えているという事態が起こるかもしれない。CDRの取り組みも、環境・社会へのコベネフィットを創出するようなストーリー性のあるプロジェクトへの投資に関心が寄せられている。資源循環においては、製品品質と再生材の活用の両立がハードルとして挙げられている。事業・環境・社会のトレードオフを回避し、シナジーを創出できるよう統合的な視点でのマネジメントが強く求められる。
第三に、「技術」に対する目利き力と、実装まで「伴走」する姿勢が必要であることである。サステナビリティ経営を実現するためには、リサイクル技術、設備効率、センサー、シミュレーション等様々な領域において新しい技術が社会に浸透していくことが欠かせないだろう。新技術は、自社内から誕生することももちろん考えられるが、スタートアップ企業が有する技術が大きなイノベーションを生むかもしれない。一方で、製造技術に関する領域などでは、ラボでの実証から実工場での実証の段階で大きな資金ギャップが生じる。根本のビジネスモデルを変革しうる技術を自社で定義し、関連技術を有するスタートアップ企業を発掘し実装まで伴走することは、企業にとって事業成長とサステナビリティの両立において有用だろう。
日本企業においては、「課題を認識しているが、どこから手をつければよいか分からない」という状況が少なくない。その場合、いきなり全社最適を目指すのではなく、まずは自社にとって影響の大きい論点から着手することが現実的である。たとえば、AI利用の拡大が進む企業であればデジタル基盤の環境負荷を確認する、素材利用の多い企業であれば再資源化可能性や回収スキームを検討する、自然依存度の高い企業であれば水や土地利用の観点からリスクを再評価する、といった進め方が考えられる。
今後、日本企業が国際的な競争力を維持しつつサステナビリティ課題に対応していくためには、情報開示の精緻化に加えて、事業・技術・地域との関係を見直す戦略的・実践的な取り組みが不可欠である。情報開示や規制対応の枠に縛られるサステナビリティ対応から、新技術を発掘し、より魅力的なサービス・商品を提供するための経営戦略としてサステナビリティが位置付けられることを期待したい。
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健康経営優良法人2027 ~認定制度の変更点と今後の方向性~ 【人的資本・健康経営インフォメーション(2026年9月)】
2026年8月17日より健康経営優良法人2027の申請が開始された。前回の健康経営優良法人2026において大規模法人部門3,761社、中小規模法人部門23,077社が認定され(2026年5月12日時点)、制度開始以降、申請企業数・認定企業数ともに右肩上がりで増加している。大規模法人では、既に対象企業の約1/3が認定を受けており、今後もさらに認定企業は増加することが見込まれ、より健康経営の取り組みが一般化することが予想される。
一方で、中小規模法人では、認定企業数自体は増えているものの対象企業数に対する割合でみると1%にも達していない。経済産業省および認定事務局では、①インセンティブ等による動機づくり、②中小企業向けのメリットや取り組みの情報発信、③経営支援機関等との連携によるサポート体制の整備を軸に、新たに健康経営に着手する法人の裾野拡大に向け取り組んでいく方針としている。
また、健康経営優良法人認定の設問(アンケート項目含む)においては、扱われるテーマが多岐にわたり、求められるレベルの高度化も進んでいる。テーマについては、新たな法制度や中長期的な政策の方向性が反映されることが多く、特に大規模法人部門ではその傾向が強い。
さらに、経済産業省は、健康経営が資本市場等において適切に評価される環境整備を進めており、企業による情報開示の充実・標準化も重要な政策課題として位置付けている。こうした中、今年度、健康経営に関する情報開示の指針(仮称)の策定を進めており、次年度以降の設問に反映される可能性も高い。
今年度のスケジュールは概ね昨年度と変わりない。8月17日(月)に「健康経営優良法人2027」の申請が開始され、大規模法人部門は2026年10月9日(金)17時、中小規模法人部門は2026年10月16日(金)17時が締め切りとなる。
今年度も認定申請料の変更はなく、大規模法人部門は税込88,000円(グループ会社との合算で申請する場合は、1法人あたり税込16,500円を加算)、中小規模法人部門は税込16,500円となる。なお、大規模法人部門においては、認定審査を受けず、健康経営度調査票に回答するだけでも、評価や順位を記したフィードバックシートを受領することができる(その場合、認定申請料は不要)。
健康経営銘柄に継続的に選定されている企業をさらに評価・ブランド化する仕組みとして、「健康経営銘柄Premier(プレミア)」が新設された。健康経営銘柄に複数回選定されるなど、長期間にわたり高い水準で健康経営を実践してきた企業を評価することで、健康経営の質のさらなる向上を促すことを目的としている。また、新たなロゴやPR資材、優先的な事例紹介等を通じて、他企業のロールモデルとなる取り組みを社会へ発信することを想定している。
選定要件は、①健康経営銘柄に通算10回以上選定、②当該年度も健康経営銘柄に選定、③地域や取引先企業等への健康経営の普及活動を実施していることの3点である。次年度以降は、ホワイト500の認定継続を条件として「Premier」の称号を維持できる仕組みとなっている。
政策的に企業の取り組みを促進したいテーマについて、先進的・実効的な取り組みを行う企業を選定し、「テーマ別ベストプラクティス」として公表する仕組みが新設された。対象テーマは、①女性の健康保持・増進、②仕事と介護・治療・子育ての両立支援、③睡眠の質向上、④高年齢従業員に配慮した健康づくり・職場環境整備、⑤その他の5つである。大規模法人部門から10社、中小規模法人部門から40社の選定が予定されており、当該法人の優れた取り組みの発信を通じ、他企業への波及効果が期待される。
なお、テーマ別ベストプラクティス選定へのエントリーを申し込む設問は各部門のアンケート項目に設定されており、優良法人認定や銘柄・ホワイト500等の選定には影響しない。この仕組みは、総合評価かつ画一的な基準で運営される認定制度とは対照的に、企業独自の取り組みを評価しようという議論を背景に生まれたものであり、多くの企業の積極的な挑戦が期待される。
従来、評価項目「適切な働き方の実現」の取り組みとして、「労働時間の適正化」「休暇の取得促進」「柔軟な働き方の実現」が設定されていたが、「休暇の取得促進」「柔軟な働き方の実現」を問う設問が、評価項目「ワークライフバランスの実現に向けた取り組み」として再構成された。
また、「労働時間の適正化」は評価項目「長時間労働者に対する取り組み」とあわせて、評価項目「長時間労働の予防と事後対応」として整理された。大規模法人部門では、「労働時間の適正化」(予防)と「長時間労働者への取り組み」(事後対応)の双方を実施することで適合となる。一方、中小規模法人部門では、今年度はいずれか一方への取り組みにより適合となるが、次年度は双方への取り組みが求められる予定である。
優良法人の認定要件に大きな変更はなく、必須項目・選択項目(17項目中14項目の適合が必要)ともに昨年度通りである。一方、ホワイト500認定にかかる設問においては、要件追加や設問の整理が実施されている。(表1)
ホワイト500の必須要件として、従来のグループ会社と取引先等への健康経営の普及・支援に加え、派遣社員等と従業員家族への健康支援が新たに追加された。後者は、これまでも認定要件外の設問として設定されていたが位置づけが高められた形である。新Q20では派遣社員等と従業員家族への健康支援、新Q21ではグループ会社と取引先等への普及・支援の実施状況が確認されている。
新Q20・新Q21はいずれも充足することが求められる。新Q20については、今年度は派遣社員等・従業員家族いずれかへの取り組みで適合するが、次年度以降は双方への取り組みが求められる予定である。したがって、ホワイト500を継続的に目指す法人においては、今年度の要件充足だけでなく、次年度を見据えて対応を進めることが望ましい。
「健康経営の推進方針の浸透」と「従業員への健康経営の理解・促進」に関する4つの設問が離れて設定され、内容も一部重複していたことから、評価項目「従業員への健康経営の理解・促進」として2つの設問に再構成された。新Q30では健康経営に関する情報発信方法や内容、新Q31では従業員・管理職の巻き込みや理解を深める工夫の有無を確認する。昨年度追加された新Q70「継続的な取り組みによる健康風土の醸成状況の確認」とあわせ、方針の周知から従業員の理解や組織風土への定着状況までを一体的に確認する構成となった。
評価項目「受診勧奨の取り組み」の適合条件が変更され、新Q34「任意健診・検診の勧奨」と新Q35「定期健診等の結果に基づく二次検診の勧奨」のいずれの取り組みも必要となった。
「経済財政運営と改革の基本方針2026」において睡眠対策を含む健康経営の推進に言及されるなど、睡眠が従業員の健康やパフォーマンスを支える重要な要素として、政策上も重視されている。こうした背景から、従来「従業員の生産性低下防止のための取り組み」の一部とされていた「睡眠障害や睡眠の質向上に向けた取り組み」に関する設問が分離・新設された。具体的な取り組みとして、睡眠に関する教育・情報提供に加え、睡眠改善を目的としたウェアラブルデバイス等の活用を含め、近年のサービス・施策の多様化を踏まえた選択肢が設定されている。


出典:ACTION!健康経営(https://kenko-keiei.jp/)
優良法人認定の認定要件およびブライト500等の認定要件ともに、大きな変更は見られなかった。(表2)一方、注目すべき点としては以下の項目が挙げられる。
経済産業省では、デジタルヘルスの推進に向け、PHR(Personal Health Record)をはじめとする個人の健康データを活用できる環境整備を進めている。大規模法人部門では、既に設問に設定されているが、中小規模法人部門でも、今年度よりPHRデータの活用状況を把握するための設問がアンケート項目として新設された。現時点では認定要件ではなく、実態把握を目的としている。しかし、過去、アンケート項目として設定された設問がその後、認定要件に追加された事例もある。そのため、中小規模法人においても、アプリなどを活用しながら健康データをどのように従業員の健康保持・増進や施策の改善につなげるかという視点を持ち取り組むことが望まれる。


出典:ACTION!健康経営(https://kenko-keiei.jp/)
今年度の改定では、認定要件そのものの大幅な変更というよりも、設問構成の整理や設問(アンケート項目含む)を通じて今後の政策課題を先行的に把握しようとする動きがみられた。特にアンケート項目は、将来的に認定要件等へ反映される可能性があるため、現在の認定要件だけに着目するのではなく、政策的な動向を踏まえ中長期的な観点で自社の健康経営を企画・推進することを推奨する。
なお、認定取得を目指す企業は、認定そのものやホワイト500等の評価獲得だけを目的とせず、定期的に自社の取り組みを点検・見直す機会として本制度を活用すべきであることは、改めて付言したい。
大規模法人では、特に人的資本経営との一体的な推進が重要となる。健康経営を福利厚生施策として捉えるのではなく、人的資本への投資を通じて企業価値の持続的向上を支える取り組みとして位置付け、経営トップが関与する体制の下で、推進することが求められる。
今年度は、派遣社員等と従業員の家族への健康支援が新たにホワイト500要件に設定され、健康経営の対象を自社従業員からグループ会社、取引先、家族等へスコープ拡大の方向性も一層明確となった。今後、こうした「社会への波及」に関する評価水準はさらに高まる可能性がある。
また、投資家をはじめとするステークホルダーに対しては、健康経営への取り組みが人的資本や企業価値にどのような影響を与えているのかを説明することが重要となる。そのために、まずは、「自社固有の経営課題・健康課題は何か」「その解決のために何を実施したか」「どのような成果が生じたか」「それが企業価値にどのようにつながるのか」という戦略的なストーリーを整理することが求められる。そして、健康診断結果や生活習慣等の健康指標だけでなく、アブセンティーイズム、プレゼンティーイズム、ワーク・エンゲージメント等の指標を継続的に把握し、施策との関係を検証し、定量・定性の双方から説明できる状態を構築する必要がある。
情報開示にあたっては今年3月に改訂された人的資本可視化指針や今後公開予定の健康経営に関する情報開示の指針(仮称)を参照いただきたい。
中小規模法人部門では、今年度の認定要件に大幅な変更はみられなかった。一方、大規模法人部門では、「睡眠」「自社従業員以外への健康支援」等のテーマが設問に追加・拡充されている。昨年度の「仕事と育児・介護との両立支援」の評価項目追加にもあるように、これまでも、大規模法人部門で先行して設問設定されたテーマが、その後、中小規模法人部門にも反映されてきた。そのため、中小規模法人においても、大規模法人部門の改定内容を今後の中小規模法人部門の改定を見通す先行情報として確認し、今できる準備を行っておくことを推奨する。
また、今年度はPHRデータの導入状況に関する設問がアンケート項目に追加されるなど、中小規模法人においても取り組みの高度化が意識されている。具体的な施策を検討する際には、経済産業省・認定事務局からの発信や自治体・保険者等が作成する事例集を参照し、自社の課題や規模に応じて取り入れられる取り組みを検討・導入することも有効である。
中小規模法人では、まずは認定の取得・継続を一つの足掛かりとしつつ、自社の経営課題・健康課題に応じた目標を設定した上で、段階的に取組水準を高めていくことが重要である。その積み重ねにより、従業員の健康保持・増進にとどまらず、働きやすさや働きがいの向上、人材の定着・採用等への波及を通じて、人手不足をはじめとする経営課題の解決につなげていくことが期待される。
※健康経営®は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
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サイバーリスクによる財務影響の可視化が求められる時代へ 〜従来の「定性評価」から「定量評価」へのアップデート〜
このような状況下では、あらゆるサイバー攻撃に備えるため、継続的なセキュリティ対策への投資が不可欠である。ただし、投資可能な予算には限りがあるため、対策には優先順位を設け、計画的に投資を進める必要がある。したがって、経営層がセキュリティ投資を判断するうえで求められるのは、単に「リスクがある」という定性的な情報ではなく、「どの程度の財務影響が想定されるのか」という定量的な情報である。
しかし、多くの企業では「IT資産の管理」や「セキュリティ対策の実施有無」といった定性的な評価が中心である。PwCが2025年度に77カ国・7地域の経営層4,042名を対象に実施したサイバーリスク調査では、サイバーリスクの財務影響を相当程度把握している企業は、全体の15%にとどまった。※1「サイバー攻撃を受けた場合、自社はいくらの損失を被るのか」といったサイバーリスクを金額換算し、定量的に把握できている企業は、依然として少ないのが実情である。

そこで近年、欧米企業を中心に導入が進んでいるのが、CRQ(Cyber Risk Quantification:サイバーリスク定量化)である。CRQは、サイバー攻撃による情報漏えいやシステム停止などの損失を金額として可視化し、セキュリティ投資やリスク許容度の設定、保険設計など、経営層の意思決定を後押しする手法として注目されている。
また、Market Intelo社の調査によると世界のCRQ市場は、2025年に28億ドルと評価され、2026年から2034年にかけて年平均成長率14.7%で成長し、将来的に96億ドルに達すると見込まれている。※2CRQへの関心の高まりは、今後さらに加速することが予想される。
サイバーリスクを金額としてとらえ、経営の意思決定に反映させるアプローチは、国内外でその重要性を一層高めており、世界的に新たなスタンダードとなりつつある。
サイバーリスクを金額で可視化し、セキュリティ投資の優先順位を明確にすることは、限られた予算の中で合理的な意思決定を行ううえで有効である。各対策の損失回避効果を見極め、対策費用と想定損失のバランスを踏まえることで、投資先と投資額を判断できる。結果として、場当たり的な対応を避け、戦略的な投資判断につながる。
この考え方自体は新しいものではない。企業はこれまでも火災リスクや水災、地震などの自然災害リスクに対して予想最大損失額を算出し、設備投資や事業継続計画の策定、保険設計の判断に活用してきた。つまり、「リスクを金額で把握し、経営判断に活用する」という考え方は、すでに他のリスク管理分野では一般的なのである。
サイバーリスクもまた、火災や自然災害と同様に、財務影響を見据えて管理すべき経営リスクである。今後は、定性的な評価にとどまらず、定量的な把握を前提としたリスクマネジメントへ移行することが、より一層求められていくだろう。
MS&ADインターリスク総研では、リスクマネジメントの重要な要素の一つである「リスクの定量化」を実現。算出過程で判明した改善ポイント、改善実施した場合のPML削減額を分析し、お客様のサイバーリスク対策を支援します。

【参考データ】
※1 Digital Trust Insights 2025:CxOとCISOの連携が、複雑化するデジタル法規制によって生じるギャップを埋める
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/digital-trust-insights2025.html
(最終アクセス日:2026年8月18日)
※2 Cyber Risk Quantification Market Research Report 2034
https://marketintelo.com/report/cyber-risk-quantification-market
(最終アクセス日:2026年8月18日)
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令和8年熊本地震が企業に与えた影響と企業の地震対応の変化(速報)【BCMニュース(2026年8月)】
「令和8年熊本地震」(以下、熊本地震)が発生してから約半月が経過するなか、企業の事業所・工場の稼働停止に関して数多くのマスコミ報道やプレスリリースなどがなされている。
本稿では、これら数多くのマスコミ報道や企業が自らホームページで公表した内容など(以下、報道など)から読み取れる「熊本地震が企業に与えた影響」と「企業の地震対応の変化」に関する当社の分析結果を紹介したうえで、「今後のBCM(事業継続マネジメント)整備におけるポイント」を整理する。
なお、今回の分析は、まず、熊本地震が発生した7月28日以降から8月20日までの数多くの報道などの中から、報道件数の多い「製造業」かつ「事業所が被災し丸一日以上生産を停止した」企業29社を選定するところからスタートした。そのうえで、選定した企業の被災事業所ごとに「地震の揺れの大きさ(震度)」、「発生した物的被害」「生産停止期間」などの切り口から「熊本地震が企業に与えた影響」を分析した。
また、あわせて、当該企業の中から10年前の「平成28年熊本地震」当時にも被災し、かつ当時の報道など情報が比較的多い8社を選定のうえ、今回の地震との対応事項を比較分析することで、「企業における地震対応の変化」を洗い出した。
RM NAVIでは令和8年熊本地震特設ページを開設し、震災を機に見直したい
事業継続計画(BCP)、サプライチェーン対策、危機管理などに関する情報発信を行っております。
詳しい内容は以下のボタンをクリックしてご覧ください。
ここでは、選定した企業29社の事業所のうち、復旧期間について言及があり、被災地(熊本県)に所在し、かつ「操業を完全停止した期間」が1日以上に及んだ19事業所を対象に、「地震の揺れの大きさ(震度)」、「発生した物的被害」、「生産停止期間」の関係を分析した結果を紹介する。分析結果は以下図表1のとおりである。

出典:気象庁、マスコミ報道、選定企業のホームページからの情報をもとにインターリスク総研にて作成
この結果から、まず、震度が比較的小さく、かつ大きな物的被害が確認されていない事業所であっても、生産停止が発生していることが読み取れる。特に、このような事例の多くは半導体関連事業所に見られ、工程が複雑であること、また、品質確保の観点から設備や製造条件の確認を慎重に進める必要があることなどから、目立った損傷がなくても稼働再開までに一定の時間を要したものと推察される。
次に、生産停止が1週間(7月29日~8月4日)以上に及んだ事業所は、いずれも震度6弱以上の揺れに見舞われていることも確認できる。この傾向は、10年前の平成28年熊本地震時にも見られたものであり、長期間の稼働停止を想定した地震BCMの整備においては、「震度6弱」という揺れの大きさがキーワードになると思われる。
もっとも、これらの結果は、報道などで把握可能であった限られた事例を対象としたものであり、対象業種や個別事業所の工程特性、被害確認手順、復旧方針などの差異も大きい。したがって、この結果のみから、地震の揺れの大きさ、停止期間、発生被害の関係を一般的に結論づけることはできない点には十分留意が必要である。
なお、上記の分析対象に入ってはいないが、被災地域以外の事業所が、被災地に所在する企業や事業所から部品などを十分に調達できずに生産停止に追い込まれている事実があることも忘れてはならない。一部、今回選定した企業も含まれるが、自動車関連企業5社が、調達事情が不安定であることを理由に「操業の一時または全部停止」を公表している。これら企業の生産停止状況は以下のとおりである。

出典:気象庁、マスコミ報道、選定企業のホームページからの情報をもとにインターリスク総研にて作成
ここでは、まず、選定した企業29社の中から、10年前の「平成28年熊本地震」時にも被災した企業のうち、当時の報道内容が多い8社を選定し、当該企業が実施した地震対応の特徴を、今回の地震と10年前の地震とで比較分析した結果を紹介する。分析結果は図表3のとおりである。

出典:気象庁、マスコミ報道、選定企業のホームページからの情報をもとにインターリスク総研にて作成
この結果から、まず、いずれの企業においても、2016年と比べて復旧期間が短くなっていることが読み取れる。もちろん、個別企業ごとに被災の程度や事業環境は異なるため単純比較はできないものの、少なくとも今回確認できた事例においては、10年前の経験を踏まえた備えが、復旧の迅速化に一定程度寄与している様子がうかがえる。
また、いずれの企業も、10年前の経験を踏まえて耐震対策や設備対策を進め、発生被害を軽減させていることが確認できた。例えば、設備や配管の固定方法の見直し、耐震補強、免震化、在庫の積み増しなど、2016年の被災経験を契機として講じられた対策が、2026年の被害軽減につながったとみられる事例が複数見られた。
さらに、代替生産戦略が全体として洗練されていることも重要な変化である。食品関連では、2016年時点でも代替生産に関する報道が多く見られたが、今回も生産停止が発生後、早い段階で他事業場での代替生産に移行している様子が確認できた。加えて、商品名の統一、商品コードの一本化など、代替生産を実施する前提で、取引先や小売現場の負担を減らす工夫も進んでいる。一方、その他の業界でも、代替生産の発動条件を整理したり、代替先となる工場や委託先の選択肢を増やしたりするなど、戦略そのものの実効性を高める動きが見られた。今回は復旧が比較的早かったため戦略発動に至っていない事例がほとんであるが、戦略を「使わなかった」ことと「準備していなかった」ことは異なる点に留意すべきである。
あわせて、在庫活用戦略についても、10年前より洗練が進んでいることが確認できた。食品関連では、2016年同様、今回も早い段階で在庫が活用されているほか、その他業界でも、2016年の経験を踏まえ在庫の積み増しを進めてきた企業が見られた。効率性の観点から在庫保有には制約もあるが、供給継続の観点では依然として有効な戦略であることが改めて示されたといえる。
以上を踏まえると、10年前に被災した企業では、着実にBCM整備が進み、事業継続対応の強靱化が図られていると評価できる。もっとも、これも報道などから把握可能な一部企業の比較結果に基づくものであり、この結果のみをもって、企業一般においてBCMが十分に進展していると結論づけることはできない点には留意が必要である。
次に、部品などを十分に調達できずに生産停止に追い込まれた自動車関連企業5社の地震対応について、今回の地震と10年前の地震とを比較分析した結果を紹介する。分析結果は図表4のとおり。

出典:気象庁、マスコミ報道、選定企業のホームページからの情報をもとにインターリスク総研にて作成
この結果から、まず、サプライヤー被災の影響に関する報道がある企業数が拡大していることが読み取れる。これは、実際にサプライチェーン影響が広がった可能性もあるが、それに加え、企業側が従来以上にサプライヤーの被災状況や供給影響を重視し、早い段階から把握・公表するようになったことも一因と考えられる。
特に注目されるのは、サプライヤーの現状把握の重要性が、企業の間でより強く認識されている点である。実際、2016 年の経験を踏まえ、取引先情報の見える化や、災害時に被害状況・復旧支援要否を確認できる体制を整備してきた企業では、影響範囲の把握や正常化の迅速化につながっている様子が確認できた。一方で、今回初めて影響が報道された企業もあり、サプライチェーンの把握状況の差が、影響認識や対応速度の差として表れている可能性もある。
この点、現状把握の有効なツールとして、サプライチェーンの見える化(データベース化)は引き続き重要である。とりわけ、2次・3次サプライヤーを含めた把握ができている企業では、有事の際の影響特定や代替手配の検討がよりスムーズに行えると考えられる。今回の地震は、この見える化対応の有効性を改めて示したものといえる。
最後に、ここまで見てきた「熊本地震が企業に与えた影響」と「企業の地震対応の変化」の分析結果を踏まえ、今後のBCM整備におけるポイントを、(1)初動対応(人命安全確保)、(2)現状把握、(3)復旧対応(被災事業所の復旧・代替生産など)の3つのフェーズに分けて整理する。
地震発生後の早い段階で実施する、いわゆる「初動対応」においては、従業員や来客者などの生命・身体の安全を守る「安全配慮義務対応」が、法的責任であるとともに、社会的信用を維持するうえでも必要不可欠である。
この点、ほとんどの企業が、10年前同様、二次災害防止の観点から「建物の立ち入り制限」を徹底していることが確認できた。「建物の立ち入り制限」を実施すると、その間は建物内の設備稼働確認などができず、復旧の前提となる現状把握に時間がかかることになるが、それでもこれを徹底する各企業の対応からは、人命安全最優先の考え方が十分に浸透している様子がうかがえた。
また、この「安全配慮義務対応」には、立入禁止建物への突入判断や、従業員の帰宅判断など、正解のない臨機応変な判断を求められる局面が含まれることが特徴である。今回の地震では、製造業以外の事例ではあるが、立入禁止建物への突入判断が問題となったケースも発生しており、臨機応変な判断の難しさを改めて示している。
したがって、この機会に、こうした臨機応変な判断が求められる局面をあらかじめ抽出し、その判断プロセスや対応方針などを整理・検討しておくことを推奨したい。初動対応は、単に避難を完了すれば終わりではなく、その後の立入管理や安全確認まで含めて設計する必要がある。
地震発生時には、平常時とは異なる各種判断を臨機応変に実施していくことが必要となる。こうした各種判断を的確に実施するためには、被害状況、復旧見込み、供給責任への影響などに関する「現状把握」を、すばやく、かつ的確に実施できることが必要不可欠である。
この点、今回確認できた多くの企業は、復旧対応に入る前に一定の時間をかけて、しっかりと「現状把握」を実施しており、その重要性が十分浸透している様子がうかがえた。特に、設備確認に慎重を要する半導体関連企業では、大きな損傷がなくても再稼働判断までに時間を要しており、高度な現状把握そのものが復旧プロセスの中核となっていることが確認できた。
また、サプライチェーンの現状把握の重要性は、10年前にも増して高まっている。2011年の東日本大震災後に構築した、2次・3次メーカーを含む部品仕入先情報の「見える化」データベースが、今回の地震においても有効に機能したとみられる事例が確認できた。サプライヤーの被災状況や供給停止リスクを早期に把握できるか否かが、自社の生産停止判断や代替対応のスピードを左右することは明らかである。
一方で、この「見える化」対応を実際に十分なレベルで実行できている企業は、依然として限られている。また、いったん見える化をしても、品目の追加・廃止、部品構成の変更、仕入先の変更などが日々発生するなかで、維持・更新に大きな手間がかかるという課題もある。
そのため、すべてのサプライチェーンを一律に対象とするのではなく、重要品目に絞り込むことや、システム導入によって維持管理を省力化することとセットで、見える化対応を進めることを推奨したい。現状把握は、有事対応の精度を左右する基盤であり、平時からの準備の巧拙が最も表れやすい領域のひとつである。
事業所の生産停止が長期にわたる場合、当該事業所の復旧を待つだけではなく、製品の供給を継続するために、「現地復旧対応戦略」以外の復旧戦略を展開することが必要となる。具体的には、国内外の自社他工場や生産委託先などの他社工場における「代替生産」の実施や、国内外の「在庫」の活用などが代表例である。これらは、特定の災害類型に限らず、さまざまな事象を想定するオールハザード型のBCMを推進するにあたっても重要な戦略である。
この点、今回は生産停止期間が比較的短かった事情もあり、これら「現地復旧対応戦略以外の戦略」が実際に大規模に展開された事例は一部にとどまった。他方で、前記のとおり、代替生産の発動条件の整理、代替先の複線化、在庫積み増しなど、供給継続を意識した戦略が着実に洗練されている様子が確認できた。すなわち、今回は「現地復旧」が比較的早く進んだため表面化しなかっただけで、各社は10年前よりも明らかに供給継続を意識した備えを進めているといえる。
もっとも、これらの戦略は時間もコストもかかるため、すべての事業・製品を対象に一律に実装することは現実的ではない。したがって、全体最適の観点から、戦略対象となる事業や製品を絞り込み、優先順位を明確にしたうえで、着実に実装を進めることを推奨したい。とりわけ、代替生産が難しい製品については、在庫、設備耐震化、供給先調整などを含めた別の手当てを組み合わせて検討することが必要である。
本稿では、当社が実施した「熊本地震が企業に与えた影響」と「企業の地震対応の変化」に関する分析結果を紹介したうえで、「今後のBCM整備におけるポイント」を整理してきた。これらは、今回の熊本地震によって得られた「教訓」だと言い換えることができる。
本稿の中でも、10年前の地震の「教訓」をもとに自社のBCMを着実に進化させている事例を紹介したが、この機会に、今回の「教訓」をもとに、BCMをブラッシュアップいただくことを強く推奨したい。
ここで紹介した「教訓」は、分析のもととなったデータが報道や公表情報に限られていること、また、インタビューなどによる詳細な調査を実施していないことなどから、全体のほんの一部に過ぎないが、今後のBCMブラッシュアップの参考としていただければありがたい。
RM NAVIでは令和8年熊本地震特設ページを開設し、震災を機に見直したい
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