小規模事業場におけるストレスチェック義務化対応のポイント【人的資本・健康経営インフォメーション(2026年7月)】
2025年5月に改正労働安全衛生法が成立し、労働者数50人未満の事業場(以下、「小規模事業場」という)におけるストレスチェックの実施が義務化されることとなった。また、令和8年6月10日付官報(号外第128号)により、施行日は2028年4月1日であることが示された。これは、従来努力義務とされていた小規模事業場においても、メンタルヘルス対策を実効的に進める必要があるとの国の判断に基づくものである。
ストレスチェック制度は、労働者に自身のストレスの状態に気づくきっかけを与え、必要に応じて医師による面接指導や職場環境改善につなげることを目的としており、2015年12月1日より50名以上の事業場においては既に実施が義務付けられている。
今回、小規模事業場へ実施義務が拡大された背景には、図1のとおり精神障害の労災支給決定件数が増加傾向にある中で、小規模事業場では、メンタルヘルス対策やストレスチェックの実施率が十分とはいえない状況がある。


出典:厚生労働省「令和6年度過労死等の労災補償状況」
令和6年厚生労働省「労働安全衛生調査(実態調査)」によれば、メンタルヘルス対策に取り組んでいる割合は、労働者数30~49人の事業場では69.1%、10~29人の事業場では55.3%にとどまっており、さらにストレスチェックを実施している事業場は、労働者数30~49人、10~29人のいずれの規模でも6割弱程度と低調である。
しかし、小規模事業場にとってのメンタルヘルス対策やストレスチェックの実施は、単なる法令対応ではなく、事業継続性を高める施策としても重要である。小規模事業場を対象とした調査ではないが、平成28年度厚生労働省「病休と復職支援に関する調査と分析」によれば、従業員にメンタルヘルス不調が生じた場合、1回目の平均的な休職期間は107日(約3.5カ月)とされている。さらに、復職後に再休職するケースも約半数とされ、仮に少人数体制の事業場でこのような事態が起きた場合、大規模な事業場に比べ事業運営における人的影響は大きくなると考えられる。
一方で、令和3年度厚生労働省「ストレスチェック制度の効果検証に係る調査等事業」報告書によれば、ストレスチェック受検者の約7割が「自身のストレスが分かったこと」を有効と評価している。また、医師による面接指導を受けた者の過半数が、その面接を有効と回答している。これらを踏まえると、ストレスチェックはメンタルヘルス不調の早期発見や早期対応につながることが期待される。ひいては、小規模事業場における従業員の長期休業リスクの低減を通じて、人材確保・定着や経営安定化に資する可能性がある。
そこで、本稿ではストレスチェック制度の概要を説明しながら、厚生労働省が公表した「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」(以下、「実施マニュアル」という。)を踏まえ、小規模事業場に求められる対応と実施のポイントを解説する。
本章では、小規模事業場におけるストレスチェック制度の概要について解説する。特に断りがない場合、以下の記載は実施マニュアルに基づく小規模事業場向けの内容である点にご留意いただきたい。
ストレスチェックの対象者は、一般定期健康診断と同じく「常時使用する労働者」であり、実施マニュアルでは、以下のいずれかの要件を満たす者とされている。
① 期間の定めのない労働契約により使用される者(期間の定めのある労働契約により使用される者であって、当該契約の契約期間が1年以上である者並びに契約更新により1年以上使用されることが予定されている者及び1年以上引き続き使用されている者を含む。)であること。
② その者の1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の4分の3以上であること。
※なお、1週間の労働時間数が通常の労働者の4分の3未満である労働者であっても、上記の①の要件を満たし、労働時間数が通常の労働者のおおむね2分の1以上である者に対しても、ストレスチェックを実施することが望まれる。
なお、健康診断とは異なり、従業員に受検義務はないものの、実効性を確保するためには全員の受検が望ましい。
小規模事業場におけるストレスチェックの基本的な流れは図2のとおりである。


出典:厚生労働省「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル(令和8年2月)」を基にMS&ADインターリスク総研にて作成
まず、事業者はストレスチェック制度導入の方針を社内で示し、制度の企画・運営を担う実務担当者を選任する。その後、実務担当者を中心に外部機関と相談しながら、実施計画や運用方法を決定していく。具体的には、調査票の内容や配布・回収方法、受検期間を定め、従業員に案内して回答してもらう。なお、回答率が低い場合には、受検期間中に受検を促すことも必要となる。受検期間終了後、あらかじめ定めた基準により高ストレス者と判定された従業員の中から、実施者が面接指導の必要性を判断し、対象者へ通知する。通知を受けた対象者は、自身の判断で面接指導を申し出るかどうかを決定する。申出があり面接が実施された場合、事業者は面接指導医師から結果の通知とその後の就業上の措置に関する意見を受け、就業上の措置を決定するという流れである。
なお、図2のとおり、ストレスチェックの結果による集団分析とその結果を用いた職場環境の改善は努力義務であるものの、前述した人材の定着や経営安定化の観点からは積極的に取り組むことが推奨される。
ストレスチェックの実施にあたっては、表1に示す役割を担う者が必要となる。小規模事業場にとっては、これらの役割を担う人材をどのように確保するかが大きな課題となることが想定され、外部への委託が現実的な選択肢となるだろう。特に、実施者は「医師、保健師、一定の研修を受けた歯科医師、看護師、精神保健福祉士または公認心理師」、面接指導医師は「産業医、あるいは、所定の講習を受講した面接指導実施医師」のように指定された有資格者に限られるため注意が必要である。
| 役割 | 担当者 | 主な実施事項 |
|---|---|---|
| 実施責任者 | 事業者(経営層) |
|
| 実務担当者 | 衛生推進者等 |
|
| 実施者 | 医師、保健師など、法令上の要件を満たす資格者 ※外部機関への委託可 |
|
| 実施事務従事者 | 事業者が指定するもの ※外部機関への委託可 | 【実施者の指示によって以下の事務を担当】
|
| 面接指導医師 | 産業医、産業医の要件を備えた医師等 ※外部機関への委託可 |
|
出典:厚生労働省「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル(令和8年2月)」を基にMS&ADインターリスク総研株式会社にて作成
なお、面接指導医師は厚生労働省所管の支援機関である地域産業保健センターへ依頼し、無料で産業保健サービスを受けることも可能である。ただし、1事業場あたり2回、労働者1人あたり2回までとの利用回数制限がある。また、ストレスチェック制度の施行後は多数の小規模事業場から依頼が殺到し、面接の実施までに時間を要することも想定されるため、外部機関へ有償で委託することも検討すべきである。
労働安全衛生法に基づくストレスチェックでは、「仕事の要因」、「心身の反応」、「周囲のサポート」の3領域について確認する必要がある。実施マニュアルでは、これら3領域を網羅している「職業性ストレス簡易調査票」(57項目)での実施が推奨されている。なお、同調査票の簡易版である23項目でも法令上は実施可能だが、集団分析の精度が下がるため、職場環境改善には活用しにくくなる点に留意が必要である。
また、調査票の配布・回収方法については、現在はストレスチェックシステムでの実施が一般的となっている。この場合、従業員がPCやスマートフォンで回答し、集団分析結果の確認やデータ保存もシステム上で行えることが多い。なお、外部委託機関によっては紙の調査票を配布・回収する方法もあるが、個人の回答内容や結果を事業者や実務担当者が確認できないよう、実施方法を工夫する必要がある。
前章ではストレスチェックの基本的な流れや注意事項について解説した。本章では小規模事業場において特に留意すべきポイントを解説する。
第一に、小規模事業場では、従業員のプライバシー保護を最優先にストレスチェックを実施する必要がある。ストレスチェック結果は慎重な取り扱いが必要な個人情報であり、原則として事業者が個人結果を直接入手しない運用が求められる。また、面接指導の申出勧奨も、対象者であることが他の労働者に推測されない方法で行う必要がある。小規模事業場でこのような運用体制を社内人員のみで整備するには、プライバシー保護上のリスクと運用負担が大きい。そのため、実施マニュアルでは、実施事務の大半を外部機関へ委託することが推奨されている。具体的には、外部機関が提供するシステムを使用するなどして、個人結果は外部機関や面接指導の要否を判断する実施者のみが閲覧できるようにするなどの対応例が示されている。
第二に、小規模事業場では外部機関への委託が実質的に不可欠となるため、委託先の選定が重要である。これを受けて、実施マニュアルでは外部機関に対して実施体制、実施方法、料金体系等を整理した「サービス内容事前説明書」の作成と事業者への提出を求めている。そのため、候補となる外部機関から「サービス内容事前説明書」を入手し、下表の視点で自社の実施環境や予算等に合致するか確認するとよい。
| 視点 | 選定のポイント |
|---|---|
| 実施体制 |
|
| 実施方法 |
|
| 料金体系 |
|
| ストレスチェック以外のサービス有無 |
|
| 情報管理体制 |
|
出典:厚生労働省「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル(令和8年2月)」を基にMS&ADインターリスク総研株式会社にて作成
とりわけ、表1で示した実施に必要な役割について、一般に小規模事業場では実施者や面接指導医師を担当できる産業医等の産業保健スタッフがいないため、外部機関においてこれらの有資格者による役割が提供可能かどうかを確認することが重要である。また、ストレスチェック実施にあたり、準備に伴う事務負担(例:システム利用の場合、従業員情報の登録等)が発生するため、併せて実施事務従事者の役割も提供可能か確認することを推奨する。
第三に、高ストレス者が安心して面接指導を申し出られる環境を事業者が整備することが重要である。ストレスチェックの結果、高ストレスと判定され、面接指導の対象となった労働者については、できる限り面接指導を受けることが望ましいものの、面接指導を受けるかどうかはあくまで本人の判断となる。もし、面接指導を申し出たことを理由に、本人に対する懲罰的措置や退職勧奨等の不利益な取り扱いが行われれば、労働者は制度を信頼できなくなる。その結果、ストレスチェックの意味は失われ、健康障害や離職の防止に資することはなく、人材確保・定着や経営安定化という本来の目的も達成できなくなるだろう。
そのため、事業者が面接指導の結果を踏まえて必要な措置を講じる際には、医師の意見を参考にしつつ、本人の意見を丁寧に聴き、管理監督者とも連携しながら、労働時間の短縮、業務負荷の軽減、配置転換等について慎重に進める必要がある。併せて、面接指導の申出窓口だけでなく、外部の相談窓口についても周知し、労働者が複数の相談先を持てるようにしておくことが望ましい。公的な相談窓口としては、厚生労働省の「働く人のメンタルヘルス・ポータルサイトこころの耳」等が挙げられるため、労働者へ案内可能な機関を事前に確認することが推奨される。
第四に、ストレスチェックの実効性を高めるためには、集団分析を行い、その結果を踏まえて職場環境改善につなげることが重要である。ただし、集団分析は原則として10人以上の集団で行うものであるとされている。10人未満では個人が特定されるおそれがあり、実施は推奨されていないため、注意が必要である。なお、職場環境改善については、集団分析の結果だけでなく、管理監督者が日常の職場管理で把握している情報や労働者の意見も踏まえて進めることが望ましい。改善取り組みの事例として、業務負荷のストレスが高いという結果を受けて業務効率化を進めた例や、職場環境によるストレスが高い(夏場の高温状態)という結果を受けてスポットクーラーを導入した例がある。
本稿では、小規模事業場におけるストレスチェック義務化対応に向けて、ストレスチェック制度の基本と対応のポイントについて整理した。
ストレスチェックは、従業員が自身のストレスに気付く機会を定期的に設け、早めに対処するきっかけをつくることで、メンタルヘルス不調の未然防止につながることを目的としている。ひいては、人材の確保・定着や経営の安定化にも資する制度である。
このように、小規模事業場にとっても意義のある制度である一方、実施にあたっての体制整備や外部機関の選定、プライバシー保護の取り組みなどには一定の負担がかかることが予想される。そのため、外部機関への委託を前提に、法令に則って確実に実施することが現実的な目標となるだろう。
一方で、ストレスチェックの回答率向上、医師による面接指導以外の相談窓口の整備、集団分析に基づく職場環境改善の実施といった取り組みは、必ずしも義務ではないものの、ストレスチェックの実効性を高めることが期待される。今回の義務化を機に、経過措置期間である今から情報収集や運用方法の検討を積極的に進め、ストレスチェックを健康で生産性の高い職場環境づくりにつなげていきたい。
【参考文献】
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PLレポート(2026年7月)
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ESGリスクトピックス(2026年7月)
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保険データ活用とAI技術が拓く降雹予測技術 被害軽減へ前日から備え可能に
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【お客さま事例】『日本全国住宅資産データ』で災害後の住宅再建と街の復興を分析 関西大学 越山健治教授
ーーはじめに、越山教授の研究内容について教えていただけますでしょうか。
越山)災害が起きたあとに、その地域が住宅を含めてどのように復興・再建していけるのかを研究するのがメインテーマです。災害で住宅を失った人たちが、再び住宅と暮らしを確保するプロセスをどのように描けるのか、予測できるのかを研究しています。


関西大学社会安全学部 越山健治教授
大学4年生の時に阪神・淡路大震災を経験し、
それ以来防災研究に取り組む。
災害後の復興では、単に壊れた住宅を元通りに建て直すだけではなく、地域の将来の姿に合わせて、どこに住宅を再建するのかや、被災した人が再び住宅を確保するためにどのような支援策が必要かを考えなければなりません。
私は研究を通して、復興の進め方や支援の方法を分析し、どのような復興の形が望ましいのかを明らかにしたいと考えています。
ーー越山教授の研究の中で、『日本全国住宅資産データ』をどのように活用しているのですか。
越山)地震・火災・水害などが発生したときに、その地域にどれくらいの被害額が出るのかを算出する際に使っています。特に、住宅価格をベースに被害額を算出するときに、利用価値があると考えています。
また『日本全国住宅資産データ』には、その建物がいつ頃建てられたかがわかる「建築年区分」のデータがあるので、古い住宅が多い地域については、地震・水害・火災などのハザード情報も地図上で重ね合わせて、災害に弱い地域の特徴を分析しています。
| 対象物件 | 日本全国の住宅物件 | |
|---|---|---|
| メッシュサイズ | 100mメッシュ・250mメッシュ | |
| 建物属性情報 | 物件種別 | 戸建/集合住宅/不明 |
| 構造 | 鉄筋コンクリート造/鉄骨造/防火木造/非防火木造/不明 | |
| 建築年区分 | 1970年以前/1971年-1980年/1981年-1990年/1991年-2000年/2001年-2010年/2011-2020年/2021年以降/不明 | |
| 階数区分 | 3階以下/4階-6階/7階-10階/11階-20階/21階-30階/31階以上/不明 | |
| 数値情報 | ・建物/家財再調達価額(円) ・住宅棟数(件) | |
また、学生の卒業研究でも活用しています。洪水などの水害リスクの高い地域では、安全な場所へ住宅を移転するケースがあります。卒業研究では「被害を受けた場合の損失」と「安全な場所へ移転するためにかかる費用」を『日本全国住宅資産データ』も活用して、地域ごとに分析しました。
ーー防災研究において、『日本全国住宅資産データ』を使うことで得られるメリットはどのような点にあるのでしょうか。
越山)住宅と家財の「再調達価額」があるのが一番大きいですね。災害が起きたときの被害額や、必要な住宅支援額を計算するのに、非常に使いやすいデータだと考えています。
再調達価額のデータがあるので、ある特定の場所で火災や地震が発生した場合の住宅被害の量に対して、どの地域でどのくらいの支援額を投入しなければならないのかを考えるうえで役に立つと考えています。


防災研究の分野では、「どのくらいの被害が出るか」は試算されるケースが多いのですが、災害が起きた後に「どのくらいの支援額を投じて、そこに暮らす人たちの住宅を再建し、地域をどう復興していくか」までは、まだ十分に分析されていないんです。
特に、道路や堤防といったインフラは、復旧計画や費用が比較的詳しく試算されていますが、住宅については「何戸壊れるか」の推計にとどまり、「誰が再建できるのか」「どこに住み直すのか」「地域がどう変わるのか」といった細かな検討までは行われていません。
一方で『日本全国住宅資産データ』を活用すれば、例えば、南海トラフ地震が起きた場合に、どの地域でどれくらいの住宅の被害額が出るのかを推計することができます。さらに、その後10年間で住宅がどの程度再建されるのかや、復興にどれくらいの費用が必要になるのかをシミュレーションによって分析することもできます。
ーー『日本全国住宅資産データ』を購入する前は、必要なデータをどのように集めて分析されていたのでしょうか?
越山)地図データや自治体ごとの住宅統計を別々に集めて、自分で組み合わせながら分析していました。ただ、正直に言ってかなり骨の折れる作業でした。
その点『日本全国住宅資産データ』は、住宅の価格や築年数などの情報が250mメッシュの単位※で、かつ全国規模で整理されていて、国勢調査などの統計データと組み合わせて分析できるところに大きな価値を感じています。
※越山教授が購入した2024年4月時点。2024年8月から100mメッシュサイズでもデータの販売を開始しています。
防災研究では、人口統計や経済統計など、さまざまなデータを重ね合わせて地域の特徴を分析しますが、これまでは住宅に関する詳細な全国規模のデータがほとんどありませんでした。もし『日本全国住宅資産データ』と同じデータを自分で集めようとしたら、数千万円規模のコストがかかると思います。
ーー今後『日本全国住宅資産データ』をどのように活用していきたいと考えていますでしょうか?
越山)まず、授業でもっと活用していきたいと考えています。私が受け持っている授業の中に「GIS※実習」というコマがあります。GISを活用して、人口・災害・住宅などの地理データを重ね合わせて地域課題を分析する授業なのですが、『日本全国住宅資産データ』も活用することで、より現実の課題に近い実践的な学習にできればと考えています。
GIS:Geographic Information Systemの略で、地理的位置を手掛かりに、位置に関する情報を持ったデータ(空間データ)を総合的に管理・加工し、視覚的に表示し、高度な分析や迅速な判断を可能にする技術(引用元:国土地理院)
あとは、複数ライセンスを購入して、学内の経済や保険の研究者にも使えるようにしていますので、互いの活用方法について、情報共有もしていきたいと思っています。


あと一番は自分自身の研究で、もっと活用していきたいですね。
災害後の住宅の再建にどれくらいの費用がかかるのか、どのような支援制度が適切なのかを検討するには、『日本全国住宅資産データ』のように住宅の状況を細かく把握できるデータが欠かせません。
災害後の住宅再建には、地域ごとに異なる課題があります。被害の大きさや住宅の特徴によって、必要となる支援の内容や費用も変わっていきます。大規模災害に備えて、各市町村でどのような住宅支援策が必要になるのかを、地域ごとに詳しく分析したいと考えています。
(本インタビューは、2026年5月1日に実施されたものです)
『日本全国住宅資産データ』は、全国の住宅関連情報(築年区分・住宅価格など)を100m・250mメッシュでカバーしたデータベースです。扱いやすいデータ構成で被害シミュレーションや経済分析などにご活用いただけます。
信頼度の高い情報ソースを組み合わせて開発し、住宅棟数や価格データなどが含まれ、CSVのファイル形式を採用しているので、読み込みや分析も簡単に行うことができます。

ご要望に応じたプランもご用意しておりますので、お気軽にお問い合わせください。
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クロード・ミュトスなどのフロンティアAIが変えるサイバーセキュリティの前提
2026年4月のClaude Mythos Preview発表を起点に、フロンティアAIのサイバー分野での能力評価や、それに対する各国・各機関の対応は約2か月で急展開した。
評価機関による能力検証、日本政府・金融当局による異例の速さでの対応要請、そして米政府による輸出規制まで、AIとサイバーセキュリティの問題は技術面にとどまらず、規制や政策にも広がった。
| 日付 | 内容・説明 | 出典URL |
|---|---|---|
| 2026年4月7日 | AnthropicがClaude Mythos Previewを発表。ゼロデイ脆弱性の自律的発見・悪用能力を持つとされたが、安全上の懸念から一般公開は見送られ、Anthropicが立ち上げたセキュリティプログラム「Project Glasswing」経由のみで提供。主要OS・ブラウザからのゼロデイ脆弱性発見・攻撃手法の確立に成功したと報告。 | https://red.anthropic.com/2026/mythos-preview/ |
| 2026年4月13日 | 英国AISIが評価結果を公表。Mythos Previewが従来モデルを上回るサイバー能力を持つと報告。2025年4月以前はどのモデルも解けなかったテストで、Mythosは73%の成功率を記録。 | https://www.aisi.gov.uk/blog/our-evaluation-of-claude-mythos-previews-cyber-capabilities |
| 2026年4月21日 | Mozillaの評価でFirefoxから271件の新規脆弱性を発見。Mozillaは「世界最高レベルのセキュリティ研究者と同等の能力を持っている」と言及し、強い危機感を表明。 | https://blog.mozilla.org/en/privacy-security/ai-security-zero-day-vulnerabilities/ |
| 2026年4月24日 | 金融庁が「AI脅威に対する金融分野のサイバーセキュリティ対策強化に関する官民連携会議」を開催。金融業界・IT事業者・日本銀行を集め対応を協議。 | https://www.fsa.go.jp/news/r7/sonota/20260514/20260514.html |
| 2026年4月30日 | AISIがGPT-5.5のサイバー能力評価を公表。Mythos Previewと同等水準であることを報告。 | https://www.aisi.gov.uk/blog/our-evaluation-of-openais-gpt-5-5-cyber-capabilities |
| 2026年5月18日 | 内閣官房・警察庁・金融庁・デジタル庁・防衛省など14省庁が連名でAIサイバーセキュリティ対策パッケージ「YATA-Shield」を公表。 | https://www.cyber.go.jp/pdf/press/20260518_AI_CS_Package.pdf |
| 2026年5月22日 | 金融庁・日本銀行が全金融機関へ「フロンティアAIによる脅威変化を踏まえた金融機関等の短期的な対応」を連名で発表。経営層の直接関与のもと、おおむね1か月程度を目途に対策実施を要請。 | https://www.fsa.go.jp/news/r7/sonota/20260522-5/01.pdf |
| 2026年6月9日 | AnthropicがClaude Fable 5およびClaude Mythos 5を発表。Fable 5はサイバーや生物・化学分野へのガードレール付きで一般公開。Mythos 5はProject Glasswing参加組織への限定提供。 | https://www.anthropic.com/news/claude-fable-5-mythos-5 |
| 2026年6月12日 | 米政府の輸出規制指令を受け、AnthropicがFable 5・Mythos 5へのアクセスを即時全停止。ジェイルブレイク手法の存在を政府が把握したことが理由とされている。 | https://www.anthropic.com/news/fable-mythos-access |
前章で整理したとおり、フロンティアAIを巡る動向は約2か月で急展開した。なぜこれほどの懸念が急速に高まったのか。以下では、フロンティアAIが実際に何を変えたのかを整理する。
これまでサイバー攻撃の糸口となる脆弱性(システムの欠陥)を発見するには、高度な専門知識を持つセキュリティ研究者が長時間かけて調査する必要があった。
しかし、フロンティアAIの登場により、この前提が崩れつつある。Mozillaの評価では、Firefoxから271件の新規脆弱性が発見されている※1。
脆弱性を調査した期間は報告されていないものの、Mythos Previewの発表からMozillaの報告までの期間を考えると、2週間以内という短期間で271件もの脆弱性を発見したと推測される。なお、同社は「世界最高レベルのセキュリティ研究者と同等の能力を持っている」と言及しており、AIが人間の専門家に匹敵する水準に達しつつあることを示している。

ここで注目すべきは、「AIが脆弱性を見つけた」という事実そのものではない。より本質的なのは、脆弱性発見に必要な時間とコストの水準が大きく変わりつつある点である。
これまで脆弱性の発見には、高度な専門人材と、数週間から数か月単位の時間、そして相応のコストが必要であった。それがAIの活用によって、より短時間で低コストに行えるようになりつつある。脆弱性発見のコストと時間が下がることで、攻撃者が悪用できる脆弱性の数は増え、発見から攻撃までの時間は短くなる。
フロンティアAIの登場が単なる「性能向上」ではなく、セキュリティの前提を変える出来事として受け止められている理由はここにある。
さらに重要なのは、こうした能力がMythos Preview固有のものではないという点である。英国AISIの評価では、OpenAIのGPT-5.5もMythos Previewと同等水準の脆弱性発見や悪用支援の能力を持つと報告されている※2。特定モデルの問題ではなくAI全体の底上げが進んでいる。
加えて、高額な最先端モデルを使わなくとも同様のことが可能になりつつある。一般向けに公開されているモデルを用いて、個人の研究者がWindowsの月例セキュリティ更新から攻撃コード(Exploit)を半自動で生成するツールを300ドル程度のコストで構築・公開した事例がある※3。
この事例が示すのは、AIによる脅威の大きさはモデルの性能だけでは決まらないということである。ツールやモデルを組み合わせて目的の処理を行わせる設計力(ハーネスエンジニアリング)によって結果は大きく変わる。かつては高度な専門知識を持つ攻撃者にしか実現できなかった攻撃手法が、設計力さえあれば一般に入手可能なAIで再現できる段階に来ている。
こうしたAIによる脆弱性の発見は、攻撃者だけが使うわけではなく、脆弱性を探して報告する研究者にも広く使われている。その結果、脆弱性の報告件数が爆発的に増加し、対応する側が追いつけない状況が生まれている。この背景には「AI Slop(低品質なAI生成報告の大量発生)」とも呼ばれる問題もある。
Linuxの開発者であるLinus Torvalds氏は、AIを使ったバグハンターの急増により、Linuxのセキュリティに関する開発者間のメーリングリストが「ほぼ管理不能」な状態になったと発言している※4。
また、脆弱性の報奨金制度(バグバウンティ)でも同様の問題が表面化しており、AIを使った報告が殺到する一方、審査・対応する人員は増えず、制度が機能不全に陥りつつある※5。
重要なのは、問題は「AIが脆弱性を見つけすぎる」ことではなく、見つかった脆弱性を修正・対処する人間側の能力が追いついていない点にある。課題の中心は、脆弱性を見つける段階から、修正し、優先順位を付けて対応する段階へ移行しつつある。

一方で、AIが大量に発見した脆弱性が直ちに企業への侵害につながるとは限らない。攻撃を成功させるには前提条件が必要な場合もある。攻撃者は脆弱性の悪用に加え、設定不備の悪用やソーシャルエンジニアリングなどを組み合わせ、検知を回避しつつ侵入を進める。
AI時代においては、脆弱性の報告件数がこれまでとは比較にならない規模で増加することが予測される。すべての脆弱性に均等に対応しようとすれば、対応に必要な人員や時間はすぐに不足する。企業に求められるのは、自組織のシステム構成や業務上の重要度を踏まえ、悪用された場合の影響度と実際に悪用される可能性の両面からリスクを評価し、優先度を付けて対応することである。
米国サイバーセキュリティ・インフラセキュリティ庁(CISA)は、従来の「パッチが公開されたら即時適用」という方針から、脆弱性ごとのリスクで優先度をつける方式への転換を表明している※6。全件対応から重点対応への移行は、企業のリスク管理においても参考になる考え方である。
国内においては、金融庁・日本銀行が5月22日付で全金融機関におおむね1か月程度をめどに対策を実施するよう要請している※7。経営トップの直接関与を前提とした要請であり、セキュリティ対応を担当部門だけの問題として扱えない状況になっている。金融機関以外の企業においても、同様の視点で体制を見直すことが求められている。
これらの指針を参考に、ここでは、対応の要点を次の3点に絞って示す。
攻撃者が最初に狙うのは、インターネットから直接アクセスできるシステムや機器である。自組織のどの資産が外部に公開されているかを把握できていない企業は、AIによる自動スキャンの標的になりやすい。
まず自組織の外部公開資産を網羅的に洗い出し、業務上不要なものは速やかに閉鎖・遮断することが第一の優先事項である。攻撃者に狙われやすい領域を減らすことが、リスクの低減につながる。
また、メールやブラウザなど外部と直接やり取りするソフトウェアについても、自社で使用しているバージョンや製品を正確に把握しておくことが重要である。これらは脆弱性が発見された際に攻撃者が悪用を試みる対象となるため、パッチ適用の対象を即座に特定できる状態を整えておく必要がある。
今後、発見された脆弱性すべてに即時対応することは現実的ではない。
対応の優先基準として有効なのが、米国CISAが公表するKEV(Known Exploited Vulnerabilities:実際に悪用が確認されている脆弱性の一覧)である。理論上のリスクにとどまらず、攻撃者に実際に使われている脆弱性を示すリストである。ここに掲載された脆弱性への対応を最優先とすることで、限られたリソースを効果的に配分できる。

ただし、日本国内のみで使用されているソフトウェアはKEVには掲載されないことがあるため、JPCERT※8やIPA※9が発信する注意喚起も合わせて参照することを推奨する。
AI時代において、脆弱性の「発見」は加速することが予想される。問題は、その後の評価、修正、適用の工程にある。
発見された脆弱性は、報告、内容確認、修正方針の決定、テスト、本番環境への適用という段階を経る。この一連の対応には、多くの組織で数週間から数か月かかる。この間が攻撃者にとっての好機となる。自組織の脆弱性対応フローを改めて点検し、どの工程に時間がかかっているかを把握することが急務である。
承認プロセスの簡略化、テスト環境の整備、対応人員の確保など、ボトルネックの解消に向けた具体的な対策を講じることが求められる。
また、パッチが存在しないゼロデイ脆弱性の悪用に備え、検知・対応体制(EDR、SIEMなど)の見直しと強化も併せて進める必要がある。
フロンティアAIがもたらした最大の変化のひとつは、脆弱性発見能力の向上である。
しかし、より重要な問題は、攻撃側のコストが下がり続ける一方で、防御側の対応リソースが追いつかないという構造的な非対称性にある。すべての脆弱性に均等に対応しようとするのではなく、自組織への影響度と悪用可能性に基づいて優先度を判断することが、現実的なリスク管理の出発点となる。
AI時代においては、脆弱性の報告件数の増加と修正対応の負荷増大は今後も続くと予測される。企業は外部公開資産の継続的な把握、優先度に基づくパッチ適用体制の整備、検知・対応能力の強化を軸に、体制を継続的に見直していくことを求められる。
※1 Mozilla Foundation 「The zero-days are numbered」
https://blog.mozilla.org/en/privacy-security/ai-security-zero-day-vulnerabilities/
(最終アクセス2026年6月18日)
※2 AI Security Institute 「Our evaluation of OpenAI's GPT-5.5 cyber capabilities」
https://www.aisi.gov.uk/blog/our-evaluation-of-openais-gpt-5-5-cyber-capabilities
(最終アクセス2026年6月18日)
※3 Origin社 「The Mythos We Have At Home: A Patch-Diffing Pipeline for N-Day Generation」
https://www.originhq.com/research/patch-diffing-pipeline
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※4 The Register 「Linus Torvalds says AI-powered bug hunters have made Linux security mailing list ‘almost entirely unmanageable’」
https://www.theregister.com/security/2026/05/18/linus-torvalds-says-ai-powered-bug-hunters-have-made-linux-security-mailing-list-almost-entirely-unmanageable/5241633
(最終アクセス2026年6月18日)
※5 The Register 「HackerOne takes an axe to its bug bounty rewards」
https://www.theregister.com/security/2026/05/21/hackerone-takes-an-axe-to-its-bug-bounty-rewards/5244458
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※6 CISA 「BOD 26-04: Prioritizing Security Updates Based on Risk」
https://www.cisa.gov/news-events/directives/bod-26-04-prioritizing-security-updates-based-risk
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※7 金融庁『「フロンティアAIによる脅威変化を踏まえた金融機関等の短期的な対応」に係る要請について』
https://www.fsa.go.jp/news/r7/sonota/20260522-5/01.pdf
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※8 JPCERT「注意喚起」
https://www.jpcert.or.jp/at/2026.html
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※9 IPA 「重要なセキュリティ情報」
https://www.ipa.go.jp/security/security-alert/index.html
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【終了】<オンラインセミナー>富士山降灰リスクとBCM見直しのポイント ~降灰リスクと対策の必要性を理解し、リスクを踏まえたBCMの見直しをしよう~
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雨水流出抑制の充実を通じた都市型洪水被害の軽減 ~第6次社会資本整備重点計画の推進に向けて~【政策提言レポート(2026年7月)】
混迷を極める国際情勢、また中東情勢に伴うエネルギー危機など、地政学リスクが顕在化し、経済安全保障の文脈から、わが国が自律的に経済を運営する態勢を整えることは、かつてないほどに重要性を増している。経済運営の効率性、産業競争力の向上、安定的な国民生活を支えるのは、国のインフラとその強靱性である。
一方、わが国において、高度経済成長期以降に急速に整備されたインフラは、老朽化の進行が指摘される。2030年には、道路や橋の54%、河川管理施設の42%が建設後50年以上経過するとされている。他方、それらを維持・保全する市区町村における土木部門の職員は、ピーク時の1996年から26.4%減少、また約半数の市区町村において技術系職員数は5人以下にまで減少し、さらに、維持・保全の実務を担う建設業における就業者数は、ピーク時から30%減少、建設業就業者の高齢化も進行し、次世代への技術継承が大きな課題とされているⅰ。
以上のようなことを背景に、国のインフラ政策の「羅針盤」である「第6次社会資本整備重点計画」(以下、同計画)は、2026年1月16日に閣議決定された。ゴールを「人口減少という危機を好機に変え、一人ひとりが豊かさと安心を実感できる持続可能な活力ある経済・社会を実現」に設定し、交通政策基本計画と一体的に推進されている。
同計画の重点目標として、地域経済の核となる集積づくりと広域連携、地域の将来像を踏まえたインフラの再構築などの「活力のある持続可能な地域経済社会の形成」(重点目標Ⅰ)、持続的で力強い経済成長の実現、暮らしと経済の礎となる防災・減災、国土強靱化などの「強靱な国土が支える持続的で力強い経済社会」(重点目標Ⅱ)、2050年カーボンニュートラルの実現、自然共生社会の実現など「インフラ分野が先導するグリーン社会の実現」(重点目標Ⅲ)、地域のインフラを支える地方公共団体の管理機能の維持、建設業等の担い手の確保・育成、生産性向上、新技術・DXによるインフラの価値向上など「戦略的・計画的な社会資本整備を支える基盤の強化」(重点目標Ⅳ)の4つを掲げ、それぞれの施策にKPIを設定し、推進が計画されている。

同計画の重点目標Ⅱ「強靱な国土が支える持続的で力強い経済社会」が掲げられ、また、「我が国経済は、過去30年続いたデフレ経済から成長型経済に移行する転換点にある。人口減少、とりわけ生産年齢人口が減少する中で、生産性を高め、持続的に成長する力強い経済を実現するために、経済活動の基盤となる社会資本整備を進めなければならない。」と、経済運営の基盤として強靱な国土の重要性に言及している。
経済活動の基盤という観点から、とりわけ都市機能の維持と、災害が生じても被害を抑制し経済活動を止めない都市のあり方が求められる。中でも、水災害は特定の地域に面的に被害を及ぼし、地域経済の停滞と空洞化といった中長期的なダメージにつながる。
この観点から、近年多発する都市型洪水の抑制は、防災・減災及び国土強靱化を進める上で不可欠であり、そのためには、下水道等の基幹インフラの整備に加え、雨水の流出を抑制する取組を適切に組み合わせていくことが求められる。
また、こうした取組は、重点目標Ⅱに加え、重点目標Ⅲのうち「自然共生社会の実現」とも関係する。すなわち、自然が有する貯留、浸透、遊水等の機能を活用し、災害リスクの低減と防災効果の向上を図るという考え方である。以下では、このような問題意識の下、都市型洪水の抑制に向けた具体的な方策について述べる。
気候変動の進行、ヒートアイランド現象の影響で、短時間の局地的な大雨(ゲリラ豪雨)が増加している。気象庁によれば、統計期間の最初の10年(1976年~1985年)と最近10年間(2016年~2025年)を比較すると、1時間降雨量50mm以上の平均年間発生回数は1.5倍(約226回)に増加しているⅱ。1976年~1985年は数多くのインフラが建設された時期であるが、その時点での想定を上回る降雨量が生じている可能性がある。将来推計では、気候変動の進行に伴い、1時間降雨量50mm以上の年間発生回数が、2℃上昇シナリオ(RCP2.6)で約1.8倍、4℃上昇シナリオ(RCP8.5)では約3倍に増加するとされているⅲ。短時間強雨がさらに増加することを見据えた対策が必要である。
![[全国アメダス]1時間降水量50mm以上の年間発生回数](/contents/img/products/2574/fig2.png)
![[全国アメダス]1時間降水量50mm以上の年間発生回数](/contents/img/products/2574/fig2.png)
こうした降雨量の増加は、物理的な被害の拡大につながっている。水災を原因とする損害保険会社の保険金の支払い(住宅物件)は、2013~2017年度平均の94億円に対し、2018~2022年度平均は485億円と、経済的な被害は5倍以上に増加し、国民生活への影響は傾向として大きくなっているⅴ。


また、地表が宅地、建物や道路舗装で覆われている都市部では、このような短時間の局地的な大雨があると、雨が土壌に浸透して吸収されることなく下水道に流れ込み、その排水能力を超えてあふれ出し、建物に加えて、地下に設置されることの多い建物内の電気設備、受変電設備や地下鉄、地下の商業施設などにも浸水し、都市機能に影響が生じうる。
降雨量の増加に対して、従来のハードインフラの拡大を中心とする対策には限界がある。そこで、排水能力のみに頼るのではなく、都市の中に、貯留、浸透、遊水の機能を分散して設け、雨水の下水道への流出を一時的に抑制することによって、浸水被害を軽減する対策が講じられている(雨水の分散を通じた流出抑制)。
同計画においては、重点目標Ⅲ「インフラ分野が先導するグリーン社会の実現」において、「『事前防災』の加速化・深化」を挙げ、施策として、「都市における・・・雨庭の整備等、地域において自然の多様な機能を有するグリーンインフラを活用したインフラ整備やまちづくり等を進め、気候変動に伴うリスク・・・を低減していく。」とその推進が掲げられている。
国土交通省が2021年に策定した浸水対策の指針「雨水管理総合計画策定ガイドライン(案)」では、気候変動の進行を踏まえ、降雨量が10~15%増加することを前提に計画を策定することを求めている。一方、局地的大雨については、「今回設定した値より大きくなる」「現在の気候変動モデルで適切に表現するには限界がある」と記載するにとどまり、自治体は別途、対策を講じる必要があるⅶ。都市型洪水による被害の抑制に向けて、基幹的な治水能力の整備に加え、排水能力を一時的に超える降雨量があることを想定し、地域の雨水浸透、貯留機能など雨水流出抑制をフル活用して、都市型洪水の抑制を図ることが必要である。
都市型洪水の抑制のためには、地理的に雨水が集中しやすい地域の特定、河川や下水道の排水能力、公園や民間の雨水貯留施設などの雨水流出を抑制する施設を一体的に管理する必要があるが、一般に地方自治体は、河川整備、下水道整備、土地利用規制、災害時の避難計画などについて、それぞれを所管する部局ごとに管理すること(縦割り行政)が多い。そのため、対策の重複や抜け漏れ、優先順位付けの不整合など、地域のレジリエンスという視点で見た場合、必ずしも全体最適が実現していないこともある。防災分野の横串機能と期待される防災職員は、3割の市町村では配置されておらず、配置されている場合も総務課の職員が兼務するなど各部局の調整役としてのみ機能することが多い。2026年11月に発足予定の防災庁の設置を機に、地方自治体においても、調整にとどまらず、各部局を横断して防災分野の意思決定を一元的に担う司令塔機能を有する会議体または組織を整備することが必要である。
また、民間施設を中心として点在する雨水槽、浸透桝、雨水再利用設備等の貯留容量を有効活用することも有用である。地方自治体が設備の管理者に働きかけ、一定規模以上の雨水貯留施設を対象として、水位や貯留可能量をセンサーやアプリ等によりリアルタイムで把握する仕組みを導入し、大雨が予想される際には、事前の排水を促して貯留能力を高めるルールを整備するなど、地域全体の雨水流出抑制策として位置付けることが望ましい。好例として、東京都墨田区では、区内801箇所、総貯留量26,780㎥(一般的な25mプール約70杯分)ⅷの雨水タンクの水位をセンサーとアプリで把握し、貯留可能量を有効活用する取組が開始しているⅸ。
また、地方自治体においては、関係部局の議論の土台となる共通データ基盤である、地区単位の浸水リスクを可視化できる国土交通省の3D都市モデル「PLATEAU」などを活用し、重点的に対策すべきエリアを特定し、雨水流出抑制効果を検証しながら対策を進めるべきである。
これらのセンサーや3D都市モデルといった新しい技術を実効的に活用するために、職員の育成や自治体間の広域連携を進め、防災分野におけるデジタル技術の利活用を進めていくことも重要である。
雨水貯留施設などの既存設備を地域の防災・減災資源として捉え直し、自治体が把握・共有・運用を支える仕組みの整備を普及させていくことが必要である。
対策により軽減される浸水被害を可視化し、住民・事業者・行政がその効果を具体的に共有することで、導入に向けた合意形成、整備箇所の優先順位付け、予算確保や投資判断を進めることも重要である。一方、地方自治体からすれば、民間の土地や施設を管理する根拠に欠けることから、自らが主導しづらいことも生じうる。産学連携で進める地域の浸水シミュレーションなどの取組を地方自治体がサポートすることも一案である。
例えば、熊本県熊本市上熊本周辺を対象とした雨庭の効果検証では、流出解析でピーク流量が約3割低下し、1,546箇所の施設(公共施設、商業施設、住宅)と6箇所の公園への雨庭の導入により、浸水面積が約1.8万m²(学校の校庭1~2個分)減少、家屋被害は、床上浸水が187戸から134戸へと53戸減少したとされているⅹ。また、広島県呉市中央地区を対象とした研究では、緑化公園、校庭芝生化、浸透桝、透水性舗装等を導入した場合、総氾濫量が約3割、床上浸水面積が約5割減少し、浸水深0.5m以上の洪水暴露人口と経済被害も約5割減少することが示されているⅺ。大きな成果を上げている実例として、新横浜公園のように、公園全体を遊水地として活用、大規模な空間を確保することで、約390万㎥(一般的な25mプール約1万杯分)を貯留し下流域の浸水リスク低減に大きく寄与する例もあるⅻ。
雨水流出抑制対策の中でも特に、貯留槽、浸透桝、雨庭などは、整備の主体となる企業や個人にとって、費用対効果が直接的に見えにくく、自主的な整備に任せることは現実的ではない。地方自治体は、民間建物における雨水貯留浸透施設の設置義務を通じて普及に努め、大きな効果をもたらすものにはインセンティブを設けて、地域全体の雨水流出抑制能力を高める取組が必要である。
例えば、佐賀県では、六角川上流域の特定都市河川流域内において、1,000m²以上の開発を対象に、雨水流出量を増加させないよう雨水貯留浸透施設の設置を義務付け、知事の許可を必要としている。
また、東京都世田谷区では、区内全域において、敷地面積150m²以上の建物の新築・改築、駐車場の新設・改修、都市計画法に基づく開発行為などを対象に、設置計画書の提出を義務付け、民間施設への雨水流出抑制施設の設置を求めている。もっとも、東京都内においても、雨水流出抑制施設の小規模建築物への設置は一律に義務化されていないため、小規模な建築・開発についても地域の実情に応じた義務付けや誘導策を組み合わせていくことが考えられる。
インセンティブについては、東京都が2024年度に「東京グリーンビズ」の一環として、100m²以上の雨水流出抑制に資する民間施設を対象に最大1,000万円を補助する制度を設けⅹⅲ、大学やビル、ホームセンターの敷地内などで雨庭等の整備が進んでいるⅹⅳ。
また、別の目的で設けられた認定制度を、都市洪水抑制に役立てる観点から推進することも有効である。国土交通大臣が質の高い緑化事業を認定する優良緑地確保計画認定制度(TSUNAG)は、雨水流出抑制を直接の目的とするものではないが、都市の緑化を促進しながら、雨水の浸透・貯留機能も高める効果がある。政府や地方自治体がこのような複合的な効果を持つ制度の浸透をより一層、図ることも望ましい。
以上に述べたように、インフラは、これからわが国が実現すべき経済成長の礎となるものであるが、一方では、国民の人口減少、加えてインフラの維持管理に従事する人の減少や高齢化などを踏まえ、効率的、効果的に整備する視点が重要である。また、同計画に記載されているように、地域の将来像を踏まえたあり方も検討すべきである。
そのような中で、増え続ける短時間の局地的な大雨に備えるためには、ダムや河川などの大規模なハードインフラの整備だけでなく、多様な手法を組み合わせて災害による被害の抑制に手を尽くすことが求められる。その選択肢の一つがこれまでに述べた雨水流出抑制策である。とりわけ、雨水を一時的に貯留・浸透させる雨庭等の分散型対策については、導入による社会全体にとっての費用対効果を分かりやすく示し、行政による支援や民間における整備を促進することが重要である。
一方、雨水流出抑制策が必要とする土地の面積や場所の制約を考えれば、建物が密集する都市で設置を拡大するには限界もある。この20年間で浸水リスクが高い地域の人口は増加し、2,600万人が居住すると言われるⅹⅴ。また、地価の高騰から、不動産選定の際には、価格が重視され、安全性の優先順位が落ちているとの指摘もある。
気候変動への適応を進めていくため、官民ともにインフラ整備を拡充して、全ての地域で安全の確保を目指すのか、あるいは、財政の限界や社会資本への投資と効果のバランスを踏まえて国民の生命及び財産を守る観点から、土地の有効活用を図るとともに、浸水リスクの高い地域における土地利用規制を効果的に活用していくのか、改めて検討し直す時期に来ている。

参考文献
ⅰ 国土交通省 総合政策局長 鶴田浩久 『第6次社会資本整備重点計画の概要』 令和8年2月9日
ⅱ 気象庁 『大雨や猛暑日など(極端現象)のこれまでの変化』
ⅲ 気象庁 『日本の気候変動2025』表5-2.1 20世紀末(1980~1999年の平均)と比べた21世紀末(2076~2095年の平均)の雨の降り方の変化より。
※RCPはIPCC第5次評価報告書(AR5)で用いられた将来シナリオであり、AR6ではこれに代わってSSPシナリオが主に用いられている。本報告書では、参照可能な研究の多くがRCPを用いていることから、RCPに基づく予測結果を中心に記載している。
ⅳ 棒グラフ(緑)は各年の年間発生回数を示す(全国のアメダスによる観測値を1,300地点あたりに換算した値)。折れ線(青)は5年移動平均値、直線(赤)は長期変化傾向(この期間の平均的な変化傾向)を示す。
ⅴ MS&AD「TCFD・TNFDレポート2025」にて損害保険料算出機構『火災保険住宅物件事故種別支払い統計表』より。
ⅵ 損害保険料率算出機構『火災保険住宅物件事故種別支払統計表』よりMS&ADインシュアランスグループにて作成。
ⅶ 国土交通省 「雨水管理総合計画策定ガイドライン(案)」【本編】(令和3年11月) 『降雨量変化倍率については,積乱雲の発達等の短時間スケールの場合は今回設定した値より大きくなること,現時点では下水道による都市浸水対策に係る計画の対象としている降雨及び雨域面積,降雨継続時間,都市気候について現在の気候変動予測モデルで適切に表現するには限界があること,近年の浸水被害の原因となっている線状降水帯やゲリラ豪雨等の気象現象は考慮されていないことに留意する必要がある。』と記載されている。
ⅷ 長さ: 25m×幅: 12.5m×平均水深: 約1.2mのプールの体積=25×12.5×1.2=375立法メートル。26,780÷375=71.4から「25mプール 約70杯分」とした。
ⅸ NPO法人雨水市民の会『雨水タンクは洪水防止に役立つか?雨水タンクの見える化』令和7年8月4日
ⅹ MS&ADインターリスク総研株式会社 『雨庭の効果検証(熊本市)』 令和7年12月1日
ⅺ 「地域社会環境を考慮したグリーンインフラの導入シナリオ作成とその評価 -洪水抑制効果に着目したグリーンインフラの戦略的導入へ向けて-」(森本匠、平井慎二、荒木良太、田村将太、田中貴宏、横山真、松尾薫、田中健太『都市計画論文集』Vol.59 No.3、2024年10月)
ⅻ 国土交通省 関東地方整備局 京浜河川事務所 『鶴見川多目的遊水地』鶴見川多目的遊水地では、平成15年に運用開始してから令和5年3月末までに22回の流入実績があるが、特に平成26年10月の台風18号時には、運用開始以来最大の約154万立方メートルの洪水調整を行い、下流の水位低減に貢献した。
ⅹⅲ 東京都 雨水流出抑制:グリーンインフラの導入拡大
ⅹⅳ 讀賣新聞オンライン『治水に「雨庭」じわり浸透…「内水氾濫」防ぎ環境保全も』令和8年6月9日
ⅹⅴ 朝日新聞 「浸水リスク地域に2600万人居住 河川氾濫 20年間で90万人増」 令和6年9月29日
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中国における2025~2026年の風水災概況と企業の事業継続計画(BCP)策定【中国風険消息<中国関連リスクニュース>(2026年6月)】
2025年の中国では、全国的に降水量が平年を上回り、雨季の開始時期も例年より早かった。特に秋季の降水量は大幅に増加し、台風の発生数も多く、秋台風の活動が活発であったことから、年間を通じて異常気象が頻発した。
2025年の全国平均降水量は668mmとなり、1951年以降の平均値を4.5%上回った。また、大規模な降雨が頻発し、華南南部や湖南省北西部などでは累積降水量が1,600mmを超えた地域も見られた。季節別では、夏季および秋季の降水量が特に多かった。夏季の全国平均降水量は336mmで、平年比1.3%増加した。一方、秋季の全国平均降水量は162.1mmとなり、平年同期比33.6%増加した。これは1961年の統計開始以降、同時期として過去最高の水準であった(図1)。さらに、7月23日から29日にかけて北京市では147時間に及ぶ継続的な降雨が発生し、一部地域では累積降水量が500mmを超えた。これは同地域の年間平均降水量に匹敵する規模であった(図2)。


台風活動についても、2025年は中国へ影響を及ぼした台風の発生数・上陸数ともに平年を上回った。
年間の台風発生数は27個で、このうち10個が中国へ上陸した(図3)。2025年の台風は進路変化が大きく、特に秋季の活動が活発であった。複数の台風が中国へ繰り返し上陸し、特に9月から10月にかけては4個の台風が連続して上陸するという比較的まれな状況が発生した。
その結果、多くの地域で強風・豪雨による被害が発生した(1)。中でも、9月24日に広東省陽江市へ上陸した台風「樺加沙」は、超大型台風へ発達し、その勢力を81時間以上維持した。強風・豪雨・高潮が同時に発生したことで、複合的な災害を引き起こした。この災害では、珠海市において深刻な海水の逆流が発生したほか(図4)、森林、太陽光発電設備、市政インフラ、通信設備、水利施設等が広範囲にわたり損壊し、インフラおよび地域経済へ大きな損失をもたらした(2)。


2026年も中国南部では、6月を中心に台風・豪雨シーズンを迎える。地球温暖化をはじめとする気候変動の影響により、異常気象発生リスクは引き続き高い状況にある。各種予測によれば、2026年は浙江省南部、福建省の大部分、広東省南部および海南省などで、降水量が平年同期比20~50%程度増加すると予測されている。また、年間で中国へ上陸する台風は7~9個程度と見込まれており、台風シーズンの開始・終了時期はいずれも平年より早く、勢力も平年を上回る見込みである。主な影響地域は華東および華南の沿海部になると予測されている(3)。
中国沿海部の主要省・直轄市における2026年台風・豪雨シーズンの風水災予測を表1に示す。
| 省・市 | 災害種別 | 予測内容 |
|---|---|---|
| 広東省(4) | 水害 | 7~9月の総降水量は平年比10~30%増となる見込み。豪雨・洪水発生リスクが高い。 |
| 台風 | 上陸または重大な影響を及ぼす台風は5~6個と予測される。勢力はやや強く、強台風または超大型台風発生の可能性が高い。台風シーズン開始時期も早まる見込み。 | |
| 福建省(5) | 水害 | 雨季前半の総降水量は平年比10~20%減となる見込み。 |
| 台風 | 7~9個の台風が影響を及ぼし、そのうち1~2個は重大な影響を及ぼす可能性がある。 | |
| 浙江省(6) | 水害 | 浙江省中部および南部では豪雨・洪水・都市型浸水が発生しやすく、強い対流性気象災害のリスクが高い。 |
| 台風 | 「前半多く後半少ない」傾向となる見込み。3~5個の台風が影響を及ぼし、そのうち1~2個は上陸または重大な影響を及ぼす可能性がある。 | |
| 上海市(7) | 水害 | 異常気象発生リスクが高い。降水量はやや多く、中心市街地では短時間強雨や対流性降雨が発生しやすい。 |
| 台風 | 2個程度の台風が影響を及ぼす見込みであり、上海へ直接上陸する可能性もある。勢力は平年より強く、秋台風の活動も活発となる見込み。 | |
| 江蘇省(8) | 水害 | 年間降水量は平年を上回る見込み。6月は平年を下回る一方、7~8月は平年を上回ると予測される。 |
| 台風 | 台風活動の活発化時期が早まる見込み。2~3個の台風が影響を及ぼし、そのうち1個は比較的大きな影響をもたらす可能性がある。 |
豪雨や台風等の自然災害による人的被害や経済的損失を防止するため、企業には十分な災害対策の整備が求められる。
現在、中国における洪水・水防管理体制は、主に政府主導によるトップダウン型の管理方式が採用されている。法律上の責任主体は各級政府および一部の水防責任を有する企業に限定されているものの、多くの企業では行政要求等に基づき、水防計画や三防計画(洪水・台風・高潮対策計画)等の防災文書を整備している。しかし、実務上は標準的な雛形や作成指針が不足していることから、以下のような課題が見受けられる。
その結果、計画を策定していても、実際の災害時に十分機能しないケースが発生している。
また、多くの緊急時対応計画では、短期的な初動対応や避難誘導に重点が置かれており、「緊急避難」を主目的としている。一方で、災害後の事業復旧や操業再開に関する内容まで整理されているケースは比較的少ない。
これに対し、事業継続計画(BCP)は法令で作成が義務付けられている文書ではなく、企業が自主的に整備するケースが大半である。そのため、企業固有の事業特性や経営課題を反映しやすく、災害発生前から復旧完了までを対象とした包括的な管理を重視している。BCPには、初動対応だけではなく、事業中断後の復旧対策も含まれる。具体的には、復旧目標の設定、代替資源の確保、関係部門との連携方法等を明確化することで、災害による影響を最小限に抑え、早期の事業復旧を実現することを目的としている。この点こそが、企業においてBCPを策定する最大の意義である。緊急時対応計画とBCPの比較を表2に示す。企業が既存の緊急時対応計画にBCPの考え方を取り入れ、両者を有機的に連携させることで(図5)、事業復旧を見据えた災害対応体制を構築することができる。具体的には、各部門が災害発生前後の各時点で実施すべき対応内容や復旧優先順位等を整理し、「初動対応」と「災害復旧」の双方をカバーする総合的な災害対応文書として整備することが望ましい。
| 緊急時対応計画 | BCP | |
|---|---|---|
| 目的 |
|
|
| 内容 | 基本構成は比較的定型化されている | 企業戦略や事業特性に応じて大きく異なる |
| 対象 | 拠点単位で実施 | 他拠点との連携を含めて実施 |


ここからは、企業がBCPを策定する際のポイントについて説明する。
BCPの主な目的は、事業レベルの低下を抑制し、復旧に要する時間を短縮させることにより、災害発生時における自社およびステークホルダーへの影響を低減させることである。(図6)。


実効性の高いBCPを策定するためには、あらかじめ以下の事項を明確にしておく必要がある。
以下、それぞれについて説明する。
最優先事項は従業員の安全確保である。そのうえで、設備・資産等の保護を図り、重要業務の中断による影響を最小限に抑えることを目的とする。
BCPを適用する対象拠点および施設範囲を明確にする。グループ企業や大規模企業では、研究開発拠点、工場、倉庫等、複数の拠点を保有している場合があるため、各拠点の機能や特性に応じたBCPを策定する必要がある。また、過去の災害履歴や自然災害リスク評価結果を踏まえ、リスクの高い拠点や災害発生時の影響が大きい拠点から優先的にBCPを整備することが望ましい。
災害発生後は、人員や資源が制約されるため、企業存続に不可欠な業務を優先的に復旧する必要がある。一般的には、主力製品の生産や重要顧客向けサービス等が対象となる。また、重要業務を選定する際には、生産活動等の直接業務だけでなく、それを支える間接業務についても考慮する必要がある。
具体例を表3に示す。
| 重要業務 | 業務分類 | 関連業務例 |
|---|---|---|
| 直接業務 |
|
| 間接業務 |
|
災害発生時には通常業務が停止し、企業活動の重点も大きく変化する。
例えば、設備部門や人事部門は、平常時と比較して大幅に業務負荷が増加することが想定される。
そのため、災害発生時には平常時とは異なる災害対応体制を構築することが望ましい(図7)。
また、新たな体制構築に伴い、報告ルートや情報共有方法も変更される可能性があるため、
等についても事前に明確化しておく必要がある。


BCPの目的、重要業務および対応体制を明確化した後は、具体的な対応策の策定を行う。
対応策については、部門ごとに災害発生前後の時間軸に沿って整理することを推奨する。なお、風水災BCPにおける特徴は、被害を受ける前の段階で各種対応を行うことであり、風水災BCPのなかにそれら被災前の対応を明確にしておく。なお、企業全体としては、各部門・各時間帯で実施すべき対応事項を一覧表形式で整理し、全体像を把握できるようにすることが望ましい(表4)。一般的には、表の横軸に時間経過や事態の深刻度、縦軸に対応項目を配置し、災害発生前から復旧完了までの対応内容を整理する。なお、表中の主要項目については、次節で詳しく説明する。


事前対策および緊急対策の考え方を整理した後は、災害発生時の初動対応および災害復旧対策を具体化していく必要がある。ここでは、特に重要な項目について説明する。
BCPには、災害対応体制の発動権限者および発動基準を明確に定める必要がある。これにより、災害情報を入手した際に迅速な意思決定と対応が可能となる。また、企業は社内または周辺地域において安全な代替執務場所を確保するとともに、必要な事務機器や通信手段等を事前に準備しておくことが望ましい。代替執務場所の確保が難しい場合には、在宅勤務やオンライン勤務等の代替手段についても検討しておく必要がある。
災害情報や被災状況を迅速かつ正確に共有するためには、情報収集および報告体制を事前に整備しておくことが重要である。気象情報については、担当者を定め、多様な情報源から継続的に収集する体制を構築する。また、企業内部の被災状況や突発事象については、各部門で情報を収集し、段階的に集約する仕組みを整備する必要がある。災害発生時には情報伝達過程で認識のずれや情報漏れが発生しやすいため、事前に報告様式や集計表を作成し、収集すべき情報項目を明確化しておくことが望ましい。これにより、災害発生時に各部門が必要な情報を効率的に収集・報告できるようになる。
前述のとおり、従業員等の安全確保はBCPにおける最優先事項である。そのため、安否確認体制、出勤方針、防災資材の準備等について重点的に検討する必要がある。災害発生時には、従業員および来訪者を含む全員を対象として、毎日継続的に安否確認を実施することが重要である。また、負傷者や安否不明者が確認された場合には、担当者を指定し、継続的な状況確認および支援を行う必要がある。
出勤方針については、通勤中の事故や災害激化による帰宅困難等のリスクを考慮し、企業独自の災害レベルや気象警報基準に応じて、在宅勤務や自宅待機等を判断することが望ましい。出勤方針の例を表5に示す。また、待機要員や当直要員の安全および生活を確保するため、企業規模や配置人数に応じた防災資材・応急物資を準備しておく必要がある。
| 災害レベル | 事態の深刻度 | 台風警報 | 出勤方針 |
|---|---|---|---|
| レベル2 | 小 | 黄色警報 | 非生産部門は在宅勤務、生産関連部門は出勤 |
| レベル3 | 中 | 橙色警報 | 設備維持に必要な人員を除き、自宅待機 |
| レベル4 | 大 | 赤色警報 | 全員が安全な場所へ避難し、緊急時以外の外出を禁止 |
災害による事業への影響を最小限に抑えるためには、災害発生時および災害発生後に想定される状況ごとに対応策を準備しておく必要がある。災害によって、人員・設備・施設・システム等に障害が発生する可能性があるため、災害発生時と災害復旧時に分けて対策を整理することが望ましい。多くの企業では、緊急時対応計画において災害発生時の対応を比較的詳細に定めているため、ここでは主に災害復旧段階の対策について説明する。災害発生後、各部門は重要業務の早期復旧を最優先事項とし、人員、設備・資産、システム等の被災状況を確認する。そのうえで、
から優先的に復旧を進めることが望ましい。
復旧対策は、大きく「緊急対策」と「事前対策」の二種類に分類される。
両者にはそれぞれ特徴があり、その比較を表6に示す。
実務上は、各部門が被災原因や被災内容を踏まえ、業務継続への影響度に応じて最適な対策を選択することが重要である(表7)。
| 分類 | 定義 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| 緊急対策 | 災害発生後に実施する一時的な代替措置 |
|
|
| 事前対策 | 災害発生前に準備した標準的な復旧措置 |
|
|
| 対象部門:○○部 | |||
|---|---|---|---|
| 被災内容 | 影響 | 緊急対策 | 事前対策 |
| 人員不足 | 権限者不足 | 部門責任者が代行 | 代理権限者の指定および教育 |
| 技能者不足 | 派遣労働者による代替要員の確保 |
| |
| 設備・資産の損傷 | 生産停止 |
| 代替生産ラインおよび代替生産委託先の事前確保 |
| システム障害 | ファイル閲覧不可 | 過去資料を参照して対応 |
|
| 生産停止 | 手作業で生産実績を記録する | システム復元ポイントの設定 | |
| … | … | … | … |
BCPは策定した時点で完成ではない。企業組織や事業内容が変化すると、既存のBCPが実態に適合しなくなる可能性があり、そのため、PDCAサイクル(図8)を活用し、継続的に見直し・改善を行うことが必要である。その手段として有効なのが、机上演習である。机上演習では、各部門に対して災害シナリオや被災状況を提示し、BCP、緊急時対応計画および各種手順書に基づき対応を検討し、実施する。演習を通じて、
といった課題が確認された場合には、BCPの改訂・補足を行う。また、机上演習は従業員にBCPを浸透させるとともに、文書の有効性を検証するよい機会でもある。このため、BCPの実効性向上および継続的改善の観点から、少なくとも年1回程度は机上演習およびBCP見直しを実施することが望ましい。


本稿では、風水災を対象としたBCPの策定および見直しに関する基本的な考え方と進め方について紹介した。企業や工場においては、本稿を参考として既存の緊急時対応計画と組み合わせ、自社の事業特性や拠点特性に適したBCPを構築していただきたい。また、BCP策定や風水災に関する日常点検・対策の実施にあたり、課題やお困りごとがあれば、専門機関へ相談しながら取り組むことも有効な選択肢となる。
最後に、本稿が企業の風水災対策強化の一助となり、2026年以降の台風・豪雨シーズンを安全に乗り越えるための参考となれば幸いである。
【参考文献】
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拠点の水リスク分析サービス「流域リスクレンズ」
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【終了】自治体総合フェア2026出展のお知らせ ~AIを活用した自然災害被害推定・災害廃棄物量推計による、自治体向け初動対応・災害対応力強化ソリューションをご紹介~
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ISO45001の要求事項を確実に実践するためのポイントは?労働安全衛生に携わるコンサルタントが詳しく解説
ISO45001は「労働災害の防止」と「安全で健康的な職場環境の提供」を目的とした、労働安全衛生マネジメントシステムの国際規格で、組織の各階層の働く人が労働安全衛生に関わり、PDCAサイクルを継続的に回すことで、労働安全衛生の水準の向上を図ることを目指しています。
ISO45001は、序文と10の箇条(章立て)で構成されていて、要求事項は箇条4~10に記載されています。構成は次の表のように、各箇条がPDCAサイクルに対応しています。
| ISO45001の各箇条 | PDCAサイクル |
|---|---|
| 箇条6 | Plan(計画) |
| 箇条7,8 | Do(実行) |
| 箇条9 | Check(評価) |
| 箇条10 | Act(改善) |
各要求事項は「~しなければならない」と表現されているため、適切に運用していくためには要求事項を確実に実施していくことが重要になります。
ここからは、箇条4から10に記載されている各要求事項と実践に向けて押さえておくべきポイントを詳しく解説します。
まずは箇条4です。ここで求められるのは「そもそも自社は、どのような環境で安全衛生に取り組むのか」を明確にすることです。この中の箇条4.1~4.4の要求事項について、それぞれ説明します。
組織の安全衛生水準の向上に向けて対処しなければならない課題を「組織外部」と「組織内部」に分けて把握することが求められます。
| 外部の課題の例 | 内部の課題の例 |
|---|---|
|
|
ここでは、働く人に加えてマネジメントシステムに関連するその他の利害関係者のニーズと期待を理解することが求められています。その他の利害関係者には、労働組合・行政・親会社・協力会社・近隣住民などがあり、次の表のようなニーズと期待を明確にする必要があります。
| 利害関係者の例 | ニーズと期待の例 |
|---|---|
| 働く人 | 熱中症対策の強化 |
| 新規設備への入替 | |
| 労働組合 | ハラスメント対策の強化 |
| 親会社 | 安全対策の強化指示 |
| 協力会社 | 安全衛生活動への支援 |
箇条4.1と4.2の両方で求められているのは、あくまでも「理解」であって、それぞれの箇条で把握した課題やニーズ・期待に対する対策までは求められていません。把握した内容は、箇条6の「計画」で評価して、組織として対処するかどうかを決定することになります。
箇条4.1で把握した外部と内部の課題、そして箇条4.2で把握した働く人とその他利害関係者のニーズと期待を踏まえて、運用する労働安全衛生マネジメントシステムの適用範囲を決定します。
適用範囲は工場単位や会社全体などになりますが、対象範囲は適用範囲の外で働く人も含まれます。営業職やテレワーカーなど組織の敷地外で働く人だけでなく、来訪者や納入業者など敷地内に入ってくる人も対象です。この適用範囲は、文書化した情報として利用可能な状態にしておくことが求められています。
ここでは、ISO45001の要求事項に従って「必要なプロセス」と「プロセス間の相互作用」を含めたマネジメントシステムの構築・運用が求められています。
「必要なプロセス」とは箇条4~10までのすべての要求事項で、「プロセス間の相互作用」とはそれぞれのプロセスが互いに連動するマネジメントシステムの構築を求めています。すべての要求事項を関連させたマネジメントシステムの構築にあたっては、マニュアル(基本規定)※を作成することが望ましいです。
※マニュアルに関しては、1回目のコラムの「ポイント④ マネジメントマニュアル(基本規定)の作成」 を参照
箇条5では、経営層が労働安全衛生水準の向上に本気でコミットし、従業員を巻き込むことが求められています。
ここでは、経営層のリーダーシップとコミットメント(約束・責任・主体的な関与)を定めていて、具体的には13の項目について経営層が統率力を発揮して主体的に関与することを証明することを求めています。具体的な項目としては、労働安全衛生方針や目標の設定・必要な資源の確保・事業プロセスとの結合・働く人の保護などが挙げられています。
これら箇条では、労働安全衛生方針に以下の5つのコミットメントと安全衛生上の重点取り組み事項を含めたうえで、文書化した情報で働く人と利害関係者に広くわかりやすく伝えるよう求めています。
また、組織の役割、責任・権限について、経営層や安全衛生の責任者だけでなく働く人も含めたすべての階層に割り当て、組織に伝える必要があります。
この箇条は、ほかのISO規格にはないISO45001独自の要求事項です。「協議」と「参加」という言葉は、箇条3の中で次の表のように定義されています。
| 協議 | 意思決定をする前に意見を求めること |
|---|---|
| 参加 | 意思決定に関与させること |
その上で、経営層や管理職は非管理職との協議と参加に関する要求事項が定められていますが、その内容は安全衛生委員会ですでに審議されている事項が多いため、委員会を活用することで十分に対応可能です。
一方で、「協議」すべき事項と「参加」すべき事項がそれぞれ定められていることから、混同しないよう要求事項に沿って対応するとともに、委員会で労使が十分に審議できる運営となるように工夫する必要があります。
箇条6はPDCAサイクルのPlan(計画)にあたる内容で、ISO45001の構築を進めるうえで特に時間がかかります。
ここではさらに細かく箇条が設定されています。まず「一般(箇条6.1.1)」で取り組む必要があるリスク・機会を把握し、対策は次の表に挙げる箇条で具体的に定められています。いずれの事項も「必ず対応しなければならない」ことに注意が必要です。
| 6.1.2.1 | 危険源の特定 |
|---|---|
| 危険源の特定は既存のリスクアセスメントを活用できますが、通常業務だけでなく緊急事態発生時の危険源や、来訪者・近隣住民らへの影響、組織外に存在する危険源についても考慮する必要があります。 | |
| 6.1.2.2 | 労働安全衛生リスク及びマネジメントシステムに対するその他のリスクの評価 |
| 労働安全衛生リスクとは、働く人の負傷や疾病につながるリスクで、上記で特定した危険源を評価するものです。また、安全衛生活動に必要な予算や人員の不足、教育不足による安全意識の低下など、マネジメントシステムの運用を阻害するリスクも評価することが求められます。 | |
| 6.1.2.3 | 労働安全衛生機会及びマネジメントシステムに対するその他の機会の評価 |
| 労働安全衛生機会とは、安全衛生パフォーマンスの向上につながる状況を指し、5S活動やKY活動、新技術の導入などが該当します。また、安全衛生スタッフの増員や外部専門家の活用など、マネジメントシステムの運用改善につながる機会も評価することが求められています。 | |
| 6.1.3 | 法的要求事項及びその他の要求事項の決定 |
| 法的要求事項には法令や労働協約などが、その他の要求事項には親会社・取引先からの要求や労働組合との協定などが含まれます。これらを整理し、文書化して最新の状態で管理することが求められます。 | |
| 6.1.4 | 取組みの計画策定 |
| リスクと機会、法的要求事項などを踏まえ、取り組むべき事項とその実施方法、さらに有効性の評価方法を計画することが求められます。これは単なるスケジュールではなく、労働安全衛生に関する中長期的な方針や戦略を定めるものです。 |
労働安全衛生方針や評価したリスクと機会を踏まえ、組織全体および各部門の目標を設定し、達成に向けた計画作成が求められます。目標は評価可能なものとし、責任者、期限、評価方法を定めて進捗を監視する必要があります。
箇条7はPDCAのDo(実行)に対応していて、同じくDoに位置づけられている箇条8を支援するための要求事項となっています。
資源とは、一般に経営資源とされるヒト・モノ・カネ・情報・時間などを指します。また、力量とは業務遂行に必要な知識や技能を意味します。労働安全衛生マネジメントシステムを適切に運用するために必要な資源を確保するとともに、働く人に求められる力量を明確にし、必要な教育・訓練の実施とその有効性を評価することが求められます。
マネジメントシステムの適切な運用のために働く人に認識させるべきこと、コミュニケーションをするべき情報などを定めていて、組織内外とのコミュニケーションプロセスの構築・運用を求めています。また、そのために必要な文書化した情報の定義や維持・保持すべき情報などを定めています。
安全衛生委員会、小集団活動、朝礼など従来から行っている安全衛生活動をベースに要求事項に沿った対応を進めることが必要です。
箇条7に続いてPDCAのDoにあたり、箇条6で決定した取り組みを実施します。
箇条6で決定した安全衛生活動を、計画・実施・管理・維持することが求められています。また、このプロセス実施に必要な実施要領・計画表や、手順書の維持と実施の記録の保管も必要です。
変更とは、機械設備の新規導入や入替・手順の変更・人員の入替・機械設備の故障などがあり、変更が生じた場合に悪い影響が出ないように管理するためのプロセスの構築・運用が求められています。変更は、労働災害の発生につながりやすいため、変更がある場合に何をすべきかというプロセスの構築・運用は重要な項目です。
機械設備や化学物質などの物品類や、外部委託などのサービスを調達する際にこれらを組織のマネジメントシステムに適合させるための管理プロセスの構築・運用が求められています。サービスについてはさらに細かい箇条で協力企業と外部委託それぞれに要求事項が定められているので注意が必要です。
「箇条6.1.2.1 危険源の特定」で特定した緊急事態への準備と対応が求められています。多くの組織で消防計画や災害発生時の緊急時対応計画などがあると思いますので、それらが要求事項を満たしているかどうかを確認して、不足する事項を補うことで対応可能です。
ここはPDCAのCheck(評価)にあたり、PlanとDoの結果を評価することが目的です。
パフォーマンスは「測定可能な結果」と定義されていて、取り組みの現状がどのような状態にあるかを継続的にチェック・観察・測定・分析して、結果を評価することが求められています。また、その方法・基準・時期を定めることになります。
内部監査は、労働安全衛生マネジメントシステムが組織の方針や目標、ISO 45001の要求事項に沿って適切に運用されているかを確認するための活動です。そのため、監査プログラムに基づいて定期的に監査を実施し、結果を関係者へ報告するとともに、不適合があれば改善につなげることが求められます。
マネジメントレビューとは、経営層が労働安全衛生マネジメントシステムの適切性・有効性・実効性を確認し、必要な改善を検討する活動です。あらかじめ定めた間隔で実施し、規格で定められた事項をレビューするとともに、その結果を働く人に周知することが求められます。
ここはPDCAのAct(改善)にあたり、明らかになった課題やインシデントに対して適切に改善を進めることが求められます。
ここでのインシデントには、労働災害に加えてヒヤリハットのように災害を引き起こすおそれのある事象も含まれます。インシデントや運用上の不適合の原因を究明して、再発防止に向けた対策を行う必要があります。また、報告・調査・処置を含めた管理プロセスの構築・運用が求められていて、報告が必要なインシデントと不適合を定義することや、調査方法・再発防策などのルールを定める必要があります。
ISO45001は組織の労働安全衛生の向上につながるもので、必ずしも認証を取得しなくても組織の労働安全衛生活動を整理し、継続的に改善するための実務的なツールとしても活用できます。
経営トップから現場までが一体となって現場の実態に即した仕組みを構築・運用することが、労働安全衛生水準の向上と企業価値向上の両立に繋がります。
MS&ADインターリスク総研では、ISO45001取得・ISO45001を活用した労働安全マネジメントシステム構築の支援を行っています。
ISO45001は単なる安全管理規格ではなく、労働安全衛生を経営管理の仕組みとして回すためのフレームワークでもあります。
労働安全衛生に関する経営課題や事業課題を解決したいとお考えの皆さまは、お気軽にご相談ください。
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ISO45001取得で押さえておきたい4つのポイントとは?労働安全衛生に携わるコンサルタントがわかりやすく解説
まず日本の労働災害による死亡者数は、実はピークだった1960年代から大幅に減少して、2024年には過去最少となる764人でした。


一方で、休業4日以上の死傷者の数は2009年以降増加傾向で、2024年には13万5718人に上りました。
また、労働災害の発生状況は多様化していて、業種別では第3次産業の占める割合が2024年に52%を占めるまで増加しました。さらに、高年齢労働者や外国人労働者の死傷者数も増加傾向にあります。
このほか、メンタルヘルス、ハラスメント、熱中症対策など、社会環境の変化に伴って企業が対応すべき安全衛生上の課題範囲は広がってきています。
こうした社会環境の変化を踏まえ、実効性のある安全衛生対策に取り組むために、安全衛生の方針や目標を定め、PDCAサイクルを回しながら組織を指揮・管理する仕組みの構築が、事業場の規模を問わずいっそう重要になってきています。
そこで有効となる手段の1つがISO45001の取得です。
ISO45001は「労働災害の防止」と「安全で健康的な職場環境の提供」を目的とした、労働安全衛生マネジメントシステムの国際規格で、組織の各階層の働く人が労働安全衛生に関わり、PDCAサイクルを継続的に回すことで、労働安全衛生の水準の向上を図ることを目指しています。
ISO45001は、序文と10の箇条(章立て)で構成されていて、要求事項は箇条4~10に記載されています。構成は次の表のように、各箇条がPDCAサイクルに対応しています。
| ISO45001の各箇条 | PDCAサイクル |
|---|---|
| 箇条6 | Plan(計画) |
| 箇条7,8 | Do(実行) |
| 箇条9 | Check(評価) |
| 箇条10 | Act(改善) |
この構成はほかのISOマネジメントシステムと共通となっているため、ISO9001やISO14001をすでに取得している組織では統合的な運用がしやすいというメリットがあります。
ISO45001の取得にあたっては、従来から行っている安全衛生活動をベースにマネジメントシステムとして構築することが重要となります。
押さえておきたいポイントは、次の4つです。
それぞれについて解説していきます。
ISO45001の特長として「経営トップのリーダーシップ」と「働く人の参加」を求めている点があります。
このため、経営者などトップマネジメントが先頭に立ってして方針を打ち出し、明文化し、社内に周知していく必要があります。
また「働く人」というのは「労働者」よりも広い概念で、事業者・管理職・協力企業 ・派遣労働者・ボランティア・インターンシップなど組織の事業活動に関わるすべての人が参加して協議することが重視されています。
このため、実効性のある安全衛生活動を進めるうえでは、現場の知見や意見を反映することが求められます。
ISO45001では、要求事項の1つに「目指すべき成果を支援する文化を醸成すること」が挙げられています。
実際の調査研究でも安全文化の醸成度と事故の発生には相関関係があることが明らかになっていることから、安全衛生水準の向上には安全文化を醸成することが重要です。
そのためには、自社の醸成度を把握して優先的に対処すべき課題を明確にする必要がありますが、すでに安全文化を醸成するために取り組んでいても、どう評価したらよいか悩んでいる組織も少なくありません。
そうした悩みを解消し、醸成度を“見える化”するためのアプローチとして「安全文化診断」があります。これは、「安全文化に関する会社全体の傾向」「エリアや社員属性による偏り」「安全意識の経年変化」を数値で比較するものです。
安全文化診断では次の図のように8軸の指標で、組織における安全文化の状態を数値化します。

MS&ADインターリスク総研では、電力、化学、製造、建設業などさまざまな業種で安全文化診断の豊富な実績があります。
分析結果を踏まえて具体的な取り組みをご提案できますので、お気軽にご相談ください。
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ISO45001では、さまざまなプロセスの構築と運用が求められています。このプロセスには「手順」だけでなく、「手順を活用できる人」や「手順の実行に適した機械設備」なども含まれています。
このため、マネジメントシステムを適切に運用できる手順はもちろん、必要な情報や材料、適切な担当者の任命、使用する機械設備などプロセス全体を構築・運用することが重要になります。
またISO45001では、組織の事業活動にマネジメントシステムを統合することを求めています。ISO45001のために新たな仕組みを作って特別に取り組むのではなく、これまでの取り組みをできる限り活かして、組織の事業活動の中で実施できるようにすることが重要です。
ISO45001の要求事項には、文書化した情報の維持または保持を求めるものがあります。ここでの文書化した情報には、単に文章だけではなく図・写真・動画なども含まれます。
構築したプロセスを運用するためには、関係者に周知するための文書化した情報が必要となりますが、従来から取り組んでいる安全衛生活動で活用されている文書なども含めて、複雑に絡んでくるおそれがあります。
このため、ISO45001取得にあたっては、マネジメントシステムの構築や運用に関わるすべての事項を包括的に示し、関連文書を体系化するための「マネジメントシステムマニュアル(基本規定)」を作成することが望ましいです。
その際には、ISO45001の各箇条に沿った形で作成すると、要求事項に合致した内容になりやすくなります。
ISO45001の要求事項すべてに対応するのは難しいと感じる方も多いかもしれません。ただ、先ほどもお伝えしましたが、必ずしも新たな仕組みを一から作る必要はありません。
日常的に行っている安全衛生活動をマネジメントシステムに組み込み、PDCAサイクルの中に位置づけて運用することで、実効性のある仕組みに発展させることは十分できます。
2回目のコラムでは、具体的にISO45001の各箇条で記載されている要求事項と、実践に向けたポイントを解説します。
MS&ADインターリスク総研では、ISO45001取得・ISO45001を活用した労働安全マネジメントシステム構築の支援を行っています。
ISO45001は単なる安全管理規格ではなく、労働安全衛生を経営管理の仕組みとして回すためのフレームワークでもあります。
労働安全衛生に関する経営課題や事業課題を解決したいとお考えの皆さまは、お気軽にご相談ください。
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ISO45001の章立てと各箇条で求められるプロセス
継続的な安全衛生水準の向上に向けた仕組みづくりがいっそう求められるようになっている背景や、ISO45001の取得や実践にあたってのポイントは、以下の記事で詳しく解説しています。
| 箇条 | プロセス |
|---|---|
| 5.リーダーシップ及び働く人の参加 | |
| 5.4 | 働く人の協議及び参加のためのプロセス |
| 6.計画 | |
| 6.1.2.1 | 危険源を特定するためのプロセス |
| 6.1.2.2 | 労働安全衛生リスク及び労働安全衛生マネジメントシステムに対するその他のリスクを評価するプロセス |
| 6.1.2.3 | 労働安全衛生機会及び労働安全衛生マネジメントシステムに対するその他の機会を評価するプロセス |
| 6.1.3 | 法的要求事項及びその他の要求事項を決定するプロセス | 7.支援 |
| 7.4.1 | 内部及び外部とのコミュニケーションのためのプロセス |
| 8.運用 | |
| 8.1.1 | 労働安全衛生マネジメントシステムの要求事項を満たし、かつ箇条6で決定した取組みを実施するために必要なプロセス |
| 8.1.2 | 危険源の除去及び労働安全衛生リスク低減のためのプロセス |
| 8.1.3 | 変更を管理するためのプロセス |
| 8.1.4.1 | 製品及びサービスの調達を管理するためのプロセス |
| 8.2 | 緊急事態への準備及び対応に必要なプロセス |
| 9.パフォーマンス評価 | |
| 9.1.1 | モニタリング、測定、分析及びパフォーマンス評価のプロセス |
| 9.1.2 | 法的要求事項及びその他の要求事項の順守状況を評価するプロセス |
| 9.2.2 | 内部監査のプロセス |
| 10.改善 | |
| 10.2 | インシデント及び不適合を管理するためのプロセス |
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