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PLレポート 食品安全(2025年7月)
2024年3月末から2025年6月15日にかけて公布・発出された、食品関連事業に係る主な法改正等を以下に示す。
自社の事業に関連する項目の改定がないか確認し、関連する項目がある場合は、適切に対応することが求められる。
① 機能性表示食品の届出の方法、様式等に関する告示 ※1(所管:消費者庁)
紅麹関連製品に係る事案を踏まえ、機能性表示食品制度の信頼性を高める観点から、2024年8月23日に食品表示基準が改正された(届出内容の明確化、届出後の遵守事項、表示方法等の見直し)。このうち、2025年4月1日に施行された以下の事項について、2025年3月25日に、様式及び報告の方法等を定めた告示がなされた。
【主な内容】
1.以下の届出事項に係る届出の方法(別表第 26の1の項から4の項まで及び6の項)
2.生鮮食品について遵守すべき事項その他の必要な事項(別表第27の2の項第8号)
3.「遵守の状況等の自己点検及び評価並びにその結果」に係る報告の方法(別表第27の4の項)
【補足】
② 食品表示基準改正(所管:消費者庁)
2025年3月28日に食品表示基準が改正された。主な改正内容は以下のとおり。
【主な内容】
1.栄養強化目的で使用した添加物の表示義務化(第3条第1項、別表第4、別表第24)栄養強化目的で使用したレトルトパウチ食品やしょうゆ、粉末清涼飲料などの添加物は表示が免除されていたが、第3条からこの規定が削除され、他の添加物同様、表示することとされた。
※経過措置期間:2030年3月31日まで
2.栄養成分表示の見直し(別表第 9・10・12関係)
栄養成分表示に関して、下記のような改正が行われた。
※経過措置期間:2028年3月31日まで
3.個別品目ごとの表示ルール改正・削除(別表第3・4・5・19・20・22関係)
個別品目ごとの表示ルールが課されていた以下の品目について、全体的な表示基準が整備されたことで、その役割が一部終了していることから、個別ルールの改正または削除が行われた。
個別ルールが削除されたものについては、食品表示基準第3条(横断的義務表示)が適用される。
※経過措置期間:2030年3月31日まで
【補足】
◆「食品表示基準について」及び「食品表示基準 Q&A」の一部改正
◆「食品表示法に基づく栄養成分表示のためのガイドライン」(第5版)※4公表
③ 食品期限表示の設定のためのガイドライン改正(所管:消費者庁)
2005年に厚生労働省及び農林水産省により策定された「食品期限表示の設定のためのガイドライン」について、食品ロス削減の観点から見直され、2025年3月28日に、食品表示基準Q&A に「別添 食品表示期限の設定のためのガイドライン」※5として追加された。
【主な内容】
1.消費期限または賞味期限の設定本来の用語の定義(食品表示基準第2条)に基づき、食品の特性等を考慮し、どちらかを正しく表示する。
2.食品の特性等に応じた客観的な項目(指標)及び基準の設定その食品を最も理解している事業者が、HACCP に沿った衛生管理での危害分析を踏まえ、客観的な項目(指標)を科学的・合理的に自ら決定する必要がある。
3.食品の特性等に応じた「安全係数」の設定食品の特性等に応じ、安全係数は1に近づけること、差し引く時間や日数は0に近づけることが望ましい。
微生物が増殖する可能性等の変動が大きい食品は特性に応じて安全係数を設定。加圧加熱殺菌しているレトルトパウチ食品等、変動が少なく、客観的な項目から得られた期限で安全性が十分に担保されている食品は、安全係数を考慮する必要はないと考える。
4.特性が類似している食品に関する期限の設定商品アイテムが膨大であること等を考慮すると、個々の食品で試験等を行うことは現実的ではないため、特性が類似している食品を参考にした期限の設定も可能である。
5.賞味期限を過ぎても「食べることができる期限」消費者等から求められた場合には、まだ食べることができる期限の目安について、できる範囲で情報提供に努める。
④ 「食品用器具及び容器包装のポジティブリスト制度に関する Q&A」※6策定(所管:消費者庁)
2018年6月に食品衛生法等の一部が改正され、食品用器具及び容器包装に用いる合成樹脂について、安全性を評価した物質のみを使用可能とするポジティブリスト制度が導入された。
2025年5月31日にポジティブリスト制度の経過措置が満了することから、「食品用器具及び容器包装のポジティブリスト制度に関する Q&A」が、2025年5月23日に策定された。
【主な内容】
・「2020年6月1日前に販売等されていた器具又は容器包装と同様のもの」について、2025年6月1日までに確認が間に合わない場合の具体的な対応方法が示された。
1)食品表示基準第2条第1項第10号イの別表第26の1の項から6の項までの規定に基づき内閣総理大臣が告示で定める届出の方法並びに同号ロの別表第27の2の項第8号の規定及び4の項の規定に基づき内閣総理大臣が告示で定める遵守すべき事項その他の必要な事項及び報告の方法を定める告示
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/assets/food_labeling_cms205_250325_01.pdf
2)機能性表示食品の届出等に関する手引き
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_with_function_claims/notice/assets/food_labeling_cms205_250415_02.pdf
3)機能性表示食品に関する質疑応答集
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_with_function_claims/notice/assets/food_labeling_cms205_250325_27.pdf
4)「食品表示法に基づく栄養成分表示のためのガイドライン」掲載ページ
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/nutrient_declearation/business#02
5)食品表示基準 Q&A「別添 食品表示期限の設定のためのガイドライン」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/assets/food_labeling_cms201_250328_1029.pdf
6)品用器具及び容器包装のポジティブリスト制度に関する Q&A
https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/appliance/positive_list_new/assets/standards_cms101_250526_001.pdf
これまでの解説コーナーでは、食品関連事業者において食品安全・食品衛生の実現のために求められる体制構築・運用のあり方等について解説してきました。2022年度は「食品安全文化を醸成するための処方箋」、2023年度は「食品安全・食品リスクマネジメント高度化のためのDX 導入の勘所」、2024年度は「食品安全マネジメントシステム FSSC22000 V6への対応における留意点」と題し、FSMS(Food Safety Management System)について連載しました。
FSMSにはISO22000やFSSC22000等がありますが、これらは食品安全マネジメントを語るうえでの世界共通言語と言っても過言ではありません。加工食品を輸出する場合であっても、海外仕向地のバイヤーが ISO22000やFSSC22000等のFSMS認証の取得を求めるケースもあります※1。
政府は、2030年には食品輸出総額5兆円を目指しており※2、そのためにもFSMS認証取得を後押ししています※1。
そこで、本コーナーでは、輸出を見据えたFSMSの構築・見直しは勿論のこと、日本の加工食品を海外に輸出する事業者が直面する食品安全上のリスクを理解していただき、その対策について、解説していきます。食品の安全性は、仕向地(輸出先国)の消費者の信頼を得るための重要な要素であり、企業の競争力を高めることになります。
第1回目は、国内外の食品マーケットの動向、日本の加工食品の輸出状況とその特性や強み、加工食品の輸出に伴う主なリスクについて触れます。
農林水産省では2040年・2050年の人口推移や食料消費量を見据え、国内の食品マーケットの動 向を調査し、2023年8月に「食品産業をめぐる情勢」※3としてまとめています。その中で、国内のマーケットの縮小が示されています。
農林水産省は、食品の更なる輸出拡大や食品関連産業の海外展開の促進等に資するため、将来の海外市場の動向を予測するものとして、世界(主要34か国)の飲食料市場規模の推計結果を、「世界の飲食料市場規模の推計」として取りまとめています ※4。2015年の飲食料の市場規模890兆円だったものが、2030年には1,360兆円と約1.5倍に成長すると予測され、特に、高い経済成長が続くアジア市場の規模は、420兆円から800兆円と約1.9倍に拡大すると予測しています。
図表 1:国別・部門別の飲食料市場規模


出所:農林水産省(農林水産政策研究所)「世界の飲食料市場規模の推計」※44 頁をもとに作成
日本の加工食品は、その特性や強みが海外でも評価され、農林水産物と共に輸出額が増加、以下のように海外市場での需要が拡大しています。
図表 2:農林水産物・食品の輸出額の推移


出所:農林水産省「食品産業をめぐる情勢」※315頁より一部抜粋
日本の加工食品の特性や強みは、海外の需要者(バイヤーや消費者)の嗜好性や他国商品との比較の観点等から、以下の 3点が挙げられます。
| ①高度な品質管理 | 日本は食品安全に関する法律や規制が非常に厳格であり、 HACCPなどの国際的な基準に基づいた衛生管理が普及しています。 この高い品質基準は、海外市場における高い競争力の要因となります。 消費者は安全で高品質な食品を求めており、 日本の加工食品はそのニーズに応えることができるため、 輸出先国での信頼性が高まります。 |
| ②和食文化の継承 | 日本の加工食品は、長い歴史と文化に基づいており、 特に和食はユネスコの無形文化遺産に登録されています。 伝統的な製法や地域特産品を活かした商品展開は、 他国の食品と差別化される要素となります。 また、世界的に和食の人気が高まっている中で、 日本の加工食品はその文化的背景を持つことで、 消費者の興味を引くことができます。 これにより、輸出市場でのブランド価値が向上します。 |
| ③健康志向 | 日本の加工食品は、無添加やオーガニック製品が充実しており、 消費者の健康を重視するニーズに応えることができます。 化学添加物を避け、自然な素材を使用した製品は、 特に健康意識の高い消費者に支持されています。 このトレンドに乗ることで、日本の加工食品は輸出市場での 競争力をさらに強化することが期待できます。 |
輸出事業者は、これらの特性や強みを活かしつつ、食品安全の視点からリスク対策を効果的に行うことが肝要となります。
海外市場への展開には、さまざまなリスクが伴います。主なリスクは、以下のとおりです。
| ①法規制リスク (仕向地の規制) | 仕向地(輸出先国)の法規制は、国ごとに異なる食品安全基準や規制が存在し、 特に食品添加物やラベル表示に関する規制は厳格化しています。 これにより、輸出業者は事前に規制を把握し、遵守しなければならないため、 法規制リスクは特に重要です。違反があれば、製品の輸入拒否や罰金、 ブランドイメージの損失につながる可能性があります。 |
| ②品質リスク (食品の品質保持) | 加工食品は、食品安全のみならず、品質も消費者にとって重要な要素です。 輸送日数の増加に伴う食味や風味の劣化、温度変動に伴う離水、 衝撃や振動に伴う物理的変化等、品質の劣化が生じるリスクがあります。 品質が低下した製品は、消費者の信頼を損ねるだけでなく、 返品やクレームの原因となり、経済的損失をもたらす可能性があります。 したがって、品質リスクは非常に重要な要素です。 |
| ③輸送リスク (物流問題) | 輸送中の事故や遅延は、特に冷蔵・冷凍食品にとっては細菌増殖に伴う 食中毒も懸念され、致命的なリスクと言えます。温度管理が適切でない場合、 食品の安全性や品質も損なわれる可能性があります。また、国際輸送は、 コンテナ収納、倉庫待機、機材(輸送船/航空機)の載せ替え等を契機とした 予期しない事態が発生することもあります。輸送リスクは事業者が十分に 考慮すべき要素となります。 |
| ④市場リスク (需要変動) | 消費者の嗜好や経済状況は常に変化しており、これに対応できない場合、 需要が急激に変化する可能性があります。特に国際市場では、文化や嗜好性、 トレンドが異なるため、事前に市場調査を行わないと、商品がバイヤーや 消費者から受け入れられない場合もあります。市場リスクは、事業の持続可能性に 直接影響を与えるため、重要な要素として取り上げられています。 |
これらのリスクは、食品輸出において回避し難い要素であり、事業者は適切な対策を講じることが求められます。
次回は、実際に食品安全上のリスクが顕在化した例として、海外での日本の加工食品等の事故事案とその傾向等について解説する予定です。
1)農林水産物・食品の輸出を目指す皆様へ(輸出先国の規制・条件に対応した施設・機器の整備と HACCP等の施設認定・認証取得を一体的に支援します!)
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/export/gfp/attach/pdf/haccp-110.pdf
2)今後の更なる輸出拡大に向けた取組方向
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/nousui/yunyuukoku_kisei_kaigi/dai7/siryou2.pdf
3)食品産業をめぐる情勢
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/kikaku/jizoku/attach/pdf/index-13.pdf
4)世界の飲食料市場規模の推計
https://www.maff.go.jp/primaff/seika/attach/pdf/190329_01.pdf
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ESGリスクトピックス(2025年7月)
自然資本 欧州委員会は2025年5月22日、欧州森林破壊防止規則(EUDR)の実施規則を採択し、牛肉・カカオ・コーヒー・パーム油・ゴム・大豆・木材の7品目について、原産国を「低リスク」、「標準リスク」、「高リスク」の3段階で格付けするEU規則案と各国の分類案を提示した。この規則は、EU市場にこれら7品目を流通・提供・輸出する事業者に対し、生産地まで遡ったデューデリジェンスを初めて義務付けるものである。適用時期に関しては、大企業が2025年12月30日、中小企業は2026年6月30日となっている。 リスク分類は、国連食糧農業機関(FAO)の2020年世界森林資源評価(FRA)を活用し、①2015~2020年の年間森林面積減少率が0.2%未満かつ年間森林減少面積が7万ha未満、②年間森林減少面積が1,000ha未満、③主な森林減少要因が農地拡大ではなく都市化のいずれかである場合に、「低リスク」と認定している。②の条件については、森林減少の絶対面積が小さいにもかかわらず、相対面積が大きいために森林面積減少率が高くなる小国の状況を考慮している。いずれも該当しない国は「標準リスク」に分類される。それぞれの定量的条件の+25%以内に位置する「ボーダーライン国」については政策枠組み能力・執行能力・データ透明性・EUとの協力の4項目を評価し、一定基準を満たせば「低リスク」へ引き下げられる。国連安全保障理事会もしくはEU理事会の経済制裁対象国は自動的に「高リスク」へ格上げされる仕組みとなっている。 この制度の主な目的は3つある。第1にリスク区分ごとに検査率を差別化し(低リスク国1%、標準リスク3%、高リスク9%)、EU加盟国当局による対象事業者・商品の検査を効率化すること。第2に低リスク国からのみ調達する事業者にはデューデリジェンス手続きを簡素化し、森林保護をインセンティブ化すること。第3に、各国のガバナンス改善を促し、EUの支援と連動してサプライチェーンの森林破壊フリーを推進することである。 初回リストでは、EU27カ国や日本・米国・中国・インドなどが「低リスク」、ブラジル・インドネシア・マレーシア・コートジボワールなどが「標準リスク」、ロシア・ベラルーシ・北朝鮮・ミャンマーが「高リスク」と分類されている。欧州委員会によれば、すべての国は透明かつ客観的な手法で評価され、結果は随時更新される。 企業への影響として、単一貨物に複数原産国が含まれる場合は最も高いリスクが適用され、「高リスク」貨物は検査や手続きの長期化によりコスト増や遅延リスクが高まる。推奨される対応策は、①取引先のリスク区分を確認し、「高リスク」・「標準リスク」の取引先については欧州委員会で定められているデューデリジェンス(情報収集、リスク評価、リスク緩和措置)を行って自社事業に与える影響を評価すること、②リスク区分の変更を契約条件や価格に反映できるよう契約内容を見直すことである。 出典:欧州委員会資料をもとにMS&ADインターリスク総研作成 また、2026年にはFRA2025を反映した見直しが予定されており、リスク区分が変動する可能性があるため、関連企業は積極的なエビデンスの収集や政府に対する森林保全政策の推進を働きかけることが望ましい。 総じて、EUDRの国別リスク区分は、企業の気候変動対策・自然資本戦略における重要な要素であり、事業収益やオペレーションコスト、さらには投資家や顧客からの信頼にも影響がある。関連企業はEUDRの動向を注視し、必要な対応を積極的に進めることが求められる。 【参考情報】 自然資本・生物多様性 Biodiversity Credit Alliance(BCA)は、十全性の高いボランタリー生物多様性クレジット市場の形成を目指し、クレジット供給者側の審査メカニズムの構築に向けた検討がスコーピング段階に入ったと発表した。スコーピング段階では、これまでの検討成果を踏まえて審査メカニズムの構築に向けた具体的な方向性を定めていく作業に入るとしている。 BCAは国連開発計画(UNDP)と国連環境計画・金融イニシアチブ(UNEP FI)の支援により、生物多様性条約第15回締約国会議(CBD-COP15/2022年12月)期間中に設立。メンバーは研究者、保全に関わる実務者、ボランタリー生物多様性クレジット制度の検討主体などで構成されている。加えて、先住民と地域社会(IPLCs)により構成される会議体であるCommunity Adovisory Panel(CAP)も設立されており、一連の議論に参画している。 BCAが設立された目的は、十全性の高いボランタリー生物多様性クレジット市場を形成することである。十全性とは、透明性、信頼性、効率性などのボランタリー生物多様性クレジットの質を指す。BCAは、同目的の下、クレジット原則の策定や、市場参加者へクレジット原則に基づく行動を促すためのガイダンス策定等に取り組むとしている。 BCAのこれまでの検討成果として、生物多様性クレジットの定義、クレジット原則、アセスメントツールなどが公表されている。これらの一連の検討成果は、クレジットを創出・販売する供給者側の質や十全性を審査(Review)するメカニズムを構築することを目的に進めてきたものである。審査は、個別のプロジェクトによる取り組み成果をクレジットとして認証(Verification)するのではなく、クレジット認証機関が開発したプログラムや方法論に対して十全性を審査することを指している※1 。なお、同様のメカニズムとして、ボランタリーカーボンクレジット市場※2においては、The Integrity Council for Voluntary Carbon Markets(ICVCM)※3が、高品質なカーボンクレジット要件であるCore Carbon Principles(CCP)に適合するクレジットプログラムや方法論を評価している。 今回発表されたスコーピング段階の検討事項としては以下が挙げられている。 上記検討におけるポイントは、①標準化と柔軟性のバランス、②類似する他の資金メカニズムとの関係整理、③高度な専門知識を有する審査員の確保が挙げられると想定される。これらのポイントは、BCAが昨年公表した、既存の審査メカニズムのレビュー結果を取りまとめたレポート※1 において、審査メカニズムの検討における課題として挙げられた点である。 同レポートでは、需要側の理解が不足している点も指摘されている。この課題に対してBCAは、ボランタリー生物多様性クレジットの使用者に対して、クレジットの使用やその主張に関するガイダンスの作成も進めている。BCAによるクレジット供給者・使用者両面へのアプローチにより、ボランタリー生物多様性クレジット市場の十全性確保を促進していくことが期待される。 1)BCA(2024)Review Mechanisms for Supply-side Quality and Integrity in the Biodiversity Credit Matket 【参考情報】 ビジネスと人権 不平等・社会関連財務情報開示タスクフォース(TISFD)は2025年5月20日、開示基準の策定に当たって、各国・地域の社会・経済・文化的事情を反映し、より普遍的な内容にするための中心的な役割を担う「カウンシル」のメンバーを公表した。同時に、策定の進捗に応じて段階的に公表される予定のドラフトへの意見や同基準の各地での推進・普及を期待される「アライアンス」メンバーの募集を始めた。体制を整え、基準策定の作業が始動する。 カウンシルは、世界4地域(北・南米、アジア太平洋、欧州・英国、中東・アフリカ)に設置。それぞれ20~30人、計90人弱のメンバーで構成する。日本からは2人が参加している。所属は、金融機関や企業、市民団体、労働組合など。ただし、個人としての参加で、所属組織の利害を代表しない。今年初めから世界で公募していた。今後メンバーが増える可能性もあるという。1年任期で、年4~6回のリモート会議で議論に参加する。 カウンシルのメンバーは、主に次の3つの役割を担う。 ①基準のドラフト作成過程で、各国・地域の事情を踏まえたフィードバック 一方、アライアンスメンバーの役割は、基準ドラフトへの意見提供のほか、TISFD主催の学習会やウェビナーへの参加やニュースレター購読などを通じて、知見や理解を増やし、同基準の活用推進に貢献すること。組織単位での参加で、組織の種類は問わない。無料・無償で、退会も随時可能。TISFDに対して契約に基づく責務は追わない一方で、TISFDがメンバーに対して何らかのお墨付きを与えるものではないと強調されている。TISFDのHPでメンバー登録を募集中。また、TISFDは2025年内にも、専門家の個人にアライアンスメンバーの門戸を開く考えだ。 TISFDは人権や不平等といった社会的な課題や人的資本などのテーマを対象に、S(社会)領域における国際的な開示基準を開発するのが目的。当初は「不平等」と「社会」が別個の組織で検討されていたが、24年4月に統合して現在の組織となった。同年5月には基本コンセプトが公表され、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)や欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)など既存の開示基準と整合を図る方針を明らかにした。 【参考情報】 サステナビリティ開示 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は2025年5月27日、「第10回機関投資家のスチュワードシップ活動に関する上場企業向けアンケート集計結果」を公表した。それによると、東証株価指数(TOPIX)構成企業の約3割が、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)基準の適用義務化に先立っての開示を予定・検討していることがわかった。同基準は、有価証券報告書でサステナビリティ情報を開示する際に対応が必要で、プライム上場企業の時価総額上位を対象に、最短で2027年3月期から適用が始まる予定だ。 一部開示を含めSSBJ基準の義務化前に開示を「予定」と回答したのは9.4%、「検討」(18.0%)と合わせると、義務化前の対応を考えている企業の合計は27.4%だった。時価総額別では、最初に適用が見込まれる「時価総額3兆円以上」(発行済株式数ベース、25年1月末時点)では「予定」の割合が最も高く13.0%で、「検討」を加えた合計は37.1%となっている。一方、適用時期が遅い「5,000億円以上1兆円未満」グループの「予定」と「検討」の合計は39.1%で、「3兆円以上」グループを上回った。なお、その中間の順番で義務化の見込みの「1兆円以上3兆円未満」は、「予定」と「検討」ともにどちらのグループよりも低かった。 出典:GPIF資料をもとにMS&ADインターリスク総研作成 SSBJ開示に向けた具体的な取り組み状況(自由記述)では、非財務情報の開示における責任部署の明確化、SSBJ基準と自社の現状とのギャップの特定、対応のためのプロジェクトの立ち上げ予定などが挙がった。欧州連合(EU)のサステナビリティ開示基準である企業持続可能性報告指令(CSRD)や第三者保証への対応、非財務データ収集の体制整備についても関心が高かった。社内の負荷や経営陣の理解を得ることが難しいとして、サステナビリティ情報開示の必要性や意義の発信を機関投資家に対して求めるコメントもみられた。 前回調査(24年)に新設された自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)に関する質問では、同枠組みに沿った開示済の企業が10.3ポイント増の15.8%になった。「ガバナンス」や「戦略」など開示の4項目では、開示企業のうちガバナンスが対応できているとの回答(「十分」と「一部」の合計)が前回の80.7%から95.9%に上昇した。GPIFの指摘によると、4項目のうちガバナンスの開示を優先した対応は、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の開始時と同様の傾向だという。「指標と目標」は88.8%で、4項目の中で最も低いが前回の66.7%から大幅に増えた。 ESG活動の目的は「企業価値向上」の回答が大半を占めた。特に企業規模別で「大型(TOPIX100)」の企業は90%(前回は85%)が「企業価値向上」を目的の1位に挙げる一方、次点の「リスク低減効果」が3%(同4%)、「社会貢献」は1%(同5%)にとどまった。中型(TOPIX Mid400)」とそれら以外の「小型」の規模でも企業価値向上を最上位に挙げる傾向は同じだった。ESG活動における主要テーマを問う質問(複数回答)では、上位3テーマが「気候変動」「コーポレート・ガバナンス」「ダイバーシティ」の順で、前回と同様だった。今回は「サプライチェーン」が7位から5位に上昇したほか、25.5%の企業が新設の「人材開発」を選び8位となった。 同調査はTOPIX構成企業を対象に、投資家向け広報(IR)の状況や機関投資家との対話について問うもので、GPIFは16年から実施。アンケートでは企業のIRやESG活動のほか、機関投資家の現状・変化、GPIFの取り組みを質問している。 今回のアンケートは25年1月末時点のTOPIX構成企業1,696社が対象で、回答社数は37.3%の632社だった。東京証券取引所の市場再編に伴うTOPIX見直しのため、対象企業数は前回調査の2,154社から大幅に減ったが、回答率は前回(33.3%)から上昇した。 【参考情報】 中国反外国制裁法 2025年3月24日、中国国務院は「中華人民共和国反外国制裁法※ 」(以下「反外国制裁法」)の具体的な運用ルールを定めた「実施に関する規定」(以下「本規定」)を公布・施行した。この規定は、2021年に施行された同法の実効性を高めるものである。 反外国制裁法は、外国の個人または組織が中国の個人や企業に対して不当な制裁や差別的措置を講じた場合に、制裁リストに追加し、中国政府が報復措置を取ることを認める法律である。中国はこの法律によって、自国の主権、安全、経済的利益を守るとともに、対外的に対等な関係を主張する姿勢を明確にしてきた。これまでは制裁の内容や範囲が不明確であったが、今回の本規定により、報復措置の内容がより具体的に明文化された。 例えば、反外国制裁法では、制裁リストに載った外国の個人やその配偶者・直系親族、また、組織やその管理職、関係者などに対して、措置を講じることが可能とされ(反外国制裁法第5条)、措置の内容は以下のうち1つ、あるいは複数の措置を講じることが可能とされている。(反外国制裁法第6条) 本規定では、上記措置に関して具体的な内容が定められ、第二項の対象となる財産には、現金、銀行預金、有価証券、ファンド持分、知的財産権、売掛金などが含まれており、広範囲に及ぶとされた(本規定第7条)。また、第三項で制限される活動の分野も明文化され、教育、科学技術、法律サービス、環境保護、経済貿易、文化、観光、衛生、スポーツが含まれており、多岐にわたる領域で影響が生じる可能性がある(本規定第8条)ことが明示された。 さらに、本規定によれば、当該措置に従わない場合、中国政府が、政府調達・入札・それらに関連する物品や技術の輸出入または国際サービスに関する貿易活動、国外からのデータの受信や提供、出入国や中国内滞在などの禁止または制限を行う可能性があるとされている(本規定第13条)。 こうした中、中国で事業を展開する企業は、自社および関連先が制裁対象となるリスクを認識し、現地で活動する従業員にもそのリスクを十分に周知するなど、慎重な対応が求められる。また、欧米諸国の対中制裁や輸出管理規制に従った結果、その行為自体が中国から「差別的措置」と見なされ、制裁対象となるリスクも想定される。 中国での事業に直接関連しない企業であっても、サプライチェーン上の企業が制裁を受けた場合、間接的な影響により、事業活動が滞る可能性がある。中国の今後の反外国制裁法・本規定の運用動向に注視し、継続的な情報収集体制とリスクへの対応方針の検討・体制整備を行うことが望ましい。 ※中華人民共和国反外国制裁法(2021年6月10日) 【参考情報】 下請法 下請代金支払遅延等防止法(以下、「下請法」)の改正案が2025年5月16日、参院本会議で可決、成立した。主要な改正は、2003年以来、約20年ぶりとなる。 本改正は、近年の急激な労務費や原材料費、エネルギーコストの上昇を受けて、発注者と受注者の対等な関係に基づき、サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を定着させる「構造的な価格転嫁」の実現を図ることを目的として行われた。 主な改正項目は以下のとおり。 出典:公正取引委員会「下請法・下請振興法改正法の概要」をもとにMS&ADインターリスク総研作成 今回の法改正は、2024年12月公表の企業取引研究会報告書※でも指摘された上昇したコストの価格転嫁に関する問題や運送委託における荷主・物流事業者間の問題(荷役・荷待ち)、下請法逃れの問題など、価格転嫁を阻害し受注者に負担を強いる商習慣を改善し、価格転嫁および取引適正化を図るものである。 改正下請法は、2026年1月1日より施行される。現行法では適用対象となっていない取引についても、改正により下請法の適用対象となる場合がある。企業においては、施行されるまでに既存取引を棚卸して契約内容や契約取引先の従業員数・資本金額を把握し、既存取引への適用の該否を確認することが求められる。 ※企業取引研究会「企業取引研究会 報告書」 https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/2024/241225_1.pdf 【参考情報】 労働安全衛生 厚生労働省は2025年5月20日、「労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行等について」を公表した。2025年6月1日より改正施行される「労働安全衛生規則」により、事業者は一定の条件下※1で従業員に作業を行わせる際、「体制の整備」、「手順の作成」、「関係者への周知」が義務付けられたことを周知している。 「体制の整備」は、定期的な職場巡視や体調確認を通じた熱中症初期症状の把握と、発見した場合の報告先や連絡方法の明確化を指す。「手順の作成」は、熱中症の恐れがある者に対する作業離脱、身体冷却など重篤化を防ぐ措置の内容およびその実施手順を定めることである。そして、それらの体制や手順について、見やすい場所への掲示やメール送付によって、作業者に確実に伝わるよう「関係者に周知」することが求められている。本改正で新設された規則は、労働安全衛生法の第22条に基づくもので、違反した場合には6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金を科される可能性がある。 改正の背景としては、近年顕著となっている気候変動による夏場の気温の高まりがある。2015年には職場における熱中症の死傷者数は464名だったが、2024年には1,257名と、10年で約3倍に増加している※2。また、熱中症は労働災害の中でも死亡災害に至る可能性が高いことも対策が急がれる理由である。厚生労働省の統計で、発生件数が最多なのは「転倒」、死亡者数が最多なのは「転落墜落」だが、“死亡率”は熱中症が最も高くなっている。厚生労働省によると、熱中症の死亡災害の多くは初期症状の放置または対応の遅れによって生じているとされており、事業者が本改正の趣旨に沿って対策を進めることで、事態の改善が期待される。 出典:厚生労働省 職場のあんぜんサイト「令和6年度労働災害統計確定値」をもとにMS&ADインターリスク総研作成 熱中症に対しては、建設や運輸等、屋外や高温環境下での作業を伴う業種を中心に、休憩時間の確保や冷却機能付き作業服の導入などの対策が浸透しつつある。しかし、死傷者数の増加傾向は、気候変動によるリスクの高まりに対策が追い付いていないことを示唆している。加えて、人材不足や健康経営への注目を背景に、企業が従業員の健康や安全を守る責任は一層厳しく問われている。経営者やリスク管理の担当者には、法令上の義務を果たすのに留まらず、リスクの高まりや社会的要請といった環境の変化を勘案し、自社の現場に即した実効性ある対策を実施いただきたい。 1)WBGT(湿球黒球温度)28度又は気温31度以上の作業場において行われる作業で継続して1時間以上又は1日当たり4時間を超えて行われることが見込まれるもの 【参考情報】 サイバーセキュリティ 近年、サプライチェーン上の弱点を狙って攻撃対象への侵入を図るサイバー攻撃が増加している。サプライチェーンを構成する企業のサイバー攻撃への対策が不十分である場合、当該企業の事業活動に支障が生じるだけでなく、重要情報の流出や製品・サービスの供給停止などに繋がりかねず、当該企業を踏み台にして取引先が攻撃される恐れもある。 2025年5月27日にIPAは、「2024年度中小企業等実態調査」(以下、本調査という)の結果を公表、中小企業のセキュリティ対策状況について報告した。IPAは、同種の調査を2016年度および2021年度に実施している。 出典:本調査報告書をもとにMS&ADインターリスク総研作成 本調査結果によると、過去3年間に情報セキュリティ対策投資を行っていない企業は約6割に上っている。2016年度、2021年度の調査結果よりも悪化しており、中小企業が情報セキュリティ対策投資に踏み出せていない実態が明らかになった。また、投資をしていない理由として「必要性を感じない」ことを挙げた割合は小規模企業者では約5割となっており、中小企業におけるサイバーセキュリティ対策が進まない原因として、セキュリティ投資の費用対効果が不明瞭であることが主な原因の一つと示された。 IPAが普及展開している「SECURITY ACTION※1」や「サイバーセキュリティお助け隊サービス※2」は、中小企業向けに開発された情報セキュリティ対策推進策であり、一定の基準を満たせば、補助金の対象となるなどの仕組みが用意されている。しかし、どちらも中小企業の認知度は10%を下回っており、活用されているとは言い難い。 中小企業のサイバーセキュリティ対策を進めるためには、取引先がサイバーセキュリティ対策の実施を条件として仕事を発注するなどの動機付けが必要であろう。中小企業をはじめすべての企業や組織がサイバーセキュリティの重要性を理解し、積極的に対策を講じるよう、環境の整備や継続的な啓発活動が強く求められる。 1)SECURITY ACTION:中小企業が、情報セキュリティ対策に取組むことを自己宣言する制度。 【参考情報】
○ EUDR、国別リスク区分を定める規則案および各国分類案を提示
リスク区分
初回分類国
事業者デューデリジェンス
想定される企業への影響
低リスク
EU各国
日本
米国
中国
インドなど
情報収集のみ
税関手続きの簡素化
標準リスク
ブラジル
インドネシア
マレーシア
コートジボワールなど
情報収集
リスク評価
監査等のリスク緩和措置
年次報告の義務
当局の査察による輸送遅延
契約拒否
罰金(自社におけるEU内での総売上高の最大4%)
税関または当局による商品押収
EU市場への輸入および販売の禁止
高リスク
ロシア
ベラルーシ
ミャンマー
北朝鮮
情報収集
リスク評価
監査等のリスク緩和措置
年次報告の義務
当局の査察による輸送遅延
契約拒否
罰金(自社におけるEU内での総売上高の最大4%)
税関または当局による商品押収
EU市場への輸入および販売の禁止
2025年5月22日付 European Commission HP: https://green-forum.ec.europa.eu/deforestation-regulation-implementation/eudr-cooperation-and-partnerships_en
○ Biodiversity Credit Allianceがボランタリー生物多様性クレジットの審査メカニズムの検討を開始
-*-*-*-*-
2)民間が主導するカーボンクレジットの取引市場のこと
3)https://icvcm.org/assessment-status/
2025年6月6日付: https://www.linkedin.com/posts/biodiversity-credit-alliance_????-?????-?????????-activity-7336309012537176064-XJB8
○ TISFDの起草体制が始動、世界4地域「カウンシル」メンバーを公表
-*-*-*-*-
②基準策定に重要な担当国・地域内の特性や事情などを、カウンシル内外で協議・共有
③本基準が対象にする「不平等」や「社会」のテーマについて、投資家を中心に理解増進を図る
2025年5月20日付 TISFD HP:https://www.tisfd.org/news/tisfd-announces-launch-of-regional-councils-to-ensure-global-relevance-and-local-engagement
○ TOPIX構成企業の約3割がSSBJ基準の義務化前の開示を検討、GPIF調査
-*-*-*-*-
<SSBJ開示の予定・検討状況>

2025年5月27 日付 年金積立金管理運用独立行政法人HP: https://www.gpif.go.jp/esg-stw/stewardship/stewardship_questionnaire_10.html
○ 中国が反外国制裁法の実施規定を公布
-*-*-*-*-
https://www.gov.cn/xinwen/2021-06/11/content_5616935.htm
中国政府HP:https://www.gov.cn/zhengce/content/202503/content_7015400.htm
○ 下請法、約20年ぶりの主要な改正
-*-*-*-*-
改正の項目
主な改正内容
1.協議を適切に行わない代金額の決定の禁止
・対象取引において、代金に関する協議に応じないことや、
協議において必要な説明又は情報の提供をしないことによる、
一方的な代金の額の決定を禁止。
2.手形払い等の禁止
・対象取引において、支払い手段として、手形払いの他、
電子記録債権やファクタリング等、代金相当額を得ることが
困難なものを禁止。
3.運送委託の対象取引への追加
・対象取引に販売、製造等の目的物の引渡しに必要な運送の
委託を追加。
4.従業員数基準の追加
・委託事業者に「300人超」(役務提供委託等は100人以上)、
受託事業者に「300人以下」(役務提供委託等は100人以下)の
区分を新設し、規制および保護の対象を拡充。
5.面的執行の強化
・事業所管省庁の主務大臣に指導・助言権限を付与し、
「報復措置の禁止」の申告先として、
事業所管官庁の主務大臣を追加。
6.用語の見直し
・下請代金支払遅延等防止法を「製造委託等に係る
中小受託事業者に対する代金の支払いの遅延等の
防止に関する法律」に、「下請事業者」を
「中小受託事業者」に、「親事業者」を「委託事業者」に改正。
2025年5月16日付 公正取引委員会HP:https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2025/may/250516_toritekiseiritsu.html
○ 厚生労働省、労働安全衛生規則を改正し熱中症対策を義務化
-*-*-*-*-
類型
転倒
転落墜落
熱中症
2024年の発生件数
36,378
20,699
1,257
上記のうち死亡者数
31
188
31
死亡者の発生割合
0.08%
0.90%
2.46%
2)厚生労働省発行パンフレット「職場における熱中症対策の強化について」より引用
2025年5月20日付 厚生労働省HP:https://neccyusho.mhlw.go.jp/
○ 2024年度 中小企業における情報セキュリティ対策に関する実態調査~中小企業の6割がセキュリティ投資せず
-*-*-*-*-
文献調査
アンケート調査
インタビュー調査
調査
対象
20件の文献
中小企業等の経営層および情報システム/情報セキュリティの担当マネージャ(4,191件)
アンケート回答者のうち有効な取組を実施していると想定される中小企業等(21社)
調査
項目
2)サイバーセキュリティお助け隊サービス:中小企業に対するサイバー攻撃への対処として不可欠なサービスをワンパッケージにまとめた、民間の事業者から提供されるサービス。
独立行政法人情報処理推進機構(IPA): 「2024年度 中小企業における情報セキュリティ対策に関する実態調査」報告書について https://www.ipa.go.jp/security/reports/sme/sme-survey2024.html
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教育・保育施設等における事故報告書・ヒヤリハット報告書の運用状況と考察【医療福祉RMニュース(2025年7月)】
保育施設や放課後児童クラブなどで発生した重大事故が8年連続で増加している。こども家庭庁が 毎年集計・公表している「教育・保育施設等における事故報告集計」の令和5年版によると、令和5年1月1日から12月31日までに国に報告のあった重大事故(死亡事故および治療に要する期間が30日以上 の負傷や疾病)は2,772件であり過去最多となっている。報告のあった重大事故の内訳としては死亡 事故が9件、負傷等の事故は2,763件(うち2,189件は骨折を伴うもの)であった。施設種別としては 保育施設で2,121件(うち死亡事故が6件)、放課後児童クラブで651件(同3件)であった。
図1 教育・保育施設等における重大事故発生状況の推移


出典:こども家庭庁「「令和5年教育・保育施設等における事故報告集計」の公表について」(令和6年)を基にMS&ADインターリスク総研にて作成
教育・保育施設等においては重大事故が発生した際には所在地の自治体へ報告することが義務付け られている。ここで言う重大事故とは、前述のとおり死亡事故と治療に要する期間が30日以上の負傷 や疾病を伴う重篤な事故とされている。一方、重篤な事故に限らず、被害が軽微なものや物損事故等 についても各施設内においては報告の対象として取り扱っているケースが一般的であることから、 これらを含めた教育・保育施設等において年間に発生する事故件数が相当数に上ることは想像に難く ない。当社は2025年2月に、教育・保育施設等における事故報告やヒヤリハット報告の運用状況に ついて調査を実施した。本稿ではその結果報告と教育・保育施設等において求められる事故・ヒヤリハット報告書の運用について考察する。
当社では、2025年2月に教育・保育施設等を対象に自施設における事故報告書およびヒヤリハット報告書の運用状況について調査を実施した。調査の実施概要については表1のとおりである。
| 調査時期 | 2025年2月6~28日 |
|---|---|
| 調査方法 | インターネット調査 |
| 調査客体数 | 4,800件 |
| 回答件数 | 563件(回収率11.7%) |
| 調査対象 | ・認可型:保育所、認定こども園(保育所型・地方裁量型)、 事業所内保育事業者(定員20人以上・小規模A型基準・小規模B型基準) ・認可外:事業所内保育 その他 |
事故報告書は発生した事実を明らかにし速やかに関係者への情報共有を図ることが主目的であるが、発生した事故の原因分析や対応策の検討等の振り返りを実施し、再発防止や類似する事故を防ぐことも重要な目的の一つである。
事故報告書の振り返りについては、提出された事故報告書のすべてを対象に実施しているケースと、重大事故に限定して実施するケースが想定されるが、調査の結果、回答者の70%弱の施設が「提出された事故報告書のすべてについて振り返りを実施している」と回答した(図2)。「重大事故に限定して振り返りを実施している」と回答した施設は約12%であり、合計すると回答者の約80%の施設においていずれかのレベルで事故報告書の振り返りを実施していることが明らかになった。一方で、「事故は発生していない・事故報告書は出ていない」とする回答も約16%存在した。自由記述回答において「小規模で目が行き届いているため、事故は発生していない」とする説明が散見され、実際に定員数が少ないほど「事故は発生していない・事故報告書は出ていない」と回答する割合が増えた(図3)。
図2 事故報告書の振り返り状況


MS&ADインターリスク総研にて作成
図3 事故報告書の振り返り状況(定員数別)


MS&ADインターリスク総研にて作成
また、事故報告書の振り返りを実施することにより得られた効果について尋ねたところ、「振り返りを実施したすべての事故」もしくは「振り返りを実施した事故の一部について対策を講じることができた」とする回答が多数を占め、多くの施設で一定の再発防止策を講じていることが分かった(図4)。なお、施設規模による傾向の違いはうかがえなかった。
図4 事故報告書の振り返りにより得られた効果


MS&ADインターリスク総研にて作成
続いて、リスクマネジメントの取組の一環として多くの施設で導入されているヒヤリハット報告書だが、その目的は事故が発生する前段階での気づきを共有し事故を未然に防ぐことであり、事故報告書と同様に提出することのみならず、集計や分析を実施し対策につなげていくことが重要である。
教育・保育施設等におけるヒヤリハット報告書の運用状況については回答者の約45%が「計画的な集計や分析を実施している」と回答し、「不定期に集計や分析を実施している」と回答したものを合計すると約70%がヒヤリハット報告書から対策に結び付けられていることが分かった(図5)。一方、集計や分析は実施しておらず作成のみにとどまっている施設(19.9%)やヒヤリハット報告書自体を作成していない施設(4.4%)も僅かながら見られた。なお、自由記述回答にてヒヤリハット報告書を活用していない理由として、ヒヤリハット報告自体の必要性に疑問を投げかけるコメントも一定見られており、前述したヒヤリハット報告の意義や効果に対する認識が十分でない層の存在がうかがえた。
図5 ヒヤリハット報告書の運用状況


MS&ADインターリスク総研にて作成
事故報告書およびヒヤリハット報告書の運用上の課題について尋ねたところ「特に課題と感じることはない」(32.9%)とする回答が最も多く、次いで「集計・分析の時間がない」(28.8%)とする回答が多かった(図6)。事業所定員数でクロス集計を実施したところ、施設規模が小さいほど「課題はない」と回答する割合が多く、定員21人以上のクラスではいずれも「提出された事故報告書やヒヤリハット報告書を集計したり分析する時間がない」を選択した回答者が最も多かった(図7 ※21~40人クラスのみ「特に課題と感じることはない」と同率)。一定の規模を持つ施設においては小規模の施設よりも事故件数は相対的に多いことが考えられることから、集計や分析の必要性をより強く認識しつつも時間がないため取り組めていない状況がうかがえた。
図6 事故報告・ヒヤリハット報告書の運用で課題と感じること


MS&ADインターリスク総研にて作成
図7 事故報告書・ヒヤリハット報告書運用上の課題(事業所定員数別)


MS&ADインターリスク総研にて作成
本稿では、教育・保育施設等における事故報告書およびヒヤリハット報告書の取組に関する状況について考察した。結びとして今後の教育・保育施設等における事故報告およびヒヤリハット報告の取組に求められることについて述べる。
前述のとおり、所在地の自治体へ報告義務のある重大事故の基準は死亡事故および治療に要する期間が30日以上の負傷や疾病となっているが、多くの施設ではその他に発生した軽微な事故についても組織内で報告することが求められているはずである。重大・軽微の如何に関わらず、こうした施設内でも報告が必要とされているものについて報告基準を設定することは必要である。この際、報告基準が曖昧だったり職員によって解釈の異なる基準だと施設内で発生している事故の実態が不明確になるおそれがあるため、具体的で明確な基準を設定し組織内で周知徹底を図ることがポイントである。ヒヤリハット報告も含め、組織内で報告を必要とする事故の基準について今一度確認されたい。
報告のあがった事故やヒヤリハットの対策の検討にあたっては、集計や分析作業も不可欠となる。まず、集計により施設内で発生している事故の傾向を把握し、優先的に対応すべきリスクを洗い出すことが求められる。その上で、SHEL分析※等のフレームワークを活用しながら分析を実施し、事故の要因を明らかにすることで再発防止に向けたより実効的な対策の立案につなげることができる。
対策内容の定期的な見直しを行うことにより、実施した対策が期待する効果を上げているか否かについて評価することが求められる。これは再発防止を図る上で重要なプロセスである。対策が不十分な場合はその原因を特定し、分析からやり直すことや、対策の適用範囲や実施方法を見直す等の対策内容を改善することが必要となる。この見直しのサイクルを継続的に繰り返すことで、より実効的な対策の立案と実施が可能となる。
※SHEL分析
事故の原因を分析するためのフレームワークの一つ。「Software(ソフトウェア)」 「Hardware(ハードウェア)」「Environment(環境)」「Liveware(ヒト)」の視点 から事故の原因を分析する方法であり、それぞれの頭文字を取りSHEL分析と呼ばれる。
事故の予防という観点ではKYTの取組についても、その有効性が近年改めて注目されており推奨される。KYTとは危険予知レーニング(危険KikenのK、予知YochiのY、トレーニングTrainingのT)の頭文字を取った略称であり、イラスト等を基に現場の中に潜む様々な危険とそれが引き起こす現象について話し合い、危険要因の確認や対策について検討する訓練である。これにより職員個人の危険に対する気付きの感性を向上させることが期待される。また、KYTは職種や経験年数等を問わず実施できることから、コミュニケーションの活性化によるチームワークの強化も期待できるものであり、積極的に活用されると良いだろう。なお、令和5年度子ども・子育て支援調査研究事業にて実施された 「教育・保育施設等における「教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン」等の効果的な周知方策についての調査研究」事業においてその有用性が確認されており、また、こども家庭庁および文部科学省の連名で令和7年3月12日に発出された事務連絡「新年度における教育・保育施設等の事故防止に向けた取組の徹底について」においてもKYTの活用が啓発されたところである。
KYTについては、当社でも保育施設等向けのイラストダウンロードサービスを開始している。施設内のKYT研修で利用できる、バス送迎、水遊び、食事の提供等の保育所等における安全管理計画に沿った場面のイラストを、一枚1,300円(枚数に応じて割引あり)からダウンロードして購入できるサービスである。KYT研修に慣れていない施設においても活用できるよう、イラストを購入された方には研修に必要なツール(記入シート・記入例)の提供と研修の進行動画も視聴できるようにしている。その他、安全計画やBCP(業務継続計画)等の各種計画の策定支援・内容チェックやセミナー講師の派遣等、リスクマネジメントに関するソリューションを提供しているので、ご興味のある方はお気軽にお問い合わせ頂きたい。
【参考資料】 こ ど も 家庭庁「 「 令和5年教育 ・保 育施設等における事故報告集計」の公表 について 」 令和6年8月
1)こども家庭庁「「令和5年教育・保育施設等における事故報告集計」の公表について」(令和6年8月)https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/68cc3ca7-8946-43e9-939c-5ec2113f1512/832f7db8/20240801_policies_child-safety_effort_shukei_09.pdf
2)PwC コンサルティング合同会社「教育・保育施設等における「教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン」等の効果的な周知方策についての調査研究事業報告書」(令和6年3月)https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/a412ce1d-d1a4-419d-b341-1f64b52e7855/07157386/20241024_policies_child-safety_effort_report_05.pdf
3)こども家庭庁・文部科学省「事務連絡 新年度における教育・保育施設等の事故防止に向けた取組の徹底について」(令和7年3月)https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/787dd8a4-3b44-4eed-a661-b9d0729f70c9/7ebfd188/20250314_policies_child-safety_effort_tsuchi_19.pdf
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南海トラフ巨大地震の被害想定の見直しについて【災害リスク情報(2025年7月)】
「南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ」(以下「WG」と表記)は、南海トラフ巨大地震に関する被害想定や対策の検討をするため、2012年に中央防災会議防災対策実行会議の下に設置された。2014年には「南海トラフ地震防災対策推進基本計画」が策定され、「今後10年間で、南海トラフが発生した場合に想定される死者数を概ね8割、建築物の全壊棟数を概ね5割減少※1」という減災目標を定めていた。こうした目標を掲げてから10年を迎えたことを受けて、基本計画の見直しに向けた防災対策の進捗状況の確認や新たな防災対策の検討を目的として、2023年に再度WGが設置され、被害想定の見直しが進められてきた。
地震被害想定では、最終的には死傷者数や建物全壊棟数などの人的・物的被害量を定量的に示すことや定性的な被害様相を具体化することを目的とするが、そのプロセスには地震ハザード(地震動や津波、液状化等)評価が不可欠である。今般の被害想定見直しでは、「南海トラフ巨大地震モデル・被害想定手法検討会」(以下「モデル検討会」と表記)にて、これらのハザードも最新の工学的知見やデータに基づいて再評価されている。2025年3月末に、新たな被害想定結果がモデル検討会より公表され、同日にWGより被害想定を踏まえて実施すべき対策等をとりまとめた報告書(以下「WG報告書」※2と表記)が公表された。以降ではハザード評価の見直し、新たな被害想定、企業の防災対策の順に要点を解説する。
前回評価(2012・2013年報告)から、震源モデルのパラメータ(震源の位置、深さ、マグニチュードやすべり面の大きさ、角度など)には変更は見られないが、地震シナリオ自体の追加として、時間差をおいて発生する地震(南海トラフの東または西側半分で地震発生後、割れ残ったもう半分の領域でも地震が発生する事象)が新たに検討されている。
ハザードを評価するための計算手法や使用したデータに関する主な変更点には、「地盤構造モデルの高精度化」と「地形データや堤防データの更新」が挙げられる。特に前者は地震動評価へ影響し、後者は津波評価へ影響することから、それぞれのハザード算定結果の比較を通して、これらの変更点を確認する。
地震動の評価に使用する地盤構造モデルは、浅部(地表に近い地盤)と深部(深い地盤)がそれぞれモデル化されている。
浅部地盤には、前回評価にも使用された局所的なボーリングデータおよび、新たに整備された250mメッシュ微地形区分データ(若松・松岡(2020))が使用されている。微地形区分データでは、ここ10年程度で新たに造成された埋立地の反映や地震に脆弱とされる旧河道に重きを置いた微地形区分判定が行われており、該当するメッシュでは揺れの大きさを過小評価しにくくなるよう見直されている。その他にも火山地形分布の変更や山麓地の追加、山地・丘陵の地質年代による分類の明確化など、山側のエリアにおいても大幅な見直しが行われている。
深部地盤には、前回評価以降に作成された防災科学技術研究所などの最新の地盤構造モデルを一部地域で採用している。地盤モデルでは、地震波が地盤内部を伝わる速度が場所や深さによって異なる特性を反映させることが重要となるが、前回評価以降に蓄積された各種物理探査結果や地震観測記録の分析結果を使用して、深部地盤の揺れの伝わり方の特性が更に実態に近づくよう、従来の深部地盤モデルに調整が加えられたものが使用されている。


【図1】前回の震度の最大値の分布(内閣府※3)に一部加筆


【図2】今回の震度の最大値の分布(内閣府※4)に一部加筆
図1は前回(2012・2013年)、図2は今回(2025年)の最大震度の分布図である。地盤構造モデルの高精度化によって、図内の黒丸印で示すように局所的に震度が大きくなった地域や小さくなった地域がみられるが、全体の傾向として大きな変化はない。震度7は静岡県から宮崎県までの主に沿岸域で想定されていて、前回の143市町村から6地点増え149市町村となった。報告書には、各市町村の想定震度が記載されており、自宅や事業所がある市町村の震度を確認しておくことをお勧めする。また、図1および2での比較は、あくまでも広域的な視点であり、前述した微地形区分の変更に伴う局所的な変化が確認できないことから、特に沿岸部の埋立地や大きな河川によって形成された扇状地・平野部などでは、揺れの想定の再確認が望まれる。
津波の評価においては、陸域の浸水計算に使用される地形データが大幅に見直されている。前回評価では、等高線から補間された標高モデルを基に地形データが作成されていたが、今回の評価では前回評価以降に各都道府県が実施した津波浸水想定の際に使用された地形データが収集されており、航空レーザー測量による高精度数値標高モデルから作成されたものが多い。図3に地形データの更新イメージを示すが、航空レーザー測量による標高モデルから作成された地形データのほうが、実際の地形に近く、特に標高が低い土地が広域に広がる地域では、浸水範囲が大きく異なる可能性が 示唆される。


【図3】地形データの高精度化のイメージ(内閣府※4)
左: 地形図の等高線による標高モデル(前回) 右:航空レーザー測量による標高モデル(今回)
また、津波到達時の防護機能を果たす沿岸部の堤防データも更新されており、今回考慮された堤防の総延長は前回よりも約 3 割増加した。これにより新たに堤防が加味された地域では、浸水域が狭くなることが期待されるが、検討会では堤防の破堤条件として越流破堤(津波が堤防を越流すると破堤する条件)を前提としていることから、沿岸部の津波高さが堤防高さを超えるような地域では、堤防による防災効果が計算結果には現れにくいとも考えられる。
上記のデータ更新によって、津波による浸水想定範囲の面積は前回評価から約3割増加した。これには前述の地形データ更新の影響が大きいと考えられる。一例として、徳島県付近における津波浸水域を前回(図4)と今回(図5)で比較すると、特に図中に黒丸印で示した地域などでは浸水域が前回よりも広域となったことが読み取れ、沿岸部の低地帯に立地する事業者においては、今回の津波評価結果の再確認が不可欠である。
加えて、今回の津波評価では、沿岸における津波到達時間について、実際に沿岸部で観測される津波の高さと整合するように計測方法が精査されている。具体的には、津波到達を判別する海面水位上昇の考え方が「地震発生(地殻変動)直前の水位から一定程度上昇したとき」ではなく、「地震発生(地殻変動)直後の水位から一定程度上昇したとき」に変更されている(図6)。これにより、特に地震直後の地殻変動で地盤が沈降した場所では、津波到達時間が前回評価よりも早まっていることに留意されたい。当該指標は地震発生後の津波避難を考慮する上で極めて重要な指標であり、今回の見直しで広範囲にわたって到達時間が早まっていることから、津波避難を計画している事業者には是非とも確認頂きたい内容である。

【図4】前回の津波浸水深分布(内閣府※5)に 一部加筆 【図5】今回の津波浸水深さ分布(内閣府※6)に 一部加筆

【図4】前回の津波浸水深分布(内閣府※5)に 一部加筆

【図5】今回の津波浸水深さ分布(内閣府※6)に 一部加筆


【図6】沿岸における津波到達時間の計測方法の精査(内閣府※7)
本章では、WG 報告書でまとめられた被害想定について、最大クラスの地震に対する被害想定結果を前回評価結果と比較しながら内容を確認する。加えて、今回新たに試算されている防災対策を推進した場合に見込まれる被害低減効果、および時間差をおいて発生する地震の被害想定について紹介する。
地震動はモデル検討会で検討された地震動5つのケースのうち、「基本ケース」と「陸側ケース」について、津波は全 11ケースのうち東海・近畿・四国・九州の各地方で大きな被害が想定される4つのケースについて、組み合わせて被害想定が検討されている。また、時間帯や風速など発生状況による複数のシナリオも想定されており、被害が最大となる最悪ケースの数値を表1にまとめた。
【表1】南海トラフ巨大地震の被害想定最悪のケース比較(内閣府※8※9※10※11を参考に当社作成)


死者数は、前回と比べて約1割減少した。住宅や公共施設の耐震化や、津波避難タワー整備などの津波対策が進んだことが減少につながったとみられる。但し、津波の浸水想定範囲が増加したことや、高齢化に伴う避難行動の遅れなどが理由で、大幅な減少(基本計画で定める死者数を概ね8割減少)には至らなかった。
加えて、今回初めて災害関連死者数が算出された。過去の大規模災害において、避難生活の長期化やストレス、持病の悪化、医療・介護の不足など間接的な要因によって亡くなる人が多数発生することが明らかになったためである。東日本大震災と令和6年能登半島地震の実績に基づいて算出されており、最大で5.2万人と想定される。また、南海トラフ巨大地震では超広域にわたって被害が発生し、外部からの支援などが困難になる可能性も指摘されていて、災害関連死者数が想定以上となる恐れもある。
物的被害、ライフライン被害等では、全壊・焼失棟数が前回からわずかに減少し235万棟となったほか、都市ガス停止戸数や発災後3日間の食料不足量などの項目が減少した。これらの項目では、住宅の耐震化やガス供給管路の耐震化、防災備蓄の推進などの対策効果が評価結果に現れている。一方で、停電軒数や通信不通回線数、上下水道の使用困難人口、道路被害箇所数など前回よりも増加した項目も多い。これらの増加の要因には、前章で確認した津波浸水域の増加に伴う被害量の増加や、前回からの外部環境の変化(通信回線の大幅な増加)などが挙げられている。ライフライン被害の増加に伴って、復旧に見込まれる期間も多少の延長が想定されることから、特に企業活動においては、災害時に継続すべき業務や目標復旧期間を設定している優先業務に必要となるリソースが確保されうるかや、中断を許容する業務の期間がライフラインや交通(物流)の回復までに要する期間と見合っているかを見直すきっかけとされたい。
また、今回の被害想定では、電力の項目として、新たに「供給力のピーク電力需要に対する割合の推移」が示されている。これは、東日本大震災で被災した沿岸部の火力発電所が半年経過しても復旧しなかったものが多かったこと、最大出力までの復旧はさらに時間が必要であること、2018年の北海道胆振東部地震では主力発電所の稼働停止による供給力低下と発災後の電力需要とのバランスが取れなくなったことにより大規模な停電が発生したことなどを踏まえ、新たに示されたものと思われる。一例として四国地方が大きく被災するケース(津波ケース④かつ陸側ケース)における想定結果を表2に示す。
【表2】供給力のピーク電力需要に対する割合の推移(出典:内閣府※8)


本結果では、被災直後から1週間後にかけて、西日本(60Hz)のエリア全体で5割前後の供給力となることが示されており、送電網が被災していないエリアにおいても発災から数日間は需給バランスの不安定さに起因して大規模停電が発生する可能性がある。但し、需給バランス等に起因した停電は、一般送配電事業者間の電力融通により、発災3日後には送電網が健全なエリアを中心に解消されることが見込まれている※12。また、四国4県の電力供給力は発災3か月後までは停滞する可能性が示されている。こちらも一般送配電事業者間の電力融通によって一定の供給力がカバーされる期待はあるものの、電力需要の回復が供給力を上回ることが見込まれる場合は、節電要請や計画停電等の需要抑制が長期にわたって実施される可能性も考えられる。
前述の被害想定の推定値は、あくまでも最大クラスの地震を想定した場合であり、報告書では最大ケースの他に、防災対策を推進した場合に見込まれる被害軽減効果についても試算されている(図7)。
例えば、強震動に対する防災対策として、旧耐震基準の建物の建て替えや耐震補強などが実施され、耐震化率が現状の 90%から 100%になった場合、全壊棟数は7割も減少できる。また、津波に対する防災対策としては、全員が発災後10分で避難を開始した場合、津波による死者数を7割減少できると試算されている。このような防災対策の実施が、被害を最小限に抑えるための今後のカギになると考えられる。


【図7】防災対策の効果試算(内閣府※4)
今回の被害想定では、南海トラフの震源域において歴史的に東側と西側の震源が時間差をおいて地震が発生した過去を持つことを踏まえ、新たに「時間差をおいて発生する地震」の被害想定が示されている。WGでは、この被害想定を示す目的に、以下の2点を掲げている※13。
※1)南海トラフ沿いで巨大地震の可能性が一時的に高まった際に発表される情報。「調査中」「巨大地震警戒」「巨大地震注意」「調査終了」の4段階に区分される。また、「巨大地震注意」は、「M7以上の地震」と「ゆっくりすべり(プレート境界がゆっくりとズレ動く現象)」の2種類に分けられる。
ここでは、具体的な被害量の定量評価結果は省略するが、WGの目的に照らして防災対策による被害軽減効果と時間差をおいて発生する大規模地震に特有の問題点を紹介する。
まず、被害軽減に寄与する防災対策として、WG資料※13では建物の耐震化の向上と津波浸水域からの事前避難を例示している。前者の重要性は上述したとおりであるが、後者については津波浸水深30cm 到達時間が30分以内の地域の全住民が事前に津波浸水リスクが低い場所(知人宅や親類宅等、または避難所等)へ事前避難をしていた場合の効果として、後発地震による死者数が95%以上減少する可能性に言及されている。このことからも、特に南海トラフ地震臨時情報(巨大地震警戒)を事前避難に活かす効果は大きいと考えられる。
次に、時間差をおいて発生する大規模地震に特有の問題点であるが、今回の被害想定では具体的な被害様相がまとめられた資料※14において、先発地震発生後や後発地震発生後における被害拡大要因が被害項目別に時系列に整理されている。これらの被害拡大要因の共通項には、1つは複数回の強い地震動によって、建物倒壊やライフライン施設、交通施設の被害が拡大する可能性が言及されている。これは 2016年に発生した熊本地震においても問題認識された点であり、当時、新耐震基準を満たしていた木造住宅の多くが倒壊した一因として、先発地震によって倒壊には至らなかったものの、躯体の修復を必要とするような損傷が発生した状況下で、後発地震によってそれらの建物が倒壊に至ったと考えられている。しかしながら、複数回の大規模地震に対して耐えうるような設計や施工を行うことは、コスト面で採算がとれにくく、企業としてもハード対策の実施が難しいことから、この問題に対してはソフト面での解決策が挙げられる。具体的には、先発地震で倒壊に至らなかった建物においても、事業継続(建物の継続使用)の可否を判断し、不可の場合には建物倒壊の可能性を視野に入れた避難、二次災害防止を進めることが挙げられる。内閣府では、「大規模地震発生直後における施設管理者等による建物の緊急点検に係る指針」※15を公表しており、事業者においても発災後には当該指針を活用して建物の安全性を確認することが望まれる。
もう1つの共通項として、後発地震の被災地域におけるライフラインや交通の復旧の遅れが挙げられる。これは特に、先発地震と後発地震の時間差が数日から1週間程度と短いケースに限られるが、先発地震の被災地復旧に多くの要員や物資が投入されつつある状況下で後発地震が発生することにより、後発地震の被災地への支援が行き届きにくくなり、復旧が滞る状況が想定される。勿論、このようなあらゆる事態に備えて、事業者や個人に万全な事前準備を求めることは難しいが、特に南海トラフ臨時情報が発表された場合には、先発地震への初動対応だけでなく、後発地震の発生を見据えた減災策(事前避難、備蓄品の増強など)を実施するタイミングを逃さないよう留意頂きたい。
WG報告書では、国・地方公共団体・地域・事業者・国民など、あらゆる主体が総力を結集して南海トラフ巨大地震防災対策に臨むことが必要不可欠であるとした上で、具体的に実施すべき対策についても述べている。ここでは、事業者が実施すべき主な対策をWG報告書から表3に抽出した。
【表3】事業者が具体的に実施すべき対策(出典:内閣府※2)


※2)津波浸水想定区域から避難可能範囲(地震発生後に付近の津波避難場所への避難が可能とされる範囲)を除いた地域。
これらの項目を俯瞰して、特に表中で示す項目番号の1~8については、従来から企業で防災取組を進めてきた方々が見ると、目新しさを感じにくい内容ではあるかもしれないが、今回の被害想定見直しの内容を踏まえて、改めて主な項目について深堀した備えの見直しを行うことは有益である。
例えば、項目1について、建物の耐震化や什器の固定は地震対策の基本的な話ではあるが、企業によっては事業所が地盤の良い丘陵地に立地していることを理由に対策を後回しとしているケースが見られる。今回の被害想定では、地盤構造モデルの見直しにおいて、実際に観測された地震動や常時微動に基づき揺れの伝わりやすさが考慮されていることから、改めて自社のサイトの地震動に変化が無いかを確認し、地震対策の優先度を見直すことも必要であろう。項目 2 についても、備蓄品の期限管理や保管場所の見直し(発災後に避難した場所から危険な場所へ近づかずにアクセスできる場所であるか)が望まれる。項目3や5、8に関しては、いずれも BCP との関わりが深い項目である。前章で紹介した被害想定を踏まえて、改めて自社の事業継続や早期復旧・代替策の見通しと社会全体の復旧の見通しを比較してみることや、事業の停滞期間に応じた資金面の検討をお勧めする。
項目6については、特に近年 SNS の普及が目覚ましいこともあり、発災後の新たな混乱を発生させる要因となりやすいことに注意されたい。特に最近は生成AIを活用することで、一般的な知能を有する人間と同程度のコメントや精巧に生成された被災画像などを多数流布することも可能となり、誤った被災情報を企業が信用するおそれも出てきている。NPO法人の日本ファクトチェックセンターでは、能登半島地震の際に見られた偽情報の事例を基に、災害時に広がる偽情報を5つの類型(実際と異なる被害投稿、不確かな救助要請、虚偽の寄付募集、根拠のない犯罪情報、その他)として紹介している※16。特に発災直後は、経営者や企業の災害対応担当者も不安定な精神状態において様々な情報の整理、判断が求められることから、一つ一つの情報を冷静に精査している余裕はないと考えられるが、初動対応や復旧戦略検討のフェーズにおいて、外部環境に関する情報も含めて方針決定の判断を下す場面においては、留意したい項目といえる。
項目10の臨時情報(巨大地震警戒)発表時の備えに関しては、前章で南海トラフ震源域で先発地震が発生した場合の留意点を紹介したが、先発地震が発生していない場合であっても臨時情報(巨大地震注意)が発表されるケースがあることにも留意されたい。当社では、当該臨時情報に対する企業の対応事例とポイントを BCM ニュース「南海トラフ地震臨時情報発出時の企業対応について」※17において解説しており、そちらも適宜参照されたい。
今回の報告書で示されているように、南海トラフ巨大地震の被害想定は、10年間の防災対策が一定程度効果を上げているものの、なおも超広域かつ甚大な被害を想定せざるを得ない。
そうした中で、国や地方公共団体だけではなく、企業や国民一人ひとりが総力をもって災害に臨むことにより、地震・津波から「命と社会を守る」こと、直接的被害から「助かった命や生活を維持する」こと、「生活や社会経済活動を早期に復旧する」ことの実現が極めて重要であるとされている。※2企業としては4章で述べたように、実効性のあるBCPの作成や事業者間の連携強化など、発災前から 主体性をもって対策に取り組む必要がある。
本稿が、南海トラフ巨大地震への防災対策を見直すきっかけとしていただければ幸いである。
【参考文献】
1)内閣府 南海トラフ地震防災対策推進基本計画
https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/pdf/nankaitrough_keikaku.pdf
2)内閣府 南海トラフ巨大地震対策について(報告書)(2025年3月)
https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/taisaku_wg_02/pdf/nankai_hokoku.pdf
3)内閣府 南海トラフ巨大地震対策について(最終報告)(2013年5月)
https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/taisaku_wg/pdf/20130528_houkoku_s1.pdf
4)内閣府 南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ報告書説明資料(2025年3月)
https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/taisaku_wg_02/pdf/nankai_setumei.pdf
5)南海トラフの巨大地震モデル検討会(第二次報告)(平成24年8月29日発表)ケース4「四国沖」に「大すべり域+超大すべり域」を設定
https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/model/pdf/case4.pdf
6)内閣府 地震モデル報告書 浸水図(ケース④)(2025年3月)
https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/kento_wg/pdf/shinsui_04.pdf
7)内閣府 地震モデル報告書 図表集(2025年3月)
https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/kento_wg/pdf/zuhyo.pdf
8)内閣府 南海トラフ巨大地震 最大クラス地震における被害想定について【定量的な被害量】(2025年3月)
https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/taisaku_wg_02/pdf/saidai_01.pdf
9)内閣府 南海トラフ巨大地震の被害想定について(第一次報告)(2012年8月)
https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/taisaku/pdf/20120829_higai.pdf
10)内閣府 南海トラフ巨大地震の被害想定について(第二次報告)~施設等の被害~【定量的な被害量】 (2013年3月)
https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/taisaku_wg/pdf/20130318_shiryo2_2.pdf
11)内閣府 南海トラフ巨大地震の被害想定について(第二次報告)~経済的な被害~(2013年3月)
https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/taisaku_wg/pdf/20130318_shiryo3.pdf
12)内閣府 南海トラフ巨大地震 最大クラス地震における被害想定について【被害の様相】(2025年3月)
https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/taisaku_wg_02/pdf/saidai_03.pdf
13)内閣府 南海トラフ巨大地震 時間差をおいて発生する地震の被害想定について【定量的な被害量】(2025年3月)
https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/taisaku_wg_02/pdf/jikansa_01.pdf
14)内閣府 南海トラフ巨大地震 時間差をおいて発生する地震の被害想定について【被害の様相】 (2025年3月)
https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/taisaku_wg_02/pdf/jikansa_02.pdf
15)内閣府 大規模地震発生直後における施設管理者等による建物の緊急点検に係る指針
https://www.bousai.go.jp/jishin/kitakukonnan/kinkyuutenken_shishin/index.html
16)日本ファクトチェックセンター 記事「災害時に広がる偽情報5つの類型 地震や津波に関するデマはどう拡散するのか」
https://www.factcheckcenter.jp/explainer/others/5-types-of-disinformation-about-disaster/
17)MS&ADインターリスク総研 BCMニュース<2022 No.2>「南海トラフ地震臨時情報発出時の企業対応について」
https://rm-navi.com/search/item/1141
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