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【お客さま事例】お客さまの脱炭素経営をサポートするため現場の提案力を高めたい 浜松いわた信用金庫さまが“実践型”研修で実現したいこととは?
ーー浜松いわた信金さまの概要と、脱炭素に関する取り組みの現状を教えていただけますか。
乗松)当金庫は、静岡県西部地域を中心に地域金融を担っています。2019年1月に「ユニバーサルバリュー宣言(SDGs行動宣言)」(https://hamamatsu-iwata.jp/sdgs/docs/universal_value201901.pdf)を制定し、SDGsへの貢献を経営の根幹に据えて、お客さまや地域の皆さまの持続的な発展に向けて取り組んでいます。


浜松いわた信用金庫 ソリューション支援部地域活性課 乗松健悟 次長
特に、気候変動や脱炭素に関しては、さまざまなニーズが広がることが見込まれることから、お客さまの取り組みを支援する「コンサルティング」、積極的な資金提供でニーズにお応えする「ファイナンス」、脱炭素化に向けて提携サービスをご紹介する「マッチング」といったソリューションを提供しています。
また、当金庫には環境省の認定制度「脱炭素アドバイザー※3」を取得した職員が436名在籍しています(2026年3月末時点)。これは、他の金融機関と比較しても少ない数字ではないと思っていますが、職員数全体でみると、取得者は4人に1人程度の割合にとどまりますので、引き続き積極的な資格取得者数の増加を目指しています。
こうした人材育成を通じて、気候変動対応・脱炭素化に向けた取り組みを支援し、お客さまの企業価値を高める体制整備を進めています。
※3 脱炭素化のアドバイスや実践支援を行う人材育成を国が後押しする施策として、2023年10月に創設された制度で、能力や役割によって、ベーシック、アドバンスト、シニアの3つのレベルに分かれる。
ーー浜松いわた信金さまが提供を促進しているサステナブルファイナンスについて教えてください。
乗松)当金庫は、サステナブルファイナスを通じて、脱炭素経営やESGに関連するお客さまの取り組みを資金供給面からも支援を目指しております。
お客さまが設定したKPIやサステナビリティ目標の達成状況に応じて金利条件などが変動する融資スキームで、目標達成を金融面からインセンティブ付けする「サステナビリティ・リンク・ローン(SLL)」と、環境・社会・経済へのポジティブなインパクトを総合的に評価し、その評価に基づいて融資を行うスキーム「ポジティブ・インパクト・ファイナンス(PIF)」の提供を2023年4月からスタートしています。
また2024年4月からは新たに、温室効果ガスの排出量の可視化に取り組むお客さまの事業活動を促進する「GX支援資金」の取り扱いを始めています。
こうしたサステナブルファイナンスの実行額は、2024年度までの実績で1,339億円、2030年度までの目標として、2024年度の実績の約2倍となる2,750億円を目指しています。


出典:浜松いわた信用金庫HP「気候変動の取組みについて」
https://hamamatsu-iwata.jp/about/outline/post_12.html
サステナブルファイナンスは、単に「環境に優しい融資」ではなく、お客さまの中長期的な企業価値向上を一緒に考え、その実現を金融で支えるための仕組みだと捉えています。
ーー浜松いわた信金さまとして、そこまでの高い目標を掲げてサステナブルファイナンスの提供を促進している理由はどこにあるのでしょうか?
乗松)先々のことを考えると、脱炭素に取り組んでいない企業は淘汰されてしまうという危機感があります。
静岡県の西部地域には二輪・四輪や楽器メーカーといった製造業を主体とした上場企業が多く、こうした企業は当然脱炭素に取り組んでいて、サプライヤーに対しても対応が求められている中、取引先にとっても脱炭素化は重要な経営課題となっています。
こうした環境変化を踏まえ、当金庫においても、取引先企業の持続的な成長と競争力強化を支える観点から、お客さまと共に脱炭素化に向けた取り組みの支援の一つとして、サステナブルファイナンスの提供を進めています。
ーーサステナブルファイナンスの提供を促進する上で感じている課題はありますか。
乗松)職員自身が脱炭素に関して十分に理解を深めた上で、お客さまの抱える課題を“自分事”として捉えて、脱炭素経営を推進する中でサステナブルファイナンスをお客さまに提案できるかどうかに課題を感じていました。
当金庫がラインアップするサステナブルファイナンスは、お客さまの脱炭素経営を支援する商品の特性からも通常の融資商品に比べて本部と営業店とでモニタリングやサポートをさせていただくスキームであり、当金庫もお客さまも一定の時間や対応を要する商品となっています。
このため「サステナブルファイナンスの趣旨をご理解いただいて、ご利用いただけるのか」というハードルを感じてしまい、提案をためらう職員もいると思っています。ただ、現状でも「サステナブルファイナンスを利用したい」というお客さまは一定数いらっしゃいますし、先ほどお伝えしたような背景から、今後はもっとニーズが高まってくると考えています。


こうしたことを踏まえて、脱炭素の知見を高めて一歩踏み込んでお客さまに提案できるように、これまでも支店長向け、役席者向け、現場営業職員向けといった形で当金庫を挙げて研修やEラーニングも行ってきました。ただ、どうしても「研修を受けて終わり」という形で、現場での行動につながっていないのではないかという課題がありました。
ーーこれまでも多くの研修を実施されてきた中で、今回、MS&ADインターリスク総研の脱炭素研修を導入された理由はどのような点にありましたか?
乗松)これまでの研修が単発で終わってしまっていた点に課題を感じていたので、MS&ADインターリスク総研さまのコンサルタントの方々と研修の企画を相談する中で、3回のシリーズとして基礎から実践まで学べるように設計してもらえる点に魅力を感じました。
| 日程 | 内容 |
|---|---|
| 1回目 12/2(火) | 脱炭素の基礎知識に関するセミナー |
| お客さまとの会話を想定したサステナブルファイナンス提案のロールプレイング研修 | |
| 脱炭素ソリューションとサステナブルファイナンスの提案を一体で設計するための「ターゲットシート」作成演習 | |
| 2回目 1/26(月) | 脱炭素ビジネスカードゲーム研修※4 |
| 3回目 3/3(火) | 「ターゲットシート」を使ったお客さまへのアプローチ状況確認 |
| アプローチ状況と成果の発表 |
※4 実際の浜松いわた信金さまでの脱炭素ビジネスカード研修の詳しい内容は以下の記事をご覧ください。
「脱炭素を自分事として体験できるビジネスカードゲーム研修とは?1人の行動がみんなの未来を変える」https://rm-navi.com/search/item/2473
研修は、単なる脱炭素を学ぶ座学ではなく、当金庫の取り組みを踏まえた内容にしていただけました。具体的には、まず、お客さまへの脱炭素ソリューションとサステナブルファイナンスの提案を一体で設計できる「ターゲットシート」のテンプレートを作っていただきました。“実践研修”としてそのシートを実際に使ってお客さまにアプローチして、3回目の研修で成果を発表するといった実践的な設計になっている点も非常に良かったです。


3回目の研修で「ターゲットシート」を使ってお客さまにアプローチした結果を発表する職員
2回目の研修では、脱炭素社会の実現に向けて組織としてどのように意思決定したり、ほかのプレーヤーと協働したりしていくかを体験できるビジネスカードゲーム研修を行うことによって、職員が脱炭素をこれまで以上に身近に感じることができたと思っています。
ーー3回の研修を通じて、職員の皆さまや組織には変化が見られましたか?
乗松)今回の研修には、現場の営業職員54名が参加して、「ターゲットシート」を使ったお客さまへのアプローチでは、実際にお客さまにPIFの趣旨にご理解をいただき融資を活用いただけたケースもありました。その意味では、サステナブルファイナンスを具体的にどうお客さまに提案したらいいのか、職員の中で理解が広がったと感じています。
また、“現場ですぐに使える”研修内容だったので、「明日からどのお客さまにどう提案するか」を具体的に考える場になって、提案力の向上にもつながっていくと感じています。


サステナブルファイナンスは、お客さまがサステナビリティに関する具体的な目標を設定して、その目標設定が適切かどうか、どのように外部機関の評価を取得するかなど、従来の金融商品よりも専門的な見地から本部で検討する必要があります。このため、現場と本部の連携が重要になるのですが、正直なところ、これまではサステナブルファイナンスの推進に関して、営業店からのトスアップや本部からの支援が不十分といった課題がありました。
それが今回の研修を通じて現場と本部のパイプが太くなり、サステナブルファイナンスを提案したいと考えている現場の案件を本部が拾いやすくなったことも大きな変化だと考えています。
ーー今回の研修を踏まえ、今後、どのように脱炭素やサステナブルファイナンスの取り組みを進めていくお考えでしょうか。
乗松)理想を言えば、こうした研修に頼らない状態を目指していきたいと考えています。職員一人ひとりが脱炭素に関してもお客さまの課題を自分事として捉えて、1社でも多くのお客さまに脱炭素経営を提案し、サステナブルファイナンスをご利用いただけるのが理想です。
サステナブルファイナンスはあくまでも社会全体の脱炭素化を目指すための金融商品の一つでしかありませんので、脱炭素経営に取り組むお客さまには、融資だけでなく再エネ・省エネ化やカーボンクレジット※5なども含めて、幅広く提案できる知識を身につけて、脱炭素社会の実現につなげられたらと思っています。
今後は、今回の研修で得られた知見や成功事例を参加者だけにとどめず、全店・全職員にどう水平展開していくかがカギになると考えています。例えば、「ターゲットシート」を活用した提案事例や、実際に成約につながったプロセスを「ベストプラクティス」として整理し、若手や融資経験の浅い職員でも同じステップを踏めば提案できるような“型”を作っていけたらいいなと思っています。


ソリューション支援部の久島廣也部長(左)と乗松氏
また、脱炭素やサステナビリティのテーマは、今後ますます高度化・専門化していくと考えられますので、今回のような実践型研修を入り口にしながら、専門人材の育成にも取り組んでいきたいと思っています。外部専門機関との連携も視野に入れつつ、地域の中小企業の方々に有益な情報・ソリューションを届けられる体制を整えることが目標です。
最終的には、こうした取り組みを通じて、当金庫がお客さまにとって「脱炭素・サステナビリティのことならまず相談したい金融機関」として認知される状態を目指しています。金融機関としての本業である融資と、脱炭素・サステナビリティの知見を掛け合わせることで、地域の企業価値向上とカーボンニュートラル社会の実現の両方に貢献していきたいと考えています。
(本インタビューは、2026年3月3日に実施されたものです)
※5 カーボンクレジットは、温室効果ガスの削減・吸収量を、国や国際的な第三者機関が認証し、排出権(クレジット)として取引可能にした仕組みのこと。詳しい内容は以下の記事をご覧ください。
「カーボンクレジットとは? 基本とビジネス機会、国際的な最新動向を解説」
https://rm-navi.com/search/item/2382
MS&ADインターリスク総研では、さまざまな研修メニューをご用意しており、脱炭素の取組を推進したいと考えている皆さまの状況に合わせ、カスタマイズした研修をご提供します。
実施規模や目的に合わせたプランをご提案しますので、詳細やお見積りのご希望は以下のフォームからご連絡ください。
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首都直下地震の被害想定見直しと企業の対策
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形式から本質への脱却 統合報告を変革のエンジンに【RMFOCUS 第97号】
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富士山噴火降灰対策のポイント【RMFOCUS 第97号】
日本は世界でも有数の火山大国であり、全国に111の活火山が分布している。このうち富士山はその偏西風の風下に首都圏を抱えることから、大量の降灰を引き起こすような大規模噴火が発生した場合には社会活動に大きな影響を与える 1)。民間企業においても防災・事業継続の面で大きな課題である。
噴火は地震や水害と異なり現代の大都市が被害を被った経験が無く、技術的な蓄積が乏しい(表1)。特に事業活動の基盤である建物についてはリスク・対策に関する全体像と具体的な情報が不足している。地震に対する耐震技術の発展に長い期間がかかったように、降灰対策の充実化についてもある程度の期間を要することが予想される。
一方、企業にとってはたとえ情報が乏しくとも「今」検討を始める必要があり、ここに大きなギャップがある。このような課題認識から竹中工務店では「建物の降灰リスク・対策」の検討に着手し、その現時点での全体像を描き要点を導き出すことを試みた 2)。本稿ではその内容を紹介する。

降灰による地域・社会への影響については内閣府などから豊富な情報が発信されている 1)。ここでは民間企業の備えの視点からその要点をまとめて示す。
噴火により起きる現象は降灰だけでなく溶岩流、噴石の落下、火砕流、などと様々である。富士山の次の噴火でこのうちどの現象が発生するのか、さらにその発生確率、規模の事前評価は難しい 3)。例として地震は地域別の発生確率情報があるのに対し、噴火は遭遇確率不明の災害である。
降灰災害の様相についてはハザードマップのモデルである「宝永噴火」が参考になる。この噴火では予兆現象の約2週間後に大噴火が発生し、その後約2週間降灰が続いたと推定されている。もちろんこれは単に一例であり、突発的に発生する・降灰が長期間続くなどの可能性もある。
火山灰には「灰」という文字が入っているが、実際には可燃物の燃えかすではなく細かい岩石の欠片である。砂やさらに細かい粒子に火山性の物質(硫化物等)が付着しているもの、という理解が分かりやすいと思われる。内閣府の資料に示された火山灰の特性 1)から想定される建物などへの影響を表2に示す。
このような火山灰の特性から、大規模降灰時は地域のインフラ・ライフラインの停止を引き起こす恐れが指摘されている。2025年3月に内閣府から発表されたガイドライン 4) ではその影響が降灰量の大小で4段階のステージとして整理したものが示された(表3)。
またこのガイドラインでは住民・企業に求める行動指針が示された。具体的には降灰エリアの住民は在宅避難とし、企業は移動(出社・帰宅等)困難に備えることである。
| 特性 | 建物などへの影響※ |
|---|---|
| 風に舞うような細粒分を含む | 様々なすき間からの侵入、特に吸気(外気の取入れ)をする屋外機器は多量に侵入 |
| 水を含むと泥のようになる | 歩行、車両通行の支障 |
| 乾くと固まる | 雨水管などの詰まり |
| 砂に近い重さ | 構造物の破壊、人力撤去に大きな労力 |
| 水を含むと導電性がある | 電気設備の短絡(ショート) |
| 鋭利な形状をした粒である | 駆動部の動作不良、損耗 |
| 1,000度程度の融点 | 内部が融点を超える機器(ガスタービン発電機など)の故障 |
| 火山性の物質(硫化物等)を含む | 屋外の金属部は長期で放置すると腐食 |
| (複合要因) | 植栽の枯死 |
※発生の「恐れ」がある確率的影響であることに注意
| ステージ | 1 | 2 | 3 | 4 | |||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ▲ 降灰微量 | ▲ 3cm | △ (閾値無し) | ▲ 30cm | ||||||
| 鉄道(地上) | × | × | × | × | |||||
| 鉄道(地下) | ○ | △ | × | × | |||||
| 道路 | ○ | × | × | × | |||||
| 航空 | × | × | × | × | |||||
| 電力 | △ | △ | × | × | |||||
| 通信 | △ | △ | × | × | |||||
| 上水 | ○ | ○ | × | × | |||||
| 下水 | ○ | ○ | × | × | |||||
| ○ | 基本的には通常通り稼働 |
| △ | 短期の停止、または条件により停止の可能性あり |
| × | ほど確実に停止、復旧に長期を要する |
(出典:内閣府ガイドライン(R7)を基に竹中工務店作成)
桜島から近い鹿児島市などでは日常的に降灰が発生しているが、大噴火時の想定と比べると微量であり、気象台記録 5) によると1mm未満が多い。1g/m2はおおむね1,000分の1mmの降灰に相当する。一部の建物は空調機器へのフィルタやフードの設置(図1)、雨水側溝を広くし掃除をしやすくする等対策を行っているが、特別な対策のない建物・設備も多い。これらはいわば災害というよりは清掃の対策である。

以上に示したような降灰災害の特徴から建物の被害の全体像を想定した(図2)。火山灰の影響は様々だが、特に深刻な被害は図中に引き出して示した「屋根の安全」「屋外設備の停止」である。
以下の節ではリスクと対策を安全・建物機能継続・復旧容易化の三つの視点に分けて説明する。なお4章に「これからの火山灰対策建物」のイメージ(図2)を示したので適宜参照されたい。

人命への影響として火山灰重量による屋根などの崩壊リスクを認識する必要がある。体育館・大規模倉庫のような建物でリスクが高い 6)。
建物の設計基準の一つに積雪荷重があり、首都圏ではおおむね積雪30cmで設計されている。この荷重と同等の火山灰の厚さは約4cmである。ハザードマップから多くの建物で積雪荷重を超える力がかかることが分かる。実際には、多くの建物では積載物やその他の安全上の余裕があると考えられるが、その余裕度が少ないと想定されるのが体育館・大規模倉庫などである。具体的には屋根自体が鉄骨造など軽量で、スパン(支えとなる柱と柱の距離)が大きいという特徴がある。建物に大きなひさしがある場合も注意が必要である。
これら以外の建物でも、屋根の樋が火山灰で詰まり雨水がプールのように溜まり続けると荷重がさらに増大する恐れもある。
まず崩壊リスクがある建物の把握と降灰時の立入禁止措置が必要である。詳細な計算による安全性検証は相応の検討期間が必要なため、保有建物が多い場合はまずは仕様ベースで区分けするのが現実的と思われる(屋根が鉄骨造など)。
補強は技術的には不可能ではないが、費用・期間・改修の影響範囲などの面から難易度は高い。極めて重要な設備がある建物では選択肢となろう。また屋上に過剰に雨水が溜まらない対策として、後述の雨水管対策のようにストレーナを設置するか、あるいはオーバーフロー管と呼ばれる水抜き穴の追加も選択肢となる。
建物内で業務を行うには設備機器(電気・空調・給排水等)の稼働が必要である。降灰時はライフライン供給が途絶する恐れがあるため、災害時用に用意された専用の設備(非常用発電機と燃料など)があることと、かつそれらが降灰時に稼働できることが課題となる。
結論を先に述べると、前述の「日常の鹿児島市程度」の微量の降灰であれば問題なく稼働するが、大規模降灰では最悪の場合すべての設備機器に停止の恐れがある。停止の原因・リスクの大小については以下のように整理できる。リスクの定量化は今後の課題である。
以下、全ライフライン供給途絶時を想定し、機器別にリスクを整理する。
設備の一部は発熱対策として外気などをファンで取り入れて冷却している。このため火山灰の内部混入、もしくは冷却不全の恐れがある。受変電設備は建物機能の根幹であり、「地域が停電していないのに自社ビルが停電する」というリスクもある。
近年、災害による停電に備えて、執務エリアにある程度の電力供給ができる建物が増えている。代表的な設備はディーゼル発電機など内燃機関を利用した非常用発電機である。したがって燃焼のための給気・冷却不全による停止の恐れがある。ガスタービン方式の発電機では内部の温度が火山灰の融点を超える可能性があり故障リスクがさらに高い。また停止リスク以外に、多くの建物には長期間稼働する燃料備蓄が無いこともリスクとして挙げられる。地震・水害による停電時には動くはずの発電機が降灰では動かない、つまりこれまでの建物の災害対応のシナリオが通用しないという点が大きな課題である。
停電時は当然稼働できない。空調機能のうち冷暖房については冷却・燃焼などのため外気を必要とする。その部分(例えば冷却塔や室外機のフィン)の詰まりなどにより冷暖房が出来なくなる。換気(新鮮外気の取り入れ)については外気導入経路にフィルタが設置されており、一般的な仕様の
ものであれば火山灰はここで捕捉される。このフィルタが短時間で詰まり換気ができなくなると、屋内の適切な空気質を確保できなくなる恐れがある。
停電時も稼働できる方式の場合は利用できる。リスクの程度は不明であるが、高架水槽などは外気に通じる通気口をもっており、火山灰が若干混入する可能性はある。トイレの利用は当然ながら洗浄水供給とセットである。
屋根や外構の雨水が火山灰とともに雨水管に大量に入り、雨水管を詰まらせる恐れがある。短期間であれば建物を使用するうえでは受容しうるが、屋内の雨水管から漏水が発生し、その二次的な被害として重要な機器の故障などにつながる可能性は否定できない。
リスクの程度は不明であるが、屋外のアンテナ等は火山灰の付着により機能に影響がでる可能性がある。
外気導入経路にフィルタがあっても、人の出入りに伴い火山灰が混入する可能性がある。精密機器、クリーン環境では注意を要する。
建物稼働の継続のためには①電気・空調設備a)~c)の対策が必要である。以下に概要を示すが、現時点において建築分野で標準的といえるものはなく、対策は容易ではない。
降灰時に建物を部分稼働するにせよ閉鎖するにせよ、停止した設備等への降灰を放置すると降灰終了後に建物復旧まで長期間を要する恐れがある。以下対象別にリスクの程度を記す。
再稼働のためには機器内部の清掃が済み、周囲に火山灰が飛散していない状態にする必要がある。上向き開口の大きい空調機器、冷却塔や水槽など開放液面がある設備は清掃手間が多くなる。降灰中に無理に稼働させて故障した場合、修理・再調達となった場合は復旧に長期間を要する恐れがある。専門会社による対応が必要であり建物機能の根幹であることから特に注意が必要である。
降灰後に空調を再稼働させると、吸気部周辺に残留した火山灰によりフィルタが短期間で詰まる恐れがある。フィルタの再調達となると復旧が長期化する。降灰後は地域全体として火山灰が飛散する恐れがあるがその影響は未知数である。
火山灰が配管の横引き部分や雨水貯留槽内に大量に詰まる・溜まると撤去に手間がかかる。また (1)安全の項目で述べたように雨水管閉塞で屋上に雨水が溜った状態になるとその排水でさらに手間を要する。程度によっては復旧作業しながらの建物再稼働も可能と思われる。
火山灰の保管と処理は事業者が実施となっている。外構の火山灰については、工場・物流施設では構内道路の啓開に手間を要するが、建設会社等への作業依頼が集中し工期がかかる恐れがある。その他の多くの施設では、処分までの保管管理の手間は要するが保管しながらの建物再稼働は可能と思われる。
屋上に設備機器がある場合、再稼働前に屋上の火山灰を撤去または飛散リスクが少ない状態にする必要がある。
建物が密閉されていない、降灰中に人が出入りする、空調が停止しエアバランスが崩れ排気側から外気が入る、などの理由により若干の火山灰流入による故障リスクがある。
最も影響度の大きい設備復旧の対策として、設備を稼働停止した際に内部へ火山灰が入らないようカバーをかけることが考えられる。設備機器は多数あり、かつ降灰前は準備期間・人員ともに限られる恐れがあることから事前にその優先順位を決めておくことが効果的である。その他個別の対策を挙げる。
以上のように降灰時に建物を通常通り稼働させるにはまだ多くの課題がある。対策のあり方は業種・立地・そのほかその企業特有の条件によると思われるが、大まかに以下のパターンの方針が想定される。
建物の災害対策の目標について地震を例にすると、「500年に1度発生する地震に対し倒壊を防止する」のように発生確率と性能レベルの組み合わせで設定されている。降灰についても発生確率が今後明らかになれば適切な対策レベル感が共通認識として形成されると予想される。前記②に相当する降灰対策建物のイメージを図3に示す。また企業の降灰対策が進んだとして、地域で想定される状況のイメージを図4に示す。内閣府ガイドライン 6) に示される企業・住民の対応を行うためにも保有建物のリスクを把握し対策を検討することが必要である。


これまでに述べた建物のリスク・対策の状況を踏まえ、企業がいまできることを最後にまとめる。
被害の規模が地震・水害などを超える可能性があること、タイムラインまたは危機レベル別の対応が必要なこと、予兆無しの突発噴火の対応方針、がポイントと考えられる。
地域ごとに刻々と変わる被害状況を対策本部で把握する方法の整理。近年充実化してきた地図情報システム(GIS)の活用も候補となる(図5)。整理した内容は⑤啓発・訓練・演習でも活用できる。


【図5】竹中工務店のGISプラットフォームでの検討例
本稿などを参考に降灰の影響、特に事業継続上の重要業務への影響を把握する。最低限のアクションリストとして「立入禁止建物・箇所(がある場合)明示」「カバー等をする設備機器のリスト(優先度も設定)」「雨水管の対策箇所の明示」の三つをお勧めする。これらは噴火直前に対応が必要だが検討時間が無いからである。平面図形式が見やすいが、実施事項がわかりさえすれば形式は自由である。
自社の要員が降灰時または降灰終了後の火山灰が舞っている時期に作業をする可能性がある。粉塵作業で必要なゴーグル・粉塵マスク・肌の露出を抑える衣類などの個人防護具の準備が推奨される。さらなる対策としては非常用発電機の停止に備えオフィス用蓄電池の導入、長期の屋内避難に備えた備蓄品の増強または融通の計画、などが考えられる。
繰り返しとなるが、大規模降灰は現代の大都市が未経験の災害であることが地震・水害と異なる。これを補うため、計画書やハードだけでなく事業継続対応の担い手となる要員の方々が自分事として考える機会が必要と思われる。例として、竹中工務店では啓発のために火山灰体験を取り入れた勉強会を実施した(図6)。啓発・教育・演習についてはすぐにでも着手できることであり、特にお勧めする。

以上、限られた情報ではあるが、企業・組織の事業継続のかなめの一つである建物についてリスク・対策の考え方をまとめ、おすすめの準備事項を示した。この分野はいままさに検討、研究が進行中であるので、今後も定期的な情報収集をお勧めする。本稿に参考になる点があれば幸いである。
以上
(出典記載のないものは竹中工務店作成)
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