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2026年4月施行 改正労働安全衛生法で何が変わる?高年齢労働者をめぐる背景をわかりやすく解説
今回の改正労働安全衛生法では、「高年齢労働者」について、年齢基準は定められていません。
労働災害(以下、労災)に関する資料を見てみると、50歳~55歳あたりから労働災害の発生率が男女ともにすべての年齢の平均を上回りはじめ、その後、年齢が上がるにつれて発生率も上昇しています。
ちなみに、高年齢労働者の労災防止のための設備の改善や専門家による指導を受けるための経費の一部を補助する、厚生労働省の「エイジフレンドリー補助金」では、60歳以上を高年齢労働者としているので、55歳~60歳ごろが一つの目安となると考えられます。
ただ、身体機能の低下には大きな個人差がありますので、年齢で区切った対応を行うのではなく、それぞれの労働者の身体機能や作業実態などに合わせた対応を実施していくことが重要です。
背景にあるのは、急速に進む労働者の高年齢化です。厚生労働省の令和5年度「高年齢労働者の労働災害発生状況」によりますと、雇用者全体に占める60歳以上の割合は、年々増加して、令和5年は18.7%でした。


出典:厚生労働省の令和5年度「高年齢労働者の労働災害発生状況」
またこれに伴い、高年齢労働者の労災の発生件数も増加しています。労災による休業4日以上の死傷者数に占める60歳以上が占める割合も年々増加し、令和5年は29.3%となりました。


出典:厚生労働省の令和5年度「高年齢労働者の労働災害発生状況」
高年齢者の労災が増加している要因として、加齢に伴って筋力・バランスが低下したり、認知機能が変化したりすることで、転倒・熱中症・腰痛などのリスクが高まると考えられます。
高年齢労働者向けの主な法令・制度・指針などの変遷を追っていくと、日本における高年齢労働者の労働安全衛生対策は、主に3つのフェーズに分けられると考えられます。
この時期は、60歳定年延長の義務化など、高年齢労働者の雇用維持が優先されていました。一方で、安全衛生面では「シルバーヘルスプラン(SHP)」や「トータルヘルスプロモーション(THP)」など、労働者個人の健康保持や体力維持といった、いわゆる健康づくりを促進するアプローチが中心でした。
2004年と2013年の高年齢者雇用安定法の改正で、65歳までの希望者全員の雇用が義務化されて、高年齢労働者が急増しました。これに伴って、フェーズ1で中心だった健康づくりだけでは対応しきれない労災リスクが顕在化しました。
厚生労働省は2009年に「高年齢労働者に配慮した職場改善マニュアル」でハード面・ソフト面の改善事項などを公表し、2012年には「高年齢者に配慮した交通労働災害防止の手引き」を公表するなど、実務的な安全衛生対策を具体的に示しました。


厚生労働省は、2018年に「エイジアクション100」で職場改善に向けた実務的なガイドラインを示しました。そして、高年齢労働者の安全衛生対策で転換点となったのは、2020年に策定された「エイジフレンドリーガイドライン」で、事業者に対して、加齢による特性を認識して、職場環境や作業方法の改善、そして健康管理の徹底など、具体的な対策を体系的に講じることを求めるもので、国の総合的な指針となりました。
続けて2023年の「第14次労働災害防止計画」では転倒や腰痛防止が重点事項となり、そして今回の改正労働安全衛生法によって、高年齢労働者の労災防止措置がすべての事業者の努力義務として法律に明記されることになりました。
このような歴史的な変遷を踏まえると、企業にとっても、従業員が自身の能力を十分に発揮できる環境を整備するために、高年齢労働者に対する安全衛生に取り組むことがいっそう重要になってきていると言えると思います。
今回の改正労働安全衛生法によって、努力義務違反のみをもって、ただちに行政処分や罰則の対象となるわけではないと考えられます。一方で、民事上の損害賠償請求では、会社の過失を問う重要な判断材料となりえます。
労災が発生した場合「その時点での社会通念上、会社が当然に行うべきだった対策」の基準として今回の改正労働安全衛生法や国のガイドラインなどが参照されて、対策を怠っていたと判断されれば、安全配慮義務違反として認定されて損害賠償を命じられる可能性があります。
このため企業のリスクマネジメントの観点からも、「努力義務」である高年齢労働者の労災防止に関する措置を講じることは、経営上のリスク低減のために必要になると考えられます。
今回の改正で、高年齢労働者の安全衛生対策で求められる取り組みのレベルはこれまでよりも一段高いものになりました。特に、高年齢労働者の在籍割合が高い職場や、現場作業・身体的負荷のある職場、再雇用制度を導入している事業者では、安全衛生体制や現場運用の見直しを早めに検討することが重要です。
MS&ADインターリスク総研では、厚生労働省の「高年齢者の労働災害防止のための指針」と「高年齢労働者の労災防止対策に関する検討会報告書」に基づいて、事業者が実施・検討すべき主な事項に関するチェックリストを作成しました。
以下のフォームに入力することで、無料でダウンロードいただけます。努力義務化される事項について、現状の取り組み状況を確認し、必要な対策を進めるためのツールとして、ぜひご活用ください。
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【実務ガイド】高年齢労働者の労災防止措置の義務化 企業が今すぐ始める対応のポイントとは?専門家がわかりやすく解説
今回の改正労働安全衛生法では、すべての事業者に対して高年齢労働者の特性に配慮した必要な措置を講じることが努力義務化されます。
これに合わせて、2025年12月8日に厚生労働省は「高年齢労働者の労災防止対策に関する検討会報告書」を公表し、2026年2月10日には「高年齢者の労働災害防止のための指針」が公示されました。
この指針と報告書をもとに、MS&ADインターリスク総研では事業者の対応事項を次のようにまとめました。報告書では今後の通達に盛り込む事項も検討していることから、その点も含めてまとめています。
安全衛生管理体制の確立に向けては、次のような流れで進めていくことになります。
具体的な対応事項を、次の表にまとめました。
| 経営トップによる方針表明と体制の整備 | |
|---|---|
| ✓ | 高年齢者労働災害防止を含む安全衛生方針を明文化し、社内に周知する |
| ✓ | 高年齢者対策の担当組織・責任者を明確にする(安全衛生部門/人事労務部門等) |
| ✓ | 産業医・保健師・衛生管理者等の産業保健体制を活用し、健康面の対応を統合する |
| ✓ | 小規模事業場では、地域産業保健センター等の外部資源を積極的に活用する |
| 労使コミュニケーション・意見聴取 | |
| ✓ | 安全衛生委員会等で、高年齢者対策を調査審議する。委員会のない小規模事業場でも高年齢者の意見・不安・不調の声を拾い上げる仕組みを構築する |
| ✓ | 高年齢者が孤立せず、チームの一員として相談しやすい職場風土づくりを推進する |
| リスクアセスメントの実施 | |
| ✓ | 高年齢者の身体機能低下等に伴うリスクを対象に、リスクアセスメントを実施する |
| ✓ | 「危険性又は有害性等の調査等に関する指針(リスクアセスメント指針)」に沿った手法を活用する |
| ✓ | 「エイジアクション100」チェックリストや厚労省「職場のあんぜんサイト」の事例集・ヒヤリハット集を活用する |
| ✓ | 年間推進計画を策定し、PDCA で運用する(計画→実施→評価→改善) |
| 優先すべきリスク低減措置の検討 ※以下の順番で検討 | |
| ① | 危険な作業の廃止・変更(設計・計画段階でのリスク除去) |
| ② | 手すり設置・段差解消等の工学的対策 |
| ③ | 作業手順書・マニュアル整備等の管理的対策 |
| ④ | アシストスーツ等の身体負荷を軽減する個人用装備の活用 |
「高年齢者の労働災害防止のための指針」をもとにMS&ADインターリスク総研が作成
次に、職場環境の改善に取り組みます。以下の観点で改善を進めていきましょう。
具体的な対応事項を、次の表にまとめました。
| 共通するハード面の対策 | |
|---|---|
| ✓ | 通路・作業場所の照度を確保し、明暗差の大きい場所や作業を解消する |
| ✓ | 段差・階段については、通路の段差を可能な限り解消する。階段には手すりを設置する |
| ✓ | 滑り対策として、床材・階段用シート等の防滑素材を採用する。水分・油分のこまめな清掃を徹底する。必要に応じ、防滑靴の支給・使用徹底とする |
| ✓ | 墜落・転落防止として、墜落制止用器具・保護具の着用を徹底する |
| ✓ | 危険箇所の表示として、解消できない段差・滑りやすい箇所等には安全標識・掲示で注意喚起する |
| 視覚・聴覚に関する配慮 | |
| ✓ | 警報音は、高齢者にも聞き取りやすい中低音域を採用し、音源方向・指向性スピーカー等を工夫する。背景騒音の低減に努め、警報音が埋もれないように配慮する |
| ✓ | 有効視野を考慮した警告・注意機器(パトライト等)を採用する |
| 熱中症のリスクが高い環境の対策 | |
| ✓ | 高年齢者は暑さ・脱水への感受性が低下していることを前提にして、涼しい休憩場所を整備し、利用を勧奨する |
| ✓ | 保熱しやすい服装は避け、通気性の良い服装を準備する |
| ✓ | 熱中症の初期症状を把握するのに有効なウェアラブルデバイス等のIoT機器を利用する |
| 重量物取り扱い・介護作業への対策 | |
| ✓ | 重量物:補助機器導入により人力取扱重量を抑制する。作業台高さ・配置改善により不自然な姿勢を解消する。必要に応じてアシストスーツ等を活用する |
| ✓ | 介護作業:リフト、スライディングシート等の導入により抱え上げ作業を抑制する。あわせて、移乗支援機器等で腰部負担を軽減する |
| 情報機器作業への対応 | |
| ✓ | 情報機器作業では、文字サイズ・コントラスト・照明を調整し、適切な視環境を確保する |
| ✓ | 長時間連続作業を避け、適切な作業休止時間を設定する |
| ✓ | 個々の特性に応じた無理のない業務量に調整する |
「高年齢者の労働災害防止のための指針」をもとにMS&ADインターリスク総研が作成
労働人口が減る中で、健康で元気に働ける高年齢労働者を確保し続けることは円滑に事業を継続する上でも重要です。加齢にともない、視力・筋力・バランス能力などは本人が気づかないうちに低下しますので、健康・体力の把握も重要な取り組みとなります。
以下の表にまとめた点を踏まえて対応を進めましょう。
| 健康状態の把握 | |
|---|---|
| ✓ | 雇入時・定期健康診断を確実に実施する。結果通知時に産業医・保健師等が項目ごとの意味を丁寧に説明し、本人の理解を促進する。 |
| ✓ | 定期健康診断の対象とならない高年齢者については、以下を検討する。 ① 地域の特定健診等の受診を支援する (勤務時間調整・休暇付与等) ② 事業場独自の健診を実施する |
| ✓ | 健診結果について相談できる体制(産業医面談・保健師相談窓口等)を整備する |
| 体力の把握(体力チェック) | |
| ✓ | 事業者・本人双方が体力状況を客観的に把握し、体力に見合った業務配置・職場環境改善、本人による体力維持向上の取組につなげる。主に高年齢者を対象とするが、身体機能低下は若年から始まるため、青年・壮年期からの実施が望ましい |
| 健康・体力情報の取扱上の注意点 | |
| ✓ | 「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」に沿って運用する |
| ✓ | 体力情報の把握にあたっては、次の事項等を安全衛生委員会や労働者の意見を聴く機会等の場を活用して明確化する ① 本人同意の取得方法 ② 体力の状況に関する情報の取扱方法等 |
| ✓ | 安全衛生委員会等へ報告する際は、個人が特定されない形で集約・加工する |
「高年齢者の労働災害防止のための指針」をもとにMS&ADインターリスク総研が作成
高年齢になると、例えば同じ65歳であっても、健康状態や体力の個人差が非常に大きくなります。年齢だけで判断せずに、個々人の状態に応じた対応も必要になります。
その際、次の3つの点を踏まえて取り組みを進めることになります。
具体的な対応事項を、次の表にまとめました。
| 個々人の健康・体力に基づく就業上の措置 | |
|---|---|
| ✓ | 健診・体力チェック結果や労働時間・作業内容を踏まえ、産業医等の意見を聞き、労働時間短縮、深夜業回数の減少、作業転換・業務軽減などの配慮をする |
| ✓ | 高年齢者本人と十分に話し合い、納得感のある措置にする |
| ✓ | 健康管理部門と人事労務部門の連携を確保する |
| 業務のマッチング・配置転換 | |
| ✓ | 高年齢者の健康・体力状況に応じ、危険有害業務(製造・建設・運輸等)や第三次産業(小売・飲食・福祉等)で必要とされる身体機能の違いを踏まえた配置を検討する |
| ✓ | 運輸業では特に運転適性の確認を重視する |
| ✓ | 疾病を抱えながら働く高年齢者については、「治療と就業の両立支援指針」に基づき対応する |
| ✓ | ワークシェアリング(業務分担)により、高年齢者の負荷を調整する |
| 健康保持増進・体力向上支援 | |
| ✓ | 「「事業場における健康保持増進のための指針」、「心の健康の保持増進のための指針」に基づき、組織的な健康づくり体制を整備する |
| ✓ | 健診・体力チェック結果に基づき、必要に応じて運動指導・栄養指導・保健指導・メンタルヘルスケアを提供する |
「高年齢者の労働災害防止のための指針」をもとにMS&ADインターリスク総研が作成
最後に、高年齢労働者本人が気づきにくい「身体の変化」と長年の「慣れ」による事故を防ぐため、安全衛生教育を行うことも重要な点となります。高年齢労働者向けだけでなく、管理監督者・一緒に働く労働者向けの教育も忘れてはいけない観点です。
具体的な対応事項を次の表にまとめました。
| 高年齢労働者向け教育 | |
|---|---|
| ✓ | 雇い入れ時教育、危険有害業務の技能講習・特別教育を確実に実施する |
| ✓ | 高年齢者には、以下を参考に理解しやすい工夫をする ① 十分な時間をかける ② 写真・図・映像等の活用 |
| ✓ | 再雇用・再就職等で未経験業務に就く場合は、特に丁寧な教育訓練を実施する。教育内容の例は以下の通り ① 加齢に伴う身体機能低下と労災リスクの関係 ② 体力維持・生活習慣改善の重要性 ③ 転倒・骨折リスク ④ 軽作業等でも災害が起こりえること ⑤ わずかな段差・環境変化への注意喚起 |
| ✓ | 集合研修が難しい場合は、動画教材等も活用する |
| ✓ | KYT(危険予知訓練)を通じた危険感受性向上やVR機器を活用した危険体感教育も活用する |
| 管理監督者・高年齢労働者と一緒に働く労働者向け教育 | |
| ✓ | 管理監督者等に対して、以下項目等を教育 ① 加齢に伴うリスク増大への理解 ② 管理監督者の責任、労働者の健康問題が経営に及ぼすリスク ③ 高年齢者支援機器・装具の理解 ④ 緊急時対応(救命講習など) |
「高年齢者の労働災害防止のための指針」をもとにMS&ADインターリスク総研が作成
今回は、厚生労働省が公示した「高年齢者の労働災害防止のための指針」に基づいて、事業者に求められる対応事項を整理しました。
この指針も、今後の研究成果や取組状況を踏まえて、改定される可能性があります。改正労働安全衛生法では、すべての事業者に対して、高年齢労働者の特性に配慮して必要な措置を講じることが努力義務となりますので、「最低限の法令対応」にとどまらず、安全衛生管理体制の中で、高年齢者対策をアップデートしていきましょう。
MS&ADインターリスク総研では、この記事で紹介した事業者が実施・検討すべき主な事項に関して、チェックリストを作成しました。
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高年齢労働者の労働災害防止 重点チェックリスト【2026年版】無料ダウンロードページ
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「急増する雹(ひょう)被害 発生メカニズムと地域・時期や対策は?」
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【終了】<実践!健康経営セミナー>健康経営戦略マップの策定・見直しと活用のポイント
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【お客さま事例】脱炭素を自分事として体験できるビジネスカードゲーム研修とは?1人の行動がみんなの未来を変える
MS&ADインターリスク総研(以下、当社)が研修で使っているカードは、株式会社プロジェクトデザインがビジネスゲーム用に開発したものです。当社は公認ファシリテーターとして、脱炭素を推進しようと取り組んでいるお客さま向けに、研修メニューのひとつとして提供しています。


出典:株式会社プロジェクトデザイン
このカードゲームの特長は、複数のチームが“1つの社会”を動かすシミュレーションゲームだという点です。
各チームには、住宅メーカー、電力会社、自動車メーカー、金融機関、政府、環境NPOといった異なる目的や資源を持つ役割が割り当てられ、チームが経済活動をすると温室効果ガス(以下、GHG)が排出されて、社会全体に影響する仕組みになっています。


出典:株式会社プロジェクトデザイン
また、それぞれのチームは割り当てられた企業や団体としての役割を担うとともに、同時にその社会で暮らす市民の立場としてもアクションを行える仕様になっています。
例えば、あるチームが経済価値だけを優先して環境を置き去りにすると、社会全体の環境が悪化してしまうので、市民として省エネに取り組むことで、排出されるGHGの抑制につなげることができます。
こうしたゲームの世界観は、「カーボンマップ」というボードを使って排出されたGHGが赤や黄色のマグネットの数で“見える化”されて、視覚的に理解できるように工夫されています。


その上で、再エネ投資、省エネ施策、新技術導入、市民啓発、インフラ整備、規制・補助金などの「アクションカード」を使って、経済価値(チームの役割目標)の実現と社会全体で排出されるGHGの抑制の両立を目指します。
このカードゲームを使った研修を実施したのは、静岡県の浜松いわた信用金庫さまです。
同金庫さまでは、気候変動対策などの社会課題の解決と、お客さまの脱炭素経営をサポートし、企業価値向上と持続可能な社会の実現を目指す企業活動に融資をする『サステナブルファイナンス』を提供しています。
こうしたことを踏まえて、同金庫さまでは、営業担当の職員の脱炭素に関する知識と理解を高めることを目指し、2025年12月から翌年3月までに3回にわたって、脱炭素の基礎知識から脱炭素経営の実践までを学べる研修を実施しました。
カードゲームは、1月26日に開催した2回目の研修で用いられ、営業担当の職員54名が浜松市にある本店に集まり、12チームに分かれてゲームをスタートしました。


ゲームでは、はじめに当社のファシリテーターが「わたしたちの世界で起こっていること」と題して、排出されるGHGの増加によって、風水害や森林火災などが増加していることや、農作物や海産物の生育地に変化が出ていることなどを説明しました。
その上で、各チームに配布された「ゴールカード」に書かれた目標を実現するために、資金を使ってアクションすることで(アクションカードをファシリテーターに提出することで)、目標達成を目指すというルールを説明しました。


初期資金4,000Mを15,000M以上にすることがこのカードを持っているチームの目標となる
各チームには、「組織のアクションカード」と「市民のアクションカード」が8枚ずつ配られ、5年間を1つのターン(行動単位)としてあわせて4ターンを実施して、20年後の未来をシミュレーションすることを目指してスタート。


全チーム合わせて60,000Mという資金を持ってゲームをスタート(「M」はゲーム上の資金単位)。各チームは、1ターンごとに組織や市民のアクションカードをファシリテーターに渡してリザルトカードを受け取ることで、所持資金は下の画像のように変動していきました。


所持資金が増えたチームもあれば、減るチームもある
この日のゲームでは、当初60,000Mだったチーム全体の資金は、96,500Mに増加しました。
一方で、大気中のGHGは初期値の82からゲーム終了時には101へと増加したものの、3ターン目以降、各チームが積極的に「政府による炭素税導入」や「市民によるEV購入」などの行動を取ることで、4ターン目には前のターンより2%近く大気中のGHGを削減することができました。


チームの多くは当初、それぞれのチームの中だけで議論をしてプレーしていましたが、ゲームが進むにつれて、所属チームは違っても市民として共通の目標に向けて連携すると、排出されるGHGを効果的に抑制できることなどを理解できるようになり、積極的にほかのチームとコミュニケーションを取るようになっていきました。


今回の研修を企画した浜松いわた信用金庫さまのソリューション支援部地域活性課で次長を務める乗松健悟さんは、カードゲームを使った研修に取り組んでみた感想について、次のように話していました。
「『サステナブルファイナンス』を提案するにあたっては、まずは当金庫の職員自身が脱炭素に関して十分に理解を深めておく必要があり、その上で、お客さまの課題を自分事として捉えてほしいという課題を持っていた中で、今回、主体的に取り組むことができるカードゲームを使った研修を実施しました。
参加者の様子からは、経済的な利益の追求と排出されるGHGの抑制のバランスを自ら考えて意思決定しようと取り組んでいることが感じられました。まずは、こうしたゲームを通じて脱炭素を身近に感じてもらい、ゆくゆくはお客さまに説得力を持って融資商品を提案できるようにしていきたいと考えています」


カードゲームを使った脱炭素研修は、座学による説明だけでは得られない「意思決定」と「協働」の重要性を、参加者自身が体験して理解できる内容となっていて、次のような効果が期待できます。
MS&ADインターリスク総研では、今回ご紹介したカードゲームも含めて様々な研修メニューをご用意しており、脱炭素の取組を推進したいと考えている皆さまの状況に合わせ、カスタマイズした研修をご提供します。
実施規模や目的に合わせたプランをご提案しますので、詳細やお見積りのご希望は以下のフォームからご連絡ください。
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【終了】<実践!健康経営セミナー>健康経営の推進と認定対応のキホン
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世界経済フォーラムがグローバルリスクの2026年度版を発表 -前年に続き長期的リスクTOP3を環境リスクが独占-
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CSO(最高サステナビリティ責任者)に求められる“力”とは? キーワードは「巻き込む力」と「自分事化」
ーー今回の取材先の企業は、どのような観点で選定したのでしょうか?
末永)BtoB(企業間取引)やBtoC(消費者向け取引)、「モノ」を提供する製造業や「無形」のサービスを提供する金融業など、顧客層や提供価値の異なる10社を選定しました。
取材にあたったコンサルタントの1人、末永潤
| 食品・ライフサイエンス・消費財 | |
|---|---|
| ・キリンホールディングス株式会社 | ・味の素株式会社 |
| ・株式会社コーセー | |
| 流通・小売 | |
| ・J.フロント リテイリング株式会社 | |
| 環境ビジネス | |
| ・株式会社フェイガー | |
| 総合技術・製造業 | |
| ・株式会社 日立製作所 | ・帝人株式会社 |
| ・株式会社レゾナック・ホールディングス | ・株式会社リコー |
| 金融サービス | |
| ・MS&ADインシュアランス グループ ホールディングス株式会社 | |
| 食品・ライフサイエンス・消費財 | |
|---|---|
| ・キリンホールディングス株式会社 ・味の素株式会社 ・株式会社コーセー | |
| 流通・小売 | |
| ・J.フロント リテイリング株式会社 | |
| 環境ビジネス | |
| ・株式会社フェイガー | |
| 総合技術・製造業 | |
| ・株式会社 日立製作所 ・帝人株式会社 ・株式会社レゾナック・ホールディングス ・株式会社リコー | |
| 金融サービス | |
| ・MS&ADインシュアランス グループ ホールディングス株式会社 | |
ある研究者は、企業のサステナビリティ分野の成熟度を①コンプライアンス ②効率化 ③イノベーションの3段階に分類した時、②から③へと移行する過程でCSOが権限を獲得し、③ではCSOが企業のビジョンや戦略の策定を主導するとの分析結果を提唱しています。(Miller&Serafeim, 2014)
今回お話を聞くことができた日本企業はいずれも、②のレベルから③を目指す過程にあるといった印象を受けました。
ーー取材した皆さまのキャリアには、共通するところはあったのでしょうか?
末永)過去に企業の情報開示を担当していたり、サステナビリティに関連する商材を扱っていたりと、キャリアのどこかでサステナビリティの前提となる知識や経験を得ていた方が多かったです。
一方で、例えば「学生の頃からサステナビリティの研究一筋でやってきました」といった方はいませんでした。職歴で培ってきた経験と、習得したサステナビリティ分野の知見を掛け合わせることで、取り組みを推進されています。
ーーCSOに“求められる力”という点では、皆さまに共通するものはありましたか?
末永)CSOの皆さまのお話から、共通する“力”として3つあると感じました。
1つめは、理念やパーパスなどから、企業が将来「こうありたい」というビジョンを具体化する力です。
2つめは、CSOがこれまでに積んできたキャリアから得た知見を発揮する力。
そして最後が、社内外との対話に必要となるコミュニケーション力、巻き込む力です。
ーー3つの力の中でも、特にどの力が求められると考えていますか?
末永)企業がサステナビリティの取り組みを実行し、推進していくためには、実際に現場が動かなければなりません。その意味では、CSOに強く求められるのは「巻き込む力」だと考えています。
サステナビリティの取り組みを全社的に推進するには、社内の理解を得て、必要性を認識してもらい、実際の行動に移してもらうまでが必要です。そのためにCSOは、まず経営会議の場などで、社長をはじめ、社内の各領域を担当する役員を巻き込んでいかなければなりません。
「経営レベル」を巻き込むことができたら、サステナビリティ部門のメンバーを動員しながら、次は「部門長レベル」、その次は「現場レベル」というように、カスケードダウンさせる必要があります。
このような「巻き込む力」の流れをつくり、最終的に企業の事業活動そのものにサステナビリティの観点を組み込むことが、CSOに求められる役割です。
ーー企業がサステナビリティの取り組みを具体的に進めるために不可欠な要素はなんですか?
末永)「自分事化」だと考えています。
CSOという役職を設置したり、CSO自身がいくら理念を掲げたりしても、本社部門や製造部門、営業部門などの現場の1人ひとりが、それぞれの立場で「自分事化」していかなければ、サステナビリティは“絵に描いた餅”に終わってしまいます。
そのためには、例えば役員に対する評価にサステナビリティの観点を盛り込むことで、役員が担当する部門への評価にもつながり、現場の1人ひとりの評価にもつながっていきます。こうした枠組みを作っていくことが「自分事化」を促進していくための1つの手法となります。
また、事業部門を動かすためには、CSOのリーダーシップの下、サステナビリティ部門が現場に寄り添いながら「自分事化」を促進し、実践を後押しすることが必要です。
サステナビリティ経営の目指す方向は、「社会課題の解決が企業の成長を生み、その成長がさらに社会課題解決能力を高める」ことだと思いますが、事業部門では目の前の仕事が、サステナビリティの観点でなぜ重要なのか、事業機会とどのように関連するのか、ということに気付けていないこともあるようです。
どういうことかと言うと、例えば、ある食品メーカーでは廃棄ロスが出ていたため、事業部門でロスを減らしてコストを削減していたとします。これは、サステナビリティ文脈で見ると、「食品ロス」という社会課題の解決につながりますし、食品ロスの削減技術を開発・提供することで新たな事業機会にむすびつくかもしれません。
そこでサステナビリティ部門が現場の声を丁寧に拾い上げ、社内に発信することが重要です。好事例や課題の共有は、現場が自らの活動の社会的意義を実感するだけでなく、サステナビリティの取り組みに対する社内の共感を醸成することにもつながります。
例えば株式会社日立製作所さまのサステナビリティ部門は、時間がある限り世界中の生産現場などを訪問し、現場レベルの好取り組み・事例を拾い上げてレポートやホームページで紹介する活動を行っているそうです。
ーー2027年3月期から適用開始となるSSBJ基準※など、これまで以上にサステナビリティ分野に関して「投資家にとって有用な情報の開示」が求められます。対応の一つとして「価値を定量的に示す」ことが考えられますが、取材した企業の取り組み・考えはどうでしたか?
※SSBJ基準:「サステナビリティ基準委員会(SSBJ)」が2025年3月に公表した日本の情報開示基準。有価証券報告書での開示に適用される
末永)例えば味の素株式会社さまは、製品がお客さまに届くまでの企業活動全体、つまり「バリューチェーン」でサステナビリティにつながる価値をいかに作り出しているのかを説明しています。
同社が製造するうま味調味料の原材料キャッサバは、タイで生産されています。現地の農家はキャッサバに広がる病害や労働力不足などの課題を抱えています。そのため同社は、農家に技術や農業資材の提供、教育支援などを行っています。
さらに製造過程では環境負荷の低い技術を使う一方、販売過程では栄養バランスの良いメニューを提供して生活者の健康にアプローチするなど、バリューチェーン全体で複数の社会・環境課題に取り組んでいるそうです。そして、これらの取り組みがどのような形で経済・社会的な価値を生み出しているかを定量的に示しています。




出典:味の素株式会社 IR Day「企業価値向上に向けたサステナビリティの取り組みについて」(2024年3月27日開催)
(https://www.ajinomoto.co.jp/company/jp/ir/event/business_briefing/main/011113/teaserItems1/01/linkList/01/link/Sustainability_J.pdf)
一方で、サステナビリティの取り組みは、財務的な価値として示しやすいものと、取り組みを通じて獲得する「社会的な信頼」などのように、財務的には評価しにくいものがあります。株式会社レゾナック・ホールディングスさまからは、企業の成長につながる取り組みや、社内外から共感を得るための働きかけなどを積み重ねてから、財務的な価値との関連性を示していくという考え方をうかがいました。現時点では財務的に評価しづらいからといって、必ずしも優先度を下げてよいわけではない、ということですね。
ーー最後になりますが、今回の取材を通して、企業のサステナビリティに関する取り組みはどのような方向に向かっていくと考えていますか?
末永)企業におけるサステナビリティの“最終形”は、事業活動にサステナビリティが当たり前のように組み込まれている状態なのだと思います。面白いことに、取材したCSOやサステナビリティ部門の責任者の方からは、最終的に目指すべきはCSOやサステナビリティ推進部門といった「サステナビリティに特化」した役割がなくなっている状態という意見もうかがいました。持続可能性への貢献が会社の稼ぐ力の源泉となり、課題解決を通じて利益が生まれている状態が、究極の理想形といえるでしょう。
その理想に少しでも近づくためには、CSOを起点にサステナビリティの取り組みをどこまで拡げられるかにかかっています。そのためにはCSOが設置されているだけでは十分でなく、サステナビリティ部門をはじめとする社内関係者や、社外のステークホルダーとどのように協働していくのかが問われます。本書のタイトルが「CSO“と”拓くサステナビリティ経営」である理由は、まさにその点にあります。
本書籍の中心にあるテーマは「サステナビリティ」ですが、企業が目的の達成にむけて経営層や事業部門をどのように巻き込み、動かしていくのかという、経営における普遍的な要素が散りばめられています。組織を動かすのはどのような人なのか、どのような取り組みが必要なのかなどに興味がある方にも、参考になる要素が含まれているのではないでしょうか。
≪参考文献≫
・Miller, Kathleen & Serafeim George (2014). “Chief Sustainability Officers: Who Are They and What Do They Do?”, SSRN.
(本インタビューは、2026年1月23日に実施されたものです)
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