WBCSDなどが循環経済の国際的プロトコルを公表、気候・自然開示枠組みと連動を志向
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電動キックボードユーザーの意識と運転の実態 ~アンケート調査結果より(2026年版)【リサーチレター(2026年4月)】
2023年7月に道路交通法が改正され、一定の規格を満たした電動キックボード等は、道路交通法上の一般原動機付自転車から「特定小型原動機付自転車」という新たな区分に移行した。この電動キックボード等は、16歳以上で運転免許は不要、ヘルメットの着用は努力義務となっている。
手軽に利用できることから電動キックボードのシェアリングサービスは急拡大している。国内で稼働するシェアリング用電動キックボード※1は、法改正直後の2023年7月の7,662台から2025年3月には23,220台へと3倍超となり、現在もさらなる増加が見込まれている。国内大手シェアリング事業者のアプリダウンロード数は、2020年のサービス開始から2025年8月までに累計500万を突破した。
シェアリングサービスの急拡大の一方で、問題視されているのが、ユーザーによる交通違反である。2024年の特定小型原動機付自転車の交通違反の検挙件数は4万件を超えており、前述の稼働台数の1.8倍となっている※2ことが参院内閣委員会で指摘された 。※3
そのような状況の中、わが国の電動キックボードユーザーの意識やその運転の実態を把握すべく、MS&ADインターリスク総研は2026年1月にシェアリングサービスの利用経験者500人に対してアンケート調査を実施した。本稿では、本調査の結果およびデータ分析の結果について紹介する。
※1)公道で見かける電動キックボードの多くはシェアリングのため、事業者のデータが電動キックボードの普及実態に近い指標として使われる。
※2)2024年の自転車の交通違反の検挙件数は5万1千件で、保有台数は推定5千2百万台である。検挙件数に対する台数の割合を比較すると電動キックボードの検挙数の多さがわかる。
※3)「電動キックボード、違反が年4万件超 「登録台数の1・8倍。違反ありすぎ」立民・石垣氏」『産経新聞』2025年6月17日
2026年1月20日~26日の間にインターネットによる調査を行った。
500人(男性253人、女性247人)
20~29歳、30~39歳、40~49歳、50歳~59歳、の年齢4区分ごとに男女各125人。
| 頻度 | 人数 |
|---|---|
| 週に2~3回以上 | 116 |
| 週に1回程度 | 118 |
| 月に1回程度 | 83 |
| 月に1回未満 | 183 |
| 合計 | 500 |
| 職業 | 人数 |
|---|---|
| 会社員 | 309 |
| 会社経営・役員 | 15 |
| 公務員 | 23 |
| 自営業・自由業 | 31 |
| 団体職員・各種法人 | 4 |
| 派遣社員 | 12 |
| パート・アルバイト | 55 |
| 学生 | 18 |
| 専業主婦・主夫 | 20 |
| 無職(定年退職者を含む) | 13 |
| その他 | 0 |
| 合計 | 500 |
| 都道府県 | 回答者数 | 都道府県 | 回答者数 | |
|---|---|---|---|---|
| 全体 | 500 | 三重県 | 5 | |
| 北海道 | 15 | 滋賀県 | 5 | |
| 青森県 | 5 | 京都府 | 16 | |
| 岩手県 | 5 | 大阪府 | 45 | |
| 宮城県 | 12 | 兵庫県 | 21 | |
| 秋田県 | 5 | 奈良県 | 4 | |
| 山形県 | 1 | 和歌山県 | 1 | |
| 福島県 | 5 | 鳥取県 | 3 | |
| 茨城県 | 7 | 島根県 | 0 | |
| 栃木県 | 8 | 岡山県 | 3 | |
| 群馬県 | 5 | 広島県 | 12 | |
| 埼玉県 | 31 | 山口県 | 3 | |
| 千葉県 | 18 | 徳島県 | 2 | |
| 東京都 | 131 | 香川県 | 0 | |
| 神奈川県 | 37 | 愛媛県 | 1 | |
| 新潟県 | 8 | 高知県 | 1 | |
| 富山県 | 3 | 福岡県 | 16 | |
| 石川県 | 3 | 佐賀県 | 0 | |
| 福井県 | 1 | 長崎県 | 0 | |
| 山梨県 | 3 | 熊本県 | 2 | |
| 長野県 | 8 | 大分県 | 1 | |
| 岐阜県 | 5 | 宮崎県 | 2 | |
| 静岡県 | 12 | 鹿児島県 | 3 | |
| 愛知県 | 26 | 沖縄県 | 0 |
最も回答が多かったのは、「趣味、遊びの場所への移動」で55.8%であった。また、「運転を楽しむ」は34.0%であった。これは、新しいモビリティを楽しみたいユーザーが一定数存在することを示している(図表1)。


本調査の回答者のうち、運転免許を保有していない回答者は5%であった(図表2)。


「そう思う」と「ややそう思う」の合計は84.8%となっている(図表3)。


「詳しく知っている」と「主なものについて知っている」の合計は87.8%となっている(図表4)。


「そう思う」と「ややそう思う」の合計は89.4%となっている(図表5)。


本調査では回答者に電動キックボード運転時に、「守れていなかったかもしれない」交通ルールについて聞いた。「違反はしていない」とした回答者は34.4%であった(図表6)。つまり、残りの65.6%が何らかの交通ルールを「守れていなかったかもしれない」と自己認識している。
「守れていなかったかもしれない」交通ルールで最も回答が多かったものが「車道の左側通行」で23.8%であった。電動キックボードで車道の右側を通行することは通行区分違反とされる。「二段階右折」(18.0%)と「飲酒運転の禁止」(17.4%)がそれに続く。


本調査では、電動キックボードの運転中に危険を感じたことはあるかどうかについて聞いた。回答者の58.8%が「ある」としている(図表7)。


図表8は電動キックボードの運転中に危険を感じたことがあるとした回答者に、具体的にどのような危険があったのかについて聞いた結果である。最も回答が多かったのが「自動車と接触しそうになった」で、47.3%であった。「歩行者と接触しそうになった」が29.9%と3番目に多かったが、これは、回答者が電動キックボードで歩道を通行した結果であることが推測される。
電動キックボードによる歩道通行は、「普通自転車等及び歩行者等専用」の道路標識が設置されている歩道に限られる。加えて、歩道を通行するときは、歩行者優先で、歩行者の通行を妨げることとなるときは一時停止しなければならない。


本調査の回答者はシェアリングサービスの利用経験者であるが、すでにその利用を停止した回答者が5.4%であった(図表9)。継続利用の意向については、「そう思わない」と「あまりそう思わない」の合計が18.0%であった。回答者の23.4%がシェアリングサービスの継続利用に否定的、あるいは既に継続利用を停止したことになる。


図表10はシェアリングサービスの利用を停止した回答者、および継続利用の意向について「そう思わない」と「あまりそう思わない」とした回答者にその理由を聞いた結果である。「電動キックボード自体が危険」(39.3%)、「必要性を感じない」(35.0%)が上位を占めた。


ここでは、図表6「ご自身が電動キックボードを運転された時に、守れていなかったかもしれないと思う交通ルールは何ですか」の結果について、運転頻度別の集計を行った(図表11)。その結果、運転頻度が「月に1回未満」の回答者の44.8%が「違反はしていない」と回答していることがわかった。
具体的な項目については、いずれも運転頻度が高い回答者ほど「守れていなかったかもしれない」という回答の割合が高くなる傾向が見られた。運転頻度が高くなるほど交通違反をしてしまう機会も増えるため、この相関関係は自然なものである。


ただし、図表12の結果のうち、運転頻度が高い回答者ほど「飲酒運転の禁止」が「守れていなかったかもしれない」の回答率が高い点は、無視できない。これは、ユーザーが電動キックボードを運転する頻度と飲酒運転との間に正の相関関係がある可能性を示している。
警察庁によれば、2025年1月から11月末までに発生した、電動キックボードを含む特定小型原動機付自転車が関わる飲酒事故は42件と、事故全体に占める割合は11.8%※4である。この飲酒事故率は、自転車の0.8%、一般原動機付自転車の0.6%と比べると10数倍となっている※5 。
※4)特定小型原動機付自転車関連事故に占める飲酒事故率は減少傾向にあるが、自転車、一般原動機付自転車と比較すると依然として高い水準であるとされている。
※5)また、警察庁は2025年上半期に発生した特定小型原動機付自転車の飲酒事故の62.1%が午前0時~5時の間に起きたとしている。図表1で示した電動キックボードの運転の目的として「終電後や飲食後の帰宅」が14.0%であった。これは、電動キックボードのシェアリングサービスの主な利用シーンの一つと考えられるが、飲酒運転が懸念される点でもある。
ここでは、図表6「ご自身が電動キックボードを運転された時に、守れていなかったかもしれないと思う交通ルールは何ですか」の結果について、電動キックボードに係る交通ルールの理解度別に集計を行った(図表12)。その結果、電動キックボードに係る交通ルールの理解度と「守れていなかったかもしれない」交通ルールの回答割合との間に相関関係は見られなかった ※6。
なお、交通ルールを「詳しく知っている」とする回答者の4人に1人が「飲酒運転の禁止」と「車道の左側通行」について「守れていなかったかもしれない」と回答している。
※6)ルールを詳しく理解しているとした回答者の一定数が交通ルールを「守れていなかったかもしれない」としていることは指摘しておきたい。


わが国の電動キックボードユーザーの意識やその運転の実態を把握すべく、MS&ADインターリスク総研は2026年1月にシェアリングサービスの利用経験者500人に対してアンケート調査を実施した。その結果、回答者の95%が運転免許を保有し、87.8%が電動キックボードに関する交通ルールを知っており、84.8%が他のユーザーと比べて電動キックボードを安全に運転できていると回答した。
一方で、回答者の65.6%が電動キックボード運転時に何らかの交通ルールを「守れていなかったかもしれない」と回答している。特に、「週に2~3回以上」電動キックボードを運転する回答者の36.2%、電動キックボードに関する交通ルールを「詳しく知っている」回答者の26.2%が「飲酒運転の禁止」を「守れていなかったかもしれない」と回答している点は無視できない。
ユーザーの増加に伴い交通違反の増加が懸念される一方、2025年8月にシェアリングサービス事業者らを中心に発足した日本マイクロモビリティ協会は、ユーザーへの交通ルール周知や飲酒運転対策に取り組んでいる。特に飲酒運転対策としては、深夜帯のサービス停止やポートでのアルコール検査の実証実験などが行われており、これらの取り組みの成果が期待される。
本稿が電動キックボード安全運転促進の一助となれば幸いである。
【参考文献】
警察庁(2025)『パーソナルモビリティ安全利用官民協議会第12回資料3』
警察庁(2025)『事務局説明資料 第13回パーソナルモビリティ安全利用官民協議会』
警察庁(2026)『事務局説明資料 第14回パーソナルモビリティ安全利用官民協議会』
警察庁『特定小型原動機付自転車に関する主な交通ルールについて』
日本マイクロモビリティ協会(2025)『日本マイクロモビリティ協会安全対策について』
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CSO(最高サステナビリティ責任者)設置企業の取組を紹介!フロントランナーはいかに社内外に自社の取組を浸透させているのか?
ーー今回、10社のCSO・サステナビリティ部門責任者に取材をしてみて、皆さまのキャリアに共通項はありましたか?
石川)実は共通項はありませんでした。あえて言うとすれば、「サステナビリティ一筋」のキャリアではないという点で、共通していました。
| 食品・ライフサイエンス・消費財 | |
|---|---|
| ・キリンホールディングス株式会社 | ・味の素株式会社 |
| ・株式会社コーセー | |
| 流通・小売 | |
| ・J.フロント リテイリング株式会社 | |
| 環境ビジネス | |
| ・株式会社フェイガー | |
| 総合技術・製造業 | |
| ・株式会社 日立製作所 | ・帝人株式会社 |
| ・株式会社レゾナック・ホールディングス | ・株式会社リコー |
| 金融サービス | |
| ・MS&ADインシュアランス グループ ホールディングス株式会社 | |
| 食品・ライフサイエンス・消費財 | |
|---|---|
| ・キリンホールディングス株式会社 ・味の素株式会社 ・株式会社コーセー | |
| 流通・小売 | |
| ・J.フロント リテイリング株式会社 | |
| 環境ビジネス | |
| ・株式会社フェイガー | |
| 総合技術・製造業 | |
| ・株式会社 日立製作所 ・帝人株式会社 ・株式会社レゾナック・ホールディングス ・株式会社リコー | |
| 金融サービス | |
| ・MS&ADインシュアランス グループ ホールディングス株式会社 | |
話を伺った皆さまの中には、人事や法務部門を経験された方や企業統治に関わった方など、それぞれ自分の強みを持ちながら、サステナビリティに興味・関心を持ってCSOのキャリアに至っていました。
なぜ、それぞれ多様なキャリアをお持ちなのかを考えると、もちろんサステナビリティの歴史の浅さというのもありますが、担当する分野がESGの領域、特に環境(Environment)や社会(Social)といった形で、多岐に渡っていることもあると思います。
中には、「“サステナビリティ一筋”というのは、サステナビリティ人材として望ましくない」と話す方もいて、サステナビリティが事業戦略の中心に位置づけられるようになると、サステナビリティという言葉からイメージされやすい「環境」だけでなく「ビジネス」そのものにも精通していることが重要なのかもしれません。
ーー取材したCSOの皆さまを通じて、CSOに求められる役割についてどのように考えていますか?
石川)「仲間づくり」というのが1つのキーワードかと考えています。トップダウンで組織を動かす力も当然必要なのですが、ボトムアップで事業部門を動かすことも同じくらい重要なのではないかと感じました。
コーセーさまの場合ですと、サステナビリティの部署には研究・商品開発、美容教育、生産技術、販売員、企画、営業など様々な部署出身のメンバーがいるそうです。それぞれのメンバーが元の部署とのパイプを活かし、少しずつ働きかけて理解を得られるようになっているとのことでした。
また、J.フロント リテイリングさまは、サステナビリティの取り組みのKPIや進捗情報をレポートで開示する際に、一方的に他部署にデータや情報の提供を求めると、“やらされ感”が出たり、サステナビリティ部門が“自分たちの都合”で情報収集していると思われたりしてしまうことから、“壁”を壊すために対話と相互理解を重視していると話していました。
このように、CSOやサステナビリティ部門には、他部署や現場を巻き込んで「仲間づくり」をしていく熱量が必要だと考えています。
ーーJ.フロント リテイリングさまは、相互理解を深めるために、具体的にどのようなことに取り組んでいるのでしょうか?
石川)J.フロント リテイリングさまは、現場でサステナビリティの取り組みを「自分事化」してもらうためのひとつの工夫として、次のような取り組みをしています。同社では、2024年度、会社が事業を通じて社会に提供したい3つの共創価値(感動共創・地域共栄・環境共生)を定め、それらに基づく新たなマテリアリティ(重要課題)を従業員が自分を主語として考えられるように、「アクション型」の表現に変更したということです。


出典:J.フロント リテイリング株式会社「サステナビリティレポート2436」
(https://www.j-front-retailing.com/ir/library/pdf/sustainability/2024/J_FRONT_2024_J.pdf)
ウェルビーイングやカーボンニュートラルという言葉ではなく「くらしにワクワクをプラスする」「環境と共に生きる社会をつくる」といった言葉で表現することで、自分に引き付けて考えられるようにする工夫をされているとのことでした。この取り組みは、個人的にとても印象に残っています。
ーー社外に向けてサステナビリティの取り組みを開示する際には、今後、これまで以上に財務的な価値を定量的に示すことが求められるようになります。この点に関して、参考となる取り組みはありましたか?
石川)実名で掲載させていただいた企業のほかに、ヘルスケア事業などを展開しているメーカーにも話を伺うことができました。このメーカーでは自社のKPIに血圧計の売り上げを設定していました。
その理由は、同社がサステナビリティ領域におけるマテリアリティの目標の中で掲げている健康寿命に関する課題解決を実現するために、個人の健康状態を判断することができる血圧計を販売するというロジックでした。健康寿命にどれだけ貢献できたかを、血圧計の販売台数で“見える化”しようとしているわけですね。
このように、自社が取り組む社会課題の解決に向けて、自社が取り扱う製品の販売台数をKPIに設定するのも、1つの選択肢となりえます。
同社のケースは、わかりやすい例ではありますが、サステナビリティの取り組みを社外に開示するにあたっては、社内のデータを吸い上げる必要が出てきます。ここでも、日ごろから「仲間づくり」を進めていくことが、やはり重要になってくると思います。
ーー開示という面では、社内外のステークホルダーとのコミュニケーションも重要になってくると思いますが、取材した企業ではどのような取り組みをしているのでしょうか?
石川)2社の取り組みを紹介させていただきます。
まず、レゾナック・ホールディングさまの場合は、サステナビリティの取り組みの現在地と目指すところを社内外のステークホルダーに発信する際に、より身近に感じてもらえるように「リアルを伝える」ことを心掛けていると話していました。そのために、統合報告書では「顔が見える」リアル感を大切にしているということです。


出典:株式会社レゾナック・ホールディングス「RESONAC REPORT 2025(統合報告書)」(https://www.resonac.com/jp/sustainability/report/report.html)
また、帝人さまはインタビューの中で、投資家からのESG関連のつっこんだ質問にも対応できるよう、IR部門から依頼された投資家面談には、サステナビリティ部門責任者がすべて同席していると話していました。加えて、サステナビリティへの関心が高い投資家と自社のCEOやCFOが面談する場合にも、サステナビリティ分野担当の役員も同席するということでした。
ーーCSOを設置している企業は、サステナビリティを経営の中心に据えて“攻め”の姿勢で取り組みを推進しているのが印象的だと感じました。
石川)いずれの企業も「サステナビリティは、単に企業のイメージアップということにとどまらず、企業が“選ばれる理由”に直接的につながるもの」という認識だと感じました。
例えば、カーボンクレジットの生成と販売を行っているフェイガーさまは、「(事業や人事・財務に)余裕のある企業であれば積極的なブランディングなど“攻め”の側面を意識できる体制を整えていくことが望ましいのではないか」と話していました。
また、サステナビリティは世界的に実現可能なルールを作ろうとしている段階なので、プレーヤーとして「ルールメイク」に関わることができるのも、サステナビリティ担当の面白いところだとも話していました。
その意味では、近年のサステナビリティは「社会にとって良いことをして評価されるための活動」というよりも「企業が価値を創造していくための必須の経営戦略」に位置づけられるのではないかと考えています。
今回の書籍には、サステナビリティにおけるフロントランナーとも言える企業でCSO・サステナビリティ部門責任者を務める方たちの貴重な生の声が掲載されていますので、サステナビリティに関わる方、これから関わろうとしている方にとって、得られるものが非常に多いのではないかと考えています。
(本インタビューは、2026年1月23日に実施されたものです)
この記事で取り上げた書籍『CSOと拓くサステナビリティ経営 価値創造の現場』(経済法令研究会刊)は、発行元の経済法令研究会のサイトでご購入いただけます。
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【視聴無料・アーカイブ配信中】<2/18~>「サプライチェーン人権リスクを“見える化”する ― 欧米規制対応と調査型デューデリジェンスの実務」
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「年収の壁」をわかりやすく解説。再度の引き上げでどう変わる?
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なぜCSO(最高サステナビリティ責任者)という役職が求められるようになってきているのか? 京都大学経営管理大学院 加藤晃特命教授に聞く
ーーそもそもの話になりますが、企業はなぜサステナビリティに取り組む必要があるのかという点から、教えてもらえますか?
加藤)背景には2つのことがあると考えています。1つめは、企業も社会の一員であり、環境問題や社会問題の解決に貢献することで対価や利益を得るべきだという考え方の広まりです。これは「倫理資本主義」と言われたりして、ドイツの哲学者マルクス・ガブリエルやノーベル経済学賞を受賞したジョセフ・E・スティグリッツが提唱しています。
もう1つは、制度上の変化に合わせて対応を迫られるようになってきている点です。いわゆるコンプライアンス対応です。例えば、SDGs(持続可能な開発目標)は、2030年までに持続可能でより良い世界を目指す国際的な約束で、2015年の国連サミットで採択されました。これを受けて、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が、企業がESG・サステナビリティに関する情報を開示する際のルールを作り、日本ではSSBJ(サステナビリティ基準委員会)が2025年3月に新しい基準を公表しました。これによって、新たな法規制・制度ができたりして、企業は対応していく必要が出てくるわけです。
京都大学 経営管理大学院 加藤晃 特命教授
貿易商社、AIU保険会社、愛知産業大学、東京理科大学大学院経営学研究科技術経営専攻教授を経て、2025年から同大学嘱託教授。情報開示/経営戦略、サステナブルファイナンスが専門分野。
日本では大企業を中心に、こうした状況に対して危機感を持って取り組んでいると思いますが、中堅中小企業は、まだまだ“自分事”として考えられていない所も多いのではないでしょうか。私は中堅中小企業こそ、危機感を持つべきだと考えています。
なぜかというと、サプライチェーンでものを考えたときに、例えば自動車産業であれば、自動車メーカーが完成車を作るわけですが、部品は部品メーカーに依頼して製造し、その部品メーカーも自社内で製造が完結することはなくて、全体としては大きなピラミッド構造になっているわけです。
このため、自動車メーカーが温室効果ガスの排出量を算定して情報開示しようとすると、自社に加えてサプライチェーン全体の排出量を把握する必要があります。つまり、サプライチェーンを構成する中堅中小企業も、排出量の算定一つとってみてもサステナビリティの取り組みは、決して“他人事”ではないんですね。
もし、自動車メーカーからの求めに応じて、サステナビリティの取り組みに関する情報を適切に開示できないようであれば、サプライチェーンから外されることもありえます。中堅中小企業こそ危機感を持って取り組むべき経営課題だと考えています。
ーー本題のCSOというポジションについてですが、どのような役割を担う立場だと考えていますか。
加藤)CSOは、環境問題に責任を持つ立場のイメージが強いかと思いますが、ESGの視点では、環境(Environment)だけでなく、社会(Social)も所管しています。ガバナンス(Governance)は、直接統括する責任者ではありませんが、EとSを実現するためにはGの設計・運用に関与する必要があります。CSOは、広い領域をカバーする中核人材・リーダーなんですね。
実際に何をやるかというと、サステナビリティの取り組みに関して、社内外でコミュニケーションをして、理解・共感してもらい、サポートを得て実現していく役割を担っています。
CSOは、CEOやCFOなどと同じCxO(Chief x Officer)に位置づけられる、いわゆる役員に相当する立場で、企業を実際に動かし、企業文化を変革するぐらいの相当パワーのある人でないと務まらないのではないかと思っています。ただし、職位・職名は企業によって様々です。
ーー日本では、CSOを置く企業は増えてきているのですか?
加藤)日本監査役協会が2023年に実施したアンケート※2によると、557社のうちプライム市場を中心に36.6%にあたる204社がCSOを設置していると回答しています。日本の企業全体で見ればごく一部にとどまっているというのが現状だと思います。
※2 日本監査役協会「サステナビリティの取組みについてのアンケート調査(第2回)の集計結果」
ーー企業にとって、サステナビリティ取り組みの推進が求められるトレンドが続くとすると、徐々にCSOを設置する企業は増えていく傾向になっていくかと思いますが、こうしたポジションがどうして求められるようになってきているのですか?
加藤)サステナビリティという分野がカバーする範囲があまりに広いということが挙げられます。環境問題一つとっても、脱炭素だけではありません。生物多様性、砂漠化の問題もあります。社会問題であれば、貧困、性差別、人権問題、児童労働などまで含まれます。
CSOを置かなくても、企業の各事業部門の長が担当を兼ねればいいのではないかという議論もあり得るのですが、環境問題や社会問題だけでもこれだけの範囲なのに、さらに広範な課題まで考慮すると、現実問題として、事業部門の長が兼務で担うのは難しいと思います。
ーーそれだけ広い範囲を担当する責任者としてのCSOには、どのようなことが期待されているのでしょうか?
加藤)企業は、理念、ミッション、ビジョンを掲げて、その下に実際に実行するための具体的な戦略を策定するわけですが、この戦略の中にサステナビリティという概念を入れ込まないと全社的な動きにはなりません。
入れ込むためには、CEOやCFOといった立場の人たちとよく話して、その必要性を理解してもらい、トップのコミットメントとサポートを得なければなりません。そして、概念を戦略の中に入れ込むことができたら、今度は、各現場に落とし込んでいかなければなりません。つまり、実務的なカスケードダウンです。
年初に1回、社長があいさつで触れただけで、現場が動くほど企業という組織は甘くありません。社員とコミュニケーションを取りながら、一人ひとりに理解してもらわないと、現場は動きません。もっと言えば、人事制度などにも落とし込んでいく必要もあります。
そして社内だけでなくて、社外には株主もいますし、サプライチェーンで考えると自社に部品などを納入してくれる企業がサステナビリティに対する考え方を理解してくれないと、実現できません。
そのためには、社内外のステークホルダーにも自社のサステナビリティの取り組みに共感してもらい、実際に動いてもらわなければなりません。だからこそ、CSOには「巻き込む力」が求められると考えています。


ーーCSOというポジションを置く企業と、そうでない企業ではどのような差が生じてくると考えていますか?
加藤)CSOというポジションが日本企業において十分に浸透しているわけではないので、確定的なことは言えませんが、サステナビリティの取り組みを推進する“スピード感”が違ってくると考えています。
事業部門ごとにサステナビリティを推進した場合、どうしても取り組みにばらつきが出てきてしまいますが、CSOがいることで統一感を持って社内を動かすことが可能になります。経営資源を集中的に投じることができるようになれば、スピード感だけでなくクオリティも変わってくると思います。
ーーサステナビリティが扱う内容が非常に広範に及ぶ中で、企業・CSOはどのように優先順位を付けて取り組む必要があるのでしょうか?
加藤)結論から言えば、業種によって全く異なってくるだろうと思います。例えば鉄鋼業界や運輸業界は、二酸化炭素をはじめとした温室効果ガスを排出していますから、まずはそこを重点的に取り組む必要があると考えられます。
一方、労働集約型の産業であれば、現地で労働者を低賃金で雇用するなどの人権問題にフォーカスする必要があるかもしれません。
また、それぞれのサステナビリティの課題が、自社の売上、コスト、ブランド、リスク管理にどれだけ影響するのかという観点も重要です。
ーーCSOにはどのようなスキルセットが求められると考えていますか?
加藤)繰り返しになりますが、CSOが担う分野はあまりにも範囲が広いんですね。サステナビリティ情報を開示するにあたっては、広報的な知識も必要ですが、財務会計やマーケティングの知識も必須です。場合によっては、技術系のことも知らなければなりませんし、経営戦略もわかってなければなりません。ある意味では「スーパーパーソン」と言えるかもしれません。
一方で、実際に日本でCSOを務めている人の話を聞いてみると、それぞれいろんなキャリアをお持ちで、専門分野を持ちつつ、不十分な分野については勉強をされているようです。そうした意味では、知識面ではビジネススクールの基礎科目ぐらいのことは知ったうえで、自分の得意分野をベースにして広げていくイメージだと思います。
そして、それ以上に重要なスキルは、コミュニケーション力、巻き込む力だと考えています。自分の考えを伝えて共感してもらい、実際に動いてもらえるかどうか。そこが非常に重要な部分だと思います。
ーー『CSOと拓くサステナビリティ経営 価値創造の現場』が出版されます。CSOの設置を検討している企業や、サステナビリティを担当している読者の皆さまには、この本を通じてどのような学びを得てもらいたいと考えていますか?
加藤)サステナビリティの分野はまだまだ新しく、CSOを担える人材を育成する大学の学部もありませんし、企業の中でも戦略的に人材を育成しているようなケースも少ないと思います。
そうなると、CSOの設置を考えた際には、適切な人材が社内に見当たらない場合には社外から採用する必要があります。これは、時間で専門性を買うという面からすると必要なことですが、長い目で見ると、社内でも人材を育てていかなければなりません。
書籍の中の「実践編」では、金融サービス、食品・ライフサイエンス・消費財、流通・小売、環境ビジネス、総合技術・製造業という業種から10社のCSO・サステナビリティ部門の責任者のインタビューも掲載しています。
それぞれの責任者が、どういうことを考え、どのような工夫をしているのか。そして、どうアプローチしているのかといった生の声を知ることができる貴重な機会だと思います。成功だけでなく、失敗を含む具体的なエピソードのほか、CSOに必要な知識・スキル、獲得・育成の方法、サステナビリティ部署のあり方など多彩なトピックスに触れています。
CSOの設置を検討している企業、CSOを志す人、サステナビリティ部門の一員としてCSOと働く人たちに役立てていただければと思う次第です。
(本インタビューは、2026年1月23日に実施されたものです)
この記事で取り上げた書籍『CSOと拓くサステナビリティ経営 価値創造の現場』(経済法令研究会刊)は、発行元の経済法令研究会のサイトでご購入いただけます。
ご購入をご希望の方は、下の「購入する」ボタンをクリックしてください。

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「持続可能なスポーツ」のためのスタンダード ―地域社会を動かし、環境も経済も育むための8つの計画― 【リサーチレター(2026年2月)】
中学・高校のスポーツ部活動は、本来「自主性・継続性・公認性」を備えた教育課程外活動であり、心身の成長・自己管理・人間関係構築など、多くのメリットを持つ(図表1参照)。一方で、少子化による部員数の減少や、活動を支える教員の過重負担、ハラスメント、競技成績偏重などの問題も顕在化してきた。こうした課題を受けて、スポーツ庁は2022年に「学校部活動及び地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン」を策定し、「部活動の地域展開」を推進している。これは、学校単位での維持が困難になった部活動を、地域のスポーツクラブや団体が主体となって運営するモデルへ移行させる改革である。2023年度から2025年度までを「改革推進期間」とし、地方公共団体による実証事業は510市区町村(2024年時点)にまで拡大した。こうした動きは、官民連携によっても力強く後押しされている。三井住友海上社などが設立した「ブカツ・サポート・コンソーシアム」は、地方公共団体が抱える指導者の確保や運営ノウハウといった課題に対し、企業が持つ専門性を活かした支援を提供する枠組みとして機能しており、改革の推進に大きく貢献している。
| メリット | デメリット | |
|---|---|---|
| 自己管理能力 | 練習や大会準備を通し、時間管理・目標設定・自己管理能力が培われる | 部活動の活動時が長く、勉強や他の活動との両立が離しい場合がある |
| 体力・健康 | 習慣的な運動により、健康増進や生活リズムの安定、生涯にわたる運動習慣の確立に寄与する | ハードな練習や長時間練習、遠征等による疲労や怪我のリスクが高まる |
| コミュニケーション | 異学年の生徒との関わりを通じて、協調性・社会性・コミュニケーションカが高まる | 仲間や先輩・後輩・指導者との関係がストレスや悩みの原因となることもある |
| メンタルへルス | 目標の達成感や仲間との助け合いが精神面の成長やストレス解消につながる | 過剰な指導や大会重視の風潮により、精神的負担や暴力・パワハラの問題が生じることがある |
| 進学・キャリア | 活動実績が進学(スポーツ推薦)・就職のアピールポイントとなる場合がある | 間接的に、学業との両立困難が影響する可能性がある |
| 家庭との関係 | 保護者の応援により、親子間のコミュニケーションが良好になる | 遠征費や用具購入など家計への負担、送迎や費用面で保護者の負担増加 |
| 絆・友情 | 共通の目標に向かい努力することで、かけがえのない友人関係やチームワークが育まれる | 人間関係のストレスが生じることもある(上記「コミュニケーション」参照) |
(スポーツ庁広報誌他より筆者作成)
これらの改革は、運営体制の持続可能性を高める上で大きな成果を上げている。しかし、その主眼は、少子化下での部活動の維持や教員の働き方改革、地域コミュニティによる子ども支援といった「社会・経済」の持続可能性に偏っている。つまり、土台となる「環境」への視点は残念ながら十分とは言えない。
政策レベルを見ても、いまだ不足がある。2025年に改正された「スポーツ基本法」では、気候変動への対応の必要性が初めて明記され、大きな前進となった。それでも、気候変動の影響を受けた暑熱対策などの安全確保に留まっており、緩和のための行動に言及していない。加えて、気候変動と並ぶ深刻な環境問題である生物多様性の損失に関する視点は含まれていない。つまり、いまの改革には「環境リスクを前提に、スポーツの在り方を再設計する」という発想が欠けている。スポーツ部活動がもたらす本質的な価値を将来にわたって享受し続けるためには、運営体制の改革だけでなく、活動の土台となる環境の変化に起因する広範なサステナビリティリスクに正面から向き合うことが必要である。
これまでに明らかになっている科学的データや将来予測に基づき、スポーツ部活動において十分に認識されてこなかった気候変動および生物多様性に関するリスクを特定した。これらのリスクは、活動の安全性から運営コスト、選手のパフォーマンスに至るまで、スポーツ部活動のあらゆる側面に影響を及ぼす可能性がある。また、限られたリソースの中で効果的に対応するためには、優先順位付けが不可欠である。そこで本章では、学生スポーツ団体における「現状の対応度」と、法規制や社会的な要請の強さを示す「影響度」という二つの軸を用いて行った「重要性評価」の結果を下表に示す(図表2参照)。
| 気候変動 | 期間 | 対応度 | 影響度 | 優先度 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 健康被害 | 猛暑日の増加などにより、熱中症搬送者数が増加 | 短~中期 | ○ | ○ | 低 |
| 猛暑により、運動部活動の制限期間が最大6ヶ月間。既存の対策では不十分【温室効果ガス排出抑制がな場合】 | 中~長期 | × | ○ | 高 | |
| 活動停止 | 豪雨などにより、屋外活動やスポーツ大会の中止リスク拡大 | 短~中期 | △ | ○ | 中 |
| 降雪量減少などにより、関連産業の経営難・倒産増加 | 短~中期 | △ | △ | 中 | |
| 降雪量が減少し、ウィンタースポーツ存続危機。新規開発における生態系への影響も【温室効果ガス排出抑制がない場合】 | 中~長期 | × | ○ | 高 | |
| 物理的リスク | 豪雨・洪水により、運動施設の損壊。河川敷施設の利用安全性低下 | 短~中期 | × | △ | 中 |
| パフォーマンス | 高温や人工雪により、選手の競技能力・安全性悪化 | 短~中期 | ○ | △ | 低 |
| 生物多様性 | |||||
| 健康被害 | 汚染された大気を運動中に取り込むことにより、直接的な健康被害や施設改修のためのコスト増大 | 短~中期 | × | △ | 中 |
| 大気汚染情報に触れた人々が身体活動量を減らした場合の間接的な健康被害 | 中~長期 | × | × | 低 | |
| 水質汚染により、重大な健康被害 | 短~中期 | × | ○ | 高 | |
| 塩素処理されたプールで活動することによる健康被害 | 短~中期 | × | △ | 中 | |
| 未知の微量汚染物質による健康被害 | 中~長期 | × | △ | 中 | |
| 植生や土壌の劣化などにより、熱中症リスクが増加 | 中~長期 | × | ○ | 高 | |
| 植生や土壌の劣化などにより、雷害リスクが増加 | 中~長期 | × | ○ | 高 | |
| 自然林に生息する野生動物による悪影響が増大【山地に近いグラウンドやゴルフ場の周囲にある森林が消失した場合】 | 短~中期 | × | ○ | 高 | |
| 活動停止 | 気候変動影響(豪雨や降雪量減少)や生物多様性影響(生態系劣化への緩和対策、汚染対策、水資源対策)のために、既存のゴルフ場やスキーリゾートの運営コスト増大 | 短~中期 | × | △ | 中 |
| 新たな施設を建設するための土地開発・改変の禁止 | 中~長期 | × | ○ | 高 | |
| 河川や湖沼などの水質悪化により、運営コスト増大 | 短~中期 | × | ○ | 高 | |
| 大会・活動自体の存続危機【湖沼における水質悪化が進んだ場合】 | 中~長期 | × | ○ | 高 | |
| 人工雪製造により、地域の飲料水の供給減少に加え、汚染や地球温暖化を招くリスク | 中~長期 | × | △ | 中 | |
| 海洋ゴミにより、運営コスト増大 | 短~中期 | × | ○ | 高 | |
| 大会・活動自体の存続危機【海洋ゴミが増大した場合】 | 中~長期 | × | ○ | 高 | |
| 保全優先度の高いエリアが増える事により、活動制限 | 中~長期 | × | △ | 中 | |
| 物理的リスク | プラスチック使用に関する規制により、大会運営や活動のためのコスト増大 | 中~長期 | × | ○ | 高 |
| 豪雨の頻発などにより、施設維持のための農薬の使用制限 | 中~長期 | × | △ | 中 | |
| 気候変動影響、植生/土壌の劣化、水インフラの老朽化により、洪水/土砂災害の被害増大。施設利用の安全性低下 | 中~長期 | × | ○ | 高 | |
| 干ばつや渇水の常態化により、大量の水を使用する活動の制限やコスト増大【温室効果ガス排出抑制がない場合】 | 中~長期 | × | △ | 中 | |
| 生態系サービス(文化的) | 生態系保全や安全性確保のために、活動制限 | 短~中期 | × | △ | 中 |
| パフォーマンス | 大気汚染により、選手の競技能力・安全性悪化 | 短~中期 | × | △ | 中 |
| グラウンド周辺の森林や土壌が劣化することにより、競技に悪影響が生じるリスク | 中~長期 | × | △ | 中 | |
(環境省資料他より筆者作成)
対応度の評価については、既に取組みがあるものを「○」、各団体においてリスクとして認識され始めているものを「△」、まだ取組みがないものを「×」とした。また、影響度の評価については、明確に対応が要求されているものを「○」、省庁などにおいてリスクとして認識され始めているものを「△」、まだ対応が要求されていないものを「×」とした。これらの組み合わせのうち、まだ取組みがないもの(対応度×)と、明確に対応が要求されているもの(影響度○)について、優先的に対応すべきリスク(優先度:高)としている。
全体を眺めると、優先度の高いリスクが13個、中程度のリスクが14個、低いリスクが3個との評価結果になった。特に、環境省などの法令に従って影響度評価を行うと、スポーツ界としても取り組まなければならない生物多様性リスクが多くあることが明らかになった。気候変動については、既に顕在化している「暑熱対策」リスクへの継続的な対応が必要である。その上で、温室効果ガスの排出削減に貢献するような行動(緩和)や、気温上昇がさらに進んだ場合に備えるための抜本的な対策(適応)を、中長期的に進めることがスポーツ部活動においても求められる。生物多様性に関するリスクについては、現状の対応度を踏まえると、特に優先度の高いリスクが多くなっている。日本においても、水質汚染やプラスチックごみ問題、既存/新規の運動施設周辺における生態系の劣化などの対処に、早期に取組みを始める必要がある。
この評価結果からは極めて重要な示唆が得られた。それは、スポーツ部活動では「対応度」が低いにもかかわらず、法規制や社会的な要請の高まりによって「影響度」が急速に増している生物多様性関連のリスク群(水質汚染、プラスチックごみ問題、生態系劣化など)が、喫緊の最優先課題として浮かび上がってきたという事実である。そしてこれらは、従来の暑熱対策の延長線上にはない、難しい課題ばかりである。そこで次章では、これらの優先課題に対して、国内外の先進事例から学びつつ、実効性のある具体的な対応策を提示する。
気候変動および生物多様性に関する課題は、短期(足元の安全対策)から中長期(運営・施設・サプライチェーン上での改革)で異なる施策が必要になる。また、それらを実効性あるものにするためには、既に成果を挙げつつある国内外の先進的な取組みから学ぶことが不可欠である。本章では、こうした事例を分析したうえで、「持続可能なスポーツのためのスタンダード」としてまとめた。
サステナビリティ取組みを進めるためには、まず組織内にサステナビリティ担当、および委員会を設置する必要がある。この専門部において、責任者(Chief Sustainability Officer:CSO)を明確化し、俯瞰的な戦略フレームを策定する事が何よりも優先される。その内容には、気候変動・生物多様性・資源循環の面で方針を策定・公表すること、国際枠組み(Sports for Climate Action※1、 Sports for Nature※2)に署名することなどが考えられる。また、短期・中長期の施策は以下である。
① 現状把握(GHG排出量、廃棄物量、水使用量、生物多様性に関するリスク分析など)の実施
② 行動計画の決定
① 定量的な目標値設定(20xx年までにScope1-3でx%削減など)
② 中間KPIの導入
③ Sport Positive League※3などの外部団体と連携
※1)気候変動対策に向けた行動を起こすための国際枠組み。国連気候変動枠組条約(UNFCCC)と国際オリンピック委員会(IOC)によって発足。
※2)2030年までにスポーツ界全体で「ネイチャー・ポジティブアクション」を拡大するための国際枠組み。国連環境計画(UNEP)、生物多様性条約事務局、国際自然保護連合(IUCN)、IOCによって発足。
※3)欧州サッカー連盟(UEFA)によって創設された国際的なイニシアティブ。クラブ単位でサステナビリティ項目(① ポリシーとコミットメント、レポーティング、② 再生可能エネルギー、③ エネルギー効率、④ 環境負荷の少ない移動手段、⑤ 使い捨てプラスチック削減・廃止、⑥ ごみの削減管理、⑦ 水の効率的な利用、⑧ プラントベース・低炭素食品、⑨ 生物多様性、⑩ 教育、⑪ コミュニケーション、⑫ 持続可能な調達)の成果を競う。
スポーツ大会/活動を行う上での安全性確保は最優先事項であるため、早期の取組みが求められる。
a.運動時間の調整(WBGT※4指数がガイドラインを超える場合は練習時間を早朝/夕方に移行、活動強度の段階的調整など)
b.日陰・冷却環境の整備(ミスト、日陰テント※5等を配備)
c.水分管理(ペットボトル利用抑制の観点から「マイボトル・マイカップ」方式を導入)
d.救護体制の強化(救急搬送手順やスタッフのトレーニングなど)
関係者にリアルタイムで情報連携する仕組みの導入(河川の増水や水質汚濁、雷発生情報、野生生物の出没など)
なお、スポーツ庁において「運動・スポーツにおける安全対策の評価改善のためのガイドライン」が検討中である。公開された際には、そちらも参考にされたい。
※4)WBGT(湿球黒球温度)は、熱中症を予防するための指標。気温、湿度、日射・輻射熱を取り入れた温度のこと。人体の熱収支に影響を与える要素を考慮しているため、実際に近い危険度の評価が可能。
※5)東京2025世界陸上において、SPACECOOL社の新素材を活用したテントが採用されている。同テントは 、放射冷却を利用してゼロエネルギーで冷却効果を実現できる。
優先度の高いリスクとして取り上げた気候変動の緩和策と適応策である。
温室効果ガスの排出削減に向けた取組みは、スポーツ大会/活動においても求められる。
① 温室効果ガス(GHG)インベントリの作成(組織が1年間に排出・吸収するGHGの種類や、起因する活動などを一覧化し、基準値とする)
② 関係者の移動を低炭素化(教育/啓発活動のほか、自転車・公共交通を利用した場合の手当てなどのインセンティブ導入)
① エネルギー効率化(再生可能エネルギーの導入やLED照明、空調の最適化、太陽光発電設備の設置、EV車両の導入、断熱改修など)
② 調達の際に低炭素を意識する(低炭素サプライヤーを優先)
③ 運営におけるGHG排出削減(印刷物の削減、デジタル化の推進、機材の長寿命化、レンタル/リースの活用など)
過酷な気象条件や激甚化する災害への適応策も講じる必要がある。これも安全性の確保に関することから、短期の取組みが求められる。
① リスクマップの作成(大会会場や運動施設ごとに浸水や強風、暑熱などへの脆弱性を評価)
② 施設ごとの最適な対策(大会や練習の中止基準、避難・情報連携の手順作成など)を準備。
「湘南国際マラソン」※6において、アクアクララ社と提携して開発された給水システムのように、災害時に転用可能な設備の新設も有用である。これにはフェーズフリー※7取組みを推進する自治体との連携が効果的である。
※6)「環境に配慮したサステナブルなマラソン大会をリードする」と謳っており、「マイカップ・マイボトルマラソン」や「循環型アップサイクルプロジェクト」に取り組んでいる。
※7)普段利用している商品やサービスが災害時に適切に使えるようにする価値を表した言葉。
生物多様性に関する取組みは、特に地域差が表れやすい。この要因には以下が挙げられる。
地域ごとの地理的条件や気候などが異なるため、そこに生息する生物種の多様性が異なる。
農業や産業活動などの人間活動が地域の生物多様性に与える影響が異なる。
各地域の自治体が実施する生物多様性の保護政策や管理体制が異なる。
地域によっては、伝統的な知識や文化が生物多様性の保護に貢献している場合がある。この点を考慮するためにも、まずは現状評価が求められる。
① 練習場や大会会場周辺の生物多様性に関する評価(周辺の生態系がどのような状況であるかを把握。なお、以前より地域の生態系を見守ってきたNPOや専門家との協働が有用)
② グラウンドで使用する芝管理の見直し(農薬・化学肥料の削減、土壌改良、新素材導入※8など)
③ 施設周辺における外来種の管理
① 新設・改修時に「生物多様性配慮設計」を導入(緑地、雨庭、生物多様性ネットゲイン※9目標)
② 調達の際に生物多様性評価を意識する(木材、芝、食材等のサステナブル調達)
③ コミュニティ参加型の回復プロジェクトを定期的に開催(植樹、干潟再生、プロギング※10など)
※8)ミズノ社、カネカ社は生分解性バイオポリマーを使用した屋内型人工芝と充填材を共同開発。海に流出しても海中で水とCO2に分解されるため、雨風などで人工芝や充填材が流出する「マイクロプラスチック汚染問題」への対応策として期待される。
※9)開発プロジェクトや土地改変に伴って失われる生物多様性を補うだけでなく、さらに向上させることを目指す考え方やアプローチのこと。
※10)ジョギングしながらゴミを拾うフィットネスのこと。スウェーデン語の「plocka upp(拾う)」と英語の「jogging(走る)」を組み合わせた造語であり、2016年から世界100カ国以上に広がっている。なお、日本では、この言葉ができる前からランナーの間でゴミ拾い活動が広がっていた。
スポーツ団体の先進事例である「World Rugby Environmental Sustainability2030※11」では、優先テーマとして「気候変動へのアクション、循環型経済の促進、生物多様性の保全」を掲げている。資源循環に向けた取組みを進めることは、気候変動や生物多様性へも貢献する。
① 練習場や大会会場などの廃棄物に関する評価(2025年11月の国連気候変動枠組条約第30回締約国会議(COP30)で国際ガイドライン「グローバル・サーキュラリティ・プロトコル(GCP)」※12が公表された。同ガイドラインは循環性に関するパフォーマンスの測定・開示フレームワークや循環性指標を含む基本的な枠組みとなる。主に企業が対象であるが、スポーツ団体の取組みにおいても企業との協業が必要となる事から、参考にされたい。)
② 使い捨てプラスチック削減(選手/運営スタッフのマイボトル導入、リユース食器の採用など)
③ 食品ロス対策(余剰食材の地域還元、大会運営スタッフへのプリペイドカード配布等)
① 大会グッズ、看板、備品の寿命延長と再利用のルール化(レンタル、共通備品の導入)
② 衣類、シューズ回収プログラム(湘南国際マラソン事例を各スポーツ大会やクラブで定着化)
③ 大会に出店する飲食店の容器リユース制度
ただし、こうした取組みは気候変動と生物多様性の両面でインパクトを測ること(アップサイクル事業のGHG影響を正しく検証するなど)に留意が必要である。
※11)ラグビーの国際競技連盟(World Rugby)が公表するサステナビリティ計画。
※12)日本政府は国際競争力の強化などを目的に、資源循環分野の国際ルール形成を主導してきた。TCFD(気候変動)やTNFD(生物多様性)のように、評価手法や情報開示の枠組みが確立されていなかったことから、国際的な民間企業団体であるWBCSDとともに同ガイドラインを開発した。
気候変動や生物多様性、資源循環に関する上記の取組みを効率的・効果的に推進するためには、地域のステークホルダーの力が不可欠である。そのため、連携施策も同時に進めることが求められる。
① 「ホームタウン活動」※13の開催(地域住民、自治体、企業、NPO等と協働するための「場」を整備する。そこで生物多様性の保全活動や、河川・海岸の清掃、低炭素・省エネ教室、サステナビリティ取組みの実証実験などを実施)
② 啓発コンテンツの発信(影響力/人気のある選手/スタッフを環境アンバサダーとして活動をPR)
① 活動データの公開(GHG排出量やごみの削減成績などを見える化し、地域に報告)
② ファン参加型施策の実施(Sport Positive LeagueやHEROs PLEDGE※14などの取組みに参加することや、エコ行動イベントを主催してインセンティブを付与する制度を創設するなど)
※13)Jリーグで行われている「地域密着」活動。Jリーグでは、2023年に30,000回以上の活動を行っている。
※14)スポーツ界を横断して、使い捨てプラスチックごみ削減に取組むプロジェクト。
各主体が、上記の取組みについて優先付けをした上で取り組んだとしても、相当の費用がかかることが見込まれるため、資金面での対応策も実施する必要がある。
① 協力企業との連携(企業自身による気候変動や生物多様性に関するリスク/機会への対応も進んでいるため、こうした企業との協業によって経済的合理性を確保する)
② 国や自治体の補助金を活用(スポーツ庁や環境省、Jリーグなどの助成事業を活用する)
③ 企業などからの寄付
情報開示は、「Sport Positive League」や「Sports for Nature」、「World Rugby Environmental Sustainability2030」などに共通する重要な施策である。ただし、開示項目を満たす為の取組みであってはならない。あくまでも、自組織にとって重要な施策に取り組んだうえで、その結果を正しく開示することに留意してほしい。
① 取り組んだ実績を広く開示するための項目整理(主に企業が活用する基準であるが、TCFD※15:気候変動や、TNFD※16:生物多様性、GCP:資源循環、SSBJ:サステナビリティ財務報告などを参照されたい)
② 他団体へのベストプラクティス展開。「団体/チーム」の「関係者/ファン層」への行動変容促進。
(スポーツが持つ巨大な影響力を用いることで、国家レベルでの目標達成にも貢献できる)
ここで提示した8つのスタンダードは、スポーツ部活動を未来にわたって持続可能なものへと転換していくための、具体的かつ体系的なロードマップである。これらを実践することで、スポーツ大会や活動を主催/運営する団体・自治体・企業は、リスクを管理し、地域社会と協働して新たな価値を創造することができる。
※15)気候関連財務情報開示タスクフォース。企業や金融機関が気候に関連するリスクと機会を評価し、それに基づく情報を開示するための国際的なフレームワーク。
※16)自然関連財務情報開示タスクフォース。TCFDの自然版。
スポーツは、選手、ファン、地域住民、企業、自治体といった多様なステークホルダーを情熱で繋ぐ、他に類を見ない強力なプラットフォームである。また、サステナビリティの取組みは、より良い環境・社会・経済を作るために、業種や所属団体の垣根を越えて、人々が集い、協力し、地域への愛着を育む新たなコミュニティ活動の機会を創出する。つまり、スポーツとサステナビリティには、「コミュニティを生み出す力」という共通項がある。スポーツには、この力を活用することで地域社会のサステナビリティ課題解決とレジリエンス(強靭性)を高める「核(ハブ)」になるという、絶大なポテンシャルを秘めている。
さらに、スポーツはビジネスとしても魅力のある産業である。アメリカのスポーツ産業はすでに約60兆円に達したと言われている。この規模は、かつてGMやフォードに代表される自動車産業の市場規模よりも大きい数字である。中国も、2025年9月にスポーツ産業規模を7兆元(約143兆5,000億円)に拡大する目標を打ち出した。「スポーツ産業の発展とスポーツ消費の促進は、国内需要を拡大する戦略において重点的な取組みになる」と公言している。この点、日本においても軌を一にしている。スポーツ庁は「スポーツの成長産業化」(2021年10月)で、スポーツGDP(国内総生産)を15兆円に拡大(2015年時点5.5兆円)する目標を掲げている。それは、「モノ消費からコト消費」と言われるように、消費の重点が「体験を楽しむ」ことに移っているというトレンドを受けているからである。スポーツが持つ「体験の強さ」は、この機会を最大限に活かすことができ、少子高齢化に伴う人口減少の中でも市場拡大が予想されている。
加えて、これまでの国内市場が未成熟という状況にある。たとえば、主に自治体の所有物となっている競技場や体育館は、その管理費用(電気代や施設維持費、人件費など)が、収入(施設利用料など)を上回るコストセンターになっていた。これを、何度も来たくなるような魅力的で収益性を有するスタジアム・アリーナに変え、プロフィットセンターへと変革するのである。実際に、エスコンフィールドHOKKAIDOをはじめ、スタジアム・アリーナの建設・竣工が全国で20か所以上も進んでいる。
また、こうした新たな「場」はサステナビリティの実証機会としても活かされている点に注目したい。2025年10月に新設されたTOYOTA ARENA TOKYO(東京都江東区)では、「会場内で出たごみのリサイクル」や「プラごみの最小化」「フードロス対策」「近隣マーケットで出た余剰食材の活用」「周辺の海の環境保全活動」「海洋プラごみを再利用したグッズ制作」など、アリーナの運営にサステナビリティ対策を組み込んでいる。施設自体にも「太陽光発電」や「蓄電」「屋上などの緑化」「雨水の利用」といった環境負荷の低減を図り、日本のアリーナとして初めてとなるLEED認証※17を取得した。アリーナの新設となると、大小さまざまな環境負荷が生じる可能性がある。そして、運営後の効果がそれらの影響を上回ってポジティブになる計画が求められる。こうした取組みには地域のパートナーが持つ専門性が不可欠になる。パートナーにとっても、多様な解決策を模索しながら、自身/自社の成長機会になるだろう。その際には、本稿で提示した「持続可能なスポーツのためのスタンダード」が一助となることを期待したい。
※17)U.S. Green Building Council(USGBC)が開発・運用する環境性能評価システム。環境に配慮した建物であることを評価する国際的な認証制度の一つ。
【参考文献】
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