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CSO(最高サステナビリティ責任者)が担う役割と価値創造の現場とは?専門家がセミナーで講演したポイントを紹介!
オンラインで開催されたセミナーには、様々な業界の企業から約40名が参加し、第1部では京都大学経営管理大学院の加藤特命教授が「CSOー企業価値獲得の先導者ー」と題して、講演を行いました。
京都大学 経営管理大学院 加藤晃 特命教授
貿易商社、AIU保険会社、愛知産業大学、東京理科大学大学院経営学研究科技術経営専攻教授を経て、2025年から同大学嘱託教授。情報開示/経営戦略、サステナブルファイナンスが専門分野。
この中で、加藤特命教授はCSOというポジションの位置づけについて、企業内外の多数のステークホルダー(顧客、従業員、投資家、監督機関、サプライヤー等)と双方向の関係を築きつつ、社内外をつなぐ“架け橋”として機能することが求められると説明しました(下図)。


CSOを取り巻くステークホルダー(資料提供:加藤晃特命教授)
その上で、CSOに求められるのは、一方向的な情報発信ではなく、対話型のインタラクションだと強調しました。
また期待される役割や資質について、戦略的リーダーシップ、コンプライアンス、ステークホルダー・エンゲージメント、リスクマネジメントなど多岐にわたり、“スーパー・パーソン”のように幅広い知識と経験が要求されると指摘しました。
一方で、現在の日本企業におけるCSOの職位や組織内の位置づけは企業によりばらつきがあり、CEOや役員が兼務するケースもあれば、課長級が務めるケースまで存在するということです。
続けて加藤特命教授は先行研究を踏まえたうえで、企業における以下3つのサステナビリティ取り組みの成熟段階に合わせて、CSOの役割や責任が変化すると説明しました。
第1段階:関連する法律や制度に沿って適切に取り組んでいる
第2段階:サステナビリティの取り組みの業務効率化ができている
第3段階:イノベーションを促進できる
CSOは、第2段階から第3段階に進むにつれてステークホルダーに対するコミュニケーションを成功させるために不可欠な存在になり、第3段階では、ビジョンと戦略の策定を主導し、最終的な責任がCEOからCSOに移ることが示唆されているとしました。
また、CSOの役割を8つの重要な仕事※に分解して測定した別の先行研究を取り上げ、あるCSOのケースでは、当初は自身の得意分野に注力したことからレーダーチャートがバランスを欠いた状態(赤の破線)が測定され、CSO自身が行動を修正した結果、バランスの取れた状態(青の実線)に変化したとの報告があったということです。こうしたアプローチは、CSOの採用や育成期のモニタリングに資する手法として有効だと指摘しました。
※コンプライアンス、モニター/報告、プロジェクトポートフォリオの監督、ステークホルダーとの関係、組織的能力の構築、企業文化変革、採用と経験、サステナビリティのプロセス/意思決定への盛り込み
その上で、CSOというポジションを評価する際の透明性とシンプルさが、組織全体における整合性と明確性を強化するとしました。


CSOの8つの重要な仕事(資料提供:加藤晃特命教授)
最後に加藤特命教授は、ビジョンや戦略の策定を主導するCSOに求められる能力について、MBAで学ぶような財務の基礎知識やサステナビリティに関する専門知識も必要だとしつつ、目標に向かって社内外とのコミュニケーションを通じてやり抜く力、人間性も含めた“巻き込み力”が非常に重要になってくると強調しました。
第2部では、MS&ADインターリスク総研のサステナビリティ分野のコンサルタント2名が登壇し、はじめに石川隆彦が「戦略・情報開示・コミュニケーション」をテーマに、実際に取材を行った企業の事例を紹介しました。
MS&ADインターリスク総研 リスクマネジメント第五部 サステナビリティ2グループ 石川隆彦 主任コンサルタント
この中で石川は、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の開示枠組みで提唱された「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標及び目標」からなる4つの「コア・コンテンツ」の位置づけに触れ、これらは並列の関係ではなく“まず戦略ありき”であり、サステナビリティの取り組みでも、戦略を中心に据えた密接な結びつきが不可欠だと説明しました。
その上で、成長戦略のひとつとしてサステナビリティ経営を掲げ、企業戦略と事業戦略の一体化を図る「CSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)」の実現を目指しているJ.フロント リテイリング株式会社のケースを取り上げ、戦略と日常行動を結びづける言葉づくりの重要性を紹介しました。
具体的には、3つの共創価値(感動共創・地域共栄・環境共生)を定め、それらに基づく新たなマテリアリティ(重要課題)を従業員が自分を主語として考えられるように、「アクション型」の表現に変更する工夫を行っていると説明しました。
セミナー当日の資料より(出典:MS&ADインターリスク総研)
また石川は、情報開示をする媒体について、有価証券報告書など法令で定められた報告を行う「法定開示」と、統合報告書など自由に自社の取り組みや魅力をアピールできる「任意開示」に大別されると説明。
その上で、「法定開示」が財務や法務、「任意開示」がIRや広報が担当することが多かった従来の状況が、サステナビリティの開示基準の策定やESG・SDGsへの関心の高まりから、どちらに対してもサステナビリティ部門の関与が重要になってきているとしました。
そして、株式会社日立製作所では社内横断的な開示媒体の制作体制を整備して、サステナビリティ部門が「法定開示」「任意開示」の両方に関与していることを紹介しました。
また、コミュニケーションの重要性について、不十分な情報開示が企業価値の低下につながる恐れがあるため、サステナビリティの取り組みにおいてもしっかりと開示することが企業価値向上につながるとしました。
好事例として株式会社レゾナック・ホールディングス(以下、レゾナック)を取り上げ、CSuOがインタビューの中で「(サステナビリティに関心が高い)投資家との対話は、CFO、IR部門と共にCSuOの私やサステナビリティ部が対応することもあります」と話していたことに触れました。その上で、レゾナックでは統合報告書に関してCSuOが編集責任を持ちつつ、他部門との企画会議を立ち上げて議論をしながら制作していることを紹介しました。
セミナー当日の資料より(出典:MS&ADインターリスク総研)
続けて、MS&ADインターリスク総研の末永潤が、各企業への取材を通じて得られたという「つなぐ」と「自分事化」という2つのキーワードで、CSOに求められる役割などを紐解きました。
MS&ADインターリスク総研 リスクマネジメント第五部 サステナビリティ2グループ 末永潤 上席コンサルタント
はじめに末永は、企業のサステナビリティの取り組みについて、単なる規制対応にとどまらず、企業の中長期的な収益性や生産性向上、そして多様なステークホルダーへの価値提供につながる「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」をめざすべきものであり、CSOはその“先導者”として経営の中核にサステナビリティを据える役割が期待されているとしました。
その上で、国内企業のCSOを取材した結果、「ビジョン」「キャリア」「巻き込み」という3つの力を共通して持っていたと話しました。
セミナー当日の資料より(出典:MS&ADインターリスク総研)
中でも、サステナビリティ分野の施策や取り組みを企業価値創造につなげるためには「巻き込み」の力が特に重要とし、CSOが各経営層を巻き込んで、全社的な推進力につなげる必要があると説明しました。
続けて、サステナビリティ部門に期待される役割について、事業部門の目標や施策・取り組みが、サステナビリティのマテリアリティ(重要課題)と同じ方向を向くように、現場に寄り添いながら対話を通じて取り組みを加速させる必要があるとしました。
その好事例として帝人株式会社のケースを取り上げ、サステナビリティ部門と全事業部門が約1年間、関連するKPIなどの策定に向けて対話したというエピソードを紹介しました。その上で、対話を進めるにあたっては、これまで培ってきた社内の様々な部署とのパイプや、コミュニケーションできる関係性が重要だとしました。
CSOとサステナビリティ部門が役割を果たすために必要なこととして、末永は、CSOのリーダーシップの下で、「つなぐ」と「自分事化」の実現を挙げました。
セミナー当日の資料より(出典:MS&ADインターリスク総研)
「つなぐ」の実現にあたって、CSOは経営メンバー間をつなぎ、メッセージを全社に発信すること、サステナビリティ部門は対話を通じて、サステナビリティに関するビジョン・戦略を事業部門の現場につなげる必要があると強調しました。
また、「自分事化」の実現に向けては、経営層の目標から社内各層の評価へとカスケードダウンする制度設計や、施策や研修などを通じて経営層だけでなく現場の従業員一人ひとりの主体的な行動変容を導くことが必要だとしました。
最後に、ネイチャーポジティブの実現に向けたコミュニケーションを題材に、社内の「つなぐ」と「自分事化」を、地域社会、産学官等のステークホルダーも包括した形で連鎖させることの重要性を説明しました。
セミナー当日の資料より(出典:MS&ADインターリスク総研)
その上で、CSOのリーダーシップとサステナビリティ部門の対話力によって、事業活動におけるリスク低減やブランド価値につながる取り組みを広げること、消費者や投資家などへの情報発信を通じて新たな価値を認識させる流れを生み出すことが、今後のサステナビリティ経営の要であるとしました。
この記事で取り上げた書籍『CSOと拓くサステナビリティ経営 価値創造の現場』(経済法令研究会刊)は、発行元の経済法令研究会のサイトでご購入いただけます。
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企業における高年齢労働者安全衛生対策の歴史的変遷 ―2026年4月施行の改正労働安全衛生法の対応に向けて― 【労災リスク・インフォメーション(2026年3月)】
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大企業の福利厚生の満足度を調査 20代女性の期待と不満とは?
本調査では、回答者が勤務する企業の福利厚生に対して満足しているかどうかについて聞きました。「やや満足」と「とても満足」の合計は50.7%、「あまり満足していない」「全く満足していない」「強く不満であり、転職を検討する要因の一つである」の合計は49.3%でした(図表1)。


図表2は、図表1のデータから、福利厚生に対して、「全く満足していない」「強く不満である、転職を検討する要因の一つである」とした回答者の割合を性別年代別で示しています。ここでは20代女性の12.0%が「強く不満である、転職を検討する要因の一つである」と回答していることがわかります。


本調査では回答者が就職・転職を検討する際に、その企業の福利厚生の有無・内容を重視するかどうかについて聞いています。その結果、「重視する」と「やや重視する」の合計は77.6%となりました(図3)。


図表4は、図表3のデータから、福利厚生の有無・内容を「重視する」とした回答者の割合を性別年代別で示しています。ここでは20代女性の31.2%が「重視する」と回答しています。以上のことから、20代女性は勤務先の福利厚生に対する期待が高いため、不満も抱きやすいことが推測されます。


それでは、20代女性はどのような福利厚生を希望しているのでしょうか。本調査では、回答者に具体的にどのような福利厚生を重視しているのかを聞いています。本稿では、女性の年代別(20代、30代、40代)の回答結果を紹介します(図表5)。
設問に挙げた主な福利厚生について、重視する度合いは年代によって異なりますが、20代女性は他の年代と比べて重視する度合いが全体的に低い傾向がみられました。前述のとおり、福利厚生の有無・内容を最も重視するのが20代女性であることを考慮すると、この結果は、20代女性が設問に挙げられた主な福利厚生以外のものを企業に期待している可能性が考えられます。


本調査の結果から、20代女性は勤務先の福利厚生に対する期待が高く、そのため不満も抱きやすいという事が推測されることについて述べました。また、この層は、いわゆる一般的な福利厚生に加えて、さらに付加価値のある制度を求めていることがうかがえます。例えば本調査の設問には含まれていなかった、美容、ヘルスケア、女性特有の健康課題解決(フェムテック)などが当てはまるかもしれません。
福利厚生の充実は社員の定着やモチベーション向上にも影響するといわれています。企業が優秀な人材を採用・定着させるためには、性別や年代ごとの多様なニーズを把握し、それに応じた福利厚生制度の整備が重要です。今後は、社員の声を定期的に反映させる仕組みや、時代の変化に合わせた新たな制度の検討も求められるでしょう。
【参考文献】
・住友生命保険(2024)『企業の福利厚生制度に関するアンケート調査結果』
・生命保険協会(2024)『生命保険事業概況』
・生命保険文化センター(2023)『2022(令和4)年度生活保障に関する調査』
・日本経済団体連合会(2020)『第64回福利厚生費調査結果報告』
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ISC2、2025年版「サイバーセキュリティ人材調査」の結果を発表
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経済産業省が「経済安全保障経営ガイドライン」を公表
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脱炭素経営が中小企業のブランド価値を高める時代へ 脱炭素と自社ブランディングを結びつける実践事例
日本政府は2050年のカーボンニュートラルを目標に掲げ、企業活動全体で温室効果ガスを削減するよう求めています。特に近年は、単に自社の排出量を減らすだけでなく、サプライチェーン全体での脱炭素対応が重視されるようになりました。これは、大企業だけでなく、その取引先である中小企業にも対応が求められることを意味します。

こうした流れの中で、脱炭素経営は次のようなブランド価値を生み出します。
重要なのは、脱炭素を「義務」や「コスト」として捉えるのではなく、企業の姿勢・価値観を表現する手段、つまりブランディングの要素として活用することです。
それでは実際に、脱炭素経営をブランド価値に結びつけている中小企業の事例を見ていきましょう。
この販売会社は、リユース可能なトナーカートリッジ部材販売を中心に、脱炭素経営を進めています。もともとSDGsを企業理念として掲げていましたが、温室効果ガス排出量の算定や削減目標の設定、再生可能エネルギー導入などを通じて「脱炭素経営そのものを企業価値にする」取組を加速させています。
また、同社は、自社製品の環境負荷を可視化するため、CFP(カーボンフットプリント)※1の算定に取り組んでいます。
※1 CFP(カーボンフットプリント):製品やサービスの原材料調達から廃棄、リサイクルに⾄るまでのライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガスの排出量をCO2排出量に換算し、製品に表⽰された数値もしくはそれを表⽰する仕組み。(参照元:経済産業省、環境省「カーボンフットプリント ガイドライン」)
「環境にやさしい製品」という抽象的な表現にとどまらず、原材料調達から製造、輸送、廃棄までのライフサイクル全体で排出されるCO₂量を数値として示すことで、取引先に対して客観的な説明を可能にしました。この取組は、次の点でブランディングにつながっています。
その結果、BtoCのみならずBtoB分野においても、環境対応に積極的な企業というブランドイメージを確立しています。CFPの活用は、科学的根拠を持った脱炭素ブランディングの有効な手法といえます。
同社の事例は、脱炭素を「特別な商品」ではなく、企業そのものの姿勢としてブランド化するモデルといえるでしょう。
この造船会社は、内航船を中心とした船舶建造を行う造船企業です。同社は、海運業界全体の脱炭素化という大きな課題に対し、「ゼロエミッション船」の開発という形で挑戦しています。
従来、船舶は大量の燃料を消費し、CO₂排出量が多い産業分野の一つとされてきました。同社はこの課題に対し、電動化や省エネ技術の導入、環境負荷の少ない素材の活用など、複合的な技術開発を進めています。

この取組は、単なる環境対応にとどまらず、次のようなブランド価値を生み出しています。
また、地域社会に対しても「脱炭素産業の拠点」という新たな価値を提示し、地域ブランドの向上にも貢献しています。この事例は、BtoB分野において脱炭素・技術革新・競争力強化を実現している好例といえます。
この酒造会社は、中国地方で酒類製造を行う地域密着型の酒蔵です。同社は、自社の温室効果ガス排出量を把握したうえで、再生可能エネルギー電力への切替や設備更新による省エネ化など、段階的な脱炭素施策に取り組んでいます。
酒造業は地域文化や伝統と深く結びついた産業です。同社は、こうした背景を活かしながら、次のような点をメッセージとして発信しています。
この取組により、単なる「地酒」ではなく以下のような付加価値が生まれています。
同社の事例は、BtoC分野において脱炭素を「共感の物語」に転換したブランディングモデルといえるでしょう。
今回紹介した3社の事例から見えてくる共通点は、脱炭素経営を単なる省エネ対策に終わらせず、次のような「企業価値」として再構築している点です。
このように脱炭素経営は「守り」の施策ではなく、「攻め」のブランディング戦略になり得ます。特に中小企業は、経営者の思いや地域性、独自技術と結びつけることで、大企業にはない強い物語をつくることも可能です。
これからの時代、企業が選ばれる理由は「価格」や「品質」だけではなく、「どのような未来を目指しているか」にも広がっていきます。脱炭素経営は、その問いに対する一つの答えと言えるものです。
脱炭素経営は、取組方次第で企業のブランド価値を大きく高める可能性を秘めています。しかし、「どこから始めればよいのか」「自社の強みとどう結びつけるのか」で悩まれる企業も少なくありません。
MS&ADインターリスク総研では、温室効果ガス排出量の計測・削減計画策定支援などの脱炭素経営の導入支援から、商品・サービスのブランディングに最適なCFP、LCA※2を基本としたライフサイクル全般の評価を行っておりますので、お気軽にご相談を頂ければ幸いです。
※2 LCA:Life cycle assessmentの略称。製品のライフサイクル(資源採取-原料生産-製品生産-流通・消費-廃棄・リサイクル)を通じた環境負荷を把握・評価する活動のこと。評価対象は温室効果ガス、大気汚染、生物/人間への毒性、土地利用転換、資源枯渇など。
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なぜ、トップ企業は自然に注目しているのか? 【連載企画】ネイチャーポジティブ経営入門 第1回

MS&ADインシュアランス グループ
ホールディングス株式会社
サステナビリティ推進部 フェロー
「自然資本のリスク分析と企業経営への統合」を専門分野とし、30年以上のコンサルティング実績がある。1990年に環境リスク技術職としてキャリアを開始したのち、1996年からMS&ADグループに参画。以降、一貫して環境リスクマネジメントと生物多様性保全に関する調査・コンサルティングに従事。2000年頃からは「ビジネスと生物多様性」の領域に先駆的に取り組み、生態系破壊や気候変動が事業に及ぼす影響の研究を進めてきた。
コンサルティング業務のかたわら、企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)顧問、一般社団法人いきもの共生事業推進協議会(ABINC)副会長や、国土交通省、環境省、東京都などの政策関連委員も多数歴任。
また、2021年10月には日本人として初めてTNFDのタスクフォースメンバーに選出。世界中から集められた30名の金融・企業有識者の一人としてTNFDフレームワーク策定と普及に貢献している。
原口:私は「自然関連リスクの分析と企業経営への統合」を専門領域に、30年以上コンサルティングに携わってきました。もともとは環境リスクマネジメント全般を担当していたのですが、次第に「ビジネスと生物多様性」の領域に注力し、現在に至ります。
――企業による自然への取組みは、以前から盛んだったのでしょうか?
原口:いえ、現在ほど注目を集めてはいませんでした。私はコンサルタントとして、いち早くこの課題に目を向け、研究や提言を続けてきました。それもあって、現在では様々なイニシアティブや省庁の委員にも選出いただいています。また、2021年からは日本人初のTNFDのタスクフォースメンバーとしても活動しています。
――先駆的なコンサルティングを続けたことが、現在の活動につながっているのですね。近頃「企業の自然に関する取組み」を頻繁に見かけます。この理由をどのように分析していますか?
原口:多くの企業が自然に注目する背景には、「リスク」と「機会」の2つの側面があります。前者は、自然環境の劣化が経済活動に直接的なリスクをもたらしています。生態系の破壊や生物多様性の減少は、原材料の供給不安や事業継続の障害となります。
後者では、消費者や投資家の環境意識が高まっています。そのため自然への投資は、企業価値の向上やブランド強化につながるようになりました。加えて、国際的な枠組みの整備や各国で規制強化が進んでいます。自然関連リスクの管理と情報開示が企業の持続可能な成長に不可欠な要素となっています。


出典:原口氏の話をもとに作成
――なるほど。企業にとって「自然は経営にとって不可欠な資源である」と言ってもよさそうですね。
原口:おっしゃる通りだと思います。これに関連して、自然のことを私たちに何らかのサービスをもたらしてくれる財とする「自然資本」という考え方があります。森林や水資源、土壌、生物多様性などが含まれ、これらは食料生産や水の浄化、気候調整といった多様な機能をもたらしてくれます。
自然資本は経済活動の基盤なので、健全性が損なわれると企業の原材料調達や事業運営に深刻な影響を及ぼします。安定的な経営をするには、自社と関係する自然資本の現状を把握し、保全・回復に向けた戦略的な取り組みが求められています。
――「自然資本は経済活動の基盤である」とのことでしたが、実際の事業活動とはどのようにつながってくるのでしょうか。
原口:企業の事業活動は、自然資本とずっと密接に結びついてきました。例えば、一見関係のなさそうな航空や鉄道などの運輸業界で考えてみましょう。「どこかへ旅行したい」ときに、その地域特有の自然を目当てにすることは多いですよね。企業目線で「なぜお客さまはその交通機関を使うのか?」を考えたときに、運輸業界は自然に依存していると言えます。就航先や沿線の自然が損なわれることは、経営リスクとなるのです。ここから、優先して取組むべきは「就航先や沿線で自然が豊かな地域の保全」と導き出せます。
依存と影響の正確な理解と管理は、リスク低減と機会創出につながり、長期的な事業の安定性と競争力を確保できるのです。


出典:原口氏の話をもとに作成 イラスト:Storyset(https://storyset.com)
――自然との関わりの重要性がよくわかりました。こうした情報を「開示する」とはどういったことなのでしょうか? タスクフォースメンバーとして参加している、TNFDの役割も教えてください。
原口:TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)は、企業や金融機関が自然資本に関わるリスクと機会を評価・開示するための国際的枠組みです。2021年に設立され、私はタスクフォースメンバーとして同年から開示の枠組みの開発に関与してきました。そして、2023年に開示の枠組みに関する提言が公表されました。
TNFDの目的は、生物多様性の損失や自然破壊が企業活動に及ぼす影響を財務情報に反映させ、企業の経営戦略や金融機関の投資判断に活用し、自然を回復する方向に国際的な資金の流れを向かわせることです。開示の枠組みを利用すると、自然に対する取組みがロジカルに整理され、社内外へ向けて説明できるようになります。それによって「サステナビリティ部門の社内での重要度も上がり、関連部門との連携が始まった」という声も聞いています。こうした取組みの積み重ねが、同業他社との差につながっていくと考えています。
――TNFDは開示の枠組みやガイダンスを作っていく組織なのですね。日本はTNFDアダプター(TNFDの枠組みに沿った開示を約束した企業や組織)が、国別で最多になっています(210社。2025年11月5日時点)。どういった背景があるのでしょうか?
原口:企業の持続可能性への高い関心と政府・自治体の積極的な支援があります。
日本は生物多様性保全や自然資本の重要性を早い段階から認識し、環境省や地方自治体が生物多様性戦略やネイチャーポジティブ経済推進に力を入れてきました。加えて、大手企業グループがTNFDの国際的枠組みに深く関与し、国内企業への普及啓発を牽引していることも大きな理由のひとつです。
TNFDへの対応に、現時点で法的な義務などはありません。ただ、自然関連リスクの適切な管理と情報開示によって企業価値を高めるためには、早期に対応を検討・推進することが望ましいと考えます。最近では、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)※が2025年11月に、「自然関連のリスク・機会に関する開示基準の策定作業に着手する」方針を発表しました。またISSBはTNFDの枠組みを参照しつつ基準開発を進めると明言しています。この基準案は2026年10月に開催される生物多様性条約の国際会議(CBD COP17)までに、公表される予定です。
これらの動きを考えると、今後は規制や市場の要請が強まる可能性もあり、早期の準備が競争力強化に資すると言えるでしょう。
※ ISSBとは、「International Sustainability Standards Board(国際サステナビリティ基準審議会)」の略称。企業がESG(環境・社会・ガバナンス)などを含む非財務情報開示を行う際の統一された国際基準を策定するために発足された機関。
「ISSB、自然関連開示基準策定を決定、2026年10月に公開草案を公表」
https://rm-navi.com/search/item/2409
企業と自然の関連性についての基礎的理解 【リサーチレター 2025 No.4】
https://rm-navi.com/search/item/2360
ネイチャーポジティブとは? 環境保護とビジネスチャンスをつなげるキーワード
https://rm-navi.com/search/item/2271
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【終了】新人・若手社員の安全運転教育 ~専門家による具体的な事例紹介~
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北海道・三陸沖後発地震注意情報発出時の企業対応について【BCMニュース(2026年2月)】
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金融庁公表のサステナ開示好事例、SSBJ開始見据えたポイントを掲載
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