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CSO(最高サステナビリティ責任者)と切り拓く価値創造への道 ~先進企業の現場から~【RMFOCUS 第96号】
MS&ADインターリスク総研は2026年2月に『CSOと拓くサステナビリティ経営 価値創造の現場』(経済法令研究会刊)を上梓する。タイトルの「CSO」は「Chief Sustainability Officer」の略、和訳は「最高サステナビリティ責任者」が一般的だ。肩書がChiefで始まる経営幹部は英語でC-SuiteやCXOと呼ばれ、最高経営責任者(CEO)や最高執行責任者(COO)、最高財務責任者(CFO)などがよく知られている。海外ではこれらの経営幹部と並んでサステナビリティをつかさどるCSO注1)を設置する企業が増えており、今やサステナビリティは担当役員を設けるに値するテーマであることが窺える。
足元で企業のサステナビリティに関する施策をめぐる外部環境は大きく揺れ動いている。2025年3月には国内の有価証券報告書での情報開示に適用されるサステナビリティ基準委員会(SSBJ)基準が確定している。東証プライム市場に上場する時価総額3兆円以上の企業は、2027年3月期決算からSSBJ基準に沿った開示が求められる。一方、2025年は米国のトランプ政権を筆頭にESGやSDGs、DE&I(多様性・公平性・包摂性)への政治的なバックラッシュ(反動)が国際的に活発化した1年でもあった。

大半の企業が、将来世代への責任を果たしつつ、短期的な収益の獲得や事業継続のために足元の動向にも目配りが不可欠な難しいかじ取りを迫られている。
こうした開示基準への対応や情報収集、実際の施策を展開するにあたり、体制構築や人材育成といった企業内部の取り組みは重要な課題だ。近年注目度が飛躍的に高まったとはいえ、サステナビリティは企業組織においてはまだ新しい領域であり、サステナビリティ一筋のキャリアを積んできた経営幹部や部門責任者は稀である。CSOは誰もがまず自らの役割の定義や組織作りの問題に直面することになる。
本書籍は、国内企業のCSOおよびサステナビリティ部門責任者にインタビューを行い、実際に最前線でこうした課題に直面し試行錯誤する方々のリアルな声や、そこから浮かび上がったサステナビリティ担当者や組織のあり方をまとめた書籍である。本稿では、そのエッセンスを新たに書き下ろしたダイジェストにてご紹介する。より詳細な内容や各社のインタビューを知りたい方はぜひ本書を手に取っていただきたい。
国内に目を向けるとCSOを設置している企業はまだ少ない。プライム上場の大企業を中心に、サステナビリティの領域で先進的な企業で設置し始めたというのが実情であろう。
CSOに与えられる職位・権限も、CEOやCFOに次ぐ位置付けから、他のCXOより限定的な場合など様々だ。米ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)のジョージ・セラフェイム教授らは、企業のサステナビリティ分野の成熟度を「①コンプライアンス」「②効率化」「③イノベーション」の3段階に分類し、CSOが必要とされる段階を調査した(Miller&Serafeim 2014)1)。その結果、①ではCSOがサステナビリティ分野の最高責任者となるケースが多いが、②から③へと移行する過程ではCSOが権限を獲得し、③ではCSOが企業のビジョンや戦略の策定を主導することが明らかになっている。
このように、企業のサステナビリティ分野の取り組みの進化に伴い、CSOはより重要な存在となる。昨今、気候変動や人権、生物多様性といったサステナビリティ分野の課題が、企業経営や事業活動を左右する存在となりつつある中で、企業は関連する法規制・ルール等にただ対応するだけでなく、それらの取り組みを中長期的な収益性・生産性の向上や、多様なステークホルダーへの価値提供などに結び付けることが求められる。
その過程では、経営層がサステナビリティを経営戦略の中核に位置付け、社内外のステークホルダーとの対話・協働を積極的に図ることが求められる。そして、そこから把握した課題への対応を通じて、新たな成長機会や企業価値の向上につなげるプロセスを確立する必要がある。
こうした経営戦略におけるサステナビリティの位置付けに関連して、経済産業省は2022年公表のいわゆる「SX版伊藤レポート」で「サステナビリティ・トランスフォーメーション」(sustainability transformation, SX)の概念を打ち出している2)。SXとは、企業が持続的に成長原資を生み出し企業価値を高めるべく、社会のサステナビリティ課題に由来する中長期的なリスクや事業機会を踏まえ、投資家等との間の建設的な対話を通じて資本効率性を意識した経営・事業変革を実行することを意味する3)。

CSOは、企業のSXの先導者として、存在意義を発揮することが期待されているといえるだろう。
本書籍では、日本企業のサステナビリティ分野の取り組みの高度化にあたり、CSOに実際に期待されている役割や現状の課題などを具体化するため、サステナビリティ分野の先進企業5社のCSO(CSuO)にインタビューを実施した。インタビュー内容から明らかになったポイントを、(1) 期待される役割、(2) 役割を果たす上で重要な要素、という二つの観点から紹介する。
一般的にCSOという言葉から連想される役割は、経営層や事業活動などに対して、サステナビリティ分野の専門性に基づき提言する姿であろう。実際にインタビューしたCSOの中には、社内の会議体でサステナビリティの観点から助言を行うケースや、自社のビジネスモデルに関連するサステナビリティ分野についてのリサーチ・助言、具体的なサポートを実施するケースがみられた。
同時に、CSOが経営層の一員として果たすべき重要な役割として、「サステナビリティに関する経営レベルの意思決定の強化」や、「サステナビリティが企業価値や事業活動にもたらす影響を経営層に認識させる」ことへの言及もあった。
前者に関して、あるインタビュー対象企業では、CSOがサステナビリティ分野の情報開示について決裁が可能であるため、国際的なルールメイキングの場への参加などをスピーディーに決定できている。また、後者に関してはサステナビリティ分野の取り組みを全社的に推進するにあたって、CSOが各担当役員の所管する業務領域とサステナビリティの関連性を認識させることで、サステナビリティの重要性について共通認識を形成するというものである。例えば、欧州の入札条件にはサステナビリティに関する高レベルな評価基準が設けられており、一定の評価を獲得できなければ、性能・価格面で優れていても失注する。
こういった情報を経営陣に共有することで、各担当役員がサステナビリティの重要性を実感でき、トップダウンでの取り組み推進の契機になる。
全社的な推進の観点でもう一つ重要なポイントは、社内各部門の実務担当者に、担当業務とサステナビリティの関連性を理解してもらい、当該部門の戦略上不可欠なものとして取り組みに協力してもらえるよう促すことである。サステナビリティ経営が実装されている企業では、CSO自身による情報発信や、従業員のサステナビリティ関連の取り組みを表彰する制度の運営など、「事業活動の第一線をいかに動かすか」という点に、工夫が凝らされている。

上記のとおりSXの実現のためには、サステナビリティに関する専門性を前提とした上で「いかにして社内の関係者に動いてもらうか?」に腐心する必要がある。そのために必要な要素について、インタビューからは以下のような実態が明らかになった。
インタビュー対象のCSOは皆、サステナビリティ分野の情報・知識のインプットに日々追われている。具体的なインプット方法としては「セミナー・書籍」「他企業のCSOからの情報収集」「NGO等の外部機関との連携・エンゲージメント」等が挙げられた。
中には、サステナビリティ関連の大量のドキュメントを自ら丹念に読み解くCSOもみられた。文書のいわゆる「斜め読み」ではルールの誤読などのリスクが高いため、英文の資料であれば助動詞の使い分けといったレベルまで強く意識して確認しているとのことだ。サステナビリティに関する個別のテーマが次々と登場・進化することから、学び直しを厭わないマインドセットが必要といえよう。
また、複数のCSOから、知識の定着・スキルアップに効果的なのは、実務を通じた学習であるとの回答を得た。ある企業のCSOによれば「サステナビリティ分野の担当役員」という立場は、ともすれば部下から上程された内容への「良し/悪し」の判断だけになりかねない。そのため、担当役員クラスは通常参加しないサステナビリティ部門内のミーティングなどに参加して不明点を確認する、外部講演の事前準備のための集中的な学習など、実務を通じた学習こそ一番効果があったと語っている。
インタビューでキャリアパスを直接確認できたCSOのうち、必ずしも全員がCSO着任以前にサステナビリティ分野の業務経験があったわけではない。
過去の経験や専門的知見がある場合は、サステナビリティ分野に直接的に活用可能ではある。だが、CSOが職務を果たす上でより重要なのは、いかなる分野・業務領域であれ、過去の経験から「社内の関係者を動かす」ための勘所を把握しており、実践できる力にある。実際、インタビュー対象のCSOの多くから、他分野の業務から得た経験が、サステナビリティ分野の施策・取り組みの推進に重要な役割を果たしているとの発言があった。
例えば、サステナビリティに関する施策・取り組みを企業価値創造につなげるためには、社内の各部門やグループ会社等が能動的に取り組みに参画する状況を創り出す必要がある。中でも売上・利益の創出に直接携わる事業部門とのコミュニケーションをいかに円滑に進めるかがポイントとなる。「事業会社・部門の特徴・課題の俯瞰」ができる力、そして「事業部門は何を考えているのか?」「コーポレート部門の指示を、事業部門はどう受け止めるのか?」といった想像力の有無が、腹落ちする対話の可否に直結する。実際に、事業部門や営業現場での経験が長いCSOからは、社内外の相手にいかに納得してもらうか、動いてもらうかを常に考えてきた日々が、サステナビリティの観点からの事業部門との対話や情報発信に役立っているとの回答を得た。
また、事業部門の施策・取り組みの推進手法が、サステナビリティ分野における「仕組み」づくりのヒントになるケースもある。
あるCSOは、営業部門のマネジメント手法を参考に、全社視点の経営企画・戦略とサステナビリティ分野の戦略が一体となって経営企画・戦略を立案し、各事業部門の具体的な活動へ落とし込む仕組みを構築したと語っている。
なお、本書籍のタイトルが『CSO「と」拓くサステナビリティ経営』であるように、SXはCSOの存在のみで実現可能なものではない。後述のとおり、特に現場を巻き込んだ取り組みの推進には、CSOが示した方向性の下、サステナビリティ部門の担当者が社内各部門と地道な対話を重ねる作業が不可欠となる。本書籍では、5社のサステナビリティ部門の責任者にインタビューを実施し、各社の「サステナビリティ推進部門」の機能や人員構成、メンバーに求められるスキルセット等についても取り上げている。こちらの内容もぜひ注目いただきたい。
企業が「SX」を実現するためには、経営層がサステナビリティを経営戦略の中核に位置付け、社内外のステークホルダーとの対話・協働を積極的に図り、対話・協働から把握した課題への対応を通じて新たな成長機会や企業価値の向上につなげるプロセスを確立する必要がある。その中心的な役割を果たすのが、「マテリアリティ」である。
マテリアリティとは、企業活動において重要なサステナビリティに関する課題を指す。
全社戦略とサステナビリティ戦略の方向性を揃えるためには、企業活動の原点である企業理念やパーパスを起点に、サステナビリティ分野において到達すべき「目標」や「ゴール」を検討する必要がある。また、マテリアリティの特定・改定の過程では、サステナビリティ関連のリスクや機会の整理が必要となり、それらをビジネスモデルや事業戦略のレジリエンスの検証に活用することで、企業価値創造に向けた変革の検討や、企業価値の毀損につながりうるリスクの実効的な管理に貢献する。

そして、マテリアリティに関するKPIを、経営層・事業部門・一般従業員の目標や評価基準へとカスケードダウン注2)することで、企業全体の戦略とサステナビリティ戦略を統合した形で、本業の中での具体的な実行や進捗管理、行動変容を促すことが可能となる。
上記の実現に向けて、CSOやサステナビリティ推進部門は、組織のトップからボトムに至るまでアプローチし、協力を深めながら取り組みを進めることが期待される。また、バリューチェーン、インベストメントチェーン(投資に関わる様々な主体・ステークホルダー)等に存在するステークホルダーと対話を行い、経営・事業戦略や意思決定等の改善につなげる必要がある。こうした役割を果たす上で鍵となる要素を端的に表したのが「つなぐ」「自分事化」という二つのキーワードだ。
一つ目のキーワード「つなぐ」について説明しよう。例えばCSOは、経営層が参加するサステナビリティ関連の会議体である「サステナビリティ委員会」に、運営責任者として関与するケースが多くみられる。こうした会議の場においてCSOが果たすべき大きな役割は、同委員会をCXO間の連携を促し、考えをつなぐ場とすることにある。社長(CEO)をはじめ、各分野の最高責任者たちの考え方がつながっていれば、サステナビリティに関連するリスクと機会を適切に考慮した上で、バランスのとれた経営判断が可能となるからだ4)。
各CXOが、社長のメッセージを各領域・役割の中で適切に翻訳することで、各領域の分断を防ぎながら、全社的な推進力につなげることが可能となる。こうした観点は機関投資家の大きな関心事項でもあり、社長のメッセージがいかに各CXOへ引き継がれているかという点が、統合報告書の内容などにも表れるという5)。インタビュー対象企業のCSOも、各CXO等の委員会メンバーの考えをいかにつなぐかという観点から、委員会運営に工夫を凝らしている。
ある企業では、毎回のサステナビリティ委員会に全CXOを招集。事業活動に関わるホットトピックを議題とし、取り組みの重要性に関して参加者間の共通認識を形成している。また同委員会では、部門の壁に埋もれて顕在化していないサステナビリティ関連のリスク・機会の把握や、優先順位付けを実施。担当部署選びを含めて実施することで、リスク・機会の双方の検討・対策漏れを防止しているという。
また、各CXOがそれぞれの立場で決定した事項について、実務を通じて具現化するには、サステナビリティ推進部門は社内の複数部門と関わり、部門横断の取り組みを進める必要がある。例えば、GHG排出量のスコープ3対応やサプライチェーンの上流・下流における人権への対応など、サプライチェーン全体で複数のサステナビリティ関連テーマへの対応を並行して進める必要に迫られることがある。個別のテーマで具体的に求められる対応は異なるものの、各事業・地域で対応を依頼するサプライヤーは共通する。
一般的に、サプライチェーン上で想定されるサステナビリティに関するリスクは、調達部門がリスクオーナーとして指定される傾向が強い。だが、調達部門の担当者が日々、サプライヤーとの間で想定・対応するリスクは広範に存在し、スコープ3対応や人権尊重はその一部に過ぎない。調達部門の担当者がサステナビリティ分野のリスクについて十分に理解していない場合、リスクの影響や重要性を過小評価し、適切な対策が講じられない可能性がある6)。こうした状況を防ぐため、サステナビリティ部門と調達部門の連携を通じて、サプライチェーン上に存在するサステナビリティリスクの識別・評価・対応策を実効的・効率的に進める必要がある。
ある企業では、直接材・間接材の全体の購買機能を統括する組織を設置。ESG委員会のメンバーであるサプライチェーン機能責任者の監督のもと、サステナビリティ担当役員やESG戦略部のメンバーも兼務する形で、サプライヤー向けの行動規範の署名取得や紛争鉱物対策を推進している。
キーワードの二つ目が「自分事化」だ。マテリアリティに関する取り組みを推進するためには、社内の各部門やグループ会社が、それぞれの担当領域や事業の文脈に沿って関連する施策や取り組みを具体的な業務に落とし込み、従業員の業務遂行を通じて実践につなげることが不可欠だ。そのためには、マテリアリティに関するKPIを、経営層・事業部門・一般従業員の目標や評価基準へとカスケードダウンするといった進捗管理のための制度設計だけでなく、経営層、事業部門や現場の従業員一人ひとりが、マテリアリティに関する具体的な取り組みの必要性を、「自分事」として理解し、主体的な行動変容につなげるための取り組みが不可欠となる。
経営層・事業部門の双方の関与に向けて、CSOは経営層の一員として、サステナビリティの重要性をメッセージとして全社に発信し、中長期的な企業の目指す姿や全社戦略にサステナビリティの視点を組み込む責任を担う。ある企業のCSOは、自らサステナビリティ委員会の議題や身近なサステナビリティ関連のトピックについて、社内向けの動画を配信。社員のサステナビリティへの関心を高め、主体的な取り組みが企業文化として根付くことを目指している。
また、中長期の経営戦略や計画とマテリアリティを具体的に統合するためには、事業部門との関係構築が不可欠である。そのため、サステナビリティ推進部門はCSOのリーダーシップの下、現場に寄り添いながら「自分事化」を促進し、実践を後押しする役割を担う。
ある企業では、全社の中期経営計画の策定プロセスの一環として、サステナビリティ推進部門と各事業部門の担当者が対話を通じてマテリアリティを作成。サステナビリティ推進部門で2030年の社会・環境の姿を事業に関わる視点から提示した上で、各事業部門に将来やるべきことを検討させることで、自発的な検討の促進につなげている。
事業部門の行動変容を促す上で重要なポイントは、事業部門は日常業務の範疇(はんちゅう)で社会課題に直接触れる機会が多く、それゆえに社会課題を「当たり前」のものとしてとらえる傾向がみられ、サステナビリティの観点での重要性や事業機会との関連性に気付いていないことがしばしばある点である。
そこでサステナビリティ推進部門が、現場の声を丁寧に拾い上げ、社外向けの情報開示・発信の機会なども活用しながら全社的に発信することが重要となる。好事例や課題の共有は、現場の従業員たちが自らの活動の社会的意義を実感するだけでなく、サステナビリティの取り組みに対する社内の共感を醸成し、協力の姿勢を引き出すことにもつながる。
ある企業では、サステナビリティ推進部門が世界各地の工場を訪問し、現場の取り組みをレポートやHPで紹介している。別の企業では、統合報告書を作成後に社内の各部門向けに説明会を開催している。各部門の担当者が説明会に登壇し、制作の背景・想いなどを語ってもらうことで、次年度の統合報告書制作に関しても各部門の協力を得られやすくすることが狙いだ。
本稿では、『CSOと拓くサステナビリティ経営』の内容を基に、各社がCSOに設定している機能や役割を探った。しかしながら、本書籍に含む一端にすぎない。CFOや最高人事責任者(CHRO)が担う財務や人事と比べ、各社ともCSOの役割の明確化に試行錯誤しているのが現状だ。インタビューでは多くのCSOや部門責任者は半ば疲労感をにじませつつ「新しい問題はみんなサステナビリティ部門に持ち込まれる」と語ってくれたのが印象的だった。見方を変えれば、サステナビリティは新しい挑戦の余地も大きいともいえる。いかに自社のサステナビリティ部門が持つべき役割を画するかは、その責任者はもちろん実務に携わる一人ひとりの担当者次第でもある。
インタビューには金融業、食品・消費財メーカー、製造業、小売業の大手企業から、環境ビジネスに携わるスタートアップ企業まで、多岐にわたるCSO(CSuO)やサステナビリティ部門の責任者に実名でご協力いただいた。書籍では本稿のような整理・分析だけでなく、各社の臨場感あるインタビューも掲載しているためぜひご覧いただきたい。
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データセンターの基本構造および電力消費に与える影響【RMFOCUS 第96号】
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ビジネスと人権 第14回フォーラム参加報告 ―人権取り組みの現場としての企業への期待― 【サステナブル経営レポート(2026年1月)】
2025年11月24日から26日にかけ、ジュネーブの国連欧州本部(パレ・デ・ナシオン)で第14回国連ビジネスと人権フォーラム(UN Forum on Business and Human Rights)が開催された。世界各国の政府、企業、NGO、先住民族代表など延べ4,600人以上が参加し、「危機と変革の中でビジネスと人権の行動を加速する」というテーマの下で熱心な議論が交わされた。多様な関係者が集まるビジネスと人権に関する世界最大級のフォーラムである。各セッションや対話を通じて浮き彫りになった主要なポイントは以下のとおり。


ウクライナ紛争をはじめ各地の人道危機、気候変動や環境破壊、サプライチェーンの複雑化による労働搾取など、企業を取り巻く人権リスクはかつてなく多層化している。初日の全体会合では、国連人権高等弁務官フォルカー・テュルク氏が「地政学的緊張の高まり、気候変動への対応不足、人権規制の後退が進む中でも、人権への責任を緩めることは企業自身にとっても大きなリスクである」と警鐘を鳴らし、技術革新(特にAI)の急速な進展がバイアスや差別といった新たなリスクを生んでいる点も指摘した。会場には各国政府高官、企業のサステナビリティ担当者、NGO活動家、先住民族コミュニティの代表など多様な顔ぶれが集まり、緊張感と期待が入り混じる中、「世界は今どこに向かっているのか」を探る熱気が漂っていた。
その後の各セッションでも、国連ビジネスと人権作業部会の専門家は「世界が危機にあっても人権尊重の義務と責任は一時停止することはできない」と強調し、各国政府と企業に「大胆なリーダーシップと行動」を呼びかけた。参加者からは「危機を口実に企業の取り組みが腰砕けになってはいけない」との声が相次ぎ、困難な時期だからこそ人権へのコミットメントをテコに社会をより良く変革する好機と捉える前向きな姿勢が共有された。
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(出典:当社作成)
なお、実践的・具体的なテーマを定めた各セッションでは、仕組み作りから一歩進んだ、施策の「実効性」に焦点が当たり、例えば移住労働者の権利に関するあるセッションでは「ビジネスと人権の議論はこの14年で随分進展したが、問題の特定ばかりで解決策や被害者救済が追いついていない」との指摘がなされていた。各国の規制が増え、企業は人権リスクに注意を向けるようになったが、被害者の救済にどこまで踏み込むべきなのか、筆者もコンサルティングの現場で、判断に戸惑う現場担当者らの声を多く聞く。一方、国際的には、企業が十分に把握できていない被害者の声をどう拾うかが議論されており、そうした広い射程を前提に「被害者救済」を考えるフェーズにある。被害者救済の文脈では、人権擁護活動が制約される風潮や多様性・包摂へのバックラッシュ(反動)を懸念する意見が出る一方で、それに抗い各地で進む革新的な取り組み事例などが紹介され、先進的な取組みや、市民団体の各種サービスなど、企業にとって有益なツールや情報サイトの共有をはじめとした幅広い知見の共有がなされた。
さらに、AIによる人権侵害について議論するセッションでは、生成AIの開発現場などで人権影響評価を組み込む必要性が叫ばれ始める一方で、「依然として新たな領域ではデューデリジェンスの議論が足りない」という声や、事業者側がどのようにこの問題に対処しているのかといった実践面の共有があった。「課題の洗い出し」にも、「解決・救済の実行」にも、世界的に両面で未だあるべき姿と現実の間のギャップは存在するものの、各企業は最善を尽くし、新たな課題に試行錯誤を続けている。
フォーラムで特に印象深かったテーマの一つが、先住民族の権利と企業活動の関わりである。その中核に据えられた概念が「FPIC(エフピック)」― Free, Prior and Informed Consent(自由意思による事前の情報提供と同意)である。これは主に先住民族が伝統的に居住・利用してきた土地や資源に影響を及ぼす事業について、先住民コミュニティの側が事前に十分な情報提供を受けた上で自由な意思による合意または不同意の決定を行う権利を指す。国連の「先住民族の権利に関する国際宣言」でも明記された基本原則であり、企業にとっては鉱山開発やインフラ建設、森林資源の利用などで直面し得る重要課題である。
日本ではFPICという用語自体あまり馴染みがないかもしれないが、たとえば日本企業でも開示例が増えつつある「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」でも、FPICの原則を尊重するよう求められている。
「搾取からエンパワーメントへ」と題されたセッションでは、各国の先住民族リーダーや人権専門家から「FPICの尊重なくして真の持続可能なビジネスなし」との力強いメッセージが発せられていた。例えばアジア太平洋地域の先住民族の代表者は、自らのコミュニティが大型開発プロジェクトから一方的に排除され、環境破壊と生活破壊に直面した事例を共有し「同意なき開発は現代の植民地主義である」と厳しく糾弾した。これに対し、ある多国籍企業の担当者は「当社では新規プロジェクトの際、影響を受ける可能性のある先住民族コミュニティの特定とエンゲージメントを人権デューデリジェンスの初期段階に組み込んでいる」と発言し、国際的に求められるFPICの事前協議と同意プロセスを、企業の実際の手続きに統合する重要性を強調していた。なお、会場からは、企業側の表明する方針と現場レベルでの実践との乖離を指摘する声も上がった。あるNGO関係者は「FPICは一度ハンコをもらえば済む“一回限りの行為”ではなく、事業ライフサイクル全体を通じた継続的対話プロセスだ」と述べ、紙の上の同意ではなく真に当事者の意思を尊重した関与が不可欠だと訴えた。
この指摘は多くの日本企業にとっても示唆的だ。企業が行う海外プロジェクトでは、しばしば法令遵守のみに焦点を絞り、「現地政府の許可は得たので問題ない」という姿勢でプロジェクトを進行する例がある。現地にどのような問題があるのか認識がない場合、政府の許可を「青信号」と考え、肝心の先住民コミュニティとの直接対話や信頼醸成が二の次となってしまう。特に、当該地域における先住民コミュニティが政府と対立している場合、企業側が政府の許可のみを頼りにプロジェクトを進行することが、深刻な人権侵害に繋がるケースもある。
フォーラムでの議論から浮かび上がったFPIC実践のポイントは、「真のパートナーシップ」と「権利擁護者の保護」である。議論の中で強調されていたポイントの一つは企業と先住民コミュニティの関係を単なる事前協議ではなく長期的なパートナーシップと位置付ける視点だ。先住民族側のパネリストは「同意はスタートでありゴールではない。合意形成後も環境変化や世代交代に応じて対話を継続することが重要だ」と述べ、企業が定期的な説明や協議の場を設けること、合意内容の履行状況をともにモニタリングする仕組みづくりを提案した。また別の登壇者は、合意形成に至るプロセス自体が当事者にエンパワメント(主体的な力の付与)をもたらし、プロジェクトの質を高める効果があると指摘し、FPICを「リスク管理」ではなく「共同価値創造」の機会と捉える発想転換を呼びかけた。
なお、今回のフォーラムでは権利擁護者(Human Rights Defenders)の保護に関するセッションもあり、先住民族の権利を主張する人々が企業や当局から嫌がらせや報復(いわゆるSLAPP訴訟や暴力等)を受けるケースが各地で報告された。フォーラムでは「人権擁護者を守ることは企業の責任の一部」と位置付けるべきとの提案がなされ、具体的には、企業がプロジェクト反対の声に耳を傾け建設的に対応すること、意見表明を理由に解雇や訴追といった不当な圧力を加えないこと、万一現地で脅迫などが生じた場合には速やかに当局、あるいは適切な相談先となる国際機関と連携し保護措置を講じること、といったガイドライン整備の必要性が議論された。この点については、日本企業にとっても海外事業で留意すべきポイントとなるだろう。特に新興国でインフラ・資源ビジネスを展開する際、反対意見を敵視せず、対話を尽くした上で事業を進める姿勢こそが現在、国際的に求められている。
このように、FPICは単なる手続き義務ではない。企業が人権尊重を現実の世界で不足なく実行出来ているかどうかが問われるもので、特に現地のライツホルダーの状況を実際に確認したうえで、その権利を尊重した取り組みが実際に出来ているかどうかが見える、一種のリトマス試験紙と言える。
| Free(自由意思) | 外圧・誘導を排除し、独立した支援者へのアクセスを保障 国や対立勢力など、コミュニティ側の状況を踏まえたアクセスを 検討する |
| Prior(事前性) | 許認可・着工の前段から開始、十分な時間枠を、事業者ではなく コミュニティの側が決める |
| Informed(十分な情報) | 母語・文化適合の資料で、選択肢・影響・代替案を明示 |
| Consent(同意の本質) | Yes/Noどちらも正当。集団的合意(代表性の確認)を尊重 |
| 代表性と文化適合 | 慣習的ガバナンスの正統な代表と合意し、聖地・季節・時間に即 す |
| 救済メカニズム | コミュニティ専用の窓口を設置し、アクセス可能性とエスカレー ションを保障 |
| Benefit-sharing / Co-governance | 公平な利益配分を明文化し、共同意思決定の仕組みを設ける |
| 累積的影響の評価 | モニタリングでは同地域の既存・並行プロジェクトを含めた累積 的影響を評価 |
やってはいけない行為
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(出典:当社作成)
今年のフォーラムでは「デューデリジェンス(DD)」の実務に関して知見の共有も豊富であった。人権デューデリジェンスとは、企業が自社やサプライチェーン上の人権リスクを特定し、防止・緩和策を講じ、対処状況を開示していく一連の取り組みを指す。2011年の国連「ビジネスと人権に関する指導原則(UNGP)」で企業責任として明示されて以来、企業の行動原則として定着してきたが、近年は欧州を中心にこのDDを法的に義務付ける動きが本格化している。
今回のフォーラムでは、この人権デューデリジェンスを一歩進めた「高度な(Heightened)人権デューデリジェンス」の必要性である。これは平時・通常環境での基本的なDDに加え、紛争や深刻な人権リスク下では一層踏み込んだ対応が求められるという考え方である。
「最も困難な状況下での実効的なデューデリジェンス」をテーマとしたセッションも組まれており、実際にそうしたデューデリジェンスを数多く実施してきた企業関係者や団体関係者の知見が共有された。たとえば紛争地や内戦状態にある地域で事業を展開する企業は、自社のサプライチェーンが人権侵害に加担していないかを徹底的に洗い出し、場合によっては事業継続か撤退かの厳しい判断を迫られる。ミャンマーや中東の紛争影響地域で事業を行う企業関係者は、「通常の監査チェックリストが全く機能しない状況下で、従業員やコミュニティの安全をいかに確保するか」の葛藤を語っていた。そこでは、社内に紛争・人権専門の助言グループを設置しリアルタイムでリスク評価を行った事例や、現地NGOと連携して被害救済の独立メカニズム(第三者苦情処理機関)を構築した例などが紹介された。
欧州は、ウクライナ侵攻以降、実際に紛争地で従業員をはじめとした事業に関わる人々の人権をどう守るのか、通常のデューデリジェンスが機能しない状況で、人権デューデリジェンスを継続し、さまざまな現場の問題に対応してきた知見がある。ある欧州多国籍企業の担当者は「ウクライナ侵攻以降、ロシア事業からの撤退に際し従業員や下請企業への救済措置に最後まで責任を負うよう求められた」と述べ、従来は想定外だった地政学リスクへの対応として「事業から退出する際の人権ケア」まで企業責任が論じられている実情を共有した。
なお、高度なDDの文脈では、グローバルサプライチェーン全体を網羅するためのテクノロジーの活用も議題に上っており、膨大な数のサプライヤーを擁する企業では従来型のアンケート調査や現地監査だけでは限界があることから、AIやデータ分析を駆使したリスク検知ツールの導入が進んでいる。あるテック企業は、自社開発のプラットフォームでサプライヤーに関する公開情報や画像をクローリングし、人権リスクの兆候を自動抽出する実証実験を紹介した。これに対し参加者からは「効率化には有用だが、結局は現地の声を直接聞く質的調査と組み合わせねば見落としが出る」との指摘があり、デジタル技術と人間の知見を融合させたアプローチの必要性で概ね意見が一致した。筆者はこのやり取りから、デューデリジェンスが単なるチェックリスト作業ではなく、技術革新を取り入れつつも現場主義を貫くバランス感覚が求められていると感じ取った。
FPICにせよ、高度な人権デューデリジェンスの実施にせよ、企業実務への含意として興味深かったのは、「コンプライアンスを超えて(Beyond Compliance)」というキーワードで象徴される発想転換である。
フォーラムでは各種の規制対応に追われがちな企業担当者に向け、「コンプライアンス(法令順守)のためのデータ収集から脱却せよ」という厳しいメッセージが投げかけられた。すなわち、目的が規制クリアや報告書作成になってしまっては本末転倒であり、真の目的である「現場の人々の人権状況の改善」に焦点を戻すべきだという。
最近では、買収や統合の際にも対象企業の過去の人権侵害への救済責任が問われるケースが出てきており、ノルウェーのOECDナショナル・コンタクト・ポイント(NCP)が石油企業の合併案件で「合併後も前身企業の人権侵害に対する救済責任を負うべき」との勧告を出したとの報告もある。国際的にこうした「責任の継承」まで視野に入れた議論が進みつつある状況で、経営陣自らがこうした状況を認識し、人権尊重をリスク管理と企業価値向上の両方にかかる戦略と捉え直し、必要なリソースを投下していく覚悟が不可欠だ。
フォーラム初日の全体会合では、「人権をコアビジネスに統合した企業ほどブランド力や従業員エンゲージメントが高まり、長期的なレジリエンス(強靭性)が増す」と紹介された。OECD関係者からは「小さな改善でも積み重ねればサプライチェーン全体の人権状況を大きく変え得る。サプライヤー任せにせず企業自ら関与を深めよ」との呼びかけもあった。人権への配慮はコストではなく投資であり、リスク回避策であると同時に企業の競争優位を左右する要素になりつつあるという視点は非常に重要である。フォーラム全体を通じ、規制強化やリスク増大への対応策に留まらず、より前向きに人権課題を捉えるべきだというメッセージが明確に発信されていたこと、そして、それを裏付ける各種調査結果が出始めている。施策を推し進めねばならない多くの企業人権担当者にとって、こうした情報は、社内の合意形成を後押しするものとなるだろう。
日本企業にとっては、この分野で取り組むべき課題はなお山積している。企業による人権対応は欧州を中心に法制化が進む中、日本政府は2022年にようやく「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を策定したものの、これは法的拘束力のないソフトローに留まる。実効性ある措置は企業に委ねられているのが実情である。法整備がない中で、人権について「どこまでやればよいかわからない」というのが多くの企業に共通する悩みだ。
また、人権への配慮をコストではなく投資と捉えて自主的に施策を進めようとしても、企業風土や意識面で欧米とのギャップもある。たとえば「ステークホルダーエンゲージメント(利害関係者との対話)」という言葉一つ取っても、人権課題を投資と捉え真摯に取り組む欧米の企業では、労働組合はもちろん、地域コミュニティ、市民団体など「声なき声」に耳を傾ける仕組みづくりが進んでおり、フォーラム開催中の3日間、あちこちのセッションでグローバル企業の代表が「人権デューデリジェンスの肝は当事者(労働者や地域住民)との対話だ」と明言する場面を何度も見た。ある企業のケースでは、サプライチェーン上の労働者を保護するため現地労組やNGOと定期協議の場を設け、労働環境の改善策を協働で立案しているとの報告もあったが、残念ながら日本では、サプライヤーとの契約関係やCSR報告書上の形式的なやり取りに留まり、本当の意味での対話に踏み込めていない企業が多い。
筆者は、日本企業こそ「人権リスクに対する脆弱性」を直視すべきだと感じた。というのも、日本企業は多くの場合グローバルバリューチェーンの中で中核的役割を果たしており、自社が直接問題を起こしていなくとも調達先や販売先での人権問題が結果的に自社の信用失墜や法的責任に波及するリスクが高まっているからだ。フォーラムでは「もはや自社の壁の内側だけ見ていては危うい」というメッセージが幾度となく発せられた。特に気候変動対策(例:脱炭素社会への移行)に絡んで各国で「公正な移行(Just Transition)」が叫ばれる中、急激な産業構造転換の影で職を失う労働者や影響を受ける地域社会への配慮が欠かせないとの議論もある。石炭火力から再生エネルギーへの転換期にあるアジアでは、代替雇用の創出や技能訓練を企業が支援する動きも出ているという。日本企業もエネルギー・資源分野で同様の課題に直面するのは避けられず、単に収益や効率だけでは測れない「人間の安全保障」への視点が求められている。フォーラムで痛感したのは、こうした広義の人権リスクに先手を打って対応策を講じることこそが、企業経営の安定にも繋がるという点である。
以上のように、日本企業にとっては法制度面の遅れ、人権に関する理解や認識および対話姿勢の不足、リスク認識の甘さといった多重の課題が浮かび上がる。しかし筆者は悲観ばかりしているわけではない。フォーラムには日本からの参加者もおり、投資家からのESG(環境・社会・ガバナンス)要請や取引先からの要請に応じ、人権対応を本気で強化しようとする企業も増えつつある。
フォーラムのクロージングで人権理事会副議長が強調していた通り、「危機は変革への契機となり得る」―世界が困難に直面する今だからこそ、企業とステークホルダーが結束し、人権という普遍的価値を軸に持続可能な未来への道筋を描くことが求められている、という言葉は重い。国際社会の流れを他人事と捉えず、自ら主体的に人権課題に取り組む姿勢へと転換できるか、日本企業の真価が問われている。
【参考情報】
フォーラムの個別のセッションの内容は、下記のウェブページで知ることができる。
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PLレポート 食品安全(2026年1月)
2024年8月の食品表示基準改正および2025年4月の告示により、機能性表示食品の届出者には、届出事項の遵守状況について定期的に自己点検・評価を行い、その結果を消費者庁へ報告することが義務付けられた。初回の自己点検等報告は、届出番号が付与された日から起算して1年以内が期日であり、2025年3月31日までに届出番号が付与された機能性表示食品の初回報告期日は、2026年3月31日である。本稿では期日が迫る自己点検報告で、届出者が確認すべきポイントと注意点を整理した。
届出者は届出様式の「様式Ⅶ 自己点検等報告」「別紙様式(Ⅶ)遵守の状況等の自己点検及び評価に関するチェックリスト」を使い、自己点検を行う。自己点検の結果は「機能性表示食品届出データベース」から報告する。
遵守状況の確認が必要な主な項目は以下のとおり。
① 安全性・機能性に関する新たな知見の収集と報告
届出をしている機能性関与成分について、安全性や機能性に関して新たな知見が出ていないかを確認する。機能性の評価に変更が生じるような否定的な知見が新たに得られた場合は、研究レビュー(システマティックレビュー、SR)を再度実施する必要がある。新たな知見について消費者庁長官に報告する必要が生じた場合、変更届出または撤回届出にて対応する。
② 生産・製造及び品質の管理
③ 健康被害の情報の収集と報告
健康被害が発生した場合、消費者や医療従事者からその情報を収集し、適切に消費者庁長官や都道府県知事等に提供しているかを確認する。
自己点検は、制度の信頼性を確保するための事業者の責務である。2025年11月末には、消費者庁が機能性表示食品の自己点検等報告に関する説明会※2を開催し、自己点検の具体的な方法等を示すとともに早めの対応を呼びかけている。GMP基準の自己点検表や機能性表示食品の届出等に関する手引き※3、機能性表示食品に関する質疑応答集※4等も活用し、期限に余裕をもって準備を進めることが推奨される。
※1)「天然抽出物等を原材料とする錠剤、カプセル剤等食品として届け出られた機能性表示食品の製造又は加工の基準に準拠した体制に係る自己点検表について」https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/assets/food_labeling_cms205_251126_01.pdf
自己点検表
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/assets/food_labeling_cms205_251126_02.docx
※2)機能性表示食品の自己点検等報告に関する説明会
https://www.caa.go.jp/notice/entry/043906/
※3)機能性表示食品の届出等に関する手引きhttps://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_with_function_claims/notice/assets/food_labeling_cms205_251001_41.pdf
※4)機能性表示食品に関する質疑応答集https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_with_function_claims/notice/assets/food_labeling_cms205_251001_43.pdf
今年度の解説コーナーでは、日本の加工食品を海外に輸出する事業者が直面する食品安全上のリスクを理解していただき、その対策やポイント等の解説を連載しています。
第1回では、国内外の食品マーケットの動向、日本の加工食品の輸出状況とその特性や強み、加工食品の輸出に伴う主なリスクについて解説しました。
(【第1回】加工食品の海外輸出の現状とリスク対策の重要性:https://rm-navi.com/search/item/2215)
第2回では、国内外の食品事故の事例収集や活用方法を紹介し、事故情報をもとに自社のリスク管理体制を強化する重要性を述べました。
(【第2回】国内外の事故事例とリスク情報の調査・活用:https://rm-navi.com/search/item/2341)
第3回となる今回は、仕向地における規制の調査方法や対応ポイントについて解説します。国内の規制に準拠していたとしても、仕向地の規制に違反すると、輸出品の差し止めやリコール、ブランド毀損などにつながります。仕向地毎に異なる規制について、どのように調査・対応すべきかを学ぶことで、しかるべき対策を講じることが期待されます。
さまざまな規制の違いがある中で、今回は、健康危害に直結する原材料に関する規制とパッケージ表示に関する規制の違いについて日米欧で比較します。
健康危害のリスクに影響を及ぼす原材料の規制の一例として、食品添加物(成分および使用基準)や残留農薬基準に関するものが挙げられます。
食品添加物は、各国とも「ポジティブリスト制」(許可された添加物以外は使用不可となる制度)ですが、各国でポジティブリストとして指定された食品添加物が異なることに留意が必要です。なお、米国ではネガティブリスト(使用禁止成分リスト)も存在します。
残留農薬も、各国ともポジティブリスト制であるものの、各国で農薬成分や含有量の上限が異なることから、国内で調達する農水産物に含まれる農薬成分や残留量に留意が必要です。
| 規制項目 | 日本 | 米国 | EU |
|---|---|---|---|
| 食品添加物 | 食用赤色 104 号※は使用可 (指定添加物として認可) ※ソーセージやかまぼこ等 に使用される合成着色 料のことを指し、フロキ シンBと呼ばれる | 左記添加物は使用不可 | 左記添加物は使用不可 |
| 残留農薬 | トマトに含まれる農薬成分 (アクリナトリン)の残留 量は0.5ppm以下 | トマトに含まれる左記農薬 成分は不検出 | トマトに含まれる左記農薬 の残留量は0.01ppm以下 (一律基準値) |
健康危害のリスクに影響を及ぼすパッケージ表示の規制の一例として、アレルゲン表示や栄養成分表示が挙げられます。
アレルゲン表示は、日本では義務表示と推奨表示の品目に区分されている一方で、米国や EU は義務表示のみです。また、日本の義務表示の対象ではない品目が米国や EU では義務表示の対象となるものもあります。
栄養成分表示については、日本では表示対象ではない項目があったり、栄養成分のうち一部のものはより細分化した形で表示することが求められていることが特徴です。なお、栄養成分表示は、各国とも下表 2 の丸番号順に記載することが法令で規制されています。
| 規制項目 | 日本 | 米国 | EU |
|---|---|---|---|
| アレルゲン 表示 | ◆ 義務表示8品目 ① 小麦、② えび、③ かに、 ④ そば、⑤ 卵、⑥ 乳、⑦ 落 花生、⑧ くるみ ◆ 推奨表示20品目 アーモンド・あわび・いか・ いくら・オレンジ・カシュ ーナッツ・キウイフルーツ・ 牛肉・ごま・さけ・さば・大 豆・鶏肉・バナナ・豚肉・マ カダミアナッツ・もも・や まいも・りんご・ゼラチン | ◆ 義務表示9項目 ① 小麦、② 甲殻類(えび、 かに、ロブスター等)、③ 卵、 ④ 魚類(バス、ヒラメ、タ ラ等)、⑤ 落花生、⑥ 大豆、 ⑦ 乳、⑧ 木の実(アーモン ド、くるみ、ペカンナッツ 等)、⑨ ごま | ◆ 義務表示14項目 ① 穀物(大麦、オーツ麦、 小麦、ライ麦、これらの交 雑種)、② 甲殻類、③ 卵、④ 魚類、⑤ 落花生、⑥ 大豆、 ⑦ 乳、⑧ 木の実(アーモン ド、くるみ等、計9種類)、 ⑨ ごま、⑩ 軟体動物、⑪ マ スタード、⑫ セロリ、⑬ ルピナス、⑭ 二酸化硫黄およ び亜硫酸塩(10㎎/㎏または 10㎎/L以上) |
| 栄養成分 表示 | 義務表示5項目 ① エネルギー、② たんぱく 質、③ 炭水化物、④ 脂質、 ⑤ 食塩相当量(ナトリウム) | 義務表示10項目(細分化す ると15項目) ① エネルギー、② 総脂質(③ 飽和脂肪酸、④ トランス脂 肪酸)、⑤ コレステロール、 ⑥ ナトリウム、⑦ 総炭水化 物(⑧ 食物繊維、⑨ 糖類、 (⑩ 添加糖))、⑪ たんぱく 質、⑫ ビタミン D、⑬ カル シウム、⑭ 鉄、⑮ カリウム | 義務表示5項目(細分化す ると7項目) ① エネルギー、② 脂質(③ 飽和脂肪酸)、④ 炭水化物 (⑤ 糖類)、⑥ たんぱく質、 ⑦ 食塩 |
日本貿易振興機構や食品産業センター、農林水産省の資料に基づき、当社にて作成
上記で示したように、日本と仕向地毎に規制内容に違いがあります。以下に、各組織・団体が公表している仕向地の規制に関する主な情報源(資料名・概要・URL)の一例を示します。
| 組織・団体 | 資料名 | 概要 | URL |
|---|---|---|---|
| 日本貿易振 興機構 | 日本からの輸 出に関する制 度 | 各国・地域の輸入に関する諸規制について 品目、国・地域ごとに確認できる。 (参照できる諸規制の一例)
| https://www.jetro.go.jp/industry/foods/exportguide/ |
| 食品産業セ ンター | 海外食品添加 物規制早見表 | 着色料・乳化剤・調味料等の食品添加物に ついて、10 か国・地域での使用可否を一覧 で確認できるとともに、それぞれの使用基 準(食品毎の使用量の上限)についても比 較している。 | https://yushutukisei.com/food_additives_list/ |
| 農林水産省 | 諸外国におけ る残留農薬基 準値に関する 情報 | コメ、青果物、茶等の主要15品目におい て、日本で残留農薬基準値の設定がある農 薬成分に対して、国際基準(Codex)を始 め、20か国・地域で比較している。 | https://www.maff.go.jp/j/shokusan/export/zannou_kisei.html |
| 農林水産物・食 品輸出の際に 輸出国政府当 局が要求する 可能性のある 証明書等につ いて | 各農林水産物や加工食品に対して、輸出手 続きや証明書等が仕向地や品目等により、 要求されるものが異なることから、証明書 類等を棚卸した上で、俯瞰できるように一 覧表にしている。 | https://www.maff.go.jp/j/shokusan/export/e_info/seido/ |
上記で得られた調査結果を踏まえ、輸出する商品を製造する場合に留意すべきポイントの一例を、以下の2パターンで示します。
① 日本の商品をパッケージ表示のみ変更し、輸出する場合
②新たに仕向地用の商品を製造し、輸出する場合
| ステップ | 主な作業(共通) | ① 表示のみ変更 | ② 新規製造 |
|---|---|---|---|
| 1.食品規制の 調査 |
| ― | ― |
| 2.リスク評価 |
|
⇒満たさない場合は、輸出 の検討を終了するか、新 規製造(もしくは既存製 品の改良)による輸出の 検討に移行する ⇒満たす場合はパッケージ 表示の差分(アレルゲン や栄養成分表示等)の洗 出しを行う |
|
| 3.リスク評価 を踏まえた 検査や試験 等 |
|
|
|
| 4.仕様書・表 示案作成 |
| ― | ― |
| 5.製造準備 |
| ― |
|
※特別な留意点はないものの、製造準備以降のステップ(製造・出荷)においても、もちろん抜け漏れのない対応が求められます。
仕向地ごとの規制の理解は、海外輸出における食品安全の実現に向けて、根幹をなす重要なポイントです。規制の違いを正確に把握し、適切な調査・対応を継続することで、輸出に伴うリスクの低減と信頼性の高い事業運営が可能となります。
次回(第4回)は、これまでのリスク対策を抜け漏れなく、かつ体系的に運用するための食品安全マネジメントシステム(FSMS)の活用方法について解説する予定です。
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ESGリスクトピックス(2026年1月)
自然資本 国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は2025年11月6日、自然関連リスク・機会を考慮した生物多様性・生態系・生態系サービス(BEES)調査の結果を踏まえ、投資家の共通情報ニーズを満たすための自然関連開示基準を策定する作業を開始することを決定した。自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)フレームワークという民間主導の枠組みが基準に組み込まれる動きに大きく転換しつつあるといえる。 注目すべきは、ISSBがTNFDの枠組みを参照しつつ基準開発を進めると明言した点である。BEES調査では、自然関連リスク・機会に関する投資家向け情報開示に対応するため、IFRS S1を基盤としつつ、TNFDフレームワークを活用すべきと提言した。ISSBはTNFDの推奨事項や指標セット、LEAPアプローチを含む追加ガイダンスを参考にしつつ、投資家ニーズに応える開示を設計するとしており、実質的に、TNFDの成果をISSBという公的基準に取り込むことを意味している。 ISSBは、2026年10月に開催される生物多様性条約第17回締約国会議(CBD COP17)までに追加開示要件の公開草案(Exposure Draft)を公表し、2027年頃に完成させる計画とのことである。企業は、今後ISSBの動向を注視することになる。ISSBが公開草案を出せば、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)でも検討を開始することが想定される。将来的にISSBに基づいて自然関連開示が義務化される可能性を念頭に、今のうちからTNFD提言を活用して取り組みを進めることが推奨される。 【参考情報】 自然資本 自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)は2025年11月6日、市場関係者向けの自然関連データ・アクセス強化に向けて「自然関連データ・パブリック・ファシリティ(NDPF)」の運営青写真と今後の活動に向けた8つの提言をまとめた報告書を発表した。NDPFはオープンアクセス型の統合的な自然関連データベースで、市場規制当局等によって設定されている科学的データ基準、オープンデータ基準、企業報告データ基準に整合させ、自然関連データにおけるデータの信頼性を担保するものである。 データを集約するのではなく、「接続」型プラットフォームを想定しており、複数のデータ提供者のデータセットをNDPF上で参照・利用できるようにすることが中核案となっている。この中核案は、①ユーザーが活用する自然関連データアクセス性の向上と品質の確保、および②データ提供者(政府機関や科学機関、企業など)への持続的な資金供給の仕組みの構築を目的としている。利用対象は、TNFDのLEAPアプローチやThe Science Based Targets Network (SBTN)の目標設定、移行計画、開示・報告などの企業・金融機関のユースケースを想定している。 今回提示された8つの提言は、下表のとおりである。 データ利用の料金モデルは、大規模企業・金融機関からの利用料で収益を得て、50人未満・年商200万USD未満のSME(中小企業)には無料で提供することを想定している。2040年までに1,200以上の有料ユーザーを想定している。 NDPFが2026年に開始した場合、3年目(2028年)に損益分岐点に達し、5年目(2030年)までにはデータ提供パートナーに総額年間3,000万米ドルのライセンス料を支払い、さらに国際自然データトラストが再投資するための年間200万米ドルの余剰資金を生み出すと予測している。 実際に一連のシステムを構築し、維持・発展していくための資金調達が可能かどうかなど、課題があることには留意する必要がある。しかし「世界的な公共財」として自然の状態や生態系サービスに関するデータの利便性を高め、データ収集者へ資金を循環させる新たな枠組みが実装されれば企業のリスク管理や投資判断の質向上、世界的なデータギャップの縮小に寄与し、ネイチャーポジティブ社会の実現の一歩となるであろう。 【参考情報】 カスタマーハラスメント 厚生労働省は2025年12月10日、「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(案)」を示した。2025年6月に成立し、2026年10月1日に施行予定の改正労働施策総合推進法では、事業主に対して職場におけるカスタマーハラスメント※ (カスハラ)への対策を義務付けており、本指針案は事業主が適切かつ有効な対策を実施できるよう必要な事項を定めたものである。本指針案は、意見募集を経て2026年2月に公表される見込み。事業主は同法の施行までに、指針の内容に照らして自社のカスハラ対策状況を確認し、しかるべき体制の整備と労働者への周知・啓発を行うことが求められる。 本指針案で示された事業主が講ずべき措置は以下のとおり。具体的な取り組み例や講ずることが望ましい措置等についても本指針案では示されているため、あわせて参照されたい。 (厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(案)」https://www.mhlw.go.jp/content/11901000/001608226.pdf を基に当社にて作成) ※職場におけるカスタマーハラスメント 【参考情報】 サイバーセキュリティ 政府は2025年12月23日、サイバーセキュリティ基本法に基づく新たなサイバーセキュリティ戦略を閣議決定した。AIや量子技術の進展によりサイバー空間の重要性が増す一方で、サイバー攻撃の脅威も拡大している。能動的サイバー防御を可能にする「サイバー対処能力強化法」など関連法も今年5月に成立し、7月には内閣総理大臣を本部長とする新体制の戦略本部が発足した。本戦略案は意見公募を経て、12月8日のサイバーセキュリティ推進専門家会議の第三回会合で議論した後に確定した。政府は、本戦略に基づきサイバー空間の安全確保と社会経済の発展を目指す。 デジタル化が進展する社会において、サイバー空間は経済・安全保障の基盤となっている。一方、国家を背景とするサイバー攻撃は増加傾向にあり、重要インフラのみならず企業や個人にも甚大なリスクが及ぶ。政府は国家サイバー統括室を中心とした推進体制のもと、能動的サイバー防御※1の導入を本戦略に明記した。また、通信情報の収集・分析・活用を強化し、インシデント対応の高度化を図る。本戦略の基本理念は「自由、公正かつ安全なサイバー空間」の確保、情報の自由な流通、法の支配、開放性、自律性、そして多様な主体の連携という五つの原則であり、政府が積極的な役割を担う。 本戦略における施策は大きく三つの柱で構成されている。第一に、サイバー脅威への防御・抑止として、国家サイバー統括室を中心に官民・国際連携を拡充することである。新たな協議会の設立や脅威ハンティング、演習の体系化などで実効性を高める。第二に、社会全体のセキュリティ・レジリエンス向上。政府機関や重要インフラ、地方公共団体の対策水準を統一基準やISMAP※2で底上げし、サプライチェーン全体の強化(セキュリティ・バイ・デザイン※3、SBOM※4、JC-STAR※5など)を進めることである。中小企業支援や普及啓発、GIGAスクール構想※6の実現等による教育、サイバー犯罪対策も盛り込んだ。第三に、人材・技術エコシステムの形成である。サイバー人材フレームワークの策定・運用や教育・訓練の充実、国内技術・サービスの研究開発・育成、スタートアップ支援などを推進する。AIガバナンスや量子耐性暗号(PQC)への移行など、先端技術への対応についても明記した。 本戦略の推進体制は、全大臣が参加する戦略本部と各府省庁、司令塔の役割を果たす国家サイバー統括室によって構成される。官民・国際連携を積極的に進めることに注力し、年次計画や進捗検証、制度・法令の不断の見直しも実施する。政府は、重要インフラや行政サービスの安定運用、国民生活の安全確保、国家安全保障の強化、サイバー攻撃被害の未然防止、デジタル社会推進の基盤強化を図る。これらの取り組みの結果、民間に対して、被害リスクの低減、事業継続性の向上、サプライチェーン全体の信頼性確保、競争力強化、人材・技術開発によるイノベーション促進、最新脅威情報の迅速な入手と対応などの恩恵が期待される。 政府は本戦略の実行を通じ、世界最高水準のサイバーセキュリティ体制の構築と、経済社会の持続的発展、国民の安全・安心の実現を目指すとしている。 ※1)外部からのサイバー攻撃について、被害発生前の段階から、その兆候に係る情報等の収集を通じて探知しその主体を特定するとともに、その排除のための措置を講ずることにより、国家・国民の安全を損なうおそれのあるサイバー攻撃の発生およびこれによる被害の発生・拡大の防止を図ること。 ※2)Information system Security Management and Assessment Programの略称。政府情報システムのためのセキュリティ評価制度(日本政府によるクラウドサービスのセキュリティ認証制度)。 ※3)(Security by Design)システムやソフトウェア製品およびその機能が、後付けの対策ではなく、その企画・設計段階から安全(Secure)を考慮して開発する手法。 ※4)Software Bill of Materialsの略称。ソフトウェアコンポーネントやそれらの依存関係の情報も含めた機械処理可能な一覧リストのこと。SBOM には、ソフトウェアに含まれるコンポーネントの名称やバージョン情報、コンポーネントの開発者等の情報が含まれる。また、SBOM を組織を越えて相互共有することで、ソフトウェアサプライチェーンの透明性を高めることが期待されており、特に、ソフトウェアの脆弱性管理の課題に対する一つの解決策として期待されている。 ※5)Japan Cyber Security Technical Assistance and Researchの略称。2024年8月に経済産業省が公表した「IoT製品に対するセキュリティ適合性評価制度構築方針」に基づき構築された制度のこと。インターネットとの通信が行える幅広いIoT製品を対象として、共通的な物差しで製品に具備されているセキュリティ機能を評価・可視化する。 ※6)「GIGA」は「Global and Innovation Gateway for All」の略。1人1台端末や高速大容量の通信ネットワーク等の学校ICT環境を整備・活用することによって、教育の質を向上させ、すべての子どもたちの可能性を引き出す「個別最適な学び」と「協働的な学び」を実現すること目的とした文部科学省の政策。 【参考情報】 サステナビリティ開示 欧州の財務報告助言機関EFRAGは2025年12月3日、欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)の簡素化ドラフト(改訂版)の技術的助言を欧州委員会に提出した。公表済のESRS原案から、必須開示項目を約61%削減する。企業の開示負担の軽減を図る同委2025年オムニバス・イニシアチブの一環。2024年の初適用企業の教訓や700件超の意見を踏まえ、柔軟性や救済措置、段階的導入等の要素を反映した。 象徴的な変更は開示項目の削減だ。任意開示の廃止や重複項目の統合により「コアとなる基礎情報(Core Disclosures)」が明確化され、まず報告すべき重要情報に集中できる設計となった。EFRAGは、「説明責任を維持しつつ負荷を下げる、明確でバランスの取れた枠組みだ」と強調している。主な削減の内容は以下のとおり。 (EFRAG公開資料に基づき当社が作成) ESRS簡素化案は、競争力とサステナビリティの両立を目指して規制を見直すEUの政策的流れの具体策に位置づけられる。企業サステナビリティ報告指令(CSRD)に基づく新たな報告義務に対する負担増の懸念に対応する。サプライチェーン全体のデータ収集の難しさや各国の監督・ガイダンスの遅れが不安材料となる中、報告対象の重点化により中小やサプライヤーの間接負担を軽減。報告適用の延期でも合意し、準備期間を延長した。 今回の簡素化では、原案のチェックリスト的開示から転換し、潜在トピックの網羅ではなく最も明らかな課題に焦点化している。そのため、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の気候基準などとの整合を確保しているが、ISSBと類似の要求事項がESRSには含まれない場合もある。将来、双方の基準の適用を目指す企業は注意が必要だ。 ESRS簡素化案は今後、欧州監督当局(ESA)や欧州中央銀行、加盟国政府などとの協議やパブリック・コンサルテーションなどを経て、2026年末までの発効・適用開始が見込まれている。企業実務では同年度報告から本格適用の見通しだ。 【参考情報】 自然資本 国際自然保護連合(IUCN)は2025年10月に開催されたIUCN世界自然保護会議においてIUCN RHINO(Rapid High-Integrity Nature-positive Outcome)アプローチを発表した。本アプローチは、種と生態系の保全効果を最大化することでネイチャーポジティブを達成することを目的に、企業を含むあらゆる組織が、「どこで活動すべきか」、「どのような行動をすべきか」、「どのように進捗を測るべきか」を示している。 RHINOアプローチは、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)のLEAPアプローチ※1を基盤として、「Implement(実行)」と「Report(報告)」のステップを独自に追加することで、「リスク評価→行動計画→実行→インパクト測定→公表」までを行えるように設計されている。 さらに、組織が自然との接点を把握し、ネイチャーポジティブな取り組みを導くために以下の3つのインパクトトラックを提供する。 直接操業によるインパクトを対象にしたアプローチで、6つのステップ(A1: Locate, A2: Evaluate, A3: Assess, A4: Prepare, A5: Implement, A6: Report)から構成される。 バリューチェーンを通じたインパクトを対象にしたアプローチで、企業の調達先のトレーサビリティの状況に応じて3つの方法を提示している。 ① サイトレベルで特定できる場合:サイトごとにTrack AのA1~A6のステップを適用する。 ② 国や自治体レベルでしか特定できない場合:生物多様性へのインパクトが大きい地域とコモディティの組み合わせを特定し、自社の調達割合を考慮して優先地域を選定した上で、Track AのA2~A6を適用する。 ③ 空間情報が限定的の場合:主な生産国や生産企業を特定し、インパクトの高い地域を優先して絶滅リスク低減の目標を設定し、Track AのA3~A6を適用する。 金融ポートフォリオ通じたインパクトを対象に、2つのアプローチを提示している。 ① 投資シェアアプローチ:投資先企業に対して情報開示や報告の要件を設定し、投資先が自社のバリューチェーン内で必要な行動を実施していることを確認。 ② 投資先企業の進捗評価:投資先企業をIUCN RHINOトラックの進捗状況に基づいて評価・スコア化し、各社の進捗やポートフォリオ全体のパフォーマンスをモニタリングする。 本アプローチは、STAR(Species Threat Abatement and Restoration)指標※2を活用しており、各ステップごとに応じてSTAR指標を調整して使用している。具体的には、IUCNが公表している推計値(Estimated STAR)を用いて対象地域の状況を把握し、次に現地調査や専門家評価を反映して調整値(Calibrated STAR)を算出する。その後、将来の目標値(Target STAR)を設定し、実際の活動によって得られた成果を実績値(Realised STAR)として記録する。 このSTAR指標は精度向上と利便性のために11月にアップデートされ、以下のような改善が加えられた。これらは、STAR指標の可視化が可能なIBAT(Integrated Biodiversity Assessment Tool)が提供する「IBAT Species Report※3」で確認できる。主なアップデート内容は以下のとおり。 これらの改訂によって企業は、どこが重要か(空間精度)、なにが重要か(種・脅威の特定)をより正確に判断できるようになった。また、2026年公表予定のレポートでは、現地調査を反映した調整が可能となり(Calibrated STAR)、企業ごとに最適化された保全活動の計画・評価ができるようになる。 自然関連のリスクと機会を把握するには、拠点単体でなくバリューチェーン全体の視点が欠かせない。RHINOアプローチとSTAR指標は、対象拠点周辺の自然の状態の定量的な理解、行動すべき場所や活動の特定、その成果測定までをワンストップで支援する。ただし、現地の状況を踏まえた効果的な取り組みを推進していく上では、机上のデータ分析だけでは不十分であり、現地パートナーの知識や一次情報を反映したCalibrated STARやRealised STARを算出する必要がある。そのため、まずは自社事業における優先地域を特定し、現地ステークホルダーと協働してモニタリング体制を整えることから始めることが重要である。 ※1)LEAPアプローチとは、TNFDが提示している、企業および金融機関における内部の自然関連課題の特定と評価をサポートすることを目的とした自主的なガイダンスである。Locate、Evaluate、Assess、Prepareの4つのフェーズから構成される。 ※2)STAR指標とは、IUCNレッドリストのデータをもとに、保全・復元活動による種の絶滅リスク低減効果を定量化した指標である。 ※3)https://www.ibat-alliance.org/services 【参考情報】 サステナビリティ開示 ※WICIとは…World Intangible Capital Initiativeの略称。 一般社団法人WICIジャパンは2025年12月3日、優れた統合報告書を表彰する「WICIジャパン 統合リポート・アウォード」の審査結果を公表した。最も評価の高い「Gold Award(優秀企業賞)」に、イトーキと荏原製作所、TDKの3社を選出した。このうち、イトーキは「一頭地を抜いた存在」として最高位の「The Best Gold Award」を初めて受賞した。社長自らが従業員エンゲージメントについて語るなど人的資本戦略と経営戦略の融合や、財務を担う管理本部長メッセージでの資本コストを意識した財務戦略の解説などが高く評価された。同社は前回「Special Award(審査員特別賞)」を受賞した。MS&ADインシュアランスグループホールディングス(HD)は「Special Award(審査員特別賞)」のうち「Role Model賞」を受賞、金融業でトップクラスとの評価を受けた。 各賞受賞の11社は以下のとおり。 12月11日の表彰式には、審査委員長を含む審査委員5名が出席した。審査委員長は受賞企業について、企業価値向上に向けた戦略に関する説明の具体性が増していると評価。その上で「インフレ進行中での生き残り戦略はデフレ時代と全く異なる」として、他社との差別化やインフレに勝つ戦略として知的財産を取り上げる重要性を強調した。別の審査委員は、情報の網羅性や各社の個性など統合報告書に求められる要素のほか、読者に読んでもらうための工夫を強調。自社が思い描く未来の価値創造を描いた「特集版」と統合報告書「本編」の2部構成を採用したイトーキや、本編と別にダイジェスト版を作成した伊藤忠商事などを例に挙げ、評価した。 一方、多くの審査委員が今後の改善点として、コネクティビティ(情報の相互連関)を挙げた。ある審査委員は、従来から重視されてきた財務・非財務の情報を結びつけた価値創造の説明に加えて、「サステナビリティ課題間のコネクティビティ」の重要性を指摘。例えば、再生可能エネルギー事業によって生じる人権への負の影響など、ESGテーマ間のつながりや戦略性に関する記述の強化を求めた。また、同氏はサステナビリティ基準委員会(SSBJ)や国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)、企業持続可能性報告指令(CSRD)などの国内外のサステナビリティ開示基準を念頭に、複雑化しているマテリアリティをどう表現するかも来年度の注目点として挙げた。 WICIジャパン事務局によると、審査対象は統合報告書を発行する国内上場企業で、10月第1週ごろまでに報告書を公表した635社。読みやすさよりも内容の充実を重視しており、今回はページ削減がマイナス評価になったという。 同表彰は前身の「統合報告優良企業賞」を含め今回が13回目。報告書発行企業のエントリーを必要としない「勝手審査」方式に加えて、投資家以外の学識者やサステナビリティの専門家など幅広いステークホルダーが審査委員を務めていることなどが特徴だ。審査は旧国際統合報告評議会(IIRC=現在はISSBに統合)の「国際統合報告フレームワーク」が定める必須記載事項等を参照するほか、2次審査では独自の審査シートを使用。「Ⅰ 記載内容(コンテンツ)評価」「Ⅱ 統合的開示の評価」「Ⅲ 開示の説得力」のテーマごとに詳細な評価内容を設定している。同シートはホームページで公開されている。 【参考情報】
○ ISSB、自然関連開示基準策定を決定、2026年10月に公開草案を公表
2025年11月7日付 ISSB HP
https://www.ifrs.org/news-and-events/news/2025/11/issb-welcomes-tnfd-support-nature-related-disclosure/
○ TNFD、「自然関連データ・パブリック・ファシリティ(NDPF)」の具体的な構想提示
-*-*-*-*-
<NDPFの今後の活動に向けた8つの提言>
1.自然データ原則の採用
データ品質向上のための原則群を策定する。
2.共通メタデータ基準
NDPFに接続されるデータ群の共通メタデータを提供する。
などのドメイン固有の基準を統合
3.データライセンスと利用契
約の調和
現状では、ユーザーが各種データ活用のために個別契約が必要
となり、手間と時間を要している。
このユーザーが直面するアクセス性、コスト、契約の複雑さに
対処するため、データ提供および利用契約の調和を推進する。
4.自然関連データ・パブリ
ック・ファシリティ
(NDPF)の設立
自然関連の有用な中核的なデータへのオープンアクセスを提
供する。
5.企業のデータ提供インセン
ティブ
企業が独自に集めたデータ(環境影響評価(EIS)など)を公共
財に還流させる仕組み
テクチャ(例:自主的な「自然データ交換憲章」)を提供す
る。
企業と連携し、企業のデータ提供を促す取り組みを拡大す
る。
「交換」の商業的価値提案を探求する。
6.国際自然データトラスト
(Nature Data Trust)の創設
NDPFを運営し、資金配分や基準の実行を担う国際機関を創設
する。
7.自然測定プロトコルの開発
自然への依存・インパクトの共通指標と測定方法を整備する。
8.グローバルデジタルプロト
コルの開発
バリューチェーン全体でのデータ共有を円滑にする規格を開
発する。
2025年11月6日付 TNFD HP
https://tnfd.global/tnfd-release-recommendations-for-upgrading-nature-data-for-market-participants/
○ 厚生労働省 カスタマーハラスメント対策の指針案示す
-*-*-*-*-
<カスハラに対して企業が講ずべき措置の内容>
措置の項目
措置の内容
(1)事業主の方針等の明確化
およびその周知・啓発
保護する旨の方針を明確化し、社内報やトップメッセージを
通じて、労働者に周知・啓発する。
内容を労働者に周知する。
(2)相談に応じ、適切に対応
するために必要な体制の
整備
の内容や状況に応じて適切に対応できるようにする。
(3)カスハラに係る事後の迅
速かつ適切な対応
配慮のための措置を行う。
発防止策を講じる。
(4)カスハラへの対応の実効
性を確保するために必要
なその抑止のための措置
る者への対処の方針をあらかじめ定め、労働者に周知すると
ともに、当該方針において定めた対処を行うことができる体
制を整備する。
(5)上記の措置と併せて講ず
べき措置
相談者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講ず
るとともに、その旨を労働者に対して周知する。
雇その他不利益な取り扱いをされない旨を定め、労働者に周
知・啓発する。
本指針案において、職場におけるカスタマーハラスメントとは、職場において行われる①顧客等の言動であって、②その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの要素をすべて満たすものと定義されている。
2025年12月10日付 厚生労働省HP
https://www.mhlw.go.jp/content/11901000/001608226.pdf
○ 新政府サイバーセキュリティ戦略、能動的防御と官民連携強化 AI・量子対応、人材育成などが柱
-*-*-*-*-
国家サイバー統括室「サイバーセキュリティ戦略が閣議決定されました」
https://www.cyber.go.jp/policy/jyuyo-bunsho/index.html
○ ESRS簡素化案を欧州委に提出、 企業の報告負担軽減で必須開示項目を61%削減
-*-*-*-*-
<主要な変更点・簡素化の例>
項目
原案の要件
改訂版の主な変更点
企業への実務的影響
開示項目数
必須・任意含め多く網羅的
必須項目を6割削減
任意項目は廃止
報告負担・コスト削減
コア情報の明確化
広範囲・詳細な情報
コア開示に絞り込み
重要情報に集中しやすい
気候変動
詳細な計画書・データ提出
要点報告を許容
詳細要件緩和
業務負担軽減
サプライチェーン
一次データ収集推奨
推計値利用を容認
グローバル企業の負担減
段階的導入
即時全面適用
フェーズイン・経過措置
難しい項目は猶予期間あり
中小企業対応
VSME基準との整合性弱い
VSME基準との整合性強化
グループ内連携が円滑に
2025年12月3日、EFRAGリリース
https://www.efrag.org/en/news-and-calendar/news/efrag-provides-its-technical-advice-on-draft-simplified-esrs-to-the-european-commission
○ IUCN RHINOアプローチとSTAR指標のアップデート概要
-*-*-*-*-
(1)Track A:直接インパクトトラック(該当業種例:採掘業、林業、農業、建設、インフラ、再生エネルギー発電など)
(2)Track B:バリューチェーンインパクトトラック(該当業種例:コーヒー・パーム油・鉱物などの原料調達企業、食品・飲料メーカー、繊維、商社、エネルギー利用企業など)
(3)Track C:投資家インパクトトラック(該当業種例:銀行、保険、投資ファンド、年金基金など)
2025年12月3日付 IUCN RHINO HP
https://www.iucnrhino.org/
2025年12月3日付 IBAT HP
https://www.ibat-alliance.org/news/species-report
2025年10月10日付 IUCNリリース
https://iucn.org/press-release/202510/iucn-launches-new-rhino-approach-rapid-high-integrity-nature-positive-outcomes
○ WICI統合報告書表彰でイトーキが最高位、人的資本戦略と経営戦略の融合を高評価
-*-*-*-*-
<「WICIジャパン 統合リポート・アウォード2025」受賞企業>
Gold Award(優秀企業賞)
イトーキ[The Best Gold Award]、荏原製作所、TDK
Silver Award(優良企業賞)
味の素、伊藤忠商事、富士フイルムHD
Bronze Award(準優良企業賞)
デンソー、ニチレイ
Special Award(審査員特別賞)
MS&ADインシュアランスグループHD、住友金属鉱山、東京海上HD
2025年12月3日付 WICIジャパンHP
https://wici-global.com/index_ja/2025/12/03/4847/
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製品事故発生時の対応のポイント
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経済産業省が「+あんしん」の受賞製品を発表
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中国における電動自転車火災の現状と対策【中国風険消息(中国関連リスクニュース 2025年12月)】
電動自転車は環境に配慮した経済的な交通手段として広く利用されている。中国電子技術標準化研究院が公表した「2025消費品行业系列研究报告—電動自転車新国標解読」によると、2024年末時点で電動自転車の保有台数は4億台を超え、短距離移動における主要な移動手段となっている。


しかし、市場の拡大とともに安全面での課題も顕在化している。国家消防救援局によれば、電動自転車が原因の火災は2021年の約1.8万件から2023年には2.5万件に急増し、火災件数全体に占める割合も5.9%から12.7%へと上昇している。火災件数全体は今後も増加が懸念されており、対策の重要性が一層高まっている。国家消防救援局および応急管理部の関連データによる、直近4年間の電動自転車による火災件数の統計は図2のとおりである。


電動自転車火災は、燃焼速度が速い、有毒ガスの発生量が多い、短時間で温度が急上昇する、爆発を誘発しやすいといった特徴を有している。発生の多くは充電中に起こっており、老朽化した電池や改造電池ではリスクがさらに高まると考えられる。
電動自転車から火炎が上がると、避難通路がふさがれる事例もよく見られる。集合住宅や密集した居住エリアの住民にとっては、前方には危険が迫り、後方には逃げ道がない」という事態に陥りやすく、群集災害に発展しやすいと考えられる。
火勢が拡大し、煙が充満すると、他の種類の熱傷と比べて吸入性損傷の発生割合が顕著に高くなる。吸入性損傷とは、熱や煙を吸入することにより、鼻咽頭、気管、気管支および肺実質※1に損傷を生じさせ、全身的な化学中毒を引き起こすものである。重度の吸入性損傷における死亡率は48〜86%に達しており、患者死亡の主要な原因の一つとなっている。
※1)肺の中でガス交換を担う部分であり、肺胞や細気管支などの組織のこと
| 特徴 | 詳細 |
|---|---|
| ① 燃焼速度が非常に速い | 出火後、短時間で大量の煙と高温が発生する。1台の火災でも数分で建物全体に煙 が拡散し、7分以内に温度が300℃を超える場合がある。複数台が連鎖的に燃焼す ると、避難経路が瞬時に遮断される危険がある。 |
| ② 有毒ガスを放出し、 爆発の危険がある | 電動自転車の製造に用いられる材料は、プラスチックやゴムなど可燃性物質が多く 含まれ、燃焼時に一酸化炭素やシアン化水素などの有毒ガスを発生させる。これら は吸入による中毒や爆発を引き起こす要因となる。 |
| ③ 消火の難易度が高い | リチウムイオン電池(以下、電池)の消火に関する研究は始まったばかりであり、 どのような消火手段が有効かについての研究は十分ではない。電動自転車火災では、 感電の危険がない状況で大量の水を持続的に散水し電池を冷却し、放電反応の終了 を待つことが基本であるため、迅速な消火が難しくなる。 |
| ④ 屋内での発生が多く、 避難に影響する | 電動自転車火災は集合玄関、避難通路、階段、住戸内など屋内で多発している。夜 間に発生することが多く、火勢が速く煙が多量に発生するため、避難が難しくなる。 |
| ⑤ 死亡率が高い | 火勢の拡大と煙の蔓延により吸入性損傷の発生割合は他の火傷タイプより高い。吸 入性損傷は熱または煙による気道損傷(鼻咽頭、気管、気管支、肺実質)および全身 化学中毒を引き起こす。重度の吸入性損傷の致死率は48%〜86%に達する場合があ り、主な死因の一つである。 |
全国電動自転車安全リスク全連鎖是正作業専班は、2024年7月に全国の電動自転車火災統計データを収集し、計1402件の火災事故を分析した。
1か月分という限定的なデータではあるものの、その結果から原因の分布傾向を把握することができる。
出火原因を見ると、蓄電池の熱暴走が全体の半数以上を占めている。
注目すべきは、駐輪中に充電していない状態で発生した電動自転車の火災が639件に上り、全体の45.6%を占めた点である。
このことは、電動自転車の本質的な安全性の問題が依然として重要な課題であり、引き続き重点的な対策と改善が求められることを示している。


電動自転車火災の多くは、バッテリーの熱暴走や不適切な充電操作、品質不良など複数の要因が重なって発生している。
代表的な原因として以下が挙げられる。
長期間使用した車両では配線の絶縁劣化や摩耗が進み、通電中に短絡や発熱を引き起こす場合がある。特に、露出した配線を直接電源に接続する「飛線」充電では、雨や湿気により絶縁が低下し、容易に過熱・発火に至る。加えて、規定より細い電線を使用したり、複数の車両を同一タップに接続したりする行為も火災リスクを高める。
利用者が「長く充電するほどよく充電できる」と誤解し、充電器を長時間差しっぱなしにするケースが多い。特に夜間の充電では、バッテリー内部の温度が上昇し続け、熱暴走を引き起こす危険が高い。過充電により化学反応が過剰に進行すると、電解液の気化・膨張・発火へとつながる。
バッテリー内部は、正極・負極・電解液・セパレーター(隔膜)など複雑な構造を持つ。外部からの衝撃、水没、穿刺などで内部構造が破損すると、正極と負極が直接接触して短絡することで、発熱反応が連鎖的に拡大して爆発に至る場合がある。特に品質が劣る電池では過充電・過放電に対する保護回路が不十分であり、内部圧力が急上昇して破裂・発火を引き起こす事例が報告されている。
市場には安価な非正規品の充電器が多数出回っており、過充電防止機能や過電流遮断機能を備えていないものが多い。そのため、バッテリーへの電流供給が制御されず、充電完了後も電圧が加わり続ける結果、内部温度が上昇し発火に至るケースがある。
航続距離を延ばす目的で、大容量バッテリーや高出力モーターへの交換、スピーカーやライトの増設を行う利用者もいる。こうした改造により回路が過負荷状態になり、過熱・短絡・火災を引き起こす危険がある。改造品は設計上の安全基準を逸脱するため、メーカー保証の対象外となる。
高温・高湿環境下ではバッテリー内部の化学反応が活性化し、熱暴走を誘発する。冠水や雨天走行により電気部品が水に触れると短絡を起こす危険がある。特に夏季の屋外駐輪では直射日光による温度上昇に注意が必要である。過積載や頻繁な急加速・急ブレーキもバッテリー内のセルのずれや圧迫を生じさせ、内部短絡の原因となる。
これらの要因は単独で発生する場合もあるが、実際の火災では複数の要素が重なって発生することが多い。たとえば「劣化した配線+粗悪な充電器」「違法改造+過充電」など、複合要因による事故が少なくない。
電動自転車火災の多くは、バッテリーの熱暴走を起因として発生する。その特徴は、発火が早い、燃焼が激しい、有毒ガスが多い、避難可能時間が極めて短いことである。予防にあたっては、生産段階ら対策を講じる必要があり、以下の原則に従うことが基本となる。
電動自転車の製造品質は、火災防止の第一歩である。本質的安全性を高めるため、中国政府は電動自転車の製造に関する品質基準の整備を進めており、特にバッテリー、充電器、電気装置などの主要部品に対する防火性能要件を強化している。
2024年には、改訂された強制性国家標準である『GB17761—2024 電動自転車安全技術規範』および『GB43854—2024 電動自行车用锂离子电池安全技术规范』が公布され、以下の点について明確な規定が示されている。
さらに、2025年6月、中国の四部門は共同で「電動自転車の強制性国家標準の実施を強化し、新製品供給を加速するための意見」を発表した。
国家消防救援局、工業・情報化部、公安部、市場監督総局が連携し、電動自転車に関する安全リスク全連鎖の整治成果を維持・深化しつつ、国家標準の実施を共同で推進するとしたものである。
また、電動自転車およびその主要部品に対する強制性製品認証管理を引き続き強化し、品質の抜き取り検査を常態化する方針が示された。検査に合格した製品は「ホワイトリスト」 として登録・公表し、不合格品については企業責任を厳しく追及して警示効果を持たせる措置が取られる。
これらの取り組みにより、電動自転車の製品品質基準を引き上げ、火災発生の根本原因を取り除くことが期待されると考えられる。
個人使用者においては、以下の点に留意する必要がある。
電動自転車の充電用電源配線は安全かつ信頼性が高く、規定要件に適合している必要がある。充電ケーブルは、柔軟性があり、絶縁性が高く、摩耗しにくい電線を使用し、線径は使用電力に見合った太さを確保する。配線の乱雑な取り回しや無理な接続は避けるべきである。
また、充電用の電源タップは正規メーカー製の製品を使用し、1つのタップに複数の充電プラグを同時に差し込まない。加えて、プラグを奥までしっかり差し込むことで接触不良を防ぎ、火災防止につながる。
可燃物が多い場所での充電は避ける。充電中はバッテリー・配線・充電器が発熱し、発火につながるおそれがあるため、必ず指定された区域で充電を行う。特に、可燃性・爆発性物質が存在する場所や、藁・布・綿などの可燃物を多く保管している場所での充電は厳禁である。
電動自転車の充電には車両に付属する専用充電器を使用する。バッテリーは配合や製造工程が異なるため、必要とされる充電器の仕様も異なるため、互換性のない充電器の使用は避ける。充電前に充電器のプラグのプラスマイナスや形状が車両側のソケットに適合しているか確認し、非正規品や品質の低い充電器を使用しないことが重要である。
電動自転車を長時間充電したままにしない。一般的に電動自転車の充電は8時間を超えないことが望ましい。バッテリーが満充電になったら速やかに電源プラグを抜き、充電していない時は、充電器を通電状態で放置しないことが重要である。
近年、各地方政府は地域の実情に基づき、電動自転車の充電場所に関する地方標準を相次いで制定している。これらの基準では、充電場所の消防設計や安全管理に関する具体的要件が定められているが、内容は省市によって多少異なる。
本節では、上海市の「電動自転車集中充電・駐輪場所設計標準」を例に、安全な避難動線、車両配置計画、消防設備の配置などに関する重要な条文を取り上げ、併せて、当社が日常のリスクサーベイで確認している代表的なリスク事象について解説する。
| 要点 | 内容 |
|---|---|
| 1 | 充電設備の設置位置は安全出口から5m以上離すこと。 |
安全出口は火災時の避難経路である。充電設備が出口付近にあると、万一発火した際に激しい火炎や濃煙が出口を封鎖し、建物内からの避難を妨げる。5mの距離は一定の緩衝空間を確保し、発火時にも避難時間と空間を残すための措置である。
| 要点 | 内容 |
|---|---|
| 2 | 電動自転車の集中充電・駐輪場所は、一般的な丙類工場・倉庫から4m以 上離すこと。 |
電池の熱暴走時には高温ガスや有毒ガス、火炎が数メートルにわたって噴射される場合がある。4mの間隔はこれらの噴射物が直接建物に到達することを防ぎ、煙の拡散による有害ガスの流入を軽減する効果がある。熱放射による周囲への引火リスクも4mの隔離により低減される。
| 要点 | 内容 |
|---|---|
| 3 | 停車庫内の車両は区画単位で停める。1区画の長さは20m以下、1区画の最大駐輪台 数は25台とする。グループ間は高さ1.5m以上の防火壁で分け、防火壁の耐火限度は 1.00h以上とする。 |
中華人民共和国応急管理部上海消防研究所が実施した電動自転車の燃焼試験によると、隣接する車両の間に一定の防火区画を設けることで、たとえ防火シートをかけるだけの簡易な軽量隔壁であっても、火災の延焼を効果的に防止できることが確認されている。
また、区画と区画の間には最大でも20mごとに耐火性のある区画壁を設置する必要があると規定されている。下図はその参考例である。


(出典:北京市密云区消防救援支隊メディアセンター資料)
| 要点 | 内容 |
|---|---|
| 4 | 各充電区域に専用の配電盤を設置する。各出力回路には過負荷、短絡、過 電圧保護に加えて残留電流保護(動作閾値30mA以下)を設けること。屋外 設置の配電盤にはサージプロテクタを設置する。 |
残留電流(漏電)保護装置は感電事故や電気火災を防止するために重要であり、30mA以下の閾値が一般的である。異常漏電を検知して瞬時に電源を遮断することで致死的な心室細動※2のリスクを低減する。サージプロテクタは、雷や過電圧による機器の破損や電気火災を防ぐ機能を担う。
※2)心臓の電気的な活動が乱れ、心室の筋肉が協調して収縮できなくなる結果、心臓は血液を送り出すことができず、数秒で意識を失い、数分以内に死亡する危険性がある。
| 要点 | 内容 |
|---|---|
| 5 | 集中充電・停放場所には24時間の監視カメラを設置すること。 |
映像監視は早期に発火前兆(煙や発熱、不適切な充電行為等)を検知することを可能にする。発生初期の数分で対応できれば被害を著しく軽減できる。映像は事後の原因究明にも資する証拠となる。
| 要点 | 内容 |
|---|---|
| 6 | 駐輪場には屋外消火栓設備を整備し、消火器を配備すること。 スプリンクラー設置を推奨する。 |
基準における駐輪場は、主に屋内の専用施設を対象としている。一方、工場の場合は、電動自転車の駐輪場所が屋外の充電エリアに設けられることが多い。その際には、周辺に屋外消火栓が設置されているか、車庫や駐輪場のキャノピーに消火器などの消火設備が備え付けられているかを確認する必要がある。
自動スプリンクラー設備については、前述の「簡易スプリンクラー」を参考に導入することができる。また、上海市消防救援総隊の通知文書『上海市消防救援総隊による〈電動自転車消防安全整治強化行動方案〉の印発について』(沪消函〔2024〕67号)などの関連資料にも、集中駐輪場(駐輪棚)には煙感知器やスプリンクラーなどの設置を求める旨が明記されている。
| 要点 | 内容 |
|---|---|
| 7 | 駐輪場には火災自動報知設備または独立型の感煙式火災報知器を設置すること。 |
火災探知器は、火災の初期段階でいち早く火災を感知し、迅速に警報信号を発することができる。
多くの屋外駐輪場のキャノピーは設計段階で煙感知式火災探知器が設置されておらず、後から配線して追加設置することが難しい。このような場合は、独立型煙感知式火災警報探知器の設置を推奨する。この装置は火災の初期に高デシベルの警報音を発し、駐輪場内および周辺の人々に迅速な対応を促すことができる。さらに、警報システムを管理プラットフォームと連動させることで、登録された管理者の携帯電話へ警報メッセージを自動送信することも可能である。
電動自転車が突発的に出火した場合、火災初期に火源が特定できれば、適切な初期消火行動を取ることが極めて重要である。
発生から2〜3分以内に消火できれば、火勢を制御できると考えられる。
電動自転車が車庫や駐輪場内に駐輪されている場合、1台でも発火すると火勢が急速に拡大し、制御不能に陥るおそれがある。そのため、できるだけ早い段階で初期消火を行うことが重要である。
以下に、一般的な消火方法を示す。


リチウム電池は内部で反応が継続して発熱し、再燃しやすい特性を有する。このため、持続的に放水しながら消火・冷却を行うことが望ましい。また、電動自転車火災の燃焼特性を踏まえると、火災初期に火勢を抑える手段としては自動消火方式が最も安全かつ有効である。
自動消火の観点からは、簡易スプリンクラーシステムの導入が推奨される(図7参照)。簡易スプリンクラーは、散水ヘッド・配管・給水設備などで構成され、公共水道または施設内の給水管網に接続される。周囲温度が68℃に達すると、散水ヘッド内のガラス球が熱で破裂し、配管内の高圧水が噴霧されて消火を行う仕組みであり、市政または室内の消防給水管網から継続的に給水されるため、火勢を効果的に制御できる。


AI技術の普及に伴い、今後は技術的予防(テクノロジーによる予防)を通じて、電動自転車のスマート管理を実現することが可能になると考えられる。例えば、残留電流保護装置、スマート充電装置、電気火災監視システム、映像監視、火災画像検知など、先進的なスマート消防技術・製品・対策を積極的に導入することが推奨される。
また、AI監視カメラと連動したシステムを用いることで、煙・火炎・温度などの異常をリアルタイムで監視することが可能となる。また、異常を検知すると、システムが即座にプラットフォームを通じて警報を発し、管理者に通知することで、初期火災を迅速に制御できる体制を構築できることも考えられる。
また、充電面ではAI充電制御システムを導入することで、電動自転車の充電電力を自動識別し、最適な充電効率に合わせて制御することが可能となる。さらに、バッテリーが満充電になると自動で充電を停止し、火災を検知した場合には充電エリア全体の電源を自動的に遮断するなど、高精度で安全性の高いスマート充電管理が実現可能と考えられる。


電動自転車の火災リスク対策は、開発・製造・使用・管理・保守・駐輪場所の設置といった、すべての工程を含む全連鎖的な管理を必要とする。その責任主体は、政府・関係部門・事業者・利用者の四者で構成される。
要するに、電動自転車の火災リスクに対応するためには、「予防を基本とし、技術的防御・物的防御・人的防御を組み合わせた総合的な管理体制」を構築することが重要である。
そのためには、政府による基準の整備と監督体制の強化が不可欠である。製品開発段階から耐火・防火性能を考慮した精密な火災リスク分析と評価を導入し、高い品質基準と厳格な出荷・市場参入条件を設定することで、製品の品質および火災リスク面での信頼性を確保し、火災予防の取り組みを製品供給の前段階にシフトすることが求められる。
さらに、電動自転車の火災に関する教育や、安全な駐輪・充電方法などの消防知識の普及活動を家庭や利用現場まで広げ、利用者の防火意識と火災への予防・対応能力を高める必要がある。
このように、行政・企業・利用者の多方面が連携して取り組むことによってこそ、電動自転車火災事故の発生を効果的に抑制することができる。
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COP30をわかりやすく解説 脱炭素経営に取り組む企業が注目すべき今後の動向とは?
COP30の開催前の2025年2月は、各国が、10年後の2035年の温室効果ガス(以下、GHG)の削減目標「国が決定する貢献(Nationally Determined Contribution、NDC)」の提出期限でした。
これは、パリ協定※1の締約国はNDCを「国連気候変動枠組条約事務局(UNFCCC)」に5年ごとに提出・更新することが求められているためです。
※1 パリ協定…2015年にフランス・パリで開催されたCOP21で採択された2020年以降の地球温暖化対策に関する国際的な枠組み。「世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求すること」が掲げられている。なお、COPの後にある数字は開催回数を示していて、COP30は30回目の会議。
しかし、2025年2月10日の締め切りの時点で提出したのは、全締約国のうちわずか13か国だったため提出期限は9月まで延長されましたが、3割程度にとどまりました。アメリカにおいてはトランプ大統領がパリ協定からの離脱を通告したこと、EUでは目標設定に当たって加盟国間にて対立が起こったことが、各国の提出遅延につながりました。
こうした中、日本は2025年2月18日に新たなNDCを提出して、COP30では脱炭素社会実現に向けて着実に歩みを進めていることを発信しました。また、温室効果ガス観測衛星(GOSAT)をはじめとした最新システムの紹介や、各国閣僚との会談を通じ、日本の先進性をアピールしました。
COP30の成果としては、「ベレン・ポリティカル・パッケージ」が発表されて、特に関心の高い気候変動対策に関する緩和策や、資金に関わる包括的な内容を含む「グローバル・ムチラオ決定」が採択されました。(「ムチラオ」とは、ポルトガル語で「共同作業・協働・共に働く」という意味です)
このなかでは、気候変動対策の実行への移行が強調され、特に、次の点が決定されています。

COP30ではパリ協定から10年の節目ということもあり、GHGの排出量を実質的にゼロにする「ネットゼロ」に向けて様々な議論がされました。
2年前に開かれたCOP28では、2050年までにネットゼロを達成するために化石燃料からの移行を加速させることや、各国ごとに異なる道筋を考慮したうえで分野別に排出量削減に貢献するなどの明言がされています。
一方、今回のCOP30では、ネットゼロに向けた脱炭素へのロードマップについて多くの国々の賛同を得たものの、産油国などの反対により合意には至らず、枠組みの方向性の確認に留まっています。
これらを考慮すると、世界全体でのGHG排出量削減は、国単位での脱炭素取組に委ねられる部分が大きくなると予想されます。
企業の皆さまとお話ししますと、アメリカにおける「脱・脱炭素」への方向転換などの世界的な潮流から、自社の脱炭素の取組み方に悩みをお持ちの印象を受けます。
しかし、サステナビリティ基準や排出権取引の適用が迫り、かつCOP30でネットゼロに向けた立場を改めて明確にした日本では、今後は今までと同等かそれ以上に、脱炭素が求められる社会になると考えられます。
こうした中では日本の企業の皆さまは、引き続き脱炭素経営を推進していくことが求められます。
COP30のような国際会議での議論を踏まえると、企業としてできることには限りがあると感じるかもしれませんが、例えば、事務所におけるこまめな消灯、空調の設定温度の調整などは立派な省エネ活動です。
ただし、省エネ活動に取り組んでも、どの程度会社としてGHG排出量を削減できているかを“見える化”できていないと、脱炭素経営としては不十分です。
第一歩として自社の排出量の“見える化”を行い、自社の“現在地”を明確化することが、脱炭素経営の近道であり、重要な取り組みとなります。
今回のCOP30の開催を機に、皆さまもいっそうの脱炭素経営の実践に踏み出してはいかがでしょうか。
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経済産業省がPSアワード2025の受賞企業を発表
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【終了】労働災害防止への「組織安全」の活用策 ~さらなる労働災害の防止に向けた施策展開へのヒント~
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