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中国での風水災の広域化を踏まえた企業のリスク対策【中国風険消息(中国関連リスクニュース 2025年7月)】
近年中国においても、天候の不順や異常気象が取りざたされるようになった。中国では台風の上陸シーズンは7月から8月にピークを迎えるが、2024年は9月16日に台風13号(バビンカ)が上海に上陸した。この台風は過去70年で最も強い勢力で上陸し、強風と豪雨により都市部の広範囲で浸水や停電が発生する事態となり、経済損失は2300億元(約4.6兆円)に達した。
また、翌週の9月19日には台風14号(プラサン)が浙江省に上陸した。勢力は強くはなかったものの、南からの湿った空気と北からの寒気を伴った気圧の谷の影響により、大雨をもたらし、各地に大きな被害を及ぼした。




また、表1は昨年中国気象学会と全国暴雨研究センターが主催した「暴雨東湖フォーラム」で中国気象科学研究院の徐祥徳氏が発表した中国国内の十大異常気象に関するものである。
| 事例 | |
|---|---|
| 1 | 华南大暴雨引发北江罕见大洪水 (華南地域における豪雨により北江で稀発の大規模洪水が発生) |
| 2 | 龙门港小时雨强破广西历史极值 (龍門港における時間当たり降雨量が広西壮族自治区の観測記録を更新) |
| 3 | 入梅强降雨导致安徽歙县等地极端暴雨洪涝 (梅雨期の強雨により安徽省歙県を含む地域で集中豪雨および洪水災害が発生) |
| 4 | 持续梅雨诱发长江中下游大面积洪水 (断続的な梅雨前線の活動により長江中・下流域に大規模洪水を誘発) |
| 5 | 北方首场大暴雨,黄淮旱涝急转 (北部地域で大規模豪雨を観測し、黄淮地域において干ばつから洪水への急激な気象転換が発生) |
| 6 | 极端特大暴雨肆虐黄河中下游 (黄河中・下流域において極端かつ記録的な豪雨が襲来) |
| 7 | 台风“格美”携雨袭击湖南等省 (台風「格美」が湖南省等複数省に豪雨をもたらし被害を及ぼす) |
| 8 | “七下八上”强降水绵延数千公里 (「七下八上」と呼ばれる強降水帯が数千キロにわたり持続的に展開) |
| 9 | 葫芦岛遭遇罕见暴雨,创历史之最强 (葫芦島市で観測史上最強の豪雨を記録) |
| 10 | 台风“贝碧嘉”创登陆上海最强纪录 (台風13号(バビンカ)が上海市に上陸した台風として最強の記録を樹立) |
出典:中国科技网 2024年全国十大暴雨事件发布
https://www.stdaily.com/web/gdxw/2024-10/21/content_245535.html
2024年に中国で発生した風水災事例からは、従来、主に広東省や福建省など華南地域を中心に発生していた風水災が、長江流域や黄河流域、さらには華北・東北地域にまで広範囲に拡大していることが確認される。これは、地域を問わず中国全土が風水災リスクに晒されている状況を示している。
また、観測記録を更新するような豪雨や台風が相次ぎ、気象災害の激甚化・極端化・多様化が進行している。都市部への直接的な影響や、局地的かつ広域的な降雨の同時発生も特徴的であり、従来の想定では対応しきれない局面が増えている。
こうした状況を踏まえると、企業においては建物・設備の整備に加え、立地や拠点特性に応じた平常時からのリスク評価と、BCP(事業継続計画)に基づく対応体制の構築・運用が不可欠であるといえる。
風水災に備えるうえで、企業が講じる対応は大きく分けて「① ハード面(物理的な備え)」と「② ソフト面(管理体制・運用面の対応)」の2つに分類される。この2つの観点に加えて、対応のタイミングを「A 平常時(発災前)」と「B 発災直前(災害発生の予兆・警報段階)」の時系列で区分することにより、具体的な対策の整理と実施判断がしやすくなる。
以下の表2は、それぞれの観点とフェーズにおける対応領域を整理したものであり、企業が自社の対応状況を確認・評価する際の基本的な枠組みとなる。
| 対応の観点 | 対応フェーズ | ||
|---|---|---|---|
| A 平常時 | B 発災直前 | ||
| ① ハード面 | 建物 | ○ | ○ |
| 貨物 | ○ | ○ | |
| 施設設備 | ○ | ○ | |
| ② ソフト面 | 管理 | ○ | - |
以降にハード面及びソフト面におけるフェーズ毎の具体的な対応について解説する。
風水災による被害を軽減するうえで、企業がまず講じるべきは、建物・施設設備・貨物といったハード面の脆弱性の把握と改善である。強風や浸水、飛来物といった外的要因に備え、日常的な点検・保守に加えて、緊急時に備えた資機材の準備や配置の見直しを行うことが重要である。
とりわけ、事前の対策が不十分な場合、物的損害が拡大するだけでなく、業務停止や復旧の長期化を招くリスクが発生する。ハード面での対策は、平常時の備えと発災直前の行動に分けて整理し、各観点に応じた具体的な実施項目を明確にしておくことで効果的となる。
以下に、「建物」「施設設備」「貨物」の3つの観点に分け、企業が講じるべき具体的な対応を示す。
平常時においては、建物や設備の脆弱性を日頃から把握し、点検・整備を継続的に行うとともに、補強・修繕を適切に実施することが求められる。また、風水害発生時の被害を最小限に抑えるために、開口部の封鎖措置、排水設備の維持管理、屋外物の固定・撤去など、事前に講じておく必要がある。
また、風水害の発生が目前に迫った段階においては、人的・物的被害の発生を防ぐために、建物の開口部や構造の保全を最優先で実施する必要がある。平常時に準備した対策を、迅速かつ確実に実行できるかが、被害の程度を大きく左右する。
特に、建物内部への浸水を防ぐために、止水板や土のうの確実な設置が不可欠である。また、窓・ドア・シャッターなどの開口部は確実に閉鎖・施錠し、強風による開放や飛来物の侵入を防止することも重要である。
以下に、建物に関する平常時および発災直前の対応項目を示す。
| チェック | 項目 | フェーズ | |
|---|---|---|---|
| 平常時 | 発災 直前 | ||
| □ | 建物入口に設置する止水板・土のうを準備しているか。 | ○ | |
| □ | 排水設備、屋根の排水口、構内の排水溝等の清掃を定期的に行っているか。 | ○ | |
| □ | 屋根材の破損や材質の劣化、留め具の腐食・緩みがないか確認のうえ、補修 を行っているか。 | ○ | |
| □ | 窓・ドア・シャッターに破損(ひび割れ、がたつきなど)や劣化がないか確認のう え、必要に応じて補修を行っているか。 | ○ | |
| □ | 窓枠や蝶番、鍵などの建物の接合部に錆や劣化は生じていないか。 | ○ | |
| □ | 開口部や隙間がある部分は塞いでいるか。 | ○ | |
| □ | シャッターに取り付ける補強用支柱を準備しているか。 | ○ | |
| □ | 屋根の看板、排気ダクト、吊り物などが補強されているか。 | ○ | |
| □ | 幟(のぼり)の撤去、カーポート、植栽などが補強されているか。 | ○ | |
| □ | 止水板・土のうを建物入口に設置しているか。 | ○ | |
| □ | 窓・ドア・シャッターなどの開口部は確実に閉鎖し、施錠を行っているか。 | ○ | |
| □ | 窓ガラス等の破損しやすい箇所にはテープ等で養生を行っているか。 | ○ | |
| □ | シャッターに取り付ける補強用支柱を設置しているか。 | ○ | |
風水害の影響を受けるのは建物本体だけではなく、敷地内に設置された設備やインフラ機器、付帯物も例外ではない。施設内外の設備が破損・流出・浸水などの被害を受けた場合、事業活動の停止や安全性の喪失、環境汚染等の二次被害につながる可能性がある。
これを防ぐには、設備類の構造的な脆弱性を把握し、定期的な点検と予防的な対策を講じておくことが重要である。
また、屋外に設置された設備に関して、断熱材や保護材の劣化による性能低下や破損リスクにも留意し、発見した場合、早期に補修を実施するといった対応も重要である。また、有害物質を含む機器・設備については、漏洩防止の観点から保守点検や管理体制の整備も不可欠である。
風水害の接近が明らかとなり、発災が目前に迫った段階では、施設内外の設備や機器に対する被害の拡大防止と安全確保を最優先にした対応が求められる。設備の破損や漏電、飛散物の発生は、人的被害や事業中断を引き起こすおそれがあり、直前の行動が被害規模を大きく左右する。
まず、屋外にある飛散の恐れがある資材・設備等は速やかに建物内へ移動または撤去し、強風による事故を防止する必要がある。また、地下施設への浸水リスクにも備え、出入り口を確実に閉鎖することも重要である。
社有車やフォークリフトなどの車両についても、浸水の恐れがある場所から高所へ事前に移動し、被害を回避する措置を講じておく必要である。さらに、事前の電源遮断は漏電や機器損傷を防ぐ最も有効な手段であり、特に水回りや電気設備が集中するエリアにおいて、安全な手順での遮断手順の確立と実行が不可欠である。
以下に、施設設備に関する平常時および発災直前の対応項目を示す。
| チェック | 項目 | フェーズ | |
|---|---|---|---|
| 平常時 | 発災 直前 | ||
| □ | 飛散物となるような不要物は撤去しているか。 | ○ | |
| □ | 屋外の消火設備、表示板、ゲートバー、空調機などの小型設備は確実に 固定されているか。 | ○ | |
| □ | 排水設備(排水ポンプ)を設置しているか。 | ○ | |
| □ | 排水ポンプ、非常用発電機用の燃料が十分確保されているか。 | ○ | |
| □ | 機器・設備の損傷や有害物質の流出・漏洩防止の為、生産設備や貯蔵設 備の保守点検を実施しているか。 | ○ | |
| □ | 屋外設備を被覆している断熱材は劣化していないかの確認のうえ、補修 を行っているか。 | ○ | |
| □ | 飛散物となるようなものは建物内の安全な場所に移動、あるいは撤去しているか。 | ○ | |
| □ | 地下施設の出入り口を閉鎖しているか。 | ○ | |
| □ | 社有車、フォークリフトなどの車両を高所へ移動させているか。 | ○ | |
| □ | 事前に電源系統を遮断し、浸水による漏電や突発的な停電による機器の 損傷防止対策を講じているか。 | ○ | |
風水害の発生時には、浸水や漏水、飛来物の衝突などにより、製品や原材料といった重要な財物が損傷を受けるリスクがある。こうした損害は、単なる物的被害にとどまらず、事業の中断、納期遅延、取引先からの信用失墜といった経営上の深刻な影響に発展する可能性がある。
このような被害を未然に防ぐためには、財物の保管場所や方法に関するルールを平常時から整備し、実行可能な形で運用することが重要である。あわせて、浸水リスクなどを想定した保管エリアのリスク評価を定期的に実施し、課題を可視化・改善することが、被害の軽減に直結する。
また、風水害の発災が差し迫った段階では、製品や原材料、屋外保管中の貨物などを迅速かつ確実に安全な場所へ移動・保全する対応が被害最小化の鍵となる。特に物流拠点や倉庫、工場などでは、貨物の流出・浸水・破損が事業継続に大きな支障を与えるため、直前の対処の確実性が極めて重要である。
具体的には、構造的に脆弱な簡易建物内には重要財物を保管しないことが原則である。やむを得ず屋外に保管する場合でも、防水シートやビニールシートで覆い、しっかりと固定するなどの処置が必要である。
また、屋内においても、排水管の真下や窓際など、被災リスクの高い場所での保管は避け、可能であれば上階や高所への一時移動を検討することが望ましい。特に、低地に立地する施設では、事前の移送や仮保管の準備が、損害の回避に大きく寄与する。以下に、貨物に関する平常時および発災直前の対応項目を示す。
| チェック | 項目 | フェーズ | |
|---|---|---|---|
| 平常時 | 発災 直前 | ||
| □ | 簡易建物内には製品、原材料、ユーティリティ関連設備、生産設備などの重 要財物を保管しないようにしているか。 | ○ | ○ |
| □ | 屋内の財物を窓から十分な距離(少なくとも0.5m)を取った場所に保管し ているか。 | ○ | ○ |
| □ | 屋内排水管の下などに重要な財物を保管しないようにしているか。 | ○ | ○ |
| □ | 製品等の重要な財物・屋外の保管貨物を建物内の安全な場所に移動させて いるか。 | ○ | |
| □ | 低地に設置している倉庫、作業場では事前に各種設備や製品を可能な限 り高所(上階)へ移動させているか。 | ○ | |
| □ | 屋外に保管せざるをえない貨物や資材には、風雨から守るためのビニー ルシートや防水シートで覆い、固定を行っているか。 | ○ | |
風水害への対策においては、建物や設備のハード的な備えに加え、的確な情報収集と迅速な意思決定・対応体制の構築が不可欠である。近年は台風や集中豪雨といった気象災害が突発的かつ局地的に発生し、その影響範囲も拡大傾向にあることから、状況の急変に即応できる柔軟な管理体制が求められている。
そのためには、中央気象台等が発表する最新の予報情報や進路予測を定期的に収集・共有し、的確な判断ができる情報基盤を平常時から整えておくことが重要である(表7 参照)。
さらに、あらかじめ事業継続計画(BCP)を策定し、風水害を含む複数のリスクを想定した対応方針・判断基準・行動手順を明文化しておくことで、現場の混乱や対応の遅れを最小限に抑えることができる。BCPには、①重要業務の特定、②代替手段・資源の確保、③発災時の指揮命令系統、④外部関係者との連携体制に加えて、⑤事業復旧に向けた優先順位付けや目標復旧時間(RTO)の設定を含めることが重要である。
特に風水害のように広域かつ長時間にわたる影響が予想される災害においては、業務の全面再開までに要する時間を見越し、段階的な復旧手順(業務再開のシーケンス)を明確にしておく必要がある。被災拠点での対応が困難な場合には、代替拠点の活用や外部委託の一時的拡張なども含め、柔軟なリカバリープランの検討が求められる。
BCPは単なるマニュアルではなく、業務中断を回避または最小限にとどめ、重要業務を優先的に継続・復旧させるための戦略的な指針として機能するものであり、事前の教育や訓練を通じた実効性の確保が不可欠である。
BCPに基づき、責任と権限を明確にした緊急対応チームや対策本部を設置・運営することで、各部門の連携や行動判断の迅速化が図られ、より的確かつ統制の取れた初動対応につながる。こうした管理体制の整備は、発災直前や災害発生後の混乱を回避するとともに、従業員の安全確保とともに、事業の早期復旧・持続的な継続を可能とする基盤となる。
以下に、ソフト面に関して対応しておくことが望ましい事項を示す。
| チェック | 項目 | フェーズ | |
|---|---|---|---|
| 平常時 | 発災 直前 | ||
| □ | 自社建物(施設)の状況や敷地内の相対的に水が溜まりやすい箇所(土 地が低い箇所、排水菅の径が不十分な箇所など)を把握しているか。 | ○ | |
| □ | 自社周辺の近隣建物の状況や周辺の河川状況や過去の増水記録を把握し ているか。 | ○ | |
| □ | 台風の予想進路と中央気象台等が発表する予報を定期収集しているか。 | ○ | |
| □ | BCP(または緊急時対応計画)に基づき、役割と責任・権限を与えた緊 急対応チームや対策本部を設置しているか。 | ○ | |
| 名称 | URL | QRコード※ |
|---|---|---|
| 中央気象台 ① 気象災害予警 ② 台風網 | ①http://www.nmc.cn/publish/country/warning/typhoon.html ②http://typhoon.nmc.cn/web.html | ![]() ② 台風網 |
| 上海发布 | ― | ![]() |
| 上海天气发布/ 上海天气 | https://sh.weather.com.cn/ | ![]() |
| 上海市天气微博 | https://weibo.com/u/2635818911 | ![]() |
| 上海知天气APP | ― | ![]() |
※QRコードはWeChatで読み込む必要あり
本稿で述べた通り、風水災は地域や季節を問わず発生し得るリスクであり、企業活動に深刻な影響を及ぼす可能性がある。近年では、その被害の広域化・激甚化が一層顕著となっており、従来の「災害対策」にとどまらず、事業継続(BCP)の観点からも、平常時の準備と発災直前の対応力が問われる時代となっている。
当社では、こうした風水災リスクをはじめとする自然災害に備えるため、現場の実態に即したリスクサーベイの実施を通じて、施設や運営面の脆弱性を可視化し、それぞれの拠点に応じた具体的な対策をご提案している。また、BCPの策定・改訂支援や、緊急時対応訓練の設計・実施支援などにも豊富な実績を有しており、災害対応力の実効性向上に向けた多面的なサポートを提供している。
風水災への備えは、過去の想定や慣習にとらわれず、最新の知見や被災傾向を踏まえて、「想定外をなくす」ための不断の見直しと実践が鍵となる。
本稿が皆様の防災・減災への取り組みに少しでも寄与できれば幸いである。ご不明点やご相談があれば、ぜひ当社、または損害保険会社営業担当者を通じてお気軽にお問い合わせいただきたい。
【参考資料】
※1)《中国気候公報(2024)》,中国気象局
https://www.cma.gov.cn/
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「脱炭素経営ワークショップ」地域・サプライチェーン全体の脱炭素推進を支援する実践型プログラム
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企業と自然の関連性についての基礎的理解 【リサーチレター(2025年12月)】
近年、これまで顧みられてこなかった、自然資本(自然環境の価値、詳細は後述)に注目が集まっている。実際、世界の総GDPの約半分は、自然に依存した産業から生み出されているという。
しかし、人間による過度な「依存」により、自然資本は継続的に減少している。【図表1】は1992年から2014年までの、世界の1人当たりの富の推移を示したグラフだ。人間の活動によって生み出される人工資本や人的資本が増え続ける一方、自然資本は減り続けているのがわかる。


(出典:WWFジャパン「日本語版 生物多様性の経済学:ダスグプタ・レビュー -要約版」)
こうした背景から、自然資本は「限りあるもの」として認識されるようになってきている。そして現在の状況を好転させ、持続可能な社会や経済活動を構築するために「ネイチャーポジティブ」(後述)への移行が求められている。
この危機感は、ビジネスの世界にも確実に伝わっている。世界経済フォーラムが発表した「グローバルリスクの長期的深刻度ランキング」【図表2】では、今後10年間の深刻なリスクについて上位4つを環境に関するものが占め、フェイクニュースや AI、社会の分断よりも深刻と捉えられている。さらに、2025年単年のリスクランキングでは異常気象が2位、短期的リスクランキング(今後2年間)では異常気象と汚染がそれぞれ2位、6位となった。このように、あらゆる時間軸において、気候や自然が企業を取り巻く重大なリスクと認識されている。
| 順位 | リスク |
|---|---|
| 1 | 異常気象 |
| 2 | 生物多様性の喪失と生態系の崩壊 |
| 3 | 地球システムの危機的変化 |
| 4 | 天然資源不足 |
| 5 | 誤報と偽情報 |
| 6 | AI技術がもたらす有害事象 |
| 7 | 不平等 |
| 8 | 社会の二極化 |
| 9 | サイバー諜報活動とサイバー戦争 |
| 10 | 汚染 |
(「2025年最大のリスクは紛争、今後10年では異常気象 世界経済フォーラムのグローバルリスク報告書」より筆者作成)
前述の通り、人間の経済活動は自然資本を大きく棄損している。その影響は、企業やビジネスのあらゆる場面に及ぶ。そのため、利益の追求だけではなく、自然資本を損ねない経営をする必要性が増している。また、自社の操業だけでなく、バリューチェーン全体の問題にも対応しなければならない。それと同時に、ビジネスの機会も生まれている。他にも、「自社と自然資本の関係性についての情報を開示し、資金を呼び込む」という流れもある。
TNFD(後述)によると、自然に関連するリスクは3種類に分かれる。物理的リスクは自然環境の変化による被害を指し、急性(山火事など突発的)と慢性(気候変動など徐々に進行)の2つがある。
また、移行リスクは自然資本の損失により経済や社会が変化し生じるもので、政策、市場、技術、評判、賠償責任の 5 つがある。最後のシステミックリスクは生態系や金融システム全体の崩壊リスクで、生態系の安定性リスクと金融安定性リスクに分かれる。安定性リスクと金融安定リスクが顕在化すると、企業や金融機関にも大きな影響がある。また、こうした自然に関連するリスクへの対応について、SBTN(Science Baced Targets Network)※1は「回避」「軽減」「復元・再生」「変革」という優先順位を定めている。
対して、自然関連の機会については「企業のパフォーマンス」と「持続可能性パフォーマンス」に分類される。前者には市場の拡大や資金調達の改善、資源を使用する効率の向上、新商品開発、評判向上が含まれる。一方、後者には資源の持続利用や生態系保護がある。
また、先述のように企業によるネイチャーポジティブに向けた取組みは、資金調達にも結び付いている。その代表例がESG投資だ。これは環境(E)・社会(S)・企業統治(G)を考慮した投資のことで、2006年の国連PRI(国連責任投資原則)による提唱以降、世界的に普及した。日本では2015 年にGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が署名したのを契機に拡大し、企業の気候変動対策や自然資本への取組みが資金調達に影響を与える一因になっている。
自然保護活動が奨励される一方で、自然を棄損し続ける企業や事業に対する資金の引き上げ(投資の撤退等)も起きている。近年は「社会へ、どれだけ具体的な良い影響を与えられたか」を重視するインパクト投資も広がっている。
※1)企業や都市などが科学的な根拠に基づき、自然を守るための目標(SBTs for Nature〈Science-based Targets for Nature〉:自然のための科学的根拠に基づく目標)を設定できるように支援する目的でつくられた国際的なネットワーク
TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)は2021年に設立された国際イニシアティブである。企業による自然や生物多様性への影響を評価・開示する枠組みを提供し、ネイチャーポジティブを促進する。2023年9月に開示枠組みv1.0を公表し、これまで開示を実施またはその意向を表明した企業は620社を超えている。MS&ADグループはタスクフォースにメンバーを輩出するとともに、TCFD と統合したレポートを発表している。
このほかにも、SBTNは企業に対する科学的根拠に基づく自然保護目標の設定を支援し、TNFDと連携している。また、GRI(Global Reporting Initiative)やCDP、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)といった既存のサステナビリティや気候変動に関する開示を主導してきた団体も、自然に関連する開示基準の策定に向けて進んでいる。
企業はまず、自社が自然へ頼っている要素や受けている恩恵である「依存」と、自然に与えている変化である「影響(インパクト)」を分析することから始める。前者の例としては、原料を生産するための土壌や気候、工場を操業するための水などが考えられる。一方、後者では農薬や化学薬品の利用、事業所や工場の建設による環境の変化、水の利用で生じる河川や地下水の水位変化、などの例がある。これらを踏まえると、「依存を減らす」「負の影響を緩和させる」「自然資本を保全する」といった対策を検討できる。
戦略を進める前には、自社の拠点がある地域ごとの状況を踏まえ、優先的に対策すべき箇所やサプライヤーを評価することも重要である。バリューチェーン全体の自然関連リスク把握は困難なことが多く、より重要な拠点を優先的に対処することが求められる。気候変動対策における温室効果ガスの排出削減とは異なり、ある地点での自然資本の棄損は、ほかの地域の自然資本回復では賄うことができない(「ロケーション」の概念)。
企業によるネイチャーポジティブ戦略では、再生素材や持続可能農法の導入、省資源化、保全活動の事例が多い。調達元と協働するケースも増えており、従来のイメージ戦略の範疇を超え、「資源が枯渇する、もしくは調達できなくなる」という物理的リスクを回避するための戦略実行になりつつある。どうしても排除しきれない自然への負荷を相殺する方法として、クレジット等の活用も検討されている。
「自然は大切にしなければいけない」という感覚自体は、比較的容易に共感を得られるだろう。ただ、それとは裏腹に「ビジネスとして取り組む意義・必要性」や「本業との関連性」などといった点が、企業内の理解を得るにあたり難しいポイントとみられる。
自然資本とは、水(淡水・海水)、森林、土壌、大気、天然資源といった、自然によって形作られる資本のこと。しかし、前述の通り、人間の過度な利用により自然資本は減少し、生物多様性も大幅に低下している。この状況を受け、著名な経済学者のパーサ・ダスグプタ氏は「自然資本の有限性から逃れられる前提で、この資本を使い続ける(=人間は、自然の外部に存在すると認識する)ことをやめるべきだ」と主張した。そして、人間は自然(生物圏)の中に組み込まれているという理解のもと、「生物圏の保全と回復を最優先課題とすべき」とした。
自然資本というストック(=特定の時点での財の量)から、私たちは便益をサービスフロー(=一定期間での動きのこと)という形で享受している。このフローは「非生物的サービス」と「生態系サービス」に大別できる。前者は石油、天然ガス、鉱物や気象など生物や生態系以外の資源から供給される。一方で生態系サービスは生物や生態系に由来しており、さらに「基盤」「供給」「調整」「文化的」の4種類に分類される。
基盤サービスは酸素や栄養循環を生み出す、あらゆる生物が生存するための元となっている。供給サービスは食料や素材、医薬品の原料など、私たちの衣食住を支えている。調整サービスは森林が持つ気候の安定や災害防止の効果、昆虫による花粉媒介などが該当する。文化的サービスは世界各地の文化や風土、価値観を育んでおり、精神的豊かさや観光、教育効果をもたらす。これらの生態系サービスは、「生物多様性」によって成り立っており、自然資本の健全な維持に不可欠である。
地球には、科学的に認められた種だけでも約 180 万種の生物が存在するとされている。こういった多種多様な生物の存在(=生物多様性)によって育まれる環境が生態系サービスの元となり、人の生命や、暮らしを支えている。
生物多様性は「遺伝子」「種」「生態系」の3つの多様性で成り立っているされる。遺伝子の多様性は、同じ種の中に様々な遺伝子を持った個体がいるということで、環境適応や免疫力向上につながっている。種の多様性は、広くイメージされる生物多様性に最も近く、多種多様な種が存在することを指す。これは、食物連鎖や送粉関係など生態系や自然環境の維持に重要である。生態系の多様性は、多様な環境が存在することで、これにより数多くの生物が生存できる。
地球では過去5回の大量絶滅があったが、現在は人間活動により「第6の大量絶滅」が進行しているとされているほど危機的な状況である。日本では生物多様性減少の原因として、①人間活動による生息地破壊・乱獲、②自然管理の減少、③外来種や化学物質の影響、④温暖化などによる地球の環境変化の4つの危機が指摘されており、幅広い対策が求められている。
2020年に「A Nature-Positive World:The Global Goal for Nature」という論文で提唱された、自然の損失を止め、回復させるための国際的な目標。その定義は「(2020年を基準に)2030年までに自然の損失を止め、反転させる。そして、2050年までに完全回復を達成する」というものである。
【図表3】のタテ軸は自然の状態、ヨコ軸は時間を示している。この図の通り、2020年以降に自然を損失する活動を停止し、2030年までには回復基調にのせる(NET POSITIVE)。そこから回復を続け、 2050年には回復を完了させる(FULL RECOVERY)。2020年時点で相当な自然の棄損があったと考えるため、2050年時点のグラフの数値ははるか上方になる。
論文の発表後、2021年5月に行われたG7首脳サミットのコミュニケ(公式声明・共同声明)付属文書で、この「ネイチャーポジティブ」は言及された。その後、関連する国際会議や政策にまつわる場、ビジネスの現場においても頻繁に用いられるようになった。そして、経済から社会、政治、技術までのあらゆる分野で現状の改善を促し、自然が豊かになっていくプラスの状態にするための目標として、この言葉が使われている。


出典:Harvey Lockeほか(2021)「A Nature-Positive World: The Global Goal for Nature」
生物多様性条約(CBD)は1992年に採択された、生物多様性の保全と持続可能な利用、遺伝資源の利益の公正な分配を目的とする国際条約である。加盟する194か国の間で2年ごとに締約国会議(CBD COP)が開かれ、国際目標を設定し、生物多様性保全の進展を図っている。
現在の国際目標は、2022年12月に採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組み」である。この中では2030年までの行動目標を定めているほか、2050年に向け「自然と共生する世界」をビジョンとして掲げている。2050年目標は「生物多様性保全」「持続可能な利用」「遺伝資源の公正配分」「実施手段の確保」の4つのグローバルゴールに分かれ、2030年までのグローバルターゲットの23 項目が3つのセクション(「生物多様性への脅威を減らす」「人々のニーズを満たす」「実施と主流化のためのツールと解決策」)に分類される。
生態系の保全だけでなく、企業による事業活動や投資への配慮やジェンダー平等、先住民の参画なども重視されている。
自然のもつ多機能性を活かし、生物多様性や気候変動、防災、食料、人間の健康など複数の社会課題を同時に解決する取組みである。2009年にIUCN(国際自然保護連合)が提唱した。自然や生態系の保護・管理・再生を通じて、人間と生物多様性に利益をもたらすことが期待されている。NbS は、これまでの「生態系を基盤とした防災減災アプローチ(Eco-DRR)」「気候変動適応策(EbA)」「グリーンインフラ」など複数のアプローチを統合する大きな概念である。ただし、IUCN の定義では、自然エネルギー(風力や太陽光など)や自然に着想を得た製品は含まれない。
NbSの事例として、防災では湿地再生や雨庭による、洪水抑制と生物多様性向上の両立が挙げられる。雨庭は、京都府や東京都(含む当社グループ駿河台緑地)、熊本県などで導入が積極的に進められている。福祉分野では、シンガポールが国家的に進めた緑地と歩道整備による健康増進と環境保全の両立がよく知られている。地域振興に関しては、ニューヨークの空中公園や日本で行われている都市部での養蜂プロジェクトなどがある。
政策面では、国土交通省(以下、国交省)が「グリーンインフラ」としてNbSを推進している。同省はこれについて、「社会資本整備や土地利用等のハード・ソフト両面において、自然環境が有する多様な機能を活用し、持続可能で魅力ある国土・都市・地域づくりを進める取組」と定義した。国交省の資料では、グリーンインフラの対象地域を都市部、郊外部、農山漁村部としており、方策として先述した都市緑化や雨庭、水田貯留なども紹介しているため、ほぼ NbS と同義で用いられていると捉えられる。2015年に初めて政府文書でこの言葉が用いられ、戦略策定などが実施されてきた。2020 年にはグリーンインフラの社会実装を推進する「グリーンインフラ官民連携プラットフォーム」が創設されたほか、2023年には「グリーンインフラ推進戦略2023」が策定されている。
自然資本・生物多様性と気候変動は相互に影響しあっている。土地利用の変化や温室効果ガス増加が生態系を悪化させる一方で、生態系の損失は気候変動を促進する。従来は別々に対策が取られてきたが、両者に効果的に統合された政策が求められている。その解決策としても、多面的な効果をもたらす NbS の考え方は重要となる。特に、再生可能エネルギーの導入や単一種の植林などは、生物多様性に悪影響を及ぼす場合もあり、両者の関係を慎重に見極めた取組みが必要とされている。
サーキュラーエコノミーは廃棄を前提とせず、資源を長く使い再利用する持続可能な経済モデルである。従来の「取る→つくる→捨てる」という一方通行(リニア)な流れをもつ経済とは異なる、持続可能性のある経済モデルとして世界中で注目されている。サーキュラーエコノミーを推進する、イギリスのエレン・マッカーサー財団は「ごみと汚染の排除」「製品と素材を(最高の価値で)循環させる」「自然の再生」の3原則を掲げている。例えば「自然の再生」では、環境や社会等へ配慮し
た持続可能な農業とそれに伴う生態系の改善という点で、自然保護や生物多様性の保全につながる。
2024年のCBD COP16に合わせ、TNFDは企業のネイチャーポジティブ戦略実行を支援する移行計画ガイダンスの草案を公表した。これは、企業がTNFDで分析、開示した内容をもとに、事業をネイチャーポジティブにしていく戦略を実行に移す計画(=移行計画)を策定、公表するためのガイドラインである。2025年内に最終版が出る予定で、今後企業による策定・公表が進む見込みだ。
一方で「自然の状態を定量化する指標が不足している」という課題に対し、ネイチャーポジティブ・イニシアティブ※2は「State of Nature Metrics」の開発を進めている。これは、これまで存在していた 600 以上の自然関連の指標を分析・整理した、自然を評価するための基礎となる指標ある。 2025年1月には、プロトタイプの一部が公開された。当社グループは東北大学などと連携し、熊本県でこの指標を検証するためのパイロットテストを実施した。こうした指標の開発により、企業による定量的で比較可能な開示が進むと期待されている。
※2)Nature Positive Initiative(NPI)。2023年設立。様々な自然保護団体や研究機関、企業等27団体が集まったイニシアティブ。「ネイチャーポジティブ」を推進し成果につなげるために、広く長期的な取組みを後押しする目的で設立された。中核機関にはIUCNやTNFD、WWF、PRIなどが名を連ねている
【参考文献】
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PLレポート 製品安全(2025年12月)
※PSとは…Product Safetyの略。
経済産業省は2025年11月27日、「令和7年度製品安全対策優良企業表彰(PSアワード2025)」の組織部門における受賞企業を発表しました。
本表彰は、経済産業省が製品安全に積極的に取り組んでいる企業から広く公募し、製品安全の先進的な取組を讃えることで、事業活動や消費生活において製品安全が重要な価値として定着し、社会全体で製品の安全が守られることを目的として毎年行っている制度で、今年で19回を迎えます。
本表彰では、各企業が扱う製品自体の安全性を評価するのではなく、企業・団体全体の製品安全活動に関する取組について評価します。
今年度の受賞企業7社は、以下のとおりです。
経済産業省のニュースリリースでは各社の受賞理由が掲載されています。また、表彰制度のホームページではこれまでの受賞企業と受賞理由が公開されており、製品安全実現のための課題への取組や、これらを実現してきた過程が示されています。自社の取組との比較検証、製品安全管理態勢の見直し・強化等に参考になるものといえます。
【参考情報】
経済産業省 ニュースリリース
https://www.meti.go.jp/press/2025/11/20251127002/20251127002.html
経済産業省 製品安全対策優良企業表彰(PSアワード)ホームページ
https://www.meti.go.jp/product_safety/ps-award/
経済産業省は2025年11月27日、「令和7年度製品安全対策優良企業表彰(PSアワード2025)」の製品部門(+あんしん)における受賞製品を発表しました。
「+あんしん」は、PSアワードの一環として今年度より新設されたものです。
高齢者やこどもなどによる誤使用や事故の未然防止に積極的に取り組んでいる企業から広く公募し、製品全体に対する本質的な安全性に「プラス」して、特定の誤使用等による事故を防ぐために対処・配慮した製品を対象に、特別なマークを表示し、消費者が安全な製品を選択できるようにサポートする制度です。受賞製品には、「+あんしん」ロゴが表示され、消費者に誤使用などによる事故の未然防止に役立つ機能を持つ製品であることが一目でわかる表示が行われます。


図「+あんしん」ロゴ
今年度、第1回の受賞製品は、以下の6製品で、同省のニュースリリースでは各製品の受賞理由などが掲載されています。
| 受賞商品 | 企業名 | 評価された主なリスク低減方策 |
|---|---|---|
| USBケーブル | エレコム株式会社 | コネクターの温度ブレーカーで、発熱を検知した 際に通電を遮断し、発熱のリスクを低減 |
| 蒸気レス 電気ケトル | タイガー魔法瓶 株式会社 | ふた内部に蒸気を水に変換する冷却通路を設け、 外部に蒸気を排出せずやけどのリスクを低減 |
| 遮断機式手すり | マツ六株式会社 | 手すりが自重で落下することを防ぐ衝動ストップ 機能(スイベルヒンジ)で、うっかり手を離した 場合に怪我を負うリスクを低減 |
| グリル付き ビルトインこんろ | リンナイ株式会社 | 大型ごとく化、周辺部品の黒色化、音声お知らせ 機能で着衣着火のリスクを低減 |
| ガスこんろ | 株式会社パロマ | バーナーの後方設置、着衣やモノの侵入を検知す るエリアセンサーで着衣着火のリスクを低減 |
| IHクッキング ヒーター | 日立グローバルライ フソリューションズ 株式会社 | 2層の遮熱層と冷却層を設けた3層構造とし、遮 熱層でグリル庫内の熱を遮断しながら、冷却層に 空気の流れをつくり、自然対流で暖められた空気 を排出することで、表面の温度上昇を抑制する 「温度低減ドア」でやけどのリスクを低減 |
事業者においては、「+あんしん」の受賞で、自社の製品が実現している誤使用・不注意による製品事故の未然防止対策を広く消費者に認知される機会となりえます。製品安全の取組について消費者へのアピールする機会として本制度を活用していくことは検討に値するでしょう。
【参考情報】
経済産業省ニュースリリース
https://www.meti.go.jp/press/2025/11/20251127002/20251127002.html
経済産業省製品安全対策優良企業表彰(PSアワード)+あんしんホームページ
https://www.meti.go.jp/product_safety/ps-award/risksystem/
相次ぐモバイルバッテリーの発煙・発火が大きなニュースとなり、ある事業者においては、対象台数が50万台規模となるリコールが行われています。消費生活用製品において、製品事故が発生した場合、企業のとるべき対応やその際の留意点は何なのか、今回のPLレポートではこれらを整理していきます。
製品事故発生時において、対応すべきことは、大きく分けると以下の3つです。
製品事故が発生し、人身被害や財産への拡大損害が発生している場合には、当該被害者に対してしかるべき謝罪対応が必要になります。自社製品起因はもちろんのことですが、自社製品起因であることが明らかではないとしても、社会的責任の観点で、被害者への対応が期待されます。当該時点では事実が確定していない状況であることがほとんどですが、法的責任を意識するあまりに被害者対応が遅れることは避けなくてはいけません。迅速な対応が以後の各種対応において円満な解決にもつながる可能性が高まります。
製品事故とは「消費生活用製品の使用に伴い生じた事故のうち、一般消費者の生命又は身体に対する危害が発生した事故消費生活用製品が滅失し、又はき損した事故であって、一般消費者の生命又は身体に対する危害が発生するおそれのあるもののいずれかに該当するものであって、消費生活用製品の欠陥によって生じたものでないことが明らかな事故以外のもの(他の法律の規定によって危害の発生及び拡大を防止することができると認められる事故として政令で定めるものを除く。)」と規定されています。
当該製品の欠陥によって生じたものでないことが明らかでない限り、製品事故に該当します。当該製品に起因した事故か、そうでない事故かは、事実関係や原因が明らかになって初めて分かるところではありますが、ここでの対応上のポイントは、疑わしきは製品事故、ということです。
製品事故のうち、次の事象が発生している場合は、重大製品事故として製造事業者または輸入事業者は当該事故を知った時から10日以内に消費者庁に報告する義務があります(消安法第35条第1項及び第2項、施行規則第3条)。
本制度の趣旨は、関係機関への迅速な報告により、製品事故の拡大防止を図ることにあります。この制度趣旨に鑑みた対応が企業には期待されます。
発生した製品事故について、危害の程度と多発可能性を勘案した定量的評価と当該事案が与える当該企業及びステークホルダーへの影響の定性的評価を総合考慮し、リコール実施の是非を判断します。定量的評価においてはR-Mapをはじめとしたリスクマップを活用して評価を行う方法や、危害の大きさ別にリコール実施を判断する発生件数を予め決めておいて、その指標にあてはめて検討する方法などがあります。
リコール実施が決定したのちは、リコール開始時点の決定と実施計画を策定していくことになります。一方、リコール実施の決定に至らない判断をしても、それはあくまでもリコール実施の判断を保留した状態に過ぎず、今後の状況を注視していく体制といかなる事象をリコール実施判断のトリガーにするか決めておくとよいでしょう。
上記(1)~(3)の対応を実現するためには、当該製品事故に係る事実確認と事案評価を適切に行うことです。
事実確認の際には、開発・設計から出荷までの各種情報、上市後の製品事故に至らなかった情報などを収集し、当該事案の全体を捕捉することが肝要です。この際、ワーストシナリオベースで確認すべき情報は、網を広げて収集しておくとよいです。また、全体像の捕捉が速やかであればあるほど、当該事案の原因の推定や問題となっている製品の対象ロットの絞り込みも速やかに実施でき、(1)~(3)の各対応のスピードアップを図ることができます。
また、事案評価においては、過去の経験などに依拠したり、憶測や思い込みで評価することを排除していくことが重要であり、社外の有識者などの第三者の視点を確保している例もあります。
以上のとおり、製品事故が発生した場合の企業のとるべき対応とその際の留意点を説明してきました。これらを実現するためにも、関連する仕組み・ルール及び付随するツール類の整備とそれらが機能できるように関係者に対する教育・訓練が必要になります。製品安全実現に向けて、企業は各種努力をしていますが、製品事故をゼロにすることは困難です。製品事故が発生することを前提に、自社も含めたすべてのステークホルダーの損失の最小化に向けて、十分に準備をしておくことが企業には求められています。
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ESGリスクトピックス(2025年12月)
サステナビリティ情報開示 2025年10月30日に開催された金融庁の金融審議会「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ(WG)」で、現行で事業年度終了後3カ月以内とする有価証券報告書の提出期限を延長しないとする考えが示された。有報に掲載するサステナビリティ関連データの第三者保証義務化などに伴う企業の負担増への配慮として期限延長を求める声が高まっていたが、有報の迅速な開示を求める投資家のニーズが優先された格好だ。また、時価総額5,000億円以上1兆円未満のプライム市場上場企業にSSBJ基準の適用を開始する時期は、当初案どおり29年3月期が示された。 WGでは2025年7月に、それまでの論議を踏まえた中間論点整理を公表しており、25年内にも結論を出す予定だ。 「第三者保証が付されている場合における有価証券報告書の提出期限の延長」が、注目の論点のひとつだった。サステナビリティ情報開示の義務化による企業の負担増を考慮し、有報の提出期限を事業年度終了後3カ月以内から4カ月以内に延長する要否を、以下の観点を踏まえて検討してきた。 本WGで、サステナビリティ情報開示の制度化に関わる国内外の動向に特段の変化がみられていないことを理由に、「提出期限の延長は実施しない」ことで合意した。企業の開示負担の軽減よりも、迅速な情報開示を求める投資家ニーズを重視した。 また、29年3月期を基本としつつ国内外の動向等を注視して検討することになっていた、時価総額5,000億円以上1兆円未満のプライム市場上場企業のSSBJ基準適用開始時期についても、状況の大きな変化が見られないことを理由に、当初案どおりの2029年3月期からの適用が示された。 他に、サステナビリティ情報の第三者保証の担い手について、監査法人に限定されない案が示された。グローバル企業の活動を阻害しない観点から、サステナビリティ保証は保証基準(ISSA5000)、品質管理基準(ISQM1)、倫理・独立性基準(IESSA)といった国際基準と整合性が確保された基準への準拠に言及。保証実務実施者は登録制で、監査法人・監査法人以外のいずれも可能とした。 これらを反映し「企業内容等の開示に関する内閣府令」が26年1月ごろに改正の予定だ。 【参考情報】 自然関連リスク管理・戦略 国際標準化機構(ISO)は2025年10月7日、組織が生物多様性に資する行動を支援する世界初の国際規格である、生物多様性分野のマネジメント規格「ISO17298:生物多様性 — 組織の戦略と事業における生物多様性の考慮 — 要求事項及び指針」を発行した。この規格は組織(企業、地方自治体、NGOなど)の規模や業種を問わず、あらゆる組織が生物多様性への依存、インパクト、リスク及び機会を評価し、実際の行動に移すための実用的な枠組みを提供している。 これまで、生物多様性が企業の持続可能性に与えるインパクトの重要性や対応の緊急性は認識されてきたが、生物多様性の観点を戦略や事業に統合するためのISOマネジメント規格は確立されていなかった。そのため、アプローチの断片化などが進み、実践までの道のりが複雑で困難であった。本規格は、生物多様性を単にサステナビリティ報告の枠にはめ込むのではなく、ガバナンスやリスク管理の中核として企業経営の実践に組み込むことを目的として、企業が生物多様性に関するインパクトを評価し、それらを戦略に効果的に反映させるためのロードマップを提供している。本規格は特に以下の点を支援する。 本規格は60ヵ国以上の専門家で構成された委員会で検討され、TNFDとの密接な協力下で開発されており、ISO14001(環境マネジメントシステム)、ISO26000(社会的責任に関する指針)、TNFD、持続可能な開発目標(SDGs)、昆明–モントリオール生物多様性枠組みなど、世界で広く用いられている既存の制度や取り組みと整合性がとれるよう設計されている。さらに今後、重要な分野については規格を拡充することも予定されている。 現在、全世界GDPの1/2以上である44兆米ドルが自然に中~高程度に依存しているとされている(世界経済フォーラム2020年)ことから、本規格は企業のレジリエンスのための重要なツールとなる可能性がある。特に企業は、レジリエンス向上を目的とした自然関連課題への対応を経営戦略へ組み込む際に本規格を活用することで、投資家からの信頼を得ることにつながる。 【参考情報】 ビジネスと人権 外務省は2025年10月1日、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」を国内で推進するため、法制度の整備や政策の実施、企業の取り組みの促進など、今後の政府の取り組みをまとめた行動計画の改定案を公表した。20年に策定した現行動計画の改定版の位置づけ。 それによると、企業による人権侵害リスク抑止の取り組みがレジリエンス及び企業価値の向上につながると意義を強調。その上で、昨今の社会・経済状況を踏まえて、外国人労働者の就労・生活環境の改善や人工知能(AI)との安全な協調などを政府の取り組みの優先分野に挙げた。一方で、これまでに国連やNGOなどが設置を求めている政府から独立して人権侵害の調査や救済を担う機関の設置のほか、人権デューデリジェンスを企業に義務付ける法制化についての言及はない。 10月30日までのパブリックコメントを経て、25年内に確定する予定。 改定案では、行動計画の目的について現行計画と同じ4点を継承した。 その上で、グローバル企業を念頭に、サプライチェーンを含めた人権尊重の取り組み推進を通じて、国際社会の信頼や投資家の高評価を引き出し、最終的には自社の企業価値向上につなげる意義を強調している。 また、目的の達成のために各省庁が実施する施策や措置を具体的なテーマやトピックスに応じて列挙する現行計画の構成を維持。改定案では「優先分野」に名称が変更されたものの、同様の趣旨で整理されている。現行計画と改定案を比較すると、取り上げられているテーマやトピックスは大部分は共通だ。ただ、改定案では、現行計画策定時との社会・経済の状況変化を反映して記載の濃淡が若干変化している。 (1)横断的事項 (2)人権を尊重する企業の責任 1.人権デューデリジェンス及びサプライチェーン 2.「誰一人取り残さない」ための施策推進 3.テーマ別人権課題 出典:当社作成 中でも、外国人労働者とAIは、現行計画と比べて重要度が引き上げた印象の記載となっている。 まず、外国人労働者について、現行計画が「在留資格を有するすべての外国人を…社会を構成する一員として受け入れていく」といった概括的な表現なのに対して、改定案では「日本が『選ばれる国』になる環境の整備は…国際競争力の向上に重要」と切実さが際立つ記載に変更。その上で、就労環境や能力開発、日常生活などの各側面できめ細やかな配慮を備えた施策を挙げた。国内の急速な人口減少を受けて、国内経済の維持や持続的成長のために外国人労働者の存在が不可欠な現状への危機感が垣間見える。 一方で、AIは改定案で「テーマ別人権課題」の個別の項目に特出しされている。23年5月の主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)で日本が主導した「広島AIプロセス」やその後の施策を引き合いに、AIイノベーションの促進とリスク対応の両立による人権尊重・法令遵守・安全な協調を重視したガバナンスの実現や国際的な協調の推進を今後の主要施策に挙げている。現行計画では「新しい技術の発展に伴う人権」のうち、インターネット上の名誉毀損やヘイトスピーチ対策と併せ、AIと人権やプライバシー保護について「議論の推進」を挙げるにとどまっていたのとは対照的だ。 また、国連指導原則の3本の柱のひとつ「救済のアクセス」では、公的・民間双方の通報・相談窓口の周知促進や企業の公益通報窓口体制の整備促進などを具体的施策に例示した。ただ、23年7月に来日した国連ビジネスと人権作業部会の調査団が報告書で指摘したほか、国内外のNGOなどが政府に繰り返し設置を要求している国家人権機関(NHRI)の設置に触れる記載はなかった。NHRIは、政府から独立し、差別への対処や権利の保護、人権侵害に対する司法以外の救済などの役割を担う機関だ。国連は各国に設置を求めており、持続可能な開発目標(SDGs)にも含まれている。 【参考情報】 EUデータ法 2025年9月12日、EUの「Data Act(EUデータ法)」(以下、「本法」とする)が施行された。本法は、欧州委員会が掲げる「欧州デジタル戦略(European Data Strategy)」を具体化するための法規制の一つである。欧州デジタル戦略では、欧州域内のデータ活用が産業競争力強化の源泉とされており、データの流通や活用を妨げる技術的・法的・経済的な問題を解消し、公共及び民間の双方でデータ流通を促進することが重視されている。 IoT製品やクラウドサービスから得られるデータは、特定の大企業に集中している。一方で、中小企業は、大企業と競争するために必要なデータを手に入れにくく、欧州域内でのイノベーションや産業発展を阻害する状態となっている。 そこで本法では、欧州域内で提供される製品及びサービスの使用中に自動的に生成されるデータ(機器が発するログ情報や稼働情報など)の取り扱いルールを定め、契約条件によるデータ共有や移転の制限、事業者間の乗り換えや相互運用性の低さ、欧州域内での産業データ活用の遅れによる新産業の創出の遅れ等の問題を解消することを狙った。対象となるのは、IoT機器、スマート家電、自動車、産業用機械、医療機器、農業機械、建設機械、クラウドサービスなど、日常的な利用の中でデータを生成するコネクテッド製品※1及びそれらの関連サービス※2である。欧州域外企業であっても欧州域内でこれらを提供する場合は適用対象となる※3。 本法では、以下のような項目が規定されている。 出典:EUデータ法原文(https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2023/2854)をもとに当社作成 上記の内容を踏まえると、対象企業においては、まず自社製品やサービスの提供に際し、どのプロセスで生成される、どのデータが本法規制対象となるのかを明確にすることが最重要となる。 その上で、特定したデータに関連するステークホルダー、それらに紐づく規制範囲を整理・把握した上で、適切なデータの取り扱いに係るシステム確立などを行った製品・サービスの設計が求められる。 なお、本法に関する今後の整備方針については、欧州委員会のFAQ※4で示されている。たとえば、クラウドポータビリティ(第23条~第28条)に関しては、施行後1年~1年半後に適用が開始される予定である。また、制裁措置(第40条)に関しては、制裁金額の上限は各国の判断によるとするものの、最大2,000万ユーロまたは全世界売上高の4%が想定されるとしている。データ形式やAPIの標準化については、欧州標準化機関等が今後策定を進めることが公表されている。 今後、継続して運用ルールや実務上の解釈が明確化されていくことが予想されるため、対象企業においては、欧州委員会からの公表内容に加えて、各加盟国の規制内容や法の整備状況について注視する必要がある。すでに対応を進めている企業であっても、継続的な情報収集と本法に対応するための製品・サービス設計、自社態勢の定期的な見直しを行うことが望ましい。 ※1)コネクテッド製品とは、利用・性能・環境に関するデータを生成・取得・収集し、ケーブルまたは無線通信でデータを外部に送信できる製品を指す。スマート家電、産業機械、医療機器、スマートフォン、TVなどが該当する。(参照:欧州委員会が公表したデータ法に関するFAQ) ※2)関連サービスは、コネクテッド製品の機能に直接影響を与えるデジタルサービス(例:スマート家電のアプリなど)が対象となる。双方向のデータ交換と、製品の機能・挙動・操作への影響が要件となる。(参照:欧州委員会が公表したデータ法に関するFAQ) ※3)既存のデータ取り扱いを規定するEUの法律としては「GDPR(一般データ保護規則)」があるが、両者が矛盾する場合はGDPRが優先されるとしている。 ※4)欧州委員会が公表したデータ法に関するFAQ: 2025年9月12日公表 バージョン1.3 【参考情報】 サイバーセキュリティ 2025年10月24日、シンガポールにおいてランサムウェアの脅威に対処するための国際連携について議論する「カウンターランサムウェア・イニシアティブ(CRI)会合」が開催された。本会合は2021年から数えて5回目の開催となり、米国や英国、国際刑事警察機構(インターポール)など、合計74の国や機関が参加しており、日本からは国家サイバー統括室、警察庁及び外務省が参加した。 会合後に発表された概要文書では、CRIメンバーが共有する共通のビジョンと取り組みを公表した。今年度は、概要文書で示された共通のビジョン達成に向けて、CRIメンバー間でどこで・いつ・どのように・誰と情報共有すべきかを取りまとめたCRI情報共有ガバナンス・フレームワークが採択され、ランサムウェア攻撃者に対する包囲網が形成されつつある。 出典:国家サイバー統括室「『カウンターランサムウェア・イニシアティブ(CRI)会合』への参加」をもとに当社作成 また、本会合では、各組織・企業がサプライチェーン上の脆弱性を悪用したランサムウェアの脅威に対処することを目的として、サプライチェーンのセキュリティ体制強化に関するガイダンスが公開された。このガイダンスは各組織・企業がサプライチェーン上のセキュリティ態勢を改善することで、ランサムウェア攻撃が各組織・企業に重大な影響を及ぼす可能性を低下させることを目指している。 ランサムウェアの脅威に対処するため、各国の法執行機関が連携してランサムウェア攻撃者を摘発し、攻撃者グループのテイクダウン※1に成功した事例が存在するが、ランサムウェアの脅威を完全に弱体化させるには至っておらず、日本国内においても多数のランサムウェア攻撃の被害が発生している状況である。各組織・企業はランサムウェアの脅威が経営の根幹を揺るがしかねないリスクの一つとして捉え、セキュリティ対策の実施状況確認やインシデント発生を想定した訓練などを実施して、ランサムウェア攻撃をはじめとしたサイバー攻撃への対応体制を強化することが重要である。 ※1)サイバー攻撃者グループが悪用しているフィッシングサイト等を閉鎖すること 【参考情報】
○ 有報提出期限延長せず、投資家ニーズ反映しサステナ開示の迅速性優先、金融庁WG
2025年10月30日、金融庁HP
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/sustainability_disclose_wg/shiryou/20251030.html
○ 世界初、生物多様性に取り組む組織向けの国際規格ISO17298が発行
-*-*-*-*-
2025年10月7日付 ISO HP
https://www.iso.org/news/2025/10/standard-17298_biodiversity
https://www.iso.org/standard/17298#lifecycle
○ 「ビジネスと人権」政府行動計画改定案が公表、外国人労働者やAIが優先分野に
-*-*-*-*-
【表】政府行動計画に記載の主要施策の現行・改定案比較
現行計画
改定案
2025年10月1日、e-Govパブリック・コメントHP
https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/detail?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=350000222&Mode=0
○ 「EUデータ法」が施行
-*-*-*-*-
項目
規定された内容
該当(関連)条文
データ抽出を可能とする設計
(Data-by-Design)
製品・サービスの設計段階から、データ
抽出・共有機能を組み込むことを要求
(第3条、第4条の定義・権利義務に基づく)
第3条
第4条
利用者のデータアクセス権
利用中に製品やサービスが生成するデー
タを、利用者が取得できる権利
第4条
利用者の指示による第三者へ
のデータ提供義務
利用者が選んだ修理業者・外部サービス
等へデータを提供する義務
第5条
不当な契約条項の禁止
データアクセス妨害・データ移転妨害な
どの不当な契約条項は無効化
第13条
クラウドサービスの乗り換え
容易化(クラウドポータビリ
ティ)
データ移転時の技術的・契約的障壁を取
り除く義務
第23条~
第28条
制裁措置
欧州加盟国に対する制裁制度の整備義務
(制裁金額の上限は各国の判断による
が、欧州委員会が公開しているFAQ※4
では、GDPRと同水準となる最大2,000万
ユーロまたは全世界売上高の4%が想定
されるとしている。)
第40条
https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/library/commission-publishes-frequently-asked-questions-about-data-act
欧州委員会データ法公式HP
https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/policies/data-act
○ ランサムウェア脅威に国際連携で対処 5回目の国際会合を開催
-*-*-*-*-
概要文書のポイント
を支援すること
せないこと
ランサムウェアの攻撃者を特定した上でその活動を明らかにすること
国家サイバー統括室「『カウンターランサムウェア・イニシアティブ(CRI)会合』への参加」
https://www.nisc.go.jp/pdf/press/press_cri_20251027.pdf
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自然の力で社会課題を解決? グリーンインフラとしても話題のNbSを解説
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有報の非財務情報の開示ミスで新ルール案─金融庁、課徴金免責で企業開示を後押し
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サイバー空間をめぐる脅威は、極めて深刻な情勢が続いている
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貸切バス事業者安全性評価認定制度 認定支援コンサルティング
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南海トラフ地震の発生確率の本質を考える
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記者会見から見る危機管理広報のポイント
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「脱炭素行動」を従業員に習慣化させるために企業が今すぐやるべきこととは?
ある行動が習慣化するためには、どうすればいいのでしょうか?そのためのポイントは、「やることを簡素化すること」が必要になります。
脱炭素に向けて新たな行動をとるように求められると、多くの人は「余計な仕事が増えた」と感じてしまう可能性があります。そう受け止められないようにするためには、既存の業務フローに組み込むことが習慣化を促します。

具体的には、次のような形で既存の業務フローに組み込むことが考えられます。
企業が原材料、部品、サービスなどを購入する際、価格、品質、納期などが主な選定基準となっています。この基準に加えて、仕入先がどれだけ環境に配慮した活動をしているのかを測る「環境指標」を導入すれば、購買プロセスの中でCO2の排出量の削減、再生可能エネルギーの利用、環境認証の取得などの観点を考慮することが可能になります。
会議を開催する際、参加者が物理的に移動すると交通手段によってCO2が排出されます。不要な移動を減らして排出量を削減するために「会議は原則オンラインで実施する」「公共交通機関を優先する」といったルールを設けることで、「余計な仕事」を増やすことなく脱炭素行動を促すことにつながります。
また、「削減量を見える化」することも、脱炭素行動の習慣化につなげることが期待できます。
削減量が見える化されると、「どの行動」が排出量削減に向けて最も効果があるのかが分かり、より効率的でインパクトの大きな脱炭素アクションを選択できるようになります。
具体的には、個人・チーム単位で、実際のCO2の削減量や、削減につながった行動をダッシュボードで可視化したり、「この会議をオンラインにしたら年間○kg削減」といった即時的なインパクトを表示したりすることが効果的です。
また、短期的なインセンティブ(ポイント、社内表彰)と、長期的な評価(人事評価・目標管理に紐づける)をバランスよく組み合わせることで、従業員が自身の行動が正当に評価されていると受け止められるようになり、脱炭素行動がより継続しやすくなります。
従業員の脱炭素行動を習慣化していくうえで、参考となる企業の事例をご紹介します。
ICTサービス・ソリューション事業などを展開するNTTドコモビジネス株式会社は、「Green Program for Employee※」というプログラムを作り、従業員一人ひとりの環境意識向上と行動変容を促すことを目指しています。
このプログラムでは、従業員はリモートワークの実施・公共交通機関の利用、省エネ行動などの日々のエコアクションをデータとしてアプリに記録・計測します。これにより、個人の行動が具体的にどれだけのCO2削減に貢献したか(CO2換算など)が可視化されます。
さらに、収集したデータをもとに企業全体の目標達成度に対する個人の貢献度を明確にし、ランキング形式やゲーミフィケーション要素を取り入れることで従業員のモチベーションと継続性を高め、企業の環境目標達成を従業員自らの主体的な活動として加速させています。
※出典:NTTドコモビジネス株式会社ホームページ
https://www.ntt.com/business/solutions/gxesg.html
企業の脱炭素経営の実現に向けては、トップダウンの推進力だけでなく、現場の従業員の自発的な行動を促すことが欠かせません。そして、従業員の脱炭素行動の習慣化に向けては、今回取り上げた「行動の簡素化」、「業務プロセスへの組み込み」、「削減量の見える化」など、自社の状況に合わせた工夫が必要となります。従業員の行動変容を促し、持続可能な未来に向けて一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。
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企業の脱炭素・カーボンニュートラル 一見“地味”でも、効果は地球規模?
「京都議定書」という言葉を覚えていたり、聞いたことがあったりする人もいらっしゃるかもしれません。「京都議定書」は、1997年に京都で開催された地球温暖化防止京都会議(COP3)で採択された、二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスに関し、先進国の排出削減について数値目標などを定めた文書です。
この頃から、企業に対して温室効果ガス削減に向けた取組が求められるようになり、当初は「やらされ感」で取り組む企業も多かったようです。
近年は、当初の「やらされ感」が薄れ、より前向きに取り組む企業が増えています。
そして、企業の脱炭素・カーボンニュートラルの取組手法は多岐にわたっています。省エネ設備の導入、再生可能エネルギーの自家発電、デジタル化による業務効率化など。これはすべて、温室効果ガスの削減につながります。

実は、脱炭素を進める過程で無駄な工程や資材の削減にもつながり、企業の生産性向上にも寄与しています。
サプライチェーン全体での排出量の見える化や、環境負荷の少ない製品・サービスを優先的に調達する取組も注目されています。
投資家や消費者の目も厳しくなる中、“サステナブル経営”は、企業の持続的な成長に不可欠な要素となりつつあります。
温室効果ガス削減の取組としては前述の他にもLEDの導入、空調の温度調整、電気設備の運用見直し、オフィスのペーパレス化などがあり、1つ1つは一見“地味”に見えるかもしれません。
しかし、時代の先を見据え、できることから着実に進めていくことこそが企業を存続・成長させるために不可欠な要素になっていくと考えられます。
さらに企業の中には、社員からアイデアを募る社内コンペや、排出量の“見える化”で、脱炭素の取組を加速させるところも増えてきています。
こうした取組は、コスト削減につながるだけでなく、企業価値・ブランド力の向上にもつながります。つまり、脱炭素は、企業の成長と環境負荷の低減が対立することなく、ウィンウィンの関係になれるものです。
小さな工夫が大きな変化につながる。そんな感覚で、脱炭素・カーボンニュートラルの取組を始めてみてはいかがでしょうか。
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バンコクSamsen通りにおける大規模陥没事故 【InterRisk Asia Report(2025年10月)】
2025年9月24日午前 7時13分にSamsen道路が陥没し、Vajira病院前からSamsen警察署までの区間に、縦30メートル、横30メートル、深さ50メートルの大きな空洞が発生しました。この場所は、地下鉄(Mass Rapid Transit, MRT)パープルライン延伸計画におけるVajira病院駅の予定地でした。2本の電柱と2台の車が空洞に落ちるなどの被害が発生しました。


(出所: Facebook: Office of Disaster Prevention and Mitigation)
初期の陥没後も地盤沈下が進行したため、Vajira病院前の道路が崩壊し続け、同日午後1時5分に橋脚および電柱などが陥没孔に落下しました。事故現場付近の降雨の影響もあり、その後も状況は拡大し、午後1時25分にDusit警察署の建物が小規模に崩壊しました。午後2時42分および午後3時15分の沈下量は、それぞれ1メートルおよび2メートルでした。


(出所: Mass Rapid Transit Authority of Thailand (MRTA))
Vajira病院は、外来部門および医学部の実習を2日間停止しました。Dipangkorn Rasmijotiビルも一時的に閉鎖されましたが、Bejaratanaビルにある緊急治療室 (ER) の機能は維持され、必要な手術の実施は認められていました。なお、病院の建物は地下の基礎壁のため被害は受けませんでしたが、安全確保のために約3,500人の患者は事故現場付近の建物から避難するよう、当局からの指示がありました。
Samsen警察署は周辺の建物の中で最も大きな被害を受けました。一部の基礎杭が損傷したため、警察署を一時的に移転せざるを得ませんでした。また、道路陥没による2次災害を防ぐために、Dusit地区当局によってVajira交差点からSanghi交差点までとその周辺地域を通行止めにする措置が取られました。
バンコク都知事のChadchart氏は、被害を最小限に抑えるための7つの緊急対策を発表しました。
Chadchart都知事は、水道からの漏水、ならびに地下鉄トンネル (深さ15~20メートル) および地下鉄駅の弱い場所である接続部への土砂流入によって地盤沈下が始まった旨の見解を発表しました。一部の周辺住民によると、地盤沈下に先立って道路から水がしみ出していました。現在、さらなる根本原因の調査が実施されています。


(参考: Render Thailand)
タイ王国政府のAnutin首相は、「原因はまだ特定できていない。何らかの技術的過誤があったと考えられる。原因究明に努める。」と述べました。
Chadchartバンコク都知事は、降雨により多くの土砂や水がトンネルに流入することにより道路の復旧工事が遅れる可能性があることが懸念されるため、降雨時に対応する専門チームの準備を備えていると表明しました。
タイ大量高速輸送公社 (Mass Rapid Transit Authority of Thailand:MRTA) のKajpajon Udomthamphakdee総裁は、「土壌の隆起と地下水の漏出が、地下鉄駅の壁とトンネルの周りの地盤の動きを結びつけている」と述べました。
Pichit鉱物資源局長は、今回の事故を鉱物資源の観点から以下のように説明しました。
バンコクの地質構造は、厚み20から30メートルの粘土層および三角州で、自然空洞は地下鉄工事または地下埋設管の漏洩などの外部刺激がなければ発生しない。さらに、降雨は粘土構造層の侵食を引き起こし、空洞を形成する可能性がある。雨水および水道管からの漏水により粘土が溶かされると、空洞内へ容易に流入することが考えられる。
当該見解のように、地質構造も今般事故の主要因の一つと考えられます。バンコク地質構造の粘土は軟質粘土および三角州由来で、易圧縮性、高含水率と低排水性、収縮・膨張性、および強度のような独特の特性を持っています。当該粘土には24%~30%の水が含まれており、「バンコク粘土」と呼ばれています。


(参考資料:バンコクの地質及び地質資源の管理のための区域の分類)
MRTA および本プロジェクトの請負業者は、陥没孔への土砂および水の流入を防ぐために、トンネル開口部を5万個以上の土のうで密閉しました。密閉作業の終了後、コンクリート充填および道路建設が開始される計画です。当該道路は2025年10月9日までに復旧される予定でしたが、その計画は延期されました。
バンコクにおける地盤沈下は、いくつかの特徴的な要因によって今後も発生する可能性があります。
また、地盤沈下によって構造物の損傷や、今般のSamsen道路事故のような大規模陥没が発生するおそれがあります。過去には、Udomsuk道路、Chaengwattana道路、およびSukhumvit 46道路で陥没事故が発生しています。
バンコクで地盤沈下が引き起こされる主な要因は、(1)地下水の揚水、(2)重量構造物の建築工事、(3)地質構造の物理的特性、これら3点だと考えられます。
地下水揚水は粘土層の水圧を低下させます。過去のいくつかの地盤沈下事故において、地盤崩壊の主要な要因が地下水用水であることが確認されています。圧密試験報告書によると、バンコク粘土の圧密は連続的な重量プレスによって発生します。その結果、粘土層の水圧が低下し、応力レベルが臨界に上昇することが示されています。
重量構造物の建設工事も地盤沈下の原因になっています。陥没事故の多くは、構造物の基礎が帯水層にあることにより、バンコク粘土の圧密の影響を受けて発生しています。
堆積層の物理的性質も地盤沈下の1つの要素になっています。バンコクは主として粘性土および砂質土からなる非圧密堆積層に位置しており、特に乾燥した河床である三角州は地盤沈下する可能性があります。さらに、土壌中の水は粘土層および粒子間隙の間の圧密を破壊し、土壌構造を不安定化させます。その結果、土壌構造が崩壊します。今回の陥没事故ではトンネル内への土砂および水の流入が発生していることから、堆積層の物理的性質が最も関連していると考えられます。
地盤沈下の状況を緩和するために、地盤安定化および漏水管理による負荷軽減を速やかに実施する必要があります。また、周辺インフラの保護に焦点を当てた迅速な監視および評価、ならびに長期的な軽減策も重要です。


陥没事故が発生した場合は、地盤安定化および漏水管理を速やかに行うことが求められます。地下への土砂や水の流入を防止するために、漏洩箇所を密閉して補強する必要があります。補強作業では、大量の土のうを設置するとともにコンクリートが流し込まれ、漏洩箇所からの土砂や水の流入の阻止が図られます。土砂の流動性を高める降雨も懸念要素の1つです。崩壊箇所への雨水流入により地盤のさらなる不安定化が加速されますが、土のうの活用により雨水流入の阻止が一時的ではあるものの期待されます。


(参考:Facebook: Office of Disaster Prevention and Mitigation)
次に、さらなる地盤沈下または地滑りの兆候を把握するために、土壌流動および地盤安定性の評価監視を24時間実施する体制の構築が必要です。観測結果は、事故の正確な機序の把握、および根本原因の調査にも活用されます。
今般の陥没事故では、周囲のすべての建物、特に基礎杭が土壌によって損傷した可能性のあるSamsen警察署の構造的健全性が迅速に評価されています。警察による原因調査も継続されています。


(参考: Facebook:Chadchart Sittipunt)
最後に、長期的な防止策が講じられます。周辺土壌の強度および剛性を高めるとともに、長期的な地盤安定性を確保するために、地盤改良が実施されます。その際には、深層土壌混合やグラウト注入などの高度な地盤工学ソリューションが採用される場合があります。また、安定した地下水位を維持するために、関連法規に準拠した取水量削減などの戦略的地下水管理を行う必要があります。
| 自噴井規模(ボアホール直径) | 最大許容取水量 | |
|---|---|---|
| (mm) | (in) | (m3/day) |
| 50 | 2 | 32 |
| 75 | 3 | 80 |
| 100 | 4 | 240 |
| 125 | 5 | 400 |
| 150 | 6 | 800 |
| 200 | 8 | 1280 |
| 250 | 10 | 1920 |
| 300 | 12 | 3200 |
| 350 | 14 | 3200 |
(参考:地下水資源局規則)
同様の事故を防止するために、MRTパープルライン延伸工事現場の地下部分および接続部分のインフラ点検が進められており、脆弱箇所の特定および補強が講じられる予定です。
今後は、安全マージンの導入、ならびに土壌浸食および水道管漏水の防止対策を盛り込んだ、軟質地盤における地下工事手順および構造設計の見直しが望まれます。
【出典】
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ESGリスクトピックス(2025年11月)
サステナビリティ開示 金融庁の金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ(WG)が2025年8月から、有価証券報告書でのサステナビリティ開示への「セーフハーバー・ルール」導入を中心とした制度改正の検討を開始した。サステナビリティ関連情報の開示が進む中、企業が温室効果ガス排出量などの非財務情報を開示する際の「虚偽記載リスク」や「課徴金リスク」が、積極的な情報発信の阻害要因とならぬよう、企業負担にも配慮しつつ、投資判断や建設的な対話に資する情報開示を充実させていくための環境整備が狙い。 「セーフハーバー・ルール」は、合理的な開示プロセスを経た場合には、民事責任や課徴金の免責を認めるもの。企業の萎縮を防ぎつつ、より信頼性の高いサステナビリティ情報の開示を後押しするのが狙い。本記事執筆時点では、WGの第1回(8月19日)と第2回(9月15日)で同ルール導入が審議され、関連する事務局資料・議事録が公表されている。 WGでは、まず同ルールの効果が検討議題となった。「民事責任の免責」を基本としつつ、課徴金(行政責任)についても免責対象とするかが議論となった。刑事責任は故意犯処罰の原則から免責対象外とする意見が多いものの、民事・行政責任については、開示の萎縮防止・積極的な情報提供の促進という観点から、課徴金も含めた統一的な免責が妥当との方向性が示された。 また、対象になる非財務情報の適用範囲も論点となっている。WGでは、セーフハーバーの対象は、主に▽将来情報▽見積り情報▽統制の及ばない第三者から取得した情報――に限定する方向で検討している。Scope3の排出量など企業が直接コントロールできない外部情報や仮定・推論を含む見積りは、正確性を過度に求めるよりも、合理的な開示プロセスや前提条件の説明を重視する枠組みが求められていることが背景にある。なお、すべての非財務情報を対象にすることには慎重な意見もあり、まずは不確実性の高い情報に限定する運用が想定されている。 出典:第2回 WG事務局説明資料 3つ目の論点は、セーフハーバー・ルールの内容・適用要件についてだ。①主観要件(行為者の内面的な意思に関する要件)を過失責任から重過失責任に見直す②一定の要件下で合理性のある開示がなされていれば不正な記載とはみなされない――の2案が示された。現状ではセーフハーバーとしての明確性や法技術的な観点から、②案が優位とされ、具体的には情報開示に係る体制整備や開示手続の実効性確認、経営者による確認書への明記などが要件となる見通し。これにより、企業が合理的なプロセスを踏んで開示を行っていれば、虚偽記載等の責任を問われない仕組みとなる。過度なリスク回避により情報開示が控えられることを防ぐ狙いだ。 このような制度改正が検討される背景には、企業戦略やリスク情報などの非財務情報の拡充が進む一方で、企業の統制が及ばない第三者から取得したデータや見積り情報の開示を求められる場面が増えていることが挙げられる。例えば、「Scope3温室効果ガス排出量」などサプライチェーンの情報は不確実性が高い。現行の金融商品取引法では虚偽記載等に対し企業側の過失責任が問われやすい構造なため、訴訟や課徴金のリスクへの懸念が企業の開示萎縮要因となっているとの意見が出ている。 日本以外では、非財務情報に関するセーフハーバー規定が整備され、合理的な開示プロセスを経ていれば民事責任を免責するなど、企業負担と投資者保護のバランスを取る動きが進んでいる。日本でも国際的な整合性を意識しつつ、制度見直しが求められている。 出典:第1回WG事務局説明資料 【参考情報】 サイバーセキュリティ 警察庁サイバー警察局は、2025年9月18日に「令和7年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」を公開した。同報告によると、政府機関や金融機関などの重要インフラ事業者等に対するDDoS攻撃(Distributed Denial of Service attack:分散型サービス妨害攻撃)とみられる被害や、情報窃取を目的としたサイバー攻撃、国家を背景とする暗号資産の獲得を目的としたサイバー攻撃事案などが相次ぎ発生している。また、生成AIなど高度な技術を悪用した事案も発生している。 さらに、ランサムウェアの被害報告件数は116件となり、半期の件数としては令和4年下半期と並び最多となった。このようなランサムウェアの被害拡大の背景には、ランサムウェアの開発・運営者がランサムウェア等を攻撃の実行者に提供し、その見返りとして身代金の一部を受け取る態様(RaaS: Ransomware as a Service)を中心とした、攻撃者の裾野の広がりがあると指摘されている。 情報通信技術の発展は社会に便益をもたらす一方で、犯罪インフラとしても悪用されている。インターネットバンキングの不正送金、証券口座への不正アクセス、SNSを通じた詐欺や暗号資産を利用したマネーロンダリングなどが発生している。 SNS上では犯罪実行者の募集情報が氾濫し、治安上の脅威となっている。フィッシング報告件数は119万件超に達し、右肩上がりの増加が続いている。インターネットバンキング不正送金被害総額は約42億円であり、フィッシングがその手口の約9割を占めている。証券口座の不正取引額は約5,780億円に上った。証券会社をかたるフィッシングメールの報告件数は17万8,032件となっており、フィッシングメールの増加に伴い、証券口座への不正アクセスおよび不正取引も増加したものとみられる。 上記のように、サイバー空間をめぐる脅威は極めて深刻な情勢が続いている。警察はサイバー特別捜査部を中心に検挙に向けた取り組みを実施するほか、関係機関との連携を通じて被害の未然防止・拡大防止に努めている。官民連携による情報発信、ボイスフィッシング(電話でメールアドレスを聞き出し、フィッシングメールを送付する手口)、証券口座不正取引などの手口周知や、サイバー防犯ボランティアとの協力も進めている。 犯罪インフラへの対策としては、サイバー犯罪者が遠隔操作・指令・情報収集のために使用するC2サーバー※1への対策や、フィッシングサイトの閉鎖促進、クレジットカード不正利用対策を強化している。能動的サイバー防御(ACD:Active Cyber Defense)導入に向けた法制度整備も進み、サイバー攻撃による重大な危害を防止するための警察によるアクセス・無害化措置を可能とする規定が新設された。 また、違法・有害情報への対処も強化され、IHC(インターネット・ホットラインセンター)※2による違法・有害情報の分析・削除や、犯罪実行者募集情報への警告・削除依頼が実施されている。 ※1)C2サーバー(Command and Controlサーバー、C&Cサーバーともいう)は、サイバー攻撃において攻撃の司令塔の役割を果たすサーバー。攻撃者がマルウェアに感染させた端末を遠隔操作し、命令を送信する。 【参考情報】 危機管理広報 事件・事故・不祥事等の危機が発生した場合、企業が行う情報開示対応の中でも記者会見への注目度は高い。記者会見を実施するか否か、また実施したとしてもタイミングを巡って厳しい批判にさらされることは珍しくない。また、不適切な会見運営により、発生した事案そのものよりも、記者会見の失敗が当該企業により大きなダメージを与えるケースもある。 これまで数多く行われてきた危機発生時の記者会見を俯瞰すると、登壇者の説明・謝罪の巧拙よりも、会見のタイミングや説明・謝罪の内容に関して、メディアや様々なステークホルダーが求めていたものと齟齬があるときに、不信感が高まり、企業価値を毀損し、ブランドイメージを失墜させるような事態に至っている。すなわち、発生した事案に関する企業の情報開示の姿勢に対する社会の期待を見極めることが非常に重要といえる。 危機発生時の情報開示は、大きなマイナスの状態からスタートし、少しでもそのマイナスを縮小し、できればプラスに転換するという極めて難易度の高い目的を持って行われる。この目的を達成するためには、ステークホルダーの期待を把握し、明確な戦略に基づいて開示するタイミング、内容、発信者などを選定する必要があるが、この点がなおざりになっていたとしか考えられない事例は少なくない。 近年、多くの企業で危機発生を想定した情報開示トレーニングが行われ、模擬記者会見を体験した経営者も少なくないだろう。しかし、一部のトレーニングでは、登壇者の所作、例えばお辞儀の角度や時間といったことに注目するあまり、本質的な課題が炙り出されないことが懸念される。 前述のとおり、危機発生時の情報開示においては、様々な事情を考慮しつつもステークホルダーの期待とのギャップを埋めていく努力が必要である。そして、その判断を極めて限られた時間内に行わなければならない。だからこそ、模擬記者会見を含む情報開示トレーニングにおいては、登壇者の対応力だけでなく、用意されたトレーニングシナリオに対する事案評価およびそれを踏まえた開示戦略の検討を実践してみることが重要といえる。 企業においては、自社で企画されているトレーニングが、そのような観点を踏まえたものになっているか、あらためて検証し、より効果的なトレーニングへ改善していくことが期待される。
○ 有報の非財務情報の開示ミスで新ルール案─金融庁、課徴金免責で企業開示を後押し
【図1】セーフハーバー・ルールの適用範囲
将来情報
いて金額、数量、事象の発生の有無等が確定していないもの
の状況の分析」(MD&A)等に含まれる将来の業績予想等についてはセーフハー
バーの対象となるが、財務数値を活用した上で当期中の業績を分析する部分に
ついては過去情報であり、対象外
統制の及ば
ない第三者
から入手し
た情報
確性を検証することは困難であり、企業にとって不確実性が高いと考えられる
ため、セーフハーバーの対象
見積り情報
え方から、過去情報であっても、見積り情報である限り対象
いた場合、財務諸表に密接に関連する情報として、セーフハーバーの対象外(「主
要な経営指標の推移」等も同様)。
【図2】各国における年次報告書の虚偽記載等に対する責任(抜粋)
日本
米国
英国
民事責任
立証責任の転換された
過失責任
詐欺防止条項違反
としての責任
ある場合のみ
会社に対してのみ
民事責任
における
原告(投資
者)の立証
事項
ない場合)
因果関係
因果関係
(重要な虚偽記載等のある
情報に依拠して証券を取得
したことの立証(信頼の要
件)については、重要性の立
証により推定)
に依拠して証券を取得したこ
と等(信頼の要件)
因果関係
民事責任
における
被告(会社)
の立証事項
信頼の要件の推定は、市場が虚
偽記載等の影響を受けていなか
ったこと等の反証可
-
刑事責任
は1,000万円以下の罰
金又は併科
くは20年以下の懲役又は併科
詐欺的行為に対する罰則あり
行政責任
(課徴金)
600万円と時価総額の10万分の
6のうち大きい額の課徴金
$5万($25万、$50万)の民事
制裁金
(市場詐害行為に対して)
当局が適当と認める額の制裁金
セーフハーバー
非財務情報のうちの将来情報の
責任を負わない
将来予測情報につき民事責任を
負わない
上記の民事責任の要件は、セー
フハーバーとして理解されている
2025年8月26日、9月19日 金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」HP
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/disclosure_wg/disclosure_wg_index.html
○ サイバー空間をめぐる脅威は、極めて深刻な情勢が続いている
-*-*-*-*-
※2)IHC(インターネット・ホットラインセンター)は、日本国内でインターネット上の違法情報や有害情報の通報を受け付ける。警察庁が運営しており、通報された情報を警察に提供し、サイト管理者に対して削除依頼を行う活動を行っている。
警察庁「令和7年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/cybersecurity/index.html
○ 記者会見から見る危機管理広報のポイント
-*-*-*-*-
近年、記者会見の内容が話題になった事例
業種(時期)
事例内容
情報・通信業
(2025年)
起用したタレントによる不祥事に経営幹部や従業員の組織的な関与があったの
ではという疑惑を受け、記者会見を開いた。1回目の会見では出席できるメデ
ィアや撮影を制限したことにより隠蔽体質と批判された。続く2回目の会見で
は制限をしなかったものの、論点が散漫となり10時間超に及ぶ長時間の会見と
なった。
製造業
(2024年)
長年にわたる新車認証不正が発覚し、記者会見を実施したが、会見における事
実関係の整理不足と再発防止策の説明が不十分と受け止められた。
中古車販売業
(2023年)
修理車両を意図的に損傷させ保険金を不正に請求していたことが発覚し、記者
会見を実施した。会見において経営トップが「知らなかった」と繰り返し、謝
罪や改善策を示さなかった。
金融業
(2021年)
システム障害によりATMの停止や外国為替送金遅延などが連続して発生し、記
者会見を実施した。会見までに時間を要し、会社としての説明が遅れたことに
加え、責任の所在や再発防止策が不明確であった。
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持続可能な経営のための水リスクマネジメントの最新動向 ―AWS Forum の最新論点とスタンダード改定におけるポイントの紹介-【サステナブル経営レポート(2025年11月)】
今夏の日本の平均気温は平年より2.36度高く、1898年の統計開始以来、過去最高となった※1。温暖化に伴う気候変動は水リスクに対しても影響を与えている。例えば国内では無降水日※2が増加しており、今年7月に東北や西日本で厳しい水不足が報告されたように、日本では水資源が豊富にあると言われている中で、水資源の安定供給におけるリスクが顕在化している。豪雨による水害も依然深刻な課題であり、熊本県で発生した線状降水帯による被害は記憶に新しい。このように、気候変動による極端な気象現象は渇水や洪水などの水リスクを激甚化させている。
一方で、企業が考慮すべき水リスクはこれらがすべてではない。国土交通省の「令和7年版 日本の 水資源の現況」※3によると、渇水や洪水に加え、水インフラの老朽化による事故、産業構造の変化に伴う水需要の変動が及ぼす水供給への影響、さらにはネイチャーポジティブ※4への対応などと多様化していると述べられている。
この様に、対応すべき水リスクは多様かつ激甚化しており、一企業が単体で水リスクに取り組むのはハードルが高くなってきていると言える。そのため、これからは地域ごとに異なる水課題に柔軟に対応し、河川流域全体で多様なステークホルダーが協働して、水資源の効率的な管理と持続可能な利用を目指す水リスクマネジメントが不可欠である。
本稿では、企業が水リスクマネジメントを進める上で重要な観点を、今年6月に開催された水課題 に関する先進的な議論の場である「AWSフォーラム」で得た最新知見を基に解説する。
※1 )気象庁 HP:https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/sum_jpn.html
※2)日降水量 1.0mm 未満で降水の見られない日のこと。
※3)https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/mizsei/mizukokudo_mizsei_fr2_000064.html
※4) 自然の劣化や損失を 2020 年の状態と比較して、2030 年までにゼロにし、2050 年に向けてプラスに転じさせるこ とを意味する。
AWS(Alliance for Water Stewardship)とは、地域社会と協力して水資源を保護することに焦点を当 てた国際水資源管理基準(AWSスタンダード)の管理団体である。AWSの団体名にもあるWater Stewardship(ウォーター・スチュワードシップ)とは「責任ある水資源の管理」を意味する言葉である。AWSは認証を取得するためのフレームワークを通じ、加盟団体が流域ベースでステークホルダーと協働する取り組みを推進し、社会的・文化的に公平で、環境に対し持続可能であり、経済的に有益 な水の利用を促進することを目的としている。2025年9月現在、世界中で200以上の企業や団体が加盟している。なお、ウォーター・スチュワードシップやAWSについては、過去のサステナブル経営レポートで詳しく解説しているため該当記事※5を参照されたい。
AWSでは毎年、AWSフォーラムを開催しており、会員が一堂に会してそれぞれが抱える水課題につ いて議論し、ベストプラクティスの共有を行っている。AWSフォーラムには企業だけでなく、世界自 然保護基金(WWF)、持続可能な開発のための経済人会議(WBCSD)、世界経済フォーラム(WEF)、 CDP、CERES※6などの様々なNGOや国際機関の参加が見られた。こうした多様な立場からの意見を直接 聞くことは、水リスクへの理解を深める上で非常に有益な機会である。
前章の通り、水リスクマネジメントでは流域単位での取り組みが重要となる。流域全体、すなわち 河川の上流から下流まで広範なエリアを対象とするため、多くの人々や組織との協力が不可欠である。 しかし、こうした場では立場の違いから意見が異なる場合も多い。企業とは異なる視点や背景を持つ ステークホルダーがどのような課題意識を有し、解決策を持っているのかを知ることは、企業の水リ スクマネジメントにとって極めて重要である。多様な組織と対話して異なる意見や価値観を取り入れ ることで、流域単位での協働による水資源管理の実効性が高まる。AWSフォーラムのような場は、こ うした協力関係の構築において特に望ましい環境であると言える。次章からは、AWSフォーラムにて 取り上げられた議題をもとに、最新の水リスクへの取り組みと、国内外の動向について紹介する。
※5)MS&AD インターリスク総研 サステナブル経営レポート:https://rm-navi.com/search/item/1685
自然関連課題である水リスクに対して企業はどう対応していくべきか ―水リスクマネジメントに関する概説― 【サステナブル経営レポート 第 22 号】(2024.4)
※6)アメリカの環境保護団体や投資関係団体などから構成される非営利組織。企業や投資家の環境慣行を変革するこ とを目的とした活動を推進している。
これからの水リスクマネジメントを議論する場では、主に2つのトピックに焦点が当てられた。一つ目が「適応策やレジリエンス強化の重要性」である。「適応」は既に顕在化している、または避けられないリスクによる悪影響に備え、被害を最小限にすることを意味し、「レジリエンス」は実際に被害が発生した場合に如何に復元するか、すなわち復元力を意味する。気候変動の観点では二酸化炭素の排出量削減を目指す「緩和策(mitigation)」に注目が集まりがちであるが、すでに顕在化している水リスクへの対応には、緩和策での対策だけでは不十分である。1章で述べた通り、水リスクは多様かつ激甚化している。持続可能な水リスクマネジメントを目指すためには、積極的な適応策の実行やレジリエンス強化が必要であり、ウォーター・スチュワードシップの枠組みはその実践に最も適していると言える。
例えば、水リスクマネジメントの取り組みはダム建設の様に水の供給量を人工的に調整するインフラ中心の方法から、氾濫原※7の再生やリジェネラティブ農業※8の推進といった自然を活用した解決策(Nature-based Solutions)に注目が集まっている。氾濫原は河川洪水の発生時に水を引き込むことで河川流量を減少させ洪水被害を低減する効果を持ち、リジェネラティブ農業は土壌の保水力を高めることで灌漑に要する水量を減少させ、間接的に水枯渇の解決に貢献する。このように、水リスクマネジメントはより自然に基づくアプローチへと進化している。
また、「レジリエンス強化」は企業が取り組む意義を明確にするために特に重要であると指摘されている。近年、反ESGの風潮により、環境配慮のみが前面に押し出された取り組みに対して、批判的なスタンスを取る勢力もある。一方でレジリエンスを目的とした行動は、災害等の喫緊の課題への直接的な対処であること、社会と自社の両方にわかりやすいメリットがあることなどから、政治的な対立を生みにくく、関係者から受け入れられやすい特徴がある。AWSフォーラムでは、この様に目的の位置づけやストーリーの伝え方によって、考え方の違いによらない、多様なステークホルダーの共感を得ることが可能であることが話題に上っていた。
二つ目のトピックは「官民連携の強化」である。世界経済フォーラムの代表者は、今年3月に公表された白書「Water Futures: Mobilizing Multi-Stakeholder Action for Resilience」※9を取り上げ、官民連携の重要性、特に政策と技術革新の連携を促進させることの意義を強調した。
政策や規制は科学的根拠や専門家の経験を基に設計されており、技術革新の進歩や環境の変化を受けて柔軟に改定される。対して、民間企業は水リスクに対するレジリエンスを高めるために、政策目標の達成に資するソリューションの開発・推進を担う。今後の水分野の課題解決と発展のためには、政策立案者が政策目標および官民連携の方向性を明確にし、革新的な水関連技術の試験導入や実証、普及を促すためのインセンティブ設計をすることで、技術革新の創出・導入を積極的に支援することが不可欠である。政策立案者と民間企業が継続的に対話を重ねることで、専門知識が集約され、民間企業は政策への提言が可能となり、政策側からは民間企業に対して優先すべきソリューション開発を促すことができるため相乗効果が生まれやすく、双方向の連携を強化することのメリットは大きい。
一方で、このような連携を阻むコミュニケーション面での課題も指摘されている。その一要因として、水課題に取り組む各組織が、それぞれの専門領域内で独自の専門用語を用いるようになり、組織間での言葉のずれや認識のギャップが生じていることが挙げられる。企業によるウォーター・スチュワードシップ活動では、民間企業は水を経済的価値や経営リスクの観点で捉える考え方やフレームワークを活用することが多いが、それが行政や地域社会との意思疎通を難しくする場合がある一方で、行政側の制度的な用語や法的概念が企業にとって理解しづらい場合もある。このように、双方が異なる専門領域のもとで水課題に取り組んでいるため、共通言語の形成や相手の立場を踏まえたストーリーの伝え方の工夫が求められている。
このような状況もあり、流域全体でステークホルダーが協働して水リスクマネジメントに取り組むコレクティブアクション※10の促進や政策提言への積極的な関与はまだ限定的であり、これらの取り組みを推進することもこれからの課題とされた。官民連携の強化は今後の水資源管理の鍵となっている。
※7)河川洪水が発生した際に、冠水する領域のこと。多様な生態系が築かれるエリアであることに加え、水害を緩和する機能も持ち合わせる。氾濫原は農地や住宅地として開発されてきたが、それが持つ機能が評価され、再生・保全する動きがある。
※8)不耕起栽培などにより、農地土壌を修復・改善しながらおこなう農業のこと。
※9)世界経済フォーラム HP:
https://www.weforum.org/publications/water-futures-mobilizing-multi-stakeholder-action-for-resilience/
※10)複数の個人や組織が、単独では解決が難しい共通の課題に対して協働して取り組むことで解決を目指す取り組み。
AWSフォーラムでは、企業のウォーター・スチュワードシップ実践例を紹介するセッションが設けられている。そこでは、近年企業が取り組みを推進する上で、定量評価手法の導入やサプライチェーン全体への水リスクマネジメントの展開が重要なテーマとなっていた。ここでは、先進的な企業事例をもとに、具体的な取り組みとそのポイントを解説する。
定量評価手法の導入例として、水に関するレジリエンスの強化やリスク低減のコンサルティングを行っているBlue Riskからは、「Volumetric Water Benefit Accounting(VWBA)」および「Value of Water」ツールの活用が紹介された。VWBAは、流域で共有されている水課題を明確化し、どのような影響を与えたいかというインパクト経路を設定した上で、適切なプロジェクトの種類を選定し、複数のプロジェクト間で期待される定量的貢献(Volume Benefit)を試算するものである。「Value of Water」ツールは、水リスクを金銭価値に変換することが可能である。こうしたツールの導入は、定量化により自らの取り組みがどれだけ効果を生んでいるかを実感し、水課題への取り組みに対する社内での理解を深めることに加え、成果が数値で明確になるため、関係者の責任感も高めることができる。また水のリスクや価値を金額で表すことで、現場だけでなく財務部門や経営層も、「水課題=コストや利益に直結する重要な経営課題」として認識することができる。このような定量評価手法の導入は、まずは実際に水を使用する工場などの現場部門を含めてウォーター・スチュワードシップに関するリテラシーを高めることに繋がり、やがては流域を視野に入れた取り組みに発展させられる可能性がある。
自動車メーカーのAudiは、電気自動車のサプライチェーンにおけるウォーター・スチュワードシップ推進について紹介した※11。電気自動車ではライフサイクル全体の水使用量の75%がサプライチェーンで発生するため、技術開発部門と連携し、水消費量の多い原料の特定、原料変更による節水効果の検討、サプライヤーの巻き込み、地域パイロットプロジェクトの実施などを進めている。
このように、企業事例をひも解くとウォーター・スチュワードシップの実践には組織内外の協力を得る「buy in※12」が不可欠であることが分かる。ガバナンス体制の構築や、社外への定期的な報告を通じて方向性を明確にすることで、関係者から賛同や支持を得ることが可能となり、ステークホルダーとの協働に繋がる。ステークホルダーとの協同は流域内に限らず、業界全体での標準化を目指すことも効果的である。例えば、競合他社と連携して共通のアンケート様式を使うなど、業界横断的な取り組みも進められている。buy inの推進においては、国や地域による文化・状況の違いを認識し、ローカルの知識や住民の声を尊重することも重要である。これはグローバル企業であっても、操業地域では現地コミュニティと協働し、リアルタイムで情報を共有しながら適切な水管理を進めることが必要となるからである。
このように、海外では企業が主体となって流域単位での水リスクマネジメントの取り組みを進めるアプローチが成功している事例もいくつかあるが、日本では河川管理者や自治体主導で進められることが多く、企業の参加が今後の課題である。このような背景の下、日本でも2025年2月から栗田工業株式会社、コカ・コーラボトラーズジャパン株式会社、サントリーホールディングス株式会社、八千代エンジニヤリング株式会社(50音順)、そしてMS&ADインシュアランスグループホールディングス株式会社の5社により、Japan Water Stewardship(JWS)という企業イニシアチブが設立された。JWSはAWS 本部と協力し、日本企業に対して、ウォーター・スチュワードシップを促すことを目的としている。
今後、日本国内でも企業主体でウォータ-・スチュワードシップ活動が拡大するものと予測される。
※11)Audi HP:
https://www.audi-press.jp/press-releases/2023/01/0126/005_Alliance_for_Water_Stewardship.pdf
※12)ここでは活動を実施する際に、関係者から賛同や支持を得ることを指す。buy-in は、関係者が活動や方針に同意し、精神的に受け入れる状態を意味する一方、コレクティブアクションは賛同した関係者が実際に協力し合い、具体的な行動を起こすことを指す。
水リスクの影響で、企業自身の投資判断も企業への投資活動も、今後大きく変化する可能性がある。
Global Water Initiative(GWI)の報告書※13によれば、世界平均気温が2040年半ばまでに産業革命前と比較して2℃上昇した場合、極端な増水事象と極端な乾燥事象の総強度※14は8,000km3/月に達する可能性があるとしている。2015年以前に建設された都市の水インフラは強度が1,300km3/月以下に対応できるように設計されたと推定されており、都市域においてこれまでの気象条件を基準とした従来の投資戦略を続けた場合、水課題に対処するために必要なインフラ投資額は年間1.5兆ドルに上るとされている。
一方、2025年の世界の都市域における水関連インフラ投資額は約4,010億ドルとの試算であり、従来通りの投資判断ではもはや十分な対応ができないことがわかる。このような状況を踏まえ、データを活用したスマートインフラや自然を活用したグリーンインフラ、市民教育など、新しい解決策を取り入れた投資を組み合わせることで、必要な投資額を半分にまで低減できる可能性があるとされている。したがって、企業は今後、インフラ投資の方向性や投資対象が従来と大きく変化することを想定する必要がある。間接的にではあるが、自社の事業戦略や投資判断においても、水リスクへの対応や新しい投資領域への対応が求められると言える。
水リスクに対する投資家の関心もますます高まっている。Ceresは、投資家が保有企業の経営リスクを自らの財務リスクと捉え、受動的ではなく、企業に対して積極的に水リスクへの対応を求める責任があると主張している。水リスクへの対応は投資家の受託者責任の一部であり、企業に対する対話や株主提案、公式書簡の要請を通じて、実際に経営方針の見直しを促している。例えば、2025年の株主総会シーズンにはいくつかの企業の総会において、水リスク対応への株主提案がなされた。米国のクラウドサービス大手企業に対しては「同社が利用するデータセンターに関連する新規および既存の水需要を低減するための戦略と、操業上の水資源リスクについて報告すること」が要求された。また、米国の飲食大手に対しては「水質目標および、それを達成するための具体的な取組案を報告すること」が要求され、いずれも提案が受け入れられている。加えて、Ceresが近年設立した投資家主導のグローバルな取り組みである「Valuing Water Finance Initiative(VFWI)」は、投資家主導で水使用の多い企業と対話・エンゲージメントを展開している。VFWIが企業に求める期待事項は、水量・水質・生態系・水へのアクセス・WASH(飲料水・衛生)・ガバナンス・政策関与など、多岐にわたる。2030年までにこれらを満たすよう企業に行動を促すことを目標としており、72社を対象に取り組み状況を定量評価している。今後は自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)などの開示基準との連動や、Nature Action 100(NA100)など他のイニシアチブとの整合も進められる見込みである。
近年は新しいファイナンス手法や資金の流れも生まれている。CATボンド※15、コンセッショナル・ファイナンス※16など多様な資金調達手段が登場しており、水リスクマネジメントに対して外部資金が付きやすくなっている。水リスクの領域における投資家の関心の高まりや新たなファイナンス手法の登場が見られるこの局面では、企業が水リスクをどのように位置づけるかが重要である。企業は、水関連の課題を環境リスクではなく経営課題の観点で捉え、水リスクマネジメントへの取り組みを着実に実行し、その成果を外部に説明することで、より低い資本コストで資金を調達することが可能になる。
※13)Global Water Initiative HP:
https://www.globalwaterintel.com/documents/rethinking-resilience
※14)強度は一定期間で発生した極端な増水と極端な減水の量を合計した指標であり、地球規模で異常気象による水の増減がどれだけ激しくなっているかを示す。指標が大きいほど、洪水や干ばつなどの事象が頻発・激化していることを意味する。
※15)債権の形で資本市場に売り出すものであり、あらかじめ定めた基準を超える災害が発生しなければ、普通社債と比べて高い利回りと元本が投資家等の債権購入者へ償還される一方で、災害が発生した場合には元本の一部もしくは全額が減額される仕組みとなっている。受け取った資金の使用用途には制限が無いため、発行会社は災害復旧のために幅広い対応が可能であることや、資金の受け取りが比較的短期間で可能というメリットがある。
※16)市場金利よりも低い金利や、長い返済期間、部分的な補助金要素を持つ融資や投資のこと。主に開発途上国を支援し、気候変動対策や教育、医療などの開発目標達成を目的とし、世界銀行など公的機関などの活用事例が多い。企業単体では採算が取れない、水リスクの高い地域に対するインフラ導入をコンセッショナル資金でカバーすることができる。
水資源管理と生物多様性の保全は、企業のサステナビリティ経営において密接な関係を持つ分野である。特に淡水生態系における生物多様性喪失は、過剰取水や水質汚濁が重大な圧力となっている。
事業活動によるインパクトによって生物多様性へ与える影響を低減し、回復していくことがネイチャーポジティブの視点でも求められているが、対応を行う上で取り組みに対する環境や生物多様性への成果を測る仕組みが無いことが課題として挙げられている。これは、生物多様性と一口に言っても見るべき要素は場所によって様々であり、一概に1つの指標で測定することが難しいからである。
AWSフォーラムでは、最新動向として、CEO Water Mandateなどによって開発されている生物多様性ベネフィット会計(BioBa)が紹介された。BioBaは、水量や水質の評価手法である Volumetric Water Benefit Accounting や Water Quality Benefit Accounting を補完する位置づけであり、企業が水資源管理や生態系保全活動に投資した際に得られる生物多様性上の便益を、定量的に評価・報告するための枠組みである。新規プロジェクト段階から生物多様性の便益を意識した設計を推進するのに活用できる。
BioBaでは、アウトプット指標(活動ベースの指標)とアウトカム指標(結果ベースの指標)を区別して測定する。アウトプットは、例えば水質改善のためのインフラ設置など、直接的な活動成果で定量化可能だが、生物多様性の改善と直結しない場合がある。一方、アウトカムは生態系の状態や生態系サービスの回復(水質浄化能力の向上)など、アウトプットがもたらす状態の変化や価値の創出を評価するものであり、より多くの評価努力と長期モニタリングが必要となる。アウトカム指標は、Nature Positive Initiativeが開発するState of Nature Metrics(自然の状態指標)のフレームワークと整合させることを目指すと述べられており、生態系の広がりや状態、種の多様性評価に活用することが期待されている。
BioBaの実践においては、Theory of Change(変革の理論)の策定が重要と指摘されている。Theory of Changeとは目標達成のために活動からアウトプット、アウトカム、インパクトまでの因果関係や道筋を整理するものである※17。BioBaを実践する際には、自然に対してどのような介入を行うと、どのようなアウトプットやアウトカムが得られるのかを明確にし、それらの成果達成に影響を与える外部要因やリスクを洗い出す必要がある。特にプロジェクト設計段階で、幅広いリスクシナリオや不確実性を事前に考慮しておくことが求められる。
※17)Conservation Collective HP:
https://conservation-collective.org/wp-content/uploads/2024/12/Theory-of-Change-2024.pdf
AWSスタンダードは5年ごとに大規模な改定を実施する方針となっており、2019年に発表された第2 版の有効性と外部環境の変化を踏まえ、2023年より第3版の策定プロセスが開始されている。グローバルなパブリックコンサルテーションを経て、2025年度内の公開を目指している。
第3版では実用性を向上させるため、スタンダードの簡素化や欧州の企業サステナビリティ報告指令(CSRD)に整合させることを目的としているほか、気候変動や生物多様性など、その他の環境テーマを組込むことを試みている。例えば、まだ決定されてはいないが生物多様性の観点では、流域内における保護地域、生物多様性重要地域(KBA)※18、ラムサール湿地、絶滅危惧種や侵略的外来種の有無を把握することが新たな基準案に追加されている。改定が予定される主なポイントは下図の通りである。
既に実施済みのパブリックコメントでは、サプライチェーンにおける水リスクの把握を重視する声が多く、間接的な水使用量を報告する要件を削除する改定に対して、懸念が表明された。加えて、気候変動や生物多様性、コレクティブアクションなど各テーマについて、充実したガイダンスを増やすことを要求する声が多かった。


AWSにはグローバル企業が多数加入しており、パブリックコメントからも分かるようにサプライチェーン全体での水リスク管理を重視する声がある。そのため、調達先や委託先にも流域レベルの水管理への協力を求めるケースが想定される。認証を直接取らなくても、AWSに準拠した水リスク対応を要求される可能性がある。その他、本改定案を踏まえると、水リスクマネジメントを進める上で下表のポイントを押さえることが望ましい。
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 他環境テーマとの 統合 | 気候変動や生物多様性、海洋環境など新たな課題への対応が求められている。 水のみに着目する従来の水管理だけでなく、環境経営全体への統合的アプロー チが不可欠となる。 |
| サプライチェーン 管理の強化 | 間接的水利用や流域単位でのデータ収集・協働が求められるため、サプライヤ ーとの連携や情報開示、目標設定の高度化が必要となる。 |
| ガバナンスの向上 | 各流域における、ステークホルダーとの対話やエンゲージメントが重視される ため、社内外のガバナンス体制の強化、定期的な情報開示・コミュニケーショ ンが求められる。 |
企業には流域を捉えたより広範な水リスク管理と環境経営の一体化がこれまで以上に求められると想定される。AWSに加盟していない企業においても、AWSスタンダードは参考になるはずである。スタンダードに沿った対応を経営戦略に組み込むことでリスクを低減し、持続可能な競争力の確保につなげることができる。
※18)Key Biodiversity Area の略。生物多様性の保全の鍵になる重要な地域のことを示す。
※19)AWS 公表資料より当社仮訳
https://a4ws.org/resource/summary-aws-standard-major-revision-v3-0/
本稿では、企業が水リスクマネジメントを進める上で求められる観点を、今年6月に開催されたAWSフォーラムにおける議論の内容を踏まえ解説した。直近では2025年度内にAWSスタンダード第3版が公開されるため、その内容に注目が集まっている。
世界各地で水関連課題は多様化・激甚化する中、バリューチェーンがグローバルに展開される現代のビジネス環境では、企業が直面する水リスクも多岐にわたる。企業はまず各拠点で顕在化している、もしくは潜在的な水リスクを把握し、相対的にリスクが大きいと考えられる拠点については適応策を検討することが推奨される。さらに、リスクを緩和していくためにも自社の影響力を踏まえ、流域全体での取り組みも視野に入れるべきである。加えて、水リスクマネジメントの中に、生態系サービス※20への視点も考慮されることが望ましい。例えば水源の水質悪化による水処理コスト増加や、森林伐採による洪水調整機能の喪失など、水リスクは生物多様性や気候変動と密接に関わっており、これらを軽視すると水リスクマネジメント施策の効果が十分に発揮されない点に留意したい。
また、現場レベルだけでなくガバナンスレベルでの意識も重要である。水リスクマネジメントには多様なステークホルダーとの継続的なコミュニケーションが不可欠であり、これを長期的に行うためには、企業のリスク管理体制にステークホルダーエンゲージメントを組み込むことが求められる。官民連携や投資家からの資金調達を進めるには、信頼されるガバナンスの整備が前提となる。
最後に、AWSフォーラムには欧州、北米、インドなどから多くの企業の参加した一方、日本企業を含むアジアからの参加は少数であった。前述の通り、国内でもJapan Water Stewardshipなどの団体が発足しており、日本企業が率先して流域のステークホルダーと連携したコレクティブアクションを推進し、その成果を国際的に発信することが期待される。
※20)人間が生物や生態系から受ける便益(サービス)のこと。微生物などによる水の汚染浄化、木々による土壌の安定化や洪水発生の抑制機能など、様々な便益がある。
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