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自然の力を生かした防災・減災と損害保険会社の役割【リサーチレター(2026年7月)】
近年、気候変動の進行などにより、台風や豪雨、それに伴う洪水や土砂災害等、自然災害の激甚化と頻発化が問題となっている。国連防災機関(UNDRR)が発行した「Global Assessment Report on Disaster Risk Reduction 2025」によると、1970年から2000年の間、自然災害によって生じた直接的な損失額は年間平均700億~800億ドルだったが、2001年から2020年の間には、1,800億~2,000億ドルとなった(物価調整済みの値)。それだけでなく、より広範な社会・生態系の損失を考慮に入れると、推計される損失額は、年間およそ2.3兆ドルに達する。
また、国内では環境の変化だけでなく、地方の過疎化や高齢化、インフラの老朽化等により、地域社会の脆弱性も高まっている。これまで、防災・減災対策はダムや堤防、護岸等のグレーインフラが中心となっていた。しかし、これだけではリスクを十分にコントロールできない局面が増えている。加えて、整備や維持のコスト、生態系への影響も課題となっている。
こうした背景から「自然に根ざした解決策(NbS)」や、その一つであるグリーンインフラを既存のグレーインフラとともに活用することが進められている。洪水緩和、土砂流出防止、気温調整等の防災・減災機能だけでなく、生物多様性保全、地域住民のウェルビーイングなど、多くの便益をもたらすものとして注目されているからだ。
日本では2015年以降、国の計画や戦略の中にグリーンインフラが盛り込まれ、近年は社会実装に向けた取組みが進められている。防災・減災や地域づくりの手法の一つとしての期待は大きい。
NbSは、自然の持つ多機能な特性を生かし、生物多様性や気候変動だけでなく、防災・減災や食料問題、人間の健康増進などといった、複数の社会課題を同時に解決することを目指す取組みである。2009年にIUCN(国際自然保護連合)が提唱し、「昆明・モントリオール生物多様性枠組」の目標8・11にも、この要素が盛り込まれている。また、NbSの中には「生態系を基盤とした防災減災アプローチ(Eco-DRR)」「気候変動適応策(EbA)」「グリーンインフラ」なども含まれる。
| NbSアプローチのカテゴリ | 例 |
|---|---|
| 生態系回復アプローチ | 生態系再生 生態工学 など |
| 問題別のアプローチ | 生態系を基盤とした防災・減災(Eco-DRR: Ecosystem-based Disaster Risk Reduction) 生態系を基盤とした気候変動適応(EbA: Ecosystem-based Adaptation) など |
| インフラに関連するアプローチ | グリーンインフラストラクチャー 自然インフラストラクチャー |
| 生態系を基盤とした管理アプローチ | 統合的な沿岸管理 統合的な水資源管理 |
| 生態系保全アプローチ | 保護地域管理を含むエリアに基づく保全アプローチ(政府等による保護区域・OECM) |
出典:吉田尚也編(2021).『BIOSITY No.86 NbS 自然に根ざした解決策 生物多様性の新たな地平』.ブックエンド
日本でも2015年以降、国の計画や戦略の中でグリーンインフラが位置づけられ、近年は社会実装に向けた取組みが進んでいる。国土交通省は、その定義を「自然の多様な機能を活用した社会資本」とした。このように、防災・減災にとどまらず、快適な地域づくりやウェルビーイング向上にもつなげようとしている。2020年に「グリーンインフラ官民連携プラットフォーム」が設立されたほか、2026年1月には「『グリーンインフラの活用が当たり前の社会』の実現」を目指す、2030年までの計画「グリーンインフラ推進戦略2030」が策定された。本計画では2050年の「『自然共生社会』の実現」に向け、環境整備策やグリーンインフラの実装事業に個別のKPIが設定※1されている。
※1)前者に「政令市が存在する全都道府県でGI(筆者注:グリーンインフラ)に関する融資又は金融商品を1件以上創出」など。後者に「グリーンインフラ官民連携プラットフォーム会員のうち、雨庭に関連する取組みをした会員数を500者にする」など。
NbSの中でも、グリーンインフラには、雨水をためる、しみこませる、流れを緩やかにするなどの働きにより、洪水や土砂災害の被害を和らげる効果が期待されている。
東京都内では、市民参加のもとで雨庭※2などの小規模グリーンインフラを面的に広げ、水災リスクの低減を図る取組みが行われている。海抜が低いなどの要因から都市型水害のリスクが高い墨田区では、かねてから雨水を貯める設備(雨水タンク等)を設置してきた。それだけでなく、雨どいプランター、薄型雨庭など、すき間を生かした小規模グリーンインフラモデルを住民参加型で設置した。さらに、それらの運用実態や効果を検証するために、水位・温度をモニタリングし分析を行っている。

その結果は区の「すみだ雨水活用ガイド」や助成制度(浸透ます・トレンチへの拡充)に反映されている。雨水タンクの水位をリアルタイムで見える化し、豪雨前の事前排水を促す仕組みづくりも進めており、下水道の負荷軽減に資する「分散型インフラ」のモデルとなっている。
この他にも、武蔵野台地の「雨にわ」事業は、局地的大雨が増えるなか、護岸工事などの「雨をはやく流す」対策の限界を踏まえ、宅地レベルで雨を貯めて浸透させるNbSの普及・実証がある。世田谷・武蔵野の2地域で、調査・計画から施工・維持管理・モニタリングまで一連のプロセスを実施した。それを通じて定量データを蓄積している。また、行政による技術指標(「世田谷区雨水流出抑制施設技術指針」)の整備も進んでいる。さらに、NPOや地域の財団法人が主催するワークショップなどに、未就学児から高齢者まで300名以上が参加し、防災意識と生物多様性への理解を高めている。
※2)住宅や事業所の敷地の一角に設置される、雨水を貯留・浸透させるための植栽のこと。
ある金属加工機械メーカーは、事業所の設備更新に伴ってグリーンインフラを整備した。同事業所は広大な敷地面積を持ち、ここでの雨水貯留対策は、周辺住宅地へ与える影響が大きい。また、敷地森林の約8割が単一種の人工林となっており、グリーンインフラ整備による生物多様性の回復も効果的であった。そこで、在来種中心の多様な植栽を含めた、バイオスウェル※3と雨庭を整備した。地内に降った雨を敷地内で浸透・浄化させ、地域の水害・水質リスクを抑えつつ、休憩に使える緑地として従業員に開放している。これにより、雨水管理機能、環境・生物多様性配慮、従業員の健康・コミュニケーション促進を、一つの取組みで同時に実現した。加えて、雨水浸透・貯留の様子が可視化されたことは、従業員の防災意識向上にもつながるとしている。企業での「人的資本」向上という価値も生み出しうると評価されている事例である。
※3)砂利を敷き詰めた、深さ70cm程度の側溝。雨水を貯留し、ゆっくりと地中に浸透させる効果がある。雨庭に比べ、水質浄化機能が強調されることが多い。
世界銀行は、自然災害の激甚化によって保険金請求が地理的または部門的に集中すると、損害保険会社の収益性や補償能力の低下につながる可能性があると指摘した(2022)。背景には、自社の財務負担の増加と、保険料引き上げの必要性という2つの要因がある。財務負担が増すにつれて保険料が上昇していき、ニーズの高まりと相反して、財務的に加入しづらくなる可能性がある。すると、保険普及率が低下し、顧客数は減少してしまう。
これは災害の激甚化・頻発化と、保険に加入できないことの悪循環を招く。この状態に陥ると、損害保険会社の損失は増え、十分な補償を受けられない主体が社会全体で拡大することになる。そして企業や個人の経済的負担と、それに伴う社会的な悪影響が増加する。
さらに、再保険コストの上昇や引受制約の強まりも、長期的な事業継続性の懸念へとつながる。そこで、災害発生前のリスク評価やリスク低減支援など、リスク自体の低減への関与が重要な経営課題となる。
このように、自然災害による影響やリスクが大きいゆえに、保険セクターはその対策として自然資本の損失を低減する役割を期待されている。自社の収益性向上の戦略と、自然を回復させる取組みが重なるためだ。期待される内容とそれに付随する機会は、大きく3つに分類できる。
現在、ネイチャーポジティブ※4に向けて自然を再生するために提供される資金は、自然の状態を悪化させる資金の流れに比べて不足している。NbSへの資金拠出は世界全体で推定2,000億ドルとされているが、これは必要な資金の約3分の1である。反対に自然にマイナスの影響を与える資金は、7兆ドルにも及んでいる。(UNEP、2023)
損害保険会社の事業によって、自然資本へ直接的に損害を与えるリスクは少ないとされる。しかし、企業への保険引受や投資が、自然への悪影響につながる可能性はある。一方で、自然の保全によってレジリエンスを高めることは、損害保険事業をするうえでのリスクを低減し、事業活動への好影響をもたらすことができる。顧客企業が災害に遭うリスク(物理的リスク)や自然への配慮に欠けた事業への訴訟リスク(移行リスク)などが、保険金の支払い増加(金融リスク)として自社に降りかかる可能性を低減できるからだ。そこで、ネイチャーポジティブな事業活動を行う企業への投資や、保険契約でのインセンティブの設定などが検討、推進されている。
他にも、自然保護や生態系回復のプロジェクトを支える保険の試みも、海外ではみられる。こうした取組みは、プロジェクトの継続性を高めることにつながる。
※4)「2030年までに自然の損失を止め、反転させる。そして、2050年までに完全回復を達成する」ための国際目標。
世界銀行(2022)や環境防衛基金(2025)のレポートでは、損害保険会社が保有しているであろう自然災害リスクのデータや解析モデルの活用が訴えられている。これにより、NbSによって「どの程度リスクが下がるのか」や、NbSが「投資に見合うのか」を示せる可能性がある。NbSは、防災・減災に有効とされながらも「どの程度リスクが下がるのか」「投資に見合う効果があるのか」が見えにくく、導入の大きな障壁となっている。環境防衛基金の同レポートでは災害(洪水・内水・高潮・土砂災害など)のハザードモデルや保険金支払データ、リスクマップ作成能力はこの「見えにくさ」を解消する役割を担いうるとしている。
環境省は「ネイチャーポジティブ経済移行戦略ロードマップ(2025-2030年)」(2025年)の中で、ネイチャーポジティブ経済への移行を訴えている。それに向けた道筋の一つとして、「情報開示の促進とネイチャーファイナンスの拡大による、ネイチャーポジティブ経営の拡大・深化」を提示した。
環境省によると、企業が自然関連財務情報の開示(TNFD)などに取組み始めている一方で、その成果が資金調達や需要拡大、企業価値向上に十分つながっていない。また、金融機関や投資家も評価指標が未整備なため、投融資判断が難しい現状があるという。これらを受けた課題として生物多様性・自然資本に関する「データ整備」や「価値取引を見据えた価値評価」等を挙げており、損害保険会社によるデータやモデルの提供が貢献できる可能性がある。
海外では、既に商品設計への反映を行っている事例もある。ある損害保険会社は、「グリーンルーフ」と呼ばれる、屋根に植物を植え雨水を貯留する設備を整えた顧客を、保険料割引の対象とする制度を設けている。同社はアプリを活用して、自宅の安全度を検証できるサービスも提供している。水災や火災、防犯等のテーマに関する質問に回答すると、スコアに応じてランクが付与される。こうした情報をもとに割引率が決まり、スコアを改善するためのアドバイスも得られるという。
先述のように、NbSは企業単独ではなく、流域や地域単位などの広範囲での取組みが必要になる。自治体、企業、住民と幅広い接点を持つため、地域の関係者をつなぐ役割も期待される。
その一例として、海外で森林の保全と農業再生を目的としたプロジェクトに損害保険が関与したケースがある。この事例は、「侵略的外来種」「湿地の管理」「人間と野生生物の衝突」などの課題の解決を目指したものだ。この活動を継続していくための施策として、保険制度のパイロットテストを実施している。このケースでは、ある損害保険会社が団体保険を組成した。同社は保全事業者へ向けて、対象区域内での小麦やコメ等の作物への動物からの被害をカバーする、損害賠償責任保険を提供している。このプロジェクトが成果をあげられず、野生生物による農作物被害を発生させてしまった賠償責任に対して、補償するものだ。これにより、失敗した際の金銭的なリスクを軽減でき、自然保護・回復に取組みやすくなる。住民は、政府や自治体などによる補助金よりもはるかに簡単な手続きで、迅速に補償を受けられる。これは、保全活動への社会的受容性を高める効果がある。今後は自治体や政府による保険加入が検討されているそうだが、こうした組織にとっても、補助金制度の維持管理に必要な手間や経費を削減できるメリットがある。さらに、保険料を支払ったとしても、補助金にかかっていた支出が削減されることによって余剰が生まれる可能性もある。


出典:IUCN WCCでの講演と講演資料を基に筆者作成
NbSによる便益は、実際に取組みを行った地点だけでなく広範囲に及ぶことがある。このため、費用を負担しない人も恩恵を受けやすく、投資が進みにくい課題が生じる(フリーライダー問題※5)。また、効果が現れるまでに時間がかかることもある。こうした問題が、各地で大規模なNbSを推進するにあたっての妨げになっている。災害後の補償を中心に発展してきた保険の仕組みに対して、予防的な措置へはインセンティブや商品の設計が進みづらい面もある。さらに、効果は地域や設計によって変わるため、評価方法や基準作りも重要になる。
※5)NbSを活用した水害の減災を目指す取組みによる、保険金支払いの削減を例として考えてみる。湿地帯の再生や雨庭の設置による効果は、事業の実施主体や土地の提供者以外も享受できる。そうした企業や住民に保険を提供している損害保険会社は、NbSの設置や維持管理と、それに伴う業務にかかるコストを負担せずに利益を得られる。また、湿地帯や雨庭で植生や生物が定着し、生物多様性の効果が発現するには一定の期間を要する。施工後、維持管理の段階に何らかの理由で取組みから外れ、保険契約も共に失うことがあれば、その後に契約する損害保険会社が効率的に利益を得る可能性がある。
気候変動による自然災害の頻発化・激甚化や生物多様性の損失は、損害保険事業の持続性に直結する課題であり、「補償」だけでは対応しきれなくなることも考えられる。
様々な企業・機関からの報告を踏まえると、損害保険会社は自社の引受・投資能力、保有データ、顧客チャネルを生かし、予防・低減の側面へ積極的にコミットする戦略が不可欠である。資金供給、公的資金と民間資金を組み合わせたプロジェクト化支援や新たな保険商品の開発、効果の「見える化」への支援、流域単位・地域連携による実装が重要である。
一方、単独の損害保険会社だけでは採算や持続性を確保しにくい。したがって、自社事業と並行して自治体や企業と協働しながら、自然の力を生かした防災・減災を広げていくことが不可欠だ。
【参考文献】
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カーボンクレジットの概要と国際的な市場の動向【リサーチレター(2026年7月)】
カーボンクレジットは、企業が森林保護や省エネルギー機器の導入などによって達成したGHG 削減量や吸収量をクレジットとして発行し、他企業などに売買できる仕組みである。ここでいうクレジットは、排出量削減の証明書のようなものである。クレジットは図表1のとおり、「①削減努力をしなかった場合の見込み排出量(ベースライン)」から「②削減努力をした場合の実際の排出量」を差し引いて算出される。一般的にカーボンクレジット1 単位は、1t-CO2eと表される。クレジットの購入者は、自社で削減が困難な排出量を埋め合わせる、相殺(オフセット)ができる。

カーボンクレジットを創出するためのプロジェクトは、排出回避・削減によるクレジット(削減クレジット)と炭素吸収・除去によるクレジット(除去クレジット)の 2種類に大別でき、それぞれをさらに技術ベースと自然ベースに整理できる。具体的なプロジェクトの例は図表2のとおりである。
「削減クレジット」とは、「既存の取組みにおいて、以前と比べて GHG 排出量を減少させるプロジェクト」によって創出されたクレジットである。対して、「除去クレジット」とは、大気中の炭素(CO2)を実際に取り除くことで創出したクレジットである。一般的に、炭素を除去する技術を総称して、炭素除去(CDR:Carbon Dioxide Removal)技術と呼ぶ。
「技術ベース」とは、産業活動などの人工的な取り組みによるプロジェクトに基づくクレジットの区分であり、対して「自然ベース」とは森林や海洋などの自然環境に働きかけるプロジェクトに基づく区分である。
| 排出回避‧削減(削減クレジット) | 炭素吸収‧除去(除去クレジット) | |
|---|---|---|
| 技術ベース | 再エネ機器の導入 設備効率の改善、省エネ促進 燃料転換 輸送効率改善 廃棄物管理 など | DACCS※(Direct Air Capture and Storage) BECCS※(Bioenergy with Carbon Capture and Storage) など |
| 自然ベース | REDD+※ 森林保護 泥炭地保護 沿岸域(マングローブ林など)の保護 など | 植林‧再植林(ARR:Aff orestation, Reforestation, and Revegetation) バイオ炭 など |
カーボンニュートラルの実現に向けたカーボン・クレジットの適切な活用のための環境整備に関する検討会
「カーボン・クレジット・レポート」を基に筆者作成
※REDD+とは、途上国における森林減少・劣化の抑制や森林保全によるGHG排出量の減少を目指し、資金などの経済的なインセンティブを付与することにより、排出削減を行おうとする取組み。
※DACCSとは、大気中から直接CO2を回収し、それを地中深くに長期間にわたって安定的に貯留する一連の技術の総称。
※BECCSとは、生物資源を燃料とするバイオマスを燃焼する際に発生するCO2を回収し、貯留する技術の総称。
カーボンクレジットを発行するメカニズム(制度)は、以下の3つに整理される。
①地域・国家・地方政府のクレジットメカニズム:
特定の国・地域の法律などを根拠とし、その管轄内で流通することが意図されている制度。J-クレジット制度(日本)や、活用が進むAustralian Carbon Credit Unit Scheme(豪州)などが含まれる。
②独立的クレジットメカニズム:
NGO などの民間団体が独自にルールを定め運営する制度。Verra※2やGold Standard※2といった民間団体が運営するクレジットの仕組みが含まれる。
③国際的クレジットメカニズム:
国際機関によって管理または運営され、複数国間で流通することが意図されている制度。パリ協定6条※3に基づく枠組みが含まれる。
続いてカーボンクレジットの利用目的は、以下の4つのカテゴリに分類される。
①地域・国家・地方の法規制対応:
排出量取引制度や炭素税などの法規制・制度対象となっている企業や団体が、義務の一部を果たすためにカーボンクレジットを購入することが認められている。例えば2026年度から開始したGX-ETS第2フェーズ※4では、「J-クレジット」と「JCM(二国間クレジット制度)」の2つのカーボンクレジットが相殺(オフセット)のために上限付きで利用可能となっている。
②国際的な法規制対応:
例えばCORSIA※5は、現在唯一の国際的なセクター別制度。CORSIAは対象航空会社に対し、承認されたカーボンクレジットを購入することで、一定の水準を超えるCO2排出量を相殺(オフセット)することを求めている。
③NDC(各国のGHG 排出量の削減目標)達成:
パリ協定6条に基づいて承認された、NDC(各国のGHG 排出量削減目標)を達成(または上回る)するための国際的なカーボンクレジットの利用を意味する。例えば日本では、JCMがパリ協定6条に沿った形で実施され、日本政府が獲得したカーボンクレジットは日本のNDCにカウントされる仕組みである。
④自発的な利用:
民間企業などが自主的に掲げたGHG排出削減目標を達成するためにカーボンクレジットを購入することが含まれる。
ここで押さえたいのは、3つのメカニズムを通じて供給されるカーボンクレジットは、複数の利用目的を満たす可能性があるという点である。例えば独立的クレジットメカニズムは、自発的な利用だけに役立つわけではない。VerraやGold Standardのような民間の制度で発行されたクレジットは、企業の自主的な取組みだけでなく、国の制度や国際ルールの対応にも使われることがある。実際にチリやコロンビアでは、炭素税制度にてVerraやGold Standardの一部カーボンクレジットの利用が認められている。またVerraやGold Standardの一部カーボンクレジットは、航空業界の国際的な制度であるCORSIAにおいて、相殺(オフセット)が可能である。つまり、カーボンクレジットは「環境に配慮した企業の自主的な行動」だけにとどまらず、各国の政策や国際的な制度と結びつくことで、カーボンクレジット市場が拡大している。

以降は、世界銀行「State and Trends of Carbon Pricing 2026」に基づいて、2025年市場の特徴を紹介する。State and Trends of Carbon Pricingレポートシリーズでは、過去10年以上にわたってカーボンプライシング(炭素税・排出量取引・カーボンクレジット)のトレンドを追跡している。
世界銀行によれば、2025年のカーボンクレジット発行量は前年から8%増加した(図表4参照)。メカニズム別にみると、独立的クレジットメカニズムからの発行が大きな割合を占め、VerraやGold Standardなどの民間基準が、市場の中心を担っている(図表5参照)。一方、地域・国家・地方政府のクレジットメカニズムはオーストラリアの制度が一部割合を占めるのみである。日本の制度である「J-クレジット」は図表5には見られないことから、国際的な市場の観点では、発行量は極めて限定的であることが分かる※6。


カーボンクレジットの発行量はプロジェクトごとに傾向が異なる。世界銀行のレポートではプロジェクトを「再生可能エネルギー」「化学プロセスと工業製造」「森林・土地利用」「家庭用デバイス」「農業」「その他」の分類に区分し、それぞれの発行量(2024~2025年)を示している(図表6参照)。
プロジェクト別の発行量では、森林・土地利用分野でのクレジット創出が大きな割合を占めている。これはREDD+、IFM※7、ARR※7といった取組みが中心である。また、農業も注目分野である。農業では、稲作の中干し延長※8や間断灌漑※8、家畜排せつ物管理※8の取組みが進んでいる。一方で、太陽光発電などを
含む再生可能エネルギー分野は発行量が減少しており、相対的に伸びが鈍化している。

カーボンクレジットの価格も、プロジェクトによって大きく異なる。世界銀行のレポートでは、プロジェクト別のクレジット価格推移(2025年1月~2026年3月)を説明している。レポートによると、自然ベースの除去クレジット価格は期間中、12~16米ドル/t-CO2e(日本円にして約1,908~2,544円※9)の範囲で推移しており、他のプロジェクトタイプのクレジットと比較して高値で取引されていた。
一方、「再生可能エネルギー」分野のクレジットは同期間中、常に2米ドル/t-CO2e(日本円にして318円)以下と、低価格帯であった。つまり、「自然ベースの除去クレジット」と「再生可能エネルギー」分野のクレジット価格には、10米ドル(日本円にして約1,590 円)以上の差があったことが読み取れる。この価格差の背景には、買い手が「安さ」よりも「品質」「永続性」※10「追加性」※10「第三者評価」を重視するようになったことが指摘されている。
国内のJ-クレジット市場では、「省エネルギー」「再エネ(電力)」「再エネ(熱)」といった再生可能エネルギー分野と、自然ベースの「森林」分野のクレジット価格は、いずれも2026年以降、4,800~5,200円の間で推移しており、分野による大きな価格差は見られない。ただし、クレジットの販売価格は、プロジェクトの分野だけでなく、地域や市場によっても異なる。今後、国際市場の品質を重視した動きやそれらに基づく価格差が、市場の成熟とともに、国内市場でも表れる可能性がある。
CORSIAは、国際航空業界におけるGHG排出量を削減するための制度である。2026年は第1フェーズであり、対象国が自発的に参加している。第2フェーズとなる2027年以降は、一部の小規模航空会社や後発開発途上国などを除く全ての国際民間航空機関(ICAO)加盟国の参加が義務付けられている。義務化に伴い、対象航空会社は特定の承認を得たカーボンクレジット(CORSIA適格クレジット、図表7参照)による相殺(オフセット)が求められる。
| 2024-2026(第1フェーズ) ()内はビンテージ | 2027-2029(第2フェーズ) ()内はビンテージ | |
|---|---|---|
| American Carbon Registry (ACR) | 承認(2021-2026) | 承認(2021-2029) |
| Architecture for REDD+ Transactions (ART) | 承認(2021-2026) | 承認(2021-2026) |
| BioCarbon Fund Initiativ e for Sustainable Forest Landscapes | 承認(2021-2026) | |
| Cercarbono | 条件付き承認 | |
| Climate Action Reserve (CAR) | 承認(2021-2026) | |
| Forest Carbon Partnership Facility | 承認(2021-2026) | |
| Global Carbon Council (GCC) | 承認(2021-2026) | |
| Gold Standard | 承認(2021-2026) | 承認(2021-2029) |
| Isometric | 承認(2021-2026) | |
| Thailand V oluntary Emission Reduction Programme | 承認(2021-2026) | |
| Verra Verified Carbon Standard (VCS) / Jurisdictional Nested REDD Programme | 承認(2021-2026) | 承認(2021-2029) |
ICAO 「CORSIA Eligible Emissions Units Informal Summary Table (April 2026)」を基に筆者作成
(備考)上記の適格ユニットにはICAO文書「CORSIA適格排出ユニット」の関連セクションに記載されているさまざまな除外事項と、ホスト国による認証に関する特定の要件も適用される
将来的な義務化の流れを踏まえ、CORSIA適格クレジットの需要の拡大が見込まれている。実際、世界銀行のレポートによると、全日本空輸株式会社、シンガポール航空、日本航空株式会社の3社はCORSIA適格クレジットを活用した。一方、供給の側面では、CORSIA適格クレジット発行量は未だ限定的で、需要を満たすには不十分と指摘されている。供給量が少ない背景には、CORSIA適格クレジットと承認されるための基準の厳しさがある。またCORSIA適格クレジットは、上述した理由から、2025年11月~2026年4月の間、CORSIA適格クレジットではないものと比較し価格が高い傾向がみられた。
前述のとおり、カーボンクレジットを創出するためのプロジェクトは、削減クレジットと除去クレジットに大別でき、炭素除去(CDR)プロジェクトによって創出したクレジットは「除去クレジット」と呼ばれる。削減クレジットと除去クレジットの重要な違いは、削減クレジットは排出量が残る一方で、除去クレジットは排出量をマイナスにすることができる(大気中に存在する CO2を実際に除去することができる)点である。ネットゼロでは最大限削減努力を行い、それでも残ってしまう排出量(残余排出量)を、除去クレジットを活用することで「中和(neutralize)」して「ゼロ」にすることができる。
除去クレジットが注目されている理由は、ネットゼロを目指すうえで、どうしても削減しきれない排出を補う必要があるためである。特に鉄鋼やセメント、航空、海運などの排出量削減が困難な産業や大手IT企業の間で、炭素除去(CDR)の重要性が高まっている。
近年国内企業の間でも、炭素除去(CDR)プロジェクトを実施する海外スタートアップ企業への出資や、オフテイク契約を締結する事例がみられるようになった。オフテイク契約とは、将来的にプロジェクトが実施され、それにより創出される予定のカーボンクレジットを、事前に購入することを約束する長期契約である。例えば、日本郵船株式会社は2026年度から3年間にわたり、スイスの次世代テック企業Climeworks社から、除去クレジットを購入する契約を締結している。
世界銀行によると、2025年に締結されたオフテイク契約にもとづくカーボンクレジット総量は158Mt-CO2e(百万t-CO2e)であり、2024年の約4倍であった。また2025年のオフテイク契約の総額は、120億米ドル(日本円にして約19兆円)と推定されており、2024年の約3倍である。2025年のオフテイク契約の多くは、除去クレジットを創出するプロジェクトに関するものであった。
除去クレジットへ関心を示しているのは民間企業だけではない。日本のJ-クレジット制度では、炭素除去(CDR)プロジェクトであるDACCSなどの先進的な取組みを推進する観点から、対象とするプロジェクトの範囲を拡大することを検討している。またEUにおいても、炭素除去(CDR)プロジェクトの政府認証枠組みとなる「炭素除去・カーボンファーミング(CRCF)」規則が採択された。こうした規則の採択・運用は、EU域内での事業化を加速すると期待されている。
炭素除去(CDR)技術は黎明期ではあるものの、技術革新に伴い、国内外においてルール整備が行われ、市場が拡大していくことが予測できる。
カーボンクレジットは、企業の自主的なGHG排出削減を補完する仕組みから、企業の法規制対応、他国間との技術・資金協力や対策の実施、地域経済の活性化を支える市場へと広がり、クレジットの活用方法は一段と多様化している。
さらに近年、国際的なカーボンクレジット市場は、量の拡大から質の重視へと明確に軸足を移している。買い手は、単に安価なクレジットを大量に調達するのではなく、追加性、永続性、第三者評価、制度適合性を備えた高品質クレジットを選別する傾向がみられるようになった。
こうした変化は、クレジットの創出だけでなく、第三者評価、MRV※11、保険といった周辺領域にも新たな需要を生み出す。例えば、プロジェクト開発段階では、方法論の選定、MRV体制の構築、地域との合意形成が必要となる。取引段階では、オフテイク契約や価格設計などの整理が欠かせない。さらに、カーボンクレジットが創出できなかった場合のリスクや制度変更に備える保険の役割も大きい。市場が高品質化するほど、クレジットそのものに加えて、それを支える評価、管理、金融、保険の機能が重要になる。カーボンクレジット市場の成長は、単なる売買の増加ではなく、関連サービス全体の商機拡大にもつながる。今後は、クレジットを「買う」だけでく、「どう創るか」「どう支えるか」という観点も、企業にとって重要な事業機会となるであろう。
<参考文献>
※1 JCMとは日本とパートナー国の間で、双方の企業や政府が技術や資金の面で協力して対策を実行し、得られるGHG排出削減量をカーボンクレジットとして、両国の貢献度合いに応じて分ける仕組み。
※2 Verra(ヴェラ)とは、2007 年に設立した米国ワシントンD.C.に拠点を置く非営利団体。Gold Standard とは、2003 年にWWF などによって設立された、スイスのジュネーブに本部を置く非営利団体。これら2つの団体はカーボンクレジット市場の世界最大手の認証機関として知られている。
※3 気候変動に関する国際的な取り決めであるパリ協定において、各国がGHG排出量の削減目標(NDC)を達成するために、カーボンクレジットを国同士で取引できる仕組みなどを定めたルール。2024年のCOP29で詳細なルールが決定し、国連や各国政府などが、6条クレジットの実用化に向けて準備を進めている。
※4 GX-ETSの第1フェーズ(2023~2025年度)では、企業が任意で参加し、自主的に設定した排出削減目標に取り組む形態であった。排出枠の義務的な割当や罰則はなく、第2フェーズ以降の義務化に向けた「試行」の位置づけとして機能していた。2026年度から開始した第2フェーズでは、事業活動の中で直接排出しているCO2量(Scope1)が10万トン以上の企業が義務の対象となった。電力やエネルギー、鉄鋼、素材分野などの企業300~400 社が含まれ、日本全体の排出量の約6割をカバーする見込みである。
※5 国際民間航空業界のためのカーボンオフセットと削減スキーム(Carbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviation)。国際民間航空機関(ICAO)によって導入された、国際航空民間会社が排出するGHG 排出量を削減・オフセット(相殺)するための国際的な制度。対象の航空事業者は自社の排出量に応じて、適格なカーボンクレジットによるオフセットが求められ、2027年から義務化される。
※6 J-クレジットの2025年度の認証量は約125万t-CO2eである。図表5の単位はMt-CO2e(百万t-CO2e)であり、J-クレジットの認証量(発行量)と大きな差があることが読み取れる。
※7 IFMとは、主に既存の森林によって伐採や管理行為を改善し、より持続可能な森林管理を行うための取組み。ARRとは植林・再植林・緑化を通して炭素吸収量を増加させる取組み。
※8 稲作の中干し延長は、水稲の栽培期間中、出穂前に一度だけ水田の水を抜いて田面を乾かすことで、メタン発生を抑制する手法。間断灌漑は、水田の水位を目安に、数日おきに水田に水を満たした状態と水を落として干した状態を繰り返すという取組み。土壌に存在する嫌気性のメタン(CH4)生成菌の働きを抑え、発生量を減らすことができる。家畜の排せつ物管理は、家畜の排せつ物からメタン(CH4)を主成分とするバイオガスを取り出し、得られるガスを発電機やボイラーの燃料に利用する。これにより化石燃料使用量を削減し、GHG 排出抑制につなげる取組み。
※9 日本銀行の基準外国為替相場(令和8年6月)を基に、1米ドル=159円で計算。
※10 「永続性」とは、カーボンクレジットを創出するプロジェクトによって、CO2がどれだけ長期にわたり、かつ確実に大気中から隔離され続けるかを示す度合い。「追加性」とは、「カーボンクレジット制度によるインセンティブ(収入)がなかったとしたら、そのプロジェクトによる排出量削減・吸収は起こらなかった」ということを示す、プロジェクトの適格性に関する原則。「永続性」「追加性」ともに、カーボンクレジットの信頼性を保つための重要な要素。
※11 Measurement, Reporting and Verification(測定、報告、検証)の略語。プロジェクトを実施によって削減した排出量の正確性や信頼性を確保する一連のプロセスを指す。
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TNFDの「目的」とは? 自然が経営課題となる理由 【連載企画】ネイチャーポジティブ経営入門 第2回

MS&ADインシュアランス グループ
ホールディングス株式会社
サステナビリティ推進部 フェロー
「自然資本のリスク分析と企業経営への統合」を専門分野とし、30年以上のコンサルティング実績がある。1990年に環境リスク技術職としてキャリアを開始したのち、1996年からMS&ADグループに参画。以降、一貫して環境リスクマネジメントと生物多様性保全に関する調査・コンサルティングに従事。2000年頃からは「ビジネスと生物多様性」の領域に先駆的に取り組み、生態系破壊や気候変動が事業に及ぼす影響の研究を進めてきた。
コンサルティング業務のかたわら、企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)顧問、一般社団法人いきもの共生事業推進協議会(ABINC)副会長や、国土交通省、環境省、東京都などの政策関連委員も多数歴任。
また、2021年10月には日本人として初めてTNFDのタスクフォースメンバーに選出。世界中から集められた30名の金融・企業有識者の一人としてTNFDフレームワーク策定と普及に貢献している。
――TNFDのタスクフォースメンバーとして、企業との対話や、登壇などを数多くされていると思います。その中で、重要だと感じることはありますか?
原口:TNFDは、自然関連課題を“開示すること”だけを目的としていません。大事なのは、自然への依存やインパクトが、どのような事業リスクや機会を生んでいるのか、そして、最終的に財務情報へどうつながるのか、その伝達経路をきちんと描けるかどうかです。例えば、水資源の枯渇、森林減少、土壌劣化、生物多様性の損失は、原料調達や事業拠点の運営、ブランドの毀損などの形で、企業価値に影響します。TNFDは、そうした自然への依存やインパクトを「環境の話」として経営と切り離して扱うのではなく、課題の一つとして捉えるように促しています。
――自然の問題は、経営の課題である、と
原口:はい。前回述べたように、自然は経営に不可欠な資源です。そして、自然資本は、事業や経営を支えている基盤です。しかし、気候変動や生物多様性の損失が顕在化し、その前提は、急速に揺らいでいます。原材料を安定的に調達できるのか、工場を止めずに操業し続けられるのか、将来の規制や訴訟に耐えられるのか。こうした問いに答えるには、自然との関係を“外部環境”としてではなく、自社の事業に内部化して、見直す必要があります。
――開示を通して「企業が求められていること」とは、何でしょうか?
原口:本当に問われているのは、自然関連課題を通じて「経営やガバナンスの健全性」を示せるかどうかです。どの課題を重要と判断し、誰が意思決定し、どう対応していくのか。そこに、企業統治の質が表れます。つまりTNFDは、自然関連課題への対応力だけでなく、経営の意思決定がきちんと機能しているかを示すもの、でもあるのです。
ですから、TNFDは単なる環境報告の延長、ではありません。経営課題として自然を捉え直し、リスクと機会を整理し、事業戦略や資本配分に落とし込めるかどうかが、問われています。自然関連課題の把握が目的化してしまうと、開示はできても、実際の経営判断につながりません。しかし、伝達経路を描ければ、TNFDは企業の意思決定の質を高める、有効なツールになります。
――開示に向けた実務の面で、難しいポイントはあるのでしょうか?
原口:開示のために、TNFDが推奨するLEAP分析※を用いる企業は多いですが、ここにつまずきやすいところがあります。それは「LE」(LocateとEvaluate)の先です。ここまでは、サステナビリティ担当者が中心となって、進めやすいことが多いです。自社の事業と自然との接点を洗い出し(Locate)、依存やインパクトを整理する(Evaluate)作業ですね。ところが、「AP」(AssessとPrepare)、リスクや機会を評価・測定し(Assess)、その対応と開示の準備を進める(Prepare)段階に入ると、難しくなる企業が増えます。事業部門や、経営層の関与が必要になってくるからです。
※LEAP分析 TNFDが策定した、自然関連課題を評価・管理するための統合的アプローチ。「Locate(発見)」「Evaluate(診断)」「Assess(評価)」「Prepare(準備)」の4段階で構成される。
実際、現場では事業部や拠点ごとに事情が違い、サプライチェーンは複雑で、データも十分ではありません。だからこそ、サステナビリティ部門だけでなく、調達、製造、営業、財務、法務、経営企画など、複数部門の知見を集める必要があります。ここからも、TNFDが自然の専門知識だけでは完結しない、経営判断までをつなぐツールであることがわかります。


出典: TNFD(2023)「自然関連財務情報開示タスクフォースの提言」をもとに、筆者作成
――なぜ、全社対応が必要なのか、より詳しく教えてください
原口:どの地域や拠点が重要なのか、どの依存・インパクトやリスク・機会を優先するのか、追加コストをどう負担するのか、サプライチェーンをどう見直すのか。こうした判断は、サステナビリティ部門だけでは完結せず、関連部署と一緒に取り組む必要があります。そのため、全社対応が求められます。
さらに、TNFD開示は「一度レポートを作って終わり」ではありません。リスク管理、投資判断、調達方針、事業ポートフォリオの見直しなど、経営のさまざまな局面と関連します。だからこそ、経営会議で議論され、現場に落とし込まれていくプロセスが必要です。自然関連課題を“見える化”するだけでは不十分で、それをどう経営に組み込むかが、最も重要です。
――経営トップの関与が、大きな影響を与えそうですね
原口:その通りで、理解と関与は欠かせません。経営者がTNFDの意味を理解し、方針を示し、必要な判断を下すことが求められます。経営者の意思決定のもと、企業が一丸となって誠実に取り組めていること自体が、ガバナンスが健全に機能している証拠になります。自然関連課題への対応は、依存・インパクトやリスク・機会だけでなく、経営のレジリエンスも浮き彫りにします。
トップが関与すれば、各部門の役割も明確になります。データの収集、課題整理、優先順位の判断。この一連の流れによって、TNFDは「開示のための作業」から「企業価値を守り高める経営のプロセス」へと変わります。
――ということは、社外からの評価にも、大きな影響を与えそうですね
原口:ここまで述べた論点は、投資家を含めた、外部のステークホルダーの見方にもつながっています。実際に、TNFD開示を含む統合報告書を、自然関連課題への対応だけでなく、ガバナンスの視点から読む機関投資家も出てきています。投資家にとって重要なのは、自然関連課題の“説明”ではなく、企業がそれにどう向き合い、どのような意思決定体制を整えているか、なのです。
参考文献:TNFD(2023)「自然関連財務情報開示タスクフォースの提言」
環境省 生物多様性の価値評価の検討指針を公表 企業が今後押さえるべき実務上のポイントとは?
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SoN(自然の状態)指標の最終案 TNFD、GRI、SBTNでは具体的な活用方法の検討進む
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流域治水とグリーンインフラ(Eco DRR)に関する住民の意識について(アンケート調査結果2026)【リサーチレター(2026年6月)】
近年、気候変動の影響によって豪雨・洪水などの水災害が激甚化・頻発化しており、従来の河川管理(堤防強化やダム等のハード対策)だけでは流域全体を守り切ることが困難になっている。2019年10月の東日本台風※1や2020年7月の豪雨※2等、毎年発生する甚大な被害状況を踏まえ、わが国の治水政策は河川区域にとどまらない関係者の協働による「流域治水」へと取組みを転換し、全国109の1級水系でプロジェクトが展開されている。その中で、グリーンインフラ※3は、「治水」と「ネイチャーポジティブ」、さらには「地域活性」をも生み出す重要な選択肢として位置づけられている。森林や緑地は雨水の川への流入を遅らせ時間的な余裕を生み出すことができるため、洪水時の最大流量を抑制する機能がある。さらには生物多様性保全、景観形成等の多面的な機能もあるからである。こうした動きは、「流域治水関連法」(2021年5月公布、国土交通省)や「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」(2024年3月策定、環境省・国土交通省・農林水産省・経済産業省)、「グリーンインフラ推進戦略2030」(2026年1月策定、国土交通省)など、複数の中央省庁をまたぐ法制度・政策的整備とともに進められてきた。また、世界に目を向けても状況は軌を一にしている。2025年11月に開かれた「国連気候変動枠組条約第30回締約国会議」(UNFCCC COP30)において、「生態系を活用した適応(Ecosystem-based Adaptation:EbA)」※4や「自然を活用した解決策(Nature-based Solutions:NbS)」※5の活用加速が確認された。これにより、グローバルな方針が国・地域レベルの実装へと落とし込まれていくことが見込まれる。
一方で、先行調査では流域治水を「全く知らない」とする住民が約半数に達する※6など、住民側の認知不足や自分事化の欠如がプロジェクト推進の大きな障壁となっていることが示唆されている。ただし、既存の全国意識調査は「流域治水」という概念の認知・理解に関する把握にとどまり、流域ごとの被害特性・地形に基づく地域差が十分に明らかにされていない。さらには、グリーンインフラそのものに対する住民の意識や、認知から実行(自助・参加)に至るプロセスを詳細に捉えた調査は不足している。グリーンインフラの実効的な普及策や支援措置の設計には、地域実態に即した詳細なデータが必要である。
※1 2019年10月6日に発生した台風第19号は静岡県や新潟県、関東甲信地方、東北地方で3、6、12、24時間降水量の観測史上1位の値を更新し、記録的な大雨となった(神奈川県箱根町では10~13日までの総降水量が1,000mmに達した)。
※2 2020年7月28~29日にかけて、国が管理する7水系7河川、県が管理する57水系186河川で氾濫発生。球磨川流域の人吉雨量観測所では24時間雨量410mmを記録するなど、多くの雨量観測所において観測史上最多雨量となった。
※3 自然環境が有する多様な機能を、社会資本整備や土地利用等のハード・ソフト両面において活用する手法。
※4 気候変動による負の影響に対応するために生態系サービスを活用すること。社会へ多様な利益をもたらすとともに生物多様性保全に貢献しようとする適応手法。
※5 自然環境が有する多様な機能を、様々な社会課題の解決に役立てる手法。グリーンインフラの概念に近い。
※6 水文・水資源学会誌(2025年5月)『近年の治水政策に関する全国意識調査』
グリーンインフラの概念はとても広いが、本調査はグリーンインフラのひとつである「生態系を活用した防災・減災(Ecosystem-based Disaster Risk Reduction:Eco-DRR)」※7に注目する。生態系サービスを活用した流域治水の普及・実装を加速するため、以下の事項を明らかにすることを目的とする。
住民意識を行動変容モデルの3段階("認知"=知っている、"理解"=自分事として捉える、"実行"=行動・協力する)に沿って定量的に把握し、各フェーズにおける到達状況を可視化する。
対象流域間での類似点・差異を明らかにする。
調査結果は、国土交通省等の政策検討資料のほか、自治体の流域治水プロジェクトにおける解決策立案の根拠資料、防災・減災のためのツール開発・高度化、普及支援(関係事業者・団体による実装支援)に活用いただくような実践的知見を提示する。
※7 生態系が持つ多様な機能を活かすことで、自然災害に強く持続可能な社会を構築しようとする手法。
2026年2月10日~2月16日の間にインターネットによる調査を行った。
1,500人(20~79歳の男女)
「洪水予報指定河川(国土交通大臣指定)」および「直近の水災害発生河川」より、下記いずれかの流域周辺地域※8に居住されている方
| 流域 | 回答者数(人) |
|---|---|
| 多摩川 | 450 |
| 鶴見川 | 450 |
| 天竜川下流、菊川 | 170 |
| 馬込川 | 80 |
| 緑川、白川 | 350 |
※8 〇多摩川流域:【東京都、神奈川県、山梨県】川崎市(重複)、大田区、世田谷区、八王子市、立川市、武蔵野市、三鷹市、青梅市、府中市、昭島市、調布市、町田市(重複)、小金井市、小平市、日野市、国分寺市、国立市、福生市、狛江市、武蔵村山市、多摩市、稲城市(重複)、あきる野市、羽村市、瑞穂町、日の出町、檜原村、奥多摩町、甲州市、小菅村、丹波山村
〇鶴見川流域:【東京都、神奈川県】 横浜市、川崎市(重複)、稲城市(重複)、町田市(重複)
〇天竜川下流、菊川流域:【静岡県、愛知県】浜松市(重複)、磐田市、掛川市、袋井市、湖西市、菊川市、御前崎市、森町、設楽町、東栄町、豊根村
〇馬込川流域:【静岡県】浜松市浜北区、中区、東区、西区、南区
〇緑川、白川流域:【熊本県】熊本市、菊池市(旧泗水町、旧旭志村)、宇土市、合志市、大津町、菊陽町、西原村、御船町、嘉島町、益城町、甲佐町、阿蘇市、高森町、南阿蘇村、宇城市、美里町、山都町






「流域治水」の認知度は、本調査において42.3%(認知計)であった。「内容をよく知っている」はわずか6.3%にとどまり、57.7%は「知らない」という状況である。2025年の全国調査※9では、「よく理解している」が4.9%、「全く知らない」が49.1%であったが、本調査でも同様の結果となり、認知の進展は停滞していることが明らかになった。
一方で、流域別認知度では差異が認められ、緑川・白川流域で認知度が最高値(53.1%)を示した。
※9 水文・水資源学会誌(2025年5月)『近年の治水政策に関する全国意識調査』


図表5は、水災害リスクの理解状況を流域別に示したものである。全体では、45.6%が危険性を理解しているという結果になった。流域別では、ここでも、緑川・白川流域が最も高い結果(55.1%)となった。
また、図表下部には「流域治水」認知度とのクロス集計もまとめた。これを見ると、流域治水の認知度が高くなるほど、危険性の理解度も高くなっている。


図表6は、図表5で「わからない」を選択した方以外(1,209名)を対象に、危険性を判断した根拠を尋ねた設問である。全体で「ハザードマップから」が51.1%と最も高く、行政提供情報の有効性が確認できる。
なお、「流域治水」の認知度が高い層では、ハザードマップを選択した割合が75.8%となった。さらに、「浸水想定区域図(48.4%)」も根拠としており、想定最大規模の水災害情報(浸水深や範囲、浸水継続時間など)も参照していることが示された。
図表4で住民の半数以上が流域治水を認知していた緑川・白川流域では、「過去に水災害があったことを聞いているから(28.8%:全体18%)」や「水災害の実体験から(21.2%:全体9%)」が全体計よりも高い。
また、地形の特性上、内水氾濫が発生しやすく、2014年以降で7回の浸水被害が発生している馬込川も「河川や堤防などの地形の様子から(31.3%:全体21.1%)」、「水災害の実体験から(14.1%:全体9%)」が全体計より高い。
認知の現状を明らかにしたところで、次は住民が水災害対策をどのように理解し、協力意欲を抱いているかを示す。


図表7は、住民が当事者として参加したいと思う取組みを「流域別」および「流域治水」認知度とクロス集計したものである。全体では、「自主防災組織等による避難訓練への参加」が18.5%と最も高かった。グリーンインフラに関する項目を見ると、協力意思は一定数(25.7%)存在することが明らかになった。しかし、全体の48.9%が「協力・参加したいものはない」と回答している事実は重い。図表5で示したように、水災害リスクの理解状況が半数以下(45.6%)であるために、それを解決するための主体的行動にも結びついていないことを示唆している。
「流域治水の認知度」が高い層では協力意思が高い。グリーンインフラの中では「自費による自宅/敷地内での雨水貯留(雨庭や植栽)(9.5%)」が全体(3.7%)と比べて高い。また、「住居や店舗のかさ上げ(12.6%)」や「移転(10.5%)」を自費でも協力する意向が高い。


図表8は、住民が実際に実行した取組みを「流域別」および「流域治水」認知度とクロス集計したものである。全体では、「避難場所・避難経路の確認(24.6%)」「非常用持出袋の準備(20.8%)」が上位となり、参加意欲に関する設問の結果と一致していた。図表7で、全体の48.9%が「協力・参加したいものはない」に続き、ここでも全体の51.7%が「特にない」と回答している。
グリーンインフラに関しては、グリーンインフラ協力意欲(25.7%)に対し、実際の実行状況(7.3%)は低調である。意向と行動の間にギャップが存在していることを示す結果となった。
一方で、「流域治水の内容をよく知っている層」においては「避難経路確認(40.0%)」、「自宅の浸水防止対策(31.6%)」、「マイ・タイムライン検討(28.4%)」と、すべての項目で実行率が高まる。「グリーンインフラ(22.1%)」については全体平均(7.3%)の3倍以上になり、正しい知識の習得が、グリーンインフラを含む防災行動のドライバーとなることが明らかになった。


図表9は、グリーンインフラに取り組んだ方(110名)を対象に、実行動機を尋ねた設問である。全体では、「地域の水害を軽減するために、流域の人々と協力することが重要と考えたから(34.5%)」、「浸水地域の被害が軽減することは自分にもメリットがあると思ったから(33.6%)」と、浸水被害の軽減が上位を占める中、「グリーンインフラ特有の多面的なメリットの期待(32.7%)」や「応援したいと思う活動(24.5%)」が上位に挙がった。
なお、流域別分析においてはサンプル数が小さいことから、本レターでは分析対象外とする。
(多摩川流域n=33、鶴見川流域n=30、天竜川下流・菊川流域n=10、馬込川流域n=5、緑川・白川流域n=32)


図表10は、協力関係の構築状況を「流域別」および「流域治水」認知度とクロス集計したものである。全体では、「治水のための協力関係」が築けているとの実感は19.4%にとどまる。流域別では、緑川・白川流域(24.6%)が最も高かった。都市部にある多摩川流域(18.4%)、鶴見川流域(16.4%)、天竜川下流・菊川流域(18.2%)は2割を下回る結果となった。
また、下部には「流域治水」認知度とのクロス集計もまとめた。これを見ると、流域治水の認知度が高い人ほど、関係構築が出来ていると回答している。「流域治水の内容をよく知っている」層ほど、他者との関わりの中で行動している割合が高いことが明らかになった。


図表11は、「協力関係が築けていない」と回答した方(633名)を対象に、協力関係を築くために必要な要素を「流域別」および「流域治水」認知度とクロス集計したものである。全体では、「人的・財政的な余力の欠如(34.3%)」が構築を阻む最大の要因であり、次いで「行政・企業・住民の顔が見える関係の欠如(27.6%)」、「広域連携のための体制整備(20.7%)」が挙がった。興味深いことに、この結果は「流域治水の内容をよく知っている」層においても同様である。住民は単なる啓発ではなく、コミュニティの充実に向けた具体的な支援を自治体に求めている。


図表12は、流域治水にとって効果的と思える対策を尋ねた結果である。ここでは当事者としての実施を問うていないため、純粋に「水災害のための対策はどういったものが良いと思うか」の住民回答が反映されている。全体では、「河川堤防/川底掘削の強化(37.0%)」が最多となり、住民が期待する対策は依然としてハード対策に集中していた。次に回答割合が高かった「都市内の水はけ/排水性の向上(28.9%)」や「河川環境の保全・整備(21.6%)」、「遊水地の整備(19.1%)」はグリーンインフラがその役割を担える。
一方、「流域治水の内容をよく知っている」層においても、最多回答を集めたのは「河川堤防/川底掘削の強化(58.9%)」であった。加えて、全体と比べて高い回答は「遊水地の整備(36.8%)」や「公園/緑地の整備(27.4%)」、「雨水貯留浸透施設の整備(28.4%)」であり、これらもグリーンインフラが貢献すべき要素である。
以上より、「ハード対策に加えて、グリーンインフラも水災害対策の優先要素となり得る」ということが、住民意識からも言える。そして、グリーンインフラの効果を最大化するためには流域住民の参加が不可欠である。そこで、今後グリーンインフラが普及していくにあたって必要な要素を尋ねた結果を示したい。


図表13は、図表7で「グリーンインフラに参加したい」と回答した方(386名)を対象に、普及のために必要な要素を尋ねた結果である。全体では、「リスク低減効果の情報(42.2%)」が最多となり、治水としての実利を求めている。一方で、「流域治水の内容をよく知っている」層では、「地域コミュニティによる連携体制(64.9%)」が顕著に高く、組織的な枠組みを求めている。


図表14は、今後必要な情報として求める要素を「流域別」および「流域治水」認知度とクロス集計したものである。全体結果および「流域治水の内容をよく知っている」層ともに、「被害・復旧状況のリアルタイム共有システム(全体:36.9%、よく知っている層:49.5%)」や「ハザードマップの改良(全体:34.7%、よく知っている層:45.3%)」、「アプリを活用した情報配信(全体:33.9%、よく知っている層:45.3%)」が上位を占めた。


図表15は、避難行動を開始するきっかけを「流域別」および「流域治水」認知度とクロス集計したものである。全体では、「避難指示が発令されたら」が49.9%と最も高く、次いで「河川氾濫などの警報が発表されたら(31.3%)」、「警察や消防からの呼びかけがあったら(26.0%)」が続き、行政の役割が大きいことが分かる。
一方、「流域治水の内容をよく知っている」層は、「関わっている地域コミュニティの人から声かけされたら(21.1%)」が全体と比べて高い。だが、属している地域コミュニティは「特になし(72.6%)」が最多である現状(図表3)を踏まえると、対策が必要である。
本調査において、「流域治水」の認知(知っている:42.3%)、理解(参加したい項目を選択:51.1%)、実行(実施している対策を選択:48.3%)は、全体として低調であった。一方で、流域別認知度では差異が認められ、緑川・白川流域では認知(53.1%)、理解(56.3%)、実行(53.4%)のいずれも全体より高い値を示した。過去の被災経験を持つ流域や「よく知っている層」において数値が向上する傾向が認められる。
| フェーズ | 全体平均 | 緑川・白川流域 | 流域治水をよく知っている層の傾向 |
|---|---|---|---|
| 認知 | 42.3% | 53.1% | 認知度が高い層ほどリスク理解が進む |
| 理解 | 51.1% | 56.3% | 自費での対策(雨庭・かさ上げ・移転)への協力意向も高い |
| 実行 | 48.3% | 53.4% | すべての項目で実行率が飛躍的に高まる |
全体として、グリーンインフラの協力意向(25.7%)が一定数あることが分かった。「ハード対策に加えて、グリーンインフラも水災害対策の優先要素になり得る」という住民意識が伺える。
ただし、グリーンインフラへの協力意向と行動の間にギャップが存在している。「よく知っている層」では、グリーンインフラの実行率が全体平均の3倍以上になり、正しい知識の習得が、グリーンインフラを含む防災行動のドライバーとなることが明らかになった。
| 項目 | 全体の傾向 | 流域治水をよく知っている層の傾向 |
|---|---|---|
| 協力意向と実行の差 | 協力意向(25.7%)に対して低い実行率(7.3%) | グリーンインフラ実行率は22.1%(全体平均の3倍以上)に達する |
| 普及に必要な要素 | リスク低減効果の情報(42.2%) | 地域コミュニティによる連携体制(64.9%) |
「治水のための協力関係」が築けているとの実感は19.4%にとどまる。流域別では、緑川・白川流域(24.6%)が最も高かった。一方で、都市部にある多摩川流域(18.4%)、鶴見川流域(16.4%)、天竜川下流・菊川流域(18.2%)は2割を下回る状況にある。
また、「流域治水の内容をよく知っている」層では高い回答率を示した。他者との関わりの中で行動している割合が高いことをうかがえる結果になった。
| 項目 | 全体平均 | 緑川・白川流域 | 流域治水をよく知っている層 |
|---|---|---|---|
| 協力関係が築けている | 19.4% | 24.6% | 56.8% |
協力関係を築くために必要な要素は、「人的・財政的な余力の欠如(34.3%)」が構築を阻む最大の要因である。次いで「行政・企業・住民の顔が見える関係の欠如(27.6%)」、「広域連携のための体制整備(20.7%)」が並んだ。
また、「流域治水の内容をよく知っている」層は、避難を検討する選択肢で「関わっている地域コミュニティの人から声かけされたら(21.1%)」を選んでいる。
住民はコミュニティの充実に向けた具体的な支援を自治体に求めていることが示唆される。
流域治水とグリーンインフラの普及には、住民による「自分事化」と具体的な行動変容が不可欠である。河川管理を、これまでよりも広く捉える「流域治水」の考え方の中で、防災・減災のためのグリーンインフラが「実行」に移るまでには相当の困難を要すると思われる。「地域」と「フェーズ」を「鳥の眼と虫の眼」で捉えた施策、流域住民の認識や期待と一致する施策の推進に、本調査結果が活用され、地域レジリエンスの向上が図られると幸いである。
<参考文献>
・内閣府他(2025年6月6日)『第1次国土強靱化実施中期計画』
・内閣官房・内閣府総合サイト『地方創生』
・国土交通省・環境省・農林水産省・経済産業省(2024年3月)『ネイチャーポジティブ経済移行戦略』
・国土交通省(2026年4月)『国土交通省関係予算配分について』
・国土交通省(2026年1月)『グリーンインフラ推進戦略2030』
・国土交通省(2024年9月)『グリーンインフラの事業・投資のすゝめ』
・国土交通省(2023年10月)『グリーンインフラ実践ガイド』
・国土交通省(2023年3月)『遊水地整備&利活用事例集』
・国土交通省『令和2年7月豪雨による被害と対応』
・国土交通省『令和元年台風第19号による被害について』
・環境省『コウノトリの野生復帰を支える再生と創造の湿地』
・熊本県『流域のみんなで取り組む「緑の流域治水」』
・熊本県(2026年3月23日)『第3回熊本県地下水保全推進本部会議』
・白川・緑川水系流域治水協議会『天竜川下流水系流域治水プロジェクト2.0』
・遠州流域治水協議会『天竜川下流水系流域治水プロジェクト2.0』
・多摩川流域治水協議会『多摩川水系流域治水プロジェクト2.0』
・鶴見川流域治水協議会『鶴見川水系流域治水プロジェクト2.0』
・東京都多摩市『聖蹟桜ヶ丘かわまちづくり』
・浜松市域流域治水対策推進協議会(2025年3月)『馬込川流域水災害対策プラン』
・水文・水資源学会誌(2025年5月)『近年の治水政策に関する全国意識調査』
・水文・水資源学会誌(2023年)『流域治水の理解度と具体の治水対策の理解度に関する全国アンケート調査』
・グリーンインフラ研究会(2020年7月)『実践版!グリーンインフラ』
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