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リスクマネジメントの「視点」 「補償」だけでなく「低減・緩和」へ ―自然を生かした防災・減災の取組
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ESGリスクトピックス(2026年6月)
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国交省、グリーンインフラ(GI)のファイナンスガイドライン(中間とりまとめ)公表|資金調達手法と事例を整理
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TNFDの「目的」とは? 自然が経営課題となる理由 【連載企画】ネイチャーポジティブ経営入門 第2回

MS&ADインシュアランス グループ
ホールディングス株式会社
サステナビリティ推進部 フェロー
「自然資本のリスク分析と企業経営への統合」を専門分野とし、30年以上のコンサルティング実績がある。1990年に環境リスク技術職としてキャリアを開始したのち、1996年からMS&ADグループに参画。以降、一貫して環境リスクマネジメントと生物多様性保全に関する調査・コンサルティングに従事。2000年頃からは「ビジネスと生物多様性」の領域に先駆的に取り組み、生態系破壊や気候変動が事業に及ぼす影響の研究を進めてきた。
コンサルティング業務のかたわら、企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)顧問、一般社団法人いきもの共生事業推進協議会(ABINC)副会長や、国土交通省、環境省、東京都などの政策関連委員も多数歴任。
また、2021年10月には日本人として初めてTNFDのタスクフォースメンバーに選出。世界中から集められた30名の金融・企業有識者の一人としてTNFDフレームワーク策定と普及に貢献している。
――TNFDのタスクフォースメンバーとして、企業との対話や、登壇などを数多くされていると思います。その中で、重要だと感じることはありますか?
原口:TNFDは、自然関連課題を“開示すること”だけを目的としていません。大事なのは、自然への依存やインパクトが、どのような事業リスクや機会を生んでいるのか、そして、最終的に財務情報へどうつながるのか、その伝達経路をきちんと描けるかどうかです。例えば、水資源の枯渇、森林減少、土壌劣化、生物多様性の損失は、原料調達や事業拠点の運営、ブランドの毀損などの形で、企業価値に影響します。TNFDは、そうした自然への依存やインパクトを「環境の話」として経営と切り離して扱うのではなく、課題の一つとして捉えるように促しています。
――自然の問題は、経営の課題である、と
原口:はい。前回述べたように、自然は経営に不可欠な資源です。そして、自然資本は、事業や経営を支えている基盤です。しかし、気候変動や生物多様性の損失が顕在化し、その前提は、急速に揺らいでいます。原材料を安定的に調達できるのか、工場を止めずに操業し続けられるのか、将来の規制や訴訟に耐えられるのか。こうした問いに答えるには、自然との関係を“外部環境”としてではなく、自社の事業に内部化して、見直す必要があります。
――開示を通して「企業が求められていること」とは、何でしょうか?
原口:本当に問われているのは、自然関連課題を通じて「経営やガバナンスの健全性」を示せるかどうかです。どの課題を重要と判断し、誰が意思決定し、どう対応していくのか。そこに、企業統治の質が表れます。つまりTNFDは、自然関連課題への対応力だけでなく、経営の意思決定がきちんと機能しているかを示すもの、でもあるのです。
ですから、TNFDは単なる環境報告の延長、ではありません。経営課題として自然を捉え直し、リスクと機会を整理し、事業戦略や資本配分に落とし込めるかどうかが、問われています。自然関連課題の把握が目的化してしまうと、開示はできても、実際の経営判断につながりません。しかし、伝達経路を描ければ、TNFDは企業の意思決定の質を高める、有効なツールになります。
――開示に向けた実務の面で、難しいポイントはあるのでしょうか?
原口:開示のために、TNFDが推奨するLEAP分析※を用いる企業は多いですが、ここにつまずきやすいところがあります。それは「LE」(LocateとEvaluate)の先です。ここまでは、サステナビリティ担当者が中心となって、進めやすいことが多いです。自社の事業と自然との接点を洗い出し(Locate)、依存やインパクトを整理する(Evaluate)作業ですね。ところが、「AP」(AssessとPrepare)、リスクや機会を評価・測定し(Assess)、その対応と開示の準備を進める(Prepare)段階に入ると、難しくなる企業が増えます。事業部門や、経営層の関与が必要になってくるからです。
※LEAP分析 TNFDが策定した、自然関連課題を評価・管理するための統合的アプローチ。「Locate(発見)」「Evaluate(診断)」「Assess(評価)」「Prepare(準備)」の4段階で構成される。
実際、現場では事業部や拠点ごとに事情が違い、サプライチェーンは複雑で、データも十分ではありません。だからこそ、サステナビリティ部門だけでなく、調達、製造、営業、財務、法務、経営企画など、複数部門の知見を集める必要があります。ここからも、TNFDが自然の専門知識だけでは完結しない、経営判断までをつなぐツールであることがわかります。


出典: TNFD(2023)「自然関連財務情報開示タスクフォースの提言」をもとに、筆者作成
――なぜ、全社対応が必要なのか、より詳しく教えてください
原口:どの地域や拠点が重要なのか、どの依存・インパクトやリスク・機会を優先するのか、追加コストをどう負担するのか、サプライチェーンをどう見直すのか。こうした判断は、サステナビリティ部門だけでは完結せず、関連部署と一緒に取り組む必要があります。そのため、全社対応が求められます。
さらに、TNFD開示は「一度レポートを作って終わり」ではありません。リスク管理、投資判断、調達方針、事業ポートフォリオの見直しなど、経営のさまざまな局面と関連します。だからこそ、経営会議で議論され、現場に落とし込まれていくプロセスが必要です。自然関連課題を“見える化”するだけでは不十分で、それをどう経営に組み込むかが、最も重要です。
――経営トップの関与が、大きな影響を与えそうですね
原口:その通りで、理解と関与は欠かせません。経営者がTNFDの意味を理解し、方針を示し、必要な判断を下すことが求められます。経営者の意思決定のもと、企業が一丸となって誠実に取り組めていること自体が、ガバナンスが健全に機能している証拠になります。自然関連課題への対応は、依存・インパクトやリスク・機会だけでなく、経営のレジリエンスも浮き彫りにします。
トップが関与すれば、各部門の役割も明確になります。データの収集、課題整理、優先順位の判断。この一連の流れによって、TNFDは「開示のための作業」から「企業価値を守り高める経営のプロセス」へと変わります。
――ということは、社外からの評価にも、大きな影響を与えそうですね
原口:ここまで述べた論点は、投資家を含めた、外部のステークホルダーの見方にもつながっています。実際に、TNFD開示を含む統合報告書を、自然関連課題への対応だけでなく、ガバナンスの視点から読む機関投資家も出てきています。投資家にとって重要なのは、自然関連課題の“説明”ではなく、企業がそれにどう向き合い、どのような意思決定体制を整えているか、なのです。
参考文献:TNFD(2023)「自然関連財務情報開示タスクフォースの提言」
環境省 生物多様性の価値評価の検討指針を公表 企業が今後押さえるべき実務上のポイントとは?
https://rm-navi.com/search/item/2532
SoN(自然の状態)指標の最終案 TNFD、GRI、SBTNでは具体的な活用方法の検討進む
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流域治水とグリーンインフラ(Eco DRR)に関する住民の意識について(アンケート調査結果2026)【リサーチレター(2026年6月)】
近年、気候変動の影響によって豪雨・洪水などの水災害が激甚化・頻発化しており、従来の河川管理(堤防強化やダム等のハード対策)だけでは流域全体を守り切ることが困難になっている。2019年10月の東日本台風※1や2020年7月の豪雨※2等、毎年発生する甚大な被害状況を踏まえ、わが国の治水政策は河川区域にとどまらない関係者の協働による「流域治水」へと取組みを転換し、全国109の1級水系でプロジェクトが展開されている。その中で、グリーンインフラ※3は、「治水」と「ネイチャーポジティブ」、さらには「地域活性」をも生み出す重要な選択肢として位置づけられている。森林や緑地は雨水の川への流入を遅らせ時間的な余裕を生み出すことができるため、洪水時の最大流量を抑制する機能がある。さらには生物多様性保全、景観形成等の多面的な機能もあるからである。こうした動きは、「流域治水関連法」(2021年5月公布、国土交通省)や「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」(2024年3月策定、環境省・国土交通省・農林水産省・経済産業省)、「グリーンインフラ推進戦略2030」(2026年1月策定、国土交通省)など、複数の中央省庁をまたぐ法制度・政策的整備とともに進められてきた。また、世界に目を向けても状況は軌を一にしている。2025年11月に開かれた「国連気候変動枠組条約第30回締約国会議」(UNFCCC COP30)において、「生態系を活用した適応(Ecosystem-based Adaptation:EbA)」※4や「自然を活用した解決策(Nature-based Solutions:NbS)」※5の活用加速が確認された。これにより、グローバルな方針が国・地域レベルの実装へと落とし込まれていくことが見込まれる。
一方で、先行調査では流域治水を「全く知らない」とする住民が約半数に達する※6など、住民側の認知不足や自分事化の欠如がプロジェクト推進の大きな障壁となっていることが示唆されている。ただし、既存の全国意識調査は「流域治水」という概念の認知・理解に関する把握にとどまり、流域ごとの被害特性・地形に基づく地域差が十分に明らかにされていない。さらには、グリーンインフラそのものに対する住民の意識や、認知から実行(自助・参加)に至るプロセスを詳細に捉えた調査は不足している。グリーンインフラの実効的な普及策や支援措置の設計には、地域実態に即した詳細なデータが必要である。
※1 2019年10月6日に発生した台風第19号は静岡県や新潟県、関東甲信地方、東北地方で3、6、12、24時間降水量の観測史上1位の値を更新し、記録的な大雨となった(神奈川県箱根町では10~13日までの総降水量が1,000mmに達した)。
※2 2020年7月28~29日にかけて、国が管理する7水系7河川、県が管理する57水系186河川で氾濫発生。球磨川流域の人吉雨量観測所では24時間雨量410mmを記録するなど、多くの雨量観測所において観測史上最多雨量となった。
※3 自然環境が有する多様な機能を、社会資本整備や土地利用等のハード・ソフト両面において活用する手法。
※4 気候変動による負の影響に対応するために生態系サービスを活用すること。社会へ多様な利益をもたらすとともに生物多様性保全に貢献しようとする適応手法。
※5 自然環境が有する多様な機能を、様々な社会課題の解決に役立てる手法。グリーンインフラの概念に近い。
※6 水文・水資源学会誌(2025年5月)『近年の治水政策に関する全国意識調査』
グリーンインフラの概念はとても広いが、本調査はグリーンインフラのひとつである「生態系を活用した防災・減災(Ecosystem-based Disaster Risk Reduction:Eco-DRR)」※7に注目する。生態系サービスを活用した流域治水の普及・実装を加速するため、以下の事項を明らかにすることを目的とする。
住民意識を行動変容モデルの3段階("認知"=知っている、"理解"=自分事として捉える、"実行"=行動・協力する)に沿って定量的に把握し、各フェーズにおける到達状況を可視化する。
対象流域間での類似点・差異を明らかにする。
調査結果は、国土交通省等の政策検討資料のほか、自治体の流域治水プロジェクトにおける解決策立案の根拠資料、防災・減災のためのツール開発・高度化、普及支援(関係事業者・団体による実装支援)に活用いただくような実践的知見を提示する。
※7 生態系が持つ多様な機能を活かすことで、自然災害に強く持続可能な社会を構築しようとする手法。
2026年2月10日~2月16日の間にインターネットによる調査を行った。
1,500人(20~79歳の男女)
「洪水予報指定河川(国土交通大臣指定)」および「直近の水災害発生河川」より、下記いずれかの流域周辺地域※8に居住されている方
| 流域 | 回答者数(人) |
|---|---|
| 多摩川 | 450 |
| 鶴見川 | 450 |
| 天竜川下流、菊川 | 170 |
| 馬込川 | 80 |
| 緑川、白川 | 350 |
※8 〇多摩川流域:【東京都、神奈川県、山梨県】川崎市(重複)、大田区、世田谷区、八王子市、立川市、武蔵野市、三鷹市、青梅市、府中市、昭島市、調布市、町田市(重複)、小金井市、小平市、日野市、国分寺市、国立市、福生市、狛江市、武蔵村山市、多摩市、稲城市(重複)、あきる野市、羽村市、瑞穂町、日の出町、檜原村、奥多摩町、甲州市、小菅村、丹波山村
〇鶴見川流域:【東京都、神奈川県】 横浜市、川崎市(重複)、稲城市(重複)、町田市(重複)
〇天竜川下流、菊川流域:【静岡県、愛知県】浜松市(重複)、磐田市、掛川市、袋井市、湖西市、菊川市、御前崎市、森町、設楽町、東栄町、豊根村
〇馬込川流域:【静岡県】浜松市浜北区、中区、東区、西区、南区
〇緑川、白川流域:【熊本県】熊本市、菊池市(旧泗水町、旧旭志村)、宇土市、合志市、大津町、菊陽町、西原村、御船町、嘉島町、益城町、甲佐町、阿蘇市、高森町、南阿蘇村、宇城市、美里町、山都町






「流域治水」の認知度は、本調査において42.3%(認知計)であった。「内容をよく知っている」はわずか6.3%にとどまり、57.7%は「知らない」という状況である。2025年の全国調査※9では、「よく理解している」が4.9%、「全く知らない」が49.1%であったが、本調査でも同様の結果となり、認知の進展は停滞していることが明らかになった。
一方で、流域別認知度では差異が認められ、緑川・白川流域で認知度が最高値(53.1%)を示した。
※9 水文・水資源学会誌(2025年5月)『近年の治水政策に関する全国意識調査』


図表5は、水災害リスクの理解状況を流域別に示したものである。全体では、45.6%が危険性を理解しているという結果になった。流域別では、ここでも、緑川・白川流域が最も高い結果(55.1%)となった。
また、図表下部には「流域治水」認知度とのクロス集計もまとめた。これを見ると、流域治水の認知度が高くなるほど、危険性の理解度も高くなっている。


図表6は、図表5で「わからない」を選択した方以外(1,209名)を対象に、危険性を判断した根拠を尋ねた設問である。全体で「ハザードマップから」が51.1%と最も高く、行政提供情報の有効性が確認できる。
なお、「流域治水」の認知度が高い層では、ハザードマップを選択した割合が75.8%となった。さらに、「浸水想定区域図(48.4%)」も根拠としており、想定最大規模の水災害情報(浸水深や範囲、浸水継続時間など)も参照していることが示された。
図表4で住民の半数以上が流域治水を認知していた緑川・白川流域では、「過去に水災害があったことを聞いているから(28.8%:全体18%)」や「水災害の実体験から(21.2%:全体9%)」が全体計よりも高い。
また、地形の特性上、内水氾濫が発生しやすく、2014年以降で7回の浸水被害が発生している馬込川も「河川や堤防などの地形の様子から(31.3%:全体21.1%)」、「水災害の実体験から(14.1%:全体9%)」が全体計より高い。
認知の現状を明らかにしたところで、次は住民が水災害対策をどのように理解し、協力意欲を抱いているかを示す。


図表7は、住民が当事者として参加したいと思う取組みを「流域別」および「流域治水」認知度とクロス集計したものである。全体では、「自主防災組織等による避難訓練への参加」が18.5%と最も高かった。グリーンインフラに関する項目を見ると、協力意思は一定数(25.7%)存在することが明らかになった。しかし、全体の48.9%が「協力・参加したいものはない」と回答している事実は重い。図表5で示したように、水災害リスクの理解状況が半数以下(45.6%)であるために、それを解決するための主体的行動にも結びついていないことを示唆している。
「流域治水の認知度」が高い層では協力意思が高い。グリーンインフラの中では「自費による自宅/敷地内での雨水貯留(雨庭や植栽)(9.5%)」が全体(3.7%)と比べて高い。また、「住居や店舗のかさ上げ(12.6%)」や「移転(10.5%)」を自費でも協力する意向が高い。


図表8は、住民が実際に実行した取組みを「流域別」および「流域治水」認知度とクロス集計したものである。全体では、「避難場所・避難経路の確認(24.6%)」「非常用持出袋の準備(20.8%)」が上位となり、参加意欲に関する設問の結果と一致していた。図表7で、全体の48.9%が「協力・参加したいものはない」に続き、ここでも全体の51.7%が「特にない」と回答している。
グリーンインフラに関しては、グリーンインフラ協力意欲(25.7%)に対し、実際の実行状況(7.3%)は低調である。意向と行動の間にギャップが存在していることを示す結果となった。
一方で、「流域治水の内容をよく知っている層」においては「避難経路確認(40.0%)」、「自宅の浸水防止対策(31.6%)」、「マイ・タイムライン検討(28.4%)」と、すべての項目で実行率が高まる。「グリーンインフラ(22.1%)」については全体平均(7.3%)の3倍以上になり、正しい知識の習得が、グリーンインフラを含む防災行動のドライバーとなることが明らかになった。


図表9は、グリーンインフラに取り組んだ方(110名)を対象に、実行動機を尋ねた設問である。全体では、「地域の水害を軽減するために、流域の人々と協力することが重要と考えたから(34.5%)」、「浸水地域の被害が軽減することは自分にもメリットがあると思ったから(33.6%)」と、浸水被害の軽減が上位を占める中、「グリーンインフラ特有の多面的なメリットの期待(32.7%)」や「応援したいと思う活動(24.5%)」が上位に挙がった。
なお、流域別分析においてはサンプル数が小さいことから、本レターでは分析対象外とする。
(多摩川流域n=33、鶴見川流域n=30、天竜川下流・菊川流域n=10、馬込川流域n=5、緑川・白川流域n=32)


図表10は、協力関係の構築状況を「流域別」および「流域治水」認知度とクロス集計したものである。全体では、「治水のための協力関係」が築けているとの実感は19.4%にとどまる。流域別では、緑川・白川流域(24.6%)が最も高かった。都市部にある多摩川流域(18.4%)、鶴見川流域(16.4%)、天竜川下流・菊川流域(18.2%)は2割を下回る結果となった。
また、下部には「流域治水」認知度とのクロス集計もまとめた。これを見ると、流域治水の認知度が高い人ほど、関係構築が出来ていると回答している。「流域治水の内容をよく知っている」層ほど、他者との関わりの中で行動している割合が高いことが明らかになった。


図表11は、「協力関係が築けていない」と回答した方(633名)を対象に、協力関係を築くために必要な要素を「流域別」および「流域治水」認知度とクロス集計したものである。全体では、「人的・財政的な余力の欠如(34.3%)」が構築を阻む最大の要因であり、次いで「行政・企業・住民の顔が見える関係の欠如(27.6%)」、「広域連携のための体制整備(20.7%)」が挙がった。興味深いことに、この結果は「流域治水の内容をよく知っている」層においても同様である。住民は単なる啓発ではなく、コミュニティの充実に向けた具体的な支援を自治体に求めている。


図表12は、流域治水にとって効果的と思える対策を尋ねた結果である。ここでは当事者としての実施を問うていないため、純粋に「水災害のための対策はどういったものが良いと思うか」の住民回答が反映されている。全体では、「河川堤防/川底掘削の強化(37.0%)」が最多となり、住民が期待する対策は依然としてハード対策に集中していた。次に回答割合が高かった「都市内の水はけ/排水性の向上(28.9%)」や「河川環境の保全・整備(21.6%)」、「遊水地の整備(19.1%)」はグリーンインフラがその役割を担える。
一方、「流域治水の内容をよく知っている」層においても、最多回答を集めたのは「河川堤防/川底掘削の強化(58.9%)」であった。加えて、全体と比べて高い回答は「遊水地の整備(36.8%)」や「公園/緑地の整備(27.4%)」、「雨水貯留浸透施設の整備(28.4%)」であり、これらもグリーンインフラが貢献すべき要素である。
以上より、「ハード対策に加えて、グリーンインフラも水災害対策の優先要素となり得る」ということが、住民意識からも言える。そして、グリーンインフラの効果を最大化するためには流域住民の参加が不可欠である。そこで、今後グリーンインフラが普及していくにあたって必要な要素を尋ねた結果を示したい。


図表13は、図表7で「グリーンインフラに参加したい」と回答した方(386名)を対象に、普及のために必要な要素を尋ねた結果である。全体では、「リスク低減効果の情報(42.2%)」が最多となり、治水としての実利を求めている。一方で、「流域治水の内容をよく知っている」層では、「地域コミュニティによる連携体制(64.9%)」が顕著に高く、組織的な枠組みを求めている。


図表14は、今後必要な情報として求める要素を「流域別」および「流域治水」認知度とクロス集計したものである。全体結果および「流域治水の内容をよく知っている」層ともに、「被害・復旧状況のリアルタイム共有システム(全体:36.9%、よく知っている層:49.5%)」や「ハザードマップの改良(全体:34.7%、よく知っている層:45.3%)」、「アプリを活用した情報配信(全体:33.9%、よく知っている層:45.3%)」が上位を占めた。


図表15は、避難行動を開始するきっかけを「流域別」および「流域治水」認知度とクロス集計したものである。全体では、「避難指示が発令されたら」が49.9%と最も高く、次いで「河川氾濫などの警報が発表されたら(31.3%)」、「警察や消防からの呼びかけがあったら(26.0%)」が続き、行政の役割が大きいことが分かる。
一方、「流域治水の内容をよく知っている」層は、「関わっている地域コミュニティの人から声かけされたら(21.1%)」が全体と比べて高い。だが、属している地域コミュニティは「特になし(72.6%)」が最多である現状(図表3)を踏まえると、対策が必要である。
本調査において、「流域治水」の認知(知っている:42.3%)、理解(参加したい項目を選択:51.1%)、実行(実施している対策を選択:48.3%)は、全体として低調であった。一方で、流域別認知度では差異が認められ、緑川・白川流域では認知(53.1%)、理解(56.3%)、実行(53.4%)のいずれも全体より高い値を示した。過去の被災経験を持つ流域や「よく知っている層」において数値が向上する傾向が認められる。
| フェーズ | 全体平均 | 緑川・白川流域 | 流域治水をよく知っている層の傾向 |
|---|---|---|---|
| 認知 | 42.3% | 53.1% | 認知度が高い層ほどリスク理解が進む |
| 理解 | 51.1% | 56.3% | 自費での対策(雨庭・かさ上げ・移転)への協力意向も高い |
| 実行 | 48.3% | 53.4% | すべての項目で実行率が飛躍的に高まる |
全体として、グリーンインフラの協力意向(25.7%)が一定数あることが分かった。「ハード対策に加えて、グリーンインフラも水災害対策の優先要素になり得る」という住民意識が伺える。
ただし、グリーンインフラへの協力意向と行動の間にギャップが存在している。「よく知っている層」では、グリーンインフラの実行率が全体平均の3倍以上になり、正しい知識の習得が、グリーンインフラを含む防災行動のドライバーとなることが明らかになった。
| 項目 | 全体の傾向 | 流域治水をよく知っている層の傾向 |
|---|---|---|
| 協力意向と実行の差 | 協力意向(25.7%)に対して低い実行率(7.3%) | グリーンインフラ実行率は22.1%(全体平均の3倍以上)に達する |
| 普及に必要な要素 | リスク低減効果の情報(42.2%) | 地域コミュニティによる連携体制(64.9%) |
「治水のための協力関係」が築けているとの実感は19.4%にとどまる。流域別では、緑川・白川流域(24.6%)が最も高かった。一方で、都市部にある多摩川流域(18.4%)、鶴見川流域(16.4%)、天竜川下流・菊川流域(18.2%)は2割を下回る状況にある。
また、「流域治水の内容をよく知っている」層では高い回答率を示した。他者との関わりの中で行動している割合が高いことをうかがえる結果になった。
| 項目 | 全体平均 | 緑川・白川流域 | 流域治水をよく知っている層 |
|---|---|---|---|
| 協力関係が築けている | 19.4% | 24.6% | 56.8% |
協力関係を築くために必要な要素は、「人的・財政的な余力の欠如(34.3%)」が構築を阻む最大の要因である。次いで「行政・企業・住民の顔が見える関係の欠如(27.6%)」、「広域連携のための体制整備(20.7%)」が並んだ。
また、「流域治水の内容をよく知っている」層は、避難を検討する選択肢で「関わっている地域コミュニティの人から声かけされたら(21.1%)」を選んでいる。
住民はコミュニティの充実に向けた具体的な支援を自治体に求めていることが示唆される。
流域治水とグリーンインフラの普及には、住民による「自分事化」と具体的な行動変容が不可欠である。河川管理を、これまでよりも広く捉える「流域治水」の考え方の中で、防災・減災のためのグリーンインフラが「実行」に移るまでには相当の困難を要すると思われる。「地域」と「フェーズ」を「鳥の眼と虫の眼」で捉えた施策、流域住民の認識や期待と一致する施策の推進に、本調査結果が活用され、地域レジリエンスの向上が図られると幸いである。
<参考文献>
・内閣府他(2025年6月6日)『第1次国土強靱化実施中期計画』
・内閣官房・内閣府総合サイト『地方創生』
・国土交通省・環境省・農林水産省・経済産業省(2024年3月)『ネイチャーポジティブ経済移行戦略』
・国土交通省(2026年4月)『国土交通省関係予算配分について』
・国土交通省(2026年1月)『グリーンインフラ推進戦略2030』
・国土交通省(2024年9月)『グリーンインフラの事業・投資のすゝめ』
・国土交通省(2023年10月)『グリーンインフラ実践ガイド』
・国土交通省(2023年3月)『遊水地整備&利活用事例集』
・国土交通省『令和2年7月豪雨による被害と対応』
・国土交通省『令和元年台風第19号による被害について』
・環境省『コウノトリの野生復帰を支える再生と創造の湿地』
・熊本県『流域のみんなで取り組む「緑の流域治水」』
・熊本県(2026年3月23日)『第3回熊本県地下水保全推進本部会議』
・白川・緑川水系流域治水協議会『天竜川下流水系流域治水プロジェクト2.0』
・遠州流域治水協議会『天竜川下流水系流域治水プロジェクト2.0』
・多摩川流域治水協議会『多摩川水系流域治水プロジェクト2.0』
・鶴見川流域治水協議会『鶴見川水系流域治水プロジェクト2.0』
・東京都多摩市『聖蹟桜ヶ丘かわまちづくり』
・浜松市域流域治水対策推進協議会(2025年3月)『馬込川流域水災害対策プラン』
・水文・水資源学会誌(2025年5月)『近年の治水政策に関する全国意識調査』
・水文・水資源学会誌(2023年)『流域治水の理解度と具体の治水対策の理解度に関する全国アンケート調査』
・グリーンインフラ研究会(2020年7月)『実践版!グリーンインフラ』
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