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CSO(最高サステナビリティ責任者)に求められる“力”とは? キーワードは「巻き込む力」と「自分事化」
ーー今回の取材先の企業は、どのような観点で選定したのでしょうか?
末永)BtoB(企業間取引)やBtoC(消費者向け取引)、「モノ」を提供する製造業や「無形」のサービスを提供する金融業など、顧客層や提供価値の異なる10社を選定しました。
取材にあたったコンサルタントの1人、末永潤
| 食品・ライフサイエンス・消費財 | |
|---|---|
| ・キリンホールディングス株式会社 | ・味の素株式会社 |
| ・株式会社コーセー | |
| 流通・小売 | |
| ・J.フロント リテイリング株式会社 | |
| 環境ビジネス | |
| ・株式会社フェイガー | |
| 総合技術・製造業 | |
| ・株式会社 日立製作所 | ・帝人株式会社 |
| ・株式会社レゾナック・ホールディングス | ・株式会社リコー |
| 金融サービス | |
| ・MS&ADインシュアランス グループ ホールディングス株式会社 | |
| 食品・ライフサイエンス・消費財 | |
|---|---|
| ・キリンホールディングス株式会社 ・味の素株式会社 ・株式会社コーセー | |
| 流通・小売 | |
| ・J.フロント リテイリング株式会社 | |
| 環境ビジネス | |
| ・株式会社フェイガー | |
| 総合技術・製造業 | |
| ・株式会社 日立製作所 ・帝人株式会社 ・株式会社レゾナック・ホールディングス ・株式会社リコー | |
| 金融サービス | |
| ・MS&ADインシュアランス グループ ホールディングス株式会社 | |
ある研究者は、企業のサステナビリティ分野の成熟度を①コンプライアンス ②効率化 ③イノベーションの3段階に分類した時、②から③へと移行する過程でCSOが権限を獲得し、③ではCSOが企業のビジョンや戦略の策定を主導するとの分析結果を提唱しています。(Miller&Serafeim, 2014)
今回お話を聞くことができた日本企業はいずれも、②のレベルから③を目指す過程にあるといった印象を受けました。
ーー取材した皆さまのキャリアには、共通するところはあったのでしょうか?
末永)過去に企業の情報開示を担当していたり、サステナビリティに関連する商材を扱っていたりと、キャリアのどこかでサステナビリティの前提となる知識や経験を得ていた方が多かったです。
一方で、例えば「学生の頃からサステナビリティの研究一筋でやってきました」といった方はいませんでした。職歴で培ってきた経験と、習得したサステナビリティ分野の知見を掛け合わせることで、取り組みを推進されています。
ーーCSOに“求められる力”という点では、皆さまに共通するものはありましたか?
末永)CSOの皆さまのお話から、共通する“力”として3つあると感じました。
1つめは、理念やパーパスなどから、企業が将来「こうありたい」というビジョンを具体化する力です。
2つめは、CSOがこれまでに積んできたキャリアから得た知見を発揮する力。
そして最後が、社内外との対話に必要となるコミュニケーション力、巻き込む力です。
ーー3つの力の中でも、特にどの力が求められると考えていますか?
末永)企業がサステナビリティの取り組みを実行し、推進していくためには、実際に現場が動かなければなりません。その意味では、CSOに強く求められるのは「巻き込む力」だと考えています。
サステナビリティの取り組みを全社的に推進するには、社内の理解を得て、必要性を認識してもらい、実際の行動に移してもらうまでが必要です。そのためにCSOは、まず経営会議の場などで、社長をはじめ、社内の各領域を担当する役員を巻き込んでいかなければなりません。
「経営レベル」を巻き込むことができたら、サステナビリティ部門のメンバーを動員しながら、次は「部門長レベル」、その次は「現場レベル」というように、カスケードダウンさせる必要があります。
このような「巻き込む力」の流れをつくり、最終的に企業の事業活動そのものにサステナビリティの観点を組み込むことが、CSOに求められる役割です。
ーー企業がサステナビリティの取り組みを具体的に進めるために不可欠な要素はなんですか?
末永)「自分事化」だと考えています。
CSOという役職を設置したり、CSO自身がいくら理念を掲げたりしても、本社部門や製造部門、営業部門などの現場の1人ひとりが、それぞれの立場で「自分事化」していかなければ、サステナビリティは“絵に描いた餅”に終わってしまいます。
そのためには、例えば役員に対する評価にサステナビリティの観点を盛り込むことで、役員が担当する部門への評価にもつながり、現場の1人ひとりの評価にもつながっていきます。こうした枠組みを作っていくことが「自分事化」を促進していくための1つの手法となります。
また、事業部門を動かすためには、CSOのリーダーシップの下、サステナビリティ部門が現場に寄り添いながら「自分事化」を促進し、実践を後押しすることが必要です。
サステナビリティ経営の目指す方向は、「社会課題の解決が企業の成長を生み、その成長がさらに社会課題解決能力を高める」ことだと思いますが、事業部門では目の前の仕事が、サステナビリティの観点でなぜ重要なのか、事業機会とどのように関連するのか、ということに気付けていないこともあるようです。
どういうことかと言うと、例えば、ある食品メーカーでは廃棄ロスが出ていたため、事業部門でロスを減らしてコストを削減していたとします。これは、サステナビリティ文脈で見ると、「食品ロス」という社会課題の解決につながりますし、食品ロスの削減技術を開発・提供することで新たな事業機会にむすびつくかもしれません。
そこでサステナビリティ部門が現場の声を丁寧に拾い上げ、社内に発信することが重要です。好事例や課題の共有は、現場が自らの活動の社会的意義を実感するだけでなく、サステナビリティの取り組みに対する社内の共感を醸成することにもつながります。
例えば株式会社日立製作所さまのサステナビリティ部門は、時間がある限り世界中の生産現場などを訪問し、現場レベルの好取り組み・事例を拾い上げてレポートやホームページで紹介する活動を行っているそうです。
ーー2027年3月期から適用開始となるSSBJ基準※など、これまで以上にサステナビリティ分野に関して「投資家にとって有用な情報の開示」が求められます。対応の一つとして「価値を定量的に示す」ことが考えられますが、取材した企業の取り組み・考えはどうでしたか?
※SSBJ基準:「サステナビリティ基準委員会(SSBJ)」が2025年3月に公表した日本の情報開示基準。有価証券報告書での開示に適用される
末永)例えば味の素株式会社さまは、製品がお客さまに届くまでの企業活動全体、つまり「バリューチェーン」でサステナビリティにつながる価値をいかに作り出しているのかを説明しています。
同社が製造するうま味調味料の原材料キャッサバは、タイで生産されています。現地の農家はキャッサバに広がる病害や労働力不足などの課題を抱えています。そのため同社は、農家に技術や農業資材の提供、教育支援などを行っています。
さらに製造過程では環境負荷の低い技術を使う一方、販売過程では栄養バランスの良いメニューを提供して生活者の健康にアプローチするなど、バリューチェーン全体で複数の社会・環境課題に取り組んでいるそうです。そして、これらの取り組みがどのような形で経済・社会的な価値を生み出しているかを定量的に示しています。




出典:味の素株式会社 IR Day「企業価値向上に向けたサステナビリティの取り組みについて」(2024年3月27日開催)
(https://www.ajinomoto.co.jp/company/jp/ir/event/business_briefing/main/011113/teaserItems1/01/linkList/01/link/Sustainability_J.pdf)
一方で、サステナビリティの取り組みは、財務的な価値として示しやすいものと、取り組みを通じて獲得する「社会的な信頼」などのように、財務的には評価しにくいものがあります。株式会社レゾナック・ホールディングスさまからは、企業の成長につながる取り組みや、社内外から共感を得るための働きかけなどを積み重ねてから、財務的な価値との関連性を示していくという考え方をうかがいました。現時点では財務的に評価しづらいからといって、必ずしも優先度を下げてよいわけではない、ということですね。
ーー最後になりますが、今回の取材を通して、企業のサステナビリティに関する取り組みはどのような方向に向かっていくと考えていますか?
末永)企業におけるサステナビリティの“最終形”は、事業活動にサステナビリティが当たり前のように組み込まれている状態なのだと思います。面白いことに、取材したCSOやサステナビリティ部門の責任者の方からは、最終的に目指すべきはCSOやサステナビリティ推進部門といった「サステナビリティに特化」した役割がなくなっている状態という意見もうかがいました。持続可能性への貢献が会社の稼ぐ力の源泉となり、課題解決を通じて利益が生まれている状態が、究極の理想形といえるでしょう。
その理想に少しでも近づくためには、CSOを起点にサステナビリティの取り組みをどこまで拡げられるかにかかっています。そのためにはCSOが設置されているだけでは十分でなく、サステナビリティ部門をはじめとする社内関係者や、社外のステークホルダーとどのように協働していくのかが問われます。本書のタイトルが「CSO“と”拓くサステナビリティ経営」である理由は、まさにその点にあります。
本書籍の中心にあるテーマは「サステナビリティ」ですが、企業が目的の達成にむけて経営層や事業部門をどのように巻き込み、動かしていくのかという、経営における普遍的な要素が散りばめられています。組織を動かすのはどのような人なのか、どのような取り組みが必要なのかなどに興味がある方にも、参考になる要素が含まれているのではないでしょうか。
≪参考文献≫
・Miller, Kathleen & Serafeim George (2014). “Chief Sustainability Officers: Who Are They and What Do They Do?”, SSRN.
(本インタビューは、2026年1月23日に実施されたものです)
この記事で取り上げた書籍『CSOと拓くサステナビリティ経営 価値創造の現場』(経済法令研究会刊)は、発行元の経済法令研究会のサイトでご購入いただけます。
ご購入をご希望の方は、下の「購入する」ボタンをクリックしてください。

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CSO(最高サステナビリティ責任者)が担う役割と価値創造の現場とは?専門家がセミナーで講演したポイントを紹介!
オンラインで開催されたセミナーには、様々な業界の企業から約40名が参加し、第1部では京都大学経営管理大学院の加藤特命教授が「CSOー企業価値獲得の先導者ー」と題して、講演を行いました。
京都大学 経営管理大学院 加藤晃 特命教授
貿易商社、AIU保険会社、愛知産業大学、東京理科大学大学院経営学研究科技術経営専攻教授を経て、2025年から同大学嘱託教授。情報開示/経営戦略、サステナブルファイナンスが専門分野。
この中で、加藤特命教授はCSOというポジションの位置づけについて、企業内外の多数のステークホルダー(顧客、従業員、投資家、監督機関、サプライヤー等)と双方向の関係を築きつつ、社内外をつなぐ“架け橋”として機能することが求められると説明しました(下図)。


CSOを取り巻くステークホルダー(資料提供:加藤晃特命教授)
その上で、CSOに求められるのは、一方向的な情報発信ではなく、対話型のインタラクションだと強調しました。
また期待される役割や資質について、戦略的リーダーシップ、コンプライアンス、ステークホルダー・エンゲージメント、リスクマネジメントなど多岐にわたり、“スーパー・パーソン”のように幅広い知識と経験が要求されると指摘しました。
一方で、現在の日本企業におけるCSOの職位や組織内の位置づけは企業によりばらつきがあり、CEOや役員が兼務するケースもあれば、課長級が務めるケースまで存在するということです。
続けて加藤特命教授は先行研究を踏まえたうえで、企業における以下3つのサステナビリティ取り組みの成熟段階に合わせて、CSOの役割や責任が変化すると説明しました。
第1段階:関連する法律や制度に沿って適切に取り組んでいる
第2段階:サステナビリティの取り組みの業務効率化ができている
第3段階:イノベーションを促進できる
CSOは、第2段階から第3段階に進むにつれてステークホルダーに対するコミュニケーションを成功させるために不可欠な存在になり、第3段階では、ビジョンと戦略の策定を主導し、最終的な責任がCEOからCSOに移ることが示唆されているとしました。
また、CSOの役割を8つの重要な仕事※に分解して測定した別の先行研究を取り上げ、あるCSOのケースでは、当初は自身の得意分野に注力したことからレーダーチャートがバランスを欠いた状態(赤の破線)が測定され、CSO自身が行動を修正した結果、バランスの取れた状態(青の実線)に変化したとの報告があったということです。こうしたアプローチは、CSOの採用や育成期のモニタリングに資する手法として有効だと指摘しました。
※コンプライアンス、モニター/報告、プロジェクトポートフォリオの監督、ステークホルダーとの関係、組織的能力の構築、企業文化変革、採用と経験、サステナビリティのプロセス/意思決定への盛り込み
その上で、CSOというポジションを評価する際の透明性とシンプルさが、組織全体における整合性と明確性を強化するとしました。


CSOの8つの重要な仕事(資料提供:加藤晃特命教授)
最後に加藤特命教授は、ビジョンや戦略の策定を主導するCSOに求められる能力について、MBAで学ぶような財務の基礎知識やサステナビリティに関する専門知識も必要だとしつつ、目標に向かって社内外とのコミュニケーションを通じてやり抜く力、人間性も含めた“巻き込み力”が非常に重要になってくると強調しました。
第2部では、MS&ADインターリスク総研のサステナビリティ分野のコンサルタント2名が登壇し、はじめに石川隆彦が「戦略・情報開示・コミュニケーション」をテーマに、実際に取材を行った企業の事例を紹介しました。
MS&ADインターリスク総研 リスクマネジメント第五部 サステナビリティ2グループ 石川隆彦 主任コンサルタント
この中で石川は、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の開示枠組みで提唱された「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標及び目標」からなる4つの「コア・コンテンツ」の位置づけに触れ、これらは並列の関係ではなく“まず戦略ありき”であり、サステナビリティの取り組みでも、戦略を中心に据えた密接な結びつきが不可欠だと説明しました。
その上で、成長戦略のひとつとしてサステナビリティ経営を掲げ、企業戦略と事業戦略の一体化を図る「CSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)」の実現を目指しているJ.フロント リテイリング株式会社のケースを取り上げ、戦略と日常行動を結びづける言葉づくりの重要性を紹介しました。
具体的には、3つの共創価値(感動共創・地域共栄・環境共生)を定め、それらに基づく新たなマテリアリティ(重要課題)を従業員が自分を主語として考えられるように、「アクション型」の表現に変更する工夫を行っていると説明しました。
セミナー当日の資料より(出典:MS&ADインターリスク総研)
また石川は、情報開示をする媒体について、有価証券報告書など法令で定められた報告を行う「法定開示」と、統合報告書など自由に自社の取り組みや魅力をアピールできる「任意開示」に大別されると説明。
その上で、「法定開示」が財務や法務、「任意開示」がIRや広報が担当することが多かった従来の状況が、サステナビリティの開示基準の策定やESG・SDGsへの関心の高まりから、どちらに対してもサステナビリティ部門の関与が重要になってきているとしました。
そして、株式会社日立製作所では社内横断的な開示媒体の制作体制を整備して、サステナビリティ部門が「法定開示」「任意開示」の両方に関与していることを紹介しました。
また、コミュニケーションの重要性について、不十分な情報開示が企業価値の低下につながる恐れがあるため、サステナビリティの取り組みにおいてもしっかりと開示することが企業価値向上につながるとしました。
好事例として株式会社レゾナック・ホールディングス(以下、レゾナック)を取り上げ、CSuOがインタビューの中で「(サステナビリティに関心が高い)投資家との対話は、CFO、IR部門と共にCSuOの私やサステナビリティ部が対応することもあります」と話していたことに触れました。その上で、レゾナックでは統合報告書に関してCSuOが編集責任を持ちつつ、他部門との企画会議を立ち上げて議論をしながら制作していることを紹介しました。
セミナー当日の資料より(出典:MS&ADインターリスク総研)
続けて、MS&ADインターリスク総研の末永潤が、各企業への取材を通じて得られたという「つなぐ」と「自分事化」という2つのキーワードで、CSOに求められる役割などを紐解きました。
MS&ADインターリスク総研 リスクマネジメント第五部 サステナビリティ2グループ 末永潤 上席コンサルタント
はじめに末永は、企業のサステナビリティの取り組みについて、単なる規制対応にとどまらず、企業の中長期的な収益性や生産性向上、そして多様なステークホルダーへの価値提供につながる「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」をめざすべきものであり、CSOはその“先導者”として経営の中核にサステナビリティを据える役割が期待されているとしました。
その上で、国内企業のCSOを取材した結果、「ビジョン」「キャリア」「巻き込み」という3つの力を共通して持っていたと話しました。
セミナー当日の資料より(出典:MS&ADインターリスク総研)
中でも、サステナビリティ分野の施策や取り組みを企業価値創造につなげるためには「巻き込み」の力が特に重要とし、CSOが各経営層を巻き込んで、全社的な推進力につなげる必要があると説明しました。
続けて、サステナビリティ部門に期待される役割について、事業部門の目標や施策・取り組みが、サステナビリティのマテリアリティ(重要課題)と同じ方向を向くように、現場に寄り添いながら対話を通じて取り組みを加速させる必要があるとしました。
その好事例として帝人株式会社のケースを取り上げ、サステナビリティ部門と全事業部門が約1年間、関連するKPIなどの策定に向けて対話したというエピソードを紹介しました。その上で、対話を進めるにあたっては、これまで培ってきた社内の様々な部署とのパイプや、コミュニケーションできる関係性が重要だとしました。
CSOとサステナビリティ部門が役割を果たすために必要なこととして、末永は、CSOのリーダーシップの下で、「つなぐ」と「自分事化」の実現を挙げました。
セミナー当日の資料より(出典:MS&ADインターリスク総研)
「つなぐ」の実現にあたって、CSOは経営メンバー間をつなぎ、メッセージを全社に発信すること、サステナビリティ部門は対話を通じて、サステナビリティに関するビジョン・戦略を事業部門の現場につなげる必要があると強調しました。
また、「自分事化」の実現に向けては、経営層の目標から社内各層の評価へとカスケードダウンする制度設計や、施策や研修などを通じて経営層だけでなく現場の従業員一人ひとりの主体的な行動変容を導くことが必要だとしました。
最後に、ネイチャーポジティブの実現に向けたコミュニケーションを題材に、社内の「つなぐ」と「自分事化」を、地域社会、産学官等のステークホルダーも包括した形で連鎖させることの重要性を説明しました。
セミナー当日の資料より(出典:MS&ADインターリスク総研)
その上で、CSOのリーダーシップとサステナビリティ部門の対話力によって、事業活動におけるリスク低減やブランド価値につながる取り組みを広げること、消費者や投資家などへの情報発信を通じて新たな価値を認識させる流れを生み出すことが、今後のサステナビリティ経営の要であるとしました。
この記事で取り上げた書籍『CSOと拓くサステナビリティ経営 価値創造の現場』(経済法令研究会刊)は、発行元の経済法令研究会のサイトでご購入いただけます。
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ESGリスクトピックス(2026年3月)
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なぜ、トップ企業は自然に注目しているのか? 【連載企画】ネイチャーポジティブ経営入門 第1回

MS&ADインシュアランス グループ
ホールディングス株式会社
サステナビリティ推進部 フェロー
「自然資本のリスク分析と企業経営への統合」を専門分野とし、30年以上のコンサルティング実績がある。1990年に環境リスク技術職としてキャリアを開始したのち、1996年からMS&ADグループに参画。以降、一貫して環境リスクマネジメントと生物多様性保全に関する調査・コンサルティングに従事。2000年頃からは「ビジネスと生物多様性」の領域に先駆的に取り組み、生態系破壊や気候変動が事業に及ぼす影響の研究を進めてきた。
コンサルティング業務のかたわら、企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)顧問、一般社団法人いきもの共生事業推進協議会(ABINC)副会長や、国土交通省、環境省、東京都などの政策関連委員も多数歴任。
また、2021年10月には日本人として初めてTNFDのタスクフォースメンバーに選出。世界中から集められた30名の金融・企業有識者の一人としてTNFDフレームワーク策定と普及に貢献している。
原口:私は「自然関連リスクの分析と企業経営への統合」を専門領域に、30年以上コンサルティングに携わってきました。もともとは環境リスクマネジメント全般を担当していたのですが、次第に「ビジネスと生物多様性」の領域に注力し、現在に至ります。
――企業による自然への取組みは、以前から盛んだったのでしょうか?
原口:いえ、現在ほど注目を集めてはいませんでした。私はコンサルタントとして、いち早くこの課題に目を向け、研究や提言を続けてきました。それもあって、現在では様々なイニシアティブや省庁の委員にも選出いただいています。また、2021年からは日本人初のTNFDのタスクフォースメンバーとしても活動しています。
――先駆的なコンサルティングを続けたことが、現在の活動につながっているのですね。近頃「企業の自然に関する取組み」を頻繁に見かけます。この理由をどのように分析していますか?
原口:多くの企業が自然に注目する背景には、「リスク」と「機会」の2つの側面があります。前者は、自然環境の劣化が経済活動に直接的なリスクをもたらしています。生態系の破壊や生物多様性の減少は、原材料の供給不安や事業継続の障害となります。
後者では、消費者や投資家の環境意識が高まっています。そのため自然への投資は、企業価値の向上やブランド強化につながるようになりました。加えて、国際的な枠組みの整備や各国で規制強化が進んでいます。自然関連リスクの管理と情報開示が企業の持続可能な成長に不可欠な要素となっています。


出典:原口氏の話をもとに作成
――なるほど。企業にとって「自然は経営にとって不可欠な資源である」と言ってもよさそうですね。
原口:おっしゃる通りだと思います。これに関連して、自然のことを私たちに何らかのサービスをもたらしてくれる財とする「自然資本」という考え方があります。森林や水資源、土壌、生物多様性などが含まれ、これらは食料生産や水の浄化、気候調整といった多様な機能をもたらしてくれます。
自然資本は経済活動の基盤なので、健全性が損なわれると企業の原材料調達や事業運営に深刻な影響を及ぼします。安定的な経営をするには、自社と関係する自然資本の現状を把握し、保全・回復に向けた戦略的な取り組みが求められています。
――「自然資本は経済活動の基盤である」とのことでしたが、実際の事業活動とはどのようにつながってくるのでしょうか。
原口:企業の事業活動は、自然資本とずっと密接に結びついてきました。例えば、一見関係のなさそうな航空や鉄道などの運輸業界で考えてみましょう。「どこかへ旅行したい」ときに、その地域特有の自然を目当てにすることは多いですよね。企業目線で「なぜお客さまはその交通機関を使うのか?」を考えたときに、運輸業界は自然に依存していると言えます。就航先や沿線の自然が損なわれることは、経営リスクとなるのです。ここから、優先して取組むべきは「就航先や沿線で自然が豊かな地域の保全」と導き出せます。
依存と影響の正確な理解と管理は、リスク低減と機会創出につながり、長期的な事業の安定性と競争力を確保できるのです。


出典:原口氏の話をもとに作成 イラスト:Storyset(https://storyset.com)
――自然との関わりの重要性がよくわかりました。こうした情報を「開示する」とはどういったことなのでしょうか? タスクフォースメンバーとして参加している、TNFDの役割も教えてください。
原口:TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)は、企業や金融機関が自然資本に関わるリスクと機会を評価・開示するための国際的枠組みです。2021年に設立され、私はタスクフォースメンバーとして同年から開示の枠組みの開発に関与してきました。そして、2023年に開示の枠組みに関する提言が公表されました。
TNFDの目的は、生物多様性の損失や自然破壊が企業活動に及ぼす影響を財務情報に反映させ、企業の経営戦略や金融機関の投資判断に活用し、自然を回復する方向に国際的な資金の流れを向かわせることです。開示の枠組みを利用すると、自然に対する取組みがロジカルに整理され、社内外へ向けて説明できるようになります。それによって「サステナビリティ部門の社内での重要度も上がり、関連部門との連携が始まった」という声も聞いています。こうした取組みの積み重ねが、同業他社との差につながっていくと考えています。
――TNFDは開示の枠組みやガイダンスを作っていく組織なのですね。日本はTNFDアダプター(TNFDの枠組みに沿った開示を約束した企業や組織)が、国別で最多になっています(210社。2025年11月5日時点)。どういった背景があるのでしょうか?
原口:企業の持続可能性への高い関心と政府・自治体の積極的な支援があります。
日本は生物多様性保全や自然資本の重要性を早い段階から認識し、環境省や地方自治体が生物多様性戦略やネイチャーポジティブ経済推進に力を入れてきました。加えて、大手企業グループがTNFDの国際的枠組みに深く関与し、国内企業への普及啓発を牽引していることも大きな理由のひとつです。
TNFDへの対応に、現時点で法的な義務などはありません。ただ、自然関連リスクの適切な管理と情報開示によって企業価値を高めるためには、早期に対応を検討・推進することが望ましいと考えます。最近では、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)※が2025年11月に、「自然関連のリスク・機会に関する開示基準の策定作業に着手する」方針を発表しました。またISSBはTNFDの枠組みを参照しつつ基準開発を進めると明言しています。この基準案は2026年10月に開催される生物多様性条約の国際会議(CBD COP17)までに、公表される予定です。
これらの動きを考えると、今後は規制や市場の要請が強まる可能性もあり、早期の準備が競争力強化に資すると言えるでしょう。
※ ISSBとは、「International Sustainability Standards Board(国際サステナビリティ基準審議会)」の略称。企業がESG(環境・社会・ガバナンス)などを含む非財務情報開示を行う際の統一された国際基準を策定するために発足された機関。
「ISSB、自然関連開示基準策定を決定、2026年10月に公開草案を公表」
https://rm-navi.com/search/item/2409
企業と自然の関連性についての基礎的理解 【リサーチレター 2025 No.4】
https://rm-navi.com/search/item/2360
ネイチャーポジティブとは? 環境保護とビジネスチャンスをつなげるキーワード
https://rm-navi.com/search/item/2271
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金融庁公表のサステナ開示好事例、SSBJ開始見据えたポイントを掲載
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WBCSDなどが循環経済の国際的プロトコルを公表、気候・自然開示枠組みと連動を志向
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